――――――――――――ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの機嫌は最悪だった。
と言っても、低血圧な彼女の寝起きの機嫌が悪いのはいつものことである。
しかし、今日に限っては別の筈だったのだが――やはり彼女の機嫌は悪かった。
理由は部屋の中にあった。
昨日、部屋を飛び出した“使い魔”の寝床として用意した藁束は昨夜と変わらずに室内に散乱していたし、洗っておくように命令した筈の彼女の下着も床に転がったままだった。
「あんの使い魔ッ――平民の分際で言い度胸じゃない!」
そう呟きながらも彼女は自身の将来について極めて楽観的に捉えていた。
もちろん、その原因は彼女の初めての魔法の成功――使い魔の召喚――だった。
(これで私がメイジであること――つまり、魔法成功率「ゼロ」のルイズでないことを証明出来たのよ!)
数百回の失敗の上とはいえ、確かに彼女の魔法は成功したのだ――ならば、時間はかかってもいずれ魔法が使えるようになる。
“使い魔”を召喚した後に幾度かのコモン・マジックを失敗してもさえ、彼女はそう信じていた。
(……やってみせる! そして、私が伝統あるヴァリエールの名に連なる者として恥じないものであると証明してみせるのよ!)
先日、ルイズ自身が心に誓った言葉が思い出される。
そのためには、手始めに――他の誰よりも完璧に使い魔を『使役』出来るようにしてみせる。
故に、ルイズは、自らが召喚した使い魔――彼女自身は決して才人のことを少年とは認識しようとはしなかったのだ――が半ば彼女に追い出される様にして自室を飛び出した時、彼女はこう思っていた。
「ちょうどいい機会だわ――いずれ私の下に泣きながら帰って来ないといけなくなるんだもの!」
才人が未知の場所――当然、異世界であるとは思っていない――から召喚されたということであれば、彼自身の生活を保障できるのは主人たるルイズでしかない。
故に彼女に縋らなければ彼女の使い魔はこのトリステインで生きていくことなど出来ない筈、というこの世界の常識が彼女の考えの背景にあった。
(せいぜい持って3日……その後はご主人様にきっちり服従するように躾けてやるんだから!)
しかし、彼女は気付いていない。
それまで「魔法の使えない貴族など居るはずがない」というハルケギニアでの“常識”に怯えていた彼女が、『サモン・サーヴァント』の成功によって再びハルケギニアでの常識に縋ったのだということに。
王都、トリスタニア。
彷徨ったあげくに、何度目かの見覚えのあるような気もする何処かの通りに出た才人は途方にくれていた。
「あれ……どっちだろ?」
昨夜、シエスタというメイドさんに、
『私の親類がやっているお店なんですけど――』
と、紹介された店は「大通り」というには狭く、舗装もされていない道――というか、舗装された道路なんてものはこのハルケギニアではほとんどない――を通り抜け、いくつもの複雑な街路を抜けた先にあるらしい(こうした複雑な街路というのは、このトリスタニアの平民街がきちんと整理された上で作られたものではなく、自然発生的に無軌道な拡張に継ぐ拡張を繰り返す間に形成されたものであったことを示していた)。
もちろん、才人のいた世界とは異なって通りの名前を示す標識なんてものは立っていない。
いや、仮に立っていたとしてもこの世界の文字の読めない才人には判らないのだ。
当然の如く、初めての街中で才人は道に迷っていた。
時刻は既に昼を過ぎ、食料品や雑貨を扱う店も無い通り――その通りにあったのは薬屋っぽい店と武器屋らしき店などの非日用品を扱う店だった――は徐々に人通りもまばらになりつつある。
仕方なく才人は人に道を尋ねることにした。
「すみませーん、ちょっと聞きたいんだけど――」
タバサ――シャルロット・エレーヌ・オルレアン――は驚いていた。
――当然、尋ねられた内容のことではない。
彼女は、「貴族に平民が気安く話しかける」という事について驚いていたのだ。
しかも、その理由が道を尋ねるということであったからなおさらであった。
「えっと、『魅惑の妖精』亭ってところに行きたいんだけど――」
