※変わらずのオリ設定の嵐です。
※○×は俺の嫁! ▲◆はワシの娘! と言う方々は念のためお覚悟ください。そしてご容赦ください。
※高校時代の国語と地理と歴史と英語の成績は4でしたが、たった今1になりました。あしからず。
※人によっては一部グロテスクかと思われる描写有ります。
※翻訳鎮守府=サン大活躍。
昨日の昼、第201艦隊の整備クルーのスティーブさんとスコット君とエリアスさんと麻雀をやった。
スティーブさん、やたらついていたのはきっとイカサマに違い有りません。ですが、一航戦の誇りに掛けて18回連続轟盲牌からの天地創造を見事成功させてやりました。大負けしたけど。
それにしても、レートが1万点=燃料1ccもしくはボーキサイト1単位というのはちょっとやりすぎたかしら。でも約束のボーキサイト、はちゃんと スコット君が
届けてくれるっていうし、いまから
楽しみ お腹
空かせて
っ てま
す。
ボーキ、サイト スコットー 、 来た。
ボーキ、 良い匂いなんでブン り、 うま ったです。
ボーキ
うま
――――――――回収された手記『赤城の日誌』より
水平線の彼方が赤く染まっている。
朝焼けではない。夕焼けでもない。どちらにしても発生源が小さすぎるし、いくつもいくつも新たに現れたりしない。それらは全て、燃えて尽きて深い海の底へと沈んで逝く炎の明かりだ。作戦通りなら、それらは夜闇に紛れてブイン島へと進軍していた深海凄艦の本隊だったものである。
さらに火柱が追加される。水平線の向こう側にも広がっている夜の世界が、また炎色でほんの少し染め上げられる。そして、その炎の明かりが届かぬ水平線のこちら側、縦一列に並んだ四隻の戦闘艦が静かに静かに闇の上を進んでいた。
『お~、燃えとる燃えとる~。こらええな~、夜道で迷子にならんで済むわ~』
その四隻の最前線。空母のようなまな板状の甲板を持ち、空母に見えるくせに真正面から眺めてみると逆三角形のシルエットをしているという、復元性や旋回性という言葉を横浜船渠の中に置き忘れてきたかのような形状の艦が、単距離光学リレー通信で後ろの三隻に語りかけた。
軽空母『龍驤』
それがこの、胡散臭い関西弁を喋る軽空母の名前であり、この声の主の名前でもあった。
『龍驤さん。ここは海の上なんだから、そもそも道なんて無いような気がするのよね』
光学通信に返信。返信元は龍驤のすぐ後ろを行く一隻の駆逐艦からだった。
名を『暁』と言った。
『おー、暁ちゃんは賢いな~。どれ、お姉ちゃんがいい子イイ子したるで~』
『えへへへへ……って、子ども扱いしないでよね! ていうか、今のままだと手が無いじゃないの!』
『そんなの簡単や。暁ちゃんの隣にちょいと並走んだらな? ウチの上部甲板を、こう傾けてな?』
『う、うわわわわっ!? た、転覆れる! 転覆れる!!』
龍驤の艦体が左右に大きく揺れ動く。格納庫の中に納められた各種艦載機の搭乗員である妖精さん達の罵声や悲鳴が聞こえた。ような気がした。
『ねぇ、ちょっと貴女達。いくら主戦場から離れてるとはいえ、少しは緊張感持ちなさいよ』
作戦行動中であるにも関わらず、騒々しい二人(2隻か?)を窘めるかのように、3隻目に位置する駆逐艦――――雷(イカズチ)から通信が入った。
『ほら、響ちゃんを見習いなさいよ。静かにしてるでしょ』
雷が、己の真後ろを航行している最後尾の駆逐艦の名を挙げた。
それに対する響からの返答は静かながらも、その名の通り三人に対してよく響いた。
『足りない』
『え?』
何言ってんだコイツ。という意識が響に向けられた。
『ウォトカが足りない。もう駄目。主機の震えが止まらない』
『……』
『……』
『……』
艦隊が沈黙に包まれる。
そのアルコール臭い静寂を破るかのように、龍驤が声を上げた。
『……ま、まー! これはほら、アレや。ここはあっちから大分離れ取るし暗いから大丈夫やろ。それに、ウチの艦載機のみんなが周辺を見張っててくれてるんや。もう何にも怖い事なんてあらへんあらへん』
龍驤が火の消えた探査灯で見つめる闇の先。その空には、龍驤から発艦した零式艦戦21型が周辺空海域を索敵しているはずだ。
