<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.39807の一覧
[0] 【習作】夢で異世界、現は地獄 ~システムメニューの使い方~(R-15/異世界/チート)[TKZ](2016/11/10 16:46)
[1] 第1話[TKZ](2014/06/24 18:52)
[2] 第2話[TKZ](2014/06/24 18:53)
[3] 第3話[TKZ](2014/06/24 18:54)
[4] 第4話[TKZ](2014/06/24 18:54)
[5] 第5話[TKZ](2014/12/30 18:30)
[6] 第6話[TKZ](2014/06/24 18:56)
[7] 第7話[TKZ](2014/12/30 18:31)
[8] 第8話[TKZ](2014/06/24 18:57)
[9] 第9話[TKZ](2014/06/24 18:58)
[10] 第10話[TKZ](2014/10/01 00:04)
[11] 第11話[TKZ](2014/06/24 19:12)
[12] 挿話1[TKZ](2015/06/15 23:24)
[13] 第12話[TKZ](2014/06/24 19:30)
[14] 第13話[TKZ](2014/06/24 19:31)
[15] 第14話[TKZ](2015/04/27 12:36)
[16] 第15話[TKZ](2014/06/24 19:32)
[17] 第16話[TKZ](2014/06/24 19:33)
[18] 第17話[TKZ](2014/06/24 19:33)
[19] 第18話[TKZ](2014/12/30 18:33)
[20] 第19話[TKZ](2015/09/23 21:32)
[21] 第20話[TKZ](2015/06/15 23:17)
[22] 第21話[TKZ](2014/06/24 19:36)
[23] 第22話[TKZ](2014/06/24 19:36)
[24] 第23話[TKZ](2015/07/19 22:03)
[25] 第24話[TKZ](2014/06/24 19:38)
[26] 第25話[TKZ](2014/06/24 19:43)
[27] 挿話2[TKZ](2014/06/24 19:48)
[28] 挿話3[TKZ](2014/06/24 19:50)
[29] 第26話[TKZ](2014/07/22 21:36)
[30] 第27話[TKZ](2014/06/24 20:00)
[31] 第28話[TKZ](2014/06/24 20:02)
[32] 第29話[TKZ](2015/06/15 23:18)
[33] 第30話[TKZ](2014/12/30 18:35)
[34] 第31話[TKZ](2014/06/24 20:04)
[35] 第32話[TKZ](2014/06/24 20:05)
[36] 第33話[TKZ](2014/06/24 20:06)
[37] 第34話[TKZ](2014/07/22 21:37)
[38] 第35話[TKZ](2014/06/24 20:08)
[39] 第36話[TKZ](2014/06/24 20:08)
[40] 第37話[TKZ](2014/06/24 20:09)
[41] 第38話[TKZ](2014/06/24 20:10)
[42] 第39話[TKZ](2014/06/24 20:10)
[43] 第40話[TKZ](2014/07/22 21:39)
[44] 第41話[TKZ](2014/12/30 18:37)
[45] 第42話[TKZ](2014/06/24 20:12)
[46] 第43話[TKZ](2014/10/26 21:10)
[47] 第44話[TKZ](2014/07/22 21:40)
[48] 第45話[TKZ](2014/06/24 20:16)
[49] 第46話[TKZ](2014/06/24 20:18)
[50] 第47話[TKZ](2015/07/19 22:04)
[51] 第48話[TKZ](2014/07/22 21:04)
[52] 挿話4[TKZ](2014/07/22 21:04)
[53] 第49話[TKZ](2015/04/27 12:37)
[54] 第50話[TKZ](2014/07/22 21:05)
[55] 第51話 (仮:ルーセ編 最終話)[TKZ](2014/09/02 20:02)
[56] 第51話 (本編)[TKZ](2014/09/02 19:56)
[57] 第52話[TKZ](2016/01/01 17:43)
[58] 第53話[TKZ](2015/02/15 21:07)
[59] 第54話[TKZ](2015/06/15 22:18)
[60] 第55話[TKZ](2015/06/15 22:18)
[61] 第56話[TKZ](2015/06/15 22:20)
[62] 第57話[TKZ](2015/06/15 22:21)
[63] 第58話[TKZ](2015/07/19 22:05)
[64] 第59話[TKZ](2015/06/15 22:26)
[65] 第60話[TKZ](2015/06/15 22:27)
[66] 第61話[TKZ](2015/06/15 22:29)
[67] 第62話[TKZ](2015/06/15 22:30)
[68] 第63話[TKZ](2014/12/30 18:44)
[69] 第64話[TKZ](2014/11/26 18:45)
[70] 第65話[TKZ](2014/11/26 18:52)
[71] 第66話[TKZ](2014/12/30 18:50)
[72] 第67話[TKZ](2016/11/10 17:07)
[73] 第68話[TKZ](2014/12/30 18:49)
[74] 第69話[TKZ](2014/12/30 18:51)
[75] 第70話[TKZ](2015/04/27 12:40)
[76] 第71話[TKZ](2016/11/10 17:09)
[77] 第72話[TKZ](2015/07/19 22:08)
[78] 第73話[TKZ](2014/12/30 18:55)
[79] 第74話[TKZ](2014/12/30 18:56)
[80] 第75話[TKZ](2015/02/15 21:12)
[81] 第76話[TKZ](2014/12/30 18:59)
[82] 第77話[TKZ](2015/06/15 23:20)
[83] 第78話[TKZ](2015/06/15 23:22)
[84] 第79話[TKZ](2015/02/15 20:49)
[85] 第80話[TKZ](2015/07/19 22:10)
[86] 第81話[TKZ](2015/04/27 12:43)
[87] 第82話[TKZ](2016/11/10 17:10)
[88] 第83話[TKZ](2015/04/27 12:45)
[89] 第84話[TKZ](2015/04/27 12:29)
[90] 第85話[TKZ](2016/11/10 17:13)
[91] 第86話[TKZ](2015/04/27 12:47)
[92] 第87話[TKZ](2015/07/19 22:12)
[93] 第88話[TKZ](2015/06/15 23:36)
[94] 第89話[TKZ](2015/07/19 22:17)
[95] 第90話[TKZ](2015/11/17 19:29)
[96] 第91話[TKZ](2016/01/01 17:47)
[97] 第92話[TKZ](2015/08/25 21:56)
[98] 第93話[TKZ](2015/11/17 19:30)
[99] 第94話[TKZ](2016/11/10 17:14)
[100] 挿話5[TKZ](2015/09/23 21:58)
[101] 第95話[TKZ](2015/11/17 19:25)
[102] 第96話[TKZ](2015/11/17 19:27)
[103] 第97話[TKZ](2016/11/10 17:16)
[104] 第98話[TKZ](2016/11/10 17:01)
[105] 挿話6[TKZ](2016/11/10 16:50)
[106] 第99話[TKZ](2016/11/10 16:51)
[107] 第100話[TKZ](2016/11/10 16:53)
[108] 第101話[TKZ](2016/11/10 16:54)
[123] お久しぶりです[TKZ](2019/03/06 22:00)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[39807] 第72話
Name: TKZ◆504ce643 ID:7f1efa4d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/07/19 22:08
 ……眠たい。
 やはりいつもの起きる時間より早く目を覚ますと、かなり目覚めが良くない。
 まだ日も明けぬ4時という時刻。町の明かり1つ無く、空にも月齢の若い今時は月は日没まもなく沈み、日の出の後に昇るので夜空には三日月よりも細く頼りない月影すらない。満天の星空は確かに圧巻ではあるが、星達には地上の闇を照らす力は無い。
 つまり、俺が動くには絶好の機会ということだ。
 寝袋に入ったまま、周辺マップで状況を確認する。
 俺達が寝ている浜から50mほど南東の場所にあるコンクリート製の猟師小屋の中には大島と早乙女さんのシンボルがあるが、2人とも寝ているようだ。
 そして俺達を挟んで反対側30mほどの距離に居るのが大島の手下の1人で、大島の言いつけを律儀に守って、ちゃんと起きて俺達の監視を続けている。苛つくのはビデオカメラでこちらの様子を撮影している事だ。
 ついでに『監視カメラ』で検索を掛けると、猟師小屋に監視カメラが3つ取り付けられていて、1つは俺達の方向を、残りはそれぞれ死角が無いように周囲を撮影している……カメラの撮影範囲が広すぎる。1つで180度の範囲を抑えるってプロ仕様じゃないの?
 まずいな。かなり優れた暗視機能も持っていそうだ。だとするならば【迷彩】を使えば可視光線のみならず赤外線すらも隠すことは出来るが、俺が抜け出た後の寝袋の萎んだ様子で俺が居なかった事がばれてしまうだろう……仕方が無い。