普段なら無視してもおかしくない――そもそもそんな状況に陥るはずが無い(仮にも貴族なのだから)――状況で彼女が頷いてしまったのは、その衝撃で混乱していたからなのかも知れない。
さらに、その少年の格好――黒髪に黄色がかった肌、そしてジーンズにナイロンパーカーといういでたち――も彼女の興味を引いた。
そんな状況で彼女は目の前で困った顔をした少年に言った。
「――こっち」
「案内してくれるのか?ありがとう」
少年はお礼を言いながら、彼女の後に付いて来る。
その態度を伺いながら、衝撃から立ち直った彼女は疑いの眼差しを抱いていた。
第一に、貴族に道を気安く尋ねる平民――そんなものがハルケギニアに存在するはずがない――という点。
つまり、彼女自身を狙って話しかけてきたという可能性。
第二に、異常に目立つ格好をした異国の少年であるという点。
それは彼女自身も知らない、何らかの使い手である可能性を秘めていた。
常に命を狙われる危険性と共に暮してきた彼女はそれだけの思考を一瞬で済ませ、少年を案内する仕草をしながら、自身が最も得意とする『ウィンディ・アイシクル』の発動の準備を整える。
しかし、少年はそれに気付いた様子もなく、彼女の後を付いて来る。
それを確認した彼女は、人通りのある大通りを外れて脇の薄暗い路地に入り、同時に彼女は歩く速度を徐々に上げていく。
そんな彼女の行動に黒髪の少年は疑うことなく、きちんと彼女に付いて来る。
さらに路地を曲がって――その瞬間、彼女は熟練者のみに出来る滑らかな動作で、先程までよりも僅かに開いた距離を生かして一瞬のうちに体を入れ替え、少年の背後を取る。
――その路地の先は行き止まりだった。
「へっ――?」
少年が驚きと疑問の入り混じった声をあげた直後、彼女は杖を突きつけながら、その二つ名にふさわしい、感情を排した冷たい口調で問い質した。
「貴方は何者?」
「えーと、俺は平賀才人っていうんだけど――」
驚きと困惑の混じった反応を返す少年の姿。
しかし、彼女はその言葉に対して詠唱の終わっていた『ウィンディ・アイシクル』を顕在化させながら、再び同じ質問を繰り返した。
「……貴方は何者?」
「だから、俺は平賀才人……、強いて言えば――高校生、かな?」
――顕在化した魔法に驚いたのか、少年はやっと自身の名前(と思われる)以外の言葉を口にした。
「……コウコウ、セイ?」
思わず、聞きなれない言葉を反芻する。
「コウコウセイ」とは何か――裏の世界についてはある程度知っている筈の彼女自身も知らない秘密結社か?
あるいは、少年の格好からすると、遥か東――ロバ・アル・カリイエ――に存在する何かだろうか。
「そう、高校生……ってわかる?」
彼女の反応に少し安心したのか、少年の声に安堵の色が含まれていた。
しかし日々命を賭し、あるいは狙われていた彼女に安心の色は無い。
「コウコウセイとは何?――答えて」
「高校生ってのは、学生の一種で――」
――問答が次第に会話形式になっていくにつれ、才人の説明は徐々に真実性を帯びていった。
才人の言う「コウコウセイ」とは学生のことであり、それ以前にも多数の教育課程があるらしい。
当然、彼女は彼女自身の常識から見て疑問を抱く。
彼はどうみても平民――少なくとも有力者の息子というわけでも無さそう(彼女はその立場上、有力者の子息の醜悪な点を多数見てきている)――であり、そんな平民が幾種もの教育機関を受けられる世界があるのだろうか、という疑問。
――同じ世代の男女すべてを教育するとなれば、膨大な施設と教師が必要となるが、それをどうやってそろえているのかという疑問。
その他にも彼女の常識からすれば信じられない――むしろ信じるほうがどうかしている――様な疑問。
しかし、才人の説明はぎこちないながらもそれらの疑問に次々と答えていく。
(少なくとも嘘ではない――)
彼女はそう判断する。
嘘というものはどれだけ積み重ねても、どこか薄っぺらなものであり、ここまで詳細にその状況を語れるものではない。
また、目の前の少年は聞かれた以上のことを答えない。
嘘や妄想を話す人間は、必ずといっていいほど聞かれた以上のことを話してしまう。
作り話はいつか必ずボロを出すものであるが、彼の話にはソレが無い。
