Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GEBERATION第0話 プロローグとある一室で一人の男が目を覚ます・・・「ここは・・・俺の部屋か・・・?」目を覚まして周りを見渡すと、彼は懐かしい思い出の詰まった自分の部屋にいた。そう呟いた青年の名は『白銀 武』・・・かつて自分の住んで居た世界とは似て非なる世界、極めて近く、そして限りなく遠い世界において、平和を勝ち取る為に仲間と共に幾多の困難を乗り越え戦い続けた男である。「・・・あれは夢だったのか・・・?」夢と思うには余りにも鮮明すぎる内容だ。そう思いなが彼は現状を確認する為にベッドから起きる・・・そして窓の外を見て愕然とした・・・「・・・元の世界に戻った訳じゃないのか・・・」武は落胆と共に軽く溜息を吐く。しかし現状は現状だ、外の様子を確認する為にも武は着替えて外に出た。「やっぱりそうだ・・・ここは俺が初めてこの世界に来た時と同じだ・・・でもなんで・・・」武は自問自答する。この世界での自分の仕事は終わったと言われた事を・・・そして因果導体でもなくなり、香月 夕呼と社 霞の二人に見送られながら元の世界へと戻った筈・・・しかし、目の前に見える光景は自分の運命を大きく変えてしまったあの日2001年10月22日と全く同じだったのである。「夕呼先生の理論が間違っていたのか・・・それともまだ何か解決できていない事が合ったのか・・・?」根拠はない、しかしその感覚は三度この世界のあの日に戻って来たという確信を与えていた。それを証明する手だては無い・・・しかし夕呼ならば怪しげな理論で説明してしまうに違いない。現状では情報が少なすぎるのだ・・・「ここにいつまでも居ても仕方ないな・・・とりあえずは行動だ」自分がなぜ再びこの世界の、そしてこの日に戻って来たのかを確める為に武は横浜基地のある場所へと向かった。以前とほぼ同じような行動を取りながら横浜基地へと向かう。しかし、無駄な時間を過ごす事は勿体ない。武はその時間を利用しながら考えをまとめる事にした。とりとめのない事を考えながら歩いているうちに、桜並木の坂道を上りきり、武の前に見慣れた物が現れた。建物の上にはアンテナ、これを見て最初に大笑いした事も今となっては懐かしい思い出だ。そしてゲート前には見覚えのある衛兵が二人・・・突っ立っていると衛兵が気づき近づいてきて、フレンドリーに話しかけてくる。これも記憶通りだ。何せこれで3度目なのだから・・・「こんなところで何をしてるんだ?」「外出していたのか?物好きな奴だな。どこまで行っても廃墟だけだろうに」「隊に戻るんだろう?許可証と認識票を提示してくれ」衛兵たちは自らの職務に忠実に、身分照会を求めてきた。しかし武は許可証など持っていない。それどころか認識票も認識番号もなく、身分を証明するものは何一つなかった。だがここでトラブルを起こすのは考えものだ。適当に誤魔化すしかない・・・そう思っていた時だった。「ちょっと待て、ひょっとしてコイツ・・・すまないが君、名前を教えてくれないか?」武は驚いた。対応が以前と違うのだ。以前は確かここで一悶着あった筈・・・そう思いながら考えていると衛兵の一人が口を開く。「ひょっとしてシロガネタケルか?」「・・・な、何故俺の名前を知っているんです?俺とは初対面のハズですが・・・」自分の記憶と照らし合わせても矛盾している。それ以前になぜ衛兵が自分の名前を知っているのか?その疑問ばかりが頭をよぎっていた。「やっぱりそうか、香月副司令から聞いているんだ」「へ・・・?」「今日、シロガネタケルと言う少年が私を訪ねて来る筈だからそいつが来たら私の所へ案内するようにってな」一瞬の出来事に武は戸惑った。何故彼女が自分がここに来る事を知っているのかと言う事・・・それよりも自分の記憶と一致しない出来事が起こっている事・・・どうしたものかと悩んでいると、衛兵が訪ねて来る。