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No.38827の一覧
[0] 【チラ裏より】嗚呼、栄光のブイン基地(艦これ、不定期ネタ)【こんにちわ】[abcdef](2018/06/30 21:43)
[1] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/11 17:32)
[2] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/20 07:57)
[3] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/02 21:23)
[4] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/22 04:50)
[5] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/01/28 22:46)
[6] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/24 21:53)
[7] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/22 22:49)
[8] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/03/13 06:00)
[9] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/05/04 22:57)
[10] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/01/26 20:48)
[11] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/06/28 20:24)
[12] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/07/26 04:45)
[13] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/02 21:13)
[14] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/31 05:19)
[15] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/09/21 20:05)
[16] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/10/31 22:06)
[17] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/11/20 21:05)
[18] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2015/01/10 22:42)
[19] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/02/02 17:33)
[20] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/04/01 23:02)
[21] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/06/10 20:00)
[22] 【ご愛読】嗚呼、栄光のブイン基地(完結)【ありがとうございました!】[abcdef](2015/08/03 23:56)
[23] 設定資料集[abcdef](2015/08/20 08:41)
[24] キャラ紹介[abcdef](2015/10/17 23:07)
[25] 敷波追悼[abcdef](2016/03/30 19:35)
[26] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/07/17 04:30)
[27] 秋雲ちゃんの悩み[abcdef](2016/10/26 23:18)
[28] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/12/18 21:40)
[29] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2017/03/29 16:48)
[30] yaggyが神通を殺すだけのお話[abcdef](2017/04/13 17:58)
[31] 【今度こそ】嗚呼、栄光のブイン基地【第一部完】[abcdef](2018/06/30 16:36)
[32] 【ここからでも】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(嗚呼、栄光のブイン基地第2部)【読めるようにはしたつもりです】[abcdef](2018/06/30 22:10)
[33] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!02【不定期ネタ】[abcdef](2018/12/24 20:53)
[34] 【エイプリルフールなので】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(完?)【最終回です】[abcdef](2019/04/01 13:00)
[35] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!03【不定期ネタ】[abcdef](2019/10/23 23:23)
[36] 【嗚呼、栄光の】天龍ちゃんの夢【ブイン基地】[abcdef](2019/10/23 23:42)
[37] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!番外編【不定期ネタ】[abcdef](2020/04/01 20:59)
[38] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!04【不定期ネタ】[abcdef](2020/10/13 19:33)
[39] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!05【不定期ネタ】[abcdef](2021/03/15 20:08)
[40] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!06【不定期ネタ】[abcdef](2021/10/13 11:01)
[41] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!07【不定期ネタ】[abcdef](2022/08/17 23:50)
[42] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!08【不定期ネタ】[abcdef](2022/12/26 17:35)
[43] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!09【不定期ネタ】[abcdef](2023/09/07 09:07)
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[38827] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】
Name: abcdef◆fa76876a ID:53021686 前を表示する / 次を表示する
Date: 2017/03/29 16:48
※1
 ナナチは可愛いですね。
 七駆も可愛いですよね。
 ナナチと七駆は発音がとてもよく似ていますね。
 前話にて何の伏線も無く行動食4号が登場したのはそれが理由です。それより深い理由は存在しません。何の問題ですか?
 ていうかコイツ出さなきゃもっと早くうp出来たと思います。

(※1翻訳鎮守府注釈:Arcadia海域の方言で
 後編です。
 いつも通りのオリ設定どーばどば。
 筆者は研究職ではありません。机仕事も苦手です。ですので描写はてけとーです。
 『●×が▲▲で□□ぅ? HA! ねーよwww』な描写多数。要注意。
 ファッキン遅筆。
 の意)



 観察対象の第一次調査報告書
(※翻訳鎮守府注釈:以下の()内の文は、誰かが付け加えた走り書き)


 姓名:比奈鳥ひよ子
 カナ:ヒナドリ ヒヨコ
 性別:女性

 199●年、オールド埼玉県しばふ村出身。
 最終学歴:
 国立つくば宇宙科学大学、宇宙科学科所属。現在はインスタント提督着任中のため無期休学中。
 備考:
 同大学に在学中、忠国警備保障にてアルバイト勤務の経験あり。
 同警備会社に勤務中、夏コミ冬コミ開催時の特別編成増強部隊、通称『300人部隊』への参加経験あり(最終階級の十人隊長が詳細不明。要調査)
 現在着任中の有明警備府には、そこでの活躍が尾谷鳥少佐(所在地の確認)の目に留まり、スカウトされたとの事。
 持病無し。家族構成、宗教、政治的思想に問題無し。
 艦娘素体としての適性無し。

 特記事項

 MIにてH5と第六種接近遭遇。
 本土帰還後に秘密裏に行われた全身調査では外見上の変異無し。脳および内臓諸器官にも異常無し(←検査機器の故障? 再確認)
 血液検査および体細胞検査にてD反応を検出。濃度8。平均汚染深度1.1(←こちらも再確認)
 帰還直後のメンタルチェックではゴーストマップにレベル4の乱れ。昏睡状態。意識回復後の再検査では全て正常値。血液検査も異常無し(←こちらも)
 帝都湾内で第四世代型の駆逐イ級と交戦し、撃破。撃破時にこれの体液と臓器片を全身に浴びる。帰還後に最寄りの横須賀鎮守府の医務室に緊急入院。
 本人の証言から血液と肉片が口の中に入ったとの事。胃洗浄と浄化剤の経口摂取、および精密検査を実施。
 血液検査および体細胞検査にてD反応を検出。濃度1。汚染は検出されず(←? 意味不明。再検査)

(↑検査機器、検査方法に問題無し。他のMI生存者と比較しても汚染深度の数値が低すぎ)
(↑採取した体組織から勝手に作ったクローンでの追試は期待値の半分も出なかった)
(↑帝国人の若年齢層ほど耐性があるっていう井戸水先輩の仮説は正しかった?)(←若年層は逆に劇症化したケースが多い)
(↑なら後天的な耐性持ち? ←なら抗浸食剤作れる? ←ならファクターは何?)
(↑もう一度H級と接触させてデータ採る。H4現在地と予想侵攻ルートの資料用意)(←却下。死骸の回収多分むり)
(↑やっぱり生データ欲しい。どうにかして接触させる。データはリアルタイムで無線させりゃいい)
(↑その前にプロト19のデータ採りに使用させてください。確実に死ぬのなら、先にこちらで運用してもかまいませんよね?)

          ――――――――――ホワイトボードに張られた機密書類と周囲の走り書きより一部抜粋




 2月の寒さが染み込んだ、しばふ村の外れにある薄暗いプレハブ小屋。
 比奈鳥ひよ子にとっての恐怖と憧れの原点はそこにある。

『ん゙ん゙ー! ん゙ん゙ー!!』
『良し良し良ぉぅし……大人しくしとけよ~? そうすりゃ君もいっぱい気持ちよくしてあげるからさ?』

 来年に控えた高校受験のための見学会からの帰りだった。
 その男はごく普通のラフな格好をしていた。助手席には少女が一人乗っていた事から、警戒心はそこまで働かなかった。

『ん゙ん゙ー! ん゙ん゙ー!!』
『はいはい。大人しくしろって。おい北上、お前いつも通り外見張ってろ』

 当時のひよ子は知る由も無かったが、そいつは当時、とある鎮守府に所属していた提督で、♂で、要注意人物だった。どれくらいの要注意人物だったのかというと、帝国を代表するような多大な戦果を上げていたので黙認されていたものの、風紀・素行不良も著しい問題児であり、日常的に麾下の艦娘らに性的な手まで出していたため、周囲の基地や鎮守府や憲兵隊、当時の有明警備府にも名指しでマークされていたくらいには警戒すべき人物であった。
 この村には良い温泉があるって聞いたから湯治に来たんだけど、道こっちで合ってる? と車上から聞かれ、差し出された紙の地図をひよ子がのぞき込もうとした瞬間だった。
 地図の下に隠し持っていた拳銃のような形をしたスタンガン――――テイザーガンを至近距離から胸元に撃たれた。
 痛すぎて声も出なかった。
 そのまま素早く助手席に掴み投げ入れられると、そこに座っていた、北上と呼ばれていた黒髪おさげの少女によって両手両足と口をガムテープでぐるぐる巻きにされて後部座席の床に押し込まれ、近くにあった村はずれの朽ちかけたプレハブ小屋――――道路から少し離れた雑木林の入り口にあるので人気は無い――――に連れ込まれて押し倒され、今に至る。
 男が小屋の中に入って扉を閉めると口と足のガムテープが外され、床に強く突き飛ばされた。痛みにもがいている間に制服のスカートの中に手を突っ込まれ、パンツと靴下の両方を剥ぎ取られ、口の中に詰め込まれると吐きだされない様にまたガムテープで固定された。
 そんな事をされなくても、ひよ子は怖すぎて何も出来なかった。押し倒され、セーラー服をまくられ、つい先日買ってもらったばかりのブラジャーを無理矢理たくし上げられたところでようやく叫べた。

