大地を揺るがせ、世界を塗り替え、世界を吹き飛ばすような激戦も、終わってしまえば静かなものだ。
戎次は敵のいなくなった遠坂家の庭を見回す。狩麻とアーチャーの姿はそこにはない。アーチャーの宝具により固有結界が消し飛ばされるや否や、アーチャーが狩麻を抱き抱え逃走してしまったのだ。
本当に静かだ。戎次とライダーにより破壊された罠が壊れた時計のようにカチカチと鳴っているのを除けば、庭に動くものはなにもない。
「アーチャーの正体がナポレオン・ボナパルトなんてなぁ。流石にたまげた」
余り日本以外の英雄について詳しくない戎次もナポレオン・ボナパルトのことは知っている。
類まれなる軍事的才覚によりヨーロッパを圧巻した戦争の天才としても有名だが、その最大の功績は史上初の近代的法典であるナポレオン法典を制定した事であるとされる。
こと世界的知名度においては三本の指に入るサーヴァントだろう。もしも開催地がより力を発揮できるヨーロッパだったら勝敗はどうなっていたことか。
「私を召喚して良かったかい?」
「……ああ」
戎次は幸運を噛みしめる。
もしも戎次のサーヴァントがナポレオンにとって最悪の天敵である〝冬将軍〟でなければ、恐らく戎次は今頃この遠坂邸で物言わぬ死体と化していただろう。
それほどまでにアーチャーの宝具の破壊力は途轍もなかったのだ。
固有結界の中での戦いだから良かったものの、外で戦っていればここには庭ではなく更地が広がっていたはずだ。
「解せないことが一つ。いい?」
「なんだ」
「どうして二人を逃がしたの? 確かにアーチャーの宝具の破壊力はとんでもなかった。幾ら対軍宝具だからって、相性最悪の私の固有結界を一撃で吹っ飛ばすなんて不可能をやってのけるくらいなんだしねぇ
だけどそれまでだ。あの間桐狩麻ってマスターとアーチャーは完全にボロボロ。二連続で宝具を解放どころか、まともに戦えるかどうかも怪しかったよ。
逆にこっちはもう一度固有結界を展開するくらい余裕だったし、そうでなくとも戎次と私なら普通に戦っても勝てる自信はあった」
アーチャーの宝具『轟き咲く覇砲の大輪(ソレイユ・ド・アウステルリッツ)』は幾度となく劣勢を挽回してきた〝戦争の天才〟の象徴といえる宝具だ。その真価は追い詰められれば追い詰められるほどに発揮される。
だが逆転の一手というのは、それが失敗した時により酷い状況に追い詰められる諸刃の剣。アーチャーの宝具も例外ではない。
ライダーの固有結界で既に狩麻とアーチャーは魔力・体力共に限界だった。ライダーの言う通り二連続で宝具の真名解放をする余力など残っていなかったはずだ。
或いは令呪という絶対命令権を使えば不可能を可能にしたかもしれないが、それでもライダーの固有結界を吹き飛ばしたほどの破壊力をもう一度撃てるとは思えない。
故に戎次とライダーは逃げた狩麻たちを追撃するべきだった。追撃して確実に狩麻たちを討ち取れた確証はないが、少なくとも二人に痛手を与えることはできただろう。
戎次は特別頭の良い人間ではないが、愚かではない。そんなことが考えられないはずがない。だというのに戎次は狩麻たちを追わずみすみす逃がした。その理由は、
「そりゃ首級ィ持ってこいって命じられてたんだ。俺も追って行きたかった。だが駄目だ。こいつが光ったからな」
「なにこれ?」
「お札」
「そりゃ分かってるよ。だからそのお札がどうしたの?」
戎次がひょいとライダーに見せたのはお札だ。どこの国のものではない文字が描かれたお札。暗い闇の中、お札は淡い光を放っていた。
「こいつは二枚一組でな。魔術が使えねぇでも強く念じりゃ片方が光るようになってる。んでもう片方は木嶋少佐に渡しておいた」
「つまりそのお札が光ったっていうことは――――」
「撤退して本隊と合流しろっていう合図だ」
「…………………このタイミングで? なにかあったんじゃないの?」
「だがなぁ。敵襲だってんなら緊急用の赤い札を使うはずだし――――良く分からねえ」
白いお札が発光する一方で、もう片方の赤いお札の方はまったくの無反応だ。