 セーブを実行してから【迷彩】で姿を消すと【所持アイテム】の中から、今回の合宿のために大量に買い込んでおいた10秒飯こと、半固形の憎い奴を足元から出しては寝袋を膨らませながら寝袋から這い出した……流石に監視カメラの解像度程度なら寝袋の中身がパック入りの緩いゼリーだとは判別が付かないだろう。
 ゆっくりと10mほど猟師小屋の方へと近づく。ここまでは俺達が寝る前に踏み荒らした足跡が大量に残っているので、足跡は気にする必要は無いだろうが、この先はほとんど足跡が無いので足跡を残す訳にはいかない。
「40mか……」
 流石に助走も無しに跳ぶのは難しい。空中での足場になる1t程度の質量を持つ物体があれば良いのだが、残念ながらまだ手に入れていない。
 日常生活において、中学生がそんなものを手に入れるのは難しい。石材を扱うような問屋で良さそうな石材を購入するとしよう。購入資金も何とか足りたとしても、持ち帰るのが問題だ。「配達はどちらに?」と聞かれて「大丈夫です持ち帰ります」なんて言える訳が無い。
 配達してもらったとしても家族になんと説明すれば良い? しかも届いても収納して持ち運ぶ必要があるのに……不可能だ。
 そうかと言って、日常生活の行動範囲にあるものを拾うとしても、小石を拾うのとは訳が違う。当然所有者が居るわけだから盗むのには抵抗がある。
 いっその事、やくざの事務所でも襲って金庫を中身ごと頂いて、足場にしてやろうかとも思ったほどだが調べてみると金庫はそれほど重たくない。
 一般向けには1tクラスの金庫なんてほとんど無く、そこそこ見つかるのは800kgクラスだった。800kg+中身で十分だとも思うが、そのクラスになるとかなり大きく、500Lオーバーの大型冷蔵庫よりもずっと大きくなってしまう。
 そんな大きな金庫が、我が町の田舎ヤクザの事務所にあるのかといえばかなり疑問だ。ドラマや映画で見る限りの勝手なイメージなら、大型冷蔵庫の半分以下であり、せっかくヤクザの事務所を襲っても手に入ったのが役に立たないとなれば無駄足だ……ちなみにヤクザが可哀想なんて考えはこれっぽっちも無い。金庫が簡単に開いて中から数百万が出てくるなら罪悪感無しで幾らでも襲ってやる。

