はじめまして、雄武士団です。
今回初投稿になります。よろしくお願いします。
今更ながらFF7です。それも、クラウド×イリーナです。
この組み合わせは非常に少ないので、自分で供給してみました。
校正はしましたが、見落とし等で誤字脱字があるかもしれません。
よろしかったら、どうぞ。
↓↓↓
「びええぇぇぇぇぇん!!」
出会いたくないモンスターで常に上位をキープするカエルが集団で出没する、とある森のそば、突如子供のような泣き声が辺りに響き渡った。子供同士のケンカか、はたまた終わらないカエル化の悪夢に囚われた哀れな旅行者か。
しかし、事実はそのどちらでもなく――――。
「プ、ククッ・・・! おい元ソルジャー、なにウチの新人を泣かしてくれてんだぞ、と」
「ブフッ・・・・・・・・・お、女の敵だな・・・・・・」
「ぎゃはははは!! ひぃーーッ、ひぃーーーッ、クラウド、アンタサイテー!!」
「わ、笑ったらあきませんてユフィさん! どう見てもトラウマ直撃ですやん!!」
恐らく近くの集落に続いているであろう森のそばを横切る小道に、それはそれは珍妙な一団がたむろしていた。片側には、顔を真っ赤にして笑いをこらえながら「元ソルジャー」とやらを非難するスーツの2人組。そしてもう片側には、足をばたばたさせて地面を転がり大爆笑する少女と、少女を宥めようとする白いデブモーグリに乗った猫がいた。
向かい合う形で小道にいる2組。その間には、一人の女と一人の男。
「びええぇぇぇぇん!!うぇぇぇぇぇぇん!!」
子供のように泣きじゃくる大人の女性。彼女の名前はイリーナ。
(俺か・・・!?俺が悪いのか・・・・・・!?)
その女性の前で、どうして言いか分からずオロオロとする男。
彼の名前はクラウド・ストライフ。英雄と呼ばれた最強の宿敵を倒すため、悲壮な覚悟で世界を旅する元ソルジャー。
彼は今「女性を慰める」というかつて経験したことのない試練に直面していた。
「愛も喧嘩も化学反応」
クラウドは、自らの故郷を焼き払った「狂った英雄」セフィロスを倒すため、数人の仲間とともにセフィロスの影を追って世界中を渡り歩いていた。人々の生活を豊かにした「魔晄エネルギー」、そしてそのエネルギー供給と強力な私設部隊で世界を牛耳る「神羅カンパニー」。
セフィロスは神羅カンパニーが生み出した「ソルジャー」の中でも最強を誇る戦士であり、セフィロスと神羅、両者の打倒を命題とするクラウドたちの旅は過酷を極めるものだった。
神羅カンパニーと激しく衝突しながら神出鬼没のセフィロスを追って西へ東へ。そんな中、彼らは情報収集と旅の物資補給のためにとある集落を訪れようとしていた。その集落はゴンガガといい、森に囲まれたわびしい場所にあった。
クラウドの旅の、今のお供は2人。一人は極東の島国「ウータイ」が誇る戦闘集団「忍」として幼い頃から修行を積んできた少女、ユフィ・キサラギ。その戦闘力はまさしくいっぱしの「忍」として誇れるものだが、その性格、格好、言動は全く忍んでいない。忍ぶつもりもないようだ。
もう一人は、猫型ロボットのケット・シー。白いデブモーグリの頭に乗ったその姿は子供たちにも大人気、とはあくまで本人の談。街に行けば確かに子供たちに囲まれるが、その子供たちの目的はデブモーグリの背中にファスナーを探すことだと仲間全員が気付いている。
珍妙と言えば珍妙なメンバーで、3人はゴンガガに向けて小道を歩いていた。
「まぁ~ったく、ホントしっかりしてよね、クラウド。調子こいて飛ばしすぎてバギー壊すとか、あんたどんだけスピード狂なのよ」
「ホンマですよクラウドさん、アレけっこう高いんやで?まあ、バレットさんが修理できそうやしあんまり言いたかないですけど」
ユフィの愚痴にケットシーが乗る。そもそも彼らは、他の仲間とともにバギーでゴンガガに向かう予定だったのだが、ユフィの愚痴の通りクラウドが限界以上に飛ばしたため故障してしまったのだ。
高価すぎる貰い物なのに乗り捨てってどうなの、ということで放置は却下。そこで仲間の一人、バレットという男が修理をかって出たので、仲間を「バギー修理班」「ゴンガガ前乗り班」の二手に分けた。
ゴンガガ班は先に集落に行って宿の手配やアイテム補給、情報収集などを行い、修理班はバギーを直した後ゴンガガに向かう手はずだ。
仲間は、ユフィ、ケット・シー、バレットのほかにティファとエアリスという女性2人、レッドXIIIという人の言葉を解する犬っぽい獣がいる。バギー班にはバレット、ティファ、エアリス、レッド、ゴンガガ班にはクラウド、ユフィ、ケット・シーとなったわけだが、ちゃんとした理由はある。
まず、バギーが故障したのはゴンガガへの道中で、まだかなりの距離があったためティファ、エアリスの女性2人は体力的に考えて修理班に。
修理を担当するバレットはもちろん、修理が長引けば必然的にバギーでの車中泊となるため、モンスターの襲撃に備えて感覚の鋭いレッドも残った。
やかましいうえに落ち着きが無いユフィも、一応女性ということで修理班に入れようとしたのだが、当の本人が「修理終わるまで待つとかツマンナイ!」と言っていささか強引にゴンガガ班に。
ケット・シーも「このファンタスティックキューティーボディはロボットやさかいに、疲れたりせえへんからオッケーやで!」と余計なことを言いつつゴンガガ班となった。
原因たるクラウドは、人選が決まるまで黙って縮こまっていた。
「いや、その・・・チョコボレースの余韻で・・・感覚が・・・・・・」
バギー故障から大きな態度に出られないクラウドは、無駄と知りつつも理由を呟く。当然その直後に「言い訳しない!!」とユフィから怒られる。追い討ちをかけるように「ハァ~・・・」というケット・シーのため息。
