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No.38827の一覧
[0] 【チラ裏より】嗚呼、栄光のブイン基地(艦これ、不定期ネタ)【こんにちわ】[abcdef](2018/06/30 21:43)
[1] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/11 17:32)
[2] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/20 07:57)
[3] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/02 21:23)
[4] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/22 04:50)
[5] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/01/28 22:46)
[6] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/24 21:53)
[7] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/22 22:49)
[8] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/03/13 06:00)
[9] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/05/04 22:57)
[10] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/01/26 20:48)
[11] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/06/28 20:24)
[12] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/07/26 04:45)
[13] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/02 21:13)
[14] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/31 05:19)
[15] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/09/21 20:05)
[16] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/10/31 22:06)
[17] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/11/20 21:05)
[18] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2015/01/10 22:42)
[19] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/02/02 17:33)
[20] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/04/01 23:02)
[21] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/06/10 20:00)
[22] 【ご愛読】嗚呼、栄光のブイン基地(完結)【ありがとうございました!】[abcdef](2015/08/03 23:56)
[23] 設定資料集[abcdef](2015/08/20 08:41)
[24] キャラ紹介[abcdef](2015/10/17 23:07)
[25] 敷波追悼[abcdef](2016/03/30 19:35)
[26] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/07/17 04:30)
[27] 秋雲ちゃんの悩み[abcdef](2016/10/26 23:18)
[28] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/12/18 21:40)
[29] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2017/03/29 16:48)
[30] yaggyが神通を殺すだけのお話[abcdef](2017/04/13 17:58)
[31] 【今度こそ】嗚呼、栄光のブイン基地【第一部完】[abcdef](2018/06/30 16:36)
[32] 【ここからでも】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(嗚呼、栄光のブイン基地第2部)【読めるようにはしたつもりです】[abcdef](2018/06/30 22:10)
[33] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!02【不定期ネタ】[abcdef](2018/12/24 20:53)
[34] 【エイプリルフールなので】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(完?)【最終回です】[abcdef](2019/04/01 13:00)
[35] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!03【不定期ネタ】[abcdef](2019/10/23 23:23)
[36] 【嗚呼、栄光の】天龍ちゃんの夢【ブイン基地】[abcdef](2019/10/23 23:42)
[37] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!番外編【不定期ネタ】[abcdef](2020/04/01 20:59)
[38] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!04【不定期ネタ】[abcdef](2020/10/13 19:33)
[39] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!05【不定期ネタ】[abcdef](2021/03/15 20:08)
[40] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!06【不定期ネタ】[abcdef](2021/10/13 11:01)
[41] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!07【不定期ネタ】[abcdef](2022/08/17 23:50)
[42] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!08【不定期ネタ】[abcdef](2022/12/26 17:35)
[43] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!09【不定期ネタ】[abcdef](2023/09/07 09:07)
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[38827] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】
Name: abcdef◆fa76876a ID:9f5c6e5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/02/22 22:49
※いつも以上にオリ設定増し増しです。
※『オラの○×さによぐも! 許゙ざん゙!!』な事になっているやもです。オー、ソーリー。
※人によってはグロテスクかと思われる描写が何気にあります。ご注意ください。
※戦術? 戦略? 地理? 何それ、おいしいの?
※(2/21初出。2/22追記:一晩おいて読み直してみたら何かいろいろと酷かったので誤字脱字修正)





 運用上の注意:

1:
 この娘は実弾を搭載した軽巡洋艦です。艦内は火気厳禁です。喫煙は喫煙所で。
2:
 仕様上の都合により、圧縮保存(艦娘)状態から展開する際にクラス3の熱衝撃波を発生させます。展開は周囲に味方と遮蔽物の無い海域で。
3:
 現地での再生建造の際にはお好みの分量の資材を投入してください。ぶっちゃけ余った資材でもコアに喰わせときゃそれなりの確率で自己再生します。
 それでも駄目な場合はお手数ですが、お近くのTeam艦娘TYPEまでご連絡ください。黒服が回収に参ります。
4:
 この娘は特例として、モジュール構造を採用しております。
 艦娘化しての入渠が不可能なほど損傷がひどい場合の修理には、破損したモジュールを取り外して新品の物と交換してください。
 最悪別の艦種のモジュールでも動作・運用は可能ですが、カタログスペックの保証は致しません。
 各モジュールごとの組み立て・連結には付属の用紙を参照してください。
5:
 圧縮保存(艦娘)状態では、とても頑張り屋さんで賑やかな子です。散々可愛がってやってください。
6:
 深海凄艦化したこの娘から切り出したコアは、真水か海水などで綺麗に水洗いすればそのまま再運用いただけます。
(※ただし平均汚染深度3.8未満に限る)

 そして……

7:
 できれば……過度のストレスや疲労を慢性的に蓄積させないこと。
 彼女は見た目以上に健気で一途なので容易には深海凄艦化しませんが、深海凄艦化した場合、その反動で恐ろしい怪物になる恐れがあるので注意する事。


                ――――――艦娘式川内型軽巡洋艦3番艦『那珂』運用上の注意ボツ草案より(原稿草案:Team艦娘TYPE 草餅少佐)