『ん゙ん゙ー!!! ん゙ぅっ!?』

 片頬に軽い衝撃が抜け、視界が嫌らしく嗤う男の顔と天井からプレハブ小屋の壁と床に切り替わった。頬がジンジンと熱を持ったように痛んだ。
 殴られた。

『大人しくしとけって言ったじゃん? ん?』

 おまけにいつの間に出したのか、男の手の中には一振りの小さなナイフが握られており、それをひよ子の目の前で見せつける様にしてゆらゆらと左右に何度か揺らすと、刃先をセーラー服の胸元に引っ掛け、一気に上から下に切り裂いた。
 ほんの少し肌に触れた銀色の冷たさに、もう、叫ぶ事もできなかった。せめてもの抵抗は、硬く目を瞑って顔を背ける程度だった。
 そして男が露わになったひよ子の胸に舌を這わせ、もう片方の手をスカートの中にゆっくりと這わせていったその瞬間。

『はいはいおイタはそこまでですよー』
『ぐぇう!?』

 軽い衝撃と戸惑ったかのような男の呻き声がしたかと思うと、身体の上にあった男の重さが消え、壁の方から何か柔らかくて重たい物をぶつけたかのような音が聞こえてきた。
 涙でぼやけた薄暗い部屋の中。そこには、緑色のセーラー服を着た黒いおさげの少女がいた。
 奇妙な事に、少女は背中に煙突にも見える巨大な金属塊を背負っていた。当時は対深海凄艦戦争の事も艦娘の事も何一つ公表されていなかったから、その少女を見たひよ子が『新番のアニメか何かのコスプレかな?』と場違いな事を思ってしまっても罪は無かろう。

『テ、……ッメぇ!! 何やってんだよ北上!? テメー外の見張りしとけっつただろうが!! テメー大井がどうなっても知らねぇってか!? テメーああ!?』
『んー? 大井っち? ……あー。あんた、なんか勘違いしてるわー』

 何? と疑問を顔に浮かべた男も、怒涛の急転直下に置いてけぼりにされつつあるひよ子の事も置いておいて、北上と呼ばれたその少女はスカートのポケットから二つ折り式の携帯電話を取り出すと、どこかに連絡を付け始めた。

『もしもーし。こちら舞鶴の二等粛清艦、北上ですよー。マル被確保。被害者一名確保。タオルと女性士官の用意しといてー』
『しゅ……っ!?』

 今度こそ男が驚愕する。

『あ、あと粛清処理の事後申請もついでによろしくー。……えー、いいじゃんいいじゃんそれくらい。有明の黒い鳥も出し抜けたんだしさー』
『しゅ、粛清艦!? 何で俺が!? お前ら艦娘専門のイレギュラーハンターだろ!? 何でだよ!?』
『じゃ、そゆ事でよろしくねー……別に、あたしらは艦娘専門じゃないよ。それと、あんたンところの大井っちも、他の艦娘達も、皆とっくに解放したってさ。後はあんたが狩られる理由だけど……まだ分かってないの? 冗談だよね? それともマジで言ってんの?』

 厄介事を押し付けられた通話先の誰かの罵声を気にせずに回線を切り、携帯をポケットにしまった北上は、道端の石ころか何かを眺めるかのような目付きで男に告げた。
 そして、別のポケットから黒光りする小さな拳銃を取り出し、男の眉間に照準した。

『あんたはやり過ぎたんだよ。消えろ糞提督(イレギュラー)』


 そこから先の事を、ひよ子は何も覚えていない。
 次に気が付いた時にはしばふ村の駐在所にいて、駐在の正志木おじいちゃんが自分から調書を取っているところだった。
 その後、ひよ子の本能は重度のトラウマ化を避けるべく今日この時の出来事をきれいさっぱりと忘れてしまい、もう二度と思い出す事は無かった。
 だが、それでも断片的に覚えている事はいくつかある。
 ナイフの煌めき。のしかかる影。とても怖い何か。カンムス。黒いおさげ。キタカミ。そして無事に助かったという安堵感。

 それらは今でも比奈鳥ひよ子少佐の無意識の中に眠る、一番最初のあこがれと恐怖の形だ。



※2
 去る2月の光作戦では無事甲勲章ゲットできましたが突破以前はまさかホントにE‐3で終わりだとは信じられず実は『騙して悪いが』のノリでE‐4とかE‐4デスレーベル裏二週目とか有るんじゃねーのと思ってて戦力温存してたので全々ゲージが削れず気が付けば油が空になる事が二度もあってしまってもうすぐ三月も終わりだというのに未だに備蓄が回復しきっていない今日この頃春も目前と言えど寒暖の差が激しく時折吹く春一番も強く体調を崩されやすくある昨今ですが皆様ますますご健勝の事かと存じ上げますがイベ当時の私は照月も出ないし伊13ことヒトミちゃんが出てこない私は堀の泥沼に肩まで浸かって100数えるよりも先に凍えて死にそうだったのですが書けば出るというのならば歌っても出るんじゃねーのだろうかと考え憑いたので早速頭の中で嘉陽愛子の瞳の中の迷宮を無限ループさせてE3攻略に勤しんでいたのですがヒトミちゃんも照月も結局我が鎮守府にやってくる気配がございませんていうか結局来ませんでしたがそれでも何と我がブイン基地には松風ちゃん伊14ちゃん風雲ちゃんが来てくれました。3人ともおいでやすめんそーれうぇるかむかもーん。
 記念の艦これSS

 嗚呼、栄光のブイン基地(番外編)
『有明警備府出動せよ! 19番目のプロトタイプ伊19、抜錨します! なのねー☆ の巻(後編)』

(※2翻訳鎮守府注釈:Arcadia海域の方言で『なおPola』の意)



 ひょっとしたら間に合わないかもしれない。北上は頭の片隅でそう思っていた。
 本当に間に合わなかった。

 プロトタイプ伊19とひよ子が超展開を実行し、両者の肉体と艦体が水を吸ってふやけたティッシュペーパーのようにドロドロに溶けて混ざった、鋼色のペーストと成り果ててから数分後。
 2人ならやり遂げてくれると(勝手に)信じて見守っていた行動食4号達は、そのペーストの中から微かに、囁くような小さな笑い声が響いて来ている事に気が付いた。
 同時に、DJ物質が何かに過剰反応を起こしている事にも、各種観測機材の中にあったPRBR検出デバイスが微かに反応している事から気が付いた。

「これは……この数値は……波形もほぼフラット……また失敗ですか」
「漣以来の2ケタ台での成功例かと思ったのですが」
「しかし、これは本当に失敗なのでしょうか。それにしては反応が穏やか過ぎるような」
「どちらにせよ、次の提督と20番目のプロトの用意を――――」
「その必要はないよ」

 6人が振り返り、何かするよりも先に北上が甲標的乙型を起動。曙達七駆の4人の身体を瞬間的に乗っ取って、残る2人の黒服を射殺。間髪入れずにその4人もそれぞれ連装砲を口に咥えさせてトリガー。黒服同様、首から上がペースト状になって弾け飛ぶ。

「おやおや」
「おやおやおやおやおやおやおやおやおやおや」

 さてこれで安心して急いでひよ子ちゃんを探せる。そう思っていた北上の横にあった自動ドアがスライドし、聞き覚えのある声が6つ、響いてきた。
 今しがた殺したはずの、七駆の4人と2人の黒服だった。

「これは驚きました。まさか裏コードを自力で解除してくるとは」
「どうやったのかは分かりませんが、メインシステムに状況D0を発令させたのですね。まさか完璧だったはずの自滅コードを自らの意思で食い破るとは……」
「素晴らしい。素晴らしい」
「ああ。そうそう。私の七駆と予備端末の黒服には、各個体ごとに」

 言い切らせるよりも先に抜いたハンドガンでトリプルタップ。
 パンパンパンと、先頭にいた漣の額に3つの穴が開く。同時に乙型を再起動。残る5人もそれぞれ同士討ちで死ぬ。全ての制限が解除されている改二型艦娘には、倫理コードによるセイフティは一切かかっていない。全ては彼女自身の殺意によって行われた。
 北上の横にある別の自動ドアがスライドし、聞き覚えのある声が6つ、響いてきた。
 たった今殺したはずの、七駆の4人と2人の黒服だった。死体もそこに転がっているのに。

「私の七駆と予備端末の黒服には、各個体ごとにそれぞれ専用の製造ラインを用意してあります故」
「あなたのやんちゃにも最後までお付き合いいたしますよ。まぁ、脳に仕込む同期用の量子チップの生産数次第ですが」
「……と、言いたいところですが。大変申し訳ありませんが、今はあの子達の事を優先させてもらいます」
「貴女も心配になったからこちらに来たのでしょう?」

 行動食4号の1人、漣が指さす先。断続的な振動によって砂やら埃やらが落ち続けている天井のスポットライトによって照明されたウェルドック。
 そこには、暗い鋼色をした、濡れティッシュのような質感の巨大な何かがふるふると微かに蠢いていた。

 ――――あは。あはは。誰? 誰? あはは誰?

