最初に
森奈津子の短編「哀愁の女主人、情熱の女奴隷」とのクロスです。ご存知ない方は、ドMのバイセクシュアルセクサロイドを召喚したと思っていただければいいと思います。よって下ネタなセリフが多いです。下品です。
その瞬間、ヴァリエール公爵令嬢であるルイズ・フランソワーズの、やっと、やっと……成功した……成功したわっ! という喜びと希望の気持は、あっという間にしぼんでしまった。
幾度も失敗し、それでも希望を捨てず頑張った結果であるところの召喚の扉を抜けて現れたのは、確かに、そのう、美人ではあるけれど、メイド服を着た女性だったのだ。
年の頃は長姉エレオノールと同じくらいだろうか、にっくきツェルプストーに勝るとも劣らない燃えるような赤毛に、潤んでいるようなエメラルドの瞳。ぽってりとした肉感的な唇。全体としてのイメージはまさしく蠱惑的。本来実用的でつつましいばかりのメイド服が、逆に背徳的な魅力をビシバシと放っている。
そりゃもう、メイドとしては無駄に色気を振りまきすぎているのではないかと小一時間。
しかも無駄肉がたっぷりと胸部分についている、憎い。
「あら、ここはどちらなのでしょうか? わたくしご主人様とお嬢様のためにお茶をいれておりましたところですのに」
予想通り声もしゃべりもどことなく甘ったるく耳に残る。ルイズ的に嫌な感じだ。これなら冴えない外見の無礼で失礼で生意気な青年の方が、まだ我慢できる気がする。
セリフ通り、手にポットを持っている。どうやら自分はどこかの屋敷のメイドを召喚してしまった……らしい。茶器もメイドの服も上質なのは救いになりえるのだろうか。おそらくならない。
ある意味今の状況は、名家のメイドを無理やり拉致したといっても過言ではない。
もちろん不可抗力ではあるし、ルイズの実家の力からすれば円満に勤め口を変えてもらってあっさり解決……の可能性が高いが、悪くすればガリアやアルビオン貴族のメイドという可能性もある、楽観視はできない。
それにしても。
ゼロのルイズが平民のメイドを召喚したぞーとか言いたいだけ言えばいい。それよりもなお、ルイズの心を黒く黒くドス黒く染めるモノ。男どもの理想を形にしたぼよんきゅっふるんの曲線体型。
たゆんとメイドの無駄肉がゆれた、憎い。
「ミ、ミス・ヴァリエール……とんでもないことですぞ?」
「平民のメイドを召喚したことがですか?」
「何を言っているのだね? あのメイドは人間ではない」
「?!」
これがいつも真面目なミスタ・コルベールでなければ、気が狂ったのかと思うところである。
色白だが血色のいい肌、金色に輝く産毛。きちんとしつけられたメイドの無駄もそつもない動き、活き活きとした瞳、表情、先ほどのセリフ、人間のメイド以外の何物でもない頭が薄さむい教師はいったい何を言っているのだろうか。
「なんという、なんという精密なゴーレム。こんな完璧で素晴らしいものがこの世に存在したとは! 噂に聞くスキルニル? いや違う!」
ゴーレム?!
