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No.39807の一覧
[0] 【習作】夢で異世界、現は地獄 ~システムメニューの使い方~(R-15/異世界/チート)[TKZ](2016/11/10 16:46)
[1] 第1話[TKZ](2014/06/24 18:52)
[2] 第2話[TKZ](2014/06/24 18:53)
[3] 第3話[TKZ](2014/06/24 18:54)
[4] 第4話[TKZ](2014/06/24 18:54)
[5] 第5話[TKZ](2014/12/30 18:30)
[6] 第6話[TKZ](2014/06/24 18:56)
[7] 第7話[TKZ](2014/12/30 18:31)
[8] 第8話[TKZ](2014/06/24 18:57)
[9] 第9話[TKZ](2014/06/24 18:58)
[10] 第10話[TKZ](2014/10/01 00:04)
[11] 第11話[TKZ](2014/06/24 19:12)
[12] 挿話1[TKZ](2015/06/15 23:24)
[13] 第12話[TKZ](2014/06/24 19:30)
[14] 第13話[TKZ](2014/06/24 19:31)
[15] 第14話[TKZ](2015/04/27 12:36)
[16] 第15話[TKZ](2014/06/24 19:32)
[17] 第16話[TKZ](2014/06/24 19:33)
[18] 第17話[TKZ](2014/06/24 19:33)
[19] 第18話[TKZ](2014/12/30 18:33)
[20] 第19話[TKZ](2015/09/23 21:32)
[21] 第20話[TKZ](2015/06/15 23:17)
[22] 第21話[TKZ](2014/06/24 19:36)
[23] 第22話[TKZ](2014/06/24 19:36)
[24] 第23話[TKZ](2015/07/19 22:03)
[25] 第24話[TKZ](2014/06/24 19:38)
[26] 第25話[TKZ](2014/06/24 19:43)
[27] 挿話2[TKZ](2014/06/24 19:48)
[28] 挿話3[TKZ](2014/06/24 19:50)
[29] 第26話[TKZ](2014/07/22 21:36)
[30] 第27話[TKZ](2014/06/24 20:00)
[31] 第28話[TKZ](2014/06/24 20:02)
[32] 第29話[TKZ](2015/06/15 23:18)
[33] 第30話[TKZ](2014/12/30 18:35)
[34] 第31話[TKZ](2014/06/24 20:04)
[35] 第32話[TKZ](2014/06/24 20:05)
[36] 第33話[TKZ](2014/06/24 20:06)
[37] 第34話[TKZ](2014/07/22 21:37)
[38] 第35話[TKZ](2014/06/24 20:08)
[39] 第36話[TKZ](2014/06/24 20:08)
[40] 第37話[TKZ](2014/06/24 20:09)
[41] 第38話[TKZ](2014/06/24 20:10)
[42] 第39話[TKZ](2014/06/24 20:10)
[43] 第40話[TKZ](2014/07/22 21:39)
[44] 第41話[TKZ](2014/12/30 18:37)
[45] 第42話[TKZ](2014/06/24 20:12)
[46] 第43話[TKZ](2014/10/26 21:10)
[47] 第44話[TKZ](2014/07/22 21:40)
[48] 第45話[TKZ](2014/06/24 20:16)
[49] 第46話[TKZ](2014/06/24 20:18)
[50] 第47話[TKZ](2015/07/19 22:04)
[51] 第48話[TKZ](2014/07/22 21:04)
[52] 挿話4[TKZ](2014/07/22 21:04)
[53] 第49話[TKZ](2015/04/27 12:37)
[54] 第50話[TKZ](2014/07/22 21:05)
[55] 第51話 (仮:ルーセ編 最終話)[TKZ](2014/09/02 20:02)
[56] 第51話 (本編)[TKZ](2014/09/02 19:56)
[57] 第52話[TKZ](2016/01/01 17:43)
[58] 第53話[TKZ](2015/02/15 21:07)
[59] 第54話[TKZ](2015/06/15 22:18)
[60] 第55話[TKZ](2015/06/15 22:18)
[61] 第56話[TKZ](2015/06/15 22:20)
[62] 第57話[TKZ](2015/06/15 22:21)
[63] 第58話[TKZ](2015/07/19 22:05)
[64] 第59話[TKZ](2015/06/15 22:26)
[65] 第60話[TKZ](2015/06/15 22:27)
[66] 第61話[TKZ](2015/06/15 22:29)
[67] 第62話[TKZ](2015/06/15 22:30)
[68] 第63話[TKZ](2014/12/30 18:44)
[69] 第64話[TKZ](2014/11/26 18:45)
[70] 第65話[TKZ](2014/11/26 18:52)
[71] 第66話[TKZ](2014/12/30 18:50)
[72] 第67話[TKZ](2016/11/10 17:07)
[73] 第68話[TKZ](2014/12/30 18:49)
[74] 第69話[TKZ](2014/12/30 18:51)