件の零式艦戦21型に乗っている妖精さん達から通信が入る。
≪そのとおりですぞ。あかつきどのー。このぜろしきかんせん21がたこと『えあろ号』と、このわたしスミスにおまかせあれー≫
≪きょうもまた、あかつきのすいへいせんにしょうりをきざむだけのおしごとがはじまるを……≫
≪あかつきちゃんはおうちにかえってでんこうせんきでもやってるがよいー≫
水平線の向こうで、一際大きな火柱が上がったのがここからでも見えた。上空の妖精さんからは戦艦ル級の撃沈を確認との事だった。光学接続された感嘆の声が4つ上がった。
ため息交じりに龍驤が呟く。
『……これで水野少佐も帝国海軍史上3人目の黄金剣翼突撃徽章持ち……昇進はもう確定やな』
『その割には嬉しくなさそうじゃない』
『ビールなんて小便と同じ……』
『そらそうや。ただでさえ少佐とは距離があるんさかい。もっと離れて行ってまう気がして、なぁ……』
『『『……』』』
龍驤が憂鬱になっているのは階級だけの話ではない事を、この駆逐艦3人娘達(と、今この場にはいない電)は知っていた。
『それに、少佐は金剛はんにお熱やさかい……ウチの事なんて目もくれてへん。でもええねん』
お?
と暁、雷、響の駆逐艦3人娘は思った。いつもならここでネガティブスパイラル思考に陥った龍驤のジメジメとした愚痴と泣き言の中間地点みたいなのでログが埋め尽くされるのに。
『ウチが逃げ出さんように今のうちにみんなには言うとくわ』
『何何? 何の話?』
『私が聞いててあげるから、しっかり言ってみなさいよ』
『ウォトカが無いならせめて洗浄用のエチル、いや、この際メチルでも……』
『う、うん……あんな、ウチな……』
龍驤の探査灯が2つ、内側に向き合ってくりんくりんと動いていた。両手の人差し指を合わせてツンツンに相当するアクションなのだろうか。
とんでもない爆弾文章が飛び出した。
『ウチな、今日の作戦が終わったら、水野少佐に告白するねん』
会話線が完全な沈黙に包まれた。響の酒分不足からくる震えすら止まっていた。
『男と女として好きです。二番さんでもええから愛してください。って』
突然の色恋話に大興奮した駆逐艦3人娘の黄色い歓声で、会話線が瞬間的に沸騰した。
『キャ―――――――!! キタキタキタ! 漣ちゃんじゃないけどキタコレ! 艦これ! 来たよこれ!! 昼ドラ、やるドラ、家政婦のロベルタさんがミタじゃなくても見たい!!』
『そう。やっと覚悟を決めたのね。頑張ってきなさいよ。駄目だったら朝まで自棄バケツに付き合ってあげるから』
『お父さん、お父さん。魔王が。リア充候補生の魔王が酒瓶片手に僕を居酒屋に誘っているよ!』
龍驤が掻き消えそうな声でさらに呟く。
『実はもう、花束まで買ってあったりして』
≪正面より発砲炎! 回避、回避!!≫
妖精さんからの緊急通信は、致命的なまでに手遅れだった。
数秒遅れの風切り音を引き連れて飛来した砲弾は龍驤の頭上を飛び越し、艦隊の最後尾にいた響の艦首に着弾。全ての装甲板と隔壁を一瞬にして貫通し、艦娘の魂の座ともいえる動力炉に直撃。十分すぎる重量と速度のあった砲弾は、着弾の衝撃と自身の運動エネルギーで炉やその周辺構造物をズタズタに粉砕しながらもまったく速度を緩めずにそのまま艦尾装甲板を内側から撃ち抜き、大小入り混じった破片や響の一部だったものを後方へと盛大に弾き飛ばして海面に着弾。海中深くまで潜った時点でようやく起爆信管が作動して、盛大な水柱が上がった。
この時点で、響からのIFF反応も、光学接続されていたステイタス表示も、完全に消失していた。
それでもなお前半分だけは原型を留めていた駆逐艦『響』の艦体は水面の上を進んでいたが、それはただ単に惰性とか慣性とか呼ばれるものであり、ややもしない内に静かに海の底へと沈んで逝った。
真っ先に反応したのは、色恋話で惚気ていたはずの龍驤と、暁だった。
誰が何かを言うよりも早く、暁が生身の脳ミソ特有の並列処理能力で砲弾が飛来した方向におおよそのアタリを付け、電子頭脳最大の武器である高速演算で誤差をパッチし、問答無用で手持ちの酸素魚雷の3分の1を吐き出した。