「お前、シロガネタケルじゃないのか?」一瞬にして表情が険しくなる。このままではマズイ・・・とっさに頭を切り替えると武は口を開く。「す、すみません、俺は白銀 武で間違いないです。ちょっと驚いてしまって・・・」「そう言うことか、なら良い。ちょっと待っててくれ、副司令に連絡を取るから」そう言うと衛兵の一人が詰所へと向かう。しばらくして連絡を取りに行っていた衛兵が戻ってくる。「直ぐに迎えの人間が来る。それまでここで待っていてくれ」「解りました」待っている間に武はもう一度自分の記憶を思い返してみる。余りにも自分の記憶と違いすぎる・・・最初に来た時は衛兵に捕まって拘束された筈だ、次は一悶着あったもののなんとか夕呼には会えた。しかし今回はどうだ・・・夕呼は自分が来ることが分かっていた・・・そして衛兵にまで話を付けてくれている。一体どういう事だと考えている武に覚えのある声が聞こえてきた。「遅かったわねぇ白銀ぇ」「先生・・・」「ま、立ち話もなんだし着いていらっしゃい」そう言うと夕呼はスタスタと基地の方へ歩いて行く。「何やってんの?時間が勿体ないんだからグズグズしてると置いてくわよ?」「あ、はい」武は言われるがままに夕呼の後を追いかけて行った。着いた部屋は見慣れた執務室。夕呼は自分の椅子に腰かけると武の方を見ている。しばらくの沈黙・・・訳が分からない現状を何とかする為に武は口を開いた。「・・・先生ですよね・・・?」率直な疑問をぶつけてみる。「そうよ・・・久しぶりに会ったって言うのに酷い言い方よねぇ・・・あ、私は久しぶりでもアンタはそうでも無いか」どういう事だ・・・この先生は俺の事を知っている・・・そして俺がどういう状況に置かれているかも解っている。自分の記憶と違いすぎる事に対して考えている武を見た夕呼が驚くべき事を口にした。「えーっと・・・アンタはこれで何度目のループになのかしら?」「っ!」武は驚いた。この世界を何度か体験した事を目の前の夕呼は知っている。しかし、どこまで話していいのか分からない。下手な事を話してしまっては取り返しがつかなくなると言う事は今までの経験で良く解っている事だ。。そう考えているうちに夕呼が口を開いた。「私の記憶が正しければアンタが解っているだけで3度目と言ったところかしら?」「な、なんで・・・」「なんで分かるのか?・・・教えてあげましょうか?」「は、はい・・・」「記憶が有るのよ・・・私にもね・・・オルタネイティヴⅣをアンタ達と共に成功させた世界の記憶がね・・・」『どういう事だ・・・以前とは違いすぎる・・・』「何がどうなっているのか分からない・・・そんな顔ね・・・」「そりゃそうでしょうっ!!俺は確かに元の世界に戻った筈です。因果の鎖から解き放たれた俺は再構築された元の世界へ戻る。そう言ったのは先生でしょ?・・・それが何でまたこの世界のこの日に戻ってきてるんですか?それよりも、先生にも前の世界での記憶があるってどういう事なんですかっ!?」武は声を荒げながら問いただす。「大声出していっぺんに言うんじゃないわよっ!今から順番に説明してあげるから」そう言われた武はハッとなって我に返る・・・「すみません・・・俺も動揺してしまって・・・あまりにも自分の記憶と違いすぎる事が起こってて・・・」「そう思うのも無理は無いわね・・・私自身驚いたんだし・・・」「どういう事ですか?」「順を追って説明してあげるわ・・・」武が頷くと夕呼は順を追って説明し始めた。「まず最初に、何故こうなったのかは解らないわ『ちょっと待って下さいよっ!』いいから黙って聞きなさい!!」「・・・はい・・・」「私の記憶がハッキリしだしたのは2年前・・・明星作戦終了後しばらくしてからよ・・・理由は解らない・・・でも私の中にオルタネイティヴⅣが成功するまでの記憶が現れてきたのよ・・・そして、今後この世界で起こる出来事もね・・・恐らくきっかけは二発のG弾・・・以前、その爆発で発生した高重力潮汐力の複合作用と、反応炉の共鳴で時空間に深く、鋭い歪みが発生しその時ほんの一瞬、比較的分岐が近い世界との道が繋がってしまった・・・って言うのは覚えてるわね?」