 そのどこからともなく、あるいは表面全体から、囁くような女の笑い声が2つ、和声のように絶妙な重なりで聞こえていた。
 北上の脳は、その片割れがひよ子の声であるという事実を拒否していた。

「……何あれ?」
「何とはずいぶんと辛辣な事をおっしゃる」
「あれこそが超展開を実行中の潜水艦娘とその提督そのものなのです」
「まぁ、潜水艦娘の超展開は、その瞬間を見た事のない方が殆どですから知らなくても無理ありませんね」
「隠密性を限界まで高めるために通常艦艇とは異なる方式のを採用していますし、そもそも超展開する場所も、その殆どが敵勢力下の海中か海底ですしね」
 ――――あは。知ってる。知ってる北上ちゃん。しってる、知ってる。なのねー☆

 鋼色の濡れティッシュの山の表面が小さく波打ち、そこから金属光沢をもった人間サイズの黒く細い腕が一本伸びて、遠くにいる友人知人にでも居場所を知らせるかのようにブンブンと振った。改二型艦娘最大の特徴である、徹底的に強化された対人索敵系は、その指の表面にあった指紋を自動的に照合した。
 してしまった。

「嘘……だよね?」
 ――――北上ちゃん。北上ちゃん。なのねー☆

 ショックのあまり、北上の膝から一瞬力が抜けてよろめく。
 何故か行動食4号達もよろめいた。感動のあまり。

「……何と! そんな!?」
「信じられません! 確かに症状は末期の、ステージ4だったはず!!」
「そこからコミュニケイションを取れるほどに持ち直すとは……!」
「愛……これぞまさしく愛です!!」

 ――――北上ちゃん。北上ちゃん。しってる。しってる。たしか、ええと、初めてであったのが、冬のプレハ……じゃなくて夏の有明警備府の正門前!!
 ――――北上ちゃん。北上ちゃん。しってる。しってる。たしか、ええと、夏のいなかの親戚のしって。知ってぅるるるぼお゙お゙お゙!!!

 北上ちゃん知ってる北上ちゃん知ってるとオウム返しに呟くだけだった濡れティッシュの山が突然、何の前触れもなしに叫び出し、沸騰しはじめた。

 ――――知らない! 知らない! こんなの知らない!!
 ――――やだ!! 止めてよ叔父さん! どうしてこんな変な事するの!? やだ! 痛い! やめて、やめてよ!!

 ひよ子とプロト19が混ざり合っていた音声が徐々に徐々にプロト1人分の物へと変わっていくのと同期して、濡れティッシュが叫ぶ内容もまた、変化していった。

「叔父さん……?」
「プロトの素体の叔父の事ですね」

 いつの間にか手にしていた紙媒体の調査資料をめくりながら、行動食4号が潮の体で言った。

「素体を厳選する際には、家族構成や過去の傷病履歴などの調査は必須ですので」
「察するに、どうもあの二人は本当に相性が良すぎたようです」
「恐らくは、ひよ子さんがあなたの事を思い出そうとして、何故かは不明ですがプロトのトラウマまで思い出してしまったみたいですね」

 ですが大丈夫です。と6人の内の誰かが呟いた。

「私のプロトと、私のプロトが選んだ提督です。今は2人を信じて待ちましょう」
「幸いにして、深海凄艦の砲撃は今の数発だけで済んだようですし」
「ここにいくらか直撃しましたが、被害は建物が揺らぐ程度で済んだようで……」
「ああ、いけませんね」

 鋼色の濡れティッシュの山がその表面に人体のパーツをいくつもいくつも精製しながら暴れ始めた。
 その中には、ひよ子を連れ去った青白い触手も無数に存在していた。

「鹵獲した忌雷まで取り込んで、自身を素材に複製しているのですか」
「これは……少し調整すれば、魚雷や忌雷の大量生産が可能ですね。補給用の生体素材は腐るほどありますし」
「生産・加工業界の革命……いえ、それだけではないですね。この状態からうまく誘導すれば艦娘と提督、両方の機能を併せ持ったハイブリットが完成するでしょう。一部のケッコン艦が出産した交雑種とはまた別のアプローチ! 新人類!! 可能性!!」
「これが、これこそが、彼女達こそが希望の光……! まさに暗闇の水平線から昇る暁の光! ああ、それにしても惜しい! もっとサンプルが欲しい!!」

 彼女一人しかいない現状では迂闊な手出しができない! 片っ端から解剖したいのに! 投与してみたい試薬もいっぱいあるのに! などと身勝手な事を繰り返す行動食4号達を余所に、鋼色の濡れティッシュの山はさらに激しく暴れ始めた。その体積を不自然なまでに膨張させながら、さらに激しく。体が建物に勢いよく当たる事もお構いなしに。
 バビロン海ほたるが、再び崩落を始める。



 海底に身を潜めていた金属塊は、叩き込まれた十数発の爆雷に対し、何をするでも無くあっけなく砕け散った。

 ――――? 全然動いてない? スクリューも?

 そして、その大反響が叢雲達のソナーを一時的に機能不全に落とし込んだ隙をついて、一本の酸素魚雷が叢雲の後方から忍び寄っていた。
 彼女のスクリューに直撃する数秒前、長門の副砲がそれの弾頭部分を精密狙撃で処理できたのは、単なる偶然に過ぎない。

『無事か叢雲!?』
「あ、ありがと! 今のどこから!?」
『分からない。ソナーが潰れた瞬間に撃たれたものとしか……私の目には突然現れたようにしか記録されていないぞ』
「何よそれ。魚雷が透明にでもなってたってい――――っ!?」

 次の魚雷群は真正面からやって来た。雷跡が18と忌雷が3。魚雷は18本すべてがハズレのコースを進んでいたが、海面付近に浮かんできた忌雷が軌道修正しながらゆっくりと叢雲に近づいて来ていた。
 叢雲と長門が自我コマンドを入力。
 叢雲は正面の忌雷の未来位置に向かって爆雷を投射。忌雷を面で迎撃する。
 長門は副砲で照準。FCSの補正を待たずに経験とカンで発砲。即座に着弾し、弾速ほぼそのままで海中に潜り込んだ多目的榴弾が狙い通りの位置と深度で起爆。深海忌雷そのものを誘爆させる事はできなかったが、大気中の五倍の速度で駆け抜ける海中衝撃波によって、その3つの忌雷の脳をまとめて揺さぶり、ぷかりと浮上させる。
 トドメに対空機銃で処理した際に忌雷の薬学的な安定が崩れて誘爆。忌雷の同時爆発により、海面は大きく凹み、海流は局所的に揺さぶられ、ハズレのコースを進んでいたはずの魚雷群の針路が大きく狂わされた。

「げ!」

 転舵は間に合わなかったが幸運にも魚雷は全て直撃コースを避けていた。だが、進路のズレたその内の数発の魚雷は、そのままバビロン海ほたるに向かって進んでいき、爆発。
 叢雲を初めとした駆逐娘達の索敵系は、今の魚雷は深海凄艦が使ってるのと同じ音紋だったと告げていた。
 続けてソナーに感。新手の忌雷が4と潜水カ級が3。

「はぁ!? どっから湧いて出たのよ!?」

 さっきのアクティブにはぜんぜん引っかからなかったのに! と叫びつつも迎撃行動を続行。両側舷の機銃で海面近くに浮かんできた魚雷と忌雷に弾幕を張り、0秒起爆の爆雷を後先考えずに放り込む。カ級は海中の轟音が過ぎ去った後で対潜魚雷でゆっくりと料理すればいい。見つけた数と撃たれた数から逆算すれば、どいつもこいつも魚雷はカンバンのはずだし。
 そう考え、爆雷の爆発によって生じた海中衝撃波で忌雷の脳に当たる部分を脳震盪で昏倒させ、無様に浮かび上がってきたところを長門が副砲と機銃で丁寧に処理していく。カ級の始末は音が静かになり始めた頃を見計らって、先ほど沈めておいた有線式の対潜魚雷を活性化。カ級らからすれば突然目の前に魚雷が現れたような物である。その殆どは逃げる事もままならず、帝都湾海中の藻屑と化した。一匹だけ逃げおおせた個体がいたが、ややもしない内に件の伊58の放った一発の無誘導魚雷が直撃し、粉微塵になって死んだ。
 いつの間にか、誰に悟られる事無く叢雲の真横の海中に甲標的が付けて来ていた。

『敵に死を。我に生を』
「……何気に練度高いわね。ホントに粗製艦娘なのかしら? 人間性の薄さはそれっぽいけど」
『だったら、ブルネイの代表者に話してウチに移籍させてもらうか?』
「ああ、良いわねそれ。こんな大事になる前だったら最高の――――ッ!?」

 叢雲達のPRBR検出デバイスにhit. 感1。海中のカ級や忌雷の反応ではなかった。
 とても微弱だが、海上で、至近距離からの反応だった。

 その場にいた誰も彼もがそちらに注目する。

 今しがたの流れ魚雷で海上構造物の一部が脱落したバビロン海ほたる。
 それを内側から巨大な何かがさらに打ち崩し、外に出ようとしていた。

「……なに、あれ」

 バビロン海ほたるに空いた大穴。その暗がりから、PRBR反応の発生源が這い出してきた。
 暗がりから響くクスクスとした笑い声。巨大な五指が縁を掴み、続いて腕、続いてトリプルテールの青い髪、紺のスク水と『むーざんむざん』と書かれた白いゼッケン。頭のてっぺんからつま先までを覆い尽くす、ほとんど水同然の粘性をした無色透明のローション。バストは実際豊満だった。
 IFFは、どういう訳か、帝国海軍のコードを発していた。

「……なに、あれ」

 その巨体はごく普通の人型をしていた。故に口は1つしかないはずなのに、2つの声が出ていた。片方はクスクスと微かに笑い続け、もう片方はメソメソと泣き続けていた。
 その片割れが、彼女達も知るひよ子の物であるとは思いもよらなかったようで誰もが『何かどっかで聞いた事のある声ね』程度にしか思っていなかった。

