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No.39807の一覧
[0] 【習作】夢で異世界、現は地獄 ~システムメニューの使い方~(R-15/異世界/チート)[TKZ](2016/11/10 16:46)
[1] 第1話[TKZ](2014/06/24 18:52)
[2] 第2話[TKZ](2014/06/24 18:53)
[3] 第3話[TKZ](2014/06/24 18:54)
[4] 第4話[TKZ](2014/06/24 18:54)
[5] 第5話[TKZ](2014/12/30 18:30)
[6] 第6話[TKZ](2014/06/24 18:56)
[7] 第7話[TKZ](2014/12/30 18:31)
[8] 第8話[TKZ](2014/06/24 18:57)
[9] 第9話[TKZ](2014/06/24 18:58)
[10] 第10話[TKZ](2014/10/01 00:04)
[11] 第11話[TKZ](2014/06/24 19:12)
[12] 挿話1[TKZ](2015/06/15 23:24)
[13] 第12話[TKZ](2014/06/24 19:30)
[14] 第13話[TKZ](2014/06/24 19:31)
[15] 第14話[TKZ](2015/04/27 12:36)
[16] 第15話[TKZ](2014/06/24 19:32)
[17] 第16話[TKZ](2014/06/24 19:33)
[18] 第17話[TKZ](2014/06/24 19:33)
[19] 第18話[TKZ](2014/12/30 18:33)
[20] 第19話[TKZ](2015/09/23 21:32)
[21] 第20話[TKZ](2015/06/15 23:17)
[22] 第21話[TKZ](2014/06/24 19:36)
[23] 第22話[TKZ](2014/06/24 19:36)
[24] 第23話[TKZ](2015/07/19 22:03)
[25] 第24話[TKZ](2014/06/24 19:38)
[26] 第25話[TKZ](2014/06/24 19:43)
[27] 挿話2[TKZ](2014/06/24 19:48)
[28] 挿話3[TKZ](2014/06/24 19:50)
[29] 第26話[TKZ](2014/07/22 21:36)
[30] 第27話[TKZ](2014/06/24 20:00)
[31] 第28話[TKZ](2014/06/24 20:02)
[32] 第29話[TKZ](2015/06/15 23:18)
[33] 第30話[TKZ](2014/12/30 18:35)
[34] 第31話[TKZ](2014/06/24 20:04)
[35] 第32話[TKZ](2014/06/24 20:05)
[36] 第33話[TKZ](2014/06/24 20:06)
[37] 第34話[TKZ](2014/07/22 21:37)
[38] 第35話[TKZ](2014/06/24 20:08)
[39] 第36話[TKZ](2014/06/24 20:08)
[40] 第37話[TKZ](2014/06/24 20:09)
[41] 第38話[TKZ](2014/06/24 20:10)
[42] 第39話[TKZ](2014/06/24 20:10)
[43] 第40話[TKZ](2014/07/22 21:39)
[44] 第41話[TKZ](2014/12/30 18:37)
[45] 第42話[TKZ](2014/06/24 20:12)
[46] 第43話[TKZ](2014/10/26 21:10)
[47] 第44話[TKZ](2014/07/22 21:40)
[48] 第45話[TKZ](2014/06/24 20:16)
[49] 第46話[TKZ](2014/06/24 20:18)
[50] 第47話[TKZ](2015/07/19 22:04)
[51] 第48話[TKZ](2014/07/22 21:04)
[52] 挿話4[TKZ](2014/07/22 21:04)
[53] 第49話[TKZ](2015/04/27 12:37)
[54] 第50話[TKZ](2014/07/22 21:05)
[55] 第51話 (仮:ルーセ編 最終話)[TKZ](2014/09/02 20:02)
[56] 第51話 (本編)[TKZ](2014/09/02 19:56)
[57] 第52話[TKZ](2016/01/01 17:43)
[58] 第53話[TKZ](2015/02/15 21:07)
[59] 第54話[TKZ](2015/06/15 22:18)
[60] 第55話[TKZ](2015/06/15 22:18)
[61] 第56話[TKZ](2015/06/15 22:20)
