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No.39139の一覧
[0] 【習作】「1999年4月6日」(東京アンダーグラウンド)[蚕](2013/12/29 16:18)
[1] (ルリ起床~銀之助との登校)[蚕](2013/12/29 16:24)
[2] (発明品披露~RFC暴走)[蚕](2013/12/29 16:21)
[3] (再会~シエルピカチ○ウ)[蚕](2013/12/29 15:50)
[4] (ジジイ無風~04とルリの手料理)[蚕](2013/12/29 18:25)
[5] 酒とバトルと扇情カメラマンテイル ~飲酒は二十歳になってから~[蚕](2013/12/29 16:04)
[6] まつりのあと[蚕](2013/12/29 18:39)
[7] 変わらず輝く満月の下で[蚕](2013/12/29 16:12)
[8] おまけ 「グラウンド・ゼロ」[蚕](2013/12/29 18:08)
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[39139] 変わらず輝く満月の下で
Name: 蚕◆2f9dba57 ID:56ca2c0c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/12/29 16:12

 安物のアイスをかじりながら震える。この季節の夜に、アイスはまだ早かったかもしれない。

「ルミナさん?」

 背後から声がかかる。木漏れ日のようにやわらかく、透き通った声。

「ルリ……」

「こんな夜中に、どうしたんです?」

「買っといたアイスでも食べようと思って。お前こそどうしたんだ?」

「私はよく、ここへ夜風を浴びに来るんです。チェルシーもシエルも眠ったので、寝る前に来ようかなって思って」

「そっか」

「おとなり、いいですか?」

「ああ」

 あぐらをかいている留美奈のすぐ隣に、すっとルリが座り込む。お風呂からあがって時間が経つが、ほのかな甘い匂いがすぐそばに感じられた。ルリと同じ屋根の下で暮らし始めてそろそろ慣れていい頃なのに、こういう時はまだ少し、ドキドキしてしまう。

 肩で、存在が感じられるほどの近さだった。少し身体を傾ければ、それだけで触れ合ってしまうだろう。だから、動かないように身体を固くする。

「……ルミナさん?」

「ん?」

「あ、いや……今日のルミナさんは、いつもと違う気がして」

「そう、見えるか」

「あのときに似てます。シエルに助けられて公司から逃げ出した後、タウンで会ったときのルミナさんに。いつもみたいにおしゃべりじゃなくて、面白いことを言えなくなってる感じが」

「ああ……そういうこともあったな。あのときの俺は……もうちょっといいこと言えなかったのかなァ」

「あっ、でも、あのときとはちょっと違うかもしれませんよ? あのときのルミナさんは子供っぽくてかわいかったけど、今のルミナさんは、少し大人びて見えます」

「えっ、俺ってオトナ?」

「ああ、子供っぽくなっちゃいました」

「あはははっ、そっか。うん、やっぱ、俺はまだ子供だよ。……寂しくなったんだ。あいつらがいなくなってさ」

 アイスをしゃくる。やっぱり、話す相手がいると、自分の感情が漏れてしまうものだ。

「ルミナさんと私が離れてしまったのは、公司という敵の組織のせいでした。でも今、ルミナさんと地下世界のみなさんが離れてしまったのは、誰のせいにもできない、しかたのないことだと思います。そういうときに起こる寂しさは、受け入れることしかできなくて、だからルミナさんの表情は、いつもより大人びて見えるんだと思います。たぶんルミナさんは、私のそんな表情を見たことがあると思います。受け入れなければならない悲しさを抱えていた私の表情を。そんなとき、誰かのどうしようもない子供っぽさに、人は救われることがあるんです。私は経験があるから、知ってます」

 突然の襲撃がルリを奪った夜。自分の「しかたのない」事情に他の誰かが傷つくことはないんだと、ルリは、悲しい笑顔を浮かべた。あのときのルリのような表情を、今の自分が浮かべているというのだろうか。

「たとえ救われたとしても、あのときの痛みは胸の奥に残し続けないといけないと思います。たとえ今があまりに幸せで、痛みを忘れそうになっても。痛いけど、でも、だからこそ救いの大切さが分かるんです。そうやって、大人になっていくんだなって、分かります。だから、次は、私がルミナさんに手を伸ばす番なんです」

「ルリが、手を……?」

 どういう、ことなのだろうか。

「いつも夜風を浴びに来るって、私は言ってましたよね。でも、今夜だけは、それはウソなんです……」

 ルリの呼吸が、わずかに乱れたのが分かった。

「すき」

 夜の世界に、その声だけがリン――と響く。

「だいすき、」

 意味を、その言葉の意味を、

「わたしはルミナさんのことが、すき。世界で一番。チェルシーよりもっと、銀之助さんよりもっと、わたしがルミナさんのことを、一番強く、だいすきっ」

 ルリが言葉を重ねるたびに、ちょっとずつ、ちょっとずつ、留美奈は理解してゆく。

「すき、とてもとても。すき、すき、すき、だいすき、だいすきっ、ルミナさんのこと、いっぱい、いっぱい、すきっ、すきっ、すきぃっ、」

 強く、

 強く、抱きしめた。

 ちいさくて、やわらかくて、良い匂いがする身体を、精一杯に。

 背中に、回される手も、強く、自分とルリとをさらに強く、密着させる。

「届いたかな、私の、こんな手でも……」

「うっせぇ、こういうのは、男の俺が言わなきゃならなかったんだ」

「えへへ……先に、いっちゃった」

 肩の上に顎を乗っけて、首の横に顔を埋めて、耳元でささやかれるほのかな笑いに、留美奈の胸はいっそう甘く締め付けられた。

「ずるいんだよ、ルリは。いつも、俺はいつも、会った時からずっと、ルリにやられっぱなしなんだよ」

「それは私も……」

「好きだ。好きなんだよ、俺の方がッ」

「私の方が好き」

「俺の方がっ……あ~、バカップルみてぇなことやってるよ俺たち」

「ぷっ」

「あははっ」

「ねえ、ルミナさん……」

「ん?」

「どきどきして、今日も、眠れそうにないです」

「…………そうか」

「昨日だって、告白するかどうかで悩んで、眠れなかったはずなのに、今日こそは安心して眠れると思ったのに、どきどきして、眠れません。お酒が、まだ残ってるんでしょうか?」

「どうだろうな」

「どうやったら、眠れますか?」

「ごめんな、金髪」

「へ?」

 呟いたあとに、腕を少しだけ緩めた。

 暗闇の中で顔を突き合わせて、

 視線が絡んで、

 何をするか、分かって――、


 池にできた小さな水たまりの、水面に映っている月に、また一片桜の花弁が触れる。

 いつしか桜は雨となる。夏の日差しに水は枯れ、落ち葉に色を濁し、雪が全てを凍てつかせる。強い風が心を惑わすこともある。二人のいる場所は移り変わっていく。けれど、二人のはるか頭上にはもう、地下世界にはない大空が広がっている。

 取り戻したのはきっと、あの日学校の屋上で見た満月だった。



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