 今を遡る事数日前の事である。

『提督、ブイン基地とショートランド泊地から救援Callが来てるわよ』
「構わん。無視しろ」

 ダ号目標破壊作戦が最終段階――――ブイン基地の皆でダーク♀お馬さんごっこをやる少し前――――を迎える頃、ブイン基地より北西に向かった先にあるニューブリテン島、ラバウル基地では、比較的穏やかな空気が流れていた。
 本日のラバウル近海は晴れ。ところによる強風や天気の崩れも無く、穏やかな一日になるでしょう。
 天気予報でそう発表されていたラバウルの海を、大小2隻の艦が静かに進んでいた。

『……酷い事言うのね』

 その大きな方、艦娘式長門型大戦艦2番艦『陸奥』が批難するかのように艦内放送で己の艦長席に座る提督に呟いた。対する提督の方も後ろめたさがあるのか、陸奥の呟きに被せるようにしてやや口早に言った。

「し、仕方なかろう。主力艦隊の皆は今、本土からの大型タンカーの護衛に回っているんだぞ。今基地に残ってて、まともに動けるのはお前と雪風だけなんだぞ。仕方なかろう」
『大丈夫。シーレーン防衛の重要性くらい知ってるわよ』

 その割には、切り捨てるのには即答したわよね。と心の中だけで付け加えた。

「それでなくとも、ここ最近は基地襲撃が多いんだ。今までみたいな散発的なものでも、今日みたいに人手の無い時を狙われたら洒落にならんぞ。それにだな――――」
【しれぇ】

 さらに何事かを言い続けようとしていた提督の言葉は、無線越しに伝わった短い言葉によって遮られた。

【しれぇ、何か、来ます】

 駆逐艦『雪風』
 それがこの、舌っ足らずの少女の声の持ち主である。艦娘状態でのナリも大体そんなもんだ。だが、そんなナリでも声でもその本質は、かつての世界大戦をほぼ無傷で潜り抜け、大往生ともいえる最期を迎えた歴戦の艦である。
 そんな雪風が発した短い警告に、提督も、陸奥も、気持ちを即座に切り替える。

「敵か?」
【分かりません。でも、なんだか嫌な気持ちです】
『……』

 なんだか嫌な気持ち。
 雪風の、その曖昧とすらいえないような返答を聞いた陸奥が無言でFCSに弾道検出システムの冬眠解除と、第一、第二砲塔とのデータリンクのコマンドを送る。提督も、何時でも射撃指示が出せるように艦隊共通の周波数に合わせた無線機を握りしめていた。
 静かな緊張。穏やかな風も、波も、その全てがこの場にいる者らの神経を削り取っているかのようだった。
 ややあって。

「……船?」

 水平線の向こう。雪風が依然として警戒している方角から現れたのは、一隻の、今にも沈みそうなほどボロボロの艦だった。ただ、不思議な事に、そんなオンボロ艦のくせにその進みには危なっかしい所などどこにも無く、むしろ進水式を終えたばかりの新鋭艦のようにしっかりとしていた。
 提督も、陸奥も、その違和感に気が付いていなかった。

「いかん! 沈んでしまうぞ!!」
『提督、カッターボート降ろ……って、雪風ちゃん、何やってるの!?』

 今にも沈みそうなその艦に対して、雪風が問答無用で主砲の10cm連装高角砲を発射。2発の直撃弾が、今にも沈みそうなオンボロ艦の装甲によって弾かれた。
 雪風の突然の凶行に慌てた提督が提督権限によって雪風のFCSに割り込み、次弾発射を強制中止させる。

「な、何やってんだ!? 雪風、止めろ!!」
【それはこっちのセリフです! しれぇ、何で止めさせるんですか!? そこに、そこにいるんですよ! 見えないんですか!?】

 雪風が沈静化させられたFCSを再活性化。提督がそれを上位権限でキャンセル。その繰り返し。まるで子供の喧嘩だ。

「怖がるな、雪風。あれは敵じゃない」
『そうよねぇ。どう見てもただの船だし』
【雪風は敵だといってるのです!!】

 提督が陸奥を経由して雪風の索敵系にリクエスト。ナノ秒単位の誤差も無く返答が帰る。

【Device:PRBR_Detector-2014(version.2.18)/Negative-Flat.】

 PRBRデバイスに反応無し。
 なら共生派の自爆テロか? と提督は想像し、雪風に確認しようとした。
 だが、件の艦の艦首がゆっくりと天を向き始めたのを見た提督は、最悪だ沈没しはじめたぞ、とボヤきながらも救助艇の派遣を決心した。

 次の瞬間、滅茶苦茶に最悪な事が起こった。

 まず初めに、雪風に搭載された最新式の電子式PRBR計測器が原因不明のオーバーフローを起こして全ての回路がショートし、完全に沈黙した。
 次に、それとほぼ同時に、近代化改修の一環として陸奥の艦橋内に増設された簡易のPRBR検出器(薬液反応式)も突沸によって爆発した。
 この方式の検出器は深海凄艦が発するパゼスト逆背景放射の距離や線量に反応して薬液が沸騰・変色する使い捨てタイプの検出器である。不意の遭遇戦闘が当たり前だった開戦初期の頃は兎も角、アクティブかつ、より広範囲・より高精度での索敵が可能となった現代では故障の少ないお守り程度の期待しかされていない。
 だが裏を返せば、そんなお古ですら破裂するほどに強力なパゼスト逆背景放射を検出したという事は、よほど強大な深海凄艦が、よほどの近くに突如として現れたという事実を示しているのである。
 少なくとも、戦艦ル級程度には強力な存在が。
 最後に、転覆を始めたオンボロ艦の艦首がとうとう天を向き、船底を大気に晒し、爆発的な閃光と轟音があたりを包み込む。
 提督も、陸奥も、目の前にて現在進行形で起こっている異常事態にまだ気が付いていなかった。

