「どうだった?」
4時間ほどぶっ続けで戦い続けた後、再び拠点の穴倉に戻った俺は2人に成果を尋ねる。
「味や栄養価は分からないけど、食べられるという条件に入るものならかなりの量を確保出来たと思うよ」
一度【所持アイテム】内に収納して、リストから選択してチェックすれば、大まかな説明がされ、特に食用に適するならば必ず、逆に食べられそうだけど毒を持つものは最優先で表示してくれる親切さんだ。
「へぇ、こいつは何て食べ物なんだ?」
キウイフルーツのように表面に短い毛のようなものが生えた果物らしいものを手にとって尋ねる。
「名前は不明だよ。それだけじゃなく全てに名前は無いよ」
「名前が無い?」
それはおかしな話だ。システムメニューの翻訳能力はとても素晴らしく、親切丁寧痒い所に手が届くと全俺が大絶賛だ。
現実世界に存在するものと同等の存在は現実世界の日本語で表示され、現実世界に無いものはその世界での呼び名をそのまま表示するので、今まで夢世界のどんな品も名称が表示されなかった事はない。
試しにキウイっぽい何かを収納し、【所持アイテム】のリストから選択して……あれ? それらしいものが見つからない……これは「????」って何?
確かにキウイっぽい何かは「????」と名称不明だった。それだけではなく他の食材も試すが悉く「????」としか表示されない。
これは、システムメニューが対応していない世界だから…………ちょっと嫌な事を思いついてしまった。この世界には、何かに名前をつけるような知的生命体が誕生していない。誕生していないから、これらには名前が無い。名前がないから表示されない……いや、そんなはずは無いさ、あるはず無いよ。無いよね?
「もしかすると本当に名前というもの自体がこの世界には存在しないのかもしれませんね」
「やっぱり?」
「言語能力を持つに至るような種が発生しなかった……あのお化け水晶球のせいで、という可能性は十分にあるね」
「認めたくないだけで分かってる。ただ俺は現地の人間と交流を持ち、元の世界に戻る手段を探したかったんだ」
「高城君。認めようよ現実を」
分かってるさ、電撃は物体を破壊する事を目的と考えるとそれほど優れた手段ではない。それに対して相手が大量に電解質を含む生き物と考える場合は格段に効果が高い。特に筋肉を電気的刺激で動かすような生き物は、その構造上電気に対して無防備にならざるを得ない。
つまりお化け水晶球は自分以外の生物を捕食……捕食するのだろうか? ともかく攻撃することに特化した存在とも考えられる。
植物を除けば、虫の類と原生生物程度の反応しかない現状と、食材に名前が存在しない事を考えれば、お化け水晶球がこの世界の動物にとって天敵であり、知的生命体が誕生する前に滅ぼされたと考えるべきなのだろう。
取り合えず、紫村達が取ってきた食材の多くはそのまま食べる事が出来た……味は、まあそこそこと言った感じで、夢世界の食材の納得できないほどの美味しさや、現実世界日本の、品種改良・栽培方法の研究により糖度などの味を高める事に生産者が血道を上げた成果には及ばない普通の味だった。
また中には落花生によく似たナッツ類があったが、落花生は茹でたり炒ったりして食べるものだと身をもって知った……味も落花生に良く似ていたが、生で食べるとエグ味が強い。
肝心の栄養価だが、それは【所持アイテム】の説明にも表記されていないのだが、調べる方法が全く無いわけではない。
【現在の体調】というパラメーターがあり、その中には【疲労度】や【傷病情報】の他に【栄養状態】という項目があり、食後しばらくして【栄養状態】の推移を見れば、必要なエネルギーを摂取出来ているかが分かるはずだ。
「栄養状態がどうのと言ってる場合じゃねぇなぁ……」
食事休憩を終えて外へと出て、お化け水晶球を狩り始めて間もなく、またもや状況が変わってしまう。変わったと言う言葉が生易しいほどに……具体的に言うと、お化け水晶級達が巨大人型へと合体変形し始める。
「眩暈がしてくる」
「……モデルは主将ですね」
俺達は呆然として、全長40m近くはある巨大な人型水晶を見上げる。
しかも香籐が指摘した通りモデルは俺のようで、透き通る水晶で作られた巨大な俺似の身体が、浴びた日差しを中で乱反射させて輝く様をどう評価していいのか非常に困る。
俺達に勝つために人の形状を真似たと考えるべきなのだろうか?