なんでこんな目に・・・とクラウドは思わずこぼしそうになるが、今回の件に関しては完全にクラウドの責任。だが、悪かったとは思いつつも思いのほか当たりのキツい仲間たちに、反省とは別の不穏な感情が溜まり出していた。
次第に機嫌が悪くなるクラウドを横目に、ユフィとケット・シーは思わずニンマリと視線を合わせる。この男、普段はめっぽう強い上に冷静沈着アンド無愛想、しかも強いリーダーシップで有無を言わせないところがある。
だからこそ2人は、弱っているクラウドを苛めたくなったのだ。普段見られない言われっぱなしのクラウド。なんてイジメ甲斐のあるヒ・ビ・キ、とユフィは心の中でワクワクが止まらない。
クラウドが自分たち以外の気配に気付いたのは、三者三様の思いで小道を集落方面に曲がろうとしたときだった。
「・・・誰かいる」
低く抑えた声でクラウドが注意を促すと、それまで「次はどんな言葉でこの鉄面皮をイジッてやろうか」とニヤニヤしていた2人の表情がスッと引き締まる。そう、この旅は過酷で危険。僅かな油断が死に直結する。すばやく岩陰に身を潜めたクラウドに習い、2人も音を立てずに岩に隠れた。
「・・・どう?」
クラウド同様、低く抑えた声でユフィが問う。しばらく気配を探ったクラウドは、手短に必要な情報を伝えた。
「・・・思いのほか近いな。気づくのが遅れたようだ。それに、動かない」
「ソコから見える?」
ユフィの言葉に、クラウドが少し身を乗り出す。
「ゴンガガの人とかやったら、問題ナッシングなんやけど・・・」というケット・シーの言葉は、姿を確認したクラウドにすぐさま否定されることとなった。
「・・・!!くそ、タークスだ・・・!!なぜ連中がこんなところに・・・!!」
神羅カンパニー総務部調査課、通称タークス。黒のスーツを身に纏い、クリーンな企業とうそぶくカンパニーの暗部を一手に引き受ける部隊だ。彼らの職務は拉致、誘拐、暗殺、扇動、情報操作など多岐にわたる。戦闘のプロとしてもその実力は非常に高く、クラウドたちの前に幾度と無く立ちはだかってきた。
「・・・まさか、待ち伏せされてた?」
ユフィが緊張した面持ちでクラウドに問いかける。クラウドはそれには答えず、何か話しているらしいタークスの会話を聞こうと耳をすました。が、3人の耳に入ってきたのはあまりにも緊張感の無い、それこそ「しょうもない」会話だった。
「で?ルード君」
「・・・・・・・・・」
「何をだまっているのかな、と」
「・・・・・・・・・」
「あの連中の中に意中のコがいるのはバレバレなんだぞ、と」
「・・・・・・・・・」
「ふんわりふわふわ、癒し系のエアリス嬢」
「・・・・・・・・・」
「元気いっぱい、お肌ぴっちぴちユフィちゃん」
「・・・・・・・・・」
「ナマ足バンザイ、爆裂ボディのティファ様」
「・・・!・・・・」
「・・・あ、相棒、分かりやすすぎだぞ、と・・・」
あんまりな内容に、がくぅ、と脱力するクラウド、ユフィ、ケット・シー。
なんだこれ、俺たちの緊張を返せ。そんなクラウドの心の叫びをよそに、「泣く子も攫う」ハズのタークス主力メンバー、レノとルードの会話は続く。
「そうかそうか、ルード君のオキニはティファ様か。でも、つらいところだぞ、と」
「・・・・・・・・・分かってる。仕事はちゃんとするさ」
「あー・・・そういう意味じゃなくてだな、ティファ様はどう見てもあの金髪に惚れてるって意味だぞ、と」
「・・・・・・!!・・・・・・」
「・・・ヘコみ過ぎだろ、相棒・・・・ていうか、気付いてなかったのかよ・・・」
(あっ、やばっ!あンのエロ赤毛、ティファの気持ちバラすなんて!!)
さっきまでの緊張感はどこへやら、ニヤニヤしながらタークスの恋愛談義に耳をそばだてていたユフィは思わず叫びそうになった。
彼女の気持ちは旅の最中で本人から直接聞いているのだが、ティファは何をためらっているのかクラウドに対しアプローチらしいアプローチはまったくと言っていいほどしていない。エアリスの方が積極的だ。
一度「このままじゃ負けちゃうよ!」とハッパをかけたのだが、やはり彼女は「今は一緒に居られるだけで十分だから・・・」と動こうとしない。
(それなのにティファの気持ちを見抜くなんてあのエロ赤毛、やるじゃん!・・・ってそうじゃなくて!!)
ティファの気持ちがクラウドにばれてしまった。これはマズい。この場にティファが居ないのは不幸中の幸いだが、クラウド次第で今後の旅がかなり気まずくなる。仲間の中では歳若いユフィから見ても、クラウドはお世辞にも女性の扱いがうまいとは言えないのだ。恋愛に長けているとも言い難い。「アンタ、俺のことが好きなのか・・・?」とか面と向かって聞きそうだ。
だめだ、そんなことになったらティファは恥ずかしくて死んでしまうに違いない。
(あーあーあー!マズイ、マズイよ!!どうしようケット!?)
(そんなん言うたかて、吐いた唾は飲みこめんのやで!?あかん、クラウドさん硬直してもうてるやん!)
(あのバカタークスめぇ!!・・・はっ、ひょっとしてコレって仲間割れを誘発する連中の新手の攻撃!?)
(んなアホな、何言うてんねん!あ、でもごっつ成功しそうやん!)
「・・・ユフィ」
目で会話していた2人の肩がビクッと硬直する。
クラウドから発せられたその声は、2人にはまるで獄卒の死刑宣告のように聞こえた。恐る恐るクラウドを振り返った2人は、そこであまりにも意外すぎる、いやティファにとってはまさに死刑宣告に等しい彼の言葉を聞いた。
彼はというと困惑したような表情で、その表情も2人にとっては不可解で。
「・・・ティファって、好きなやつを放り出して旅してるのか・・・?」
(お前の事だぁーーーーー!!!)
