※毎回毎回懲りないオリ設定です
※『こんなん○×じゃねーんだよ! バーカ、バーカ!』とか『え? ○×のアレって△□じゃなかったっけ』な事になってるやもです。注意
※『俺の思い出穢すんじゃねぇよこのクソ野郎!』と言われかねんネタ多少混じってます。ご容赦ください。
※ショートランドの提督の方、ホントに同じ名前の方がいた場合ごめんなさい。狙った訳ではないんです。偶然です。
※今回そんなにグロ表現ありませんっぽい?
※甘味とは、悲劇でしかないのか
発:帝国海軍&帝国陸軍大本営
宛:Team艦娘TYPE
艦娘式戦闘艦の改二型への要望:
(※翻訳鎮守府注釈:『』内の文は、何者かが書き加えた走り書き)
帝国海軍ならびに陸軍は、Team艦娘TYPEの進める艦娘式戦闘艦の改二型改造計画について、以下の機能を実装する事を強く要求するものである。
・超展開持続時間の大幅な延長。具体的には戦闘稼働状態の睦月型駆逐艦で最低24時間、金剛型戦艦で一週間以上。
『どっちも過労で死ぬ』『バリキ系の薬と自動点てきシステムと冷却系再チェック』『紙オムツ』
・電子・誘導など各種現代兵器およびイージス級迎撃システムの実装
『済。後付オプションのカタログ有り』
・上陸能力、ならびに陸上戦闘能力と陸専用艤装の実装。
『軽空母の足回りの応用?』『オカルト係数かなり高める?』
・完全無人運用システム、および艦娘状態での弾薬補給機能の実装。
『それ最初に禁止したのオメーらだろーが!!』
・圧縮保存(艦娘)時の、各種偽装の完全格納(外見上、完全普通の婦女子のままである事が望ましい。間違ってもお宅の『プロトタイプ間宮』の様にドリルなど付けないように)
『クソが!』
・圧縮保存状態からの一足飛びでの昇華的な超展開実行機能
『? 後で再確認』
・索敵系の高性能・精密化。具体的には瓦礫の向こう側からでも個人認証が可能なレベル。距離は最低500メートルを維持できれば詳細不問。
『可能。艤装課で問合せ』
・対核爆撃モードの搭載(予想されうる核兵器の威力詳細については別紙参照)
――――――――処分待ちの機密文書より
戦艦『武蔵』発見さる。
その一報が南方海域の各戦線に伝わった時、全世界最速の反応を示した部隊がいた。
大本営付きの参謀軍団ではない。第一発見者のブインの井戸少佐でもない。どこかの艦隊の島風でもないし、己の片腕ともいえる伊58の弔い合戦のため、伊8号に使ってはいけない弾頭兵器を搭載し、深く静かにリコリス飛行場基地へと潜航しているショートランド泊地第七艦隊の提督でもない。
「武蔵、待ってろよー!!」
ショートランド泊地の第八艦隊総司令官、佐々木提督と彼の麾下艦隊の艦娘達である。
『武蔵ー、待ってろやニャー。今迎えに行くからニャー!』
現在の佐々木提督は、彼の艦隊総旗艦である艦娘式球磨型軽巡洋艦2番艦『多摩』(解凍・展開済)に乗って、最大戦速でリコリス飛行場基地へと一直線に向かっていた。
正式な作戦行動ではない。戦艦『武蔵』がそこにあると聞いて、彼らはいてもたってもいられなくなってしまったからだ。
『提督見えたニャ、リコリス飛行場基地ニャ! ものすごい数の深海魚共ニャ!!』
「索敵! 武蔵ー! どこだー!?」
何故だ、と問われても答えようがない。当時(無断で)出撃した佐々木提督および多摩、金剛改二の3人に聞いてみれば『何でなんだと聞かれたら……』『ニャーのゴーストがそうしろと囁いたからだと答えてあげるが世の情けニャー』『ソーナンデス!』と実に意味不明な供述を返してくれた。
至近弾の雨あられの中を巧みにすり抜ける多摩の索敵系に反応があった。
『ニャ!? て、提督! PRBRデバイスにhitニャ! 数1、至近!!』
『ソーナンデース!!』
その警告を言い切るが早いか、軽巡『多摩』の直前に巨大な水柱が立つ。脅威ライブラリにhit。最新のデータ。帝国海軍呼称『ダークスティール』通称、ダ号目標。
深海凄艦のお家芸。衛星搭載のPRBRデバイスでも検出不可能な変温層の下側からの超急速垂直浮上。ダ号目標のステルス性能も相まって、察知は致命的に間に合わなかった。
「た、多摩取り舵一杯!!」
『もうやってるにょ!!』
ダ号目標が拳を握る。下手に弧を描くように大きく振りかぶる。
「『げッ!!』」
『デース』
海面をカチ割って振り抜かれたダ号目標のアッパーカットは、何の抵抗も無く軽巡『多摩』の竜骨をヘの字に叩き折り、天高くに打ち上げた。
艦体を破壊され、各システム系が断末摩のエラーを吐いて機能不全に陥った多摩が物理的・電子的に死ぬよりもずっと早く、補助席に座っていた金剛改二が緊急脱出レバー(佐々木スペシャル)を引いた。
直後、軽巡『多摩』が実行中だった全てのプロセスが強制終了。その上で圧縮保存(艦娘)状態への移行作業が強制的に実行される。
同時にバラ撒かれた電磁煙幕と熱チャフの目隠しの煙を貫いて、緊急脱出装置(※4人乗り用のタンデム自転車。ロケットブースター付き)に乗った佐々木提督と金剛改二、そして艦娘状態の軽巡『多摩』が天高くに打ち上げられていった。3人しかいないのに4人乗りなのは、恐らく未だ見ぬ戦艦『武蔵』のための配慮か。
「た、多摩! 大丈夫かー!?」
『ニャー! さっき基地の青葉にデータ送っといたから、事後申請で強行偵察任務扱いにすれば独断専行はお咎めなしだニャー!!』
よくやったー! と叫びつつ脱出装置(4人乗り自転車)のペダルを必死になってこぐ佐々木提督と多摩と金剛改二。既にロケットブースターは点火しており、おまけにここは空中なのでペダルをこぐ意味など何一つ有りはしないのだが、それは言わぬが花というやつだろう。
それでは皆さんご一緒に。
「『や、嫌な感じいいいぃぃぃ~!!!』」
『ソォォォナンデェェェス!!』
負け犬の遠吠えとも断末摩ともとれる、何とも判断に困る叫び声をドップラーシフトさせつつ、佐々木提督達は自転車をこぎつつ空の彼方へと飛んで行った。
水平線の向こう側から上り始めた朝日の光を反射して、一度だけきらりと眩しく輝いた。
ちょうどその時、ブイン基地所属第202艦隊の電は、目覚まし時計の音と共に先に目を覚ました。
「う~、起きるなのです……」
寝ぼけ眼のまま、金剛不在の空虚感からくる悲しさに負けて、金剛さんの巫女服(モドキ)を着せた抱き枕に抱き付いてエビぞりの姿勢のままグースカピーといびきをかいて惰眠を貪る水野中佐の寝る掛け布団の中からもぞもぞと脱出し、半分寝ボケたまま寝間着をポイポイと部屋の片隅の脱衣籠の中に放り込み、共通ロッカーの中にハンガー掛けしてあった、普段着(代わりのセーラー服)に袖を通し、魚河岸のおっちゃん達が普段の仕事で使っていそうな青くて丈夫なゴム製の全身エプロンを掛けて紐を一度腰の前に回してから固く縛り、やはり分厚いゴム手袋と市販品の使い捨て花粉マスクを被って、左手に業務用ゴミ袋、右手に青メッキの火箸を掴んで準備は完了だ。
ここで、寝ボケきっていた202の電の目が覚め始める。
水野少佐の寝てるキングサイズのダブルベッドの周囲に、使用済みのティッシュやら近藤さんやらが全く散らばっていない。
「……?」
いつもなら、水野少佐と金剛さんの夜戦の結果生じたティッシュやら近藤さんやら汚れきったシーツやらで据えたような臭いと惨状なのだが、これはどういう事なのだろう。
というか、自分は何で水野少佐と同じ布団の中で寝ていたのだろうか。
「……!」
ここで、ようやく202の電の目が完全に覚める。
そうだ。そうなのです。金剛さんはいないのです。今日も朝のお勤めをしなくていいのです!