[75] 第70話[TKZ](2015/04/27 12:40)
[76] 第71話[TKZ](2016/11/10 17:09)
[77] 第72話[TKZ](2015/07/19 22:08)
[78] 第73話[TKZ](2014/12/30 18:55)
[79] 第74話[TKZ](2014/12/30 18:56)
[80] 第75話[TKZ](2015/02/15 21:12)
[81] 第76話[TKZ](2014/12/30 18:59)
[82] 第77話[TKZ](2015/06/15 23:20)
[83] 第78話[TKZ](2015/06/15 23:22)
[84] 第79話[TKZ](2015/02/15 20:49)
[85] 第80話[TKZ](2015/07/19 22:10)
[86] 第81話[TKZ](2015/04/27 12:43)
[87] 第82話[TKZ](2016/11/10 17:10)
[88] 第83話[TKZ](2015/04/27 12:45)
[89] 第84話[TKZ](2015/04/27 12:29)
[90] 第85話[TKZ](2016/11/10 17:13)
[91] 第86話[TKZ](2015/04/27 12:47)
[92] 第87話[TKZ](2015/07/19 22:12)
[93] 第88話[TKZ](2015/06/15 23:36)
[94] 第89話[TKZ](2015/07/19 22:17)
[95] 第90話[TKZ](2015/11/17 19:29)
[96] 第91話[TKZ](2016/01/01 17:47)
[97] 第92話[TKZ](2015/08/25 21:56)
[98] 第93話[TKZ](2015/11/17 19:30)
[99] 第94話[TKZ](2016/11/10 17:14)
[100] 挿話5[TKZ](2015/09/23 21:58)
[101] 第95話[TKZ](2015/11/17 19:25)
[102] 第96話[TKZ](2015/11/17 19:27)
[103] 第97話[TKZ](2016/11/10 17:16)
[104] 第98話[TKZ](2016/11/10 17:01)
[105] 挿話6[TKZ](2016/11/10 16:50)
[106] 第99話[TKZ](2016/11/10 16:51)
[107] 第100話[TKZ](2016/11/10 16:53)
[108] 第101話[TKZ](2016/11/10 16:54)
[123] お久しぶりです[TKZ](2019/03/06 22:00)
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[39807] 第31話
Name: TKZ◆504ce643 ID:43cd01a6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/06/24 20:04
 朝目覚めると腕ひしぎ固めが極まっていた。
 説明するまでもなくルーセが俺に技を掛けている。このお嬢ちゃん昨日からのご機嫌斜めが直っていないようだ。
「ルーセ痛いよ」
 特に技を掛けられている右腕の肘がベッドの外に飛び出している状態でルーセの上半身がぶら下がる形になっているので、流石に人外を誇る俺の身体でも堪える。唯一の救いは上半身は空中で下半身はベッドの上という状況なので精霊の加護も働いていない事で、もし加護が有効なら俺の右の肩と肘は既に破壊されている。
「がぅ!」
 ルーセの答えは俺の掌への噛付きだった。
「痛ったぁぁっ!」
 悲鳴を上げると噛むのを止めて俺を睨む。
「ルーセは怒っている」
「まだ機嫌直してないの? 馬鹿力と言った事は謝ったでしょ」
 本当に散々謝らせられた。まずは集まってきた村人達の前でムカルタと2人して土下座して謝らせられた。
 それで腹が収まらなかったのムカルタで、彼は自分以外にもルーセの馬鹿力の事を笑った事のある奴を名指しで批判するという余計な事を口にした。
 そのせいで名指しで批判された奴を含めて、俺達は再び土下座をさせられる。
 そうなると、ムカルタのせいで土下座をさせられた奴も他の奴らの名前を挙げる……憎しみの連鎖とは止まらないものなのだ。
 結局、その場に集まった村人達の大半が土下座で謝る事になり、俺とムカルタは10回以上土下座させられる事になったのだが、それは村人のほとんどがルーセを馬鹿力と言っていた事に他ならず、ルーセの怒りを解きほぐすどころか火に油を注ぐ事にしかならなかった……
「違う。リューは昨日の夜、ルーセと遊んでくれなかった。ルーセを放っておいてさっさと寝た」
 どうやら違ったみたいだ。
「だってルーセ機嫌悪かっただろ」
 家に帰ってきた後もルーセの怒りは収まっておらず、晩飯の料理も手抜きだったし食事中もずっと無口だったので、俺は触らぬ神に祟り無しと昨夜はさっさとベッドに潜り込んでしまったのだ。
「そういう時こそルーセの機嫌を取らないと駄目!」
 ……納得のいく理屈ではあるが、それは俺には少しハイレベル過ぎる対応なのではないだろうか? ……だが、俺のこういうところが妹の涼を怒らせていたのかもしれないとも思う。
「はいはい了解です」
 技を掛けられたままの右腕を持ち上げる。精霊の加護さえ効かなければルーセは力は年相応であり体重も30kgにも足りない程なので、その気になれば簡単に持ち上がる。その気にならなかったのは抵抗すればルーセの機嫌がなおさら悪くなると思ったからだ。
 ルーセ付きの右腕を自分の身体の上に持ち上げるて、左手で胸を叩くいて見せるとルーセは俺の右腕を解放すると胸の上に降りてきてしがみつく。
「甘えん坊だな」
「うん。ルーセ甘えん坊。リューはもっと甘やかさないと駄目」
 俺はまだ痺れる右腕を背中に回すと赤ちゃんをあやすようにゆっくりと優しく背中を叩き続けた……毎朝似た様な事をしている気がする。


