<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.3907の一覧
[0] 然もないと [さもない](2010/05/22 20:06)
[1] 2話[さもない](2009/08/13 15:28)
[2] 3話[さもない](2009/01/30 21:51)
[3] サブシナリオ[さもない](2009/01/31 08:22)
[4] 4話[さもない](2009/02/13 09:01)
[5] 5話(上)[さもない](2009/02/21 16:05)
[6] 5話(下)[さもない](2008/11/21 19:13)
[7] 6話(上)[さもない](2008/11/11 17:35)
[8] サブシナリオ2[さもない](2009/02/19 10:18)
[9] 6話(下)[さもない](2008/10/19 00:38)
[10] 7話(上)[さもない](2009/02/13 13:02)
[11] 7話(下)[さもない](2008/11/11 23:25)
[12] サブシナリオ3[さもない](2008/11/03 11:55)
[13] 8話(上)[さもない](2009/04/24 20:14)
[14] 8話(中)[さもない](2008/11/22 11:28)
[15] 8話(中 その2)[さもない](2009/01/30 13:11)
[16] 8話(下)[さもない](2009/03/08 20:56)
[17] サブシナリオ4[さもない](2009/02/21 18:44)
[18] 9話(上)[さもない](2009/02/28 10:48)
[19] 9話(下)[さもない](2009/02/28 07:51)
[20] サブシナリオ5[さもない](2009/03/08 21:17)
[21] サブシナリオ6[さもない](2009/04/25 07:38)
[22] 10話(上)[さもない](2009/04/25 07:13)
[23] 10話(中)[さもない](2009/07/26 20:57)
[24] 10話(下)[さもない](2009/10/08 09:45)
[25] サブシナリオ7[さもない](2009/08/13 17:54)
[26] 11話[さもない](2009/10/02 14:58)
[27] サブシナリオ8[さもない](2010/06/04 20:00)
[28] サブシナリオ9[さもない](2010/06/04 21:20)
[30] 12話[さもない](2010/07/15 07:39)
[31] サブシナリオ10[さもない](2010/07/17 10:10)
[32] 13話(上)[さもない](2010/10/06 22:05)
[33] 13話(中)[さもない](2011/01/25 18:35)
[34] 13話(下)[さもない](2011/02/12 07:12)
[35] 14話[さもない](2011/02/12 07:11)
[36] サブシナリオ11[さもない](2011/03/27 19:27)
[37] 未完[さもない](2012/04/04 21:58)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[3907] サブシナリオ8
Name: さもない◆5e3b2ec4 ID:5419e509 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/04 20:00
雨降る音が暗い室内に響いてきている。
取り付けられた窓から覗く野外は重い闇をのせて黒く湿っており、堰を切ったような涙雨が途切れることはなかった。

「参った……」

外と同じくして薄闇に包まれた部屋の中。
光源が何一つ灯っていないそこに、掠れた呟きが広がる。
簡素の一言。けれど様々な感情がない交ぜになって詰まっている語気には、重々しい音色が伴う。

「ミィ……?」

「ああ、参った……」

日付も変わった時間帯でありながらベッドにも入らず、ただ壁に体を寄りかけるウィルは、腿に縋るテコの頭を撫でながら弱々しくこぼした。
ファリエル。彼の心を占めるのは彼女の悲笑一つのみだ。
言葉にされた想いと、涙に変わった願い。悲痛過ぎる彼女の全てが胸を掴んで爪を立ててくる。
心を支配する痛覚。切り裂かれたような鋭い痛みは、ウィルの感傷他ならない。

「笑っていて欲しいだけなのに……」

幸せになって欲しいのに。
口から漏れ出した言葉は、形になることなく雨の音でかき消されていった。
暗然とした思いが渦を作り、そしてウィルの心境を表すように外で雨の勢いが増す。
重い帳が部屋を満たし、沈黙と影がはびこった。


ドアをノックする音が静かに響いたのは、そんな時だった。


「…………」

立ち上がり、緩慢ともいえる動きで部屋の入り口へと赴く。
誰か、と隔たりの向こうに尋ねることはせず。
ウィルは一息で木製の扉を開けた。

「……ウィル」

「…………」

「話があります。付いてきてください」

返事の有無は切り捨て、真夜中の客人──フレイズはそう言った。
選択の余地はない、と怜悧かつ鋭さを保った面相が静かに物語っている。
ウィルもそれを受け入れる。困惑しているテコを肩に乗せ自室から踏み出て、既に背を向けたフレイズの後を追った。
彼が来るだろうことは何となく予想がついていた。
来てしまうのだろうと、「以前」と変わらぬ天候と泥水のように重い己の心中が、そう予感させていた。


「…………」


彼女の笑顔が見たいと、ふとそう思ってしまうのはただの甘えなのだろうか。
心に浮かぶ「彼女」を特定出来ないまま、ウィルはそんなことを思った。









然もないと  サブシナリオ8「ウィックス補完計画その8 ~魂の行方はきっとそれぞれが望む所に落ち着くのではないかと思う~」









闇の空から雨が落ちてくる。
木の群れ群れに抱かれる此処、狭間の領域にも枝葉の合間を抜けて水滴が地面に重なっていた。
頬にかかる雨の冷たさを漠然と感じながら、俺は黙ってフレイズの後に付いていっている。
これから起こるだろうことに、確信として固まっている予想を抱いている状態で。


忘れもしない「フレイズ」との決闘。今から待ち受けているのは恐らくその再現だ。
ファリエルの護衛獣であったフレイズは、その肩書が既に消えてしまった今でも彼女に絶対の忠誠を誓っている。
ファリエルが願うならそれこそ何だってするだろうし、彼女の為なら信頼を失おうがどこまでも堕ちる覚悟がある。天使の掟(ルール)を破り彼女の魂を破滅から救ったことからもそれは明らかだ。

そんなフレイズからすれば、ファリエルを脅かす存在は敵か味方かという区別は関係なく、一様に撲滅の対象となる。
そう例えば、ファリエルをみんなの前に連れ出し、その心の変化から彼女自ら戦場の最前線に立ちにいく原因を作り出した、俺なんかを。
ファリエルの意思だとしても、戦線へ赴く端緒を担った俺をフレイズは許さない。
進んで傷付きみんなを守ろうとするファリエルの変化に拍車をかける俺を、フレイズは認められない。
「フレイズ」が「レックス」に告げた概略は、つまりそういうことだった。


フレイズの歩みが止まる。
場所は魔晶の台地。水晶の塊が至る所に点在し、あるいは隆起している。木々の間隙にできたスペースは広大で見晴らしがいい。
また、霊界の住人達が糧とし純力とするマナが飽和に達するほどに潤っている。ちょうど、これから始まる戦闘にはもってこいとでも言うかのように。

「ウィル、何故私が此処に足を運んだか理解していますか」

「……大体ね」

「そうですか。ならば、話が早い……」

ゆっくりと振り返ったフレイズの双眼が俺を射抜く。
開きかけている口唇が作る言葉は、恐らくは「ファリエルに近付くな」あたりだろう。
どこか冷めた気持ちでその言葉を待つ────



「…………死んで、己の犯した過ちを死ぬほど懺悔してください」



────って、ナヌィ!!?


「し、死んっ?! し、死ねって、おまっ!?」

「おや、何を慌てているのですか。私の真意を理解しているならそれくらい予想できた筈ですが」

「予想より斜め上ブッチ切ってたZE!?」

何いきなり臨界突破してんの?! 修羅場迎えるのは悟ってたけど、こんなベクトル違い、ていうか問答無用の修羅場は断じて予見できねえーよ!!
つうか言葉おかしいよ!? 死んじまって死ぬほど懺悔って何だよ!?
不慮の事態に俺混乱。エマージェンシーエマージェンシー。説明要求む。ていうか、剣抜くなぁああああああっ!!!?

「ファリエルに近付くなとかそういうことじゃなくて!?」

「フフ、その程度で済むと思っているのですか貴方は? 本当におめでたい頭の持ち主ですね浅はかとしか言いようがないやはり死ね」

お前それキャラ違うだろ?!

「分からないというのなら、その欺瞞と老獪に満ち満ちた狸頭でもよく理解できるよう教えてあげましょう。……まず第一にファリエル様を泣かせたこと。第二にファリエル様を泣かせたこと。そして第三に……ファリエル様を泣かせたことだぁああああああああああああああっ!!!」

「素直に許せないって言え!?」

過保護天使がっ!