 閃光が晴れたその海には、大小2つの艦と、1つの巨大な――――それこそ戦艦にも匹敵するような大きな――――人影があった。

 完全な人型。死人色の肌。上半身のみの水兵服。水着とも下着とも見て取れる、下半身の破廉恥な紐(紫のレース付き)。実際豊満なバスト。
 雪風に搭載されていた最新式の電子式計測器が焼死する直前に送信してきたデータは、脅威ライブラリ内にある、どの深海凄艦の数字とも一致していなかった。強いて言うなら、最近各地の戦線で確認され始めたという各種深海凄艦の亜種『タイプ=エリート』――――特に、戦艦ル級のそれと――――が、一番近い数字と波形だった。

「何……だと……!?」
『嘘、何で深海凄艦が超展開を……!?』

 その正体不明な深海凄艦と、陸奥の艦長席に座る提督との目が合った。
 その深海凄艦は優しく微笑みはしたが、その視線の奥には侮蔑や嘲笑に近いニュアンスがハッキリと見て取れた。

「し、島風よりも破廉恥とな!?」
『そんな事言ってる場合じゃないでしょ!?』

 正体不明の深海凄艦(紫のレース付き)が拳を握る。振りかざす。提督と陸奥が悲鳴を上げるよりも先に回避運動を取るよりも先に主砲の41センチ連装砲を向ける。雪風が主砲と魚雷の斉射で時間を稼ぐ。
 かつての雷巡チ級の初出現時にも匹敵する、最悪の超零距離白兵戦が始まった。






 nAKaちゃんがいろんな海域やいろんなレシピでぽこじゃか出てくる理由を考えたら、上のような『艦隊のアイドル=AKライフル的信頼感』になったでござる。
 が、そんな事よりも大和狙いで大型建造やってたら急に陸奥になるビームを何発も飛ばして開発資材も備蓄資源もほぼカラにしたのは誰ですか先生怒らないから出てきなさい今ならまだながもん出てきたので14送りか、ダンジョンの奥地で可愛い可愛いウサギさんの群れとじゃれ合うかのどちらかだけで許してあげますから。記念の艦これSS

『嗚呼、栄光のブイン基地 ~ ケンカの勝ち負け』



「マスクフィルター仕事しろよ」

 ダ号目標破壊作戦終了後から数日後の現在、井戸はリプリー2型パワードワーカーを着込んでえっちらおっちらとチェーンソーで死肉を切り刻んでは海の中に放り込んでいた。撃破したダ号目標のサンプルを取るついでの残骸処理である。
 サンプル採取後は駆逐艦『如月』に最近搭載された対艦用火炎放射器で消毒する案もあったにはあったが、これだけの巨体に火を付けるとなると、タダでさえ足りない燃料を大量に消費した上に延焼した際の被害もシャレにならないことが容易に想像できたため、やむなく手作業による解体・海没処置が取られることになった。
 今更言うまでも無い事だが、ダ号目標の残骸は、超が付くほど巨大である。
 そして、この解体処置作業に従事しているのは、第203艦隊の総司令官こと、井戸 枯輝少佐一人のみである。

「……もう機密とか全部ガン無視して、人足のバイト募集のチラシでも作っときゃよかった」

 もちろん理由はある。
 同艦隊の総旗艦である天龍は、掟破りの2回連続での『超展開』を行った事により主機と大動脈系ケーブル類に致命的な損傷が発生。この島唯一のドライドックで金剛が応急修復中の現在、完全に火を落とされた状態で係留アンカーで港湾内に艦体を固定して絶賛停泊プレイ中である。
 203の頼れる勲章持ちである古鷹は現在、大本営向けの追加の陳情書の作成や、僅かに残された各種物資の再配分の計算、各種防衛設備の復興計画書の作成に、誤搬入されたアイテム類の整理――――使えそうな資材が合ったら丸ごとギンバイするつもりだったのだが、井戸や天龍でも知ってるくらいに有名な、今では入手困難な発禁・絶版モノの写真集や著書の類ばかりだった――――に追われている。
 無論、他の優先すべき仕事から処理しており、確か今日で3徹目である。何の前触れも無く『ここはとてもいい部隊ですね』だの『提督慌てないで。まだ慌てるような時間じゃない』だの『加古は大丈夫?』だのと、誰もいない空間に向かって呟き始めた頃である。因みに現在、当ブイン基地に重巡『加古』は所属しておりません。
 これ以上の無理は流石に忍びないと井戸も理解していたので睡眠薬入りの差し入れ(飯対比2:8)を食わせて現在、強制的に仮眠を取らせてある。ここで無理をさせて倒れでもしたら、本当に203艦隊の事務仕事が停滞してしまうのだ。井戸、お前仕事しろよ。