「今日もトロールを狩る!」
 すっかりご機嫌になったルーセは高らかにそう宣言した。そして俺はトラウマを抉られて胸を押さえる。
「トロールはもう良いんじゃない?」
「駄目、もっと減らさないと危険」
 ルーセと俺の視線が絡むが俺が先に目を逸らす。歌いながらトロールを狩るルーセが怖いからとは口に出来なかった。
「分かった。だったら今日は俺が戦う」
「むぅ、ルーセが戦う」
「昨日十分戦ったでしょう。今日は俺の番だよ」
 今の俺には火属性Ⅱの【炎纏】がある。これは武器などに炎を纏わせて、ゴースト系などの通常の武器での攻撃でダメージを与えられない魔物へのダメージと、その他の魔物に対する熱での追加ダメージおよび、切れ味自体の向上もある。
 実にファンタジーっぽく、剣と魔法の世界に相応しい魔術である。今日から魔法剣士デビューなのである。
「まだ足りない。もっと戦ってこれの使いこなせるようにする」
 一刀両断で断られる。
 ルーセは長剣を右手に装備すると、物差しを手にしているかのように右手一本で軽々と振り回す。その非常識さは常識人である俺には辛いものがある……常識人だろ?
「……随分と気に入ったんだな」
「うん。これなら火龍の首に手が届く」
 惚れ惚れといった様子で胸の前に掲げた長剣を見つめる。気持ちは分からないでも無いが傍から見たら辻斬りの類の逝っちゃった目だよ。