――そして、何より彼の話す世界のことは彼女の知的好奇心を誘い、同時に彼女の心を揺らす。
「生まれの貴賎に左右されず、誰もが自由かつ平等に暮らしている社会」
「王権が無く、政治は平民の支持で選ばれた代表者が行なう社会」
「魔法がなく、魔法使いもいない社会」
目の前の少年の言う「社会」があれば、彼女自身は今のように縛られず、自由に暮らせたのではないか。
王権なんてものが無ければ、優しい父様は死なずに済んだのではないか。
魔法なんてものが無ければ、美しい母様もまた心を狂わされることも無かったのではないか。
そうした自問自答を繰り返すうちに、いつしかの彼女の目には涙が溢れ出していた。
……しかし、彼女はそれに気付かない。
そして、何時の間にか少年に突きつけていた杖を降ろしていることにも気付かなかった。
彼女が変化に気付いたのは、自身が何かに抱きしめられている感覚を覚えた時だった。
反射的に彼女は身を強張らせ、降ろしていた杖を再び握りしめる。
そんな彼女の耳に聞こえたのは――
「ごめんな」
――心配でも包容でもない言葉。
そこにはただ、謝罪の言葉があった。
「何故――?」
――貴方が謝罪する必要は無い筈、と言葉を継ぐ前に少年が言った。
「ごめんな。嫌なこと思い出させて」
その一言を聞いた瞬間――杖を握り締めた手の力が抜け、地面に杖が落ちる。
同時にそれまでこらえていた感情が堰を切ったようにあふれ出した。
――いつまでそうしていたのだろう。
彼女にとって、その間は数分の間だったようにも、数時間だったようにも感じられた。
日は既に傾き始め、日中でも薄暗い路地はさらに暗くなり始めていた。
「それで、『魅惑の妖精』亭って所を教えてくれると助かるんだけど……」
彼女が落ち着いたのを見計らって、少年が尋ねてくる。
そういえば、最初のきっかけは道を尋ねられたことだったと思い出し、彼女は苦笑する。
そして、彼女は彼女の苦笑の意味が分からないという顔をした少年を促し、比較的大きな通りに出てある建物を指し示した。
彼女の指し示した先には、いかにも「RPGに良く出てきそうな酒場」風の木造二階建ての建物があり、入り口の上には大きな看板がかけられていた。
何故か言葉が通じるようになっても、この世界の文字が読めない才人には何のことだかわからないが、そこにはハルケギニアの文字でこう書かれていた――「トリスタニア一の名店『魅惑の妖精』亭」と。
「えっと――ここってこと?」
未だ、彼女の仕草を理解しきっていない少年が尋ねた。
それに対して彼女も小さく頷き、肯定の意を返す。
「そう」
それを聞いた少年は彼女の方へ向き直り、言った。
「そっか、ありがとう。えっと――」
言葉の続きを口ごもりかける少年の反応を見た彼女は彼の意を察して、言葉を継ごうとする。
「タバ――」
彼女はそう言い掛けて、直後に口ごもる。
――彼は嘘を言わなかった。
少なくとも、私は彼の話は真実だと信じる。
ならば、彼にも私の真実を伝えたい。
――人形としての名前ではなく、一人の人間としての名前を。
そう彼女は決意し、言葉を紡ぐ。
「……シャルロット。シャルロット・エレーヌ・オルレアン。それが、私の名前」
その言葉を受けて、少年は先程の言葉の先を継いだ。
「そっか、ありがとう。シャルロットが居なかったら――俺、ずっと迷ったままだったと思う」
「――ありがとうな」そう言って少年は彼女の頭を撫でた。
蒼いサラサラした髪が少年の手の動きに合わせて揺れる。
その感覚は、かつて彼女が「シャルロット」だった頃に味わったものと同じ感覚。
そして、「じゃ――」と片手を挙げて別れを告げると、少年はゆっくりと酒場に向けて歩いていく。
そんな後姿を眺める彼女をオレンジ色になりかけたばかりの夕日が照らしている。
――風が出てきたらしい。
柔らかな風が彼女の蒼い髪をかすかに揺らす。
髪が彼女の視界を一瞬さえぎった直後、少年の姿は建物の中に消えていた。
ルイズの使い魔は五日目の朝になっても帰ってこなかった。
「……おかしいわね」
そう呟いた彼女はこの数日間、他の誰よりも完璧に使い魔を『使役』出来るようにするために、どんな「おしおき」を主人として与えるべきか考えながら過ごしていた。
(さすがにそろそろ姿を現しても良い筈よね?)