「百歩譲ってファリエル様が戦場に赴くことは認めましょう! 今のあの方は進んでみなさんの盾になるのではなく、協力して助け合うことを心得ている。自責や償いの念による自己犠牲を止め、島の住人達と対等でいようと考えています。その点では、ウィル、貴方の存在が彼女に働きかけたことは否定出来ませんっ」

語気は若干大人しくなり、けれど顔は前髪によって窺うことが出来ず。
ぷるぷると震える肩が、内にあるナニカを必死に我慢していることを表しているようだった。

「むしろ私は貴方に謝辞を送るべきなのでしょう…………ですがぁっ!」

首を勢いよく上げ、くわっと顔面を正面に解放させる。
そしてそこには……夜叉がいた。

「ファリエル様の純情を裏切って泣かせ、あまつさえ飽きたらポイなど許容出来る筈ないだろうがぁあああああああああああああっ!!!」

「オイ後半部分っ!!?」

それはねえよっ?!
ていうか前半部分も全否定出来ないけど、なんかおかしいぞ!?

「泣かせたのは謝る! ごめん、マジゴメンッ本当に申し訳ありませんでしたっ!! でもその前の裏切るってなんぞ!?」

「ファリエル様を誑かしておいて、そして貴方はその好意を無下にしたっ!!」

「だから、何言ってんだ!? そんなことするかっ!」

「では、何故あの方は泣いておられるのですか!」

要領を得ないフレイズに若干怒気が募ったが、その放たれた叫びを聞いた瞬間、氷塊を打ちつけられたように頭から熱が消えた。

「何故ファリエル様は今も泣きじゃくっておられるのですか! 悲痛な叫びを押し殺し、あそこまで弱り果てているのですかっ!」

────それは。
口が動かない。言い返す言葉が見つからない。
あの時、俺はファリエルの懇願に答える術を知らなかった。傷付くと解っていながら、その報われない望みにすぐ応えてやることをしなかった。
涙に濡れ切った悲しげな笑みを浮かべ逃げるように去っていく彼女を、追いかけてやることが……出来なかった。

「あの方がああも悲しんでおられる原因があるとすれば、私には心当たりが一つしかないっ……!」

非難と軽蔑の眼差しが俺を真っ直ぐに貫く。
顔から色という色を削げ落とした俺は、その糾弾を前に立ちすくむことしか出来ない。
フレイズは顔を盛大に歪め、その口から罪状を言い渡すように────



「故に、貴方がファリエル様の想いを清々しく笑いながら手の平返したように踏みにじったに決まってるだろぉうがぁああああああああああああああああああっ!!!」



────だから、そこで飛躍し過ぎいっ!!?


「鬼畜か俺はっ!?」

「鬼妖界ネコ目畜生(イヌ)科ムジナ属でしょう!!」

「誰が上手いこと言えと?!」

「ミャミャ~~~~~~!?」

あられもない言い方をされテコとともに叫ぶ。
畜生(イヌ)の所で奴の憎悪を感じられずにはいられない。
そうこうしている内、フレイズの雄叫びに共感するかのように周囲から魔力が噴き上がっていく。
なんぞ!? とギョッと目を剥いていると一つ、また一つとその数は次第に増えていき、遂には膨大な数の幽霊や精霊、果てには天使達がフレイズの背後より姿を現した。
地形条件を受け、とんでもない霊属性魔力が今もなお天井知らずに高まっている。


「我らの想いは一つ、ファリエル様を守ることです! あの方の意に背いてでも────仇(てき)は討つ!!」


一斉に向けられる瞳瞳瞳瞳瞳瞳瞳。
キュピーンと闇の向こうで輝きを放つ数多の対の目が俺達の元に集束された。
殺気籠もる魔晶の台地。濃密な敵意が渦を巻くように辺り一帯を満たす
俺とテコは、予想されるこの後の展開とそれに伴う生命の危機に顔を思い切り強張らせながら、後頭部から滝のような汗を流しまくった。



「罪深キ咎人ニ制裁ヲッ!!」



それが、宴(リンチ)の合図。





『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!』





「「に゛ゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!?」」


俺とテコは腹の底から絶叫をあげ、そしてその場から背を向け全速力で駆け出した。
こえーよ!? ホラーかよっ!? 待ち受ける未来はスプラッタかよっ!?
フレイズの号令から大挙となって押し寄せてきた幽霊群に半分泣きながら激必死に水晶台地を蹴りつける。テコは既に涙をばら撒きながら、俺の肩から落ちまいと必死にしがみ付いていた。
エコーのかかっている怨念じみた声が背筋を襲う。素でパニック一歩手前だ。だ、誰かーっ!!?

「って、結界っ?!」

「ミャミャァーッ!!?」

魔晶の台地を取り囲むように形成されたガラスのような透明な壁。
天使のみなさんはこれの行使に回っているのか。集団からなる堅牢な魔力壁は水晶から生み出されるマナに補強されることで超鉄壁へと変貌してしまっている。この世の終わりのような悲鳴がテコから飛び散った。
さ、最初から俺達を嬲る心算(つもり)だった!?

振り返る。夥しい数の亡霊がすごい勢いで此方に向かってきている。
いたずら幽霊がゲタゲタ笑いながらその鋭い歯に粘液と殺意を漲らせ、タケシーは眉目を吊り上げ雷で俺達を焼く気満々。スパークルの渾名を持つ聖霊ペコさんは「オラ怒ってます」とばかりに金色のオーラを噴出させ突撃体勢である。

『ウコケケクエェエェエエエエエエエエエエエェエエエエッ!!!!』

そして白髪をたなびかせ赤の瞳を血走らせる俺(ウィル)は、青竜刀を舌舐めずりして積年の恨みを晴らさでおくべきか的な空気を身に纏っていた。
って、あのクソ師匠っ!? 流れに便乗してマジで俺を殺るつもりでいやがる! てめーどこのサハギンだ!?

「くそったれっ!!」

死ぬわっ! と奇声ほざくクソ師匠先頭の霊集団を見て叫ぶ。
碌な戦闘もできん! こんなアウェーあってたまるかっ!

「ライザー!!」

『Bi「自爆!」……』

もはや手榴弾と化したライザーを召喚し、投げ込む。
瞬きする間もなく大爆発が起き召喚獣達の特攻の出端をくじく形となった。師匠は爆炎の中に消えた。
今のうちにっ……!

「やらすかぁあああああああああああああああっ!!!」

「げっ!?」

「ミャミャ?!」

空より飛来する金髪天使。剣を一杯に振りかぶり此方へ矢の如く突き進んでくる。
低い雷鳴音が空を駆け、刃が狂暴な光を反射した。ていうか表情が凄いっ……!?

「ハアァッ!!」

「ぐぬっ!?」

振り下ろされた剣撃は急降下の勢いが上乗せされ、とんでもない威力を秘めていた。
刀身で防ぐことには成功したが、柄を持っていた手が盛大にしびれる。余りの衝撃に目尻に涙が浮かんだ。

「裏切ったな、私の気持ちを裏切ったな!!」

「お前絶対遺跡のこと根に持ってるよな!?」

ギギギッ、と剣と剣が鍔迫り合いを演じる奥でフレイズの鬼の形相が俺を見据えてくる。
怒りに燃える瞳が眼前で展開され、俺は少し腰が引けた。その間にもサプレスの召喚獣達が爆殺された前線を乗り越え第二波となり、みるみるうちに此方との距離を詰めてくる。
ええい、埒があかんっ! 渾身の力で得物をかちあげ瞬時に後退。フレイズから逃げるように間合いを離す。
まだ泣いているテコに束の間の天使迎撃を頼み、俺はその隙に懐からサモナイト石を取り出し召喚術を発動させた。


「ヴァルゼルドッッ!」


カモン!!




『ドリルは嫌っ、ドリルは嫌ぁああああああああああああああああああああああああっ!!?!?』




うるせえっ!!?