 結局、俺達は交互にトロールの群れを倒す事になった。
 協力し合うのがパーティーだとも思うのだが、基本的に武器を持った状態で他人と協力し合って戦うのはしっかりと訓練していなければ無理だ。
 特に長剣を振り回すルーセは間合いに入った者はトロールだろうが俺だろうが関係なく斬ってしまうだろう……トロールと一緒に輪切りにされる自分が容易に想像できる。
 火龍を除けば、この森で最強であるトロールを相手にしても個人で圧倒できる現状において、まずはレベルアップによる個々の能力の向上を優先して、火龍との戦いの前に作戦を立てて、作戦に沿って想定される状況に必要な連携だけに絞って訓練をするという俺の提案にルーセも同意した結果だ。

 5体のトロールに正面から近づいていく。
 俺にはルーセの様に気配を殺し、遮蔽物を利用して気づかれないように接近する技術は無い。
「ぐぉぉぉぉぉぉわぁぁぁぁぁっ!!」
 俺に気づいたトロール達は一斉に威嚇の咆哮を上げ、震えた空気がビリビリと皮膚を叩く。
 耳が馬鹿になりそうな音に顔を顰めるのを堪え、トロール達を真っ直ぐ見つめながら笑う。
 それに警戒したのか「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ!」と喉を鳴らすと、1体のトロールが転がっている倒木を担ぎ上げると両手で投げつけてきた。
 比較的小さな倒木だが幹の直径は20cmはあり長さも3mはあるので、当たれば俺でも致命傷になりかねない。
 だが俺は回転しながら飛んでくる倒木を無視して前へと歩く。トロール達は俺が避ける事も出来ず倒木にはね飛ばされる姿を想像しただろう。
 しかし当たる直前に右手を前に突き出して倒木に触れた瞬間に収納した。
 トロールからするといきなり倒木が消失した様にしか見えなかっただろう。
「何それぇっ!!!」
 ルーセも同様だったらしく背後から驚きの声が上がり、次の瞬間には俺の横で腕を掴んで引っ張っていた。
「今の何? ルーセ知りたい!」
 瞳の奥にネオン街があるかの様にきらきらと輝く目。
「ちょっと待って。トロールが近くに──」
「じゃあ、ルーセがすぐに倒す!」
 そういい残すと長剣を装備しダッシュでトロールへと突っ込んでいく。
「ま、待て! それは俺のえも…………ああ、トルネードがトルネードが全てを……全てを……俺の活躍も……」
 先日の惨劇の再来。
 ルーセの口からは楽しげなメロディーが、そして彼女の繰り出す長剣からは死の竜巻が……俺は呆然とそれを見る続ける事しか出来なかった。

「倒した。教えて」
 たっぷりと返り血を浴びたルーセが嬉しそうに戻ってくる。
 とりあえず【操水】で浴びた血を身体や衣服から取り除くが、既に染み付いた臭いは取れないので後で洗ってやる必要がある。
「……別に難しい事じゃないぞ。飛んできた物に手で触れて収納と念じるだけだし」
 【所持アイテム】や【装備品】の恐ろしさは、収納した時に持っている運動エネルギーは装備などで取り出した時は0になっている事である。
 しかも、星の自転や公転。更には銀河の回転に宇宙自体の膨張などの影響、物体の原子や自由電子などの運動も一切無視というご都合主義である。
 ファンタジーな異世界だからありなのかとも思ったが、現実でも同様なのでシステムメニューとは本当の意味でチートである。
「うん?」
 理解出来なかったみたいで首を傾げる。
「……実際にやってみよう」
 辺りを見渡して見つけた拳くらいの大きさの石を拾い上げて「これを投げるからやってみて」と言って、アンダースローでゆっくりと投げる。
 ルーセは飛んで来た石を掴んで受け止めてから収納して、納得のいかない表情を浮かべる……ちゃうねん。

「……そうだな。さっきの石をこっちに投げて」
「分かった」
 ルーセは取り出した石を握り締めると全力で投げ返してきた……時速150kmくらいで。
「うぉっ!」
 そんなも喰らったら死ぬわ! と思いながら、唸りを上げて飛んでくる石に咄嗟に手を差し出し、触れた瞬間に収納した……言っても、0.01秒ほどは触れていたはずだ。収納したのは顔の10cm前と言うぎりぎりのタイミングで、もう少し油断していれば頭が吹っ飛んでいたはずだ。
「殺す気か!」
 流石に怒りを抑えられずに怒りの声を上げるが、ルーセは「リューは死なない大丈夫」と視線を逸らしながら答える……まあ何て信頼なんでしょう……なんて言うか、この糞餓鬼!
 ルーセに歩み寄ると思いっきり頭に拳骨を落とす。
「あぐっ!」
 痛みに頭を抑えるが無視して膝と腰を曲げて彼女と視線の高さを同じにするとその両の頬を左右から引っ張る。
 空手部と言う異常な環境に2年もどっぷりと漬かり込んだ俺は、こんな小さな子にすら体罰を辞さない。第一この程度は撫でたと呼ぶのである。
「死ぬ時は死ぬの! 危ない事をしたら駄目だと言ったでしょ……」
 長々と説教をしてしまった。説教が長くなるのは説教が下手糞だからだ……大島の言葉だが、あいつは体罰で言いたい事の95%以上は消化するので自然と短くなるだけだ。
「ごめんなさい」
 自分でも悪いと思っていたのだろうが、素直に謝れない頑なな性格のルーセが謝ったので俺も許す。
「相棒は大事に使えば一生持つからもっと大切にしろよ」
 俺の言葉に何か感銘を受けたのか、目を閉じて少し考えてから頷いた。
「分かった。リューの事もう少し大事にする」
 もう少しって……全然、分かってないよ。