『あれこそはプロトタイプ伊19号ですよ』

 突如として、叢雲達の回線に割り込み通信が入った。
 発信源はあの巨体のすぐ傍。その瓦礫の上に、奇妙な形状のメカニカル・バイザーを掛けてお揃いのセーラー服を着て、ハンディカムやらランドセル式のパラボナアンテナやらノートパソコンに繋いだ現地持ち込み用のPRBR検出デバイスやらの観測機器を担いだ4人の艦娘達――――第七駆逐隊の曙、漣、朧防壁、潮だ――――が立っているのが叢雲達からでも見えた。

『割り込み通信で失礼します』
『私はTeam艦娘TYPE。第七駆逐隊およびD系列艦開発担当の行動食4号と申します。もちろん、偽名です』
『突然で申し訳ありませんが、あなた方には暴走したプロトを止めていただきたいのです』
『あれはようやく起動に成功した個体。それに加えて、極めて特異なサンプルが搭乗しているのです』

 ――――コイツ、何処のかは知らないけど提督の事サンプルって言い切りやがった。

『あれほど貴重なサンプルは、私も初めて見たのです』
『そこから得られるデータもまた、かけがえのない大切なもの』
『幸か不幸か、今は重度のトラウマ酔いからくる暴走だけで済んでいるようですが』
『万が一にも何かあって、彼女達の献身をこんな事で失ってしまうのだけは避けたいのです』
「無茶言うわね」

 叢雲の呟きも最もである。通常艦艇の姿形のままの艦娘と超展開した艦娘が戦う。それはつまり、通常艦艇の姿形のままの艦娘と雷巡チ級のそれとほぼ同じ構図であるという事だ。
 あの、艦隊戦に文字通りの意味での格闘戦を持ち込んだ大戦犯と。
 超展開機能を有した最初の艦娘が世に出てくるまでの間に、数多の艦艇を海の底に叩き込んだ、あの雷巡チ級と。

「無理ね」
『無理だな』

 提督不在でも超展開が実行できるようになるダミーハートを搭載している艦は、今この場にいないし。と叢雲が告げる。
 ダミーハートなら生産中のがいくつかありますが。という行動食4号の提案は聞こえなかった事にした。

『無理ですか……』
『それは大変困りました』
『このままではプロトがどこまで暴走してしまうのか、予想が付きません』
『比奈鳥ひよ子さんと同じレベルのサンプルがもう一度来るとは到底思えないのですが……実験に使う提督の母数を増やして可能性に期待してみますか』
「『ちょっと待て!!』」

 突然の爆弾発言に叢雲と長門が叫んだのと同時に、南側――――外洋と通じる水道方面から、汽笛が聞こえてきた。続けてIFF情報が更新される。
 第三世代型深海凄艦の死骸を運んでいるという輸送艦隊と、その護衛艦隊。

「汽笛!? まさかもう護衛艦隊が到着したの!?」
『馬鹿な、早すぎる! まだ掃海任務は終了していないぞ!?』
『こちら特別編成増強護衛艦隊の総旗艦、横須賀スタジオ所属の球磨だクマ。掃海中の娘達、済まねークマ。護衛対象の馬鹿共が先走ったクマ』

 その最先頭。横須賀鎮守府もとい横須賀スタジオのIFFパターンを持つ軽巡洋艦から無線が入る。

『あ! 球磨さん!?』
『おぉーう。そのIFFは有明警備府の連中かクマー。おひさしぶりだクマー☆ ……とか言ってる場合じゃねー雰囲気っぽいなクマ』

 ――――やめてよ叔父さん! どうしてこんな事するの!? 来ないで! 来ないで!!
 ――――大丈夫。これなら、この力なら。誰にも、何にも、負けない。負けない。

『アレ、新手の深海凄艦かクマ? なのに何でIFFはブルークマ?』
「あ、あれウチのひよ子ちゃ……じゃなくて比奈鳥少佐が搭乗しているんです。TKTに騙されて、強制的に」
『強制て……潜水娘との超展開試験は完全志願制の筈じゃねーのかクマ?』

 事実である。
 潜水艦娘との超展開は他の艦娘のそれとは異なり、兎に角その隠密性を高める事を第一に注力されている。他の水上艦娘のような純粋エネルギー爆発や轟音なんて起こさないし、一度その “中身” ごとドロドロに溶けて蕩けるのだって、余計な海流の乱れや雑音を出さないためであり、提督の負担や艦娘との相性、成功率などは最初から考慮されていない。
 他の水上艦娘との超展開に失敗しても提督と艦娘その双方にさしたる被害は無いが、潜水娘とのそれは、ドロドロのグズグズになったまま、心も体も元に戻れなくなる――――事実上の死を意味している。
 そんな危険な方法を取っているのだ。インスタント提督の適性試験の最終試験として実際に超展開してみるというのがあるが、この潜水娘達だけはその試験から例外的に廃除されている。そこまでの試験を潜り抜けた提督候補生達が死んでは元も子もないからだ。
 なので、超展開の実行を前提として(秘書艦として)潜水艦娘を艦隊に加える場合には、実際の失敗時の映像資料を視聴した上で座学講義を行い、それでも希望する場合は誓約書に判子を押して、今回のように何処かに集まってから、超展開試験を行うのが慣例である。

「だから、騙されたんです。届いたメールは本物だったんですけど、それが潜水艦だとは伏せられていたんです」
『……あー。研究チームの方ならやりかねんクマー……ま、でもぶっつけ本番で潜水娘と超展開して生きてるだけでも運がいいクマ』
『あ、あの! 球磨さん、提督を助けてもらえないでしょうか!?』

 割り込み通信。今まで黙って通信に耳を傾けていた有明警備府の駆逐娘『秋雲』から。

「口を慎みなさい秋雲! 指揮艦同士の会話中よ! ……すみません球磨さん。配下の者が失礼を」
『構わねークマよー。それに、そっちの方が話が早いクマー。球磨も、生きて歩いてる知り合いむざむざ死なすのは趣味じゃねークマ。それに』

 超展開したプロト19あるいはひよ子が球磨や長門達に視線を向けていた。いつの間にかその右腕には、長大な4本の触手を持った深海忌雷が手品のように出現し、その触手を腕全体に伸ばして絡みついていた。

 ――――負けない。負けない。この力なら。みんな倒せる。やっつけられる。うふ、うふ、うふふ……!
 ――――怖いものはみんな。消してしまえる。消してしまえばいい……!

『……それに、もうあっちはやる気みたいだクマ。見た感じよくあるトラウマ酔いみてーだし、なんとかなるクマ』

 トラウマ酔いの事なら、艦娘なら誰でも知っている。艦娘と提督の意識を一つに繋げる超展開。その意識結合の際に、どうしても相手の記憶や思い出が自分の中に流入してしまうのだが、その際に起こりうる悪影響の事である。
 何かの拍子に思い出したトラウマや嫌な思い出が相手に伝わり、それを今度は自分が受け取って元からあった分に合算され、それをさらに相手が受け取って、と言った具合に進行する負のスパイラルである。そのプロセスがよく似ている事から、トラウマ・ハウリングとも呼ばれている。
 そして、それらは大概、自分も相手も周囲も巻き込んで、行きつく先まで暴走するのがオチである。

 プロト19は、傍から見ていると提督と艦娘の意識は完全に混濁しているようにしか見えなかったが、これもまた、トラウマ酔いの症状の1つである。
 もしも今ここに、ブイン基地の井戸枯輝少佐がいたのなら、以前の勤め先で得た知識と経験から、今の彼女達は自他の記憶の区別も、記憶の中の妄想と現実の区別も付いていないのだろう。と答えてくれるはずだ。

 ――――やっつける、やっつけられる……! おじさんなんて怖くない! もう何もこわくない!!
 ――――消えろ消えろ消えろ……!

 超展開したプロトが一歩歩を進める。不可視の殺気が向けられる。
 球磨達が――――艦艇本来の姿形に戻っている今は肉の身など無いはずなのに!――――ぞわりと総毛立つ。

『来るぞ!』
『ヒヨコのくせにウサギとか追ってんじゃねーぞクマ! 護衛艦隊総旗艦より副旗艦! 指揮権一時委譲! 球磨はアレの排除に向かうクマ!!』
『了解。御武運を』
『プロデューサー、超展開だクマ!! 幌筵(パラムシル)式修正術だクマ、死なない程度に殴って目を覚まさせてやるクマ!!』

 超展開したプロト19がクスクスうふふと笑いながら更に歩を進める。護衛艦隊から単独で離れた球磨の艦首が天を向く。船底が大気の中に露わになる。
 プロトがクスクスうふふと笑いつつ、伸ばした腕が球磨の船底に触れるまさにその瞬間。

『球磨、超展開だクマ!!』

 軽巡級の艦娘が超展開する際、完全に無防備になるその瞬間を保護するべく意図的に発生させているクラス3の熱衝撃波がわざと接近させたプロト19を直撃する。
 爆発的な熱衝撃波にたまらずよろけたプロトに対し、未だに輝き収まらぬ光の中から超展開を完了した球磨が飛び出してきて接触。肋骨狙いの右の肘打ち。それに対しプロトは一切退かず、体ごとぶつかって行く。左半身になって脇を締めた左腕で肘打ちの軌道を逸らし、そのまま背後に抜ける拍子に球磨の背中を押す。転倒こそしなかったが球磨の姿勢制御系が転倒寸前にまで傾く。
 背後に振り向きつつ立ち上がりかけていた球磨の右頬に衝撃。プロト左足の蹴り。それがどうしたとばかりに球磨が頬にめり込んだ足の裏もろとも強引に立ち上げる。片足を上げたままのプロト19が盛大に尻餅をつく。