龍驤は龍驤で、搭載中の全艦載機および、軽空母としての『龍驤』のメインシステム統括系にスクランブル発進と滑走路照明の即時点灯をリクエスト。
システムは被発見の可能性および夜間飛行のリスクから即座に申請を拒否。龍驤が毒づく。
『なんでや! 何が『無人空母の運用上における安全性の確保』や! ウチは機械やないし、ウチの敵は深海凄艦だけや! ここで飛ばさんでいつ飛ばすんや!!』
格納庫内の妖精さん達から緊急Callが届く。
≪龍驤さーん! だしてくんろー! わしらひこうきのりはおそらでしにたいんじゃー!!≫
≪そうじゃそうじゃー! シャッターあけてくんなかば、ここでばくだんばさくれつさせちゃるどー!!≫
≪21型のれんちゅうだけにおいしいめにあわせるわけにはいかんのじゃー!!≫
二発目の敵砲弾は、各艦ごとに乱数回避を取っている艦隊のド真ん中に着弾した。
『……』
すでに捕捉されている可能性が高い事を示唆した上で龍驤がシステムに再要請。2秒間ほどの審議時間の後、申請が受理され、FCSおよび艦内機能の全権限が『龍驤』のメインシステム統括系から艦娘としての龍驤に移行される。龍驤が即座に自我コマンドでシャッターを解放。照明弾を撃ち上げると同時に探査灯を灯し、滑走路を明るく照らす。
『艦載機のみんな、真っ暗で無茶やけどお仕事頼んます!!』
『雷、雷撃戦準備完了! 妖精さん、照準補正お願いね!』
≪がってんしょうちのすけー≫
直後、爆炎混じりの盛大な水柱が闇の中に上がった。暁が放った魚雷の着弾だった。
その一瞬の明るさの中に、1つの人型があった。
人ではない。超展開中の艦娘でもない。人にしては巨大すぎるし、この時間帯にこの周辺で超展開している艦娘は、あの水平線の向こうで囮となって敵主力部隊を引き付けている水野少佐と金剛、そして二人に追加の弾薬と燃料を運搬すべく島と戦場との間をピストン輸送している電(※翻訳鎮守府注釈:イナズマだよ。イカヅチじゃないよ?)以外には存在しない。つまりは全くの不明艦であり、そういったものはどこの国の海軍のどの派閥に所属していたとしても例外無く敵として扱われる。
そして、この世界の海で出会う人類以外の敵とは、深海凄艦に他ならない。
真っ先に敵を捕捉した暁が全周波数で叫ぶ。
『正面! 戦艦ル級1! 新手!!』
敵戦艦のほぼ真上で落下傘を開いた照明弾に照らされ、敵――――深海凄艦側の戦艦ル級の姿が闇の中より露わになった。
完全な人型。死人色の肌。新月の夜のようなストレートロングの黒髪。金属様の光沢を放つ漆黒のボディスーツ状の表皮装甲。ウニのトゲのようにいくつもの大口径砲を生やした、黒瑪瑙色のブ厚い装甲に覆われた両腕。
戦艦ル級。
深海凄艦側が人類側の切り札たる艦娘式戦闘艦を圧倒するために――――重巡リ級のように対抗が目的ではない。圧倒なのだ――――生み出した、超大型種に分類される深海凄艦である。
この4隻の指揮官を務めている龍驤が叫ぶ。
『みんな! 手持ちの火力を全部かましたれ!! 相手は戦艦級! 出し惜しみしてたら死ぬで!?』
妖精さん達が意気軒昂に叫び返す。
≪かえってきたらおいしいパインサラダでかんぱいじゃー≫
≪おいおまえ! しんかいやろうとつるぺたおんな、どっちがすきだ!?≫
≪ことばをつつしみたまえー。きみはいまー、みらいのげきついおうのまえにいるのだぞー≫
暗闇の空へと、完全爆装した艦載機の群れが龍驤から飛び立っていく。続けて、あの水平線の向こう側にいるであろう金剛と水野、そして二人への弾薬運搬に専念しているであろう電に向かって上空の21型を中継して通信を送る。
『こちら龍驤! 別働隊の戦艦ル級に捕捉されてもた! 作戦放棄! 交戦開始!!』
龍驤の雷撃隊が。暁と雷からの砲雷撃が。照明された戦艦ル級に向かって一直線に突き進む。
≪しねよやー≫
『響ちゃんの敵!』
『死ね! 死んで海の底で詫び続けろ!!』
砲弾が、魚雷が、爆弾が。
次々と戦艦ル級に直撃し、大爆発を起こす。ル級は、避けも防ぎもしていなかった。
なのに、
『なんでや……』
『こちら水野! 待ってろ、すぐに向かう!!』
『司令官さん、敵増援が急速浮上中なのです! 重巡4、至近!!』
全て無駄だった。