何事だっ!? と俺は半ばブチ切れながらヴァルゼルドに吠える。

『ド、ドリルはぁあああああ、ぁあ……? ああっ?! たっ、助かったっ!? 助かったでありますっ!!!』

「うるせーポンコツ! 何寝言ほざいてんだ!!」

「ミャミャー!!」

『いや素で冗談じゃねーであります!? め、目を狂わせた少尉殿がっ、じ、自分を無理矢理固定してドリルの山を装着させようと!!?』

「「…………」」

さいか……。


回想。
遺跡においてイスラの召喚術で派手に殺られたヴァルゼルドは、今日まで修理の名目でラトリクスに収用されていた。
しかしそれもあくまで表向き。実際は、いい機会だからと俺の方からクノンに頼んでヴァルゼルドの入念な身体チェックを頼んでいたのだ。来たるアルディラ復活の日──つまり改造再開日──に備えて、作業が滞りなく進むよう細かい資料を作成させておこうと。
回想終わり。

そしてエックスデー、つまり本日。無事復活を遂げたアルディラさーんの手にかかりヴァルゼルドは彼女の趣味に走った装備をこれでもかと貼り付けられそうになったらしい。
その証拠にポンコツの体には既にかなり物騒な装甲と兵器が取り付けられている。肩とか腰とか背中とか。
……向こうも修羅場だったようだ。


『あぁ、ありがとうございます、ありがとうございますマスター! 恩にきます!!』

「ハイハイ。ああ、ちなみに用が済んだらラトリクス帰れよ」

『え……ええぇッ!? ま、マジでありますかっ?!』

「マジだよ。ヴァルゼルドカスタムでもヴァルゼルドカンタムでもいいから強化されてこい」

『ドリルは嫌ァアアアアアアアアアアッ!!?』

装甲ガチャガチャ鳴らして頭抱えるヴァルゼルド。
どうでもいいから仕事しろ。こっちも冗談抜きで切迫しとるねん。

「とにかくあの数という名の暴力なんとかしろっ!」

『りょ、了解……。って、何でありますか、この状況?』

「説明は後! ただひたすら撃ちまくれ!」

『イエス、マスター!』

その声とともにヴァルゼルドの双眸が輝きを散らす。
連動してヴァルゼルドの本体を除いた怪しいパーツ群が『ブォオオオオオオオオッッ!!』と激しい駆動音をあげる。
何やら聞いたことのあるそのラトリクス社印の咆哮に、思い出してはいけない何かを思い出しそうになった。


『────想いだけでも、力だけでもッ!!』


そして撃発。
肩やら腰やらに取り付けられた兵器のハッチが開き、鉛玉やら砲弾やらミサイルやらが轟音とともに一斉に放出された。
さり気なく混ざっていた光学兵器の圧倒的火線に俄然うすら寒い感覚を覚える。
サプレスの召喚獣達ごと周囲一帯を灰燼へと化していく最狂科学者形態(ハイマッドモード)。
す、すげぇ……! アルディラ、何てモン作っちまったんだっ……!!

「貴様は一体何なんだッ!!」

『ッ!?』

虐殺デスと言わんばかりのあの圧倒的火力をくぐり抜け、フレイズがヴァルゼルドに斬りかかった。
全EN消費したヴァルゼルドは鉄の塊と化した装備品をオールパージ。ドカドカドガッ、と酷い音を立てて水晶台地に落ちるそれらと平行して愛用している大口径の銃砲を腰から解き放つ。
瞬間、猛り疾った剣を間一髪銃砲の腹で受け止めた。煌々とした火花が盛大に咲き綻ぶ。
……ていうか排除分離機構。即採用か、アルディーラさん……。

「そこをどけぇええええええええっ!!」

『グッ……オオオオオオッ!』

咆哮と化したヴァルゼルドの音声が発せられ、機械兵士特有の馬力がフレイズを押し返した。
間合いが開き、すかさずヴァルゼルドは発砲。降りしきる雨にも負けない量の弾丸が連射され、しかしフレイズは空へと飛翔し尽く射線から逃れてみせる。
銃弾の隙間を縫うように白い翼が空中を駆け上がっていき、凄まじい機動が展開された。

「……フ、フレイズ! 僕が言う立場じゃないかもしんないけど、勝敗はもう決した、多分! そろそろその物騒な剣収めてほしかなぁーなんて思ったりするんだけど!!」

「笑止! 同胞達がみな倒れようと、私は貴方を討つまで剣を振るってみせる!」

超旋回を続けながらフレイズは吠える。
とうとう敵に留まらずあの天使まで強くなっているような気をバリバリに抱えながら、俺は宙を浮くフレイズと視線を合わせた。
一対の白翼が大きく左右へ伸びる。純白の羽毛をふりまく様は、見る者によってはいっそ荘厳なものとして瞳に映るかもしれない。
堕ちた身であるにも関わらず、その姿は一種の神々しさに満ちていた。


「貴方がいくら望まぬとも、私には最後まで戦う理由がある! 大義がある! 誓いがあるっ!」


天よ裂けよと言わんばかりのその宣言に、その想いの丈に、俺は喉を震わせた。
テコもヴァルゼルドも息を呑んでフレイズを見上げる。


「これは私闘です! 私の誇りを傷付けることをした、貴方への私怨そのものです!」


遥か空、黒く染まった雨雲の間を雷鳴が走り抜ける。
稲光に照らされながら、フレイズはその貫徹した意志を表すように声高らかに叫んだ。
譲れないものがあるのだと言うように。強く、気高く。


「そして、死闘です! どちらかが倒れるまで終わらない、終わらせてはいけないっ、決着させるべき戦なのです!」


湖面の色をした双眸が揺るぎない戦意を灯したまま俺を穿った。
五指が確固として握り締めるのは、マナを宿す晶霊の剣。


「この身は、ファリエル様のためにッ!!」


裂帛の気概とともに剣を頭上へと。腕を伸ばし、刃の切っ先が真っ直ぐ空へと突き立てられる。
そして、天もそれに同調するかのように。
極光と言って相違ない鮮烈な雷が、つんざくような爆音とともに天空から繰り出され、落ちた。



フレイズに。






「ぐぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」






「………………」

「………………」

『………………』


明滅明滅明滅。
絶叫をあげる天使がライチュウする。童話に出てくる魔王消滅のワンシーンのごとく、断末魔の声が響き渡った。

振り上げられた剣はジャストで避雷針の役割を果たし、数億ボルトに相当する稲妻が白い翼へと直撃。
結界を容易く貫いた落雷は天使を呑み込み、焼いた。
べちゃっ、とぶっすぶすに焼き焦げたローストチキンが地へと墜落する。天に召された。

「……帰るか」

「……にゃーにゃ」

『……イエス、マスター』

踵を返しその場を立ち去ろうとする俺達。
結界を行使していた天使達はどうしていいか分からず困り顔で右往左往するのみ。
やたらと鼻につく香ばしい香りが風に乗って辺りへと充満していった。

「…………マっ、待ちナっ、さイっ……!!」

と、ぐぐっと両手をついて起き上りだす天死体。
生きてたのか。

「……もう止めとけよ。神様も言うてるよ、無駄な争い止めなはれって」

「ミャミャー……」

『僭越ながら、その体では戦闘続行は不可能かと』

「黙りっ、なさいッ……!!」

バチバチと軽い帯電現象を引き起こしながらフレイズはふらふらと立ち上がる。
剣を杖代わりにして必死に姿勢を保つ。ぶるぶると震え芯の入ってないその体は、テコのミニハンドで押されただけで再び地面とキスをかましてしまいそうだった。
軽くパーマがかかってしまった金髪が哀愁を誘う。

「私は、認める訳にはいかないのですっ……! 貴方への敗北を認める訳には……ッ!!」

眼光を依然鋭いまま。フレイズは決して諦めようとしない。
一気にやる気を消失してしまった此方としてはもう帰りたくてしょうがなかったのだが、このまま事態は収束するとも思えないので再びボロボロな天使と向き合う。
しかしどうすんべぇ、と思いながら、取り敢えず誤解だけは解いておこうと口を開こうとして、


「フレイズ!?」


慌てふためいたファリエルが飛んできた。













「何をしているの、フレイズ!? それに……ウィル、まで……」

戦闘音かはたは轟雷の音を聞きつけてか、血相を変えたファリエルがウィルとフレイズのいる場所へと駆け付けてきた。
狭間の住人達の死屍累々たる様や見るも無残なこんがり焼き上がったフレイズの姿、そして頭をぼりぼりとかくウィルと、視線を次々に移しその度に顔色を変える。