『舐めるなグマ゙ァァァ!!』

 冬眠しそびれたヒグマのような絶叫を上げつつ球磨が自我コマンドを入力。予備のCIWSを起動。固く握った拳の甲から、発光するルーン文字の刻まれた太く短く鋭い爪が展開される。
 立ち上がったプロトに向かって、これでもかと言わんばかりの単調な左右の横薙ぎを繰り返す。

「ちょ! 球磨さん!?」
『灰色の神バゴスよ! 狩りの同胞(ともがら)ワイルドスピーカーよ! 我に神を10回クロックする機会を与えたまえだクマー!!』

 激昂しているように見えて実は頭は冷え切らせたままらしく、わざと大振りで振り回した腕を立ち上がったプロトが掴んでいなそうとしたのを逆につかみ取り、純粋な機関出力と腕部運動デバイスのパワーのみで投げ飛ばす。
 大波飛沫を上げてプロトが背中から海面に叩き付けられ、痛みに呻くよりも先に追撃のストンピング。
 プロトは非脊椎動物的な柔軟性を発揮してそれを回避。その不気味な回避方法に球磨が『うぇっ』と顔をしかめ追撃の手を躊躇った瞬間に、やはり頭足類めいたしなやかさで立ち上がる。
 クスクスうふふと笑いつつ、どうだと言わんばかりに忌雷の巻き付いた右腕を伸ばし、球磨を指さす。

『気色悪い動きしてんじゃねーぞグマ゙ァッ――――!』

 球磨が腰を低く落とし、両拳を半開きにしたまま突進。クリンチ密着から絞め技に繋げようと考えていた球磨の視界が、青一色に染まる。

(海――――?)

 ほんの半歩だけ左にそれたプロト19に足払いを掛けられ、ついでに背中を押されて勢いそのままに前につんのめり、バビロン海ほたるの全高を遥かに超える盛大な水柱を上げて球磨が顔面から海の中に叩き付けられる直前に前回り受け身。背後を振り返りつつ立ち上がるのとほぼ同時に距離を詰めていたプロトの右ストレートを右腕一本であっさりと掴みとり、そのままねじり上げて拘束しようとした。
 確かに掴んでいたはずの腕が抜け、バランスを崩した球磨もプロトの体をすり抜けた。まるでお化けか何かのように。

「『『『!?』』』」

 突然かつ予想外にも程がある事に硬直した球磨は受け身も取れずに海面にダイブし、バビロン海ほたるの全高を遥かに超える盛大な水柱を上げた。

 ――――球磨を一隻叩き伏せてターンエンド。なのねー☆

 立ち上がりかけていた球磨の襟首をプロトが掴んで無理矢理立たせ、そのまま引きずり倒すようにして今度は背中から海に叩き付けた。掴まれた際に本能的に放った球磨のバックナックルは狙い違わずプロトの実際豊満なバストの下側に隠された鳩尾に吸い込まれ、何事も無かったかのように反対側にすり抜けた。

『責めは後で聞く、許せ!!』

 遠巻きに見守っていた長門が副砲の1つで発砲。徹甲弾によるプロトの左ヒザへの精密狙撃。たとえ相手が理解不能な能力を持った艦娘でも、足の一本も取られればまともに動けまいという考えから。それに、艦娘なら修理は容易だし、中に乗り込んでいる提督への被害はせいぜいが痛覚信号によるダメージフィードバックくらいのものだ。よほど相性が良くて超展開適性が高すぎたりでもしない限り、実際に取れたりもげたりするわけじゃあない。
 そう考え、発射された徹甲弾はしかしプロトの体をすり抜けた。ただ、砲弾がプロトに着弾した際に体表に波紋が生まれ、すり抜けた際にごくごく小さな飛沫が飛び散っていたのが、対潜狙撃用に限界まで精度を上げていた長門の観測デバイス群にはしっかりと記録されていた。
 そして、微弱ながらもレーダー波を返している事もあって、少なくとも、妖精さんのような触れる立体映像やオバケの類でない事だけは確かだった。

(だとしたら、一体あれは――――)
『恐らくですが、魚雷の隠密発射プロセスの応用でしょうね』

 だとしたら一体あれは何なのだ。そう心の中で呟きかけていた長門達に割り込み通信。発信源は先程と変わらず、崩れかけたバビロン海ほたるの上。奇妙な形状のメカニカル・バイザーを掛けてお揃いのセーラー服を着て、ハンディカムやらランドセル式のパラボナアンテナやらノートパソコンに繋いだ現地持ち込み用のPRBR検出デバイスやらの観測機器を担いだ4人の艦娘達――――第七駆逐隊の曙、漣、朧、槍持ってない潮だ――――からだった。

『あれには見覚えがあります』
『超展開の潜水艦娘が魚雷を発射する際には、発生する音と乱流を軽減するため、超展開の部分的な応用で魚雷発射管の周辺を再度溶かしてから、注水から発射までを行う様になっているのです』
『空気と硬い金属よりは、ふやけたトイレットペーパーを掻き分けた方が音も乱流も少なくて済みますからね』
『ていうか、それ防御に応用しようとか、普通考えもしないし有り得ないですってば。理論上は兎も角』

 あれが机上の理論ではない事を実証しようとして、私の本体(オリジナル)と伊168(イムヤ)で実験をしたら失敗して生体素材になってしまったんですけどね。と漣の体をした行動食4号が呟いていたが、誰もそんな事聞いていなかった。
 右腕に巻き付いていた深海忌雷が触手を素早く伸ばし、少し距離を取って仕切り直そうとしていた球磨を打ち据え、彼女が怯んだ隙に、プロトが海中に潜ってその姿と音を完全に消し去ってしまったからだ。



 そして、バビロン海ほたるの最下層から地上に向けて移動中の北上も、そのやり取りを傍受していた。
 通信を傍受した北上のシステム統括系は状況D0の終息を宣言。通常モードに戻ってログが大本営に自動送信される直前、北上は先ほどの転倒を理由に適当なエラーをこさえて状況D0発令が誤作動であったとして、ログの送信をストップさせた。

「待ってて……待っててね、ひよ子ちゃん!」
『護衛部隊は即時湾封鎖! 爆雷埋伏の計と有線魚雷のワイヤーで結界を張れクマ!! 駆逐ども、アクティブ打て!!』
『ソナー波返って来ません! 原因不明!!』
『PRBR検出デバイスも反応しっぱなし! あのローションから! 本体を追跡できません!!』

 衝撃で機能停止したエレベーターのドアをこじ開け、天井の蓋を開けてシャフトの中にある非常用梯子を必死になって昇り続ける北上の心は、焦燥のみが占めていた。

『あれだけ球磨にこだわってたのに、いきなり逃走するとは思え――――』
『球磨さん後ろ!!』
「球磨さん、聞こえますか!? もしもし、もしもし!?」

 受信は出来ても送信は出来なかった。今度はちゃんとデバイスに繋いだし、故障も無かった。パケット化された電波もきちんと発信されていた。返答だけが無かった。恐らくは建造物自体に何か細工がしてあるのだろうと北上はアタリを付けていた。
 なので今の北上の耳に入る音は、梯子を踏みしめる軽い金属音、遠雷にも似た戦闘音、そして刻一刻と悪化する状況と怒号。それらだけが全てだった。

『クソが! 着任一年のペーペーだからってナメてたクマ……!』

 ひよ子はいない。ダミーハートも無い。超展開の出来ない艦娘1人が、あの怪獣大決戦のど真ん中に言ったところで何が出来るというのか。そんな事などとうの昔に頭の中から消え去った北上はひたすらにエレベーターシャフトの中の梯子を上り続ける。
 次こそは間に合わせる。手遅れになどさせるものかという一念のみを心に懐いて。

『おらっしゃクマー!!』
「外に……外にさえ出られれば何とか出来」

 衝撃。
 北上の頭の少し上の壁から盛大な音と衝撃が発せられたかと思うと、内側に向かって破壊された。粉塵と破片に覆い隠される直前、巨大な木の幹と根っこのような物が壁を突き破って入ってきたように見えた気がした。
 粉塵の収まった先にあったのは、ホントに樹の幹と根っこだった。

「……何コレ」

 呆けていたのは数秒ほどだった。
 急いで崩れかけた梯子を木の幹の所まで昇ると、今度はその穴から外を目指し始めた。そして外に出たと思うよりも先に、暗闇に慣れた目に刺さるような光度に思わず目を瞑って片手で庇を作り、空気の臭いと温度が変わった事を北上は感じた。
 バタバタと耳の中を打ち続ける磯風(not艦娘)に混じって球磨達の怒号が聞こえてくる。不気味なエコーが効いたプロト19のクスクスウフフも聞こえてくる。うっすらと目を開けてみると、ほぼ目の高さにあった水平線は曇り空の隙間から射す冬の陽光によって銀色に輝いており、視線を眼下に移してみると、思いのほか遠くに海面が見えた。
 超展開した球磨とプロト19は、足元の海面と水平線の中間地点にいて、打撃格闘戦を繰り広げていた。
 その怪獣大決戦のワンシーン。一瞬の隙をついて繰り出された球磨のハエタタキがプロトの脳天を直撃し、思わずふらついたプロトに球磨が回し蹴り。
 轟音と衝撃。
 後頭部からバビロン海ほたるの壁にめり込んだプロトの頭は、北上のすぐ真横にあった。
 それを好機と見た北上は、己の提督の名前を叫んだ。普段の北上を知る者からすれば、信じられないような必死さと大声だった。

「ひよ子ちゃああああああああん!! こっちを見ろおおおおおお!!」

 自身の身長を超える直径の瞳孔と北上の目が合う。自我コマンドを入力。以前、加賀にも使った甲標的用の緊急停止コマンドを送信。
 プロト19の身体が、凍り付いたかのように停まる。

【メインシステム戦闘系より報告:試製甲標的(生体)は強制停止プログラムにより強制終了しました】
【メインシステム戦闘系より報告:不正な外部接続により、メインシステム戦闘系はトレーニング・モードを強制終了しました】

 ――――きた、かみ……ちゃん……?