それにしても対応が早すぎる、昨日は全く変化が起きなかったのに、今日は短時間でどんどんと対応する手を打ってくる。
俺達が穴倉に引きこもっていた間に、奴らはこちらへの対応を数で圧すのではなく、自らを変化させる事へと方針を変えたのだろうか? 変えたとするなら高度な判断力を持つ頭脳の役割を果たす存在があるか、それとも個体のい一つ一つがネットワークとして繋がれていて群体全体として脳神経のような構造を持つ事で判断を行っているのか? ……どうでもいいや、ぶっ壊してしまえばどっちでも問題ない。
「浮遊/飛行魔法発動」
発動と同時に地面を蹴って、一気に俺似の水晶巨人の頭上の遥か上へと跳ぶ……空気抵抗以外に減速する要素が無いって素晴らしい。
上空70mほどの高さから真下に巨人を見下ろす。どうせ人の真似をするならば、見上げてこちらを伺う素振りくらいやればよいものだが、そこまでの知恵は無いのか顔は正面を向いたまま全く動かない。
視線の絡み合わない睨み合いが、3度息を吸い込むほどの間続いた後、巨人は上昇を始める。
しかしそれは欠伸が漏れるほどゆっくりとした動きで、元の水晶球状態の上昇速度となんら変わりは無い。
そこへ【所持アイテム】から足場用の岩を取り出して落とす。
折角、合体変形と言う芸を見せてくれたのだから、何か面白いリアクションが見られるかと期待したのだが、巨人は落下してきた岩を頭頂部に受けると、そこから亀裂が生まれ、次の瞬間には亀裂は何条にも分かれて内部を走ると反対側へと抜ける。
そして大小6つの塊に割れると落下し、その衝撃で完全に崩壊し砕け散った。
その様は上から見た俺によく見えなかったが、後に紫村は輝く光の粒が滝のように流れ落ちる幻想的な様子だった説明した後、俺の肩を叩きながら「見れなくて残念だったね」と告げるのであった……
「……えっ?」
その余りの呆気無さに対する驚きは、俺のレベルが上がってしまうほどだった……驚きは関係ないけどな。
しかし眼下にはまだ3体の巨人の姿がる。明らかなる相手側の誤った選択によるチャンス。美味しいな美味し過ぎる展開だ。
巨人の全長は40m弱、大体俺の身長の22倍弱と言ったところだろう。つまり体積はおおよそ1万倍。
俺は筋肉質で体脂肪も少なく見た目以上に重いので体重は65kgはある。そのため普通の状態では水にはほとんど浮かないので泳ぐ際は、肺に空気を多めに取り込んだ状態を維持する必要があるほどだ……つまり比重は水と同じ1と考えられる。
すると俺の体積は大雑把に0.065m3となり巨人の体積は650m3と導き出される。
対してお化け水晶球の大きさは直径2m……20cm程度のほぼ球体なので5.6m3となり、巨人は約110-120体分──前提となるサイズがおおよそのため、大体その辺りに収まるだろう──のお化け水晶球によって作られているはずなのだが、得られた経験値はお化け水晶球1体分の200倍弱になった。
今日今までの分の経験値以上を、岩の投下1発で稼ぎ出した事になる。美味しすぎて踊りだしそうになる展開だ。
「これは……慎重に行くべきだな」
調子に乗って、このまま既に存在する巨人3体を倒してしまったなら、奴らは新しい手段を講じてくるだろう。それが今回の巨人ほど簡単に倒せて、かつ経験値的にも合体特典がついた美味しい状況になると思えるほどおめでたくはなれない。
「2人は【結界】を張って退避して体力を温存! その間に俺はこいつらを出来るだけ多く誘き寄せるから、次にレベルアップしたら全員で一気に全てを破壊する!」
2人は無言で頷くと【結界】を張って身を隠した。
「とりあえず、最初のを簡単に倒してしまった分をチャラにしないと不味いな」
あっさり倒した最初の分で、水晶巨人作戦を中止されては勿体無いので、しばらくはこちらのピンチを演じる必要がある。
巨人達が飛ばないように高度を下げて、連中の手が届くぎりぎりの位置を飛びながら時間を潰す。すると広域マップに表示される大量に集まってきたお化け水晶球達が次第に幾つかのコロニーを形成していき、やがて変形合体して巨人へとクラスチェンジしていく……ニヤニヤが止まらない。