いつの間にかメイドに、にじりよっている教師を押しのけてルイズはとまどった表情のまま立ちつくしているメイドに近寄った。
「ちょっと、あなたゴーレムなの?」
「ゴーレムとは何でしょうお嬢様。わたくしはセクサロイドでございます。前のご主人様に頂いた名はハンナ。もちろん家事用アンドロイドとしても最低限の性能は有しておりますけど、本来の使用用途はセックスでございまして、自慢ではございませんがわたくし、三度の飯よりもセックスが好……」
「黙れ!!」
発作的にルイズはハンナと名乗ったメイドゴーレムの頭を手ではたいた。
「やあああっん」
語尾にハートマークすらつけそうな勢いで、ハンナがわざとらしく地面に転がる。ご丁寧にスカートの中身が見えるように気を遣った動きで。深い紺色のロングスカートが太ももまでめくれ、フリフリの白いペチコートと、黒いストッキングとガーターベルトがのぞく。
無駄に観衆にどよめきがあがり、男どもの熱い視線が一定部分に注がれる。ツェルプストーの口が「できる……」という形で動いたような気がしたが、ルイズは見間違いだと結論づけた。それよりコレだ。
「ちょっ、あのっ、わたしそんなに強く叩いてな……っ」
あわてて手を差し出して引き起こすべきかどうか悩むルイズは、メイドの表情を見て固まった。
期待している。
ものすごく期待している。
もちろん、助け起こされることを期待しているのではない。ルイズが「追い打ちをかけること」を期待して、瞳をうるませ、頬を染めて待っているのだ。右の頬を打たれたら、すぐさま嬉々として左の頬を差し出したあげく、足蹴にしやすいように地面にはいつくばる勢いで。
ごくり、と生唾を飲み込む。
そういった趣味のものがいるとはどうでもいい知識の中で知らないこともなかった、だが目の当たりにするのはもちろん初めてだ。
真性の被虐趣味。
別世界ではドMと称される性癖である。
われ知らずガタガタ震えながら、公爵令嬢は一歩二歩と後ずさった。できうることならこの場から走って逃げたいがそういうわけにもいかない。
「なんという精緻なゴーレム、まことに素晴らしい。さ、ミス・ヴァリエール、コントラクト・サーヴァントを」
「嫌です」
そんなことは端から無理だったのだが、ルイズは叫ばずにはいられなかった。
結果、ルイズは口の中に舌を入れられて泣きながらひっぱたくことになった。
しかも、またご丁寧に「わたくしのご奉仕では満足いただけないのですかっ?! わたくしは最高品質のオーダーメイドセクサロイド、舌技にも自信がございますわ」と、わけのわからないことを言い出す始末。
さらに使い魔のルーンが刻まれる時には、恍惚として舌を突き出しよだれを垂らしていた。怖い。
胸元をつかんで、ここが苦しい痛いんですの、ああっと、悶え苦しみながら、右手を股間にやろうとするので、慌てて止めた。「寸止めプレイご褒美です!!」と、叫ばれたのは記憶から抹消したい。
苦痛イコール快感、ドM特化型フルオーダーセクサロイド(メイドは前々主人の趣味です)、それがルイズの使い魔ハンナの正体である。
そんなこんなで、脱力したり呆れたり泣きたくなったり家に帰りたくなったり空を飛びたくなったりしながら、ハンナから彼女自身の話を聞き出したのは深夜を過ぎてからだった。
椅子が少ないからベッドの端に座ったのに、いきなり押し倒しに来たのは、漂泊したい思い出である。「大丈夫、怖いことなどありませんわ。激しくしてくださいませ……ロウソクでもムチでも、わたくしそれが嬉しい……」とか、色々と間違っている。
「ふーん、じゃあ、あんたは別の世界から来たのねーあははーうふふーそりゃあ、別世界ならこんな無駄にすごいゴーレムもいるわよねーうふふー生き物でもないのに、ルーンとか付いちゃうスキルニルよりすごーい」
カクンカクンと首を振りながら光のない目でルイズは呟くように言った。
今までの色々に比べたら異世界製とかもうどうでもいいことな気がする。ハンナは、そちらの世界に主人が居て、帰りたいらしいのだが。悲しいかな、使い魔を送り返す術などルイズは知らない。
「ルイズお嬢様は、わたくしの新しいご主人様に似ていらっしゃいます。その思いつめた光のない瞳。ご主人様もいつもお疲れでいらっしゃいました……」
