小説の書き方を教わったことがある、という人が世にどれほど存在するだろうか。
古代から物語というのは語り継がれてきてはいるものの、小説家という職業が成り立つようになった社会というのは、やはりここ最近であろう。
大衆の生活水準が上昇し、多くの人々が娯楽を求めるようになったからこそ生まれた職業だと思うのだ。
さて、現代ではそのための学校が存在するのは確かだ。
俺自身コマーシャルでたまに目にする。
漫画、絵、小説、CG動画の作成など、将来のクリエイターを生み出すために総合化された学校だ。
詳しいことは何も知らないが、そう言ったものが社会において一定の価値を示してしることは、歴然とした事実だろう。
学校という形で体系化することで、ノウハウの蓄積が生まれる。
それは技術の蓄積であり、つまりは文化の成熟を促進する。
特にCG技術や漫画など、描写力が求められる分野としては非常に大切な機関なのではと思う。
何も、無闇に批難しようとは思わない。
学ぶために最適な場所があり、そこに向かう人がいる。
それは、世の必然ともいえる流れだと思う。
さて――――、本題だ。
俺の考えとしては上記の通り、教育というものは芸術、文化においても求められる。それが当然だ。
技術とは先達から学び、それをさらに工夫し昇華することで花開いていくものだ。
だからこそ技術の継承というものがあり、後継者不足に悩まされるということが起きる。
しかし、そこで敢えて俺は否定したい。
小説に関しては、その限りではないと。
小説というのは、言葉――文字の羅列だ。
それを組み合わせ、文章という形に仕立て上げる。
そして文章が幾つも積み重なり段落が生まれ、それが固まり『章』というものができる。
そしてその『章』が集まり装丁が施されれば一冊の本の完成だ。
お分かりいただけただろうか。
小説とは、文字に始まり文字に終わる。
それ以上でも、それ以下でもない。
挿絵という、想像力への刺激物が存在するが、あくまでも文字が主役だ。
絵でも、動画でも、声でもない。
文字である。
全てを文字という形、それ一点に収縮し作り上げられたものが小説なのだ。
そして、表現が文字という形に限られたが為に、奥深いものともなり、同時に浅薄なものにも成り果てる。
――――これは、あくまで俺の考えなのだが、小説に求められるものは独自性なのだと思う。
この人だからこそこれが描ける。
この作者だからこその筆致。
癖のあるキャラ。
軽快な人々。
爽快な王道物。
鬱々とした怪作。
勿論、それはどんな作品でもそうだ。
光るものがなければ魅力的には映らない。
当然のことだ。
ただ――小説に関しては、その幅が狭く深いと思うのだ。
文字という表現の中では、どうしても誰もが同じような部分が生まれてしまう。
そこをどう補い魅力的な作品と化すか。
それが作者に求められるのだと。
だが、そこに『教わる』という要素が生まれると、「偏向」というものが生まれてしまうと思うのだ。
「偏向」。言ってしまえばこれは「マンネリ」、または「テンプレ」と言い換えてもいい。
どこか似たような話しの流れ。
何故か家にまで押しかける可愛すぎる幼馴染。しかも超純情。
美人な女教師。しかもエロい。
突如表れる噛ませ犬。
完全にDQN。しかも矢鱈と気持ち悪い、下品な顔つき。
超鈍感な主人公。
猛烈アピールを強烈なボケで華麗にスルー。
甘えんぼな近所の子。
やっぱり僕に、懐いてる。
こんな奴らが織り成す華麗なる日々。
――――教える人が同じでは、同じような作品が生まれる。
求める人が同じでも、似たような作品が生まれ続ける。
しかも、それで売れてしまい、一大ジャンルを築くのだ。
何か似ている。けど面白いからいいや。
何かどっかで・・・まあ、いいや。
そう言ったことを、感じないだろうか。
今の日本では、巨大なシュミラークルが生まれていると思うのだ。
巨大で、強大な一大商業圏と化すほどの無限の再構成の輪が。
俺は、そうではないと思うのだ。
書くならば、「これ真似できるか?ええ糞ガキどもが。できるもんならしてみろよ」とせせら笑う程の何かが欲しい。
自信でも、熱意でも、狂気でも。
小説でも、小説だからこそ、「これが俺だ!」と吐き出しても尚足りない、情熱、情動、欲望、何でもいい。何かが欲しいのだ。
それは、一次でも二次でも変わらないと思う。
そしてそのためには、書き手の思いが不可欠。
・・・上手く言えないが、「売れる書き方」なお利口さんではいずれ底が見えてしまう。
流れに乗って書いてちやほやされても、すぐに消える。
一本、どでかい芯が必要なのだと思うのだ。
――――果たしてそれは、誰かから学んで生まれるのか?