こちらが無反応ということは、少なくとも木嶋少佐や帝国陸軍に緊急を要することは起きていないということである。
だというのに、いきなりの作戦中止。なんとなくきな臭かった。
「ライダー、急いで戻るぞ。なんか嫌に気分が悪ぃ」
「同感だね。アーチャーは……また次の機会があるさ。幸い相性は抜群に良いんだ。私と戎次なら二回目も負ける気ないし」
そうアーチャーがどれほど強力なサーヴァントだったとしても、冬将軍たるライダーとの相性は最悪。
聖杯戦争の妙といえるだろう。知名度が高く強い英雄が必ず勝者になれるわけではない。相性如何によっては万の軍勢を倒す英雄が、一人も殺せないほど脆弱な英雄に負けることもある。
ライダーとアーチャーはその典型例だ。
「いくぞ」
ともあれ今は木嶋少佐のことが気にかかる。戎次は急いで帝国陸軍の拠点へ戻っていく。
撤退中。ぞわりと、背筋に嫌な悪寒が奔った。
ここまでくれば大丈夫だろう。
アーチャーと共に必死に逃げていた狩麻は、大分遠坂邸から離れてから漸く足を止めた。
夜ということもあり周囲には人の気配はない。聞こえるのは風にあおられた木々がざわめく音だけだ。
よく周りを見回してみると、自分が立っているのがアインツベルンの森近くの郊外だということに気付く。遠坂の屋敷からここまではそれなりに距離がある。気付かぬうちにここまで来てしまうとは自分は余程焦っていたらしい。
「大丈夫かい、マイ・マスター。もうムッシュ・ジュウジとライダーはいないんだ。少し休むと良い。僕はここでマスターのために心休まる歌声を奏でるとしよう」
「……歌は結構だけど、そうね。休ませて貰うわ」
歩くのを止めて近くの木に背中を預けると、これまでの疲れがどっと圧し掛かって来た。
嫌な汗が流れる。心臓がバクバクと動き、恐怖で身が竦みそうになる。
魔術師にとって死とは魔術を身に刻む上で先ず初めに観念するべきこと。以前、冥馬はそう父に教えられたと言っていた事がある。
属性も得意とする分野も違うが狩麻も冥馬と同じ魔術師であり、蟲蔵での修練の過程で死を身近に感じたことは何度もあった。命の危険に遭遇したことも一度や二度ではない。
だがこれほどまでに死を隣り合わせに感じたのは生まれて初めてだった。
隣を見れば今でも『死』がにっこり笑いかけているような錯覚すら覚える。
ふとアーチャーに視線をやった。
「どうかしたかい、マドモアゼル。よしてくれ、君の物憂げな瞳に僕のハートはクラクラさ」
「…………………」
ライダーとの戦いであれほど英雄らしい威風を放っていたアーチャーは、何時の間にかお気楽な狩麻の良く知るアーチャーに戻っていた。
こうしてしげしげと見つめても〝あの〟アーチャーと〝この〟アーチャーが一致しない。実は二重人格だったとか、ライダーとの戦いだけ双子の弟と入れ替わっていたと言われた方がしっくりくるくらいだ。
「口調、戻ったのね」
じっとしているだけだと、なんとなく不安になるので思い切って狩麻は疑問をぶつけてみた。
アーチャーは直ぐに狩麻がなんのことを言っているか悟ると、
「アレは僕が英雄ボナパルトとしている時のものだよ。だがサーヴァントとして召喚された僕は英雄じゃない。一介のサーヴァント、マスターの忠実なるナイトさ」
「ナイトって、貴方は皇帝でしょう」
「昔が皇帝だろうと英雄だろうと関係ない。僕は聖杯戦争に美しさの三文字を書き連ねるために招かれたプリンス。マスターに全力の忠義を誓う一輪の薔薇。それ以上でも以下でもない。
ライダーとの戦いは彼女が英雄ボナパルトの忘れ得ぬ宿敵だったからね。ついついマスターのナイトでありながら、英雄として戦ってみたくなったんだよ。ごめんね☆」
「いいわよ、別に。謝らなくても」
寧ろ感謝するべきなのだろう。
アーチャーがいなければ自分は生きてはいなかった。それに冥馬に執着していた本当の理由を思いだすことはできなかっただろう。恐らくは死ぬまで。
「それよりも私には貴方がどうしてそこまで、この私に尽くしてくれるのか不思議で仕方ないわ。今はサーヴァントといっても、貴方は世界を圧巻したほどの英雄の中の英雄じゃない。