(お前の事やぁーーーーー!!!)
それが、ユフィとケット・シーの緊張の糸を完全にぶった切るトドメとなった。
「・・・にしても、イリーナのやつもかわいそうになぁ。アイツ、お前のこと・・・」
「・・・・・・いや、イリーナは主任だろう」
「へぇ、ツォンさん?・・・あー、でも俺は違うと思うぞ、と」
「・・・・・・?」
「んー、俺にはただの『アコガレ』に見えるぞ、と」
「・・・・・・そうか」
「それに、ツォンさんはふわふわエアリス嬢が・・・・・・」
いい加減にしてくれ、とクラウドは頭を抱えた。連中が居なくなってくれないとゴンガガには入れない。日もかなり傾いてきているし、万が一何かあったときのためにバギーに戻ることも考えなければならないのだ。
いっそのことバトルに持ち込んだほうが早いような気がする。
「まったく、くだらない事をいつまでもべらべらと・・・」
「ホント、くだらないですよね!」
「ああ、あれが神羅の闇を担うタークスだとはな。連中だって人間なのは分かるが、時と場合によるだろ」
「ですよね!!先輩たちったら、いっつもいっつも誰が好きだとか誰が振られたとか、そんな話ばっかりなんです!」
「低俗にもほどがあるな」
そこまで話して、クラウドはこの先どうしようかと仲間を振り返った。ところがソコには、あまりに不憫なティファを想うあまり口から半分魂を出したユフィとケット・シーがボケッと岩に寄りかかっている。当然クラウドには2人の惨状の理由は分からないのだが、はて、じゃあ今の会話は誰と?
「あ!でもツォン主任は違いますよ!あの人はいつもビシッとしてて、仕事もカンペキで無駄話もしないんです!!」
魂が抜けかけた2人の横には何故か、ニコニコしながらクラウドに話しかける新人タークス、イリーナの姿があった。
「・・・・・・・・・」
クラウドは思わずイリーナを見つめた。イリーナも、笑顔でクラウドを見ている。その目は「クラウドもツォン主任はマジメだと思いますよね!」と如実に問いかけている。
(は?・・・いや、ちょっと待て、なんだこの状況)
タークスは敵だ。そんなこと、確認するまでもない。岩の向こうのレノとルードとは、これまで何度も戦っている。そのタークスと、ほのぼのと会話している。思わずユフィとケット・シーに視線を送るクラウド。2人も、さすがの意味不明な状況にちゃんと魂を飲み込んだようで、怪訝な表情でイリーナを見ている。
「・・・?なぁに?」
敵であるはずの3人の視線を集め、コテッと首をかしげるイリーナ。サラリ、とレモン色の髪が彼女の肩を撫でる。
(なんか、小動物みたいだな)と、クラウドは和んだ。
(なにこの可愛い生き物)と、ユフィは萌えた。
(タークス全員、アホばっかりやないか・・・)と、ケット・シーは失望した。
なんとも言えない沈黙が4人の間に落ちた。どうするんだこの空気、とクラウド、ユフィ、ケット・シーの3者は思ったが、その空気の中心たるイリーナが突然立ち上がった。
「あっ!そうだった!!」
思わずイリーナを見上げる3人。しかし、彼女の目線にはすでにクラウドたちは入っていないらしく、岩陰から飛び出していった。
「せんぱーい!!来ました、ホントに来ましたよ、あの連中!!」
そして、恋愛談義に花を咲かせていたレノとルードにイリーナがそう声をかけたところで初めて、クラウドたちはタークスとのバトルが避けられないと悟ったのだった。
くだらなすぎるレノとルードの会話、そして何故か和んでしまったイリーナ。そのタークスとの戦闘を前に、クラウドはもう何だかどうでもいい気分になった。
ようやく眼前に現れた敵に、レノは興奮を抑えられなかった。前回戦ったときに予想外のダメージを負い、その治療のため今までずっと戦線離脱を余儀なくされていたのだ。血沸き肉踊る死闘はレノも嫌いではないし、なにより前回の借りを返すために新しい武器まで用意してきたのだ。うずうずと待ちきれない様子で、病院送りにしてくれた張本人であるクラウドに声をかけた。
「ずいぶん遅いお着きだぞ、と。この前の借り、キッチリ返させて・・・って、アレ?」
多少突っ込み気味でクラウドたちの前に躍り出たレノだったが、その3人の様子がおかしいことに気付いた。
クラウドの脇を占める今日のパーティーは、真っ白お肌が眩しいユフィちゃんと動力源不明のポンコツ、ケット・シー。3人が3人とも非常に疲れた顔をしており、しかも武器すら構えていない。のろのろと現れ、なんとも言い難い表情でこっちを見ている。
「ど、どうしたんだぞ?と」
と、レノですら思わず心配して声をかけてしまうくらい3人の目はいろいろダメな感じだった。疲れ、イライラ、脱力、呆れがない交ぜとなって非常によどんでいる。
普段のバトルで見せるようなギラギラとした闘争心のかけらも見出せない姿に、思わずタークスの3人は顔を見合わせた。
(おいイリーナ、どうなってるんだぞ、と)
(わ、分かんないですよ、さっきまで普通だったんですが・・・)
(・・・・・・・・・)
どう見ても何かあった感じだが、自分たちがそれを尋ねるのもおかしい。だって彼らとは命を取り合う敵同士。しかし、あまりの変貌振りに思わずルードが声をかけた。
「・・・・・・・・・何か、あったのか?」
寡黙な相棒が先に声をかけたことにレノは驚いたが、いったい彼らに何があったのかは自分も気になるところ。しかし、帰ってきた返答にさらに場が混乱することとなる。
「・・・何が、あったかだと?」
腹に響く声でクラウドが答えた。タークス3人はちょっと後悔する。その声はどう考えても噴火直前で。
「・・・お前ら!いい加減にしろぉぉ!!!」
クラウドの堪忍袋の緒がはじけとんだ。
「黙って聞いてりゃいつまでも下らん話で通せんぼしやがって!!えぇ!?待ち伏せするならもっとマジメに待ち伏せしろ!!大体なんだ!?そこのチョコボールハゲはティファが好き!?そんな情報いらないんだよ!!エアリスが癒し系なのは当たり前だろうがこのエロ赤ガッパが!!老け顔デコボタンなんぞにエアリスくれてやるかボケ!!ああああなんだよもうどいつもこいつも!!」
それはもう見事な大噴火だった。バギー故障からこっち、さんざん仲間にいやみを言われ続けたクラウドのイライラがタークスとのアホらし過ぎるやり取りで遂に限界を突破。湯水のように流れ出るクラウドらしからぬ暴言の数々に、その場にいた両陣営はあっけに取られた。・・・一人を除いて。
「ちょ・・・!!なんですか『老け顔デコボタン』って!!主任は老け顔じゃありません!!撤回してください!!それにおでこのアレはボタンじゃないです!!なんてひどいこと言うんですか!!」
イリーナだった。尊敬するツォンを悪し様に言われたためか、顔を真っ赤にしてクラウドに詰め寄り反論した。しかし、その反論が硬直したほかの4人の思考を現実世界に復帰させることになり、4人の腹筋にセフィロスも真っ青の大ダメージを与えた。
(ぐっ・・・!!や、やめてくれイリーナ!なぜソコに反応したんだぞ、と・・・!!)