「あんたが疲れさせてるのよ、ああもう、そのご主人様とやらの気持がよくわかるわ」
しばらくして、ハンナはやけに色っぽいため息をついた。本当にお前ゴーレムか。
「あの、景気づけにわたくしのオナニーご覧になりません?」
「そんなこと明るい声で言わないでよっ! そもそも何の景気づけなのよっ?!」
「わかりあうにはわたくしの一番得意なことをお見せするべきかと……ああ」
こほんと小さな咳払いをする。
「あの、ルイズお嬢様、できればわたくし自慰行為をいたしますのでそのまま放置プレイしていただけませんか……」
「しないわよっ! しないってんのよ、放置プププレイとかっ!!」
「では打擲してくださいませ。そのぷるぷると震えるしなりの効いた美しい御手で、さあ早くっわたくしを折檻して、ボロボロにして、異世界ですのでメンテもできないわたくしをめちゃめちゃにして、そしてボロクズのように捨ててくださいませっ! そして泣いて足にとりすがるわたくしを、「この淫乱スクラップめが」とおっしゃりながら殴る蹴るの暴行を加え、ついには魔法でちろちろと炎の熱を与えながらじりじりとわたくしの秘所を……」
「しないっ言ってんのよ、この変態ゴーレムがっ!!」
パンッ
ルイズは思わず、本当に思わず、ハンナを叩いていた。
セクサロイドは頬を押さえ、わなわなと震える唇を開く。
「いいっ!」
「………………」
その沈黙をどうとったのか
「すごくいいっ!!」
そんな ほめことば は いら ない。
「………………」
無言でルイズは崩れ落ちた。
「思わず興奮して、はしたない口調になってしまいました。でも、さすがルイズお嬢様、わたくしイッてしまいそうです!」
「イかないでよ……頼むからイかないでよぉ……ちぃねえさまぁ……もうやだぁぁあ、おうちかえるぅう……」
「泣かないでくださいませルイズお嬢様、帰る手段がない以上わたくしはいましばらくルイズお嬢様の物でございます。もしこの身が故障し再起動できない事があろうとも、お怨みすることなどありませんわ。世界を超えた放置プレイ、魔法に身体をいぢられ、場合によっては破壊されるなど、マゾヒスト型セクサロイドには望むべくもない最高のご褒美ですもの。聞けば電撃の魔法もあるとか、それによってどんな快楽がわたくしを……」
ただ床に転がり、慰めているつもりだろうハンナの言葉を黙って聞きながらルイズは思った。
そうだ、どんなに変態でアレな使い魔でも自分の使い魔なのだ。
どことも知れぬメイジの研究対象にさせて黙って破壊させることなどできはしない。ヴァリエール公爵令嬢の精神衛生とプライドのために、傷一つなく元の主人の所へ叩き返すのだ。
だって、目の前のセクサロイドゴーレムは、ぽろりぽろりと涙をこぼしている。
「夜のご奉仕をせずとも受け入れてくださったのは、ご主人様だけでした」
よかったわねとかそうなのとか意味のない単語の羅列をルイズはなんとなく呟きながら、こんな変態を受け入れるとかどんだけ大物なんだよご主人様、などと心の中で突っ込んでいた。
「はふぅ、泣いたらわたくし……もう……こんなに濡れております」
スカートの裾をゆっくりと上にずらし始める。
「セリフと行為が繋がってないしっ!」
「わかっておりますわ、ルイズお嬢様のお心。ここにあるムチとく・び・わ。素敵にマッチする趣味でございます」
何にとは聞くまでもない。
「ルイズお嬢様とのSMレズプレイ、このハンナ全身全霊で受け止めさせていただきます。もうびしょびしょですわ……さあ、一緒にめくるめく快楽の園へ飛び立ちましょう!」
「飛び立たない、飛び立たないからッ! 飛ぶのは鳥だけだからッ! わたしレビテーションできないからっ?」
叫んでいるルイズも、わけがわからない。
「そこの杖でわたくしのアヌスをお攻めになっても」
「お攻めになるじゃないわよーっ! 顔赤くすんじゃないわよーっ!」
床をごろごろしながら、涙目でバンバン叩くお嬢様、不幸である。
「わたくし床が羨ましい……ああ、一度でいいからルイズお嬢様の平手打ちを連続して味わいたい……」
返す、絶対に元の世界に叩き返す。
モチベーションをガンガンあげながら精神的に屍になりつつルイズお嬢様は決心した。
つづかない
ハンナの揉みスキルでルイズの胸が大きくなるかも?! という嘘次回は考えた。