 マルとの散歩道を更に10数kmも上流へと向かえば、川原や川の中に都合の良さそうな岩もあるだろうが、ともかく休日というものが存在しない生活なので取りに行くことが出来ない。
 マルをパーティーに入れてレベルアップさせ、もう少し暑くなったらマルの散歩の時間を遅い時間帯にして、一緒に上流まで足を伸ばすようにする……どうやってパーティーに入れるんだよ? 話しかけてもマルには内容が理解出来ないし、大体何を倒してレベルアップすのかも分からないよ。

 他にも大きく硬い岩盤が剥き出しになって、人目が無くて、いきなり大穴があいてても問題にならないような場所があれば【大坑】で出来た穴の分の岩が【所持アイテム】内に移動するので、それを足場にするのだが、そんな都合のいい場所があったらむしろ驚く。

 ともかく、猟師小屋の監視カメラをどうにかするには別の方法を考える必要がある。
「……そうか、波打ち際か」
 波打ち際を歩けば波が自然に足跡を消してくれるから気にする必要は無い。そして波打ち際沿いに接近すれば屋根までの高さに、更に3mほどの上下差が加わるが距離は30mほどに縮まるので何とか跳躍可能と思われる。


 猟師小屋のコンクリートの屋根部分、配置された監視カメラの内側へと音も無く着地する。着地時には膝や関節で衝撃を抑えるなんて事ではなく、【所持アイテム】内の鉄アレイの位置エネルギーを奪うことで物理的に着地時のエネルギーをゼロにした。
 そうとはいえ長居をすれば大島や早乙女さんが、気配に感づき目を覚ます可能性があるので、監視カメラを素早く【無明】でレンズをふさいでから屋根を降りた……大島のシンボルが一瞬黄色くなり覚醒しかけたみたいだが、俺がすぐに離れたことで再びリラックス状態をあらわす青へと戻った。危ない危ない。