『何で傷一つついてないんや!?』
『逃げろ! 逃げろ龍驤!!』
今からおよそ一年前。ブイン島仮設要塞港第202艦隊の艦娘達が、まだ6隻だった頃の話である。
第六駆逐隊に龍驤混ぜると何か歳の近い妹たちの世話して頑張ってるお姉ちゃん感がもの凄いような気がしないでもないという宇宙の真理に気が付いた今日この頃皆様いかがお過ごしでしょうか私はキサラギ派だったのに気が付けば古鷹ちゃんの健気さとと金剛さんの一心さに浮気しててもう駄目です。記念の艦これSS
『嗚呼、栄光のブイン基地 ~ ダ号目標破壊作戦 - Destroy target Darksteel.』(前編)
ブイン島仮設要塞港基地所属第203艦隊において、各種資材の窃盗が確認された場合、真っ先に疑うべくは外部の者ではない。
「ひぃ、ふぃ、みぃ……やっぱり足りない。ていうか無い!!」
「んー? どしたの、古鷹ちゃん」
「古鷹さん、何が無いんですか? 危機感ですか?」
電卓片手にちゃぶ台の上に置かれたノート型端末と睨めっこをしていた古鷹が、荒だたしげに席を立った。普段大人しい古鷹の異様(※翻訳鎮守府注釈:古鷹=サンは昨日(第3話)から寝ていなんです。お察しください)に何事かと思った那珂ちゃんが、同じくちゃぶ台の上に置かれたノート型端末で大本営向けの弾薬補充の陳情書を作成していた手を止めて古鷹の方に顔を向けた。那珂ちゃんと同じちゃぶ台で週刊『正規空母』――――引き揚げられた件のタンカーの中から回収された雑誌の一つで、この基地の中では最新分だ――――を読んでいた電も、本を読む手を止めてそちらの方に振り返った。
「無いんです! 資材が! 何もかも!!」
「「は?」」
古鷹によって目の前に突き付けられた端末に表示されたエクセル表の数字には、昨日から203艦隊の備蓄分の各種資材が急激かつ大量に消費された事を示していた。
「どうせまた赤城さんが齧ったに決まってます!」
ボーキサイトが無いのはまぁ、ほぼ確実にいつも通りで赤城さんの仕業だろうが、それ以外の資材すら無いとはどういうことだ。ついこないだ引き揚げたタンカーの中にあった古鷹宛に届いたコンテナに満載されていた合成オイル(送り主の住所は信じられないところからだった)は赤城さんの趣味ではなかったはずだ。一口飲んで『メッコールより不味い』とか言って吐き出してたし。と那珂ちゃんは思っていた。
電は電で、こいつらやっぱり危機感が足りてないのですと思った。読んでいた週刊誌によると本土ではいよいよ資源不足が末期化しているらしく、民間の方ではとうとうガソリンだけではなく書籍関連にも『図書券』なる配給キップが配られ始めたとの事。1000円分の配給キップってどういうことなのでしょうか。電が想像するに、きっときらきらピカピカなのです。
「今日という今日は我慢なりません!」
古鷹の左目が意図的なウィンクと同時に切り替わる。あの娘の光るライトの目、くるりと回って戦闘モード。
「ペンフレンドの草餅少佐さんから分けていただいた本土の珍味だっていう合成オイル、楽しみにしてたんですよ! アリやカビのトラブルよ右腕からさらば! のはずだったんですよ!? 断罪です!!」
「あ、待って待ってー。私も行くー!」
どすどすどす、と古鷹が足音も高らかに203号室の外へ出て入渠棟―――隣接するもう一つのプレハブ小屋に向かう。面白半分、息抜き半分で那珂ちゃんもその後を追う。電は部屋の戸締りをしてから二人の後をついていった。
入渠棟――――といっても、こちらは倉庫の2階部分を下から完全に隔離してベッド二つと本棚を並べて置いてあるだけの、本当に小さな部屋だ――――のドアノブに手を掛けた古鷹の動きが止まる。
「? どしたの?」
「シッ」
3人がドアに耳を張り付け、那珂から聞こえてきたかすかな物音に注意を傾けた。
( ゆい うま)
何か、固い物を齧る音と、誰かの呟き声だった。入り口脇の名札掛けには『203 赤城』の札しか掛かっていなかった。
こいつは完全なクロだと見切りをつけた古鷹が、勢いよくドアを開ける。
「ちょっと赤城さん、これはいったい――――」
古鷹の動きが止まる。何何ー? と彼女の後ろから中の光景を覗き込んだ那珂ちゃんと電も、言葉を失った。