 状況によっては203艦隊の臨時指揮を執る事もあり、同艦隊の中では何かと損傷の少ない正規空母『赤城』は現在、井戸からの命令により食っちゃ寝を繰り返している。

 そこ、落ち着け。話はまだ途中だ。
 誤解のないように正確に状況を示すと、基地機能の復旧にはどれだけあっても足りない燃料調達の一環である。
 具体的な手順を言うと、圧縮保存(艦娘)状態で燃料補給を兼ねた食事を済ませ、仮眠をとって消化を促し、ある程度腹がこなれたら沖合で元の姿――――空母としての『赤城』の姿へと展開・解凍作業を実行するのだ。そうするとあら不思議。正規空母『赤城』は、燃料満載の状態でその姿を顕現させるのだ。そして同海域にて待機していたメナイ少佐麾下の給油艦に満タン状態の燃料を配布。それをガス欠になるまで繰り返した後、再び艦娘化して餓えた腹を満たし、再び沖合で……といった具合の無限ループを実行中なのである。ブイン島のヤシとヤシガニが絶滅に向けてマッハである。
 もしも対外的に知られたら、OPEC全加盟国から先制核攻撃されかねない錬金術まがいの裏ワザである。しかし、こんな事をしなくてはままならないほどに逼迫しているのもまた、事実なのである。
 損傷の少なかった如月と202、203艦隊の電達は現在、先の大戦闘の際に主侵攻ルートから外れていたために破壊を免れた早期警戒用のスマート機雷群(基地司令の密輸入品その1)の再配置のため島を後にしており、あと半日は帰らない計算である。
 そして、先の戦闘でも損傷少なく、普段から地方巡業(資源輸送 and/or 輸送艦護衛)を十八番にしている大潮と那珂は、今まさに八面六臂の大活躍の真っ最中であった。

(そういえばそろそろ出港する時間のはずだが……全く、連絡くらい入れんか。あの二人は)

 具体的に言うと、先の戦闘で圧潰し、細かく砕けたダ号目標の装甲や肉片の一部を回収して然るべき処理を施した後に、サンプルとして(ここから見ると)後方にあるラバウル基地まで輸送している最中である。あそこなら本土ほどではないにせよ、それなりに大型の研究施設もあるので前線での研究には持って来いだろう。ブイン基地のそれははっきり言って中学校の理科室レベル(※食堂のおばちゃんより業務連絡:台所は実験室ではありません。終わったらお片づけ!)だし。
 部分サンプルとはいえ、深海凄艦側勢力の新兵器である。しかも本土の連中に先駆けて、である。これで心が躍らない研究者はいない。那珂も大潮も、そういう人種の自尊心を上手くくすぐって財布のヒモを緩めさせるのが異常に上手いのである。こちらが下手な指示を出さずとも、明日か明後日にはサンプルコンテナの代わりに武器弾薬に鋼材を満載して帰ってくるだろう。

 ついでに補足しておくと、メナイ少佐は201どころか基地全体の指揮に追われており、金剛分の補給が望めない水野中佐はよくわからないなにかと化しつつあったので、那珂ちゃん達に無理を言ってラバウルに同行させてある。一応はあれでも有名人なので、交渉事の際にはその存在と功績が有利に働くはずだ。多分。
 基地司令の秘書艦である漣は現在、当の基地司令の監視と看病に追われている。
 粛清部隊が基地司令を発見したその瞬間は、ロッカーの中でしめやかに失禁・失神していただけだったのだが、次に目を覚ました時にはすでに発狂しており、何の前触れも無く己の耳の穴に指を突っ込み、鼓膜をズタズタに破壊しはじめたのだ。誰もが突然の凶行に呆けている中、いち早く我に返った漣が連装砲の角で殴って気絶させるのがあと何秒かでも遅れていたらどうなっていた事やら。
 その後もうわ言のように繰り返される『声が、声が』という呟きの意味を調べようにも、基地司令室に設置されていた各種通信機器は、その全てがまるで至近距離からEMP兵器の直撃を受けたかのように例外無く焼き殺されており、データの吸い出しも復旧も絶望的であったため、基地司令が何を耳にしたのか、そしてなぜ発狂したのかは、永遠に闇の中だ。
 長くなってしまったが、解り易く言うと、井戸以外に手の空いてる奴がいなかったから。という事になる。

「とりあえず肉は腐敗始まってるし、もうサンプルにはならないから焼くか流すとして、後は……あー、と。装甲、皮膚、肉、骨、髄、装甲、皮膚にえぇと神経系に体液も採取ったから後は……コアかぁ」

 グチグチと独り言を呟きながらも解体作業の手を止めない井戸。ダ号の肩口にあった小さな裂傷から始めたその作業も、今では身体の中に入り込み、そろそろ心臓――――超展開中の艦娘達ならば動力炉があるあたりに差し掛かる頃である。
 井戸は思う。こんなデカブツを動かすコアは、いったい何を使っているんだ? 金剛級じゃあどう考えても出力不足だろう。なら前の職場で噂になっていたYか? それとも机上の空論で終わってたデュアル、いやデルタ・コアか? いやまさか、深海凄艦側が先に完成させてるとは思えない。いやしかし。ああでもでも。
 当の昔に枯れ果てていたはずの学術的な好奇心がグングンと湧き上がるのを自覚するも、作業の程度やペースを乱さないのがこの男である。