そこまで考えが及んだ202の電は、お掃除おばさんの格好のままブイン基地(という名のプレハブ小屋)の屋根の上まで一気に駆け上がり、水平線の先から上り始めた太陽に向かって全身を大きくそらし、両腕をYの字になるように伸ばした。
元旦初日の出と同時に洗ったばかりのパンツに履き替えた時の様な清々しい歓喜と共に叫ぶ。
「太陽万歳! なのです!!」
真面目に考えると、艦娘って人の形をした戦略兵器じゃね? そんな考えでこの艦これSSは成り立ったってたり成り立ってなかったりします。が、そんな事よりも梅雨になりました今日この頃、皆様湿気と食パンのカビに負けずにいかがお過ごしでしょうか。雨やら湿気やらで不快指数がテンションアゲアゲな事になりつつあるので今回は何も考えずにカラカラに乾いた除湿使用の純粋なギャグ仕立てでお送りします。無理でした。記念の艦これSS
『嗚呼、栄光のブイン基地 ~ ラスト・リゾート』
ちょうどその時、第203艦隊の頼れる勲章持ちである古鷹は心底幸せそうな顔をして、タオルケットの中で胎児のように体を丸めて眠っていた。
「すぅ……すぅ……」
全力で就寝中である。そっとしておいてあげよう。
ちょうどその時、基地司令代理の漣は、1人通信室に呼び出されていた。
本土企業との密輸の件である。
『――――以上だ。間違いは無いかね?』
そこまで聞いた漣は、悟られぬように呼吸の回数を早めて血中の酸素分圧を一時的に高圧状態にして意図的な指先の震えや顔面蒼白を演出し、さらには眩暈によって後ろにふらつき、壁に飾ってあった、とても良いあの壺(基地司令の密輸入品その3)を肘で引っかけて床に落として盛大に割った。
「そ、そんな……! 何かの間違いです!! あの清廉潔白、品行方正、正々堂々のご主人様がみ、密輸だなんて……うぅ、うわああぁぁぁぁん!!」
そして両手で顔を覆って盛大に泣き出した。
「うええぇぇぇん……! ご、ご主人様がそんなに追い詰められでるなんで知らながっだっんでずぅぅぅ……ぞんな事にも気付かながっだ漣は悪い子なんでずぅ! 死んでお詫びじまずぅ、ぶええぇぇぇん……!!」
そう言って、背後に隠し持っていた連装砲を口に咥え、トリガーの遊びを限界ギリギリまで引き絞る。
それに慌てた画面の向こうの面々が慌てだす。
『あ、い、いや。お、落ち着きたまえ。確かに少しきつく言いすぎたかもしれんが落ち着きたまえ! 悪いのは君ではなくて君の上司だろう――――』
(クソが! どこだ、どこで情報が漏れた!? だけど大丈夫。筆跡だって川尻康作も思わずスイッチ押して逃げ出すくらいに練習したからまだ私だとは気付かれてない。二重帳簿の方もまだバレてない。あとは、あとは全部ご主人様に罪をおっ被せれば……! あ、意識を取り戻した時の為に生コンとドラム缶も用意しとかなきゃ)
この基地司令にしてこの秘書艦である。
「電ちゃんごめんねー。せっかくのお休みなのに」
「いえ、気にしないでください」
その日の朝。第203艦隊の那珂ちゃんと電(202)という珍しい組み合わせは荷物を運んでいた。中身はブイン島の子供達を対象としたお遊戯会――――帝国海軍公認の立派な宣撫活動で、那珂ちゃんの本職だ――――に使う絵本や木製オルガンなどである。
「それにしても那珂さんは本当にすごいなのです。塩味のする紙クズになってた絵本を、たったお一人で全部修復してしまうなんて、本当にすごいのです!」
事実である。
今日この日のために用意された絵本は全て、いつぞやに沈没したタンカーの中から引き揚げられた物である。ついでに言えば他の回収された書籍の類の修復も全てこの那珂ちゃんが済ませており、どれもこれも何の問題も無く中身が読める。コイツ今すぐ軍隊クビになっても遺跡とか古書の修復とかで食っていけるんじゃ那珂ろうか。
(※翻訳鎮守府注釈:実際そういうオファーは、ここの那珂ちゃん宛にチラホラ来ています)
「えへへー、ありがとね。那珂ちゃんは、っていうか那珂ちゃん達は艦隊のアイドルだからね。いろいろ出来なきゃいけないんだよ。他の工場で生産された那珂ちゃん達はどうか知らないけど、私がいた工場では、出荷前の最終検品代わりにいろいろと教えられたんだよ」
――――那珂ちゃんスマイル~!
――――ふざけるな! 大声出せ! タマ落としたか!? 両手両足の鉄球2kg追加だ!!
那珂ちゃんの脳裏にフラッシュバックする光景。
――――も、もう駄目……
――――死ぬか!? 俺のせいで死ぬか!? とっとと死ね! 負傷した戦友(という設定の砂袋60kg)背負って砂浜10キロも走れんようなクズは死ね!!
「あ、あの。那珂さん? 大丈夫なのですか? ちょっと顔色悪いような」
「あ、あはは~。大丈夫ダイジョウブ。ナカチャンツヨイコマケナイコダヨー」
――――また貴様か微笑みアイドル!
――――何で俺が一度実演した事が出来ない!! それのどこがフレディ流マイクスタンド杖術だ!? あ!?
――――エニグマ暗号で書かれた徒然草(古代ラテン語版)くらい5秒で読め! 太平洋行く前に戦争終わっちまうぞ、アホ!
――――リ級のケツにドタマ突っ込んで死ね!
――――連帯責任だ。ドーナツ喰ってた微笑みアイドル以外の那珂ちゃんその場で腕立て、初め! 1、2、3、4! I LOVE 那珂、ちゃん!!