対する私なんて……ええ、悔しいけど認めるわ。私なんて貴方を召喚しただけの魔術師。そうよ……貴方が私のために尽くす理由なんて、どこにもないじゃない」
ナポレオン・ボナパルト、彼がどれほど偉大な英雄なのかなど今更論ずるまでもないことだ。
狩麻が彼に対し真摯に向き合い、彼によく報いてきたのであれば、召喚者に好意を感じて協力してくれることはあるかもしれないが、狩麻が彼に対してとってきた態度はspmp逆だ。
アーチャーの奇天烈な行動や言動に度々叱責を飛ばすばかりか、アーチャーの忠言や献策を跳ね除けては、冥馬への執着を優先してきた。仮に狩麻がアーチャーの諫言に従い行動していれば、こんな無様を晒すことだってなかったはずだ。
こうやって死にかけたのも言うなれば狩麻の自業自得。下手なサーヴァントならとっくにマスターを見限っていてもおかしくない。
なのにアーチャーは狩麻のことを見限るどころか、あくまでも狩麻のサーヴァントとして狩麻に尽してくれている。
「フフフ、僕は英雄なんて大したものじゃない。僕はただの英霊だよ」
「……同じじゃない」
「いいや違う。英霊だのなんだのと言っても死者は所詮死者でしかない。この時代からすれば僕はただの稀人、単なる部外者さ」
アーチャーはまた英雄としての顔を覗かせながら語る。
「マスターは英霊なんて過去の遺物じゃない。一人の想い人に執着して、自分の気持ちに正直になるのに臆病なレディだ。想い人に対して素直になれない奥手な女性だ。今を生きる立派な人間だ。これから先の未来を変えていく権利と力をもっている、ね」
過去に生きていたナポレオン・ボナパルトという英雄は、或いは間桐狩麻という魔術師よりもよっぽど価値のある存在だったのかもしれない。
だがサーヴァントとしてこの場に実体化している自分は、過去の人間、過去の遺物に過ぎないのだと現代秩序の生みの親は語る。
「どれほど世に有り触れた存在だったとしても、今を必死に生きている一人の人間の方が死んだ英雄よりよっぽど価値がある。だからマスター、僕の命なんて君と比べれば大して価値があるものじゃないんだよ」
そう言って狩麻を見つめるアーチャーの瞳は、英雄というより子の未来を見守る父親のようだった。
たった一人で世界に挑んだ人類史が生んだ稀代の天才。だがそんな天才は誰よりも今を生きている一人一人の人間の力を信じてるのだろう。
間桐狩麻を通して人々を見据える英雄の目の奥には希望が満ちていた。
「貴方とこの数日一緒にいて、貴方みたいなのが本当にあの戦争の天才ナポレオン・ボナパルトなのかと何度も疑問に思ったわ」
現代の人間が抱く過去の英雄のイメージが実物と異なることは良くあることだとはいえ、アーチャーは余りにも狩麻の抱いていたイメージと違い過ぎていた。
皇帝の癖して自分をプリンスだのと言い始めたり、家の模様替えを始めたり、敵の前で歌い始めたり……もう狩麻の中で英雄ボナパルトに抱いていたイメージは滅茶苦茶に蹂躙されてしまったといっていい。
「フフフフフフ。僕は皇帝として偉そうにしたりしてるより、こうしている方が好きなんだけどね。だけど自覚はしているよ。マスターが僕が本物のナポレオン・ボナパルトなのかと疑問に思うのは至極当然のことさ」
ナポレオン・ボナパルトは、いやアーチャーは特に気分を害した風もなく言う。しかし、
「……だけどこれまで一緒にいてボナパルトという人物は、私が思っていたよりずっと偉大な英雄だったんだって分かったわ」
アーチャーが面食らったように目を白黒させ、やがて朗らかに微笑んだ。
「おや。そう手放しに褒められると嬉しくなるじゃないか! 美しい淑女からの賞賛、僕にとってはなによりもの褒美だよ」
「はぁ~。……ふふっ」
溜息をつきながらも笑ってしまう。
あれほど他の英霊を召喚していれば良かったと後悔しておきながら、今は心の底から彼を召喚して良かったと思っている。つくづく自分も調子が良い女だ。
だが、そんな気持ちに浸っていられる時間はそう長く続いてはくれなかった。
「マスター。お休みのところ悪いけど招かれざる客人だ」