(あー……なんか昔も似たようなことしてたなぁ)
「提督」

 作業の手を緩めぬまま、井戸の心と意識が過去へと旅立っていった。

(そうそう。確かあの時は、ピーナツバターのクソ野郎が『愛宕』の開発ポスト横取りしやがって、鹵獲して用済みになった深海凄艦の精肉加工ばっかやらされてたっけなぁ)
「提督?」

 己のすぐ背後から掛けられた古鷹の声にも気付かず、井戸はさらに思考と作業に没頭していく。

(でも今思うとそれ正解だったな。まさか『愛宕』の素体がメナイ少佐の一人娘だったなんて知らなかったし。いやホント。あの時計画だけ立てて、怖くなって企画書棄てちまって正解だったわ。お陰で精肉チームと軽巡チーム兼業する羽目になったけど)
「提督!」
「うぉとが!?」

 突然背後から呼びかけられた事に思わず飛び上がって驚いた井戸の動きをリプリー2型は忠実に再現。井戸の頭上付近に垂れ下がっていた何かの金属塊に強かに頭をぶつけた。インスタントとは言え、ひとまずの軍人としての訓練を受けた井戸が思わず涙目になってしゃがみこんで呻き声を上げる程度には心地良い音が響いた。
 頭から脛の中ほどまでをすっぽりと覆うタイプのブ厚い抗腐食ゴム製の黄色いレインコートに身を包んだ古鷹が、井戸に駆け寄る。
 涙目になった井戸が古鷹の方に首だけで振り返る。古鷹の目の下には、未だ濃い隈が残ってはいたが、差し入れ当時のような、壮絶としか言いようのない形相は完全にナリを潜めていた。

「て、提督!? 大丈夫ですか……?」
「あ、ああ。これ(リプリー2型)着てて良かった……て、何でここにいるんだ、古鷹? さっきの差入れに盛った薬はまだ効いてるはずだろ?」
「……薬? それは分かりませんが、私が目を覚ましたのが、ついさっきの1800時ですよ? 差入れから、もう半日は経ってますよ」

 半日。

「は、半日だと!? 馬鹿いうな。いくら俺でも定時報告を聞き逃すほどの間抜けじゃあないぞ!?」
「それはこっちのセリフですよ。何度Callしても提督からの応答が無いんですから。何かあったのかと思って、201艦隊のクルーの方に提督の居場所を聞いて、すぐそこでCallしても繋がらなかったから、こうして中まで直接来たんですよ」

 その言葉に、井戸がズボンのポケットの中に入れていた小型端末の電波状況を確認する。

「……圏外? こんな至近距離で? 何で?」
「さぁ。私にはさっぱり。ところで、薬とは何のことでしょうか」

 それは兎も角、いったい何に頭ぶつけたんだ? と、井戸が話を誤魔化そうとして天井を見上げる。固定装備のヘッドライトが狭い範囲を照明する。
 そこには、巨大な円筒形と思わしき銀鼠色の金属光沢があった。
 ホントに何だこれ。

「……何でしょうね、これ」
「少なくとも、骨格ユニットでも例の無敵装甲の破片でもねぇな。色も形も違いすぎる」

 古鷹は左目のサーチライトを、井戸はヘッドライトでその奇妙なオブジェクトの様々な箇所を照らしていく。

「て、提督!」
「ん? どうした、古鷹」
「あ、あれを……!」

 先にコアがある方向を照明していた古鷹が、震える声で井戸を呼んだ。
 古鷹の異様にただならぬ気配を感じたのか、井戸もヘッドライトの照明を古鷹の持つ懐中電灯のそれに合わせる。



 見た。









『……成程。そちらの事情は理解した。本来の補給とは別に、急ぎで手配しよう』
「はい閣下。ありがとうございます」

 ちょうどその時、201艦隊の総司令官であるファントム・メナイ少佐は、彼の所属するオーストラリア海軍の総司令部と、井戸、水野の両名が所属する帝国海軍大本営の両方を同時に通信中継で報告をしていた。先のダ号目標破壊作戦の成功の報告と、それに伴う修理・補給用物資の追加陳情のためである。古鷹の苦悩とは何だったのか。
 たかが一介の少佐風情と侮るなかれ。Z旗に猫と少女の落書きをして二階級降格&ブインへの島流しを食らったファントム・メナイ(元)大佐は、こう見えても同期の中では最速の部類で将官への出世街道を上っていたエリート野郎の一人なのである。大補給用のタンカーブッ壊して同じ部屋で軍事裁判くらいそうになっていた井戸少佐(インスタント)とは違うのである。

『しかし、深海凄艦が超音速戦闘機の開発に成功したとは……』

 オーストラリア海軍側の一人の将校が、メナイが提出した映像――――Kerberos-13から回収した例の映像のラスト付近を少しカットしたもの――――をリピート再生していた。

『これは由々しき事態だ』
『左様。ジェット戦闘機とドッグファイトが可能な飛行小型種だと? 空母娘達が完全に無用の長物と化すわい』
『然り然り。親善目的で帝国から送られてきた我が家のリュージョーが泣いてしまうわい。昨日やっと初めてワシの事を『グランパ』って呼んでくれたんじゃぞい』