[62] 第57話[TKZ](2015/06/15 22:21)
[63] 第58話[TKZ](2015/07/19 22:05)
[64] 第59話[TKZ](2015/06/15 22:26)
[65] 第60話[TKZ](2015/06/15 22:27)
[66] 第61話[TKZ](2015/06/15 22:29)
[67] 第62話[TKZ](2015/06/15 22:30)
[68] 第63話[TKZ](2014/12/30 18:44)
[69] 第64話[TKZ](2014/11/26 18:45)
[70] 第65話[TKZ](2014/11/26 18:52)
[71] 第66話[TKZ](2014/12/30 18:50)
[72] 第67話[TKZ](2016/11/10 17:07)
[73] 第68話[TKZ](2014/12/30 18:49)
[74] 第69話[TKZ](2014/12/30 18:51)
[75] 第70話[TKZ](2015/04/27 12:40)
[76] 第71話[TKZ](2016/11/10 17:09)
[77] 第72話[TKZ](2015/07/19 22:08)
[78] 第73話[TKZ](2014/12/30 18:55)
[79] 第74話[TKZ](2014/12/30 18:56)
[80] 第75話[TKZ](2015/02/15 21:12)
[81] 第76話[TKZ](2014/12/30 18:59)
[82] 第77話[TKZ](2015/06/15 23:20)
[83] 第78話[TKZ](2015/06/15 23:22)
[84] 第79話[TKZ](2015/02/15 20:49)
[85] 第80話[TKZ](2015/07/19 22:10)
[86] 第81話[TKZ](2015/04/27 12:43)
[87] 第82話[TKZ](2016/11/10 17:10)
[88] 第83話[TKZ](2015/04/27 12:45)
[89] 第84話[TKZ](2015/04/27 12:29)
[90] 第85話[TKZ](2016/11/10 17:13)
[91] 第86話[TKZ](2015/04/27 12:47)
[92] 第87話[TKZ](2015/07/19 22:12)
[93] 第88話[TKZ](2015/06/15 23:36)
[94] 第89話[TKZ](2015/07/19 22:17)
[95] 第90話[TKZ](2015/11/17 19:29)
[96] 第91話[TKZ](2016/01/01 17:47)
[97] 第92話[TKZ](2015/08/25 21:56)
[98] 第93話[TKZ](2015/11/17 19:30)
[99] 第94話[TKZ](2016/11/10 17:14)
[100] 挿話5[TKZ](2015/09/23 21:58)
[101] 第95話[TKZ](2015/11/17 19:25)
[102] 第96話[TKZ](2015/11/17 19:27)
[103] 第97話[TKZ](2016/11/10 17:16)
[104] 第98話[TKZ](2016/11/10 17:01)
[105] 挿話6[TKZ](2016/11/10 16:50)
[106] 第99話[TKZ](2016/11/10 16:51)
[107] 第100話[TKZ](2016/11/10 16:53)
[108] 第101話[TKZ](2016/11/10 16:54)
[123] お久しぶりです[TKZ](2019/03/06 22:00)
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[39807] 第59話
Name: TKZ◆2fdd7351 ID:e672632b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/06/15 22:26
 市立桜台中学校。全国に100校くらいはありそうな名前の中学校である。
 姿を消したまま学校の敷地内へ入り、校舎内へ侵入するための周囲から見えずらい位置にある窓を探すのだが、この学校は桜台とあるように小高くなった丘に位置する関係かオーソドックスな校舎と体育館がくの字に配置されるのではなく、体育館と、それとは別に3つの建物が渡り廊下で繋がった複雑な構造になっていて、侵入に適した窓はいくつもあるのだが、どの建物に入れば図書室があるのか分からない。
「とりあえず、一番大きな棟に入るか……って玄関開いてるし!」
 校門から玄関へと10人程の生徒が向かって歩いている。男女比では女子が圧倒的に多く、そして持っているケースから想像するに中身は楽器だろう……つまり吹奏楽部の連中だ。
 祝日で休みだというのに朝っぱらかご苦労というか……やめておこう、自分が惨めになる。