「……え?」
疲労のせいで全く気付かなかった。神経を研ぎ澄まし気配を探ると――――なにかが近付いてきている。
それも一人や二人ではない。狩麻の耳には十人以上の人間の足音が聞こえていた。
咄嗟にナチスか帝国陸軍か、と考えるが、それにしては様子がおかしい。兵士ならばもっと規則正しい足音になるはずだし、体格の良い兵士にしてはどうにも歩幅が狭い。まるで小さな子供達が列をなして歩いているようだ。
「あれは……フランス、人形?」
狩麻たちの前に現れたのはフランス人形の集団だった。糸もなく独りでに稼働している人形たちは、夜の闇と人形の無表情さが相まって酷く不気味だった。
だが相手が単なるフランス人形の団体様ならば、如何に消耗していようと狩麻とアーチャーの敵ではない。問題なのはフランス人形一体一体がノコギリや鉈、何に使うのかも分からない拷問器具らしきものなど物騒な凶器を持っていることだ。
「フランス人形、それもオートマターとなると――――アサシンのマスター、確かエルマ・ローファスって名前の魔術師だったわね」
狩麻の記憶が正しければナチスが一方的に寄越してきた情報の中に、アサシンのマスターであるエルマ・ローファスの名前があった。
なにやら身体的にも魔術回路的にも問題があるらしく、後継者は弟に奪われたそうだが、戦闘に長けた自律人形造りにかけては中々の腕らしい。
「……相手がアサシンで助かったわ。ここに来たのがセイバーやランサーなら確実に終わっていたけど、真っ向勝負にかけてはキャスターと並んで最弱のアサシンならアーチャーの敵じゃない」
「マスター、油断はよくないよ。確かに暗殺なんて美しさの欠片もない行為だ。だけど、どんなに名を馳せた英雄だって、グラスに混入された毒物一つで簡単に死ぬものさ」
「分かっているわよ。けどアサシンの姿なんてどこにもないじゃない」
狩麻の前にいるのは無数のフランス人形たちだけだ。何処を探してもアサシンの姿はどこにもない。
「きっと周辺の木の影にでも潜んでいるんだろう。僕の後ろから離れない様に頼むよ。マスター!」
フランス人形が仕掛けてくる。だがフランス人形たちより遅く動きながら、アーチャーはフランス人形より早く攻撃準備をしていた。
四つの砲口がアーチャーの周囲に召喚される。脆いフランス人形を壊すのにサーヴァントを相手にするような破壊力はいらない。
ライダーとの戦いで消耗していたこともあって威力の抑えられた砲撃だったが、魔弾はただの数発でフランス人形たちを粉々に吹き飛ばしていった。
「あら。後ろからも?」
どうやら前から現れたフランス人形だけで敵の兵隊は打ち止めではなかったらしい。左右に背後。三方向からフランス人形たちが襲い掛かって来た。
フランス人形の生みの親である人形使いは、ここから離れた遠くにいるというのに、フランス人形たちは並みの兵隊よりも機敏に動く。
だが戦えない程ではない。狩麻は自分の下僕たる蟲に指令を送る。
「マスターはいい! ここは僕がやる!」
「大丈夫よ。こんな奴等くらい、私一人でも十分。貴方は左右の敵を消し飛ばしなさい。私は背後をやるわ」
言いながら蟲たちを飛ばす。蟲の半分は周囲に潜んでいるであろうアサシンの警戒のために見張りに。
そして残りの半分が攻撃用だ。
「Insekten.Werden Sie mein Schatten(我が下僕。現世は浸れ、影は伸びる)」
狩麻の操る蟲達が集まり、それが間桐狩麻と寸分違わぬ間桐狩麻を生み出した。
蟲達により体を構成された〝間桐狩麻〟の分身は本物の狩麻を守るべくフランス人形たちに突っ込んでいった。フランス人形たちは分身の狩麻の体を切り裂くが、蟲の集まりでしかない分身に斬撃なんて大して意味のあるものではない。
フランス人形の一体が口から炎を吐きだした。
そんな仕掛けまで施しているのかと一瞬だけ驚くが、冥馬のそれと比べれば火力も速度も足りない。対冥馬用の蟲の防壁で楽に火炎放射を防ぐ。
「――――あの戦いの後に魔力を消耗するのは、きついわね……。だけどこれで終わりよ」
纏めて倒すべく大技を繰り出そうとして、