しかし、彼女の使い魔はそんな彼女の予想を裏切るようにして姿を現さない
人間は3、4日程度絶食した程度で死ぬとは思わないが、さすがに彼女も一度も姿を見せないことに異変を感じたのだ。
そして、自身の使い魔の様子が気になった彼女は学園の中を探すことにした。
「ねぇ、私の使い魔しらない?」
ルイズがそう最初に尋ねたのは、隣室の褐色の肌を持つ17歳にしてはいささか発育の良すぎる少女だった。
その少女――キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー――は早朝というにはあまりにも遅いにも関わらず、ネグリジェにけだるげな態度でルイズに応じた。
そして、いまだに眠たげな態度で、昨夜はペリッソンとスティックスとギムリとどうとか呟いていた。
――さらに、肝心なルイズの質問に対しては。
「あなたの使い魔ぁ?……知らないわよ」
使い魔?なにソレ?と言わんばかりの態度でキュルケは答え、
「――寝不足は成長と美容の敵よ、まぁルイズみたいにぺったんこじゃ発育の余裕もないでしょうけど」
と、いつもの軽口を加えるのも忘れない。
……しかし、キュルケがそう答えたときには、既に彼女の前からルイズの姿は消えうせていた。
「何だったのかしら?」
自室の扉の前に一人、ネグリジェ姿で取り残されたキュルケは眠たげに呟いた。
そんな彼女の目に数冊の本を抱えて廊下を歩く知り合いの少女の姿が写った。
「あらタバサじゃない! 相変わらす朝が早いわね」
そんな問いに青髪の少女は扉の隙間から覗く彼女の部屋の窓を指し示し、単調に告げる。
「もうすぐ昼」
「『もうすぐ』ならまだ朝じゃない! そんな朝から図書館に行くなんて貴女よほど本が好きなのね」
そう返すキュルケの視線の先にはタバサと呼ばれた少女が抱えた本があった。
「ええっと……『有史以前のハルケギニア』? タバサ、あなたそんな本をどうする気なの?」
表紙に書かれたタイトルを見て浮かんだ疑問を尋ねるキュルケ――彼女には思い浮かんだことをつい軽く口にしてしまう悪癖があった。
しかし、そんな質問にもタバサはやはり淡々とした口調で答えた。
「……これは個人的なもの」
そう言いながら、早く自室で読みたいのか、そわそわとした仕草で「要件は何」と言いたげな素振りを示している。
そんなタバサの様子にキュルケは邪魔をするのも悪いと思ったのか、「悪かったわね」と謝りながら彼女を見送る。
数冊の本を抱えた少女の背中を見つめながら、キュルケは先程のルイズの質問をタバサに聞きそびれたことに気付いた。
「まぁ、どうでも良いわよね……」
しかし、次の瞬間にはそんな思いを完全に忘れ、そう呟いてキュルケは再び眠りにつくために自室の扉を閉じた。
キュルケの部屋の前を飛び出したルイズは、廊下の角を勢いよく曲がって――柔らかいものにぶつかった。
「「きゃっ!」」
思わず尻餅をつくルイズ。
――彼女がぶつかったのは籠に山と盛られた洗濯物の塊だった。
直後、その山が崩れると同時に黒髪のメイドが姿を現した。
「申し訳ありません、ミス・ヴァリエール――」
「ちゃんと前見て歩きなさいよね!――まぁ良いわ。ところで、私の使い魔知らない?」
鬼気迫る様子のルイズを見て、黒髪のメイド――シエスタ――は「私が逃がしました!」なんて言える筈もない。
――言えば当然処罰されるのは目に見えているし、別に恩がある訳でもないのに、そこまでして貴族連中や目前の少女に肩入れする義理も彼女には無い。
さらに付け加えるならば彼女はつい先日、一人の貴族学生が引き起こした二股騒ぎに巻き込まれて、とばっちりを受けたばかりでもあった。
「――さ、さぁ。私は存じませんが?」
昨夜、ほとんど眠っていないこともあって、血走った目をして迫る美少女。
顔の整った人物が怒ると恐い、という言葉を体現するような姿に少々怯えながらシエスタは誤魔化した。