「邪魔をしないでください、ファリエル様ッ。貴方に何と言われようが、こればかりは止める訳にいかない……!」

「フレイズ!? 一体何をっ……!?」

「討つのです、我らの敵をっ。諸悪の根源たる大罪人を討ち滅ぼすのです……!」

全く意味の汲めないフレイズの発言にファリエルは混乱と困惑を等しくする。
助けを求めるようにこの場にいるウィルへ瞳を向け、そしてすぐにはっとして視線を逸らす。ウィルも気まずぞうに口をへの字にした。
二人の様子を目ざとく察知したフレイズは、その瞬間怒潮のごとく闘気を発散させた。

「ウィルッ、もう構いません! ファリエル様の目の前で罪を悔いて地獄へ落ちなさい!!」

「何を言っているの!? お願いだから剣なんかしまって!」

「無理デス!!」

「?! ど、どうしちゃったの!?」

「……あー、ちょっと聞いて、ファリエル」

耐えかねたウィルがファリエルにこれまでの経緯を説明し出した。
何とも進まなそうな顔でウィルは一連の出来事をかいつまんで話していく。切りかかろうとするフレイズはファリエルの必死の懇願で一先ずの小康状態へと移行した。
ウィルと頑なに目を合わせようとしなかったファリエルだったが、内容に耳を傾けていく内に頬に赤みがさしていき、話が終わる頃には真っ赤に熟しきった果実となった。

「フ、フレイズッ、そ、それっ……ごかっ、誤解っ……!?」

「みなまで言わずとも結構です。五回と言わず、万を越える責苦をこの者に与えてみせましょう……!」

「ち、違っ……!?」

護衛獣の暴走に対しファリエルの目尻に涙が溜まる。
一切聞く耳を持たないそんなフレイズの姿に「お前どこの『忍者』だよ……」とウィルが小さく呟いた。
ままならない現況に、幽霊少女は両手を胸の前で組み、涙を振り払って、吠えた。


「話を聞いてっ、フレイズ!!」







「…………つまり、ウィルに触れることが出来なくて悲しんでいたと?」

「………………」

ファリエルの決死の弁明は、ようやくフレイズの舞い狂っていた炎を沈下することに成功した。
彼は普段と変わらない冷静な、けれど少し困ったように眉を曲げた顔を作っている。
端的に事実の確認をされファリエルは俯きがちにこくりと頷いた。耳まで真っ赤な彼女の様子を横から見やるウィルも「えー、つまり、それは、あー?」と取り乱しながら頬に熱が集まるのを止められない。

「なるほど、そういうことだったのですか。やっと事態の把握が出来ました……」

「おい、納得する前に僕に何か言うことがあるだろう」

「ミャー……」

ウィルは神妙な顔付きでうむうむ頷くフレイズにすかさず突っ込んだ。
不可抗力でファリエルを意識してしまう現状から目を背けようとしての行動だったが、フレイズは無視をして取り合わない。
てめぇ…、とウィルは睨みを利かせる。テコもそれに便乗してじろーと視線を送った。
ヴァルゼルドはというと、パージしたパーツの回収と倒れている住人達の運搬を手伝っている。

「…………ふむ。ご安心を、ファリエル様。貴方の願いはこの不肖の身である私がどうにかしてみせましょう」

「……えっ!?」

「ファリエル様が消えてしまうかもしれないのです。それを防ぐ為だったら私は何だってしましょう」

突然の発言にファリエルとウィルは瞠目。
ウィルに限っては開いた口が塞がらないといった表情で、呆然と固まってしまった。
フレイズは静かに瞼を閉めて言葉を続ける。

「それに元はといえば、ファリエル様がそのような体になった原因は私にあるのですから」

「……ッ、それは違うわ、フレイズ!! だって、私は貴方のおかげでっ……!」

「いいえ。私は貴方の魂を自己満足で縛り、何より、貴方を守ることが出来なかった」

「フレイズ……」

二人の会話が島の過去まで遡る。
禍根と償い。当事者ではないウィルには決して共有することの出来ない心情であるが、自然と己の眉が沈んでいくのが分かった。

「とにかく、私に任せてください」

暗くなりかける場を払拭するようにフレイズが胸を張って告げる。
何をするつもりなのか疑問につきないが、その前に、ウィルは水を差すことを自覚した上ではっきりと自分の胸の内を口にした。

「出来るのか、本当にそんなことが……?」

「レックス」の際には「ファリエル」の背負った定めは決して離れないように思えた。
事実「彼女」は島の事件が終結した後でも鎧無しでは何も触れられずにいた。
ここでフレイズがどうにか出来るならば、「ファリエル」も「フレイズ」の手で救われていた筈ではないのか。
朗報を信じたい気持は山々であるが、ウィルにはどうしても彼の言うことを鵜呑みすることが出来なかった。

「その前に、ウィル。確認しておきますが、貴方ファリエル様の為なら何でもしますね?」

「え……あ、ああ。僕に出来ることなら何でもするけど……」

逆に問われたウィルは少々ひるみながらそのように言う。
ファリエルには幸せになってほしいというのはウィルの偽らざる気持ちだ。何か出来ることがあるなら協力は惜しまない。
フレイズは返答したウィルに目を細めた後、では問題ありませんと言い切ってみせた。
ファリエルは自分を置いて進んでいく状況に、目を円らにしながら右へ左へと顔ごと視線を何往復もさせる。

「で、何をするんだ?」

「ファリエル様と世界を確固とした絆で繋げます」

「私と、世界の絆……?」

「少し悪い言い方になってしまいますが、ファリエル様に現世に留まってもらうだけの強い『未練』を作るということです」

今のファリエルの体はリィンバウムでいう幽霊とはまた異なる。それはあくまでサプレスの召喚獣の一部を指す言葉だ。
実体のない魂そのもの、すなわち霊体。生存している生身の人間とサプレスの召喚獣達精神生命体の中間点に当たり、非常に不安定な存在といえる。
仮定の話、現世に対する執着が薄くなれば、ファリエルは自分と世界を結ぶ繋がりを失うことになりこの世界に留まることが出来ない。転生の輪を外れた彼女がその先に迎えるのは完全なる消滅だけだ。

「小難しい理論は後で。ファリエル様のお身体が心配です、早い実践を」

霊体である彼女が肉体を所持せずに世界に在り続けているのは、ひとえに外的による要因──この場合はフレイズの奇跡──と彼女の強い想い、つまりは世界に対する未練によるものだ。
フレイズにしてみれば彼女の消滅など認められる筈がなく、言葉にせずとも断固阻止の思いだろう。
ウィルもそこの所は理解出来るが、しかしファリエルが接触能力を得られるどうかということになるとまた別問題のような気がした。

訝しげな顔を隠せないウィルだったが、刹那ぐるりと向けられたフレイズの顔にびくりと体が微震する。
不意に脳裏を過った、獲物を捉える猛禽の図
その真顔に宿る無言の迫力を感じて、自分でも解らない内に足が後退してしまった。

「ということで、ウィル。貴方、ファリエル様と誓約(エンゲージ)をなさい」

「エ、エンゲージ……?」

「ええ、誓約です。召喚獣と結ぶ誓約とはまた別の、魂の誓いです」

さらっと紡がれる言葉に汗が落ちた。
何ぞソレ、とウィルは恐る恐る尋ねる。


「早い話ファリエル様と貴方を契って、この世界でのファリエル様の立ち位置を不動のものとします…………媒介は、そうですね、接吻がいいでしょう」


────────マテ







魂とは、存在そのものを形作る器の魂殻(シエル)と内面を満たす「意識」で出来ている。
心とその働きである「意識」、中身を保護する為の外殻──精神的な肉体である魂殻。
その内の後者を強い作用、つまりは「切欠」によって補強しファリエルの存在を揺らぎのないようにする。
フレイズの言っていることは、つまりそういうことらしい。

だが、つまりはそういうことなのだとしても。
何故こんな状況に陥ってしまっているのかという疑問は湧き上がって湧き上がって湧き上がるばかりで甚だ甚だ甚だ尽きることはない。

自分の目線の高さにあるほっそりとした下顎に、今は紅一色に染まってしまっている雪原のように真っ白な肌。
澄んだ白銀の髪がマナの光粒に揺れ、存在しない筈の芳香を漂わせてくる。
果敢なさを絶えず纏う霊体の少女が、焦点を糸ミミズでぐちゃぐちゃのようにさせながら、吐息のかかってしまうほどの間合いで佇立していた。
今自分はどんな間抜けなツラをしているのだろうと、茫然自失の状態でウィルはそう思った。