俺の周りにいる3体の他に、現状で6体の巨人が誕生している。
「宝の山だよ」
その後、2時間ほど巨人達に囲まれながら鬼ごっこを続けていると周囲に集まった巨人の数は25体に達した。
既に広域マップ内にはお化け水晶の姿は無く、全て水晶巨人へと変形合体を終えている。
「打ち止めだな」
1時間を過ぎたあたりから増える数が一気に減り、これ以上増える様子も無い。そして何より俺の栄養状態がヤバイ。流石に『浮遊/飛行魔法』の機動力では数体の巨人にわざと囲まれた状態で逃げ続けるのは無理だったので、足場岩を使ったために、カロリー消費が大きかった。
先日から狩り続けた分も含めて、この周辺にいるお化け水晶球の群れの残りはここにいる分だけになったのだろう。まあ、残りと言うか群れのほとんどがまだ生き残っているのだけどな。
高度を取ると、移動しながら足場用の岩を巨人目掛けて投下していく。
一気に4体を屠ると再びレベルが上がり、次の瞬間には紫村と香籐が結界から飛び出して上空へと足場用の岩を蹴りつけながら駆け上がると、巨人の頭上をとって岩を落としていく。
攻撃を開始してから1分足らずの間に巨人は全て砕け散った。流石に3人ががかりだと早い早い。
俺のレベルは67まで上昇し、紫村達のレベルも58まで上昇した……俺と比べると2人はレベル50を過ぎてから上がりが悪くなっているみたいだ。俺とパーティーの参加者の違いなのか、それとも俺自身と紫村達との違いなのかはまだ分からない。
それからもう1つ新しい事があった。
『パーティーに参加してるメンバーの総レベル数が規定値に達したため、【所持アイテム】【装備品】の機能を拡張し、パーティーメンバー間でシステムメニューを介したアイテムの受け渡しが可能になりました』とアナウンスがあったのだ。
「こいつは?」
試しに【所持アイテム】の中から鈴中の死体をチェックすると、【パーティーメンバーへの受け渡し】という項目が新たに追加されていたので【紫村】を選択してみる。
「こんなの要らないよ!」
割と真剣に嫌がられた……分かってたよ。
何だかんだで、取り合えずは実際にアイテムの受け渡しが可能なのは確認したが、実際これが役に立つ場面は今のところは無い。
ただ、今後もパーティー全体の総レベル数でシステムメニューの機能が拡張される可能性があるって事が分かったので善しとする。
「それにしてもたった2日でレベル58か。今まで俺の苦労はなんだったんだ?」
この世界に来るまでの俺のレベルを超えてるからな。しかもレベル50以上は伸びが鈍化してるくせにだ。
「……申し訳ありません」
「いや、香籐に謝って貰うようなことじゃない……ただ世の中、理不尽な事ばかりだと思っただけだ」
本当に理不尽だよ。俺の事はまだ良い。だけど2号の事を考えるとね。
あいつがレベル50になるために何度死んだ事か、それなのにもうレベル追い越されてるんだぜ……もう少しあいつに優しくしてやろう、甘やかせてやろうと思った。
まあ、気が変わらなければの話だけどな。
「食料の調達を頼む。俺は周辺の様子を探ってくる」
先ほど食べた果実やナッツ類は、特別に栄養価が高いと言う訳ではないが、現実世界の日本で食べている物とそれほど大きな差はないと思う。
しかし、ここで1つ新たな問題に気付かされる。
レベルアップによる身体能力の向上による消費カロリーの上昇に対して、消化器系の能力の向上が追いついていないって事だ。
先ほど手に入れた食べ物を限界まで胃袋に押し込み続けたとしても、身体能力を全力どころかある程度加減した状態で使い続けても、半日も経たずにハンガーノックを引き起こして倒れるだろう。
今後は、たんぱく質、脂質、炭水化物、ビタミン、無機物質などの成分をバランスよく含み、高カロリーで消化が良く、どんな状況でも素早く口に出来る。そんな都合の良い食べ物を常に携帯しておく必要があるが、何が良いんだろう?