「ア、アイエェェ……」
「な、那珂さん!? ホントに大丈夫なのですか!? 生まれたての小鹿だってもっと慎ましやかに震えますよ!? イニストラードの没落吸血鬼だってもっと健康そうな顔色してますよ!?」
「アイエエェェェ……」
それでも荷物は揺れたり崩れたりしていないのだから、那珂ちゃんは本当に出来る娘である。
その時、203の井戸少佐と202の水野中佐と201のメナイ少佐は畑でイモを収穫していた。
「「「誰か手伝えー!!」」」
本日のブイン島周辺は晴れ。風も無く、雲一つない快晴が翌日まで続くためお洗濯には最適な一日でしょう。外出の際には脱水症状や熱中症にお気を付けください。
「はぁ~、今日はええ天気やなぁ」
その日の昼前、ブイン基地所属第202艦隊の所属“だった”龍驤は、リコリス飛行場基地の端っこのコンクリート製の護岸に腰掛け、波打ち際で足をちゃぷちゃぷさせながら艦載機を磨いていた。
ちゃぷちゃぷと書けば可愛らしいが、現在の龍驤は軽空母としてのサイズと重量の持ち主である。むしろざぶざぶどばーに近いし、手に持って磨いているそれが本当に艦載『機』なのかは少々疑わしいが、兎に角龍驤はそれを己の艦載機として扱っていた。
ついでに言っておくと、現在の龍驤は軽母ヌ級の上顎を反対側まで倒し、完全に開ききった口の中から彼女の上半身が生えている状態である。
おててが4本なのである。
にも関わらず、龍驤は実に器用な事に4本の腕を動かして艦載機――――ブイン基地などの南方戦線では、超音速機と呼ばれている例の飛行小型種だ――――を右手一本で固定し、もう一つの右手で研磨剤入りの缶を纏めて握りつぶし、左手に握ったちょっと高級そうな布(※リコリス基地司令室から引き千切ったカーテン)に塗ったくってせっせと磨いている。
すでに、巨大で分厚い布地のカーテンをちょうどいい布代わりにしている事にも、かつての敵だった飛行小型種を己の愛機として認識している事にも、龍驤は違和感を感じていない。
「もー。姫さん、補充の子用意する言うて全然来ぃひんやんか、もー。こーなったら来るはずだった子の分まで君を磨……お?」
「ュゥ、ジョゥ……」
不意に、龍驤の頭上に影が差した。
軽空母としての龍驤ですら子供に見える巨大な体躯、白く長い髪と同色の皮膚、頭部から伸びた髪飾りとも耳っぽい角ともとれる奇妙な石質状の黒い突起物、黒で統一されたボディスーツと腰止め式マント、両端を切り詰めたカヌーような下半身と、背中に担いだ己の身長にも匹敵するほど長大な砲身。そして、横一文字に切り裂かれたかのような喉首の傷跡。
もしもあなたが第11次O.N.I.殲滅作戦(シナリオ11)に参加していた将兵であるならば、この個体に心当たりがあるだろう。
合衆国の空・海軍の全力出撃を10度も跳ね返し、成功を迎えた11度目ですら、この個体のためだけに核の集中運用が大真面目に検討された、深海凄艦側勢力の切り札的存在。
合衆国での識別コード『ONI』
帝国海軍上層部では深海凄艦側の重要拠点(というかハワイ諸島)の防衛以外ではその存在が確認されていない事から、イロハコードを付けられずに『泊地凄鬼』あるいは単に『鬼』と呼ばれる存在。
「お、鬼さんやないの。どしたん?」
だというのに、この龍驤はごく普通に話しかけている。
「……ィメ、サガィテタ」
引きつったような、しわがれた小さな声がその鬼の口から漏れる。かつて龍驤が本人から聞いた話によれば、あの島々(ハワイ)で最後に交戦した、全身から砲を生やし、刀を持った双子の艦娘に首を切り裂かれた時の後遺症なのだという。辛うじて即死は避けたが、その後遺症として上手く喋れなくなってしまったとの事。
双子で刀を持っていたという事は、恐らくは『伊勢』と『日向』の事だろう。どこの所属かはわからないが。ただ、合衆国の独力で遂行されたはずのシナリオ11に艦娘が参加していたなど龍驤は知らなかったが、まぁ、政治的にいろいろあったんだろうという事で龍驤は結論を出していた。
「姫さんが?」
鬼が無言で頷く。
「分かった。ほな行こか。ごめんなー。この話終わったらピッカピカに磨いたるからなー」
自分の上半身が生えているのと同じヌ級の口の中に優しく置いた超音速機から期待的な概念が帰って来たのを確認した龍驤は、差し出された泊地凄鬼の手を取って曳航されて行った。戦闘稼働中の龍驤1人ならともかく、泊地凄鬼は上陸能力(ていうか足)が無いので、すぐそこに見える建物へと行こうにも、一々大回りをしないといけないからだ。
「んあ、そういえば鬼さん。灰羽語は使ってへんの? 折角教えたんに」
「……ォド、ッァワナィト、ァスレル」
龍驤の言う灰羽語とは、今はもう滅んだ、とある地方部族が異民族との取引の際に使っていた手話の一種だ。
「そっかー。リハビリみたいなもんかー。……ひょっとして、ウチ、いらん世話やったかな?」
「……No, ォテモ、ァクダッテル」
泊地凄鬼は思う。この間の潜水艦娘の大爆発(※自爆という概念が無い)によって、ようやくマトモな数が揃った精鋭部隊の大半が再起不能になったのがとても痛い。生き残った連中の大半が憎しみの力を増して、より強力な存在へと変質したのはいいが、それでも喋れるほどに強力な連中が軒並み死んだのは甚大すぎる被害だ。
だが、
だがそこで、このリュウジョウとかいう、何だかよく分からない変なの(※翻訳鎮守府注釈:艦娘でもあり同族でもあるとも本能が認識しているため、混乱しています)から教えてもらった手話は非常に役立っている。直接見ていないと役に立たないが、それでも簡単に意思の疎通ができるようになったのだ。
待て、伏せ、行け、回り込め、集まれ、身を隠せ、ドーモ艦娘=サン。
たったこれだけを覚えただけでもこちらが取れる選択肢が爆発的に増えたのだ。要らん戦闘は避ける事が出来るようになったから余計な損害は減ったし、戦力の増強・集結も容易になった。現に、あの潜水艦娘がやってくるまで我々の存在は露見しなかったわけだし。
それに――――
「あ、あかん鬼さん。衛星や」
龍驤の言葉に連れられて、泊地凄鬼も天を見上げる。
有り得ない速度で移動する昼間の星が映っていた。
「……ィラレタ?」
「多分なー。今までは上手い事隠れられたけど、もうそろそろ無理とちゃうん?」
――――それに、この変なのが仲間になってから、人間共の千里眼の正体と欠点が判明した。対策も容易だった。もう、不意打ちも各個撃破も許さない。
「? 鬼さん、何かいい事あったん?」
「……ァネ。ュゥ、ジョウ、ノ、ォカゲ」
「そっかー。ありがとうなー。皆の役に立ったら、水野少佐も褒めてくれるかなー」
鬼さんこと泊地凄鬼に手を曳かれ、龍驤は海の上を進む。
ちょうどその時、第203艦隊の頼れる勲章持ちである古鷹は心底幸せそうな顔をして、タオルケットを蹴っ飛ばして崩れた大の字になって眠っていた。金属と機械とごくわずかな人工皮膚によって構成された右腕は、窓から差し込む赤道付近の直射日光によって殺人的に加熱されていた。
「ん、ぅう……」
古鷹が寝返りをうつ。枕代わりに差し込んだ右腕が頬にべったりと触れる。
ちょうどその時、如月と大潮――――もちろん、戦闘艦本来の姿に解凍・展開済みだ――――は海に出ていた。日課の定期掃海任務である。
【如月ちゃーん! 爆雷まだ残ってる?】
【ごめんなさい。今投げたので最後ですわ】
シーレーン維持のため、小規模な深海凄艦の発生源を虱潰しに見つけては、大きくなる前に爆雷をしこたま放り込んで潰していたのだ。
【昨日と今日だけで3つも巣穴があるなんて……】
如月の戸惑い混じりの呟きも当然である。
今までは月に1個有るか無いかという頻度だったのに、ダ号目標の襲撃以降、巣穴発生の頻度が増してきているのだった。それも日増しに。
おまけに、
【MidnightEye-01よりFleet203大潮。MidnightEye-01より203大潮。PRBRデバイスの索敵範囲内に感無し……だと思う。クソ、ここ最近機材の調子がおかしい】
【Fleet203, 大潮です。やはりそちらも……?】
【ああ、そうだ。小さいとはいえ、ここんとこずっと、どこをどう飛んでも検出波が出てやがる。どうなってんだ……? まるで、蜃気楼で出来たグランドクラッターでも見てるみたいだ】
困惑混じりにMidnightEye-01が――――艦娘達のPRBRデバイスが原因不明の不調に見舞われていたために、用心として出撃してくれた――――上空を旋回して警戒していた。
【Fleet203, 如月ですわ。大潮ちゃん、私は撤退を進言するわ】
【MidnightEye-01より203大潮。現在、上空に機影無し。そっちは保証する。どうする、現場指揮官はお前だ】
【……】
大潮は手持ちの弾薬と状況を見比べて考える。
現在地はちょうど定期哨戒ルートの折り返し地点。手持ちの弾薬は爆雷が空になった以外はすべて手付かず。ただ、魚雷はひとつ前の巣穴を潰す際に使った(※時限信管付きで真上から落とした)のでもう自分にも如月ちゃんにも残ってない。ついでに言うと弾薬は手付かずというが、実際には最大搭載量の7割かそこらだし、積んである武装も海賊艇殲滅用の12.7ミリ重機関砲と、弾薬庫が空っぽの主砲だけというのだから笑えない。
仮に、今ここで敵部隊と遭遇・戦闘になった場合、駆逐や軽巡程度の中型種ならどうにでもなるが、それ以上の大型種との戦闘となると、魚雷が無ければ話にならない。ジャイアントキリングは魚雷の大火力があってこその話だ。そこだけは弁えなければ。
【……203大潮です。これよりブイン混成定期掃海艦隊は基地に帰投します。移動中に巣穴を発見した場合は、座標と規模のマーキングをして、午後の再出撃の際に潰します】
【如月、了解しましたわ】
【MidnightEye-01了解】
大海原を行く2隻の駆逐艦が残す航跡がUの字を描き始める。それに先駆けて、上空高くをお皿が飛んで行く。
MidnightEyeの機体は、それの数倍の直径を誇る大きな丸皿状のレドームに隠されて全然見えなかった。
その日の正午、203艦隊の頼れる勲章持ちである古鷹は、もの凄い仏頂面でラヂヲを聞きながら己の右腕のメンテナンスを行っていた。右の頬には大きくブツ切りにされたアロエの果肉がガーゼとテープで張り付けられていた。
メンテナンス。
といっても艦娘状態での自己メンテなどタカが知れている。大抵は艦娘状態で入渠するなり、戦闘艦の姿のまま、発泡するクリーム色の粘液こと高速修復触媒でも破損個所に塗り込めばそれで済むのだから。
なので、古鷹が今行っているのは、工具を使って一度右腕をバラし、パーツやネジにこびり付いた泥やホコリを取り除き、古くなって黒ずんだオイルをボロ布で綺麗にこすり落とし、もう一度組み立ててから新しい油を挿すくらいのものである。これだけでも戦闘艦の姿に戻った際の諸性能に目に見えて大きな差が出るので無視できないのだ。
そして、組み立て終わった右腕は、どういう訳かネジが3本余った。
「……」
『えー、それでは視聴者の方からのリクエストナンバーです。応募者は、ブイン島の胃炎になりそうなオールドホークさん。リクエストナンバーはカザンオールスターズの『王子とマンモス、時々金塊』です。どうぞ!』
やったね!
