――――それから一週間がたった。
結局俺は、あれ以降一文字も進められずにこの日を迎えた。
どうにか進めようと思ったが、これが俺の限界だったらしい。
・・・というか、気持ち悪くなって、無理だった。
うん、やっぱクロスものもある程度は考えないといけんよ。
無理があるのも考えものだということで、弟にも言おうと思う。
今日は土曜日。
朝起きると、もう翔太は部活に行ってしまっていたので俺は部屋でだらだら過ごす。
翔太は昼過ぎになって帰ってきたので、昼飯を食べた頃を見計らって聞いてみた。
「翔太。今日、互いに見せ合うって話しだけど――」
「おっ!わかってるよ兄貴!ちゃんと書いてきたぜ!」
厳しい部活によって鍛えられた体と、引き締まった顔つき。
凛々しいとも言える容姿。
我が弟ながら、中々だ。
――――眩しいくらいのドヤ顔を気にしなければ、だが。
「あ、うん。じゃあ、見比べるか」
先日までの弟の文を見ていると、どうしてそこまで自信が持てるのか疑問だが・・・まあ、それなりには頑張ったのだろう。
大して長所のない俺だが、文章に関しては先輩だ。そのくらいは甘く見よう。
そうして俺は、翔太が書いたものをパソコンで開く。
◇
何なんだよ。
突然おそいかかってきた魚達。
おれは、必死になて逃げていた。
くさった臭いに耐えながら、それでも俺は走った。
どうしようもない現実に耐えながら、俺は走った。
華織もいない。
日本中が狂ってる。
どうしようもない。
狂ってしまいそうな世界。
でも、それは突然だったんだ。
「よし、おらにまかせとけ!」
悟空が空から現れて、元気玉ですべてを一掃してくれたんだぜ!
光が見えたら、もう全部終わってた。
世界は平和になったんだ!
今は、皆で手を合わせて復興に向かってる。
華織、俺はいま頑張ってるよ。
お前も頑張れよ。
忠
◇
・・・ましになった・・・のか?
いや、確かに最初に比べたら良くなっている。少なくとも、文章ではある。
最後に「忠」ってあるから、手紙形式にしたのだろうか?死んだ華織へ手紙を送っているという形式にした?珍しい形ではあるが、ありではある。
だけど――と、俺はカーソルを動かし、文章を選択。
そして左下に出た数字を見る。
247。
――――247文字。
それは、どうなのだろうか。
いや、確かに俺も途中で投げ出してしまったから、1500字程度しか書いてないけどさ。
あり・・・なのか?
手紙形式の短文と考えれば、いいのか?
けどそれは、小説といっていいのか・・・
でもまあ、前よりは良くなっているから、努力はしているのだろう。自他共に認める脳筋から、随分進歩したはずだ。
・・・うん、そうだろう?
◇
凄い。
それが、弟の感想だった。
俺にはまだ全然書けないと、そう言っていた。
――――有難う。
俺は、そうしか言えなかった。
けど・・・
「やっぱ、書き方教えてくれってのはなぁ・・・」
ベッドに寝転がりながら、俺は先ほどの会話を思い出す。
弟の主張はこうだ。
最近は部活が忙しくて、思うようにネット小説も読めない。
自分で勉強しても、読解力のない俺には難しい。
だけど、やっぱり書きたいから俺に教えてくれ。
弟の通う学校は、スポーツに非常に力を入れている学校だ。
色々な中学からスポーツ推薦を取り入れており、部活に入る人が少ないとされる高校でも屈指の部活動参加率を誇る学校でもある。
弟自身も空手の推薦で入学している。
そのため日々の練習が非常に厳しいのだ。
平日でも三時間は部活の時間があり、休日ならば午前午後と、丸一日費やすような日々が常。
テスト勉強などもあり、そのためどうしても書くための時間がなかった。
以上が、弟の言い分だ。
これについては、俺には何とも言えない。
部活は中2の時に辞めてしまってから、結局高校では所属しなかったし、テスト勉強なんてのは数日前にちょこっとやれば平均点程度ならば取れる。
高校程度の勉強なんて、別にしなくても三流大学なら入るの簡単だし・・・ねえ?
勉強なんてする暇あったら、読書をした方がずっといいよ。そっちの方が有意義だろうさ。
え?部活?