「おらっしゃクマー!!」

 球磨が両腕で抱えたメインCIWS――――超展開した球磨自身よりも巨大な樫の木(※『Where is my acorn?』と小首をかしげる可愛いリスのぬいぐるみ付き)を振るう。
 プロトはそれを難なくしゃがんで躱す。空振った手ごたえを感じた球磨はまったく躊躇せずに樫の木を手放し、半回転の勢いそのままに回し蹴りに繋げる。プロトの顔面を照準するも小首をかしげて紙一重で回避される。
 本能的に球磨を脅威と判定した右腕の忌雷が再び触手を槍のような速度と鋭さで伸ばす。その内の一本が顔面に突き刺さる直前、全力で奥歯を噛みしめて防御。だが勢いだけは殺しきれず、身体が一瞬宙に浮く。忌雷が見た目を裏切る腕力で球磨を宙吊りにする。
 一方、球磨の手から放り投げられた樫の木はバビロン海ほたるを直撃。海上構造物が完全な崩落を始める。

「ふんクマ!!」

 球磨は触手を噛みちぎって飲み込んで強引に宙吊り状態から脱出。自由落下の勢いも借りて、プロトの脳天に張り手を一閃。不意打ちで決まったらしく、今までのように液状化して回避されなかった。

「ひよ子ちゃああああああああん!! こっちを見ろおおおおおお!!」

 崩れかけたバビロン海ほたるの壁面。いつの間にかそこに立っていた北上のその声に振り向いたプロトは全ての動きを止め、今までの狂乱がまるで嘘だったかのように凍り付き、真横を振り向いた。

 ――――きた、かみ……ちゃん……?
「止まった……?」
『おう……、手間かけさせやがってだクマー……』

 再起不能にならない様に手加減をしつつ生け捕りにするという、超展開中の艦娘の仕様外の戦いを強いられたせいか、流石の球磨も疲れたようでプロトの肩に両手を置いて、大儀そうに大きなため息を上半身全体でついた。

 明言する。誰が悪かった訳ではない。

 暴走が止まったとはいえプロト19の方はまだトラウマ酔いに飲まれていたままだったし、球磨はひよ子の過去を知らなかったし、ひよ子も昔何があったのかを覚えていなかった。もちろん北上もそうだし、そもそも行動食4号がいらん事しなけりゃここまで話が大きくなることも無かったし、曇り空の切れ間から差し込んだ一際強い陽光も、あと五秒か十秒早いか遅いかしていたら、こんな事にはならなかった。
 球磨の背後から差した光によって、球磨の顔が影になる。そして、プロト19の――――プロトと感覚を共有しているひよ子の――――両肩は掴まれたままで、戦闘の痕跡で体中が痛く、背中はバビロン海ほたるに押し付けられて身動きが取れない状態にあった。
 フラッシュバックする光景。
 キタカミ、背中の冷たい床、のしかかる影、殴られた頬の痛み、ナイフのきらめき。
 いつか、どこかであったはずの、ひよ子の覚えていない記憶。

「あ……嫌ああああああああああ!!!!!」
【メインシステムデバイス維持系より報告:外装デバイスK02の意識レベルに異常発生を確認。状況D4と判断。非常事態権限につき、実行中のTaskを強制終了し、戦闘モードを起動します】
【メインシステム統括系より報告:メインシステム、戦闘モード、再起動します】
「ああああああああああ!!!!!」

 突如の事態に一瞬対応が遅れた球磨の腕を振り払い、再起動した忌雷の触手で球磨を打ち払う。ひよ子もプロトも完全に暴走しているためか、今まで以上の力強さだったが、そこには技術というものが全くなかった。
 故に。

「いい加減に目を覚ましやがれだクマー!!」

 故に、ルーン文字の発光する爪を突き立てないように気を使った球磨の全力全開の張り手一発でプロトタイプ伊19号は完全に目と脳と首を回し、今度こそ完全に沈黙した。



 夜眠っていて、悪夢の中で腕をパンチをしたら、掛け布団ごと中空に腕を伸ばしていた状態で目を覚ました時のような。ハッと目を覚ますとはこういうことを言うんでしょうか。
 次に私が意識を取り戻した時に思った事がそれでした。

【メインシステム戦闘系より報告:ウェポンデバイス『試製甲標的(生体)』は外部からの不正なコマンドによりにより強制終了しました】
【メインシステムデバイス監視系より報告:内装デバイスK02の意識レベル回復を確認。艦体操作の一次優先権をK02に復帰させます】
【メインシステムデバイス監視系より報告:状況D4の終了を確認。メインシステムは戦闘モードを終了し、通常モードで再起動します】
【メインシステム統括系より報告:メインシステムは戦闘モードを終了します... ... ... メインシステム、通常モード、再起動します】

 そして脳裏を高速でスクロールしていく各種報告を余所に、私の開いた目に飛び込んできた光景。
 それは、

『球磨ちゃんのドキドキ植樹体験コーナー、始めんぞグマ゙ァァァー!!』
『球磨さん待って! 死ぬ! そんな太いのひよ子ちゃん死んじゃうから!!』

 それは、巨大な樫の木(※『Where is my acorn?』と小首をかしげる可愛いリスのぬいぐるみ付き)を小脇に抱えた球磨さんが、全速力でこちらに突撃してくる光景でした。

「え? あ? は、ほあぁ!?」

 それを咄嗟にしゃがんでかわすと、おそろしく冷たい目つきをした球磨さん(顔面に無数の吸盤の跡あり)と目が合いました。

「……どーやら今度こそ戻ってきたみたいだクマ」
「……はい?」



 本日の戦果:
 護衛目標『重巡リ級のサンプル』『軽母ヌ級のサンプル』の護送は完全に成功しました。
 Team艦娘TYPEの行動食4号の興味は完全にそちらに移りました。
 帝都湾内における、深海忌雷の掃海に成功しました。
 ブルネイ泊地第13艦隊に所属する潜水艦娘『伊58』の拿捕に成功しました。
 ブルネイ泊地第13艦隊に所属する他の潜水艦娘らの拿捕に失敗しました。掃海部隊による捜索も失敗しました。追跡不能。

 各種特別手当:
 大形艦種撃沈手当
 緊急出撃手当
 國民健康保険料免除

 本日の被害:
 潜水艦『プロトタイプ伊19号』:中破(Team艦娘TYPE所属。装甲表面損傷、頸椎デバイスに微弱な応力異常、部分的な超展開の実行乱用による提督・艦娘・一部艤装の混在化、DJ物質からのD汚染、超展開用大動脈ケーブルの異常劣化etc etc……)
 重雷装艦     『北上改二』:健在(有明警備府所属)
 駆逐艦       『叢雲改』:健在( 〃 )
 戦艦        『長門改』:健在( 〃 )
 駆逐艦        『秋雲』:健在( 〃 )
 提督     『比奈鳥ひよ子』:肉体的には健在( 〃 )

 軽巡洋艦      『球磨改』:小破(横須賀スタジオ所属。表皮装甲に軽傷。ネイルアート全損。超展開用大動脈ケーブルの異常劣化、主機異常加熱etc etc……)
 潜水艦      『伊58号』:鹵獲(艤装解体の上、腐れ谷最終処分場に引き渡しの事)

 各種特別手当:
 入渠ドック使用料全額免除
 各種物資の最優先配給

 特記事項:
 プロトタイプ伊19号(以下プロト19)は実戦データ採取目的のため本日現時刻をもって、Team艦娘TYPEより有明警備府、比奈鳥ひよ子少佐の麾下艦隊へと移籍するものとする。
 比奈鳥ひよ子少佐は、Team艦娘TYPEに対し、定期的にプロト19の各種データを提出する事。
(※提出先の住所宛先郵便番号および、TKT各職員からの送ってほしいデータのリクエストは後日応募ハガキにて郵送する)

 以上



 真っ赤に傾いた太陽に照らされたアスファルトに響くのは、大掛かりな護送車両のアイドリング音。

「横須賀湾発、三浦半島南端沖の人工島『腐れ谷』最終処分場行き。艦娘護送車が1……よし、OK。バード4よりママ・バード。バード4よりママ・バード。護衛目標の全車両の出発準備完了を確認。車両に異常無し。周辺に異常無し」
『ママ・バード了解。引き続き周辺の警戒を厳となせ』