今までのふてくされた面構えはどこに消えたやら、キラキラとした眼差しでテーブルの片隅に置かれたラジオに振り返る。
『――――番組の途中ですが、緊急報道をお伝えします。たった今、我が国と友好関係にあるゲロニアン帝国の首都でクーデターが発生しました! 今までに入ってきた情報によりますと、ゲロニアン帝国の王妃を指導者としたクーデター側勢力は自らを旧ティラミス王国解放軍と名乗り……え? え、え? こちらは未確認情報なのですが、クーデター側勢力に、超展開中の艦娘が加勢しているとの未確認情報が――――』
今までのキラキラとした眼差しはどこに消えたやら。古鷹は、萎びたナスの様なため息をつくと立ち上がり、ドライドックへと歩を進めた。
ネジが余っていた事などすっかり忘れていた。
ちょうどその時、203の井戸少佐と202の水野中佐と201のメナイ少佐は対立していた。
「水野中佐の脳筋野郎! イモは、アルミで包んで焼き芋! それが世界の選択でしょうに!!」
「黙れメガネモヤシ! イモってぇのは(帰って来てないけど)金剛お手製のイモ天プラ! これ以上の贅沢がどこにある!?」
「ファッキン・モンキー・イエローベイベーが知った口を利くな! イモは鍋で芋煮会! これが主の定めた律法だ!!」
「「牛肉オージーは黙ってクジラの竜田揚げでも食ってろ!!」」
「KILL'EM!!」
ハリウッド映画ラスト15分顔負けの殴り合い(銃火器解禁)が始まった。
今、アドミラル達の食欲が試される。
ちょうどその時、第203艦隊の那珂ちゃんと電(202)という珍しい組み合わせは、子供達と車座になって絵本を読んでいた。お手製エプロンを掛けた那珂ちゃんせんせいのオルガン演奏が実に堂に入っている。やもすれば、艦娘化する以前の天龍こと、おねーちゃんせんせーにも匹敵するほどだ。
両手で絵本を持った電が語り始める。絵本のタイトルは、彼女の手に隠れて見えなかった。
「むかーし、むかしの事なのです。あるところに、くだものの国がありました」
その国には、とてもとても甘くて美味しいくだものさん達がくらしていました。
くだものの王さま、メロン・ド・リアン12世の治世するその国は、たった一人を除いて、いつも笑顔が絶えませんでした。
ですがある日、そんなくだものの国から、全ての甘みが消えてしまったのです。
そうです。永い眠りから目覚めた古い果実(The Great old Sweets)が、全てのくだものから甘みを吸い込んでしまったのです。
そしてくだものの国は、古い果実の吐き出したゲップ――――味気の無い濃霧に包まれてしまったのです。
――――もう駄目だぁ、お終いだぁ。
霧の中から唯一逃げ出せた王子様の証言により、くだものの国の現状が諸外国に明らかになりました。
古い果物は僕(しもべ)に命じて甘みを集めている。そしてその量と質は、およそ尋常ではない、と。
――――おうじ様おうじ様、どうか泣かないで。私達がどうにかしてあげましょう。
罠公女、クラン・ベリィ
鷹の目、ブルウ・ベリィ
粒揃い、ストラウ・ベリィ
境目の魔女、マエリ・ベリー
討つ者、TW-2
この国にこの人ありと言われた何人もの英雄豪傑たちが、やあやあ我こそはと意気込んで、霧の中に入って行きました。
ですが、誰も帰ってきませんでした。
そして最後に、くだものなのに酸っぱいから。という理由だけでこの国の人たちから爪弾きにされていた、レモン君が立ち上がりました。
――――このぼくが、この国に甘みを取り返したら、きっとみんなもぼくの事を認めてくれるはずさ!!