 しかし【迷彩】の効果は自分と相手が互いに静止状態なら2-3mの距離でも気づかれないと思うが、どちらかが移動しながらの場合は身体と背景との境の部分を凝視されればすぐに不審に思われるだろう……せっかく玄関が開いているのに、ここからの侵入は無理だな。
 北側に回りこんで、一番小さな棟との間にある周囲から見通せない窓の鍵を開けて中へと入り込んだ。どうやら保健室のようだが自分の考える基準よりずっと広い。うちの中学の教室よりも広いくらいで普通の病院とは様子が違う。
 広い空間に仕切り用のカーテンを備えてはいるがベッドが10床も並んで居る様子は、一見野戦病院? と言った雰囲気だ。

 侵入した窓に施錠して、廊下へと続く引き戸の鍵を開けずに上の小窓から廊下に出て小窓にも施錠する。生徒が沢山居るなら脱出時は校舎内を移動せず、直接窓から外へと抜け出した方が良さそうだからだ。

 吹奏楽部の生徒達が上っていく玄関脇の階段ではなく西側の階段へと廊下を移動する。勿論足音を立てないように靴は脱ぎ──【収納】で外せば一瞬で済み、両手に靴を持って歩く必要も無い──、靴下を履いた状態で歩く、階段の上り口で周辺マップで周囲を確認すると、東側に人間を示すシンボルマークが30人分ほどあるが階段付近には上の階を含めて人間の反応は無い。
 勢い良く階段を登って行くと、東側のシンボルマークの多くがほぼ同じ高さを示したので、音楽室があるのは3階なのだろう。
 俺は3階をスルーしてそのまま4階にへと向かう。何か確信があった訳では無いが、俺の通った小学校もそして今の中学校も図書館は最上階にあったので何も考えずに行動した結果だが、東側の突き当たりの扉の上に『図書室』のプレートを見つけた……3階じゃなくて本当に良かった。

「困った……」
 図書室の前で、思わず弱音が飛び出る。図書室と図書室に繋がるだろう準備室兼司書室のドアには当然だが鍵がかかっており、そしてこの二つの部屋のドアの上には小窓が無い。
 更に隣の視聴覚室から窓伝いに移動して図書室へは窓から侵入すれば良いのだが、残念ながら視聴覚室のドアの上の小窓は3階と4階の間の踊り場付近で練習している吹奏楽部の生徒からは見える位置にあり、姿は【迷彩】で見えなくても窓を開ければ気づかれる可能性が高いので、侵入するとすれば視聴覚室の隣の学習室からの侵入になるのだが、視聴覚室が教室2つ分以上の広さなため、かなりの距離を窓枠伝いに移動しなければならないのだ。
「大丈夫か俺?」
 高所恐怖症はかなり改善されたが、実際先ほど屋根伝いにジャンプして移動していても、ふと集中力を欠いた拍子に高さへの恐怖が蘇り俺のおいなりさんがキュッとなってしまう位なので、窓の外を移動中にそうなった場合に落ちる可能性も無いわけではない。
 落ちた所で、怪我をするわけでは無いが4階からの落下時の音は騒ぎになるのは間違いない……多分、落下のショックでまともに受身が取れないだろうから。

 とりあえず時間が無いので学習室へと入り込むと靴を履きなおす。
 部屋の奥の外に面した壁には、中央の柱をはさんで、左右にそれぞれ上下左右に2つずつ計4つの窓枠と8枚のガラス窓で構成されている。
 学習室の部屋の一番左端の窓を開けて外に出ようとしたが、左側はすぐにコンクリートの柱が張り出していて場所が取れないので、同じ窓枠の右側の窓を開けて外に出る。
 ちらりと下を見てから「大丈夫、大丈夫。この高さなら落ちても大丈夫」と自分に言い聞かせてから、窓枠のレール部分を右手の親指と人差し指で挟み込んで身体を支えて、窓を閉めて【闇手】で外から鍵を掛ける。
 窓枠の左側の窓は窓枠の内側のレールに収まっているので、外から窓枠のレールの部分を掴む事が出来るが、左側の窓は外側のレールに収まっていて捕まる場所が無い。
 だが窓枠は校舎の壁から3cmほど壁の内側に凹んだ位置に設置されているので、上下に存在する3cm幅の凹み部分を足と手で上下に突っ張る事で身体を支える事が出来た。
 最初の一歩は慎重に、そして2歩3歩と少しずつ大胆に移動すると壁から40cmほど張り出した幅50cmくらいの柱が立ち塞がる。
 左の太腿を柱の左側面に押し当てて体重を掛けながら、右手を柱の右側面へと伸ばして、左太腿と右手で柱を挟み込み、体重は左へと掛けて身体を支える。
 その状況から左手を柱の左側面に添えてから体重を右に掛けながら右足を柱の右側に伸ばし、柱の角を膝の裏で押さえるようにして身体を支えると、左足を柱から離して重心を更に右へと掛けながら右手を伸ばして視聴覚室の窓枠のレールに指を掛け、一気に身体を柱の反対側へと移動させる。
「ふぅ……」
 第一の関門を抜けて安堵の溜め息を漏らしたが、視聴覚室の壁には3本、視聴覚室と準備室の間に1本、そして準備室と図書室の間に1本と計5本の柱が待ち受けているのだった……第一部 完。