(・・・・・・な、なんというボディブロー・・・!!ふ、腹筋が・・・)
(おでこのアレって・・・!!おでこのアレって言った・・・!!おなか痛い・・・!!)
(ア、アカンて・・・!!次ツォンに会うたら確実に笑ろてまうやんかぁ~!!)
ああ、声を出して笑えたらどれほど楽になるだろう。しかし、それをすれば確実にこちらに矛先が向けられる。それは面白くない。
それに、この先更なる爆弾が投下されるに違いない。4人は、よじれる腹筋の痛みに耐えながらも最大級の爆弾投下を期待していた。
「うるさい!!どうみてもボタンじゃないか!!アレ押したらどうせ鼻の穴から緑茶でも噴き出すんだろ!!」
「お茶なんか出ません!!出るならブラックコーヒーに決まってます!!」
「ホラ見ろ!!アンタだってアレをボタンとして認識してるじゃないか!!」
「なっ!?だ、騙したのね!!」
「勝手に騙されたのはソッチだろ!!」
「ひどい!!あたしの、主任を尊敬する心を弄んで!!謝ってください!!」
「老け顔デコボタンの部下になんぞ誰が頭下げるかよ!!」
「あっ!また老け顔デコボタンって言った!!もう許せない!!」
まさに「売り言葉に買い言葉」だった。クラウドの大噴火に触発されたイリーナの激昂もとどまることを知らず、怒り心頭の面持ちで顔を突き合わせ、凄まじい暴言ラリーを応酬する2人。だが、それ以外の4人はガリガリと生命力を削られ、もはや立っていることもままならず瀕死の状態に追い込まれていた。
(ひぃーーーッ、ひぃーーーッ、い、イリーナ、もう勘弁してくれぇーーー!!)
(い、息が吸えん・・・・・・!!た、助けてくれッ・・・誰か2人を止めてくれ・・・・・・!!)
(ブラックコーヒーって!!鼻からブラックコーヒーって言った・・・!!苦しいぃ!!)
(も、もうアカン・・・!!ガマンしすぎて壊れてまう・・・!!)
そして、彼らを解放する言葉はイリーナの口から出た。
「アンタなんて、アンタなんて脳みその足りないチョコボ頭じゃないのよ!!自慢のトサカなびかせてサッサと『チョコぼう』に帰ってクサイ青菜でも貪り食ってりゃいいのよ!!気立てのいいメスでも紹介してあげるから、チョコボはチョコボ同士ニャンニャンしてればいいのよ!!この駄チョコボ!!」
『ブハッ!!』
限界は、4人同時に訪れた。もうダメだった。
「ぎゃはははは!!ひィーーッ!!ひィーーーッ!!」
「ブフッ!!腹が・・・腹が痛いッ・・・・・・!!」
「あはははは!!あはははは!!あははははは!!!も、もうダメェーーーッ!!」
「あっはっはっはっは!!あ、アカンてぇー・・・!!死ぬぅ、死んでまうッ・・・!!」
突如沸き起こった爆笑の渦に、イリーナは思わず4人に目をやった。だが、まだ敵は倒していないのだ。上司をさんざんバカにしてくれた駄チョコボはまだ目の前に居る。どうせこの後も何か言ってくるだろうが、ここまで来たらトコトンやってやる!!赤茶色の瞳に思いっきり怒りを込めて目の前の男をねめつけた。
そして、反撃が来た。それも、イリーナにとって痛恨の反撃が。
「この俺をチョコボだと・・・!?人のことが言えるかこのひよこ頭が!!ロクデナシの先輩どもの後をついて回るしか脳の無いひよこ風情が!!アンタこそさっさと巣に帰って老け顔デコボタンにミミズでも食わせてもらえ!!このひよこヘッド!!」
もはや子どものケンカ。レノとルードの恋愛談義を「低俗」の一言で斬ったクラウドだったが、彼とイリーナのケンカはそれ以下だった。そして、クラウドの反撃もイリーナ以外の4人には笑いの種でしかなく、あたりは更なる爆笑に包まれた。
「腹いてぇーーーッ!!こ、これ以上は無理、無理ッ!!ひィーー!!」
「ちょ、チョコボとひよこ・・・!!チョコボとひよこ・・・・・・!!ブフォッ!!」
「ぎゃはははは!!あはははははは!!い、息できないってぇーーー!!」
「プスプスプス・・・ガーガー」
どうやらケット・シーは旅立ってしまったらしい。
(どうだこのやろう!!)