子供達は皆、202の電の語りに聞き入っている。
今、レモン君の魂の名誉(Lemon's soul)を賭けた冒険が始まる。
「はぅあ~……艦娘用の燃料は嫌いですけど、このパウダー・フレーバーは大好きですぅ……」
「この一杯と提督の為に、如月は生きていますわぁ……」
基地に帰港した大潮と如月は緊急の補給作業を受けていた。いま彼女らが片手に掴んでグビグビと飲み干しているのは、ビールでもヤバイ薬でもない。大潮が言っているように、艦娘やその他の機械を動かす際に用いられる、統一規格燃料だ。
普通、帰投した艦娘が燃料を補給する際には一度艦娘化し、この燃料を小タル一杯分も飲ませれば、たったそれだけで燃料が満載となるのだ。なので、資源や燃料が慢性的に枯渇気味の帝国軍からすれば万歳三唱以外の評価はあり得ない。
あり得ない。
のだが、艦娘との付き合いの長い提督諸氏はそれを嫌っている。井戸も前の職業柄、それがもたらす弊害を良く知っているし、水野中佐も半ば本能的に気が付いているフシがある。
戦闘“艦”としては理想的な補給システムだが、艦“娘”にとっては最悪の拷問だ。と。
艦娘は分類上こそ戦闘兵器だが、結局のところその生態はごく普通の人間と変わりは無い。笑いもすれば怒りもする。美味いメシを食えば喜ぶし、深海凄艦を前にすれば怯えもするし泣きもする。そんな、ごく普通の人間なのである。
それ故に、味気無いどころか人間味の無い補給作業ばかりを続けていれば、いとも容易く人間性が劣化するのである。
無論、普通の人間らしく、普通の人間と同じ食事を採って、それを燃料と化すことも可能である。ブイン基地の赤城がヤシガニを喰って補給用の燃料としている様に。
ただ、この方法では一度体内で消化されてから燃料への変換が始まるので、時間的効率が恐ろしく悪い。
当然、深海凄艦側の波状攻撃などに晒された場合、そんな悠長な事をやっている暇は無いし、補給の都合でいつでもまともな食事にありつけるとは限らない。
そこで考え出された苦肉の策が、このパウダー・フレーバーである。
鎮守府や基地の廊下に置かれた、赤い自販機にセットされているこれは、艦娘向けの補助食品である。
使い方は簡単。飲む燃料に中身の粉末を入れて、マドラー(※この缶は、破線に沿って切り取って丸めれば、即席のマドラーになる優れものだぞ!)でよぅくかき混ぜてから飲むだけである。昔の駄菓子屋にあった粉末ジュースと要領は一緒だ。
因みに大潮の好きなフレーバーは『激圧炭酸ブルーハワイ味』で、如月は『厚切りベーコン焼いた後の油と醤油で刻みニンニク炒めた時のあの味』である。
至福のひと時なのである。
「Wasshoi! wasshoi!!」
「Soiya! Soiya!!」
「HA! HHA!! HA! HHA!!」
なので、背後で水野中佐が提督2人をまとめて投げ飛ばして窓ガラスをブチ割ったり、パイプ椅子二刀流で縦横無尽に室内を三角飛びする井戸少佐の姿が見えたり、オーストラリア軍正式採用のハンドガンH&K USPの二丁拳銃によるガン=カタで二人を迎撃するメナイ少佐の姿が見えていたりしても動じない。
提督だの司令官だのと常日頃から言われていても、男の子にだってハメを外したい時くらいあるんでしょう。そう考えた二人は、一番最初に窓ガラスが割れた音に驚いて一度だけ振り返ると、後は何も見なかった事にして補給作業に専念する事にした。
「美味い!」
「もう一杯!」
小さな体にオッサン臭い仕草が良く似合う二人である。
ちょうどその時、ショートランド泊地第七艦隊の提督は、自らの乗る伊8の攻撃予定位置に到着した。
『提督、攻撃予定海域に到着したよ』
「よし。作戦通りに進める。魚雷発射管、1番注水」
『あの……提督、ホントにやるの?』
「どうした、何かトラブルか?」
伊8の艦長席に座った提督が、副長席に座っていた伊8の立体映像の方に振り向いて言った。
『い、いえ。そういう意味ではなくて……』
「伊8号」
艦娘式イ号潜水艦『伊8』こと、ハッちゃんの困惑と躊躇いに満ちたその問いに、提督は疲れた声で答えを返した。
「私は、やれと、言った」
提督の顔は、疲れ切っていた。
少し前に己の半身こと伊58――――通称『ゴーヤ』と共に出撃した、最後の任務の時に浮かべていたそれとはまるで性質が違っていた。
頬や目の周りは痩せ細って落ち込み、無精ヒゲはロクに剃られる事無く青々と茂り始めており、髪もろくに洗われておらず脂ぎっている割には湿気ており、そのくせ散々泣き腫らして真っ赤に充血したその目だけは大きく見開かれ、内なる憎しみを燃料にして爛々と燃え輝いていた。
『Ja, Jawohl...』
この提督が号付きで名前を呼ぶ時は、本気でキレている。
それを知っている伊8は提督の気迫に怯えながらも何とか返事を返すと同時に自我コマンドを入力。魚雷発射管1番に注水、解放、発射。
1番から発射された甲目標には、本体操縦用の妖精さんが一人と、特製魚雷の弾頭部に詰め込まれた、陸軍の艦娘『あきつ丸』が一人乗っていた。
『甲目標(あきつ丸)発射完了。攻撃予定位置まで移動開始』
それを確認した提督が、無言で手元のコンソールを操作し、パスワードとキーコードを入力。
『提督、あの、この作戦って、本当に総司令官の承認を受』
直後、艦内の全電源が落ちて一瞬の後に復旧した。副長席に座っていたはずの伊8の立体映像はその一瞬で艦長席の真横に移動していた。その伊8が、建造当時の様な何一つ感情を伺わせていない無機質な声と顔で告げた。
『メインシステム、アルマゲドンモード起動します』
その宣言と同時に潜水艦としての伊8にも変化が現れていた。何と、正面6門しかなかったはずの魚雷発射管が、艦体上部にも2つ現れたのだ。
潜水艦のアルマゲドンモード。
東側では『死者の手』西側各国では『自動報復システム』と言われるこのモードの存在こそが、空母娘と並んで、艦娘式潜水艦の運用に大きなシステム制限が掛けられている最大の理由である(※翻訳鎮守府注釈:当然の事ながら、大量生産可能な艦娘にこんなのが載ってたら東西のMADが完全崩壊するので、表向きにはこのモードの概念すら存在しない事にされています)。
『VLSセル、1番、2番オンライン。弾頭シーカー冷却済。諸元入力完了済』
「ずいぶんと早いな」
提督が軽く目を見開いて驚いた。その一瞬だけは、伊8も良く知るいつもの提督の顔だった。
『……数時間前に行われた、佐々木提督らの強行偵察任務(自称)の情報がアップデートされています』
「……何やってんだ、あの男は。まぁいい。助かる。ハチ」
提督から何かを投げ渡された。キーホルダーも何もついてない、小さな鍵だった。
それを受け取った伊8の立体映像が副長席に移動して、コンソールの中央右上。アクリル製の小さなパネルで覆われた鍵穴に差し込む。まだ回さない。提督も同じだ。
「3カウント」
『どうぞ』
「3、2、1」
提督と伊8。二人が全くの同時に鍵を回す。
使ってはいけない弾頭兵器の最終以外の安全装置が全て解除される。提督の座る艦長席のコンソールに、赤く大きな丸いボタンが浮上する。
押す。
「1番、2番発射」
『Jawohl.』
設計図上には存在しないはずの垂直発射管から、防水パッケージ化された2発のSLBM――――潜水艦搭載の弾道ミサイルが発射される。海面浮上と同時にパッケージは分割剥離。即座に固形燃料に着火。
2つの流れ星が、天に昇って行く。
ちょうどその時、203の電は、203号室でパソコン内蔵の音楽ビューアーで音楽を聴きつつ、ワードで大本営宛の各種鋼材の追加の陳情書を制作していた。
「――――よって、ブイン島の防衛設備および最終防衛システムの復旧は著しく遅れており……」