 第二部は図書室への侵入に成功したところから始まる。
 途中、サッカー部の部員らしき集団が、ワイワイと騒ぎながら下を通って行った時は、障害物の柱を越えてる途中だったので、高所での緊張と相まって嫌な汗が止め処なく流れたが、無事にミッションをクリアした……いや、まだ目的の卒業アルバムを調べ終わってない。
 この学校で鈴中が手を出したのは残りの3人で、PC内のフォルダ名に使われていた名字は『山村』『東里』『風間』で、携帯のアドレス名に使われていた名前は『shizuku』『akane』『haruka』で、これらの組み合わせで出来る9個の姓名を、卒業アルバムの名簿から探し出す。

 流石に転任後にこの学校の生徒に手を出しているとは思えないので、4年前の卒業アルバムからチェックしていくと4年前の卒業生の中に2人、そして5年前の卒業生の中に1人見つかった。
 普通なら3年前の卒業生も含めて彼女達は高校を卒業して、地元を離れている可能性が高いが、彼女達は鈴中にハメ撮りの写真や動画、それに薬で縛られているために地元に残っているはずで、つまり実家に住んでいる可能性が高いのが不幸中の幸いと言えるだろう。

 無事に桜台中学校を脱出した俺だが、ここでまた大きな問題があることに気づいた。
 今居る桜台中学の校区にある山村 朱音、風間 雫、東里 春花の家を順番に回って治療を行うべきなのだろうが、何も接点の無い女性の家に押しかけて……いや不法侵入して、無理矢理【中解毒】での治療を行うのは俺にはハードルが高い……ちょっと前まではクラスの女子と目を合わせるのも怖いと感じる……今だって平気というわけでもないヘタレなのだ。
 ちなみに治療自体はそれほど難しいとは思っていない。
 覚醒剤からの離脱は身体から薬物が抜けてしまえば、身体的依存はほぼ無いと言われる。離脱中に襲われる身体的、精神的苦痛により離脱後の精神的依存を強めるので離脱症状が軽度であればあるほど後の精神的依存も軽くなるといわれている。
 つまり【中解毒】を使えば、一瞬で体内の薬物が分解されるので精神的依存は少なくて済み、更に薬物の再使用は患者の人間関係内における薬物調達の容易さが大きな原因とされるが、そもそも彼女達は鈴中を介して薬物に接していたので、鈴中が死んだ現状において、彼女達の人間関係には薬物を調達する伝も、使用を勧めてくる人間も存在しない……と良いな。

「仕方が無い」
 携帯を取り出して西村 薫へ『先日、家宅捜索を受けた相川興業という暴力団の薬物販売の顧客リストに鈴中の名前がありました。貴女は鈴中に薬物使用を強要されては居ませんでしたか?』という文面でメールを送り、返事が来るまでの間に彼女の家を目指して移動する。
 とりあえず接点のある相手から先に対処することで、後の展開で少しでも気が楽になれば良いなという後ろ向きな選択だった。

 屋根に着地し、棟の上を走り加速して踏み切ろうとした瞬間に懐の携帯のメール着信の振動にタイミングを外して右足が宙を切る。
 道を挟んだ向かいの家への衝突コースをたどりながら身体を捻って体勢を立て直すと、手前の塀を思いっきり蹴りつけて高さを稼いで向かいの家の屋根を越える。
 しかし、路地には犬を連れた散歩中の小母さんが、俺が塀を蹴った音に驚き固まり、犬がワンワンと吼えまくっている……やったな都市伝説の種を撒いたぞ! ……本当にやっちまったよ。

 その後、4度の跳躍で距離を取り、集合住宅の屋上にて携帯を取り出してメールを確認する。
 本文に書かれていたのは一言『たしけて』で、一瞬笑いが込み上げたが、まともにメールを打つのも厳しい状況であることに気づき、更に速度を上げて彼女の家へと向かった。


 調べた住所にあった『西村』の表札。ごく普通の一軒屋で、マップ機能で『西村 薫』を検索すると、2階の東向きの窓がある部屋に彼女のシンボルが表示された。
 塀の上から屋根の上へと跳んで準備を整えると『現在、家の傍に来ています。本人と確認するため窓を開けて外に顔を出して下さい』とメールを送る。

 そして窓が開く音を聞く同時に、屋根の上から【昏倒】を掛けて眠らせ、屋根の縁の樋に手を掛け、靴を収納して窓枠へと足を伸ばして足場に、窓枠のレールを足の指で掴むようにして後は身体のばねを利用して部屋の中へと入った。
 部屋の芳香剤の匂いが随分と強いな……覚醒剤を使用していると独特体臭がするという話だが、それを消すためなのだろうか?

