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No.39807の一覧
[0] 【習作】夢で異世界、現は地獄 ~システムメニューの使い方~(R-15/異世界/チート)[TKZ](2016/11/10 16:46)
[1] 第1話[TKZ](2014/06/24 18:52)
[2] 第2話[TKZ](2014/06/24 18:53)
[3] 第3話[TKZ](2014/06/24 18:54)
[4] 第4話[TKZ](2014/06/24 18:54)
[5] 第5話[TKZ](2014/12/30 18:30)
[6] 第6話[TKZ](2014/06/24 18:56)
[7] 第7話[TKZ](2014/12/30 18:31)
[8] 第8話[TKZ](2014/06/24 18:57)
[9] 第9話[TKZ](2014/06/24 18:58)
[10] 第10話[TKZ](2014/10/01 00:04)
[11] 第11話[TKZ](2014/06/24 19:12)
[12] 挿話1[TKZ](2015/06/15 23:24)
[13] 第12話[TKZ](2014/06/24 19:30)
[14] 第13話[TKZ](2014/06/24 19:31)
[15] 第14話[TKZ](2015/04/27 12:36)
[16] 第15話[TKZ](2014/06/24 19:32)
[17] 第16話[TKZ](2014/06/24 19:33)
[18] 第17話[TKZ](2014/06/24 19:33)
[19] 第18話[TKZ](2014/12/30 18:33)
[20] 第19話[TKZ](2015/09/23 21:32)
[21] 第20話[TKZ](2015/06/15 23:17)
[22] 第21話[TKZ](2014/06/24 19:36)
[23] 第22話[TKZ](2014/06/24 19:36)
[24] 第23話[TKZ](2015/07/19 22:03)
[25] 第24話[TKZ](2014/06/24 19:38)
[26] 第25話[TKZ](2014/06/24 19:43)
[27] 挿話2[TKZ](2014/06/24 19:48)
[28] 挿話3[TKZ](2014/06/24 19:50)
[29] 第26話[TKZ](2014/07/22 21:36)
[30] 第27話[TKZ](2014/06/24 20:00)
[31] 第28話[TKZ](2014/06/24 20:02)
[32] 第29話[TKZ](2015/06/15 23:18)
[33] 第30話[TKZ](2014/12/30 18:35)
[34] 第31話[TKZ](2014/06/24 20:04)
[35] 第32話[TKZ](2014/06/24 20:05)
[36] 第33話[TKZ](2014/06/24 20:06)
[37] 第34話[TKZ](2014/07/22 21:37)
[38] 第35話[TKZ](2014/06/24 20:08)
[39] 第36話[TKZ](2014/06/24 20:08)
[40] 第37話[TKZ](2014/06/24 20:09)
[41] 第38話[TKZ](2014/06/24 20:10)
[42] 第39話[TKZ](2014/06/24 20:10)
[43] 第40話[TKZ](2014/07/22 21:39)
[44] 第41話[TKZ](2014/12/30 18:37)
[45] 第42話[TKZ](2014/06/24 20:12)
[46] 第43話[TKZ](2014/10/26 21:10)
[47] 第44話[TKZ](2014/07/22 21:40)
[48] 第45話[TKZ](2014/06/24 20:16)
[49] 第46話[TKZ](2014/06/24 20:18)
[50] 第47話[TKZ](2015/07/19 22:04)
[51] 第48話[TKZ](2014/07/22 21:04)
[52] 挿話4[TKZ](2014/07/22 21:04)
[53] 第49話[TKZ](2015/04/27 12:37)
[54] 第50話[TKZ](2014/07/22 21:05)
[55] 第51話 (仮:ルーセ編 最終話)[TKZ](2014/09/02 20:02)
[56] 第51話 (本編)[TKZ](2014/09/02 19:56)
[57] 第52話[TKZ](2016/01/01 17:43)
[58] 第53話[TKZ](2015/02/15 21:07)
[59] 第54話[TKZ](2015/06/15 22:18)
[60] 第55話[TKZ](2015/06/15 22:18)
[61] 第56話[TKZ](2015/06/15 22:20)
[62] 第57話[TKZ](2015/06/15 22:21)
[63] 第58話[TKZ](2015/07/19 22:05)
[64] 第59話[TKZ](2015/06/15 22:26)
[65] 第60話[TKZ](2015/06/15 22:27)
[66] 第61話[TKZ](2015/06/15 22:29)
[67] 第62話[TKZ](2015/06/15 22:30)
[68] 第63話[TKZ](2014/12/30 18:44)
[69] 第64話[TKZ](2014/11/26 18:45)
[70] 第65話[TKZ](2014/11/26 18:52)
[71] 第66話[TKZ](2014/12/30 18:50)
[72] 第67話[TKZ](2016/11/10 17:07)
[73] 第68話[TKZ](2014/12/30 18:49)
[74] 第69話[TKZ](2014/12/30 18:51)
[75] 第70話[TKZ](2015/04/27 12:40)
[76] 第71話[TKZ](2016/11/10 17:09)
[77] 第72話[TKZ](2015/07/19 22:08)
[78] 第73話[TKZ](2014/12/30 18:55)
[79] 第74話[TKZ](2014/12/30 18:56)
[80] 第75話[TKZ](2015/02/15 21:12)
[81] 第76話[TKZ](2014/12/30 18:59)
[82] 第77話[TKZ](2015/06/15 23:20)
[83] 第78話[TKZ](2015/06/15 23:22)
[84] 第79話[TKZ](2015/02/15 20:49)
[85] 第80話[TKZ](2015/07/19 22:10)
[86] 第81話[TKZ](2015/04/27 12:43)
[87] 第82話[TKZ](2016/11/10 17:10)
[88] 第83話[TKZ](2015/04/27 12:45)
[89] 第84話[TKZ](2015/04/27 12:29)
[90] 第85話[TKZ](2016/11/10 17:13)
[91] 第86話[TKZ](2015/04/27 12:47)
[92] 第87話[TKZ](2015/07/19 22:12)
[93] 第88話[TKZ](2015/06/15 23:36)
[94] 第89話[TKZ](2015/07/19 22:17)
[95] 第90話[TKZ](2015/11/17 19:29)
[96] 第91話[TKZ](2016/01/01 17:47)
[97] 第92話[TKZ](2015/08/25 21:56)
[98] 第93話[TKZ](2015/11/17 19:30)
[99] 第94話[TKZ](2016/11/10 17:14)
[100] 挿話5[TKZ](2015/09/23 21:58)
[101] 第95話[TKZ](2015/11/17 19:25)
[102] 第96話[TKZ](2015/11/17 19:27)
[103] 第97話[TKZ](2016/11/10 17:16)
[104] 第98話[TKZ](2016/11/10 17:01)
[105] 挿話6[TKZ](2016/11/10 16:50)
[106] 第99話[TKZ](2016/11/10 16:51)
[107] 第100話[TKZ](2016/11/10 16:53)
[108] 第101話[TKZ](2016/11/10 16:54)
[123] お久しぶりです[TKZ](2019/03/06 22:00)
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[39807] 第34話
Name: TKZ◆504ce643 ID:ed806326 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/07/22 21:37
 胸の苦しさを覚えながら目覚めると、目の前にルーセの寝顔があった。
 まるで猫の様に胸の上に乗って寝いる姿に最悪な気分が少し癒されるのが分かる。
 それが有難くて、両腕をルーセの背中に回して抱きしめて、ついで頬擦りもしてやった。
「ううっ」
 顔を真っ赤にしたルーセが唸り声を上げる。やはり寝た振りをしていて俺の過剰なスキンシップに耐えられなくなった様だ。
「おはよう」
「むぅ、おはよう」
 不機嫌そうに睨みつけてくるが口元は緩んでいる。素直じゃないけど涼に比べたら可愛いものだ……いや両者を比較する事自体が間違っていた。何がどう間違っていたのかはノーコメントだ。
 左手で背中を抱いたまま、右手を伸ばして頭を撫でてやるとすぐに目元も緩んでデレてしまう……これだ。こんな風に妹と戯れたかったのだよ俺は!
 まだ赤ん坊だった涼を、こんな風に抱きしめてやりたかっただけなのに……小さな可愛い手で眼を突いてくるんだぜあいつ。偶然なんかじゃなく的確に狙ってさ。
 ベッドに横たわり隣で寝ている涼を自分の身体の上で抱き上げて、頭を撫でようとしたら生後1年の赤ん坊のする目ではなく獲物を狙う無慈悲なるハンターの目で、俺の眼を突いてくる。恐怖の余り投げ出したら泣かれて母さんに叱られた。