「あっ、結局さっきの良く分からない」
「……そういえば、そんな話をしてたね」
 俺は【所持アイテム】から取り出した石を右手に持って高く掲げてから手を離した。
 そして落ちてくる石の横に左手で軽く触れて収納する。
「おおっ!」
「石を収納した時に左手には石の重さは伝わっていなかった。つまり自分の力じゃ受け止められないような大きな物も収納をうまく使えば自分を守る事が出来るって事だよ」
「分かった!」
「でも生き物は収納できないから、魔物が突っ込んで来た時に収納しようとしたら怪我するからちゃんと避けるようにね」
「むぅ……魔物は駄目か、残念」
 いやいや、それが出来たら火龍だって隙を突いて触れる事さえ出来れば収納して、冬になったら結氷した湖の氷に穴を開けて腕を突っ込み、氷の下に出して溺死させれば良いんだから簡単に倒せてしまうだろ。そこまでチートだったら流石に退くよ。

 新たなトロールの群れを見つけると、真っ先にルーセに釘を刺す。
「今度こそ俺の番だからね」
「分かった」
 決まり悪気に頷くルーセを後に、俺はトロールの群れへと向かう。今度は3体と小さな群れだが俺の魔法剣士デビューの相手としては手頃だと思う事にした。
 前方から接近してくる俺に気づいたトロールの群れが足を速めてこちらに向かってくる。
「炎纏。炎の剣!」
 【炎纏】の発動と同時に右手に持つ剣は紅の炎を纏う……つい心の奥底からこみ上げてくる言葉を口にしてしまった。魔法剣士デビューを前にして、厨二病を発症してしまったのだ。

「何それぇぇぇっ!!!」
 またか? またなのか? 俺の格好良い炎の剣が、ルーセの子供心を鷲掴みしてしまったのか、フッ……無理も無い。無理も無いのは分かってるから、俺にトロールを狩らせてくれないか?
「格好良い! ルーセもそれやりたい! やりたいよ! リューお願いだからルーセにやらせてよ!」
 ……ルーセの勢いを見る限りそれは無理な相談というものだった。


 午前中だけでも俺のレベルは33に達している。ルーセはレベル27と4レベル上げたが、そろそろ伸びが鈍化している。
 俺が火龍を倒す目安として考えているレベル40になる頃には、ルーセのレベルも38か39とさほど差がなくなっているだろう。
 そのレベルに達したルーセは控えめに言っても無敵と呼んでも良い存在だ。
 元々レベル1の俺自身、並みの成人男性を圧倒する身体能力を持っていて握力や背筋力などの数値で分かるような筋力は倍以上もあった。空手部とは人間の肉体を否応無く作り変えてしまう場所なのだ。
 レベル33の現在の俺は、筋力の全体の平均値でレベル1当時の俺の13倍程度であり、胸にSのマークを付けたエイリアンとでは比較にならないだろうが、蜘蛛人間くらいとなら互角以上に戦える超人と言っていいだろう……改めて、人類から遠く離れたところまで来たものだと思わずにはいられない。
 それに対して現在のルーセの筋力の平均値は現在の俺の3倍以上で、レベル38なら4倍以上になるだろう……はっきり言って火龍が気の毒に思えてくる数字だ。彼女を倒すためにはガ○ダ○を用意する必要があるだろう。
 レベルアップと精霊の加護と言う2つのチートを得たルーセに対して、火龍が戦闘時に持ちえる優位性は飛行能力とブレスのみになっているはずだ。
 そして俺がやるべきはその2つの能力を奪う事だ。