今流れている曲は本土で活躍中しているTeam艦娘TYPE(アイドルグループ)の電がリーダーを務める、第六駆逐隊4人組による傘下グループ『Nanodeath』の名曲『Symphony of destroyed MIYUKI』である。
自分と同じ、ペドフィリア御用達の幼い外見の電なのに、それを裏切る壮絶技巧のエレキ歯ギターのソロが耳に残るスラッシュメタルである。
「――――故に、前述の各種鋼材および金属触媒の重点的な補充は急務であり、あり……」
曲が終わり、ふと壁掛け時計を見上げる。
「あり、あり、あー……あ! そろそろなのです」
ふふふ、ふふ、ふーん。ふふ、ふーん。と今の曲を鼻歌で歌いつつ、電(203)は部屋を後にする。
見た。
「あ、流れ星!」
その日の午後、リコリス飛行場基地の中を一つの白い影が歩いていた。
かつて、ブイン基地との密輸で栄えていた頃の華美な装飾などはもうほとんど残っていない。手付かずのまま残ってはいるのだが、部屋の中にせよ外の廊下にせよ、いたる所に見ているだけで不安になってくるような人間大の黒い塊がいくつもいくつもへばり付いてその華美な装飾が台無しになっており、全ての廊下に敷き詰められた赤絨毯も、それらから染み出した液体を吸って真っ黒に染まっていた。
奇妙な事に、真っ黒であるはずのそれらの塊は、光の都合か、時折赤交じりのオレンジ色に蠢き輝いているようにも見えた。
そんな、赤と黒で覆われた廊下を、この白い影は何の気負いも無しに歩いていた。しかも鼻歌まで歌いながら。
「~♪」
全長、百数十センチメートル。完全な人型の女性。体色、白。髪も肌も服も(皮膚か?)、ほぼ同一の真っ白。地に付くほどに伸ばされたその長い髪の中からは、時折滑走路のような模様と形状をした何かがちらちらと見え隠れしていた。
全長数十、モノによっては数百メートルが平均値の戦闘艦とほぼ同等のサイズを誇る深海凄艦群の真っ黒の中では、鬼と並んで異色の存在。
「おぉーい、姫さーん。来たでー!」
「……ィメ。ッレテ、ィタ」
港湾施設が一望できる最寄りの窓から、姫と呼ばれたその白が体を覗かせた。
「アラ、キタノネ」
「来たって……ウチ呼んでたのって姫さんやんか」
「ソウイエバ、ソウ、ダッタワネ。リュウジョウ、アナタガ、イッテイタ、ヨビノ――――」
そこまで言いかけた姫が、バネ仕掛けのおもちゃのように空を振り返った。
「……ナニ、アレ?」
龍驤達もつられて見上げた。
大気の揺らぎを受けて、不規則に瞬く小さな星が2つ、空の上を流れていた。監視衛星にしては早すぎる。流れ星にしては遅すぎる。
「あれって……まさか!?」
その流れ星の正体に気付いた龍驤が警告を発するよりも先に、上空高くでその流れ星が弾けて消えた。何かを察知したのか、海上に停泊していた駆逐種の表面に張り付いた貝やら寄生虫やらを啄んでいた海鳥たちが一斉に翼を広げて飛び立った。
遅かった。
空を飛ぶ鳥たちが音も無く墜落した。何だ何だとそれを見ていた重巡リ級の一匹が、いきなり己のノドを両手で絞め上げ、大きく目を見開いて舌を付き出して倒れ伏した。背筋をエビ反りにし、不気味な痙攣を繰り返す。
海面には大小様々な魚が腹を見せて浮かび上がって来た。中には駆逐種や軽巡種の姿もあった。激しく咳き込む雷巡チ級が、力無くコンクリート製の護岸にもたれかかる。やがてその咳に水っぽい音が混じり始めた。泡混じりの血液を咳としながらそのチ級は動かなくなった。
島中に生えていた草木が、生命力溢れる濃い緑色から黄色い枯れ草色に瞬く間に変わっていった。鬱蒼と生い茂る木々の葉は、文字通りあっという間に落葉した。カンの良い連中は既に海の底へ避難していた。ただ、それでも逃げるのが遅かった連中は、そこら辺に浮かぶ魚らと同じように海中から力無く浮かび上がってきた。そう、あそこで横たわって浮かんでいる空母ヲ級の様に。
戦艦ル級やその亜種であるダークスティールはその図体故に毒の回りが薄かったようだが、それでも無事では済まされなかった。見えていないだけで、内臓機能に致命的な障害が発生している。生き残った他の連中と同じく、残された寿命はそう長くはあるまい。
この怪奇現象に全くの心当たりがない白い姫は、瞬く間にパニックに陥った。
「ナ、ナニ!? ナンナノ!? ナ、ナニガオコッテルノ!? ネェ、リュウジョウ、イッタイ――――」
「き」
姫が凍り付く。
つい今まで雑談していたはずの龍驤が、どぅ、と大波を立てて倒れ伏したからである。それでも龍驤の唇がかすかに動いた。
「き ひ、 せ、 ……かみ 、……」
かつての世界大戦当時、合衆国本土爆撃に成功した伊25号の水上観測機に搭載されるも使われず、終戦後に合衆国軍に接収され『枯葉剤』という嘘のラベルを貼られてベトナムに投下されたのと同じ戦略兵器。
条件さえ整えば半径数十km圏内全ての生命を必殺する、無色透明・無味無臭の悪魔の風。
帝国陸軍最大最低の発明品。
キルヒ系神経毒『戦術神風』
それがこの死の名前である。
さしもの鬼も無事ではなかった。が、それでも無様に倒れる事を良しとしないのか口の中の血を飲み込むと、蒼褪め、不気味な痙攣を繰り返す龍驤を抱きかかえて海の底へと潜ろうと――――あそこには、龍驤を“改良”する際に使っている繭がある――――急いで沖合に振り向いた。
「!!」
その方向から魚雷が一本、こちらに向かって海上から突っ込んできていた。否、魚雷ではなかった。艶消しの青黒に塗られた、水中・水上どちらでも使える軍用のウォータージェットバイクだ。
甲目標から発射されたあきつ丸だった。そのあきつ丸が片手でバイクを操作しながら顔面を覆っていた酸素ボンベのレギュレーター・マスクを剥ぎ取る。
その際ノドに入った塩水に咽ながらも叫ぶ。
「あ、ゲホ! ゴッホ、ゲホ! あぎづ丸、ゲホ展開!!」
瞬間的な爆音と閃光が辺りを包み、それらが晴れた時にはもう、そこには艦娘としてのあきつ丸はおらず、揚陸艦としてのあきつ丸が一隻浮かんでいただけだった。
その揚陸艇のどこからともなく、艦娘状態の時のあきつ丸の声が聞こえてきた。
『大発部隊、出撃!!』
揚陸艦『あきつ丸』の前面にある大型ハッチが開き、その中から次々と大発こと大発動艇が吐き出されてくる。それも世界大戦当時の代物ではない。近代化改修(という名の魔改造)に次ぐ近代化改装を受け、最早外見以外の性能――――特にその積載能力――――は完全に別モノである。
そんな大発に載せられているのが、ただの武装兵であるはず無かった。
【U1、ターゲット了解。オペレーションを開始します】
【U2、ターゲット了解。オペレーションを開始します】
【U3、ターゲット了解。オペレーションを開始します】
【U4、ターゲット了解――――】
陸軍が誇る最新鋭無人兵器、鍋島Ⅴ型だった。それも大発1隻につき1機、合計27機の大部隊だ。しかもご丁寧なことに、攻勢作戦では最も多く使われる中量二脚型と少数のタンク型で統一してあった。
おまけに『あきつ丸』の飛行甲板からは、通信中継用のカ号観測機が何機も何機も飛び立っていった。それもわざわざ防弾盾を十重二十重に張り付けた重装甲型のをだ。
大発から跳び立った鍋島Ⅴ型の群れが、辛うじて息をしていた深海凄艦に止めを刺していく。まるで地に落ちた蝶に蟻が群がっているような光景。そんな鍋島Ⅴ型の内の1機が、姫を捕捉した。
【U⑨、不明なオブジェクトを発見しました】
カ号の中継映像を拾っていた、伊8内部の提督がその映像を見て発作的に叫ぶ。
『そいつが敵だ! 全ユニットに通達! 最優先目標!!』
【U⑨、ターゲット確認。排除開始】