告げられたフレイズの言葉に、間髪いれずウィルとファリエルはタイミング狂わず一緒に意義を唱えた。
待って、と。何をほざいているのだ、と
しかし天使は動じることなく長ったらしい説明をここぞとばかりに語り出した。ひょっとしたらあれは孔明の罠だったのかもしれない。


【先程『未練』が必要と言いましたね。つまり要は、ファリエル様をこの世に繋ぎ止める『切欠』が欲しいのですよ】

【これを語るにはまず魂について話した方がいいでしょう。──魂とは何か? 見解は四界を含めれば様々、千差万別、およそ正確な解答など恐らく存在しないでのしょうがここは敢えてサプレスひいては私達天使の間で不動のものとなっている理念を話しましょう魂とは輝きそして輝きとはつまりその者の尊厳であって我等はそれを何よりも尊びますまたその輝きは神の涙にも劣らぬ美酒といっていいでしょう天使にとっては陶酔の的であり我が身を狂わせる禁断の果実とも言えるかもしれませんねかくいう私もそんな魂の輝きに引かれ惹かれ魅かれトチ狂ってしまった身ではありますがおっと話が逸れましたとにかく強い意志を持つ魂は天使にとって至上の存在であるのです殊更人の魂から生み出される輝きは美しい限りで時には夜空の星が瞬くように時には炎が燃えさかるようにその輝きを周囲に誇らしめます何故ああまで人間は輝けるのか逸脱した頭脳や妖気奇跡亜人のような優れた身体能力を持ち合わせる訳ではありません種としては劣っている筈なのですええ本当に理解に届かないいえ解らないこそ我等は魅かれてしまうのでしょう豊穣の天使といわれた彼女でさえ例外ではなかったのですから罪人の烙印を押されるのが必定でありながら彼女をそこまで堕としめた彼の魂とは何なのか果ては大天使をも愛に駆り立てた魂の輝きとはいかほどのものなのかあぁ叶うのならばその魂をこの目で見て感じたいものです勿論この世界を彷徨っているといわれる彼の御方にもぜひ会ってみたい限りですがあっ実は私アルミネ様の大ファンでしてええそれはもう憧れていますよ崇拝と言ってもいいかもしれませんねフフ秘密ですよ一天使が最初の堕天使を神よりも崇めているなんてバレたら即刻私も罪人処分となってしまいますって私とっくに堕ちてましたねこりゃうっかりハハ参りました参りましたおっと熱くなり過ぎてまたもや脱線してしまいましたね申し訳ありませんええそれでは詰まるところ魂というのは────…………】

【…………という訳で、魂殻とは己と他者の認識または外界を分ける境界線でもあります。すなわち、『切欠(せっぷん)』によって魂殻の存在を強固にしていけばファリエル様も他者に触れることが出来る……ことも無きにしも非ずだったりするのではないかと思う筈なのです】


最初からその結論を出しておけば良かったのではないかという突っ込みは長々とした蘊蓄もといフレイズの熱弁により姿を消滅させた。
この頃になると既にウィルとファリエルは煙を上げてオーバーヒートとなっていたからだ。
正直これっぽちもフレイズの言うことが理解出来なったウィルは、なけなしの気力を振り絞ってフレイズに食ってかかったが、

【うるさいですね。魂殻を作り出すことの出来る精神生命体(わたし)が言っているのだから間違いないではありませんか。そもそも、本来ならば接吻どころか婚約をですねぇ……】

という返しに思いっ切り動揺を呈してしまい、

【あ、じゃあ挙げますか、式? ちょうど師匠の双子水晶がいい感じに仕上がってますし、いこうと思えばいけますが?】

その繋ぎによって絶賛パニックに陥りかけ、

【狭間の領域の住人の全出席は当たり前として他集落からも……ああ、貴方の親族代表としてはアティで……構いませんよねぇ?】

さらりと告げられたその言葉の羅列によって、最後の反抗の意志は潰えた。
具体的には後半部分、実現した瞬間降臨を果たす白い河童悪魔の姿を何故か脳裏に誘発され、体の震えが止まらなかった。
【接吻にしときますか?】という悪魔の囁きにブンブンブンッ!! と首千切れる勢いで頷いた時には、既に後の祭り。

狼狽しながら制止を促すファリエルも、フレイズにそっと何事かを耳打ちされ、真っ赤な顔に変貌しつつ、最後は素直にコクリと顎を引いて了承してみせた。



そして今現在。
数センチの間隔を残してファリエルがウィルの前に立っている。
あの後必死に起死回生を計ろうと四苦八苦して、しかし腹を括ってくださいとフレイズの一太刀のもとで切り捨てられ。
もはや手段に構ってられず自分には責任取らなければいけない娘がいると切実に訴えてみせたが、

【知りませんよそんなこと。責任云々語るんだったら両方取り持つ度量の一つや二つ見せなさい】

────お、おみゃー!?
と、碌でもないことを言われ反射的に叫んでしまった。

(……馬鹿言ってんじゃねぇーよ……)

フレイズの対応を思い出しながらウィルは絶句する。
お付き合いを視野に入れた娘にそんな不誠実な真似働ける筈がない、と汗をダラダラ流しながら器用に顔の色を様々に変化させた。

「…………」

視線をそろそろ上げると、此方の姿を映すファリエルの瞳とぶつかる。交差した視線は離れずにそこで絡み合うことになった。
潤み出している少女の目を見て、頭が熱で煮え滾ったトマトのようになってくる。まともな思考がかなわない。
頭をくらくらさせながら、鼻腔をくすぐる香りは蒼氷樹の実の匂いだと漠然と気付いた。

透き通っていく甘い香りに誘われるように、小さな唇へ視点が動く。
雪か、白花か。色白を通り越した純白の口唇は生命の精気だけは感じさせないものの、神秘的と言わざるを得ない瑞々しさを宿している。
酷く繊細なその唇に目を奪われた瞬間、もう頭の中は完全に真っ白になってしまった。
制御不可能に陥った鼓動の音だけが体中に響き渡っていく。

「…………んっ」

小振りな白い花弁から震えた呼気が漏れる。
それを受けて止まっていたウィルの時間が動き出し、同時にファリエルの顔も近付いてきた。
目の裏にいよいよ膨大な熱が刻まれた。けれど動かし方を忘れてしまったように体はぴくりとも反応しない。
触れられるとか触れられないとか、もはやそんな些細な事柄は意識の彼方に吹っ飛んでいる。
決心したような少女の表情とそこで形となっている想いの色が、何よりも目の前に顕在する現実だった。
────前にこんなことがなかったか、と感情の伴わない空っぽな記憶が頭を過り。
ウィルはかろうじて動く瞼をぎゅっと瞑った。



「……ぁの、ごめん、なさぃ……」



蒼氷樹の香りが頬を撫で、そっと印をつけていった。















「みゃ、ミャー……?」

『ま、マスター?』

「…………………………………………」

テコとヴァルゼルドの呼びかけにも無反応。
四つん這いとなり頭をむごたらしく首から垂らすウィルを苛めるのは、奇天烈な自己嫌悪に他ならない。
暗い影を全身にかけて身に纏い、いっそそのまま地面の中へずぶずぶと沈みこんでしまいそうな勢いだった。
項垂れている彼の目には、土を覆う芝とそこから少し顔を出した水晶しか映っていない。


だから、ウィルは気付かなかった。


「……ふっ」

己の背後でフレイズが不敵な面構えでVサインを作り。

「ぅ~~っ」

顔を真っ赤にさせて足を忍ばせるファリエルが、しかし控えめながらしっかりと彼に指を立て返していたことを。
己の耳元で彼女が静かに屈んだことを、ウィルは気付くことが出来なかった。