さあこい、とばかりにイリーナを睨んだクラウド。しかし、彼の見たものはあまりにも想定外な彼女の顔。
「ひ、ひよこって言った・・・・・・」
目にいっぱいの涙を溜め、下唇をかんで必死にこらえる、なぜか一気に弱ったイリーナだった。
イリーナの今にも泣きそうな表情に、クラウドの怒りは一気に沈静化に向かうものの、これまで吐いてきた暴言の数々、そしてイリーナに食らわされた暴言の数々。当然、口から出た言葉は戻らない。それがクラウドの退路をふさいでいた。
「うぅ・・・ひ、ひよこって、ひぐっ、ひよこって、言ったぁ~・・・!!」
どんどん限界が近づくイリーナ。クラウドも、頭ではこれ以上の追撃は必要ないと理解しているのだが、口が言うことを聞かない。
「だ、だからどうした!!どこからどうみても、アンタはひよこだろ!!」
「ひっくッ、ま、また言っだぁ!!ひぐっ、あ、あたじひよこじゃないぼん・・・!!」
「う、うるさい!このひよこ!ひよこヘッド!!」
どんどん内容が低年齢化していく2人のやり取り、というか明らかに幼児退行を引き起こしている2人に、周りの4人のライフはもはやレッドゾーンだった。レノは腹を押さえてうずくまり、ルードは四つんばいになりながらビクビクと痙攣している。ユフィは足をばたつかせて爆笑し続け、ケット・シーにいたってはデブモーグリから転げ落ちて煙を出している始末。
そしてついに、イリーナのダムが決壊した。
「びえええぇぇぇぇぇぇん!!」
その泣き声は、悲痛な慟哭というにはあまりにも幼稚な泣き声だった。そして、話は冒頭に戻る。
イリーナとひよこ。
その悲しき物語を語るには、時を十数年前まで戻さなくてはならない。
それはまだ、幼年学校に入りたての頃。クラスで近所のお祭りを見学する機会があった。どんなお店があって、どんな人たちが集まっているのか。ちょっとした社会見学のようなものだが、そこは幼年学校。授業の一環とは言いつつも、その目的は子供たちにお祭りを楽しんでもらうことで、子供たちはみんな普段着られないおしゃれな格好でお祭りに繰り出していた。イリーナも、お気に入りのレモン色のワンピースを着て参加したのだった。
さて、お祭りには多くの屋台が並ぶ。射的やくじ引き、型抜きなどのほか焼きそばやたこやき、りんご飴、わた飴。その中でも子供たちの人気を博した出店があった。
それは、カラーひよこ。
色とりどりの小さなひよこたちが、箱の中でピヨピヨと鳴く姿に子供たちはメロメロだった。「かわいい!」「うちで飼えるかな?」「全色揃えたいなぁ」と、口々に感想を言い合っていたが、そのうちの一人がイリーナを見て言った。・・・言ってしまった。
「おいイリーナ、今日のお前、このひよこみたいだな!」
最初はよく分からなかった。「このひよこみたいに可愛いってこと?」とイリーナは嬉しくなったが、次の会話でその希望は粉砕されてしまった。
「ぎゃはははは!!ホントだ!今日のイリーナ、真っ黄っ黄だ!!」
「あははは!!ひよこだ、ひよこだ!!」
「い、イリーナ、ピヨピヨって鳴いてみてよ!!」
「だ、だめだろイリーナ!早く箱に戻れって!!」
「あははは!!おい笑わすなよッ!!」
「おじさん、1匹箱から逃げ出してるよぉーー!!」
ああ、なんて子供は残酷。確かにイリーナの服は髪の色に合わせたレモン色で、見ようによっては全身黄色だった。お気に入りのワンピースをバカにされたようなもので、イリーナはそれはそれは大きなショックを受けた。
しかも彼女を襲った悲劇はそれだけではなかった。腹を抱えて笑い転げるクラスメイトの中に、幼いながらも淡い恋心を抱いていた男の子もいたのだ。
子供にとって楽しいはずのお祭り。しかし、この一件でイリーナにとっては忌まわしい記憶となってしまった。泣きながら走って家に逃げ帰ったイリーナは、ワンピースとともに無残に散った恋心を押し入れ奥深くに封印したのだった。
まさか、今になってその記憶を呼び覚まされるとは、さすがのイリーナも想像していなかった。まさに「過去からのクリティカルアタック」。一気にあの記憶がよみがえってしまったために、イリーナの精神は一時的にあの幼い頃に戻ってしまったのだ。
そんなことなど露ほども知らないクラウド。「ひよこ」がイリーナのハートに大ダメージを与えたことは分かったが、なぜこんな子供のように泣いているのか。周りの4人は笑いながら「何とかしろ」と言ってきたが、どうすればいいかさっぱり分からない。
(そもそも、泣いてる女を慰めたことなんか無いんだぞ、俺)
イリーナの号泣で、すでにクラウドの噴火は完全に収束している。クラウド自身、なぜあれほど幼稚な言い合いになってしまったのか、と不思議に思う。
そう、クラウドは思い出していないが、イリーナが言い放った「チョコボ」は、クラウドの過去のトラウマも直撃していたのだ。
十数年前、クラウドの故郷ニブルヘイム。
クラウドは、根暗でひねくれ者と周りの子供たちから称されていた。それは、本人が口下手かつ引っ込み思案なところがあり、なかなか遊びの輪に入れてと言えなかったせいでもあった。
いつも遠くから見ているだけのクラウドに、集落の子供たちは「根暗チョコボ」とあだ名をつけ、バカにしていたのだ。本当はみんなと遊びたくて、なんとか輪に入れてもらおうと遠くから彼らの話に耳を傾けていたクラウドは、その言葉を聞いて大きなショックを受けた。大好きな母さんと同じ金髪、それをバカにされた。その衝撃は、周りの子供たちを敵視するには十分すぎるほどの言葉の刃だった。
クラウドとイリーナは、お互い全く知らずに、過去の悲惨な思い出を掘り返す言葉を言ってしまったのだ。それが、あの幼稚な言い合いの原因。
「その・・・すまない、言い過ぎた」
地面にペタリと座り込み一向に泣き止まないイリーナに、クラウドは片膝でしゃがんで恐る恐る謝罪する。しかし全く効果はなく、えぐえぐと両手で目をこすり、ボロボロと涙を流し続けている。
(ど、どうしたらいいんだよ・・・)
助けを求めて周りの連中に目を向けるが、そこにはニヤニヤとこっちを見る4対の瞳。どう見ても助け舟を出してくれそうに無い。
(何か、何かないか・・・くそ、こんなことならアイツの言うとおり少しくらい恋愛でもしておけば・・・)
ふいに頭に浮かんだ思いに、クラウドは頭をひねる。アイツ?アイツって誰だ?