食べるなら美味しい方が良い。はっきり言って今の手持ちの携帯食では食事とはいえない。だが1日に最低でも1万カロリー以上を取れるのが最低条件だ。全力で身体を酷使したらその10倍のカロリーを摂取しても低血糖を起こして倒れられる。
そんな条件を満たすためには素早く身体に取り込める糖メインなものになる。脂質メインじゃ駄目なんだよ
俺は甘いものは嫌いじゃないが、耐えられる甘さの上限が低いタイプなのに、糖で1万カロリーを得ようとすれば砂糖なら2kg以上も食べる必要がある……生き地獄だ。想像しただけで歯が溶けそうになる。
問題山積みだな。
「どのくらいの範囲を?」
「現在の広域マップの表示範囲の外側まで、そうだなレベルアップでまた視力も上がっているし天気も良い。これなら上空から見渡せば半径5kmくらいはカバー出来るだろうから、現在の表示範囲の外側5kmをぐるりと1週回ると、1時間くらいで戻ってくる予定だ」
「分かったよ……ところで、離れていても連絡出来る魔術や魔法は無いのかな?」
「あるぞ。今回のレベルアップで覚えた魔術に【通心】ってのがある。だけど使うためには互いに【通心】が使えないと送受信どちらも出来ないから役に立たないな」
この手の便利な魔術はもっと低レベルで習得出来るか、習得していない相手とも自由に会話出来ないと使い勝手が悪すぎるだろう。相変わらず嫌がらせっぽいな。
「それは残念だね。それなら時間は正確に頼むよ」
「ああ分かった。1時間後には戻るようにする。戻って来なければ何かがあったと思って行動してくれ」
「気をつけてね」
「紫村もな、香籐のこと頼んだぞ」
体勢を足を前に投げ出して寝転がるようにする事で空気抵抗を減らして、『ある程度』安定して高速飛行が可能となった。
空力特性に優れた形状で、高速飛行時の空気抵抗に耐えられる丈夫な外殻を持ち、それでいて軽い素材で出来ていて、俺の身体がすっぽり収まるサイズなんて都合の良い物があれば、プロペラ機程度の速さで飛ぶことも可能なのだろうが、今のところは100km/h程度だ。
流石にそれ以上速度を上げると、上空の寒さと風によって体温が奪われて拙い事になる。
この身体は冬山でも一晩ゆっくり裸で寝られるほどの体温調整機能を持つのだが、不規則に揺れる飛行状態と奪われた体温を補うためのカロリー摂取による満腹により、腹の底から湧き上がる溢れんばかりの熱い何かとの死闘が続いているのだ。
こんな時の為に【操熱】があるはずなのだが、この操作系の魔術で適温を維持しながら、操作系の魔法である浮遊/飛行魔法を扱う事は出来ず、火傷と墜落の二択を迫られる事になり、墜落の方を選ぶ事になった。
多分慣れれば使いこなせるようになるのだろうが今の段階では無理だった。
同様に島で防風壁にかける予定だった【風圧】と言う対象表面に対象へ加わる風圧を捜査する魔術もあるのだが使いこなせない。
もっとも、使えたとしても【風圧】には問題がある。
対象の周りに壁を作り、風が壁をすり抜ける際に、酸素・二酸化炭素・窒素などの分子の量を調節する事で、対象にぶつかる空気の比重を変えて風圧を2倍から1/2倍まで変化させられるのだが、空気中の分子密度を下げるとは、つまり空気中にある熱エネルギー=分子の運動エネルギーを奪うため身体から奪われる熱量は空気の温度の低下により大きくなるが、空気の密度が下がる事による熱伝導率の降下は、もっと大きな熱量を逃がす場合にはボトルネックとなるのだが、体温という少ない熱量の伝達には余り影響が出ないからだ。
偵察の範囲が残すところ僅かとなった時だった……どエライもの見つけてしまった。