「……ウィル、ずっと前から……好きでした」





パタリ



「ミャ~~……」

『マスター……』

真っ赤に腐乱した死体が、地面に伏せきった格好で一つ出来あがった。













フレイズ

クラス 天使〈武器〉横×剣〈防具〉ローブ 軽装

Lv19  HP194 MP194 AT92 DF62 MAT92 MDF64 TEC95 LUC40 MOV3 ↑4 ↓4 召喚数2

霊B   特殊能力 浮遊 眼力 加護の祈り

武器:晶霊剣 AT110 MAT5 TEC5 LUC5 CR10%

防具: 天啓の鎧

アクセサリ:empty


12話前のフレイズのパラメーター。
うんこ忍者に続く不名誉な渾名シリーズ第二位。犬と名付けられたその日から着実に彼の運命の歯車が狂い出している。
スカ―レルには白い目で見られ、ファリエルにはイヌと言われ、特に後者に関しては名誉が失墜したと内心ビクビクしているらしい。小狸の仕掛けた計画的犯行だと気付く日は遠い。実はウィルが犬天使と口にした所をマルルゥが耳にしており、パナシェと同じワンワンさんと呼んであげようか迷っている。彼の明日はどっちだ。
ちなみに「レックス」だった頃の渾名はパツキン天使。

そこいらの騎士より遥かに忠誠心が高い。数値で換算すると下10ケタくらい違う。
幽霊王女ファリエールのためなら例え火の中水の中。エルゴにさえ刃向かってみせるらしい。お前天使(ほんしょく)忘れてるだろう、とは「レックス」談。
↑4(最高値は↑5)という驚異的な飛行能力を持っており、斧を装備しなおかつ縦切りだったならば恐らく魔王の如きユニットになっていた。銃なんて持たせた日にはバルキリーもといバトロイドも真っ青である。

コマンド「加護の祈り」のおかげでピコリット要らず。更に聖母プラーマの協力召喚「奇跡の聖域」は射程範囲効果範囲ともに↑10という驚異的な数値を誇る。昇ることしか出来ないのか貴様は。
天使でありながらうっかり凶暴的な彼ではあるが、メインは回復係。攻撃能力と回復能力をしっかり持ち合せており、序盤から参戦してなおかつ隠しユニットではなかったらみんなに愛されていたかもしれない。しかし例えそうであっても紫電の剣姫のインパクトぶりに霞んで裏方へ回るというオチが透けて見える。紫電絶華は反則ですたい。泣ける。然もあらん。




本編とは直接関係ないが、補完の意味合いを兼ねて「レックス」の歩んだ軌跡を公開。
今回は10~11話。


クノンの一件から一晩、レックス、リペアセンターから退院。様子を見に来てくれたのがアリーゼだけだという事実に対し、そろそろ自分の位置付けはどうなっているのかと思い始める。コレ別に無断で島出てっても構わんよなあ? などと乾燥した感想を抱えつつ青空教室へ。ちなみに途中でヴァルゼルドの元へ赴いて様子を見たり己の存在意義について語り合ったりしてみた。動けるようになったら自分を守ると言うポンコツに、じゃあ俺の代わりに戦ってくれと固い約束を交わし最後一歩手前のお別れを済ました。

将来の夢という作文課題を出して青空教室を終了。アリーゼは何か決まっているのかと訪ねてみると顔を赤くしてしどろもどろな感じで結局教えてくれず。が、神速の手癖で察知されないまま作文を取り上げて拝見させてもらう。内容は『好きな人のお嫁さん』。女の子らしい夢に、あー畜生可愛いなぁと頬を緩ませながら続きを読んでみると、『普段は頼りないけどヤルときはヤル人でお金にはちょっとうるさくてがめついけれどいつも自分を守ってくれて実はとても優しい人であって少し向こう見ずな所が見ていてハラハラしてしまうけれど子供達といる時はどっちが子供か分からないくらいで笑った時の顔が本当に…』、とつらつら書かれていた。少女の男性理想像あるいは惚れていると思われる男の内容に対して、「アリーゼちょっと趣味悪いのか…」と個人的感想を持つ。実在人物だとしたらきっと騙されてるよと少女の将来を心から心配した。
ちなみに個人レッスンの際にて作文盗み見したことがキユピーのチクリでバレ、模擬訓練にてスーパーアリーゼ発動、キユピーとの合体攻撃をもろに食らいブチのめされる。顔真っ赤にした半泣きの少女にぼかぼかロッドで叩かれまくった。ていうか作文自分に提出するんだから隠す意味ないじゃん…、と指摘したら、羞恥で更に赤くなった生徒に一層打撃された。理不尽…、と血塗れになりながら意識を落とす。付属としてアリーゼ、キユピーの「ホーリィスペル」をマスター。

半死に一生を得た赤いの、スーパーアリーゼの戦闘力に戦慄しつつ、血を流しながらふらふらと島を歩いて回る。そらからすぐ経たない内にジャキーニ一家の海賊亡霊騒動勃発、背を向けるが助けてくれとオウキーニにせがまれる。非常に気が向かなかったが、いつも美味しい料理をご馳走してくれる他ならぬオウキーニの頼みだったので、しぶしぶ出陣。そしてすぐに相手が宝を守る亡霊だと知る。目の色を変える。
超ヤル気モードでジャキーニ一家を指揮指導、指令系統掌握。宝を横取りしようの精神に乗っ取りヒゲ海賊団を綺麗に誘導、同士討ちをぷよぷよ十八連鎖させ、最後余った連中を囮召喚で幽霊キャプテンごと掃討した。開始五分の出来事。会心の笑み。さーてお宝お宝と意気揚々に宝箱を覗き込む赤狸だったが、そこにあったのは血染めの海賊旗。はて? と首傾げているとかろうじて生き延びていた幽霊キャプテンの話を聞きちょい涙腺が弛む。知り合いの幽霊の女の子のこともあって感情移入。必ず旗を海に連れていくと約束し幽霊キャプテンが消えていくのを見届ける。カイル達に頼んでみよう、と真摯に考えながら砂浜を後にした。散乱する海賊達の亡骸を残して。

クノンのお礼兼お茶に付き合ったりミスミ様の戦稽古から逃げ出したりマルルゥの頭撫でたりでイベントこなす赤いの、喚起の門周辺でドンパチの音を耳にする。耳栓して立ち去ろうとするが、確かに聞こえたヤッファの苦悶の叫びにおいおいマジかと駆け付ける。森を抜けて視界に飛び込んできたのは、胸を押さえ喘ぎ苦しんでいるヤッファと、それぞれの得物を振り下ろそうとする亡霊達の姿。突貫。ヤッファの制止も聞かず抜剣、瞬殺。
なんか「剣」の魔力に当てられ滅茶苦茶苦しみ悶絶し始める亡霊達を見て「あるぇー?」してると、特攻(ブッコミ)のヤッファとか命名されそうなくらい青筋走らせる総長の姿が。「やっちゃたZE」とか茶目決めてみるが、本日二回目の臨死体験味わうことになった。

ボッコボコな状態でヤッファ兄さんから事情聞く。呪いとか島にまつわる色々とか。床に伏せる兄さんの所から戻り、レックス自室にて悩む。ヤッファの体のことを心配すると見せかけてこのままでは島から脱走が不可能という一点を考えに考え抜き、遺跡をどうにかするしかねえ、と結論。結界云々は身に覚えあり過ぎて恐ろしさが身に沁みている腐れは可及的速やかに結界排除を決心した。こうしてはいられないとカイル達を招集し、彼等が回収しなければいけない「剣」を餌にパーティへと引き込んだ。頼み込んではいない、あくまで引き込んだ。アリーゼにはぜひ付いてきて欲しくなかったが、頑なに言うことを聞こうとしないのでレックスの方が折れた。

遺跡の入口『識者の正門』にてドア開かないので抜剣。ドア開くがゾンビも出る。朝から色々あったせいかビリッと頭に走る嫌な痛みに、ごめんちょっと休む、とホントに小休憩しようとする赤いのだったが、カイルの手によってジャイアントスイング。どうせいつものことだろうと信じて疑われなかった赤いの、敵陣の真っただ中に着弾、粉砕。日頃の行いという名の因果応報な故に救えない。既に虫の息だったが、残っている敵にもう一度抜剣して蹴散らした。遺跡に近付いているせいか抜剣に伴う反動がやたらと強く感じられた。