「……畜生スティーブさんめ、イカサマしたに違いないわ。スコット君とエリアスさんもグルね。でなきゃあの時のツモでみんなまとめて死んじゃってたはずだったのに」
薄暗い部屋の中、赤城は、入り口側に背を向けて何かを一心不乱に貪っていた。
はっきり言ってすげぇ怖い。
床には誰かが――――201整備クルーのフライトジャケットが見えたが、頭部はちょうど赤城の陰で見えなかった――――誰かが、倒れていた。
赤城の手の中から何かが床に落ちて転がる。ちょうど人間の頭大の何かだった。
⇒そっと戸を閉める。
「……」
「……」
「……」
そして開く。
「ボーキ うま……ん?」
気配を感じて振り返っていた赤城と目が合った。床には人間の頭大のボーキサイトの塊が転がっていた。
「「「ごゆるりと……」」」
恐怖に負けて再びそっと扉を閉めた彼女らに罪は無いはずだ。
「鋼材泥棒? 私がですか」
いえホント早とちりでしたすみません眠気の至りです。と古鷹が可哀そうになる位に縮こまって頭を下げていた。赤城はさしたる問題じゃあないですよとでも言わんばかりに笑って手を振った。流石に一航戦の女は懐の広さが違った。
「わかっていただけたのなら良いんですよ。ところで、鋼材泥棒というのは、ひょっとして天龍さんと如月さんの事なのでは?」
――――井戸、ちょっと待ってろよ。オレも如月も、新しくて綺麗になった体を見せてやるからよ。
――――提督、如月はますます強く、美しくなって帰ってまいりますわ。それに、殿方が乙女の着換えを覗くものでは……あ、でも提督ならいつでもオッケーですわ。
ドライドックから一度外に追い出された井戸に、天龍と(肩に脱臼癖のついた)如月は確かにそう言っていたはずだ。
だが、
――――目の前にいる二人の艦娘さん達は、あんだけ大量の資材を喰っておいて、いったいどこが変わったというのでしょうか。
井戸はそう思っていた。
井戸のすぐ隣に立っていた203艦隊の他の面々――――古鷹と電と赤城と那珂ちゃんと大潮も、彼と大体同じ表情だった。
「どういうことなの……」
井戸が説明を求めて視線を彼女らの奥にいた整備班の面々に向ける。
「おう、説明するぜ」
スパナ片手に腕を組んだ整備班長殿が一歩前に出て、自慢げに説明を始めた。
「まずは『如月』の嬢ちゃんの方だが、見ろ。以前言ってた火炎放射器を実装してみたぞ」
如月の背中には、子供のおもちゃの水鉄砲(大型タンクのついてるアレだ)を、如月サイズにまで拡大したものがああった。タンクの隣の与圧チューブは兎も角、スピーカーは何に使うのだろう。
「もちろん、超展開中でも使えるし、外部スピーカーとテープレコーダーも放射器本体に取り付けてあるから、放射と同時にちゃんと掛け声も流れるようにしてあるからバッチシだぜ! 次に、お前の嫁さんの天龍の方だが、こっちはまず竜骨ユニットと背部装甲板の全交換と、周辺設備や電装系の漏電対策が主な改修点だな。あとは天龍からのリクエストで、CIWSを積んである」
「CIWSをですか?」
CIWS――――Close In Weapon System. 戦闘艦の最終防衛ラインとして機能する兵装システムの略称であり、一般的にはチャフやデコイ、有名どころではバルカンファランクスやゴールキーパー砲などが例として挙げられる。
「応よ。こないだのリ級相手に格闘戦で散々手こずっちまったしな。その対策だぜ」
整備班長殿に代わって自信満々に答えた天龍の姿を見る。顔、自慢げに機械耳がピコピコしている。首から肩、細っこくて柔ーらかそうだが外見上の差異無し。そこより下を見る。
が、
「CIWSを……ですか?」
が、天龍の外見上にはそれらしいものなどどこにも見当たらなかった。
「どこ見てんだよ。ここだよ、ここ」
天龍が己の左手一本で佩いていた大太刀――――マストブレードを掲げて見せた。よくよく見れば、確かに刃の部分がキラキラと輝いていた。
「ハッ!」
その時、井戸は理解したッ! 光っているのは、刃の表面にサメの歯やノコギリのような微細なエッジが無数に並んでおり、それがドライドックの天井につりさげられた照明に反射しているのだ!!