「今日もトロールを狩りたいけど、狩場のトロールが居なくなった。リュー何とかして」
 朝食を終えるなり、早速の本日の無茶振りだ……日々益々傍若無人になっていくよ。
 確かに昨日は日暮れの1時間くらい前からトロールの姿が見つからなくなってしまった。乱獲によるトロール資源枯渇だな。この村としては決して悪い事じゃないのだが……それにしても何とかって何だよ!
「トロールはもういいだろう」
 俺は全然トロールを倒してないけど、もうお腹いっぱいだよ。
 それに、いい加減俺も狩りをしてシステムメニューのレベルアップではない部分をレベルアップしたいのだ。
「一番レベルを上げやすい」
「レベルアップすれば手っ取り早く強くはなれるけど、この2日間ルーセがしたのは、ただ力任せに長剣を振り回していただけでしょ。それで何か自分の中で腕が上達したと感じるものはあったの? それに強くなった身体の力を使いこなせているの?」
「あぅ……」
 図星だったようで気まずそうに視線を下げる。
「あの戦い方じゃ火龍と戦う時には役に立たないよね?」
「分かった」
 自覚はあったのだろう素直に認めた。
「今日はレベルアップは控えて、動きの速く小さな獲物を狙っていくよ。そうすれば長剣の使い方ももっと上達するし、強くなった身体を使いこなせるようになる」
「うぅ……」
 何か不満そうだ。
「どうかしたの?」
「後5日で火龍を倒したい」
「……なんで?」
「6日後がルーセの誕生日……お父さんとお母さんの命日。だから火龍を倒した事を報告してあげたい」
 そういう事情か……しかし、5日後か何とかなるか?
「……駄目?」
 目を潤ませて上目遣いに見つめてくる……何たるおねだり上手! 実の妹からおねだりされた事すら無く免疫を持たない心を攻められて『何とかなるかじゃなく、何とかするんだ!』と言う指令がDNAから発せられる。
 理性が『それ言うたらあきまへん!』と何故か京都弁で止めようとするが、それよりも早く「分かった」の一言が口を突いて出てしまった。
 ……うん、わかってるんだ。後悔するまでの所要時間は僅か0.3秒だった。どこの凄腕のガンマンだよ。