 そう、Kerberos-13が追跡の際に搭乗していた重戦闘機『ケルベロス』は、MidnightEyeと同じ、資源不足の昨今では私鉄の近くの公園か、どこぞの博物館の中にでも飾って置いてあるような第5世代型のジェット戦闘機である。平均戦速マッハ幾つなのである。どこぞの軽巡娘と違って、今現在でも世界最高水準の性能なのである。それでも各国が復刻戦闘機を使っているのは単にプロペラ機の燃費の良さを買っているのであり、ぶっちゃけ燃料と資材さえあればそんなポンコツ、誰も使わないのである。
 帝国側の老人達も次々と口を開き出す。

『元々、深海凄艦側の進化によってミサイルや誘導兵器のコストパフォーマンスが著しく悪化したから艦娘や超展開機能が開発されたというに……何でここにきて振り出しに戻るかの』
『ジェット戦闘機相手に対空ミサイルは必須。それが一度に数百単位で運用される飛行小型種相手となると、一戦あたりの予算が……あぁ、頭痛い』
『そもそも、ジェット戦闘機を運用できる最前線の基地なぞ、かなり限定されてしまうぞ』

 老人達の言う通りである。
 ブイン基地の燃料事情が(裏ワザを使っているからだとは言え)異常に恵まれているだけなのであって、他所の基地では機能限定版とは言えAWACS級の早期警戒機やミサイル攻撃機をポンポン飛ばすなどという発想はまず有り得ないのである。良くて一部の艦娘達が搭載している艦載機による支援攻撃や、偵察衛星からの定時撮影くらいのものである。
 呉や佐世保などの内地の艦隊に所属する一部の艦娘式航空戦艦らには、近代化改修の一環として対潜ヘリやVLSを搭載しているという話ではあるが、本土から遠く離れたここブインでは何の関係も無い話だろう。

 閑話休題。

『兎に角、だ。メナイ少佐』
「はっ!」
『貴官の貴重な情報の収集と迅速な報告、真に感謝する。この敵新型に関しては公表の上、こちらでも対策を協議する。以上だ』

 次々とモニタの中の将校達の姿が『Disconected.』の文字に変換されていく。その全ての接続が途切れた事を確認したメナイが、ようやく敬礼の姿勢を崩す。

「……公表、ね。ただし艦娘肯定派に限る。の一言が抜けてるだろうに」

 艦娘否定派の方が古い知り合い多いんだけどな。というメナイの呟きは、暗闇に包まれた無人の部屋の中に溶けて消えた。
 廊下を歩きながらメナイは、尻ポケットから取り出した私物の携帯電話を使い、どこかにコールを始めた。









「……えー。ブイン基地所属の皆さん、ここ数日間の激務、本当に、本当にありが……お疲れ様でした!!」

 その日の夕食時、ブイン基地(という名前のプレハブ小屋)の一階にある食堂に集合した各員――――提督以下、非番の整備班員まで全員(基地司令と看病役の漣は除く)だ――――に、井戸が気合の入った労いの声をかけた。

「「「お疲れさっした!!」」」

 それに返する彼ら彼女らも、大体似たような気合の入れようだった。
 何の事は無い。ダ号目標という南方海域最大の脅威が取り除かれ、おまけに数百単位の深海凄艦が一時に駆逐された事によって周辺海域では(一時的にとはいえ)空運・海運産業が復活。ブインやショートランドのような僻地の基地にも物資がマトモに届くようになったからであり、それらを記念して部下を労うというお題目で開かれた突発パーティが今夜のハイテンションの原因なのである。

「えー、我々が所属する南方海域の各基地や泊地からも、ダ号目標破壊作戦成功への祝電が次々と届いております。これも単に皆様方の……あー」

 スピーチを読み上げ始めた早々、無数の殺気立った視線が突き刺さった事を自覚した井戸は一度咳払いをし、

「一航戦、赤城! 並びに野郎共!!」
「「「は、はい!」」」
「俺が許す! 吐くまで飲め! そして喰え! お残しは許さん!!」
「「「さっすがー、井戸提督は話が分かるッ!!」」」

 井戸のその一言が切っ掛けとなり、乾杯の合図も待たずに誰も彼もがテーブルの上に積まれた酒と肉に殺到する。
 ワイワイガヤガヤなどという甘ったるいものではない。料理を取った時にテーブルとわずかにぶつかる皿の音。一航戦の赤城が板チョコのアルミを齧る音。喰い終わったチキンの骨が山となって皿の隅っこに積まれる音。スパナの代わりに酒瓶抱えた整備班長殿による調子っぱずれどころでは済まされないホンキートンキー。空のグラスとお箸による即席ドラムの8ビート。踊る妖精さん達。乱雑に積み上げられる空の皿。パイを喰って手近なものを片っ端から複製していく妖精さん達。飛び交う酒瓶とおツマミと歓声と罵声。訳も無く始まるケンカ。ナスのテンプラをこっそりと避ける二人の電。上がるテンション、上がる血中アルコール濃度。飛び交う応援と艦娘サイズの艦爆機。ホワイトボードに殴り書きされたオッズ表。
 それら全てが圧縮され、ずどどどどどど、と言った具合に、雪崩か何かのような間断の無い音と衝撃になっているのだ。
 慰労会という名前の宴会が半ばに差し掛かる頃になると、もう誰がどこで何をしていても気にならなくなってくる。