一日の内に三回死の淵に立たされたとか記録更新したのではないかと考えながら疲れ切った体をずるずる引きずる赤いの。少し体調がおかしく見えるレックスを心配してアリーゼ声をかけるが、「アリーゼにも殺られたんだけどね?」と爽快な笑みで返され俯き赤面。これくらいで許してやろうと萌えさせられたレックスは勘弁してやった。
識得の間。嫌な雰囲気に絶対何か出るよとげんなりしつつ、台座装置に「剣」挿入。瞬間、洒落にならない魔力流がスパーク。精神的な意味ではなくて、肉体攻撃的な意味での明らか致死量の必殺行為。レックス「おまっ!?」と叫んで光の中に消える。アリーゼほかカイル一同、出現して屹立した雷の姿にぶったまげる。都合四度目死亡(仮)。物陰でレックス達の動向を窺っていたキュウマもこれには汗を流した。
結果的にいうと例の如く不死身っぷりを発揮する赤いのだったが、「遺跡」がここぞとばかりに読み込み&書き込みを開始。一日にかけて相当死んでいたレックス、弱り切って素で抗えない。これは不味い、と暗くなった内面世界でムムム唸るレックスだったが、目の前に現れ鼻で笑ってきたハイネルに殺意。BOKOBOKOにする。何だかキュウマのざまあみろ的な高笑いも遠くの方から聞こえてきて米神が怒りに歪んだ。そうしている間にも読み込みが進行進行進行、大変よろしくない状況になってしまう。

打って変わってアリーゼ達、キュウマはヤッファに任せることが出来たが、オートディフェンサがどうしても抜けない。いかなる攻撃も防ぐ金色の障壁に焦燥が募っていく。そして顔を蒼白にして立ちすくむアリーゼの前で、レックスが強制抜剣状態に移行。服がモコモコして髪がビンビン伸びて碧のラインが走りまくるその姿に、アリーゼの涙腺がとうとう崩壊。障壁に飛びついてあらん限りに叫ぶ。哭く。呼ぶ。嘘つきにならないで、と必死にその声を放った。
マジのマジでヤバイとシリアス入ってあらん限りに歯を噛み締めていたレックスだったが、聴覚に飛び込んできたアリーゼの涙の声に一気に開眼、覚醒。「遺跡」突然のオーバーフローに【!!?!?】と驚愕しながらハイネルもろとも吹き飛ぶ。障壁を内から砕き、白髪をたなびかせながらレックス生還。泣きじゃくりながらアリーゼ抱き着く。ちょい感動の抱擁。アリーゼの身長(キャパシティ)では腰の位置がやっとだったが。ちなみにハイネル破滅フラグその3成立。

わんわん泣く小犬と化したアリーゼを苦笑しながらなんとか離れてもらい、赤いの、トチ狂った猛笑を作り忍者の元へ突貫。「馬鹿な…!」と計画の失敗に呆然とするキュウマ、顔を上げた瞬間、双眸を血走らせた赤鬼に渾身のシャイニング・ウィザードをもらう。脳漿をブチまけられた。すごい回転しながら床を転がる忍者に赤いのすかさずマウントポジション、容赦なく握り拳を叩き込んでいく。「ネタは上がってんだよクソ忍者ぁあああああああっ!!!」と咆哮しながら素で死にかけた怒りをこれでもかと血塗られる拳で代弁。みんな閉口。キュウマに制裁しようと思っていたヤッファも動けない。
打撃音ならぬ打突音が派手に響いていくそんな光景を、イスラ遠目から眺め、そして部隊に撤退を指示。あそこへ飛び込む間抜けにも勇者にもなりたくなかったし、何より心から関わりたくなかった。
第一次遺跡騒動閉幕。のされた忍者は放置された。

夜会話。あーマジ疲れたと就寝しようとした赤いのだったが、ドアノックされる。開けてみると、ソノラから借りたレモン色の寝巻を来たアリーゼの姿が。うん? と首を傾げていると元気無さげな顔で少しいいだろうかと聞かれ、断る理由も無いので部屋へ招き入れる。何故枕を抱えているのか疑問ではあったが触れることはせず、椅子を出して自分はベッドに。しばらく向かい合ったがアリーゼは中々口を開いてくれず、辛抱強く待っているとやがてぽつぽつ話し出し、少し断片的だったが要約すると、先生がいつの間にかいなくなっちゃいそうで怖い、とのことだった。
自分自身でも上手く自分の気持ちを整理出来ていないようで、赤い顔をするアリーゼ。先生失格だなぁ元からだけど、と心配かけてしまったことを不甲斐なく思い、取り敢えず自分不死身ですからと笑ってみせたりおどけてみせたりして大丈夫だと告げるが、効果上げられず。どうしよと頭ひねっていると、アリーゼ赤い顔を抱いている枕に埋めたまま「今日だけ、一緒に寝てもらってもいいですか……?」と爆弾投下する。

潤んだ瞳にほんのり朱に染まった頬。伝家の宝刀上目遣い。胸に何かがキタ。

「よぅし僕はロリコンじゃないぞー?」と自己防衛システムをフル稼働させ無理矢理の笑みを浮かべながら少女の猛攻に耐える。拙者は道を踏み外す気はござらんであるよー? と言い聞かせなければ仮借のない砲撃の前に無敵の装甲が撃ち砕かれそうになった。動揺で引き攣った笑みを継続させながら、風紀上まずいからと刺激与えないようにやんわりと断る。が、「ダメですか?」の傷付いたような声音とはらはら決壊しそうになる涙の前に、何故こうまで良心を削られなくてはならないのかと頭を抱える。女性泣かせるってどうよの志とそのアリーゼの態度に白旗を振り、寝床を共にすることだけは全力で阻止しつつ、アリーゼを寝かしつける格好で譲歩してもらった。椅子に座った自分の手を離そうとしない教え子に苦笑半分微笑半分、ベッドに入ったアリーゼも自身を見守るような瞳に安心したのか暫くして寝息をたて始める。離してくれんよねと握られている手を見てもはや悟り、赤いの面倒臭かったので座った体勢のまま器用に眠りに落ちる。爆睡。
その晩、小さな顔と唇が自分に寄り添ってくる美味しい夢を見た。やけに唇の感触が生々しかったなぁと歯磨きしながら眠気眼でぼんやり思う。隣では真っ赤な顔を俯き加減にする生徒が無言で歯ブラシを動かしていた。
ちなみに、赭面のアリーゼが脱兎の勢いで赤いのの部屋から出ていくのをスカ―レルが目撃し、朝食の後に緊急ミーティングという名の有罪確定の裁判が行われた。


数日後。鬼の御殿にてスバル反乱。ミスミと言い争いするが張り手をもらい御殿を後にする。スバルを追いかけようとしたレックスだったが、ゲンジに先を越される。若造はミスミ様を頼むと告げられ取り敢えず、「ゲンジさんこんな時だけ教師ヅラすんなよ…」と心の内でぼやいた。事件後タワー・ブリッジが炸裂した。

スバルのことでぐすぐす泣くミスミ様を前に「一体どうしろと…」と汗をかく赤狸。こんな時に限っていないキュウマに悪態をつきつつ──自分が殴り殺した──、ひとまず事情を聞く。スバルが戦場に出たいと申し込んできたことを聞くと、あの子の力量なら特に問題ないような気がしますけど…と言いかけたが「我が子を危地へ放り出す親がどこにいるっ!」と怒鳴られ「ですよねー」と速攻で意見を翻した。肉親に強いられた全く安全が保障されていないあのサバイバルは何だったんだと遠い目で思い出したりしたが、頭を切り替えスバルの言っていたこと行っていたことをミスミに伝える。眉を下げ顔を伏せるミスミに、父親から教訓として授けられた男とは何たるかを静かに話すレックス。結局女性は守るという帰結だったが、ミスミも苦笑して納得を示し、赤いのもサムズアップしてみせた。

元服に臨んだ親子二人をゲンジとともに傍観。スバルの招雷にぶったまげながら倒れ込むミスミ様をキャッチ。決着。あぁいいなぁ親子と寄り添う二人見ながらぼんやり思う。脳裏に浮かぶ清々しい母の微笑は全力で無視をした。
寂しそうな顔で「これで良かったのだろう?」と尋ねるミスミにしっかりと頷く。良人の代わりに自分がスバルを絶対に守ってみせると告げ、きょとんとしたミスミも頬を緩ませ「頼む」と一言。
レックスもこの時は裏表のない笑顔を送った。無粋な話抜きで好感度上昇。