まあ・・・辛いんじゃないの?
格闘技だし、疲れんじゃない?
水泳の方がカロリー消費は激しいって言うけど。
まあ、そんなもんでしょ?
――――それは兎も角。
教える・・・かぁ。
俺がネット小説を読み出したのが三年前。書き出したのが二年前。
ネット小説の隆盛も少しは語れるし、何が人気なのかもまあ分かる。
大型掲示板の場末にひっそりと載せている程度だが、まあ定期的に感想を書いてくれる人が僅かなりともいる程度の、取り敢えずは小説だと言える程度のものは書ける。
だが、書き方を教えるとなると、それはまた別の話しだ。
俺だって誰かに習ったわけじゃない。
たくさんの作品を読んできて、それらが合わさって自分のものになっているから素地ができているだけだ。
その自分でもうまく表現できない『素地』という基盤があるからこそ、ネットでとはいえ小説を書いている。
これあってこその小説だし、これがないならば努力しても書けるかというと疑問であるというのが俺の正直な考えだ。
仮にも小説とは物語。
創り編み出すものなのだから、習えばいいというわけでもないだろう。
それでもというならば、やはりまずは色々な小説を読み、表現の仕方を習うことから始めるしかないだろう。
・・・うん、そうだな。
やはり俺があれこれ言ってどうにかなるものじゃあない。
明日翔太にははっきり言おう。
◇
――――それからを述べよう。
あれから弟は、結局書く事を諦めた。
わり!兄貴やっぱ俺には向いてないや。
やはり弟は、部活と勉強で手一杯だったようで、それからしばらく家にいない時間が増えた。
何でも、母親があまりにもうるさく、仕方なしに塾へも行くことになってしまったのだとか。
ただでさえきついのに、塾に行かされても寝ちまうだけだよ。
弟はそう、気だるげに喋っていた。
俺はというと、怪我が治ってしばらくしてから家を出た。
初めの数ヶ月は家事とバイト、大学の授業で手一杯で何もできなかった。
どうにか慣れてきて、小説を書き始めるようになったのが半年後。
それ以降は、ひっそりと執筆活動を続けている。
――――結局、弟は青春の黒歴史のひとコマとして小説を書く事を終えた。
だが、俺は今もなお書き続けている。
今はネットの片隅だが、いつかは出版社へ殴り込みをかけたいというのが密かな野望だ。
思うに、人は何か一つできることが欲しいのだろう。
弟ならば空手。
俺ならば小説。
方向性は違うが、自分に何ができるかと考えて、即座に言えるのはこれだろう。
腐っても兄弟。この程度は即座に分かる。
そして、俺のように特にこれといった特徴もなく、長所も思いつかない人間には、二つの種類がある。
それは、自分より下の人間を見つけるか。
あるいは、得意な分野を作るかだ。
人は、すぐ誰かを貶したがる。
それは、自分が優れていると、まだ下がいると安心したいからだ。
そして、そのための方策が、上記に述べた通りだ。
ならば、自分はどうしたいか。
前者は楽だ。
何も考えずに、批判ばかりすればいい。
テレビに出てる立派そうな方々を真似ればいいだけだ。
後者は厳しい。
自分を戒めなければ、何も成し遂げられないからだ。
何かしらの努力をせねば、決して得意といえることはできない。
そして俺は、自身の存在意義として、小説を書くという道を選んだ。
それは、自分が自信をもって歩める道だ。
自分の存在意義を、自分自信で選んだ道だ。
――――将来、自分がどうなるか。
それは、誰にも分からない。
でも、今は――――
――――決して後悔しないように。
――――書き続けよう。
・・・元々短めなのに、さらに短くてすまない。
しかし、これで完結です。
元々2、3話程度で終わらせるつもりが、ついつい書きなぐり文字数が増え、気づけばリハビリ作品なのにまた書き詰まってしまうという悪循環。
だらだら続けても仕方がないし、違う方に集中するためにもこれで終わりとさせていただきます。
書き詰まってしまいましたが、これを呼んでくれた方々が、何かしら思うところがあったならば、筆者としては十分です。
ありがとうございました。
PS こっそり某サイトに投稿してたけど、すべてのポイントがゼロだったよ(´Д` )