「・・・はい・・・」「それが原因の一つだと私は考えている・・・今の所それしか原因が考えられないのよ・・・」「じゃあ、今回の俺のループもそれが原因だと言う事ですか?」「そう・・・とも言い切れないかもしれない・・・」「どう言う事ですか?」「言ったでしょ・・・あくまで原因の一つだと考えてるって・・・今の段階じゃ情報が少なすぎるのよ・・・」「では他に原因が有ると・・・?」「・・・それも分からないわ・・・私は今オルタネイティヴⅣ遂行と同時にその原因を調査しているところなのよ・・・以前、アンタに世界は安定を求めている・・・そう言ったのは覚えてる?」「はい、だから失った物を補おうとする力が働くって・・・確か先生はそう言ってました」「実を言うとね・・・この世界のアンタに会うのはこれで二度目なのよ・・・」「えっ?」「少なくとも、今回の世界ではアンタはBETAには殺されていない・・・」「・・・どう言う事ですか・・・?前の世界もその前の世界も俺は既にBETAに殺されてて・・・俺に会いたいって思った純夏が様々な世界から俺を呼び寄せ構築したんじゃ・・・今回は違うんですか・・・?」「やっぱり覚えてないか・・・アンタはね、確かに一度BETAに殺されかけたわ・・・それでも今回は運良く生き残った・・・」「生き残った・・・?BETAに捕まったんじゃないんですか?」「本当に偶然よ・・・この辺一帯がBETAに占領されそうになった時、アンタは鑑と一緒に逃げてたそうよ・・・本当に覚えていない?」「・・・・・・」「恐らく今日になっていきなり前の世界の記憶が流れ込んで来た事で本来の記憶に障害が起こってるようね・・・」そう言われた武は明らかに動揺していた。『どう言う事だ・・・俺は確かにBETAに殺された筈だ・・・純夏と一緒にBETAに捕まって、純夏が連れて行かれそうになった時にあいつを助けようとして・・・そしてBETAに引き裂かれて・・・』その時の光景がフラッシュバックする・・・と同時に今度は違う光景が頭の中に見えてきた・・・それは純夏の手を引きながらBETAの群れから逃げ惑う自分・・・そしていよいよ追い詰められ、襲いかかろうとするBETAに無我夢中で戦いを挑もうとしている自分が居た。「・・・そうだ・・・確かあの時・・・俺は純夏を守ろうとしてBETAに殴りかかって・・・吹っ飛ばされて川に落ちたんだ・・・」「それで?」「その後、気付いたら病院か何かのベッドの上で・・・そこで見覚えのない女の人に変な質問をされたんだ・・・」「そう、それがアタシよ・・・覚えてるじゃない。どんな質問をしたか覚えてる?」「いえ・・・そこまでは・・・」「そりゃそうよねぇ・・・アンタあの直ぐ後に気を失ったんだもの。こっちはアンタに色々聞こうと思って準備までしてたってのに・・・」一瞬、背筋に嫌な汗が流れる・・・武は恐る恐る何をしようとしたのか聞いてみた。「いったい俺に何をしようとしてたんですか?」「聞きたい?」「止めておきます・・・どうせロクでもない事に違いありませんから・・・」ため息交じりに言うと夕呼はニヤニヤと笑みを浮かべた。「だから今回の世界でアンタは死んでないのよ。だから失った物を補おうとする力が働くのはおかしい。」「確かにそうだとすると先生の仮説と矛盾しますよね・・・」「そう・・・それでアンタはどうするの?・・・私としては以前みたいに私の下で働いてくれると助かるんだけど・・・?」「それしか無いと思ってます。と言うより、あまりにも自分の記憶とかけ離れてる事が起こってます。