 次いで、波打ち際を走って大島の手下を目指す。
 波打ち際から起こる俺の足音に振り返るが、姿見えずに怪訝な顔をしたところを【昏倒】を食らわして気を失ったところをカメラごと収納。
 そこからはともかく波打ち際を疾走する。そして分かったのが、この島は北西から南東へと1km弱と長細く、幅は一番太い中央部分で200mと少ししかなく、島の海岸沿いを移動した後で広域マップ上には、長さ100mで最大幅が20mほどの未表示になっているだけだった。」
 もう1周しながら大島の手下達を3名収納した。
 そして未表示エリアに侵入していくと、中央部分の山の岩肌に洞窟があり、そこに4名の手下が居たので、まとめて【昏倒】を掛けて全て機材ごと収納すると、洞窟の奥で【大坑】を使い直径1m高さ2mの円柱状の岩を20個ほど【所持アイテム】内に蓄えた。
 洞窟の中に置かれた食料などの荷物を頂くために、内部を詳しく捜索して分かったことだが、洞窟は入り口が大きく口を開けているが以外に深くて奥が開けている。かなり頑丈な造りになっているので、大島はいざとなったら俺達を脅迫して冬合宿を認めさせた上で、此処に避難させるつもりだったのだろう。

 ともかくこれで、思いがけず念願の空中足場用の岩を手に入れたが、それだけで終わりにはさせない。避難用の洞窟がある限りは、手下がいなくなっても大島は俺達への妨害を続ける可能性があるので、この洞窟自体を破壊する必要がある。

 俺は円柱状の足場を使い宙高く跳んで上空200m以上まで一気に上ると、自分の位置を広域マップ上の水平位置を洞窟入り口付近と同じ位置にあることを確認する。
「もうじき夜明けか……」
 地上では気づかなかったが、この高さからなら水平線が白み始めているのが見えた。俺は一度に15個の円柱状の岩を取り出すと、そのまま落下させる。
 そして、その着弾を確認する事無く足場用の岩を蹴って加速してダイブし、落下する岩よりも早く浜辺のキャンプサイト……と言うのもはばかられる、単なる砂浜へと水平方向へ100m移動して戻ると、一度寝袋を中の10秒飯ごと収納してから、再び寝袋だけを取り出す。
 次の瞬間、洞窟へと次々に着弾した岩たちが、連続するドーンという音と共に島自体を地震のように震わせる。

「起きろ! 何か爆発したみたいだ!!」
 第一声は俺が発して、集団にミスリードを仕掛けて主導権を握る。
 俺の声に部員達は慌てて跳ね起きると寝袋から出てくる。
「何だ?」
「何が?」
 軽くパニック状態で慌てる。
 目の前でチンピラが刃物を取り出しても、慌てるどころかむしろニヤニヤしちゃうような、肝が据わったと言うべきか、頭がおかしいと言うべきか言葉に困る様な空手部の部員達でも、さすがに爆発という言葉には焦るのだ……ニヤニヤされなくて良かったと胸をなでおろす。

「何が起きた!」
 大島が猟師小屋から飛び出して叫ぶ。
「何か爆発したみたいです!」
 俺がミスリードした内容を櫛木田が口にしてくれた。これで誰がミスリードしたのかという印象が曖昧なものへとなっていくのだ。
「爆発だと?」
「はい、方向はこっちで、音がしたのはここより高い位置だったと思います」
 走りよってきた大島と早乙女さんに田村が方向を指差しながら説明をする。
「まさか……あそこは」
「おい、大島行くぞ!」
「お前らは、そこから動くな! 良いな!」
 早乙女さんが走り出し、大島も俺達に指示を出すと追いかけて行く。

「主将。一体何が起きたのでしょう?」
 香籐が不安気に尋ねて来る……香籐君、普通はそんな事を聞かれても分かるはずがないから困ると思うよ。ちなみに知っている俺としても聞かれると困る。
「分からない。大島が確認してくるのを待つしかない」
 無難にそう答えるしかなかった。
「一体どうなっているんだ。この合宿は?」
 ごめんね伴尾。ただでも酷い合宿を、俺が更に引っ掻き回しているせいだよ。
 でも、ここまでやったら合宿も中止かな? せっかく用意した準備が無駄になるから、出来るなら万全の体制を立てた上で挑戦したかったのだけど無理だろうな。
 先輩方が用意してくれたエアマットも全て無駄かと思うと申し訳ない。せめて来年に、何てことは下級生が可哀想なので思ってはいけない。