 5日……いや、実際に準備に取れるのは今日を入れて4日間のみだ。そして戦う前に1度は火龍の巣をこの目で確認しておきたいし、その後で火龍戦の作戦を考えて、それから連携の訓練……無理だ。絶対に無理だ。
 簡単に安請け合いして後悔するのは前にもやったばかりだ。俺には学習能力ってものは備わってないのか?
 何か良い方法は無いだろうか……いっそのことロードして「分かった」と言う前に戻りたいのだが……ちょっと待てよ。
 ロード……そうだロードだ。巻き戻しにおいて俺自身とパーティーのメンバーであるルーセの頭の中だけは巻き戻され無いのだから、訓練はロードのを繰り返せば何度でも経験を積む事が出来る。無論体力の向上など身体的な訓練は不可能だが、少なくともイメージトレーニング以上に効果がある練習が、実際の時間のロス無しに行う事が出来る。巻き戻される身体能力の類はレベルアップで補う事が出来るので気にする必要は無い。
 ならば今日1日あれば、長剣や身体の使い方の習得は十分に可能だ。というか十分に習得するまで何度でもやり直せば良い。もちろん鬼教官モードでな。
 そして目標であるレベル40は2日間オーガなどの大型の魔物を狩ればぎりぎり届くか? いや、獲物を探すための時間もセーブ&ロードで無駄足になった時間を巻き戻せば効率的に狩れるから時間的には十分だろう。余った時間で火龍の巣を調査する事も可能かもしれない。
 4日目は、火龍の巣の調査の予備としておき、火龍戦の作戦を立てて、それに沿った連携の訓練をするのだが、これもセーブ&ロードを使えば時間は必要としないだろう。
 可能だ。このスケジュールに多少の齟齬があっても、4日目はほぼ予備日なので対応は可能だろう。うん、完全にシステムメニュー頼り。システムメニュー万歳である。

「おおっ!」
 火龍討伐までのスケジュールを告げると、ルーセは感嘆の声を上げる。
 目が輝いてる。ふっふっふっ、もっと尊敬しても良いんだぞ?
「という訳で、今日は特訓だ。びしばしいくから覚悟しておくように」
「ぶぅー」
 えーっ、いきなりのブーイング?