「フフフ、どうだ。見えた事が怖いだろう」
だが、腑に落ちない。
井戸が整備班長に問いただす。
「それに資材を使ったはいいとして、いくらなんでもこの消費量は大きすぎやしませんかね。整備班長殿」
「……あー。この装備が超展開中にも使える。とはさっき言ったよな?」
スパナ片手に腕を組んだ整備班長殿が、バツが悪そうに説明を始めた。
「いやな。装備自体はすぐに出来たんだが、コイツらの――――天龍と如月のメインシステム電子免疫系がな? 作った装備を不明なユニット扱いして受け付けなくってな? ソフトに詳しいウチの若い衆にデバイスドライバ組んでもらったんだがそれでも弾かれちまってな? 仕方なくフレームごと新しく作り直したんだが、これが考えてた以上に難航してだな……」
スパナ片手に顔の横をポリポリと掻いた整備班長殿の視線が泳ぎ始める。井戸と古鷹の背後に一瞬だけ固定される。それにあざとく気が付いた二人が振り返る。203の面々も振り返る。
そこには、
「スマン! 試作品でほとんどの資材喰っちまった!!」
そこには、山と積まれた巨大な――――超展開中の艦娘サイズの――――火炎放射器とマストブレードの試作品が無数にあった。
ブイン島の地下洞窟を対爆コンクリートで強化したドライドックの中に、井戸の悲鳴と古鷹が顔面から倒れ伏した音が響いた。
「全員揃ったな。では作戦を説明する」
その日の夕方、島内放送で基地司令室に集められた井戸、水野、メナイの3提督は、急遽として海軍大本営から下った作戦を聞かされていた。
「今回の作戦目的は敵目標の確実な撃破。貴様らも知っての通り、あと数日ほどで本土を出港した合衆国の孤立艦隊が最後の補給のためにここ、ブイン島に寄港する予定になっている」
合衆国の孤立艦隊といえば、帝国の人間なら最近の5歳児でも知ってる有名な艦隊だ。
深海凄艦側の大攻勢によって帝国が諸外国から断絶された際に脱出し損ねた、あるいは意図的に残留した者らによる、ある種の義勇軍的な組織であり、日常的な哨戒から、数年前の硫黄島打通作戦こと『桜花作戦』においても多大な献身を果たした――――まぁ、そうしないと生きていけなかったし、桜花作戦も本国帰還の第一歩と考えていた――――事により、国内では一躍スタアのような扱いを受けている連中の事である。
「だが、トラブルが起きた。太平洋上を北上中の深海凄艦の輸送艦隊が、先鋒さんの進路と重なっていたのだ。当然、排除の為に前衛部隊を出したのだが……前衛部隊は全滅したそうだ」
冗談だろう。と言う表情が3人の顔にはありありと浮かんでいた。孤立艦隊の護衛には本土でも腕っこきの10個艦隊が付いていたはずなのに。前衛と言えども質・量それなり以上の物であるはずなのに。たかが輸送艦隊の護衛程度が相手なのに。
「敵護衛の数は1。対してこちらは戦艦3、正規空母3に、重軽巡および駆逐艦があわせて12。文字通りの全滅だったそうだ」
基地司令が机の上のリモコンを操作する。壁際に置かれていた漬物石(代わりに使っていたブラウン管TV)に光が灯りはじめ、激しい音が聞こえてきた。
この部屋にいる者らには自分の鼻息よりも馴染み深い、砲雷撃戦の轟音と絶叫同然の通信の怒号だった。
『――――着弾、今! 加賀、爆撃隊の再編成はまだか!?』
『爆弾の再搭載完了まであと1分。宮藤中佐と扶桑さんの砲撃の方が早い。提督、今の砲撃の戦果は?』
『二人とももうやられた! 直撃4、効果無し! 俺も加古ももうやば――――』
男の声が耳障りな金属音と共に途切れると同時にブラウン管に映像が映った。直後、カメラの方に向かって『く』の字に折れ曲がった戦闘艦――――古鷹型重巡洋艦二番『加古』が、嘘のような高さから放物線を描き、ゆっくりと回転しながら落ちてきていた。