 大島と早乙女さんが手下達の名前を大声で呼びかけている声が聞こえてくる。その声が必死であればあるほど、俺にとっては滑稽に思えて笑いを堪えるのに努力が必要になる。
 問題があるのは大島たちであり、俺は警告もした。後の責任は自分達で取って貰いたい。
「やっぱり主将の言うとおりに、僕達を監視している人たちが居たんですね?」
 もう居ないんだけどね、天国や地獄よりも遠くて近い【所持アイテム】という場所に行ってしまったんだよ。
「そうみたいだな……」
 そう答えながら、俺は2人が呼びかける名前をカウントしている。
 俺が捕らえたのが8名で、大島と早乙女さんが呼びかける名前が8人分ならば、この島に居る大島の手下を全て捕獲したということになる。
 もしも多かったら、俺が見落としたということになるが、島全体が広域マップ上表示可能域になっているので、それはありえない。
 そして、もしも呼びかける名前の数が8より少ない場合は、大島達の薄情さに涙するべきか、それとも「8人目って誰?」というミステリーかホラーな展開になってしまう……というのは嘘で、単に苗字が被ってる奴がいるってだけだろう。

「……呼びかけていた名前の人数は8人だな」
「その8人に何が起きたんだと思う?」
 俺の呟きに櫛木田が被せる様に尋ねて来る。こいつも不安なようだ。
「先ほどの爆発音したような音からして、用意していた爆発物を誤って……という可能性しか思い浮かばないな」
「それってまさか?」
「死んだと考えるべきだろうね。未だに呼びかけ続けてるって事は、誰も呼びかけに応えてないって事だろうから……」
 紫村の言葉に部員達は水を打ったように静まり返る。8人の生き死には中学生には辛い話だ。

「ほら、これからどうなるか分からん、いつ飯が食えるかも分からないから、取りあえずこれを腹に入れておけ」
 俺は自分の荷物の中から取り出す振りをしながら【所持アイテム】から取り出した10秒飯を部員達に投げて渡していく。
 そして、最後の2つを内、1つを紫村に投げながら「猟師小屋に行って無線を探して古瀬さんへ連絡を入れた方が良くないか?」と話しかけた。
「……そうだね、先生達も連絡していた暇は無かっただろうから、こちらでやっておいた方が良さそうだね」
「櫛木田、下級生達を見ていてくれ」
「分かった。頼んだぞ」

「高城君。大島先生の問いかけに対して君が答えなかったのはミスだと思うんだけど」
 猟師小屋へ向かう途中、紫村がそう切り出してきた……気づかれたか。
「どうしてそう思う?」
「君が何かが爆発したと叫んだ時、君は寝袋から出ていたからね」
 やっぱりか、別に手間を惜しんだ訳じゃなくて、タイミング的に寝袋を装備すれば、俺は寝袋を着た状態に一瞬でなることが出来たが、地面に寝転がるのは無理だった。すると寝袋を着たまま立っているという不自然な状況になるので、それならば脱いで立っている方がまだ自然だろうと判断した結果だが、紫村の前ではどちらにしても無駄だったと言う事だな。
「さすがだな。今回の騒動は俺が引き起こしたのを認めるよ。だけど誰も死なせてはいない。一ヶ月くらい過ぎて彼らが会社から退職と処理された辺りで発見される事になる」
「ふっふっ……なんらかの事件に巻き込まれたのだから温情をとはならないよね。この島に来た理由が理由だから……」
 楽しげに肩を震わせながら笑う。紫村にしても同情の余地は全く無いようだ。
「でもどうやったのか、流石に興味がありすぎて困るよ」
「悪いな」
「自分から言い出したんだから、話しくれるのを待つよ」
「本当に悪いな」

 そんな事を話しながら猟師小屋の中へ入る。
 猟師小屋の中には、大島達の荷物と食料。そして2台のノートPCと発電機があったが──
「無いようだね……」
「無いな」
 慌てて洞窟の中にあった荷物を確認するがやはり無線機は無かった。一瞬、無線機かと思うような古いSFに出てきそうな機械があったがソニー製の短波ラジオだった。更に広域マップで全島を『無線機』で探すが見つからない……つまり、最初からこの島には無線機は無かった?
「ほ、ほら衛星電話とかがあるから……」
 紫村にも焦りが見えた。大島を焦らせる紫村も凄いが、紫村を焦らせる大島も凄いという事だな。ちなみに『無線電話』でも探したが見つからない……あれ? 衛星電話ってもしかして昨日のは──
「なあ紫村。衛星電話ってでかいアンテナの付いた厳ついトランシーバーみたいな形をしてて、スマホみたいな形のなんて無いよな?」
「……確か去年の秋くらいにiPhoneにちょっと大きなケースというかコンパクトなクレードルみたいなのを装着すると衛星電話として使えるという製品が発売されてたと思うよ」
 もしかして……あれって……違う。奴は本当に外部との連絡手段を用意していなかった……ということにしよう。あのスマホはiPhoneじゃなかった。そうに違いない。
 多分、大島としては最終的に洞窟の中に篭れば大丈夫という考えだったのだろうが、それを俺が破壊してしまった……本当に、本当に不幸な行き違いである。