 ウサギを見つけた。しかし、アレをウサギと呼んで良いのだろうか? 家庭用ゲームの某有名RPGに出てくるウサギ形の魔物に角が生えているせいか、その手のウサギ型モンスターは良くファンタジー小説では見かけるが、こいつには背中に羽が生えていて、接近していくとシステムメニューのエンカウントと判定で名前が表示される前に、跳んでではなく飛んで逃げてしまった。
「あれは弓じゃないと無理」
 森の木々よりも高く飛んでいくウサギモドキを見送りながら、そう言えばウサギって1羽2羽で数えるから納得だな……納得できるか!

『ロード処理が終了しました』

「これは練習にならない」
 頭から胴体の半分までを真っ二つに切り裂かれた猪モドキを前にルーセが呟く。
 ルーセへと真っ直ぐに突っ込んできた猪モドキは彼女の頭上から振り下ろされた長剣の一撃により地面に半ば叩きつけられるようにして絶命した。
 いつもの横回転の攻撃が単に縦の振り下ろしなっただけの力技だった。
 相手も真っ直ぐ突っ込んでくるだけなので注文も付けづらかった。

『ロード処理が終了しました』

「ルーセ。そいつの両腕を斬り落としてから首を刎ねるんだ」
「……面倒」
 身長が110cmにも届かないルーセと向かい合って立つののは上背が2mを大きく超えるレスネプシィドこと熊モドキだった。
 どの辺がモドキかというと、口元から剣歯虎の様に長い牙をむき出しにしている事だ。
 ちなみに剣歯虎は『虎』よりも『猫』に近い生き物である事が最近の研究で分かってきているそうだが、はっきり言って既に絶滅した動物がどの分類に含まれるかなんて、その道の専門家以外にとってはどうでもいい情報だ。それよりも遺伝子検査の結果、隼がインコやオームの仲間だと分かった事の方がはるかに衝撃的だ。前から怪しいとは思っていた。隼のクリッとした目の愛らしさはどうみても愛玩動物向きだと。

 ルーセは歩いて無造作に距離を詰める。
 熊モドキは仁王立ちで両腕を広げて構える。熊の腕による攻撃は外から内へと向かう打撃。人間のパンチの様に内から外へと向かう攻撃は無い……これは大島の教えだが、中学生に何を教えてるのだろう? 各地の小学校を回って子供達に「ヒマラヤでは生ゴミを捨てても地上と違って分解されないから、絶対に捨てたら駄目なんだよ」と啓蒙活動してますとか言ってる奴と同じだ。何万人の小学生にその話を聞かせたか知らないが、その中にヒマラヤに登る事になる小学生が1人でも居る確率は1/100程度だ。啓蒙するなら小学生に無駄な時間を使わせずに、山を汚すお前の仲間内でやれと思ったのと同じく、情報はそれを知っておく必要のある人間に与えないと意味が無いのだと当時は思った。それがこんな事になるなんて……人生先が読めなさ過ぎて笑える。もちろん乾いた笑いだ。
 ちなみに熊の腕の攻撃の事をルーセに教えたら「そんなの知ってる」で即終了でした。

 ルーセが長剣を振り下ろしたのに反応して熊モドキも腕を振って攻撃を叩き落そうとする。
 だが熊モドキにとってルーセの長剣は速すぎて、ルーセにとっては熊モドキの反応は早すぎた。
 両者はぶつかり、長剣は軌道を逸らされて地面を打ち、腕は骨を折られて熊モドキが痛みに吠えた。
 ルーセに掛けられた精霊の加護は彼女の持つ武器にも影響を与え、その馬鹿力にも耐えられる頑強さを持つ事になる──そうでもなければ、武器が壊れて仕方ない──ため折れることは無かった。一方で刃筋が完全にそれて刀身で殴りつけただけでも熊モドキの腕の骨を折るだけのダメージを与えたのだ。
「難しい」
 こちらを振り返り文句を言ってくるルーセに、熊モドキは残った腕で振り下ろす「分かってた」……ルーセが上へと振り抜いた長剣の刃は振り下ろされる腕を正面から捉え、熊モドキの腕は宙を舞った。
「これで3戦2勝!」
 そう言いながらルーセは片腕を無くしてバランスを失い体勢を崩した熊モドキの首を刎ね飛ばす。