俺は違うと言いたい。
今まで生きてきて、吐き出したい衝動があるから書くのだと言いたい。
溜め込み、十分に昇華させるべきものがあるためなのだと思いたい。
小説にだけは、体系化は不要だと思うのだ。
◇
「――――ねえ、兄貴聞いてる?やっぱ駄目?」
――――だから、俺はあまりどうこう言いたくない。
弟の書き方が可笑しいのは百も承知だが、それは自分で直していくべきものであって、誰かがぐちゃぐちゃ言うべきものではない。
自分なりに考え、本を読み、学んでいけばいいのだ。
「ん――、嫌そうだなぁ・・・あっ!じゃあさ、書き比べない!?同じ題材で、作品を書いてみるのさ!短編形式で!」
・・・ふむ、それならいいかもしれない。
互いに切磋琢磨し、批評し合うというならば、足りないところに気付き、己の糧になるか。
「よーし!じゃあ早速勝負な!一週間!一週間後に互いに見せ合うってことで」
うん。それならばいいだろう。
勝負だ弟よ。
◇
――――さて、一週間という時間とはいえ、どう描いたものか。
そもDBとギョなるクロスなど、誰も考え付きはしまい。
短編として無理やりやるしかないが・・・それにしてもどうするか。
取り敢えずは、状況説明からか。
◇
それは、突然だった。
沖縄で忠が見た異様な物体と、それに伴う異臭。
彼女である華織が騒ぎ出し、警察を呼ぶまでに至った珍事。
それだけならば、単なる被害妄想で留まるはずだった・・・
突如現れる、歩行する魚達。
それらは、沖縄に出現し、街を襲撃し始める。
小さな魚から、巨大なサメに至るまで。
強大な足を身に付け、異様なまでの腐臭を漂わせ。
奴らは街を襲い来る。
◇
・・・難しいな。
これはもう、突然現れた救世主的に描くしかないか。
例えるなら、マブラ○世界に現れたガオガイガ○みたいな。
一挙解決的にしないと収まりがつかないぞ。
◇
――――突如現れた歩行する魚達。
それに伴う腐臭。
その原因が判明するのは早かった。
なんのことはない、魚自体は既に腐敗していたのだ。
そう、動いていたのは魚ではなく、「足」だったのだ。
魚達は、ただの「糧」に過ぎなかった。
その「足」は、異様だった。
対象を上座に固定し、体中の穴にパイプを突き込む。
そして体を腐らせ、腐敗したガスをもってその四脚を動かすのだ。
そうして、糧がなくなるまでただのエネルギーとして足は魚を使い続ける。
だが、魚では容量が少ない。
そこで、奴らは人間を次なる対象に選んだ。
――――そうだ。
人間が、贄と化した瞬間だった・・・
◇
う~ん。
短編だから、思い切ってばっさり切るのもありだろうか。
そもそも弟に見せるのだから、短編とはいえ何千字も書く必要はないだろう。
◇
どうして、こうなってしまったんだろうか・・・
忠は、燃え尽き骸と化した彼女の成れの果てを横に、茫然とその光景を眺めていた。
全てが、消え失せた。
最愛の恋人、華織は「足」が放つ菌により醜悪に肥大化し、耐え切れず自殺した。だが「足」は嘲笑うように華織に取り付き、街中を走り回った。
腐敗した街を必死に走りまわして華織を見つけた時には、何物かに焼かれ、白骨だけをその証明とした姿だった。
「やっと・・・臭いから解放されたね・・・」
人一倍臭いに敏感だった恋人、華織。自らが腐臭を発していた時の気持ちは、忠の想像を絶するものだっただろう。
でも――と、忠は思う。
もしかしたら、幸せなのかもしれない、と。
この地獄で、抗体を持つごく僅かの人々と忠は生きていかねばならない。
全世界が「足」によって埋め尽くされた世の中で。
何もかもが狂ってしまったこの世界で。
忠は、それを見つめた。
街中の人々をかき集め、腐臭を放ちながら肥大し、どこかへ列をなして進んでいく「足」達を。
死の行進・・・
それは、地球の終わりだった。
いや、そうではない。
人の営みの終焉。
文明が崩壊する時が来たのだ。
東都大学の生き残りの者の話しでは、あれらは人工物ではない機械なのだという。溶接も、継ぎ目も、ネジ一つすらないのだとか。
例えるのならば、機械生物。
無機生命体。
神がそれを、作ったとでも・・・
唯唯、眼前の光景に圧倒されて、忠は茫然としていた。
全てが理解の外にあり、ただ、眺めるしかできなかったのだ。
忠はふと、土手に寝そべりながら手を伸ばす。
それに何か意味があるわけではなかった。
きっとそれは、救いを求めていたのだろう。
救世主と云う名の、幻想を――――
「うっひゃあ、どうなってんだこりゃあ・・・」
男の声。
快活そうな、この場にはあまりにも不自然な声。
だが、忠が最も不思議に思ったのは。
「ったく、えれぇことなってんなあ・・・」
その声が、上空からしているという事実だった。
◇
・・・なんだ、これ。
やっぱ書いてて無理ありすぎる気が。
まだゴジ○とか、モス○とかの方が納得できるよ・・・
いや、でも書かないと。
◇
夢でも見ているのかと思った。
その男は宙に浮いていたのだ。
橙色の妙な道着らしきものを着て。
男は、ワックスでもゴテゴテに塗ったかのような、針の如き髪型をしていた。
目立つ風体だが、不思議と嫌な感じはしない。
快活で、純朴そうな表情がそうさせるのだろうか。
「この数だと、かめはめ波は使わねえ方がいいか・・・」
真剣そうな表情。
だがそれも、すぐに笑顔に打ち消される。
「とりあえずまあ~、いっちょやるか!」
そう言うと、男は右手を突き出し――
光が溢れた。
比喩ではない。
文字通り、男の手のひらから光が溢れたのだ。
黄色の光が吹き出し、その勢いは収まることなく。
腐臭を産み出し続ける「足」を覆い尽くし、そのまま――――
◇
・・・あ~、ちょっとタイム。
俺のSAM値がガリガリ削られていく。
やっぱこれ、いくらネタだといってもねえや。
可笑しいだろ悟○が出てくるってよ。
クロスはある程度世界観が共有できるのじゃないと、何の魅力もないよ!
やっぱ、ホラーはホラーと組まないとダメでしょ!
・・・ふう。
駄目だこりゃ。
俺はもう書けんよ。
書ききれなかったって言って、誤魔化そう・・・