『……とても大きな勢力を持つ台風6号は、勢力と速度を増しながら日本列島の南側を東北東へ向けて進んでいます。漁業関係者は海域から退避するように警報が発令されています……繰り返します──』
 紫村が操作する短波ラジオからやばい情報が流れてくる。
「紫村?」
「ちょっと待って! 今はラジオの情報が先だよ」
「分かった。情報収集は任せる。俺は今から台風に備える準備を始める」
「頼むよ!」
 猟師小屋を出ると空が少し白んできていた。大変な一日が始まりそうだ。


「1年生。悪いが今から流木を集めてきて欲しい。長くて厚さが1cm以上あり腐ってない板材を出来るだけ多く集めて欲しい」
「分かりました」
「それから3年生には設営ポイントを探してもらうから、これを見てくれ」
 そう言いながら、砂の上に大雑把なこの島の地図を書く。
「島は、この長い方向に沿って背骨のように山になっているから、これを風除けにする必要がある。予想される台風の進路では島の北側を通過するので、まずは南南東からの風が吹いてきて、次第に暴風圏へと入り風力を増しながら南、そして西からへと向きを変えて行く。そして一番台風の目が接近して1番の強風がこの島を襲う時点で吹く風はほぼ西からの風になる。その後は風は北向きへと変わりながら弱まっていくのが予想される。つまり島の山を挟んだ北東側のポイントにキャンプ地を設営するのが良いと思う」
 北東側なら、台風通過の序盤から一番風が強まる時点を含めて山が風除けになってくれて、風をまともに受ける時点では風は弱まり始めているという考えだ。しかし──
「ここじゃ駄目なのか?」
 この様な残念な意見が出たのは遺憾である。
「……お前が、ここで死にたいなら止めないが、お前の自殺に付き合うつもりも後輩達を巻き込ませるのを認める気もないぞ」
「伴尾君。台風6号は観測史上最大級の上に、明日からは中潮だけど今晩までは高潮という状況に台風の高波が押し寄せると、この辺の浜辺は完全に波に飲み込まれるから確実に死ねると思うよ」
 俺と紫村の脅迫めいた言葉に伴尾は「さてと設営ポイント探しを頑張るか!」と大声で気合を入れた。

「まず周囲に多くの木が生えていて地盤がしっかりしている、比較的傾斜のなだらかな場所で、近くに崩れやすい急な斜面などが無いことが望ましい。広さは6張りのテントが密集して配置できる広さだから。余裕を見て半径3.5m程度を確保出来る場所が良い。それとその中央に1本木が生えているとなお良しだ」
「木か、落雷の心配はどうなんだ?」
「雷は高い場所に落ちる。これだけ狭い島だから、頂上付近の木に落ちる可能性が高い。それでも心配ならキャンプ地の周辺の木を途中で切って低くすれば良い。どうせワイヤーソーは全員持ってきてるんだろう?」
「当然だ。しかし最初の頃は買ったは良いけど使いこなせ無かったよな」
「1年の夏合宿の時だろ? 細い枝くらいしか切れなくて、想像以上の使えなさに泣けたな」
「それで紫村が調べてくれたおかげで、冬合宿で初めて役に立ったよな。太い枝を切り落として、掘った雪穴の天井の梁代わりにして、それで1日耐えたんだよな」
 俺達は1年の時の夏合宿に備えて、ワイヤーソーを皆で購入したのだが、ワイヤーを切断する木の裏側に通して両端のリングに指を掛けて引っ張るようにしてテンションを掛けて、左右の手を交互に前後させるようにして切断するという勘違いしてたお陰で、全く役に立てることが出来なかった。ピンと真っ直ぐに伸ばした状態で対象に押し付けるように左右に引かなければ、木に食い込む部分が長くなり抵抗が強くなってノコギリを引くという動作を妨げ、引くために力を込め過ぎるとワイヤーが切れてしまう。
 つまりテレビなどでたまに目にするワイヤーソーの使い方は基本的に間違っているのだ……だから自分達が間違っていたのも仕方が無いと慰めた。