(い、いや、そんなことじゃなくて、だからイリーナをどうするかだろ今は)
その時、雷に打たれたようにクラウドに天啓が舞い降りた。
(そうだ、今のイリーナは、理由は分からんが子供に戻っているようだ。そう、子供といえば、バレットの娘のマリンだ。マリンが泣いたときの、ティファやバレットの慰め方を思い出すんだ!)
もうこれしか方法はない、とばかりにクラウドの頭は瞬時に高速回転を始めた。あまり手をこまねいていると、仲間にもタークスの連中にも「クラウドは女を泣かせるサイテー男」として認識されてしまう。それは勘弁だ!
そして、クラウドは僅かな時間で答えを導き出した。これが正解かどうかは分からない。だが、行動しなければどんな結果も出ないのだ。恐る恐る、彼女の頭に手を伸ばす。
「イリーナ、ごめんな?そうだよな、イリーナはひよこじゃないもんな?」
クラウドは、イリーナの頭を優しく撫でながら声をかけた。
「イリーナの髪は、レモン色できれいだもんな。ひよこじゃないよな?」
ここで、イリーナがようやくクラウドの言葉に反応した。
「ほんと?・・・えぐっえぐっ、イリーナの髪、キレイ?」
クラウドは心の中で勝利のポーズを決める。
「もちろんだ!ほら、お日様にてらされてキラキラしてる」
その言葉に、イリーナがゆっくり顔を上げてクラウドを見る。
(ああ、眼の回りが真っ赤じゃないか・・・こんなになって)
クラウドは頭を撫でていた手をイリーナの頬に当て、親指で目元を撫でた。ジンとした涙の熱がクラウドに伝わる。・・・もう、頭で考える必要はなくなっていた。
「ごめんな、イリーナ。傷ついたよな。涙、いっぱい出ちゃったもんな」
「ひぐっ・・・イリーナもね、わるい子なの。クラウドのわるくち、言っちゃったもん」
「大丈夫、チョコボなんて、気にしてない」
「でもでも、クラウドすごい怒ってた」
「・・・ああ、ちょっとびっくりしたからな。でも、もう怒ってないよ。イリーナは?まだ悲しい?」
「・・・ちょっとだけ。でも、もう泣かないの。泣いたら、お姉ちゃんも悲しむから」
「そっか。ごめんな。ひどいこと言って」
「ぐすっ・・・ねえ、クラウド。あたし、ひ、ひよこじゃないよね?」
「もちろん。イリーナは、可愛い女の子だよ」
ああ、なんたる化学反応。体の半分以上が優しさでできていそうなこの男はいったい誰だ。無愛想だの冷徹だの、さんざんな言われ方をしてきたクラウドはどこにいった。
辺りには、すでに笑い声がなくなっていた。あのクラウドが、微笑を浮かべて女性を慰めている。イリーナもおかしすぎる。あの言動じゃどう見ても幼年学校のお子様だ。予想外すぎる光景に、レノもルードも、ユフィもケット・シーもあごが外れたように口をあけ、呆然としていた。
(よかった・・・やっと泣き止んでくれた)
クラウドは、ほっと一息つくことが出来た。イリーナはきっと子供の頃に「ひよこ」関係で何かつらいことがあったに違いない。冷静に分析できるようになってきたことを自覚し、クラウドは自分もおかしくなっていたんだな、と理解した。しかしそれは、半分当たりで半分ハズレ。
そして、最後にして最大級の化学反応が2人を襲った。
「ホント?・・・イリーナ、可愛い・・・?」
すがるような瞳をクラウドに向けるイリーナ。その色は、クラウドの中に一つの思いを湧き出させるには十分すぎるほどの威力で。
「ああ、本当だ。髪も目も、キレイで可愛いよ。俺は好きだ」
イリーナの顔はまるで花が開いたかのようにパァッとほころんだ。
大人な彼女の無邪気な笑顔は、クラウドの鋼鉄製ハートを見事に打ち抜いた。
そもそも、恋愛経験もまともにないクラウド。そのクラウドにとって、自分のせいとはいえ泣いてしまった一人の女性を真剣に慰めた経験など皆無だった。そして、見た目は立派な大人なのに、言動もしぐさもまるで子供。彼の中に湧き出た感情は、ただただイリーナを「愛しい」と感じるものだった。
それは「庇護欲」というものなのかもしれないが、イリーナは庇護を必要としない大人。しかし愛しいという感情は収まることなく、最後の笑顔で庇護欲が暴発し「愛してる」までぶっ飛んだ。クラウドは完全に惚れてしまったのだ。
しかも、それはクラウドだけではない。
イリーナも、突如として思い出してしまった過去の記憶に引きずられ、幼児退行を起こしてしまったことで、その当時の感情が一気に噴き出した。そのつらい記憶は「好きな相手に笑われた」というものであり、それがクラウドに「ひよこ」と言われたことと完全に重なってしまったのだ。
もちろん、イリーナはクラウドが好きだった訳ではない。しかし、クラウドと過去の好きな相手を重ねてしまったことで「好き」という感情はクラウドにも向けられ、そのクラウドから過去の相手からは得られなかった「ごめんな」と「好きだ」という言葉が送られた。しかも、優しい笑顔付き。イリーナの感情もまた、一気に「愛してる」まで突き抜けてしまった。
2人のトラウマを起爆剤として発生した、もはや「勘違い」の域をはるかに超えた「化学反応」。誰もが、いや本人たちすら想像だにしなかった結果。
「イリーナ・・・」
「クラウド・・・」
お互いの気持ちなど言葉で確認するまでもない、とばかりに、急接近を始める2人。クラウドがイリーナの頬に手を当て、潤んだ視線をからめる。同じように、イリーナもクラウドの頬に手を当て、さらに2人の顔が近づき・・・・。
「ちょ、ちょっと待て待て待て待てぇーーーー!!」
一番最初に正気を取り戻したのはレノ。その声で他の3人も一気に現実に戻ってくる。