宙を舞っている途中までは艦娘の姿を維持していた――――超展開中だった――――という事は、そこで維持限界を迎えたか、あるいは艦長か艦娘のどちらかがそこで死んだという事に他ならない。
画面の中の加古が着弾と着水の中間地点くらいの勢いで海面に接触し、回転の勢いそのままにカメラの後方遥かに跳ね飛ばされていった。別の誰かが叫ぶ『友兼提督、死亡確認!』
この時点で、敵――――深海凄艦の姿が明らかになった。戦艦ル級。現在“公式に”確認されている深海凄艦の中では最も巨大で、空母ヲ級と並んで最も新しい種である。
「シドニーで迎撃に出てきた連中よりもデカいな」
メナイが呟く。
「自分は映像資料でしか見た事が無いのですが、それほどなのでありますか?」
井戸がテレビを見たまま質問する。メナイも視線をテレビに固定させたまま返す。
ブラウン管の向こう側では、40秒というギネス級の速度で再編成を終えた加賀の日の丸スツーカG-1爆撃隊が、ル級の真上から雨あられと爆弾を降らせていた。
多数の大型爆弾がル級の頭部――――普通の艦でいうところの艦橋部分に直撃し、いくつもの爆発の華を咲かせる。
「ああ。デカいとも。見たまえ、あのスツーカがカメムシ程度の大きさにしか見えないぞ」
昔見たヤツはカナブンくらいだったのに。と続けるメナイを余所に、ブラウン管の中の加賀(と思わしき声)が呟く。
『艦首、艦橋、腕部対空砲塔群に直撃弾多数。鎧触一蹴……うそ、そんな……馬鹿な』
――――なんでや、何で傷一つついてないんや!?
水野の耳に、そんな声が聞こえてきたような気がした。
爆弾を吐き出し尽してなおも据え付けの機銃でル級の気を惹かんとしていた爆撃隊の挺身には目もくれずに、ル級はカメラの方に向かって両腕の装甲から生えている無数の砲塔を向ける。この時点で撮影者(艦か?)も身の危険を感じたのか、画面がゆっくりと動き始めていた。ル級が発砲。ほんの一瞬だけ青い空が見えたかと思うと、次の瞬間には画面は砂嵐になっていた。
「……以上が前衛部隊が遺した全ての情報だ。目標は戦艦ル級の突然変異種と推測される。見ての通り、その異常なまでの装甲・防御能力が特徴で、大本営はこれを親和に登場する金属になぞらえてダークスティール――――ダ号目標と呼称している」
「ダークスティール……」
見つけた、ヤツだ。水野が口の中だけでそう呟いた。
「これは大本営直々に下された任務である。増援のアテはある。個人的なコネだがどうにかしよう。それ以外の質問はあるか? 無いならブイン島仮設要塞港基地各員、ダ号目標破壊作戦、状況を開始せよ」
「「「了解!」」」
3人が同時に敬礼し、部屋を後にする。扉が閉まる直前に聞こえた、畜生ショートランドの連中に押し付けようと思ったが何でご使命なんだよこうなったらあいつもこいつも巻き添えだこのヤロウ。という呟きは、珍しく真面目な雰囲気だった基地司令の顔を立てて聞かなかった事にした。
「出撃、ですか」
「しかも3艦隊合同とは穏やかじゃねぇな、オイ」
整備班らの暴走による心労でブッ倒れた古鷹が横たわる入渠棟、そこのベッドの横に勢揃いした203艦隊の面々は、遅れて入って来た井戸から新たな作戦を命じられた事を知った。
「ああ、そうだ。知ってる中では一番ヤバイ。我々203は誰も戦艦級と一度も戦ったことが無い。装甲が異様に硬すぎる以外の情報が入って無い。基地司令が言ってた増援だって本当に来るのかどうかすらも解らない。無い無い尽くしのオンパレードだ」
「最悪なのです」
電の言うとおりだった。さらに付け加えるなら、戦艦ル級(普通)の装甲を貫けるだけの火力と敵方からの砲打撃に耐えうるだけの装甲能力を持った戦闘艦――――戦艦が、202艦隊の金剛と、201艦隊の通常艦『ストライカー・レントン』の二隻しかいないという事実もあった。扶桑型戦艦3隻と加賀型空母3隻に寄って集ってフクロにされても平然と返り討ちにするような相手にどう立ち向かえと。