 まずは速攻で、窓際に置かれたベッドの上で気を失っている西村先輩へと【中解毒】を数回に分けて身体中に掛けて体内の薬物を分解して無毒化する……正直なところどうやって分解するのかは謎だ。
 これで、薬物のからの物理的な面での離脱は終了したが、問題はすでに彼女には禁断症状が出ていたという事だ。
 鈴中は彼女達を家に呼びつけた時に、一定量の薬を渡して次の呼び出しまでの間に禁断症状が出ないようにしていたはずだ……さもなくば、禁断症状を起こした彼女達から足がついて鈴中自身も破滅するからだ。
 犠牲者である彼女達は13人。ローテーションで毎日1人ずつ呼びつけていたわけでも無いだろうからインターバルは半月以上になるので、ある程度余裕のある分量を渡していたはずだ。
 それなのに先週の火曜日からの一週間で禁断症状が起きたということは、彼女が鈴中を殺害した時には薬を受け取っていなかったのだろう。
 ある程度余裕があったとはいえ、彼女は薬の量を抑えて使用したのだろうから、短い間に何度も苦しい禁断症状に襲われ、その度に少量ずつ薬を使用して耐えてきたとすると、薬物への精神的依存を高めてしまっている可能性が高い。
 薬が切れる=つらい。薬を使う=つらさから開放される。この条件付けが頭に刻み込まれると薬の使用を止めるのが難しくなる。何らかの理由でストレスがたまり、つらいと感じると薬を求めてしまうからだ。
 西村先輩が一番、精神的依存が強くなるだろうが、他にも3-4人にはある程度の精神的依存の症状が強く現れる可能性が高い……もしかして!

 西村先輩に【無明】を使い視界を塞いだ状態にして、肩を掴んで身体を強く揺する。覚醒の兆候が見えたところで口を手で塞ぐ。
 目が覚めて、目が見えず口を押さえられるという状況に、彼女は抵抗ではなく身体を強張らせた……強く抵抗すれば鈴中に暴力を振るわれた結果、身体に染み付いた反応かと思えば居た堪れない気持ちになる。