それから更に数日後。ここんとこ平和でいいなー、とホクホク顔で島の日常を満喫する赤いの。強制労働に目を瞑れば至って平穏なので、寝込んでいるヤッファのお見舞いそこそこ行方の知れない忍者完全無視して、ずっとこんな日常が続けばいいと素で願う。全く護人達に介入しようとしなかった。
アリーゼとの授業の中で「本当にこのままでいいんですか?」と尋ねられる。遺跡の件で護人達と自分達の間に軋轢が生じていることを指していたが、腐れ教師全く気付かず「平和が一番だと思うんだ」と笑顔でサムズアップ。遺跡もぶっ飛んで結界消えただろうし、アルディラのポセイドン号復活するのを待てばいいとすこぶる現状維持の構えだった。酷い温度差。アリーゼそんな腐れの態度に柳眉を逆立てて「先生のそういう所、嫌いです!」と日頃の態度とダメな所を説教し、最後には結構自己中な不満などつらつら饒舌に言い放ちまくった。はっと理性取り戻したアリーゼは気恥かしさから逃げるように部屋から退出し、レックスの方は教え子のマシンガントークにうーんと頭をかいた。

生徒に尻を蹴られる形で動き出すダメ教師、取り敢えずヤッファは体調芳しくないので非常に気が進まなかったがキュウマ探しに行く。ミスミに何か知らないか聞きに行ったが、『探さないでください』という忍者の置き手紙があったと泣く泣く語られる。何のギャクだあの忍者、とレックス怒り呆れ、泣いているミスミ様をなだめる。スバルとこの女性(ひと)泣かすんじゃねーよと鶏冠に来た赤狸は忍者捕縛を決意。ミスミのために。あくまでミスミ様のために。遺跡の秘密や護人の事情は二の次。
鎮守の社に移動。何かしらミスミ様のこととなればあのクソ忍者が出現するのはガチ、と判断した赤狸は「ミスミ様が危機に落ち入ればヤツは現れる」と彼女自身に提案。ミスミも承諾。危機といっても女性に怪我させる訳いかないので、レックス、覚悟を決める。こと起こす前に最初から謝っておきますと土下座をかまし、ミスミはミスミで「何やっとるんだお主…」と困惑。半眼になるミスミを脇に、赤いの一世一代の賭け。ミスミ様の両手をがっしりと握り、「俺があの忍者の代わりにミスミ様とスバルを幸せにしてみせますっ!!」と渾身のプロポーズ(偽り)。一世一代レックスによる超真顔の告白。ゼロレンジから放たれた強襲機動戦艦レックスのローエングリンに、ミスミ撃沈。落ちた。
予想違わず奇声を上げながら竹藪から襲い掛かって来た忍者を赤狸は時は満ちたと言わんばかりに罠を作動、拘束。腕ひしぎ十字固めを極められ悶え苦しむ忍者と赤狸を他所に、朱の石像と化した未亡人が立ち尽くしていた。ミスミルートオン。
余談になるが、この話が島中にマッハの速度で広まり対赤狸攻略戦線が激化の一途を辿る。

忍者を縛り上げているとヤッファ連れたカイル達とアリーゼが合流してくる。「俺等なりに考えて動いてみたんだよ」とニッと笑うカイルに「何言ってんだコイツ…」と赤いの筋肉の頭の作りを本気で心配する。よく現状が分からないままミーティング。何故か島と自分達の過去をペラペラ喋り出す護人二人に、どういう繋がりでそうなったのか全く理解出来なかったが島の命運を任される。いや意味が解らない、と余りの事態進行速度に取り残される赤いの。どうしようもなく二者択一を迫られることとなった。
遺跡を封印するか、否か。いやするに決まってんだろ、と二秒で即決。何故自分が危険な目に合わなくてはならないとヤッファキュウマの事情も聞かず自分本位で決めた。ある意味どんな世界のレックスより純粋。
解散して二分後に再び集合。集いの泉で遺跡封印発表。忍者謀反。ハイハイとシカト。忍者自分のキャラ忘れるほどブチ切れて赤狸だけは滅殺せんと斬りかかる。抜剣出来ないことにあっヤベと慌てる赤いのだったが、カイルという障壁用いて自力でねじ伏せる。ミスミ様の風刃と説得もあって忍者頭を垂れて沈静化。幽霊キャプテン(金髪)が蘇る前に遺跡へと封印に向かう。

遺跡内、ヤッファとキュウマを連れ、早速封印を始めるフリをするレックス。制御盤に「剣」突き刺すフリをして「うわぁあああああああ!?」と絶叫を上げる。ヤッファが慌てふためく中、キュウマ本性を現し揚々と裏切り行為を語り出す。フルボッコ。馬鹿が、と行動パターンばればれなんだよと吐き捨てる。ヤッファ、コイツら見てて飽きないな思う。
次やったらミスミ様にチクると盛大に釘をさして再封印。予想通りなんかすごい思念が襲い掛かり──何気にハイネルが力を加えていた──、しかしそれも万全な状態で臨んだ今回は全く意に介さず、キュウマも「遺跡」の声に何を思ったのか拒絶し、漢三人で「遺跡」を蹴散らした。封印完了。三人並んで歩く帰り道、終始無言だったが「酒飲まない?」という赤いのの提案に二人とも了解。何だかんだで溝が埋まった感じだった

カイルとデッドレース繰り広げているとアジト近辺に帝国軍出現。忘れてた…、とすごい勢いで落ち込む赤いの。今回は意表をついて木箱の中に隠れてみるが、レックスハンターと化したカイルに容易く正体を看破され箱ごとブン投げられた。ビジュに命中、撃砕。ちょっと待てコラとよろよろ立ち上がるレックスが顔を上げると、あら不思議、五メートルもない距離にアレの姿が。心からの絶叫。ほとばしる悲鳴。目の色変える剣姫。衝突。指揮官のいなくなった帝国軍との戦闘は一気に泥沼化。ギャレオが熱い涙を流しながら指示を吠えまくる。この頃既にカイル達の彼に対する認識は『軍の可哀相な人』だった。
レックスのことになると途端視野が狭くなる隊長殿、長槍を突く突く突く。槍で紫電絶華放ってくるという恐ろしい事実にレックス素で呼吸が止まる。胃が警報を散らし、「剣」という保険が無くなった赤いのを絶望が支配した。集団戦闘が繰り広げられるアジト周辺、その空間だけ別次元の戦闘が展開された。
ハイライト。
「はぁああああああっ!!」
「紫電絶華連発とかてめーそんな暴挙が許されると思ってんのかぁあああああ!!?」
「今日こそはお前に勝つ!」
「勝つとか以前に俺死ぬよ!? ねぇ死ぬよ!? 胃が死んじゃうよ?!」
「お前に勝って私の婿にっ、じゃないっ! 『剣』を奪取するっ!」
「『剣』もうないYO!? 封印しっちゃったYO! 俺刺しても意味ないYO!!」
「なん……だと……」
「よし終わり! もう終わり! 惨劇もう終わり! ねっアズリアさん!?」
「……お前がッ、婿になるまでッ、襲うのを止めないッ!!」
「うおおおおおおお話になってねえええええええ!!?」
流石にカイル達も同情せずにはいられなかった。

婿争奪宣言に黙っていられる筈がないスーパーアリーゼ他がレックス達のもとに突撃しようとしたが、契機、晴れ渡る空を一瞬で嵐が覆い尽くす。敵味方関係なく混乱が伝染するアジト周辺。唯一の例外は戦闘を続行するアズリアとレックス。他に気を逸らすと刹那の内に挽肉へと変わってしまう恐怖が赤いのを縛って逃さない。超修羅場ということもあってアズリアのプロポーズ発言に全く気付かず、それ以上に生命の危機だった。そして決着の瞬間、泥で足をとられるレックスと紫電絶華を構えるアズリア。蒼白になるレックス、走馬灯が終わり切らない内に無意識で「剣」を召喚。エクスカリバー。アズリア吹っ飛ばす。
地面に叩きつけられたアズリア、悔しさの余り顔を歪め、「お前は、嘘つきだっ!」と本気で半べそをかく。いわゆる女の子座りに両手をついた彼女に「……えー?」と白いのげんなりする。隊長の幼児退行に帝国軍兵士がみな鼻から噴血した。帝国軍撤退。
空に伸びる紅の柱を見ながら、なんか嫌なフラグ立ってない?とすこぶる幸先不安になるレックスだった。

夜会話。
アレとの死闘によりシステム無視して寝込んだ。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.027279853820801