 黄昏時の、帝都の高速道路。
 消えゆく赤色と薄暗い影色のコントラストがやけに綺麗に見える都市街を眼下に見下ろす、とある川の橋の上。
 そこが今日の私達――――有明警備府第一艦隊のお仕事場所です。
 今日の護送対象は冷凍マグロではなく、艦娘の伊58号、通称『ゴーヤちゃん』です。私は詳しく知らされていなかったのですが、帝都湾に潜んで実弾演習やってたとの事。あの大騒ぎの後で叢雲さん達が捜索したところ、海底の残骸の下に埋まって隠れており、そこから複数の甲標的を操作していたそうです。叢雲さん達が見つけてなかったらどうやって脱出するつもりだったんでしょうか。
 そしてそのゴーヤちゃんは、さっきから車の中でうつむいたまま、一言も発さず、動かずのままでした。

「……」
「バード4了解。交信終了(アウト)……と、言いたいところなんですけど」
『ん? 何よ?』

 バード1――――叢雲さんが私の呟きを聞きつけたのか、聞いてきました。
 腕時計を見て最終確認。うん。間違いない。

「バード4よりバード1。あと5分だけ出発を待ってもらえませんか」
『それは構わないけど……何かあるの?』
「はい。そろそろかしらね……ね、ゴーヤちゃん。ちょっと外を見てもらえる?」

 琥珀色の時間が終わり、紺より暗い鉄紺色に染まり始めた空。地平線の向こう側に隠れ始めた太陽。赤なのか黒なのかもうハッキリとしない光で塗りたくられたビルと街と道路。
 そこに、

「あ……」

 そこにぽつぽつと灯り始めた、ダイヤモンドのように輝く、小さな小さな無数の光。
 夜の輝き。電気の色です。
 あちらでまばらに輝くのは住宅街の街灯でしょうか。あのあたりで川の流れのように規則的に動いているのは大きな道路を走る自動車のヘッドライトでしょうか。

「帝都の燃料事情も、最近では回復傾向にあってね。数日に一度はこうして、配電制限が解除される日があるの。それが今日」
「……」

 ゴーヤちゃんは、大きく目を見開いて、半開きになった口の端から小さな溜め息のようなものを出しながら、その光景に見入っていました。
 清少納言は秋は夕暮れとか言っていましたが、都市も夕暮れです。電気の付き始めた今この時間帯こそが一番綺麗だと思います(※筆者注釈:都市の夕暮れは良いぞぉ。そんな時間まで外回りが稀に良く有る社畜が見た光景なんだから実際間違いない)。

「この景色は貴女が。ううん。貴女達が運んできた燃料が無かったら見られなかった景色よ。良くやったわ。だから胸を張って」
「……は」
「ん?」
「……ゴーヤは、その言葉……っ、て、提督に、……っ! 提督に言って欲しかったでち……!!」

 転落防止の鉄柵を握りしめ、夕焼けの残滓すらも消え始めた遠くの景色に魅入ったまま、ゴーヤちゃんは静かに涙を流し続けていました。
 いつまでも。いつまでも。








(エピローグ)

 あれから数日後の事です。ゴーヤちゃんを送り届けた直後に突如として『行動食4号! 貴様どうしてこんなに面白そうなの(素材)放っておいたんだ!』と叫んで乱入してきたTeam艦娘TYPEの方々に連れ去られ、押し込められたTKT本部の病室(※翻訳鎮守府注釈:『けんさしつ』と読む)からようやく解放され、押し込められたついでに治療と散髪も済ませて有明警備府にようやく帰って来たのがつい昨日の事です。

「そういえば、プロト19ちゃんはもう着いた頃かしら」

 そして、TKT本部の病室(※翻訳鎮守府注釈:『けんさしつ』と読む)で説明されたところによると、どういう経緯があった故かは分かりませんがプロトタイプ伊19号こと、プロト19(イク)ちゃんが私の麾下艦隊に加わる事になり、有明警備府に着任してくるのがまさに今日だったのです。

(せっかくだし前髪、もう少し弄った方が良かったかな……?)
「ひよ子ちゃーん、そろそろ歓迎か、い……が……」

 トイレの鏡の前で身だしなみをチェックしていると、プロト足柄がやって来て、私の事を見て固まってしまいました。

「……ひ」
「? どうしたんですか?」
「ひ、ひよ子ちゃんがオシャレしてる!? 何か垢ぬけた感じの髪形してる!?」
「え、え? え?」
「まさか……まさかひよ子ちゃんが、ひよ子ちゃんが私よりも先に男を知ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「え、え、え!? あれ、何で前髪弄ってただけでそんな話になってるの!? ていうかプロト19ちゃん女の子だし!? 忌雷ちゃんは人じゃないし!?」
「男どころか人型ですら無かったぁぁぁァァァ!!!!」
「ご、誤解です! 誤解ですってばぁぁぁ!!!」


 ひよ子が男を知った。人型ですらなかった。
 大声でそう絶叫しつつ女子トイレから半泣きで飛び出してきたプロトタイプ足柄のその声を聞いた、本日の調理担当の比叡はいつもの白米ではなくお赤飯カレーにしようと決心し、お掃除担当の軍属のオバちゃんは『若いって良いわよねぇ』と意味深な笑い顔を浮かべてお掃除を続行し、今度のコスプレ天下一舞踏会に着ていくコスチューム選びに悩んでいた駆逐娘の夕雲は『春だからかしら。なら弾幕projectのリリーカサブランカのコスにしましょうかしら、それとも無難にブラックサレナ……?』と更に悩む事になり、〆切から解放された秋雲はイラスト描きとしては最高級のネタを逃した事に血の涙を流して悔しがり、塩太郎は『ひよ子が男を知った』の時点でショックのあまり力加減を誤ってレンチを締め付けすぎてボルトの頭をねじ切ってしまい『人型ですらなかった』の時点でショックのあまり同体積の塩の柱と化した。

 比奈鳥ひよ子少佐の東奔西走の結果、彼ら彼女らの誤解が完全に解けたのは、プロト19着任の歓迎会よりもずっと後の事になった。
 有明警備府は、帝国本土は、とりあえずは平和だった。
 とりあえずは。










 本日のOK(作中で説明する余地無かった今回の登場キャラ紹介ここでします)シーン


 塩柱 夏太郎(シオバシラ ナツタロウ)

 有明警備府に所属する整備兵。通称『塩太郎』
 筆者の脳内における外見上のイメージは武内P(モバマス)とかランデル伍長(パンプキン・シザース)とかのような、身長高くて筋肉質でおっかない無表情だけど、でもあんま怖いオーラは出してない系の人。
 ひよ子に懸想しているも、口にも顔にも行動にも出せないヘタレ。
 精神的に過度のショックが掛かると同体積の塩の柱と化す特技を持つ。


 潜水艦娘『プロトタイプ伊19』

 ジェル状デバイス改良型艦娘。
 航巡娘『鈴谷改』で得られたデータを基に、深海凄艦の自我伝達触媒「DJ物質」を極限まで活用した艦娘。

『DJ物質に直接身体を接触させることで、超展開中じゃなくても操作機器を介さずに艦を操作できるんじゃね?』
『それだと鈴谷改と同様にメンテや掃除が大変だ。だから専用の有線パイロットスーツを用意して、その中だけを満たそう』
『『『鬼才現る』』』

 との考えから、搭乗する提督は専用のパイロットスーツ(触手服)のみを身につけた状態でジェルを中に入れられた。しかし人間の方が拒否反応を示すことが多く、有人運用の際には大変良く訓練された提督を用意する必要がある。
 また、パイロットスーツ(触手服)の中にのみ充填されているはずのDJ物質が当たり前のように外部に漏れ出す事と、DJ物質が人間の精神に与える影響に関しては、明らかになっていない。
 なお、このプロトを初めとして、全ての『伊19』には大量のDJ物質を短時間の間に外皮装甲の表面より分泌する事が可能であるが、これはDJ物質から微量に放出されてるPRBR値が深海凄艦にある程度の誤認性を与える可能性があるとの考えおよび、DJ物質特有の粘性がソナー反射率および接触機雷の信管をある程度誤魔化すため、意図的に分泌させる仕様になっており、故障やバグではない。

 なお、どうでも良い事だが、性的快楽の爆発的な増大によって潜水艦娘との超展開適性は後天的に向上するという仮説は、先行量産型の伊19らによる追試の結果、誤りだったと判明した。
 この事から正規量産型の伊19では触手服をオミット。DJ物質もゲル状に加工した後、艦長席と手すりにシートのように張り付けるという手法が採られた。


 試製甲標的(生体)

 帝都湾内で鹵獲された深海忌雷のうち、触手部分に刺胞が無い突然変異体を再利用した兵器。主にプロトタイプ伊19号および伊19号(先行量産型)が運用する。
 二液混合式の強酸爆薬が詰まっている薬嚢を2つとも【外科的摘出/Surgical Extraction】した後、忌雷の本体部分の最奥部にある、脳に相当する部分にコントロールロッドあるいはケミカルボルトを埋め込み、外部から無理矢理コントロールして運用する。
 当初は無人偵察機やリモコン爆弾のような運用が予定されていたが、比奈鳥ひよ子少佐は忌雷を片腕に巻き付かせて、その触手を中・近距離戦用兵装として運用していた。
 後日、技術交換の一環として射突型酸素魚雷の設計図と共に第三帝国へと現物が引き渡された。