「・・・はっ!?そ、そうだ、クラウド!アンタいったいなにやってんのさ!!」
「・・・・・・・・・イリーナ、正気に戻れ・・・!!」
「アカンてクラウドさん、それタークスなんやで!?」
ばたばた走り寄り、2人を引き離そうとする4人にクラウドは、熱を含んだ声を返す。
「うるさい。俺はイリーナと一緒にいるんだ」
「そうです、邪魔しないでください」
ああ、なんか、もういろいろとダメだ。未曾有の化学反応で一気に熱愛まで発展してしまった2人。その原因は聞くのもバカらしくなるほど幼稚な口げんか。いったいどうすればいいのか、4人には全く分からない。
「なっ!?何言ってんだよクラウド!!そいつは敵なんだぞ!!」
「そ、そうだぞ、と!!お前、ツォンさんはいいのかよ!?」
ユフィとレノが焦りながら何とか2人を引き離そうとするが、全くの逆効果。クラウドはガバッとイリーナを抱きしめ、4人を威嚇するように目を向けた。
その目は、レノが最初に期待していた「バトルの時の闘争心に溢れた目」で。ようやくそれを向けられたものの、レノは「こんなの絶対違うだろ!!」と叫んだ。
抱きしめられたイリーナはといえば、目をつぶって頬を赤らめ、うっとりとクラウドにしがみついている。ああもう、なんなんだよコレは。
とその時、ルードの渾身の右ストレートが空気を切り裂き、クラウドの後頭部に衝撃が走る。
「ぐっ・・・!邪魔するな!!!」
恐らくセフィロスに対しても出したことが無いような殺意を乗せて、クラウドがルードを振り返った。しかし、さすがはタークスとウータイの忍、その一瞬の隙をついてクラウドからイリーナを引き剥がし、レノがイリーナを抱えたままとび退った。
「くそ!!イリーナ!!」
「は、離してよ!!助けてクラウド!!!」
そうじゃねえだろ!!とこの場の全員が突っ込みたかった。イリーナを奪われたクラウドは一瞬体が硬直し、その隙を逃さず今度はケット・シーがデブモーグリでクラウドを押さえつける。
「ち、ちくしょう!!どけケット・シー!!バラバラにされたいか!!」
「ど、どきませんよクラウドさん!!あんた、今オカシくなってんのや!!」
「黙れ、俺は正気だ!!くそ、イリーナ!!」
「ちょっ・・・暴れるなってイリーナ!!」
「クラウド!!クラウドーーーー!!」
「イリーナ待ってろ!!今助けに・・・!!」
もう、収拾をつけようが無いことは4人とも分かっていた。今このとき、彼らに出来る最善の方法は、一刻も早く2人を引き離し、正気に戻させることだった。
「レノ行って!!そいつが正気にならない限り、絶対にクラウドの前に連れてきちゃダメだかんね!!」
「分かってるぞ、と!!そっちも大変だろうが、暴走しないよう抑えててくれよ!!つーかそっちも早いトコ正気に戻せよ!!」
ユフィとレノが互いに声をかけ、タークスが撤退する。遠ざかるレノとルード、そして彼らに担がれたイリーナ。
その場に残るのは、デブモーグリに押さえつけられ、歯をギリギリと鳴らすクラウドと必死に抑えるケット・シー。そして、呆然とタークスを見送るユフィ。
「クラウドぉーーーーー!!」
「イリーナぁーーーーー!!」
真実の愛に目覚めた・・・かもしれない2人の叫びが、ゴンガガの森に響き渡った。
* * * * *
「うおぉぉぉぉぉぉん!!うおぉぉぉぉぉん!!」
野太い泣き声が、海に沈む夕日に響く。そんな彼の後ろ姿を見つめる3対の目には、疲れと呆れ、そして脱力感。
「なんで気付かなかったかなぁ・・・」
「ほんと、全員忘れてたわね・・・」
「・・・・・・・・・」
クラウドたちがゴンガガに出発した後、バギー修理班はモンスターに発見されにくいよう海岸沿いの岩山までバギーを移動させた。バレット以外は女手と獣しかいないため、少し時間がかかりすぎたが、さっさと修理を済ませてしまえば問題ない。日没まではまだ時間はあるし、誰もが「今日はゴンガガのベッドで寝られる」と疑わなかった。
・・・修理を始めるまでは。
「よっし!!そろそろ始めねぇとさすがにやべえな!!」
バレットはそう言うと、トランクから工具一式を取り出した。工具の存在は既に確認済みで、これを見つけたからこそ「修理」という選択肢が出来たのだ。よし、やるぜ!!と気合を入れ、バギーのボンネットを上げるバレット。
「どう?すぐ直りそう?」
近くでたむろしていたティファが、バレットに問いかける。・・・が、返事が無い。
「んー、どしたの?バレット」
エアリスも、ちょっと不安の面持ちで問いかける。何だか雲行きが怪しい会話に、レッドも近づいてきた。
集まった2人と1匹は、ボンネットを開けたまま固まっているバレットに視線を集めた。よく見ると、ダラダラと汗をかいている。それも、あまり喜ばしくない類の汗を。
ギギギ、と振り返るバレット。その顔は挙動不審だ。目が凄まじい勢いで泳いでいる。
「ちょ・・・ちょっと!そんなにまずかったの!?」
「い、いや、そうでもねえ、と、お、思うんだけどよ・・・」
「・・・はっきりしない物言いだな」
バレットは一旦ボンネットを下ろし、仲間の方をみて、恐る恐る右手を差し出した。
「・・・?どうかしたの?」
「別に、いつものバレットの右手よね・・・?」
あまりに当たり前すぎて、誰も気付いていない。
「そ、その・・・・・・」
おかしい。巨漢のはずのバレットの体躯が、ずいぶん小さく見える。
「片腕が銃だったの、忘れてた・・・。スパナ、握れねえ・・・・・」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉん!!」
バレットの慟哭が続く。