「状況を説明するので、騒がないで貰えますか? もし騒ぐならば、私はここから立ち去り、あなたとの連絡は、二度と取りません」
 自分でも馬鹿みたいだが、あえて少し巻き舌で短く区切りながら話す。何せ深くは無いが多少ながらも接点のあった相手だから小細工は必要だ。
 彼女の自室とはいえ、騒げばすぐに家族が気づくだろう。
「了解したならば、2度頷いて下さい」
 すると彼女は小さく2度頷いたので、口を塞いでいた手を離す。
「目が見えないのは、立ち去る前に解除するので、気にしないで下さい」
「わ、わかりました」
「貴方の、身体の中にあった覚醒剤は、全て薬によって、中和されました」
 まさか魔術によって分解されましたとは言えないので、「どんな薬だよ!」と自分で突っ込みたいのを我慢しながら嘘を吐く。
「そんな、本当なんですか?」
「声を抑えて下さい」
「すいません……」
「覚醒剤が、身体から取り除かれると、身体的な薬への依存は、なくなります。しかし、精神的な依存は残ります。覚醒剤が使われていた事を、もっと早く知る事が出来たなら、症状を軽くする事が出来たのに、申し訳ありません」
 謝りながらも、何だかこの喋り方面白くなってきた。
「いいえ、貴方のせいではないと思います」
「そこで質問があります。貴方は覚醒剤を、どのような方法で、摂取していましたか? 静脈注射ですか? 経口摂取ですか? それとも炙って煙を吸引しましたか?」
「……火で炙って吸引しました」
 静脈注射じゃなかっただけでもありがたい。
「その使用法は、鈴中からの指示ですか?」
「はい。自分で使う時も必ずそうするように言われました」
 鈴中も痕跡の残る静脈注射で彼女達の覚醒剤使用が発覚するのは避けたかったのだろう。だから発覚しづらい炙りで使わせたのだろう。
 それはつまり、西村先輩以外の女性達も使用方法は炙りということでもある。
「それは良かった。貴方の、覚醒剤への精神的依存も、大分少なく済むはずです」
 アッパー系、つまり興奮を高める覚醒剤だが、炙りならば静脈注射に比べれば興奮のピークも低くなる。そして体験したピークが低ければ通常の状態との振り幅が狭くなる分、覚醒剤への欲求は多少なりとも減るはずだ……しかしその事を大げさに伝える事で彼女を勇気付ける必要があった。症状が軽いと思い込む事が出来たなら、それは精神的依存と戦うための強い味方になるからだ。
「あ、ありがとうございます」
「覚醒剤の影響で、体力なども落ちているはずなので、処置をするので、楽な姿勢で寝て下さい」
「わかりました」
 姿勢を整えてから仰向けに横たわる彼女の身体に頭から順番に【中傷癒】を掛けていく、気休めだが少しでも楽になってもらえれば幸いだ。
「すごく身体が楽になっていきますが、これは一体?」
 薬やストレスの影響で身体にダメージがあり、それを癒す事が出来たのか、それとも魔術の不思議パワーがスピリチアルでパワースポット的な胡散臭い効果を発揮したのか何らかの効果があったようだ。
「では、このまま暫く眠って貰います。目が覚めた時、貴女が、覚醒剤への依存と戦う力を、取り戻している事を祈ります」
「待って下さい! 鈴中先生は……」
「貴女が気にすることは、何もありません。彼は我々が捉えた後に、しかるべき処理を施しました。貴方の彼への暴行は、一切表に出ません」
 そう告げると【平安】で心を落ち着かせてから【催眠】で眠りに落とす。
 これで彼女が、自分は鈴中を殺していないと誤解してくれるなら、それに越したことは無い。あんな生まれてきた事自体が間違いの様な奴の事で彼女が罪悪感を覚える必要などあって良い筈が無いのだから。

 周辺マップを覚醒剤で検索して、彼女の所持していた残りの覚醒剤を覚醒剤を入れていたポーチごと回収して【所持アイテム】内に収納した。多分服などにも覚醒剤の混入した汗により付着しているだろうが、そこまで検査するためには逮捕状が必要だろう。
 もしも鈴中との関係を知られて、任意での出頭を求められたとしても協力を要請されるのは簡易尿検査くらいだろう。
 回収作業を終えると【無明】を解除すると窓から外へと出た。


 広域マップを拡大して表示する。
 流石に自分の生まれ育った街だけに、半径3km圏内の8割近くが表示される。奥まった場所にある細かい路地の多くは表示不可能範囲になっていて虫食い状態だが、システムメニューの恩恵を受ける前に通った範囲の半径20m程度はマップ上に表示されているおかげで、それが無ければ4割も表示されなかっただろう。
 そのおかげで、鈴中の犠牲者の中でも西村先輩と在校生3人はエンカウント済みとして広域マップ内に表示されている。周辺マップ内で名前と顔の分かる相手なら検索を掛けてヒットすればエンカウント済みと同様に広域マップやワールドマップに居場所が表示されるのだが、俺のワールドマップは表示不可能範囲だらけのスッカスカの地図に過ぎないので意味は無い。

「近いのは……真藤か」
 真藤 麻美。隣のクラスの女子で大人しい性格で俺と目が合うと「ヒッ!」と悲鳴を上げそうなタイプだ……自分の想像で凹むわ。
 そういえば西村先輩も性格的は大人しいタイプだな……鈴中はその手のタイプに狙いを絞っている可能性がある。大人しくて自分の状況を周囲に伝える事が出来ずに抱え込んでしまうような生徒をはめる。
 すでに死んでいる相手だというのに殺意が沸いてくる。レベルアップして死体を蘇生させる魔術を覚えたら、蘇らせてつま先から1cm単位でスライスしてやりたいくらいだ。
 そんな事を考えている間に、真藤の家に着く。真藤は2階の部屋に居るようだが……ヤバイ! シンボルの反応が赤になっている。敵対? 戦闘中? いや違う。これは興奮状態か苦しみの反応だ。
 ジャンプして2階の窓の窓枠を掴んでぶら下がった状態で【闇手】を使って鍵を解除すると、窓をスライドさせて開くと身体を引っ張り上げて中に入る。