受領と同時にU⑨が発砲。パルスマシンガン、チェインガン、垂直発射式ミサイル、グレネード砲による弾幕が基地の廊下にいた姫とその周囲を徹底的に破壊する。
奇妙な事に、建物やその装飾品は見る間に破壊されて行くというのに、その破片や砲弾が直撃しているはずの姫には何の変化も無かった。ただ、砲弾や破片が直撃するたびに姫の身体にデジタルノイズが走り、一瞬その姿がブレるくらいのものである。
【U⑨、目標に有効打を認めず。火力支援を要――――】
姫に集中砲火を加えていた鍋島Ⅴ型が、文字通りぺしゃんこになって潰れた。背後から近寄った鬼が殴り潰したためである。鍋島Ⅴ型はせいぜいが全長5メートル程度の兵器である。総重量だってお察しである。そんなカトンボが、全長3ケタメートルから繰り出された渾身のゲンコツを食らって生きてられる方がどうかしているのだ。
拳と地面の間から小爆発。U⑨とのデータリンク途絶の報を受けた、他の鍋島Ⅴ型が次々と集まってきていた。
鬼が拳を構える。龍驤に寄生していた例の飛行小型種も鬼の肩に飛び乗り、口腔部の生体機関砲で応戦を開始する。
「……ョウ、トウ。ァカッテ、ィナサイ」
「鬼さん……負けんといてや……」
最早壮絶としか言いようのない顔色と形相となった龍驤が呟く。
「水野少佐も、電ちゃん、も……待っとい て、な……すぐ、そっち 行くからな……な、なに、ル級の一匹くらい、暁ちゃ ん 達、 と一緒なら 、す、すぐや……」
龍驤が意識を失う。鬼はその片腕で龍驤を抱きかかえ、ノドの古傷と口の端から血を流し、声なき絶叫を上げながら応戦を開始した。
「……こうして古い果物は、強く、最も新しい僕(しもべ)を手に入れました。やがて世界は、味気の無い濃霧で包まれるでしょう。めでたし、めでたし」
めでたくねーよ。
それがこの絵本の読み聞かせを聞いていた子供達と那珂ちゃんの心の声である。それでもBGM代わりにずっと弾いていたオルガンの音色が微塵もブレない那珂ちゃんは本当に出来る娘である。
「さ、さーて。じゃあ、良い子の皆、今日はこれまでだよー。暗くなる前にお父さんお母さんのもとに帰ーえりーまーしょう!」
「「「はぁーい!!」」」
「パパとママの言う事聞かない悪い子はー?」
「「「夜中迎えにきちゃいますー!!」」」
普段より妙に速くお遊戯会を切り上げた那珂ちゃんに疑問を懐いた電(202)だったが、今日が何の日であるのか思い出した。因みにこの最後のやり取りは、那珂ちゃんせんせいによるお遊戯会〆の言葉である。アイサツは大事だ。古事記にもそう書いてある。
「「「那珂ちゃんせんせいさよおならー!!」」」
「はい。さようならー!!」
ここまでの子供達とのやり取りを、何気に全部帝国語で済ませているあたり、那珂ちゃんによる親帝国化工作は徐々に浸透しているらしい。コイツ今すぐ軍隊クビになっても宣伝省か東機関あたりで雇ってくれるんじゃなかろうか。
「じゃあ電ちゃん、片づけ終わったら私達もいこっか」
「はいなのです」
片づけと掃除を終えた那珂ちゃんせんせいと電(202)がその場を後にする。
「お」「あ」「ひゃら」「あ」「なのです」
井戸、古鷹、赤城、那珂ちゃん、電(203)の4人はちょうどドライドックの中で鉢合わせた。因みに赤城はヤシガニ(生)を貪っていた。大潮と如月は午前中に見つけた巣穴潰しのために欠席だ。
「おう、揃ったか」
スパナ片手に両腕を組んだ整備班長殿が、ドライドックの入り口に期せずして集合した203艦隊の面々を見回して言った。
「もう起動準備は終わってるぞ。さっさと迎えに来い」
それだけを言うと、さっさと踵を返してドライドックの奥に戻って行ってしまった整備班長殿の後を追って、井戸達も移動し始めた。
今日は、我らが第203艦隊の総旗艦『天龍』の入渠明けの予定日である。
「親方ー、起動プログラムの立ち上げ、いつでもオッケーでーす!!」
「おやかたおやかたー、えんかくそうさしきのあっしゅくぷろぐらむにもー、バグはみあたりませーん」
「お頭ー、酒保から上等そうな酒とツマミ見繕ってきましたぜー!!」
整備の丁稚連中や整備担当の妖精さん達が一隻の艦を取り囲んでいた。艦娘式天龍型軽巡洋艦1番艦『天龍』それがこの艦の名前であり、ここに集合した第203艦隊の総旗艦でもあった。
現在の天龍には大小無数のケーブル類が接続されており、それと兵器特有の無機質な威圧感によって、軽巡洋艦の中でも小柄の部類に入るはずの天龍の艦体は、無数の鎖で雁字搦めに封印された獣と言った雰囲気を醸し出していた。
井戸達が見守る中、親方が号令を出した。
「よし! 通信ケーブル以外の全ケーブル外せェい! 続けて軽巡洋艦『天龍』起動! そして圧縮開始!!」
その号令と共に、艦娘達の魂の座である動力炉に火が入る。今は無人となっている艦長席や、近代化改修の際に増築された艦内CICの端末には、0と1とiの三進数によって表記される無数のスクリプトが流れていた。
「親方ー、起動シークエンス正常に起動しました」
「おやかたー、えんかくそうさしきのあっしゅくぷろぐらむながしたよー。あっしゅくかいしまであと20びょう……ウソ、ホントは15秒です(CV:ここだけ田中正彦)」
「よし! ケーブル外せェい!」
整備妖精にゲンコツを入れながら親方が叫ぶ。直後、不思議な事が起こった。
今の今までそこにあったはずの天龍の艦体から、急に遠近感が消えうせたのだ。まるで、超精巧な一枚絵を見ているかのように。
次に、その一枚絵が二つ折りにされた。文字通り、真ん中から、ぺたんと、縦に。続けて横に二つ折り、縦に二つ折り、また横と、新聞紙か何かの様に天龍は折り畳まれていった。
今までとはまるで違う圧縮方法に、井戸は整備班長に尋ねた。いつもなら、色の無い濃霧に包まれてからすぐに終了していたのに。
「整備班長殿、この圧縮方法は?」
「ああ。翔鶴、瑞鶴の鶴姉妹にプリインストールされてるっていう、最新型の圧縮ソフトを使ってみたんだよ。圧縮完了までの時間は長いが、その分負担は少ないって代物だそうだ。これだけの大怪我の後だ。少しでも負担は少ない方が良いだろ」
「……ありがとうございます!」
「何。良いって事よ。一応、お前さんが使ってるボーレタリア式の圧縮ソフトはそのまま残してあるからな。上手い事使い分けろよ」
そして最後に、人間大まで折り畳まれた天龍だったものがその場でくるりと一回転すると、そこにいたのはもう、艦娘としての天龍だった。目を閉じ、ただ立ち尽くしていた。
「天龍、外部圧縮保存完了しました。外見上にエラーは見受けられません」
天龍が目を開ける。続けてここはどこだと言わんばかりにきょろきょろと首をめぐらせる。
「天龍、目が覚め」
「お、アンタが俺の提督かい?」
その一言に、駆け寄ろうとしていた井戸達が凍り付く。
「天、龍……?」
「嘘、そんな……」
那珂ちゃんと古鷹は心痛そうな表情で俯いてしまった。電(203)は、天龍が何を言っているのか理解できていなかった。赤城の口から、ヤシガニのハサミがポトリと落ちた。
「俺の名は天龍。フフフ、怖……って、う、嘘、嘘ウソ! 冗談、冗談です!! 覚えてる、覚えてるから大の大人が泣くな! お前らも!!」
「本当か? 本当に俺の知ってる天龍か?」
「俺は、お前の知ってる天龍だよ」
「だっだら質問。そもさん」
「せっぱ」
みっともなく鼻声になった井戸が疑わしげに天龍に問い詰める。那珂ちゃんは井戸の背後でこっそりルームランナーを人数分用意していた。
「女性グループSSSCが、1997年から2002年までの間に発表した、曲のタイトルの内、シングルCDで50万枚以上売れたものを5つ、お答えください。ドーゾ!!」
ルームランナーが回り出す。古鷹以下、203艦隊の面々がその上で走り出す。