あのあと、何とかティファが修理をしようと試みたものの、いかんせんどこがどの部品で何をどうすればいいのかさっぱり分からない。バレットが懸命に説明するがいまいち分かりにくく、要領を得ない。
そして、苛立ったティファが力任せに「何か」をスパナで捻り上げ、更にバギーにダメージを与えてしまうということが続いてしまった。
自分の右手が銃だったことを忘れて修理を名乗り出てしまった羞恥、ティファにうまく伝えられなかったもどかしさと苛立ち、野宿決定の悲しさ。それらがバレットの泣き声に乗り、辺りに響く。
日没まで、もういくらもなかった。
* * * * *
「うぅぅ・・・イリーナ・・・イリーナ、待ってろ、今・・・」
ゴンガガの民家の一室。うなされながら愛しの女性の名を呼ぶ、チョコボ頭のバカがいた。そのバカをベッドの横で眺める、憔悴しきったユフィとケット・シー。
意味不明の、熱病ともいえる激情に冒されたクラウドとイリーナ。2人を引き離した後、このままじゃどうにもならないと悟ったユフィとケット・シーはスリプルの魔法でクラウドを睡眠状態にし、ゴンガガに入った。突然起きないよう鎮静剤を5本ほど無理やり口にねじ込み、なおかつ後ろ手に親指を縛って体を拘束。足は、ベッドの足にくくりつけてある。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
2人とも、しゃべる気力もない。いや、口を開けば、今後どうしたらいいか否が応でも話し合わなければならないのだ。すでに精神的にも肉体的にも限界に達している2人は、無駄だとは知りつつもその話し合いを先延ばしにしていた。
「・・・・・・ねえ、ケット」
「・・・ユフィさん、頼んます。・・・もうちょっとだけ、現実から目を背けさせてください・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・ユフィさん」
「あー・・・なに?」
「・・・ボク、実は神羅のスパイなんですわ・・・・・・・・・」
「ふーん・・・・・・」
旅の今後を揺るがすような事実を口にしたケット・シーだったが、ユフィの反応は薄い。それもそのはずだ。スパイだろうがなんだろうが、このクラウドを元に戻す方法を知っているわけではないのだ。
旅を続けるならスパイはそれこそ重要な問題なのだろうが、クラウドがこのありさまでは旅を続けられるかどうかも分からない。・・・むしろ、旅の再開など不可能に思える。
「連中に、クラウドさんの行程を教えてたんも、ボクなんですわ・・・」
「そっかー・・・・・・だから、待ち伏せかぁ・・・」
「それが、こんなことに・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「ユフィさん・・・・・・ボク、これほど後悔したん、初めてや・・・」
「・・・・・・・・・」
「何で・・・何で、タークス呼んでしもたんやろか・・・」
「後悔先に立たずってやつだねぇー・・・・・・」
「どないしよ・・・・・・ほんま、クラウドさんもイリーナさんも・・・ホンマどないしよ・・・」
「クラウド・・・・・・目覚めたら、元に戻ってないかなー・・・」
「・・・ボク、ティファさんとエアリスさんに説明すんの、ごっつイヤや・・・」
「あー・・・・・・短い命だったなー・・・」
「ボク、きっとバラバラにされるんやろなー・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
再び沈黙が部屋を支配する。ときたまベッドのクラウドがうめき、イリーナの名を呼ぶ。2人はそのたびに、いるかどうか分からない神さまに「クラウドが元に戻りますように」と祈った。
* * * * *
結論から言うと、クラウドとイリーナが元に戻ることは無かった。
その後のクラウドたちの旅がいかなるものだったか詳しくは語らないが、2人の愛の力で神羅を改心させ、ウェポンを手懐け、セフィロスを倒し、メテオをカチ割り、誰一人仲間が欠けることなく世界に平和が訪れたことだけは記しておく。
〈おわり〉
〈おまけ〉
私はリーブ統括。神羅カンパニー最後の良心と部下に慕われ、みんなにヒミツのちょっとした力を持っていたりするナイスミドルさ。
今日も今日とて、ミッドガル市民のために奔走する。
「リーブ統括!」
廊下で声をかけられた。まあ、こう見えても忙しい身だからね、自分のデスクにいることはほとんど無いんだよ。だから、誰かしらに用事を伝えられるのはたいてい廊下なんだ。
「どうかしましたか?」
どうだい、渋い声だろう?自慢の声さ。そうして私は振りかえっ「ブフォォッ!!」
「と、統括!!いったいどうされたんですか!?」
や、やめてくれ!!その顔を近づけないでくれたまえ!!
「あなたは働きすぎなんです。少しは休まれたほうが・・・」
「い、いいんだよツォン、君。わた、しはこの仕ブォッフォッ!!」
だ、だめだ!!どうしても想像してしまう!!
「と、統括!やはり体調が・・・!!」
「そ、そうみたいだね、少し、じブィッフォッブファッ!!」
至近距離で見るこの破壊力!!アカン、アレ押したい!!ごっつアレ押したい!!
「統括がこれ以上お体を悪くされては、神羅が倒れてしまいます。あなたは神羅の屋台骨なのですから・・・・・・」
「グフォッヒューッ!!い、いや、一人でだいじょブヒョフィブッフォーッ!!」
メーデー!!メーデー!!やっぱりダメだ!!誰かコイツを遠ざけてくれぇぇぇ・・・
「いけない!!統括!!誰か!!メディック!!メディーーーック!!」
〈ほんとにおわり〉