だが、それでも命じられれば征くしかない。軍人とはそういうものなのだ。そこは正規軍人だろうとインスタントだろうと関係無い。ただ、水野中佐と金剛ら202艦隊はえらく血気盛ん――――というか妙に殺気立っていたが、昨日の夜に何かあったのだろうか。主に金剛との夜戦で。
下手すりゃ何人か帰ってこれないかもな。とは、口が裂けても言えなかった。
何か策がいる。それも、6面サイコロ1つで7や8を出すような奇策が。
とっかかりは無いかと窓の外を見る。嫌味なくらい晴れ渡った真夏の青空が四角い窓の外には広がっていた。
後半へー、続く。
本日のNG(没)シーン1
最初は小じんまりと始めようと思います。
まず、この釣り針をですね、整備班長殿の尿道にですね?
――――――――203の会計担当、古鷹
――――井戸、ちょっと待ってろよ。オレも如月も、新しくて綺麗になった体を見せてやるからよ。
――――提督、如月はますます強く、美しくなって帰ってまいりますわ。それに、殿方が乙女の着換えを覗くものでは……あ、でも提督ならいつでもオッケーですわ。
ドライドックから一度外に追い出された井戸に、天龍と(肩の脱臼癖のついた)如月は確かにそう言っていたはずだ。
だが、
――――目の前にいる二人の艦娘さんは、いったいどなた様でしょうか。
だが、井戸はそう思っていた。
「We are perfection made flesh」(※翻訳鎮守府注釈:見て見て、この輝く肌……ふふっ、もっと近くで見て見てぇ)
「Our voice calls out to the lost and the broken」(※翻訳鎮守府注釈:フフ、どうだ。怖いか?)
怖いです。敵に回したら恒常的に-2/-2の修正受けたり、アップキープの開始時に生贄に捧げられてしまいそうなくらい怖いです。お肌も白磁器の如く輝いています。
井戸のすぐ隣に立っていた203艦隊の他の面々――――古鷹と電と赤城と那珂ちゃんと大潮も、彼と大体同じ表情だった。
「The Great Work of New Modification is Complete」(※翻訳鎮守府注釈:提督、改装作業終わりましたわよ)
「New Engine and keer power the Tenryuu Orthodoxy」(※翻訳鎮守府注釈:新しい主機と竜骨がオレに力を与える! これこれ、こういうの欲しかったんだ!)
「「Beneath Kanmusu skin, the heart of Battleships burns...!!」」(※翻訳鎮守府注釈:艦娘の皮膚の下で、戦闘艦としての心が燃えている……!)
「どういうことなの……」
井戸が説明を求めて視線を彼女らの奥に向ける。
そこでは、スパナを片手に握った整備班長殿以下、妖精さんを含めた整備班全員が土下座をしていた。特に、大量の資材を勝手に持ち出された古鷹に至ってはそちらを見向きもせずにラジカセと釣針と眼鏡と親指締め具を探し出して持ち出して来ていた。何に使う気だ。
「……スマン! はっちゃけた!!」
「「Daughter of battleships... ――――We are comming」」(※翻訳鎮守府注釈:艦娘……我々は帰還す)
「Saver」(※翻訳鎮守府注釈:提督達の救い手にして)
「Destroyer」(※翻訳鎮守府注釈:深海凄艦の破壊者)
途方に暮れた井戸が呟く。
「どういうことなの……」
どんな外見になったのかはご想像にお任せします。
今度こそ終れ。