 ドヤ顔で振り返るルーセに俺は首を横に振ってみせる。
「3戦3勝じゃないと駄目だよ」
「うぅっ!」
「長剣はいかにルーセの馬鹿ぢ……もとい、精霊の加護を受けた力をもってしても振るためには大きな予備動作と初動の遅さが付き纏う」
 危ない危ない『馬鹿力』と言いかけた瞬間、空気が変わりかけた。
「だから漠然と攻撃をしても駄目なんだ」
「……?」
 そうだよな。小さな子供には難しいよな。俺だって空手を始める前にはこんなこと言われても「はぁ?」だっただろう。
「攻撃には主導権が必要になる……ちゃんと説明するから首を傾げないで。熊モドキ──レスネプシィドはルーセが攻撃する前に身構えていた。だからルーセの攻撃に対してそれを打ち払おうとした。分かるね?」
「うん」
「だとしたら、ルーセの攻撃に対して前もって身構える事の出来ない状況を作る。身構えた態勢を崩す。身構えた事を無効化する。これが攻撃時に主導権を握るって事だよ」
「……で?」
 そうだよな……以下同文。
「例えば、あらかじめ相手を縛り付けて身動き出来ないようにして攻撃する」
「リュー。頭大丈夫?」
 本当にこの子は毒舌だ。と言うより思った事をそのまま口にしてしまうようだ。少しは考えてから口にして欲しい。
「た・と・え・ば! 例えばの話ね。どうやってそれを実行するかは良いんだ。目的を達成するためにどんな条件が必要なのかの話なんだから。ルーセも自分でどんな手段がを使えば、主導権を握ることが出来るか考えてみて」
 そう促されてルーセは一人前に腕を組みながら顎に左手を添えて考え込む。
「……隠れて相手をやり過ごして背後から襲いかかる」
「惜しいけど不正解」
「何故?」
「この場合は『背後から襲い掛かる』が正解で、『隠れて相手をやり過ごす』は必要ないんだよ。どうやって背後から襲い掛かるかは後で考える事で、この段階ではむしろ考えてはいけない」
「何故?」
 何故が被るが、今回のは明らかに不機嫌な何故だった。
「目的に至るまでの手順を分割して考える事で物事を簡単にする。一度に全ての手順を考えようとすれば物事が複雑になり、もしかしたら最適かもしれない可能性をも、そこに至る道筋が複雑なら自ら無理だと判断して潰してしまう事になりかねないからだよ」
 これはブレーンストーミングと同様に可能性を潰す議論ではなく、あらゆる可能性を発想する手法だ……だけど分かんないだろうな。実際、首を傾げて不思議そうな顔をしてる。
 理解させた上で考えさせるのが一番良いやり方なのだが、押し付けるしかないのかな? 強くなると言う事に強い動機を持っているから、そのやり方でも付いて来るだろうけど、やはり出来るなら……
「もし山に登るとしたら、山の麓からいきなり山頂を指差されて『あそこに登る』と言われるより、二合目辺りを指差されて『まずはあそこまで登る』と言われた方が気も楽だろ」
 例えとしては本来のトップダウンからボトムアップのアプローチになってしまっているが、全体としての難易度を分割して、個々に低い難易度を提示するという部分では同じだ。
「ルーセは山に登らない。登るのは登る必要がある時だけ。必要ならどんな事があっても山頂まで登る。気が楽とか関係ない」
 うん無理。今は絶対に無理だ。これからの長い彼女の人生において成長する中で自分自身で身に着けていけば良いんだ。その時に手助けしていけば良いんだ。