「下生えはどうする?」
「スコップもあるんだ、掘り返して強引に設営ポイントを造営する。自然相手に綺麗に何も無いなんてそんな都合の良い場所なんてあるはずが無いだろ」
「了解だ。とにかく傾斜や木々の生え方。周囲に危険なポイントが無い。以上の条件で探せばいいんだな?」
「それで頼む」
 俺の指示に従い、1年生と3年生達がそれぞれの作業のために散っていく。

「僕達は何をすれば良いのでしょう?」
 香籐達2年生が尋ねてきた。
「お前達の仕事は、1年生が集めてきた流木とザイルで壁を作るのが仕事だ。設営ポイントが見つかって材料が集まるまではロープワークをいくつか覚えてもらう」
「はい!」
 まずはザイルを取り出して、傍に打ち上げられている適当な流木を使って簾状にするために巻き結びを実演してみせる。
 それからザイルとザイルを繋いで延長するための二重つぎ結び、木と結ぶために通す輪を作るバタフライノットと風を防ぐための壁を作るのに必要なロープワークテクニックを教えていく。
 流石に香籐は物覚えも良い……この何事も卒無くこなし、性格もとても良い香籐が良い子過ぎて心配だ。俺達3年生が卒業した後に、優秀ではあるが心に毒性を持たない彼が、部員達を率いて大島と渡り合えるのか。確かに俺を含めて歴代の主将達が大島と渡り合えた訳ではない。だが歴代の主将は、それぞれが己の心の奥底に秘めた強い毒を用いて、大島という理不尽に対して弱者なりの抵抗を続けてきた。それが空手部の伝統である。
 はっきり言って香籐は、傍に居ると心が晴れるような気のする気持ちの良い奴だ。だが今後の彼と空手部のためにも今回の合宿が、彼の心に何か強い毒のある武器を宿すきっかけになればいいのだがと思う。
「ロープワークを覚えたものは反復練習。まだ分からない者は香籐に教われ。俺よりも教え方が上手いはずだ。それからロープワークは忘れないように時々練習しておいて、時間があったら1年生にも教えておけよ。覚えておいても得にはならないかもしれないが損にはならない。そして覚えていた事が得になる場合は生死を左右するかもしれないからな」
 ……空手部においてはな。


「お前ら何をしている! 高城、1年生と3年生は何処に行った!」
「8人もの人間に重大な問題が起きた非常事態なのに外部との連絡手段が無いようですから、我々は自分達が生き残るために必要な作業を開始してます」
「何だとぉ!」
「それとも携帯用の衛星電話でも持っていて、古瀬さんとは連絡が済んでいるのでしょうか?」
「んなもんねぇ!」
「じゃあ、黙っててください。今ラジオで紫村が確認していますが台風の到達が早まるので、先生と遊んでる暇は無いんです」
「それは本当か?」
「紫村が詳しい情報を確認中です。だから邪魔しないようにお願いしますよ」
「そんなの知らん!」
 無視して猟師小屋へと向かおうとする大島に「先生達も早く台風に備えた方がいいんじゃないですか?」と言ってやる。
 これは俺達のことは俺達でやるから、お前達はお前達で勝手に生き残れというメッセージである。
 テントは田村や下級生が用意したテントとは別に清水先輩が6張を用意してくれているので予備はある。あるが貸してやる気は全く無い。
 洞窟を避難場所にするつもりだったのだろうが、既にその洞窟は崩壊し中に用意していた物資も俺の【所持アイテム】の中に入っている。
 この2人が台風如きでどうにかなる事など有り得ないので。精々大変な目に遭って欲しいというささやかな嫌がらせだ。

「それより高城。ちょっと面貸せ」
 一々顔を近づけて凄むなよ。何か願掛けでもしてるのか? 迷惑だからやめろよ。
「何ですか? 遊んでる暇は無いんですよ」
「いいからきやがれ!」
 大島に肩を掴まれて、連れて行かれる。