 なお、第三帝国で見せた宴会芸『エーブリエタースの先触れ』はあまり好評ではなかったようだ。特にZ3には。




 本日のNG(誰得の登場してないキャラ紹介)シーン


 南方凄戦姫

 その存在を筆者に完全に忘れ去られていた娘。思い出したのは栄光ブイン本編の完結目前。
 多分もう出てこない。


 第1ひ号目標群

 ブイン基地第二部があっても多分名前くらいしか出てこないと思うので、とりあえずここで設定公開。
 姫種の中では最も古い深海凄艦。その正体は、クロスロード作戦に参加しビキニ環礁沖で沈み眠っていた全ての艦艇が再浮上したもの。これら一艦一艦の全てが第一ひ号目標である。
 現在、群体の中には艦娘の『長門(戦艦)』『酒匂(駆逐)』『プリンツ・オイゲン(重巡)』に酷似した個体が3体確認できる。
 サラトガ? ああ、彼女ならイニストラードの月の中で寝てるよ。13マナくらい払えばやって来るんじゃないかなぁ。

 発見当初は人どころか既存の深海凄艦ですらない形をしており、PRBR検出デバイスの反応こそあれど、その形状から単純に『亡霊艦隊』だの『幽霊船団』だのと呼ばれていた。
 そのため一部のファンや学者の間では、最初の人型深海凄艦である泊地凄鬼を第1ひ号目標と呼ぶべきだという声もあるが、PRBRの波形や数値を比較してみたところ、やはりこちらが第一ひ号目標であるとTeam艦娘TYPEより判定が下された。
 その後、一隻ずつ徐々に深海凄艦らしい姿形へと変化していったが、受動的な防衛行動以外の攻撃性は無く、ただビキニ環礁近海を遊弋するだけの無害な存在だった。調査団が接舷して、長門を初めとする各艦からサンプル片を採取しても静かなままであった。
 だが、クロスロード組初の艦娘『長門』がロールアウトしたのと同時に事態が急変。群れの内の一体が長門と酷似した形状に急速に変化し、群れ全体も攻撃性を増した。原因は不明。
 その後も、クロスロード作戦に参加した艦娘がロールアウトされる度、群れの中にそれと酷似した個体が一体ずつ発生している。やはり原因は不明。

 時折、長門に似た個体の背ビレが青白く輝くのは何故だろう。


 駆逐艦娘『春雨改二D』

『深海凄艦の力をもって、深海凄艦を征す』

 Team艦娘TYPEの年頭挨拶にもあったこの言葉を実現するべく開発がすすめられた艦娘。
 D系列艦と呼ばれる艦娘の完成系。
 D系列艦開発計画は元々、ラバウルの故むちむちポーク名誉会長が晩年に企画し、旧ブインの故 井戸水技術中尉(故 井戸大佐)との合同プロジェクトとして進められていた。彼らの死後、行動食4号がプロジェクトを引き継いで完成させた。
 鈴谷改、伊19号などの、最初からD系列艦として建造された初期のD系列艦とは異なり、深海凄艦の手法を真似て、ごく普通の駆逐娘『春雨』を改造している。
 いわゆる『深海凄艦らしさ』にこだわった艦娘であるが、深海凄艦由来の技術や素材をふんだんに使用し過ぎた結果、人類への殺意と憎悪のコントロールが不可能となり、艦娘として若干の破綻をきたしてしまった。

 現在は建造元のバビロン海ほたるの一部を破壊して外洋に逃走。第8ひ号目標(個体識別名:駆逐凄姫)として精力的に活動中である。


 駆逐艦娘『天津風』

 駆逐艦娘『島風』のオプションユニットとして建造されている『連装砲ちゃん』の更なる改良と効率的な運用方法の発見を目的として開発された艦娘。
 建造には島風で培った技術がそこかしこで生かされており、また逆にこの天津風で得られたデータが島風にフィードバックされたりと、第二次世界大戦当時とは微妙に立場が異なっている。ただし速度はあまり出ない模様。
 この天津風(というか連装砲くん)の運用データを元に、後の秋月型駆逐艦娘(というか長10センチ砲ちゃん)の開発はスタートした。島風の試製ゴルディオン連装砲ちゃんのそれもしかりである。
 因みに以下の一覧は、秋月型(というか長10センチ砲ちゃん)の開発がスタートするまでに開発された連装砲くんシリーズより一部抜粋したものである(順不同)

 スタンダード連装砲くん
 スタンダード連装砲くんC
 スタンダード連装砲くんK
 スタンダード連装砲くんH
 スタンダード連装砲くん改
 スタンダード連装砲くん改二
 スタンダード連装砲くん改二 甲
 スタンダード連装砲くん改二 丁
 ディフェンシヴ連装砲くん
 テンタクル連装砲くん
 サイクロン連装砲くん
 ファイヤー連装砲くん
 シャドウ連装砲くん
 ニードル連装砲くん
 アンカー連装砲くん
 カメラ連装砲くん
 ドリル連装砲くん
 ライフ連装砲くん
 ビースト連装砲くん
 セクシー連装砲くん
 ゴールド連装砲くん
 ダイヤモンド連装砲くん(※開発コストは駆逐娘'S『雑木林』のおよそ720隻分)

(俺の頭の中の艦娘は前述の鈴谷改といい、この天津風といい、どうしてこんなにもR臭いんだ……)






 本日のOKシーン2

「……やっぱり、計算が合わない」

 そして、そんな平和な喧騒の一階層上。有明警備府の第二艦隊の執務室では、脳裏に浮かんだ演算結果に対して厳しい表情を浮かべていた。
 そんじょそこらの叢雲ではなかった。腰まで届く髪は銀薄水、瞳は琥珀、意志の強そうな太眉、頭の横で浮かぶ一対の角耳型艤装は他の基地や泊地、鎮守府の叢雲達と同じだし、ボディラインがモロに出る制服だって他の叢雲達と同じ。今は手に無いが格闘戦用の電探槍の形状もリーチも出荷時に付属していたやつそのまんまだ。
 だが、彼女の頭の横で浮かんでいる角耳型艤装にはLANケーブルが挿入されており、その反対側にはそれぞれ、北上改二と古鷹改二がLAN直結していた。
 叢雲が改二型艦娘の演算能力を――――それも二隻分を一度に!――――使ってまで計算していたのは、先の帝都湾内での騒動、そこで現れた魚雷と忌雷の軌道計算である。当日の気象条件、風位、海流、敵味方の初期配置、単位時間ごとの移動経路、兵装使用のタイミング、各兵装やデバイスの実スペック。
 兎に角手に入れられる情報を全て入力して、改二型二隻分の演算処理能力でシュミレーションを繰り返していた。
 叢雲はあの日あの時の光景を思い出す。

(……)

 海底の鉄塊に先制爆雷を食らわせてやった瞬間。ソナーが潰れたその後のたったの十数秒間。海面下スレスレを航行する雷跡。どこからどう逆算しても、魚雷が発射されたであろうその瞬間、発射予想地点には、計算上、何もなかったはずである。仮に、どこかに潜伏していたカ級なり甲標的なりが発射地点まで急行したのだとしたら、現在判明している最高スピードと加速力の数字にゼロを一個足さなければならない事になる。
 突如として海中に出現した4基の深海忌雷と潜水カ級が3。こちらはもっと意味不明だ。30秒前のアクティブには何も引っかからなかったのに、海底からもある程度の距離がある海中に、突然である。

「……新型のステルス潜水艦? いえ、だったら最初っからソナーに引っかかるはずが無いし、あの甲標的の反応が出たり消えたりしてた説明が付かないし……ああ、もう! なんなのよ!?」

 ああもう全々意味分かんない! と髪をワシワシと掻きむしる叢雲のケーブルに引っ張られて、使えるシステム資源の九割九分を演算処理に注ぎ込んでいるため白目を剥いて微動だにしない古鷹と北上の上半身が何の抵抗も無くカックンカクンと左右に揺れる。
 そして、これ以上考えていても全く分からないし進展もないと判断した叢雲は自我コマンドを入力。LAN直結された古鷹と北上の2人に正規の終了コマンドを送信し、並列接続を終了させる。
 システムが正しく終了された事を伝える報告が叢雲の脳裏に浮かぶのと同時に、2人のうなじの生え際に隠されるようにしてある接続ポートからLAN端子が自動的にイジェクトされる。それとほぼ同時に2人が目を覚ます。

「……頭痛い゙……」
「あ、叢雲ちゃん。もう終わったの? 今日は随分と速かったみたいだけど」
「二人ともありがとうね。2人もいたから二倍どころか二乗の速度で終わったわ」

 初めてのLAN直結に頭を抱えて蹲る北上とは対比的に、何事も無かったかのように乱れた居住まいを正す古鷹。
 そんな二人に叢雲はあらかじめ用意してあった統一規格燃料の注がれた小樽を手渡しする。溶かしこんだパウダー・フレーバーの銘柄は北上は『抹茶バナナ』古鷹は『ピュア・ミラディン(あら挽き微糖)』

「とりあえず出せる演算結果は全部出しといたわ。余計意味分かんない結果になったけど。長門には後で私からデータ出しとくわ」
「そう。じゃあそろそろ夕飯だから私達も下に降りよっか」
「あ゙ぉ~……」

 未だに不快感に呻き声を上げる北上に肩を貸し、強制的に食堂へと連行を開始する古鷹。本日は金曜日。比叡カレーの日である。敵前逃亡は許されない。

「……」

 心の中が、見えない不安で満たされているのはきっと今回のカレーの症状が怖いからだ。叢雲は強引にそう結論付け、先に降りて行った二人の後を追った。
 見えない潜水艦につけ回されているかのような真っ黒い不気味な不安を心の奥底に押し隠して。
(今度こそ終れ)


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