 俺は手っ取り早くフェイントの基礎を教える事にした。
 ルーセは狩人として、あらかじめ伏せておき背後から奇襲をする事を理解しているのと同様に罠を仕掛けたりする、戦う前に勝つ為の主導権を確立する戦略的な思想の必要性は理解していたので今回はパスする。
 フェイントは、何の準備もなく戦わなければならない場合に攻撃の主導権を握る方法としては、もっとも簡単で効果も高い……即興で心理戦を仕掛けるとかは俺にも無理だし、熊だの龍だの相手に心理戦も糞も無い。
「ルーセが長剣を初めて手にして俺と戦ってデコピン一発で気絶した時があっただろう?」
「リューは変態だった」
「もうそれはいいから、ホントやめて……その時、ルーセは自分の方の間合いの方が広いから、俺が攻撃するために自分の間合いに踏み込んできたら攻撃しようと身構えていたよね」
「うん」
「でも俺がルーセの間合いに入って直ぐに逃げた事で、咄嗟に攻撃してしまい空振りをして、その隙に飛び込んだ俺が自分の間合いにルーセを入れてデコピンで気絶させた」
「……ずるい。あれは無効」
「そんな戯言は寝てから言いなさい……俺がやったのと同じ事をレスネプシィドにやってみるとしたらどうなる?」
「……1度踏み込んでから、飛びのいたらこっちにも隙ができる」
 ちゃんとそこには気づいたか。素手の俺とは違って長剣を振るのにはルーセの力をもってしてもきちんとした構えが必要だ。飛び退いて熊モドキの攻撃をかわしてから素早く踏み込んで一撃という訳にはいかない。でも飛び退いてから踏み込む。この動作を攻撃の動作の中に組み込めば出来ない事も無いのだが、今言ってすぐやれとは俺には言えない……大島なら平気で言うけど。
「別に相手の間合いに踏み入れる必要は無いよ。例えば一踏み出す様に見せかけて元の場所を強く踏みしめて音を出すとか」
「おおっ!」
 今までの説明の中で初めて納得の表情が浮かんで俺もほっとした。これで駄目ならもうお手上げだったよ。

 1度ロードを実行して、再びエンカウントした熊モドキと対峙するルーセは先程と同様に無造作に間合いを詰めるとぎりぎりの距離で睨み合う。
 張り詰めた緊張感の中でゆっくり時間だけが流れる。両者の間に満ちる濃密な殺意が限界に達したその瞬間。ルーセが先手を取る。
「ゴラァァァァァァァァァァァッ!!!!」
 とてつもない大声に俺は思わず耳を塞ぎ、熊モドキさえも雷に撃たれたかのように仰け反った。
 次の瞬間ルーセは踏み込みながら長剣を一閃。見事熊モドキの左腕を絶ち斬ると、返す斬り上げた一刀で右腕をも両断する。
「そ、それ違う!」
 思わず口を突いて出た俺の声を無視して、ルーセは右上へと振り抜いた長剣を引き戻し大八双に似た構えにすると、その態勢のまま鋭く前蹴りを熊モドキの下腹部へと入れ、衝撃で前のめりになった熊モドキの首へと長剣を振り下ろす……ポーンと首が跳んだよ。

 ドヤ顔で振り返るルーセに、俺は頭を抱えるしかなかった。
「それフェイントじゃなく、音波攻撃だよ……」
「えーーーっ」
 不満そうに声を上げる彼女に俺は力なく首を横に振った。

『ロード処理が終了しました』

 本日のメインである森林狼。連携が取れた群れで行動する生粋の狩人。そして俺にとっての戦いの先生でもある。
 ちなみに猪モドキや熊モドキと違って「狼」である森林狼だが、実は山猪とか赤熊などの「猪」や「熊」もちゃんと存在する。それらは大きさや色が違うが現実世界の猪や熊と少なくともシルエットは同じである。
 第1戦。3体の森林狼の素早い動きと連携に翻弄されて、大降りの一撃を空振りバランスを崩したところを足首をとられて転倒したところをロード。
 第2戦。3体の森林狼の素早い動きと連携に翻弄されて、大降りの一撃を空振りバランスを崩したところを足首をとられて転倒したところをロード……まるで成長していない!?
 軽く説教を入れた後に第3戦。今度は慎重に3体と距離取るように動きながら構えを取るが、緊張を切らして得意の竜巻モードを始めるが、空振りして背中を向けたところを襲い掛かれて倒されてロード。