「お前何をした?」
「何をした? もう少し要点を絞ってから出直してもらえますか?」
「あいつらに何をしたかと言ってるんだ?」
「何とかあいつらとか、いい加減馬鹿を相手にしているみたいで辛いんで、簡潔に質問してもらえませんか?」
「俺の後輩達に何をしたんだと聞いてるんだ!」
「何もしてませんよ、昨晩1人ボコったくらいで他の7人については全く知りませんね」
「おかしいじゃないか、何故8人だと知ってる!」
「何もおかしな事は無いですね。先ほどまで大声で名前を呼んでたじゃないですか、8つの名前なら同じ名前の人間がいなければ8人だって見当は付きますよ……大体、何なんですか? 先ほどの爆発で、その8人が怪我をしたんですか?」
「何故爆発だと決め付けた?」
「あんな地響きや、ドーンドンドッドッドッドッなんて音は爆弾じゃなければ仕掛け花火か、火山の噴火ぐらいしかイメージ出来ませんよ」
「爆弾じゃねぇ。硝煙の臭いも何かが焼け焦げた臭いも何もしない」
「だったらガス爆発かもしれませんね。プロパンガスのカセットじゃなくボンベを幾つか小屋か何かに持ち込んで、それからガスが漏れて爆発した可能性は?」
「ガス爆発程度じゃ、洞窟はあそこまで大きく崩れたりはしねぇ」
 確かに、燃焼速度が火薬に比べればはるかに遅いガスと、入り口が大きく開けたあの洞窟では圧縮率が低くて強力な破壊力は生まれないが──
「洞窟? ならば中でガスボンベ自体が爆発したのでは?」
 それでも所詮はボンベの外殻が耐えられないギリギリの圧力だから、それが開放された程度ではあの洞窟が崩れるとは思えないが、俺は洞窟の事を知らないという体裁を取っているので、そう発言しておいた。
「それでも無理だ。大体洞窟は中から爆発したのではなく上から押し潰されたかのように崩落していた」
「じゃあ、大規模な崩落があの音と振動だという事じゃないんですか?」
「厚さ5mはある岩盤が多寡だか数m程度崩落した程度で、あそこまで細かく砕けるわけがねぇ! 大体だ8人が8人とも見つからないなんて訳があるはずがねぇ! 見張りの引継ぎだって洞窟で交代じゃなく現地で交代だ。洞窟に空になる事はあっても、洞窟に全員が集まることは無い。だったら8人全員どうやって消えたんだ? なぁ高城」
「何か犯人扱いされているようですが、どうやって僕にそんな事が出来るんですか? 単に洞窟を崩落させる確かに出来ないことは無いかもしれないですが、時間も金も準備すらないのにそんな事は出来ません。それに先生のへっぽこな手下達なら1人でいるところを不意打ちすれば、他の奴らに知られずに無力化するのは難しくないですが、そんな都合のいい事を8回も続けろと言われても無理ですね」
「誰もお前1人でとは言っていない。協力者が居るんじゃないのか?」
「協力者? 例えば紫村ですか? 幾ら紫村でも無理ですよ」
 紫村なら大島の手下と一対一なら互角に戦えないことも無いだろうが、それにしても常識的に考えたら無理すぎる。
「いや、部員のことじゃない。それ以外の組織的な協力者が居るんじゃないのか?」
「何の冗談を……いい歳して厨二病ですか? ちょっとそんな人にものを教わっているなんてのは恥ずかしくて嫌ですね」
「誤魔化すな!」
「僕は、行き先も知らされずに船に乗せられてこの島まで来たんですよ。仮に僕がGPSで得た位置情報を衛星電話で、その協力者に知らせていたとしましょう。彼らはその情報を元に、この島までやって来て、見張っていたへっぽこ達に気づかれずに上陸し、彼らを素早く無力化して、洞窟に連れ込み、何らかの手段で洞窟を崩落させて、素早く島から逃走したとしましょう……そんな事が可能な組織って何ですか? その辺のヤクザに出来ることじゃないですよね。僕がCIAの非合法員でCIAの組織力を行使出来るとでも言うのなら可能かもしれませんが、CIAは何の目的でそんな事に協力するんです? 先生の立てた合宿計画を潰す事にそれほどの意味があると本気で考えているんですか? それともそんな事をしてくれそうな暇人集団に心当たりがあるんですか?」
「糞っ! あいつらは生きているんだろうな?」
「はっきり言いましょう。もし僕が今回の首謀者なら彼ら全員を確実に殺します。そこまでやっておきながら、こんな合宿に協力したクソッタレをを生かしておく意味が分からない。だから僕が首謀者じゃないことを神にでも祈っておいてください」
 まあ生かしておくんだけどね。社会的には死んだようなものだけど。
 元々、発覚すれば社会的制裁を受けて当然なことをやっていた訳だから同情する余地は無い。自分達だけが制裁を受けるのが我慢出来なかったら遠慮なく大島も道連れにするが良い。それが世のため人のためだ。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.053007125854492