「『秘密結社“生物”』『ドライブはバキュームカーに乗って』『いちゃもんつけるよ!』『土佐オカマのゴメス』『疫病神がっ!』『さよなら大好きだったアリのままのあなた』『猫と油と鰹節と全裸男のフィンガー瓶』『凶暴! ウィンター君』『略してチクビ』」
ぴんぽんぴんぽんぴんぽーん、と間抜けなチャイム音を鳴らしてルームランナーが止まる。
井戸は複雑そうな顔をしてこめかみを抑えていた。
「………………………………こんな下らない、かつマニアックな事を即答で全問正解とか、天龍だ。間違いない」
「「天龍さーん!!」」
那珂ちゃんと古鷹が天龍に半泣きで笑いながら飛びつく。天龍はポンポンと頭を優しく撫でる。
お前の悪ふざけのせいだろが。というツッコミは野暮である。そっとしておいてあげよう。
その日の夕暮れ時。
ブイン島仮設要塞港第202艦隊と第203艦隊の面々が、砂浜から直接伸びた桟橋の先っちょに集合していた。海に近い方から順番に並べると、金剛が普段着ている巫女服モドキ(withサラシ)を着せた抱き枕を抱えた水野中佐、202の電、そして井戸少佐とメナイ少佐を筆頭にした203と201艦隊の面々である。
「そろそろ見える頃なんだが……」
「あ、見えたのです!」
電(202)が指さした水平線のその向こう。夕陽を背に、3隻の船影がブイン島に向かって進んでくるのが見えた。
井戸の持っている通信機に連絡が入る。
【Fleet203大潮よりHOMEBASE. Fleet203大潮よりHOMEBASE. 作戦が完了しましたよ! 帰港します。それと――――】
【Hey! 水野提督ゥゥゥ――――!! 貴方の愛しの金剛がCOME BACK HOMEデース!!】
「金剛ォォォウ!!」
【提督ゥー!】
この時点で、那珂ちゃんはすでに逃げ出していた事が後の調査により判明している。
誰かが呟く。
「あれ? 接岸にしては早すぎなんじゃ……?」
「金剛ォォォゥ!!」
【提督ゥー!】
桟橋の先っちょで両手を大きく開きながら、こちらに向かって突き進んでくる金剛を抱きしめようとする水野中佐。因みに抱き枕は海の上だ。
対する金剛も、水野中佐に向かって全力で突き進んでいた。減速? 接岸作業? 何それ紅茶に合うのと言わんばかりの速度である。
【203大潮です! 金剛さん止まってー!!】
【203如月です! 井戸提督、逃げてー!!】
大潮と如月決死の牽引作業などまるで意に介さず、金剛(改二)は全速力で己の提督の元へと馳せ参じていた。
もうこの時点で、水野中佐以外の全員が全速力で桟橋からの退避を始めていた。
「金剛ォォォゥ!!」
【提督ゥー!】
水野の視界に金剛の舳先が海を割って水飛沫を上げているのが大写しになる。
「金剛ォォォゥ!!」
【提督ゥー!】
鉄が、
本日の戦果:
リコリス飛行場基地への強行偵察に成功しました。
敵指揮個体の情報を入手しました。
リコリス飛行場基地に集結中の、敵精鋭部隊に壊滅的な打撃を与えました。
リコリス飛行場基地に存在する、人類の裏切者を確認しました。
各種特別手当:
大形艦種撃沈手当
緊急出撃手当
國民健康保険料免除
以上
本日の被害:
リコリス飛行場基地、および周辺海域の生態系に致命的な被害が発生しています。
軽巡洋艦『天龍』:大破(金剛の正面衝突による)
軽巡洋艦『那珂』:健在
重巡洋艦『古鷹』:大破(金剛の正面衝突による)
空母『赤城』:大破(金剛の正面衝突による)
駆逐艦『大潮』:小破(係留用のアンカーチェーン破断)
駆逐艦『如月』:小破(係留用のアンカーチェーン破断)
駆逐艦『電』:大破(203艦隊所属。金剛の正面衝突による)
戦艦『金剛改二』:健在(愛の力は無敵デース)
駆逐艦『電』:大破(203艦隊所属。金剛の正面衝突による)
重巡洋艦『愛宕』:おそらく健在(201艦隊所属。帝国側の物資集積島から弾薬運送中)
軽巡洋艦『多摩』:大破(ショートランド泊地第八艦隊所属。竜骨破断、外部装甲全交換、主砲ターレット異常歪曲、送電ケーブル一部断線、油圧管破壊etc,etc......)
戦艦『金剛改二』:健在(ショートランド泊地第八艦隊所属)
揚陸艦『あきつ丸』:健在(ショートランド泊地第七艦隊所属)
潜水艦『伊8』:健在(ショートランド泊地第七艦隊所属)
鍋島Ⅴ型:帰還1、未帰還機26
カ号観測機:帰還8、未帰還機0
各種特別手当:
入渠ドック使用料全額免除(※1)
各種物資の最優先配給(※1)
以上
※1 ただし、自分の所の旗艦の暴走すら御せなかった水野中佐を除く。
補足事項
ショートランド泊地第七艦隊総司令官に逮捕状が出ています。
(罪状:アルマゲドンモードの無断起動、公文書偽造、無断出撃、NBC兵器の独断運用etc,etc......)
本日のOKシーン
「クソ、ヤラレタ!!」
その日の夜。リコリスの姫は新世界の神めいて基地司令室の机で頭を抱えていた。
海中から奇襲を仕掛けてきた機械人形共の群れは一掃できた(母艦には逃げられた)が、こちらの被った被害が尋常どころではない。最悪だ。
港湾施設にもそれなりの被害が出たが、まぁ、そんなのは正直どうでもいい。体格の差からくる問題でほとんど使えないし。
精鋭部隊の全滅。
そう、文字通りの全滅なのだ。いち早く海の底に潜ったのや元から海底待機していた者達は無事だったが、喋って意思疎通できる連中がもう一人も残っていない。
温存しておいた航空戦力も目算で8割減だ。海の底や空母連中のクラゲ様の器官の内側奥深くに隠れ潜んでいたのを除いて殆どが死んだ。折角龍驤のアドバイスを受けて模擬戦までやって練度を高めたのに、それも全てパァだ。
上陸戦モデルの改良型が受けたダメージも酷い。外見上は無傷だが、内臓系がもうボロボロだ。安静にしていれば何とかなるだろうが、出撃させたら片道切符だ。本来の仕様通りに上陸戦なんてやろうものなら間違い無く上陸第一歩目でショック死するだろう。
「リュウジョウノ、ハナシダト、ドクガス、ッテ、イッタ、カシラ」
そういう兵器があるとは聞いていた。だが、こんな早い段階で使う兵器では無いとも聞いていた。与えるダメージと周囲に撒き散らすデメリットがトントンで、焦土作戦でもなければ早々に使えるようなものではなかったはずだ。
「コウナッタラ、セニハラ、カエラレナイ、ワネ……ニンゲンドモノ、ヘイキヲ、ミツクロッテ、マユヲウエツケテ、チョクセツ――――!?」
泊地凄鬼からの緊急の概念接続。繭の中で修復させている龍驤が目を覚ましたとの事。
ただ、
【な、何やこれ!? 何で深海凄艦がおんねん!? 離せ、離さんかい!!】
龍驤の記憶が部分的に戻ってしまったそうだ。
【あ! お、鬼さん助けてーな! う、ウチまだ死ねんのや! 帰ったら、帰って水野少佐に告白す――――】
接続はここで途切れた。後に上げられた泊地凄鬼の報告によれば、一度気絶させてからもう一度繭の中で原液に浸らせた上で静脈注射による体液交換も同時に行ったとの事。
「ソレデ、ナントカ、ナレバ、イイノ、ダケレドモ……」
兎に角今は戦力の補充だと気持ちを切り替えた姫は再度、既に自分の体の一部と化した基地内にアクセス。こうなったらえり好みはしていられない。兎に角使えそうなものに最低限の改造を施して使うしかない。
そう考えていた姫の意識の片隅に、奇妙なデータがhitした。そちらに意識を傾ける。大深度地下に秘匿された、独立回線の小さな格納庫。
「……ヘェ、ステキナ、ヒコウキ、ネ。ヘンダーソン、ノコロハ、カンガエモ、シナカッタ、アイデア、ダワ」
姫が笑う。
その笑みは、可憐ながらも見る者全ての背筋が凍り付いてしまいそうなほど冷たいものだった。
今度こそ終れ。