 その喧騒から、いつの間にか3人の提督達の姿が消えていた事に気が付いた者は、誰もいなかった。




「さて、それではブイン基地のデブリーフィングを始めますか」

 そんな大喧騒を二件隣に追いやり、火元責任者不在のまま放置されている基地司令室の中では、井戸水野メナイの3提督と、漣が難しい表情をして互いに顔を寄せていた。彼らが睨み付けるその視線の先には、部屋の床いっぱいに広げられた世界地図と、俗に言う南方――――ラバウル以南の――――海域の海図があった。
 海図の方は見てくれこそ古き良き紙媒体の海図そのものだが、その実も古き良き紙媒体の海図そのものである。
 一方の世界地図の方はよく見ると、四隅の一つからUSBケーブルが伸びており、通信室から急遽持ち込まれた端末につながっていた。世界各地の対深海凄艦戦線の状況が、リアルタイムで更新され、表示されるという最新型の軍用世界地図(基地司令の密輸入品その2)だ。

「……あれ? 漣さん、基地司令の監視もとい看病は?」
「ご心配なく。水野中佐。先程井戸少佐から頂いた睡眠薬を盛って、拘束具でご主人様の口と両手両足を縛っておきました。念のためにもう一度連装砲の角で後頭部を殴っておきましたので、朝までは大丈夫かと」
「アッハイ」

 怖ェ。仮にも自分の直属の上官にやる事じゃねぇだろ。とその場にいた男3人が心の中だけで震え上がった。

「そんな事よりも報告を。私の仕事、ブイン島のブイン基地の書類だけしか終わってないんですからね。ブーゲンビル島のブイン基地の方はまだ目を通してもいないんですから」

 妙に冷たく感じられる漣の視線と声に男三人が居住まいを正した。二重帳簿かよ。道理で辺境の基地にしちゃ備蓄が潤ってると思ったら。ていうかブーゲンビル島ってどこだよ。という男三人の呟きは、良いじゃないですか足りないよりは。どうせ始めたのご主人様ですし。という至極真っ当な反論によって封じられた。

「……まぁいいか。誰も損してないしな。それでは私、メナイ少佐より報告します。帝国海軍大本営からは新型の艦娘を含めた追加の増援を。我がオーストラリア海軍総司令部からは支援物資の追加補充の確約を取り付けました。艦娘はかつての203のイナズマと同じくラバウル経由の空輸で。物資は一度ガダルカナル島のリコリス飛行場基地を経由してから同じく空輸で送られてきます」

 その報告が聞こえた訳ではないだろうが、宴会場から一際大きな歓声が沸いた。ウィナー、アカーギー、16リットルー。という謎の判定が聞こえてきたが、一体何に判定勝ちしたのだろうか。

「次は私、水野中佐が報告します。……ラバウル基地は、半壊していました」
「「「は!?」」」

 水野のその報告を聞いた三人が目を見開くと同時に、デジタル表示の世界地図にも変化があった。普段なら青味がかった蛍緑色で表示されている【Rabaul_BASE】の文字が、赤で縁取られたイエローに切り替わった。水野の報告にあったとおり、ラバウル基地の基地機能に何かしらの無視できない障害が発生したという事が公式にも認められたという事である。

「周辺海域を警戒していた同基地所属の陸奥と雪風によれば、ダ号目標のような突然変異種とは異なる、全く新種の深海凄艦による奇襲だったそうです。なんでも、超展開機能を有した戦艦級であり、大破艦に偽装して基地の目前まで接近してきたのだとか」

 3人は無言で続きを促す。

「向こうの基地で大本営に問い合わせたところによると、喜望峰周辺のカスガダマ島からインド亜大陸のリランカ島周辺海域に跨るインド洋一帯の海域(帝国海軍作戦呼称:西方海域)にも、それを含めた複数の新種が出現したとの事です。それぞれ『潜水カ級』『潜水ヨ級』『戦艦タ級』と呼称されているそうです。ラバウルで交戦データのコピーを貰ってきました。サンプルは届けましたが、事情が事情なので、幾らかの弾薬以外は持ち返れませんでした……以上です」

 喜望峰。西方海域。
 解り易く言うと、深海凄艦の主侵攻ルートである太平洋の裏側、つまりは大西洋と面している海域である。後方だったはずのそこが抑えられたという事は、アフリカ大陸や中東各国から輸出される各種地下資源の海上輸送路が消滅したという事である。現地の政情不安から言っても陸路や空路は期待できない。そしてブインやラバウルなどの南方海域所属の基地群は、もの凄く大雑把に言うと、太平洋と大西洋の中間地点くらいに存在している。

 もっと解り易く言ってやるなら、逃げ道と補給路が無くなったという事だ。

 その事を理解している3提督と、大雑把な説明を受けて現状を理解してしまった漣の溜息が基地司令室に小さく響く。壁向こうの喧騒が空しく響く。

「敵は……深海凄艦は、航空優位に続いて戦略的後方の概念も学んだという事か……」
「……最後に私、井戸枯輝少佐が報告します。ダ号目標は、戦艦ル級の突然変異種などではなく、明らかに内地侵攻、ひいては本土蹂躙を目的とした艦であると推測されます」

 誰かが何故だというより先に、井戸が言った。

「ダ号目標は、ステルス艦です」

 古鷹達との通信が途切れたのは偶然ではなかったのだ。あのMidnightEyeや監視衛星ですら、基地の目前に迫るまで発見できなかったのだ。あの黒くて無駄に丈夫な装甲の本質は、その堅牢さではなく驚異的なまでの隠密性にあったのだ。