「そぅ……もういいわ、行きなさい」
機嫌が悪いせいもあって、ぶっきらぼうに言い放つルイズ。
その言葉を聴いたシエスタは「失礼します」と言って、すばやく洗濯物をかき集めてその場を去っていった。
その後もルイズは才人の捜索――というにはあまりにも稚拙なもの――を続けた。
しかし、その成果は芳しいものではなかった。
彼女が使い魔を召喚した事実は、召喚の儀の翌日、立会人がコルベールだけの状況で召喚したこともあって、一部の人間――世話をする立場の使用人の間や一部の教諭の間――にしか知られていなかったのである。
当然、その事実を知らない、あるいは興味の無い級友からの答えは非情なものとなった。
「……君の使い魔? 知らないなぁ」
そう答えるのは少数派であり、大半の級友からは、
「使い魔? そもそもあなた召喚出来てたの?」
「いないものを探しても見つかる筈ないだろ、ルイズ?」
といった答えが返ってくる。
挙句の果てに、キザな仕草が特徴的なある級友はこんなことを言ってのけた。
「――必死なのは分かるけど、逃げ出したことにして学院に居残ろうとすることには感心しないな」
……その時、学舎が吹き飛ばなかったのは、偏にルイズ自身の忍耐力に負うところが大きかった。
普段のルイズなら問答無用で激高していただろうし、最悪の場合、決闘になってもおかしくなかった。
しかし、この一言が彼女に与えた衝撃はあまりにも大きかった。
それはつまり、ルイズが「使い魔を召喚できなかった事実を隠そうとしている」と言われたのだ。
しかも、その動機は“学院に残りたい”が故だと言ってのけたのだ。
その一言をここで否定するのは容易い。
しかし、彼らに自らの使い魔を示さなければ、その一言を本当に否定することにはならないのだった。
故にルイズはその場から背を向けて早足に歩き出した――自らの使い魔を取り戻すために。
誰も自らの使い魔の存在を信じてくれない――ルイズが使い魔を召喚したと信じない――ならば、自分の力だけで探し出してみせる。
あの使い魔は彼女自身の将来を保証してくれる存在でもあるのだ。
故に、彼女自身の将来の為にも、実家である名門ヴァリエール公爵家の為にも、何が何でも自らの使い魔を探し出して、連れ戻す。
――必ず使い魔を連れ戻し、この屈辱を晴らしてみせる。
そして、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールという人間を認めさせてみせる。
そう決意するルイズの歩調は徐々にその歩く速度を増していく。
いつの間にか駆け出していた彼女は、自らの使い魔の捜索を再開した……誰の手も借りずに。
絶望の淵にいたルイズという少女に与えられた唯一の希望。
それが「あの」使い魔だったのだ。
それまで望んだもの――主に物的な面で――は全て与えられてきた少女は、その使い魔の存在が当然であると思っていた。
“一度与えられたモノが彼女自身から奪われることなどありえない”
トリステイン一の権勢を誇るヴァリエール公爵家に生まれた彼女にはそんな思い込みがあった。
そして、貴族制度というハルケギニアの身分秩序もまた、そんな彼女の思い込みを補強していたのだ。
しかし、そんな彼女の使い魔は“別の世界”の常識を持った存在だった。
そんな彼が“この世界”の常識にすんなり従うことなどありえない――
そして、深夜まで続いた捜索でも、彼女の使い魔の姿を見付け出すことは出来なかった。
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今回もトリ革をお読み頂いてありがとうございます。
作者のさとーです。
10/08/07
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