原因を突き止めないと下手に動けませんし、何よりオルタネイティヴⅣを成功させないといけませんから・・・」「ま、アンタが居なくても第四計画は問題なく進むでしょうけどねぇ・・・例の数式も解ってる事だし、それに00ユニットの作業に関しても問題無いし・・・あ、でも調律はやって貰わなきゃいけないわねぇ・・・」彼女の言葉を聞いて武はハッとした。思い出した記憶では自分はBETAに捕まらなかった。あの後、純夏はどうなったか自分には解らない・・・思い出したくもない記憶が鮮明に蘇ってくるのが分かった・・・「・・・やっぱり純夏は奴らに捕まって・・・あんな風にされちまってるんですね・・・俺が不甲斐ないばっかりに・・・」分かっていた事とは言え、武は自分が許せなかった・・・あそこで自分がもう少し頑張っていたら・・・そうすれば純夏は二度とあんな目に遭わなかったかもしれない・・・そう思いながら表情が暗くなる。「白銀・・・気休めかもしれないけど、こればかりはどうしようもないわ・・・鑑の事は気の毒だけど、彼女には一度ああなって貰うしか人類を救う道は無いのよ・・・」「解ってます・・・解ってますけど・・・俺は二度とアイツにあんな目には遭って欲しくなかった・・・それに・・・」「・・・それに・・・?」「いえ・・・何でもありません・・・それよりも純夏に会わせて貰えませんか?」「会ってどうするの?あの子は相変わらずの状態よ・・・社のリーディングやプロジェクションにも大した反応は見せてない・・・それでも会いたいの?」「俺が無事だって事を教える事で何かしらの変化があるかも知れません・・・それに・・・」武は夕呼との会話の中で疑問に思う事が一つあった・・・前の世界での記憶を持ったまま今の世界にいるのは自分と夕呼だけなのだろうか?ひょっとしたら自分たち以外にも居るのでは無いかと・・・もしかしたら純夏も記憶を持っているのでは・・・切っ掛けを与えれば自分の様に何らかの反応が有るのではないか・・・そう思わずにはいられなかった・・・「先生、確認したい事があります」「・・・何かしら?」「前の世界の記憶を持ったまま今の世界に居るのは俺と先生の二人だけなんでしょうか?」「他にも居るわよ」『やはりそうか・・・』武は幸運だと思った・・・しかし、さっきの話を聞く限りでは純夏は記憶を持ってない様子だ。そうすると一体誰が・・・そう思いながら夕呼に問いただす。「後は一体誰が?」「今の段階で解ってるのは社だけね」「霞が?」「ええ、そうよ」霞までもが記憶を持っている。何と言う幸運だ・・・武は素直にそう思わざるを得なかった。「霞に会わせて下さ・・・」そう言いかけた直後であった・・・『防衛基準体勢2発令。全戦闘部隊は完全武装で待機せよ。繰り返す・・・』突然の警報。前の世界、その前の世界でもこんな事は無かった。記憶にない突然の事態。武は顔を青くしながら夕呼に向って叫ぶ。「先生っ!!」「落ち着きなさい・・・今、司令部に確認を取っているわ・・・」『クソッ・・・どうなってんだ・・・こんな事は今までなかった・・・BETAの侵攻なのか・・・何にせよ今の状態じゃ俺は何もできない・・・現状では完全に部外者だ・・・下手に戦術機に乗って戦う事も出来ない・・・今の段階ではXM3も完成していない・・・もし戦術機で戦いに出れたとしても満足に戦えないかもしれない・・・それに使える機体は有るのか?・・・それでもやらないよりはマシだ・・・このままむざむざと死んで堪るかよっ!!』自問自答を繰り返しているうちに夕呼が通信を終えたようだ。「とりあえずはBETAでは無いようね・・・基地のレーダーが重力異常を感知したのよ・・・」「・・・重力異常・・・ですか?」「そう、センサーが異常な数値を示してる・・・近くでG弾が爆発したのならまだしも、こんな数値はありえないわ・・・」「いったい何が起こってるんだ・・・」自分の持っている記憶とあまりにも違いすぎる今回の現象。それが新たなる来訪者の訪れを示す戦鐘になろうとは、この時は誰もまだ知る由もなかった・・・