 その為の策は現状で幾つかあるが、どれも確実とは言えない。
 期待すべきは魔術なのだが、全くどいつもこいつもとしか言いようが無い。例えば、昨日憶えたの中の1つ【大水塊】は、直径3mくらいの水の球を生み出し操作する事が出来る……こんなのばっかりだ。どうしてシステムメニューを作った奴は、こんなにも水の球を浮かべるのに必死なの? やっぱり馬鹿なんでしょ?
 いかん興奮してしまった。
 俺が目的を果たすためには奇襲しかないだろう。問題はどうやって気づかれずに接近するかだが、今日の午前中に憶えた魔術に光属性の【結界】というものがある。
 実に魔法っぽく期待が持てる名前だ。そしてその効果は『直径5mほどの空間と外部との光・振動・臭いの伝達を絶つ』だ。素晴らしい即採用! と叫びそうになったくらいだが、説明はまだ続きがあった。『野営用。使用中は光の伝達も絶つため、昼間は結界がある場所が黒く丸見えのため暗くなった夜にしか効果が無い』……火龍は、日が落ちる前に巣穴に戻って朝まで動かないらしい。あらかじめ巣穴に入って結界を張っていても見つかるだろうし、夜明けに巣穴を出るところを襲うために結界を張って潜んでいても見つかる。使えない! 使えないぞ、魔術!

「リュー。ご飯も食べずに変な顔」
 俯いて考え込んでいると、下から顔を覗き込んでくるルーセに気づく。
「失礼な。俺は何時だってハンサムだ」
 考え事をしてた俺はかなり微妙な表情を浮かべていたのだろう。それを指摘された俺は誤魔化すため、咄嗟に見栄を張ったのだがルーセは「はっ」と鼻で笑う。
 自分でも分かっているだけに腹立つわ。しかもルーセはこんな小さい内から態度が柄が悪すぎる。普通これくらいの年の女の子が「はっ」なんて鼻で笑うだろうか? ……涼はそんな感じだった。
 この村の住人達がムカルタを始め比較的若い一人身の狩人が多く、ルーセの年頃の女の子も数が少ない。しかも狩人は別に悪いと言うつもりはないが決して上品な人種ではない。環境が悪いのだ。何とかして女の子らしく躾けなければ涼の二の舞二なってしまう……今でも十分手遅れっぽいけど。
「また変な顔。笑って」
 そう言って俺の口の両端に指を引っ掛けて引っ張りあげる。余りに自由すぎて抵抗する気力も無くなる。
「……やっぱり変な顔」
 そう言っていきなり笑い始めるルーセに俺は脱力してしまった。
 まだ時間はある。何か良い考えが浮かぶ事も、使える魔術を憶えて問題を突破する事もあるだろう。俺は手にしていたホットドックモドキにかぶりついた。
「美味いなルーセの作ったのは」
 これはお世辞でもなんでもない。
「当然」
 平然と答えながらもルーセの口元は上に持ち上がり、緩んだ口元を引き締めようとする表情筋によりピクピクと頬が震えている。
 今では俺に心を開いてくれているが、未だに表情を抑えて殺す癖が抜けない。しかし良く観察していると、彼女が取り繕う心理的防壁は結構隙だらけなのが分かる。
「本当に美味しいぞ」
 ルーセの頭に手を伸ばして撫でると、堪え切れずに「えへへ」と笑みをこぼす。
 色々と問題の多い子だが、ルーセとこうしているの時間が好きなんだと自覚せずにはいられない。
 火龍を倒した後、俺はこの村を出るつもりだがルーセが望んでくれるなら、彼女にも一緒に村を出てもらいたいと思っている。
 両親の墓のある村から彼女が離れると決断するかどうかは分からないが、駄目だったとしてもたまにはこの村に戻ってきてルーセの成長していく様子を見守ろう……うん、完全にレベルアップで向上した【父性愛】にやられている。やられているが嫌ではない。それが問題の深刻さに拍車を掛けているのだが、今となっては俺自身全く気にしていなかった。