「ルーセ。負けても心が折れないのは評価するが、まず周辺マップを使いこなそう」
「そんな余裕が無い」
「余裕は作るの! 一瞬だけ視界の隅のマップに目をやって周辺の状況を確認すれば、背後とか見えない場所を確認しようとする手間が減る分余裕が出来るだろ。大体、何時も周辺マップを見ながら森の中を移動しているんだからやれば出来る」
 そうは言っても火龍と戦うには余り関係の無いの技能なんだよ。まああって損は無いだろう。
「後は体捌きだ」
「解体?」
「違う。自分の身体をどう動かすかで、特に脚の使い方を指す。まず後ろを向いて」
「後ろ?」
 疑問に思っているのだろうが黙って後ろを向くが、その際左右の足を2度踏み変えた。
「ちがーう!」
「何が?」
 明らかにウザそうな顔でこちらを振り返る。確かに鬼教官モードはウザい。俺がやられてもウザい思うだろうし、やっていてウザい。
「振り返る時はこうする」
 剣を装備して剣道の基本である中段に構えると、前出ている右足を左足より30cmほど後ろに引きながら剣を上段に振りかぶり、身体を右に回転させて180度向きを変え、そこから右足を一歩踏み込みながら剣を振り下ろす。いわゆる回れ右に剣道の動きを加えただけだ。
「凄い! 何やったの?」
 むしろ凄いのは君の食い付きだよ。初めてシステムメニューが目の前に現れた時ですらこんなに喰い付かなかっただろう。例の歌を聞いた時以来じゃない?

 やり方を間単に教える。元々簡単なので簡単にしか教えようが無い。左回転の場合。前にある足を引く時に内側斜め後ろに引くことで、相手の突進を交わしながら右側面へと攻撃を加えられる位置取りをする方法。また右足を左後ろに引いて身体を右回転させながら左足を右前に出して、小さな脚の動きで回転を続ける方法も、ルーセはあっという間に習得してしまった。
「こ、これでルーセは無敵かもしれない」
 それは違うが、もの凄く興奮しているのだけは分かった。
「それはともかく、マップで位置を確認して体捌きで小さな動きで相手に対応できるようになったはずだ」
「リューはずるい。もっと早く教えてくれれば良かった」
「ぐるぐる回りながら長剣を振り回すのに夢中になって俺の言う事を聞かなかったのはルーセだろ」
「……そうとも言う」
「そうとしか言わないよ!」

 第4戦。ルーセは自らの小さな身体の1.5倍ほどの長大な長剣を両手に持ち頭上で左回りに回転させながら、ゆっくりと森林狼の群れに接近していく。その姿には全く気負いすら感じられない。多分、体捌きを身に着けて無敵になったつもりになった余裕なのだろう。
 森林狼達はルーセを取り囲むように一定の距離を開けて、その周囲をゆっくりと隙を伺いながら回り始る。波立つ事も揺らぐ事も無い水面の様な静かな緊張感の中、ルーセの背後に回り込んだ森林狼が足を止める。
 次の瞬間、ルーセは左足を後ろに大きく引き身体を左に回転させた勢いのままに頭上の長剣を薙ぎ払うと、一瞬の跳躍前の隙を突かれた森林狼は避ける間もなく、襲い掛かってきた刃を頭部に受ける。
 文字通りに粉砕された頭骨、脳漿、眼球を撒き散らす長剣を翻しながら、左足を後ろに引くと身体を180度左に回転させながら、次の森林狼の身体ごと地面に長剣を振り下ろす。左前足の後ろから斜めに胴体を半ば両断しつつ地面に食い込んだ長剣に、好機を得たと判断した最後の森林狼が飛び掛ってくる。
 しかしルーセは顔色一つ変えることなく、長剣を真っ直ぐに引き抜くと柄頭を、自分の喉元に牙を突き立てようとするその鼻先に叩き込むと、痛みにのたうつ森林狼を蹴り飛ばし、とどめの一撃をお見舞いした。
 完勝である。たったあれだけの事を僅かな時間教えただけで、先程までとは別人の様な戦いっぷり。その戦いの才能に嫉妬すら覚える。

 この子の加護は大地の精霊じゃなく、戦いの神の加護じゃないかと疑っているとルーセは俺を振り返りニッコリと笑みを浮かべると「勝った!」と叫ぶ。
 その姿は年相応の子供そのものだった。


 本日のレベルアップは俺が1upでレベル35。ルーセは2upのレベル32だった。
 レベルアップする予定は無かったのだが、訓練用の獲物を探す途中で遭遇したオーガは残らず倒した上でセーブしておいた結果で、おかげで明日以降のスケジュールに余裕が出来た。


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