半径200mはありそうな円盤状の形をしていて、広域マップには単なる点ではなく地形の様にはっきり形が表示されている。
それは空に浮かんだ島の如き巨大な水晶の塊だった……まあ、まだ9kmほど離れてるから肉眼じゃな豆だけどな。
「超空の要塞、B-29は本当にあったんだ!」
そんなお約束めいた戯言を口にせずにはいられない。一体何体のお化け水晶球が合体したのかざっと計算するのも躊躇ってしまう大きさだった。
紫村達がいる先ほど巨人と戦闘をした方向へとゆっくりと──飛行速度はお化け水晶球の移動速度とそれほど違いはなさそうだ──移動している。
俺は緩やかに右旋回しながら──速度が遅いので、やる気なれば急旋回も可能だが、速度が上がれた飛行機に比べても旋回能力は大きく劣るだろう──B-29(仮称)に向かって飛ぶ。
「思ったより高度をとってるな」
目視出来るまでに近づいたB-29(仮)の上へと行くために、上昇して高度を稼ぎながら接近していく。
既に高度500mでちょっとした山の頂上付近で風は冷たく、奪われる体温を補うように身体は熱を作り出す……ダメェ~おなかが一杯なのにカロリーが不足しちゃうぅ~。いや冗談抜きでかなり深刻で、システムメニューの【栄養状態】の項目は色が黄色に変わって異常を知らせる親切機能を余すことなく発揮している。
食が細くて精霊術を使えず故郷を去ったエロフ姉の気持ちが今なら分かる気がする。どんなにそれが必要であっても食えないものはどう頑張っても食えないのだ。
「これ以上は本当に腹には何も入らないのに……点滴だこうなったら点滴しかない……あれ? どうやって!」
我ながら軽く混乱してる。だが現実に戻ったら必ず点滴用具の入手を考えないとならないのは確かだ。
上空900m。思えば高くに来たもんだと。
俺が所持しているのは腕時計内臓の気圧高度計で、はっきり言って気象状況や緯度によって差が出来てしまうので、移動しながらの一発計測では余り数字に信用はおけない。あくまでも目安に過ぎないがそれでも表示されている数字は900mを超えているので、数字を見るだけで寒さを覚える……段々と身体が冷えてきている自覚が出てきた。
身体能力の向上は体内のグリコーゲンを搾り出すだけではなく脂肪までも素早く、そして容赦なくエネルギーに変えていくため、それらが尽きたら短時間で命を失いかねない。
狙いもクソも無く、B-29(仮)の上空を横切りながら足場用の岩を次々と落としていく。
「畜生! パージしやがった」
岩の直撃を受けた場所を切り離す事で、周囲にひびが広がらないように手を打ったのだ。やはりお化け水晶級達は群れごとで情報を共有しているのではなく、種全体で共有している可能性が高いと言う事だ。俺達と巨人の戦闘の情報を入手していなければ、この対抗策を練れるはずが無いのだから。
さほどダメージを与える事は出来なかったが、これにて撤退。これ以上は戦い続ける余裕が無い。
一気に高度を下げると木々の上をかすめる様に飛びながら紫村達の元へと逃げ戻る。
「お帰りなさい」
「悪いが急いでここから逃げる。3km……いや、5kmほど東へと移動して拠点を作り直すんだ」
「どうしたんですか?」
「細かい事は後だ、とにかくやばい敵が来る。こちらに真っ直ぐ向かってきている事から、現在の拠点の大体の位置は知られているだろうから別の場所に……今よりもずっと深くに……作るんだ……悪いが俺は……もう限界……限界だ」
まだ1年生の頃に時折やった懐かしいハンガーノックの感覚に襲われる。地面に腰を下ろした瞬間から身体が動かない。動かす気力もない。頭ががが、ぼんやりとしてててて意識が薄れていいいいいくぅ………………