 ゆったりとした時間の中、ルーセとたわいの無い話をしながら食事を楽しんだ。
 そして午後の狩りを再開したが、ルーセは俺に出番を譲らない。それどころか自分の長剣に【炎纏】を掛けろと強引に強請る始末だ。
「だから俺の番だといってるでしょう」
「ルーセも炎の剣をもっと振り回したい!」
 ルーセは頑固に譲らない。
 ええい、ルーセもと言っても、俺はまだ一度も振り回してないぞ。俺の魔法剣士デビューはどうなる!
 しかし、このお子様め全く話が通じないぞ。どうするんだ? こんな時にどうすれば良い? 涼が我儘を言った時に俺はどう対処したんだ? 思いだせ、思い出すんだ…………俺は何も出来ない本当に無力で情けない兄でした。

 マップ機能とルーセの気配察知能力で、トロールの群れを見つける度にルーセは俺に【炎纏】を使わせると、炎を纏った長剣を担いで群れに突撃していく。
 最初の頃の様に気配を殺して背後から襲うなんて事は「面倒だから良い」の一言で完全に過去の事となってしまっている。

 ルーセが炎の長剣を振り回しながらトロール達を輪切りにしていくのを見ながらトラウマに心を抉られる。
 トロール達の絶叫と絶叫の間に聞こえてくる、彼女が唄うあの歌は俺にとって子供の頃に夢中になった歌ではなく、もう悪魔の手毬唄にしか聞こえない。
 ちなみにルーセからは他の歌も教えてと強請られ、これ以上トラウマを増やしたくない俺は、悩んだ末に世紀末救世主伝説のアニメの主題歌を幾つか教えた。
 正直、これほどビジュアル的に一致する歌は無いという完璧なチョイスだった。しかし残念ながら彼女の好みには合わなかった……気に入れよ。お前のためにある歌と言っても過言じゃないぞ!
 しかも最悪な事に、俺が世紀末救世主伝説の主題歌を教えた事によってルーセはまだ沢山の歌がある事に気づいてしまい要求の圧力が増してしまった。
 そうだ。今日中にトロールを狩りつくしてしまえば良いのだ。その後になら歌を教えても……何の解決にもなってない!
 落ち着け、ルーセの歌に惑わされずに冷静になれ。そうだ童謡……学校唱歌なら普段別に耳にする機会も少ないからトラウマになってもかまわない。
 多分、俺は投げやりになっていたのだろう。
 炎を纏った長剣をぶん回す様はまさに火災旋風。その姿に恐慌に陥り逃げ出すトロールを歌いながら追い、草を刈り取るがごとく命を狩っていくルーセを見れば、そんな気分になっても仕方ないさと自分を慰めるしか出来なかった。

 結局、日が暮れ始めて狩りを終えるまでに俺の出番が来る事は無かった。
 だが観客状態でもレベルは上がる。レベル34……俺、この2日間ほとんど戦ってないのに随分と上がってしまったよ。
 ルーセのレベルのレベルも30になり、トロール狩りの最初の頃はトロールの膝の辺りに斬り付け──ルーセとトロールの身長差ではそこしか狙いが付けられない──て、脚を切り取られバランスを失って倒れるトロールの首が間合いに入るまでに、もう1度斬り付け3周目で首を刎ねていたが、今では膝への1撃目から首を刎ねるまでの間に3度斬り付ける事が出来るほど回転数が上がっているが。彼女はまだ不満そうでもっと回転数を上げることに熱中している。
 別に何度も斬り付ける事には意味が無い。首を刎ねられて混乱している間に頭部を破壊すれば良いので、1撃目の膝への斬撃で行動の自由を奪い2撃目で首を刎ねてしまえば良いので他は無駄と言っても過言ではない。
 それでもルーセは「あの踏み込みの時に回転を殺してしまっている……」とか呟き、回転数を上げることに夢中だ。

 魔術もまた新しいのを憶える事が出来た。
 【探熱】10分間(途中で解除可能)視界が熱の分布によって表示される。精度はガラガラヘビのピット器官に匹敵する……しかしガラガラヘビのピット器官がどれくらい凄いのか俺は知らない。
 【粉塵】非常に細かい土の塵を舞わせて視界を奪う。ただし自分も視界を奪われる……なんじゃそりゃ!
 ともかく微妙としか言えないものばかりが増える。ドカーンと爽快に敵を吹っ飛ばすような攻撃用の魔術は無いのだろうか?


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