 いきなり開いた窓に、真藤はこちらに目を向けるが、その目は興奮のためかぼんやりと視点が定まらず、まるで夢を見ているかの様なそんな目……これは離脱症状? もしかして西村先輩の後に鈴中の家に行く予定だったのは真藤だったのか?
 とりあえずこの状態では【平安】からの【催眠】へと繋がるコンボは無理だ。【昏倒】は【催眠】よりも眠りが深くなり、身体を強く揺すられるとか叩かれるなどの身体的刺激を受けないと長時間にわたり眠り続けるので使いたくなかったが、仕方が無いので【昏倒】を発動させて眠りに落とす。
 即座に、【中解毒】を掛けて体内に残っている覚醒剤を分解していく。特に頭は念入りに掛けて、髪などに残る覚醒剤も全て分解する。
 これで、もしも鈴中との関係から覚醒剤使用を疑われたとしても、全身の体毛、手足の爪。皮膚の垢に至るまで完全に覚醒剤使用の痕跡は消し去ったので警察がどれほど検査をしても陽性反応は出ないだろう。
 それから西村先輩に施したのと同じように【中傷癒】を掛けてから外へと出た。

 ちなみに彼女の部屋も芳香剤の匂いが強い。やはり覚醒剤を使うと独特の体臭がするというのは本当で、それを隠すために強い匂いの芳香剤で消しているのかもしれない。


 その後、全員の家を回り無事に処置を終了した時には時間は正午を回っていたので、公園で朝の分と昼の分の弁当を食べて弁当箱を空にすると近所の図書館に行って、閉館の時刻まで粘って本を読み漁り、何事も無かったかのように何時も通りに家に帰った。

「今後も要観察ってところか……」
 はっきり言って、彼女達がこのまま何事もなく日常生活に戻れるかと言えば疑問だ。レベルアップして【催眠】ではなく催眠術のように暗示をかけられる魔術を覚えられたら良いのだが……
 それにしても一度の同情が高くついたものだ。鈴中の死体を始末したまでは良いが、西村先輩にメールを入れたのは間違いとは言わないが、通信履歴が残るメールではなく、手紙なりで足のつかない手段を使うべきだったと思う。
 おかげで、俺は彼女達を切り捨てる事が出来なくなってしまった。
 結局、あの馬鹿が覚醒剤にまで手を出していた事と、それに気づけなかった俺が悪いのだ。実際、【所持アイテム】の中に放り込んだままになっていた鈴中の家から回収してきた荷物の中に覚醒剤は存在した。
 その日の内に、回収した荷物のチェックを行っていれば、彼女にメールを出す前に……いや、例えそれを知っていたとしても見捨てられたかといえば、難しいところだとしか言いようが無い。助ける自己満足と助けなかった罪悪感を秤に掛けて、中途半端に情に流されてしまうのが俺という小さな人間なのだから。

 この現状を変えられそうなのが覚えたばかりの魔法なのだが、まだ魔力の操作に慣れるのが第一といったところで、次の段階には進めていない。
 発動させるだけで全ての過程を意識せずに結果が現れる魔術と違って、魔法は全ての過程を自分の意識下で行う必要があるために、精密な魔力の操作を身につけた上で、魔法の目──すなわち魔眼を発動出来るようになり、魔眼を自在に使いこなせるようにならなければならない。
 魔力操作と魔眼。つまり手と目を完全に自分のものとして初めて魔法を使える状態──魔法使いへの一歩を踏み出したことになるのだが、そこから何を出来るようになるのかを一生涯探求し続けるのが魔法使いの人生という事らしい。
 確かに色々と面倒ではあるが、代わりに自由度が高いというか自分の能力という制約以外は自由しかないのが魔法だった。
 ちなみに魔法陣の方も、作成には魔力操作と魔眼の2つがある一定のレベルで使いこなせる必要がある。
 つまり今は……いや暫く……もしかしたら当分、魔法関連は全く役にはたちませ~ん。

 寝る前にベッドの上で「緊急事態は解除。詳細は明日。流石に疲れたから寝る」と紫村にメールしてから枕に沈んだ。


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桜台中学の保健室。変わった形の中学校が無いかネットで学校の見取り図を探してみたら、実際に「保健室?」と言いたくなる様な広い保健室を備えた学校があったので……


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