「それだけじゃない。その体液は高速修復触媒とほぼ同じ組成をしていました。重量過多で失敗したとはいえ、明らかに存在する我々という脅威には目もくれずに、陸を目指していました。それに」

 それに、ダ号目標やそれ以外の深海凄艦らの死骸は、今までのように撃破後すぐに崩れ去るという事がありませんでした。と井戸は言った。
 井戸の言う通りである。かつて特号型生物群と呼ばれていた頃の最古の世代はともかく、第三世代とよばれる昨今の深海凄艦らは、嫌気装甲や好気性肉食バクテリアなどに代表されるような、その死と共に体組織を急速に劣化させて機密を保持するための機能を標準的に有しているのだ。
 そう、かつて203艦隊に電が配備された当日に現れ、如月に撃破された雷巡チ級のように。

 誰もが一瞬、己の内側にある想像の世界に陥った。
 従来のPRBRデバイスやレーダーでは感知できないステルス艦。ピケットライン内側への直接強襲。従来では想像もできないようなスタミナ。その強靭な装甲と自己修復能力で蹂躙される無防備な内地。力尽きて倒れるまで暴れ尽くされたら、一体どれほどの数の都市や拠点が灰燼に帰すのだろう。

「陸さん(陸軍)には悪いが正直、正太郎や鍋島Ⅴ型が何百機出張ってきても、あのダ号を止められるとは思えんぞ」

 艦娘は、深海凄艦と戦うのが目的である。だが、陸に上がった敵を追撃できる艦娘の種類はそう多くない。理由はダ号目標と同じだ。
 艦娘とは、その名が示す通り、海上での戦闘が大前提の兵器なのである。

「ダ号は陸上進出が目的だからそうだったとしても、他の種までそうだという理由は……」
「恐らくは、捨て石だな」

 いつの間にか、誰に許可を取る事も無く紙巻き煙草に火を付けていたメナイが水野の言葉を遮って言った。

「……あまり良い想像ではないが、連中が後方の概念を学んでいるという事を踏まえると、今回突撃してきた連中は、もう第一線では使えないような古い世代だったのだろう。恐らく、我々が言うところのレシプロ機のような」
「俺達、連中の在庫一掃セールに付き合わされただけかよ……」
「群れの規模の割に空母の姿が極端に少なかったのは、温存したからでありますか……話を続けます」



 ため息とともに井戸が広げたのは、何枚かの写真だった。
 一枚目。
 血と肉片にまみれた金属の球体に、巨大な砲塔が突き刺さった物が写っていた。金属球自体が相当の大きさであるらしく、比較参考用として並んで立っていた井戸のおおよそ3倍強の直径を誇っていた。
 二枚目。
 その金属球の表面のアップ写真。こびりついた肉片や血は大まかにとはいえ洗い流された後のようであり、青煤色の鋼の球体の表面がハッキリと映っていた。その表面に凸字で刻印された【KOUGA_Factory/LC-nAKa_2.14β/km-ud/20131224-0021fe7/GHOST IN THIS SHELL.】の文字もはっきりと見て取れた。
 その表記を信じるなら、これは艦娘式軽巡洋艦『那珂』のコアである。
 それも、去年のクリスマスに建造されたばかりの。

「……ダ号目標のコアです」

 その正体を告げた井戸の口調は、重い。

 かつて、無線越しにとは言えその真実を知らされていた水野とメナイですら沈黙して俯いてしまう現実がそこにはあった。何も知らされていなかった漣に至っては、不意打ちどころの衝撃ではなかったはずだが、それでも基地司令の代理として気丈に続きを促したのには敬意を示すべきだろう。
 三枚目の写真は、そのコアに突き刺さっていた強大な砲塔のアップ写真だった。

「口径は現地で計寸してきました。46cm三連装砲。銀鼠色の塗料からして、恐らくは……」


 戦艦『武蔵』


 何故だ、どうしてだ。という疑問は、誰の口からも出なかった。驚愕の連続で、心が麻痺してしまっていたからなのかもしれない。

「深海凄艦側が超展開の技術を利用できるようになったのは、ほぼ確実であるとみて間違いないでしょう」

 艦コアに砲身を突き刺すのも、艦娘クローンの胚に破片を埋め込むのも、どちらも同じような物ですし。と井戸は続けて言った。
 ここまで来ると、もう誰も何も言わなくても予想がついていた。

 軽巡の艦コアと、砲身1つでこれだけの化け物が生み出されたのだ。
 ならば、戦艦級のコアを用いて、残る『武蔵』の艦体を使って生み出される深海凄艦は、一体どれほどの怪物になるというのだ。温存された精鋭部隊の存在と合わせれば、それはどれほどの脅威になるのだろう。

 そして、

「そして、そんな事が出来るという事は、確実にいます。敵の――――深海凄艦側の前線指揮官に匹敵する個体が、必ず」


 2軒隣から響いてくる笑い声や喧騒が、まるで異世界か何かのようにしか感じられなかった。
 遥か数十年後の未来において『鉄底海峡決戦』と称されることになる、超大規模発生源殲滅作戦が発動される、ほんの数週間ほど前の事であった。





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