「左様。終わりだ」
倒れていたフランス人形の腹が開き、なによりも明確な〝死〟の運び手がぬっと現れた。
アーチャーは一つ勘違いをしていた。アサシンは確かに隠れ潜んでいたが、それは周囲の木々の中にではない。
周囲を警戒したところで無意味。アサシンが潜んでいたのはフランス人形の中。フランス人形と同じかそれ以下でしかない背丈を利用し、人形の中で空気を遮断し潜んでいたのだ。アサシンが常識外の小躯であることを知らなかったが故に起きた思考の空白。そこを稀代の暗殺者は見逃さない。
「―――――っ!!」
声にならない悲鳴。だがもう遅い。アサシンの指は既に狩麻の顔に触れていた。
「教えよう。貴殿の敗因、それは私のことを小物と侮ったことだ」
「アサシンッ!!」
アーチャーがプリンスとしての顔などかなぐり捨ててアサシンに向かっていく。
しかしアサシンはアーチャーを相手することなく、もう役目を終えたとばかりに撤退していった。
そう。既にアサシンの〝暗殺〟は完了している。ほんの掠った程度の接触、それでこの稀代の暗殺者には十分過ぎる必殺だ。ならばもうアサシンがやるべきことはない。そもアサシンはサーヴァントを殺すサーヴァントに非ず。アサシンが狙うはサーヴァントを従えるマスターのみ。マスター殺しこそが暗殺者の本領だ。
「い、嫌よ……っ!」
死が隣にいるどころではない。自分の頭に死が宿ってしまった恐怖が狩麻を駆け巡る。
「や、やっと……やっと自分の気持ちに気付けたのよ! い、いやっ! こんなところで死にたくない! 冥馬にもう一度会わないといけないの! 会ってあの時のお礼を言わないといけないの! いやぁぁぁああ!! せめてもう一度だけ、私の気持ちを伝えないと、死んでも――――」
「死ね」
下されたのは無情な宣告。
「空想電脳」
シャイターンの魔手。西洋魔術とは根元から異なる〝呪い〟が送り込まれていた狩麻の脳髄。
アサシンがその呪いの真名を言った瞬間、脳髄に送られた呪いが起動し頭が爆ぜた。
「マ、スター……」
降り注ぐ血飛沫。美しい顔を主人の返り血で濡らし、アーチャーは見る影もなくなったマスターを見下ろす。
そこには新たな秩序を生み出した皇帝も、幾多の戦いを制した英雄も、陽気なプリンスも誰もいなかった。いるのはマスターを守れず、死なせてしまった不甲斐ないサーヴァントだけ。
アサシンは再び気配を断ち、完全にその姿を晦ましていた。
【元ネタ】暗殺教団
【CLASS】アサシン
【マスター】エルマ・ローファス
【真名】ハサン・サッバーハ
【性別】男
【身長・体重】30cm・9㎏
【属性】秩序・悪
【ステータス】筋力D 耐久E 敏捷A+ 魔力C 幸運E 宝具C
【クラス別スキル】
気配遮断:A+
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を断てば発見する事は不可能に近い。
ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
【固有スキル】
投擲(毒針) :A
毒針を弾丸として放つ能力。
調合:C+
材料さえあれば大抵の薬物を作り上げることが可能。
現代に伝わっていない未知の薬物を作り上げることもできる。
自己改造:C
自身の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適性。
このランクが上がればあがる程、正純の英雄から遠ざかっていく。
【宝具】
『空想電脳』
ランク:C
種別:対人宝具
レンジ:3~9
最大捕捉:1
呪いの指。悪性の精霊シャイターンの憑いた左指であり、人間を呪い殺す事に長けている。
対象の頭部に触れることで、脳に呪いを送り込む。呪いを宿した脳髄は爆弾へ変わり、呪いを炸裂――――爆破することで物理的防御を無視して相手を呪い殺す。
爆発のタイミングはアサシンが決めることができる。
空想電脳に対抗するにはCON(耐久)の高さではなく、 呪いを弾き返すほどの能力・MGI(魔力)の高さが重要となる。