【第11話 はじめてのおっさん】
<< 柏木晴子 >>
11月11日 朝 新潟県 日本海沿岸部
帝国軍の攻撃で大半が殲滅されたとはいえ、初めて見る実際のBETAのプレッシャーは、私の想像してた以上に大きかった。
──迫りくる死の恐怖。
体がすくむのを実感すると同時に、白銀少佐の怒号が思い出された。
『ビビるな!』
……恐怖で、プレッシャーで、体がすくむだって?そんなもの、私が──私達が何度経験したと思っている!
もちろん、少佐のプレッシャーとBETAのプレッシャーは、質が違う。
完全にBETAへの恐怖が無くなったわけじゃない。
でも、……動く。私は、戦える。
私はこのときやっと、少佐はこういう時の為に厳しくしたのが理解できた。
XM3の慣熟訓練を思い出すと、その内容はやや理不尽とも思える叱責が、多々あった。
──なぜ、そんなことをする必要があるのか。
──今、その指摘が必要なのか。
そう言いたい時もたくさんあったけど、上官の大尉も中尉たちも何も言わないのだ。それを、新任の私が逆らったら、大尉たちの顔をつぶすことになる。そう思って、言いたいことも飲み込んだ。
あまりの悔しさとやるせなさに、訓練中だというのに涙が出た。──それは、他の皆も同じだったけど。
最初の対面から2日後のテストで、胸を揉まれた。強烈な、不思議な印象を残した人だった。
その後、直々に訓練してもらえると聞き、内心、楽しみだった。
そして、それを打ち砕くような訓練内容。その夜は茜と悪口を言い合ったりもした。
今思うと、そんな風に少佐を悪し様に言ったことが馬鹿みたいに思える。
きっと先任達は少佐の意図に気付いてたから、何も言わなかったのだろう。
訓練修了後の少佐の言葉が思い起こされる。
『BETAを俺と思ってトリガーを引け』
──って、ふふ、そんなのできないって。
少佐の『任官式』を思い出し、不思議と、落ち着くのがわかった。
「ほう、これから戦闘だというのに笑えるとは、えらく余裕があるじゃないか、柏木?」
私に笑みを見たのか、伊隅大尉が、通信越しに声をかけてきた。
きっと、初陣となる私たち新任組に、注意を払ってくれていたのだろう。
「いやー、これくらい、白銀少佐の怒鳴りに比べれば、と思いまして」
「ふ、そうだな……おい、貴様等、白銀少佐のありがたいお言葉を覚えているだろう。全員、BETAを少佐と思って、思う存分撃ちまくれよ!」
「了解!」×8
あの日の少佐の言葉を借りて、伊隅大尉が全員に発破をかけた。
私は──どきりとした。一瞬、大尉に私の思考が読み取られたかと思った。
皆は、戦場ゆえに硬い表情だったけど、それでも、笑みを浮かべていた。
きっと、あの『任官式』を思い出したのだろう。
ここで、深呼吸を一つ。
訓練通りに体が動かせそうだ。
少佐がほめてくれた私の、周囲を見る力と状況判断力。
それを駆使して、仲間を支援し、BETAを駆逐する。それが、私のするべきこと。
「さあ、来るぞ。作戦変更はなし。貴様等、ひるむなよ!」
「了解!」×8
…………………………
──よし、いける!
陽動役の速瀬中尉率いるB小隊に近づこうとするBETAに、A、C小隊の仲間が次々と麻酔弾を撃つ。
そのたびに、BETAが崩れ落ちて行くのが目視できた。
今は、戦闘を開始してから30分が経過したところだ。『死の8分』はとうに越えた。
「よし!捕獲はこの辺でいいだろう。A小隊、順番に実弾装備に交換しろ。終わり次第、C小隊と交代だ」
伊隅大尉のその声に、安堵の息をもらす。とりあえず、第一段階はクリアだ。
さて、私も実弾装備に「柏木ぃ!!」──え?
宗像中尉の叫びに、自分が気を抜いていた事に気付いたけど、その時すでに、A小隊の陽動にかからなかったらしい要撃級が3体、私に向かってその凶悪な腕を振り上げていた。
──だめだ、死ぬ……馬鹿だな私は。レーダーをちゃんと見ていれば、すぐ気付いたはずなのに……。
刹那のうちにそう思ったとき、私は、なぜか白銀少佐の顔を思い浮かべていた。
──その直後、3体の要撃級の頭部に血の花が2つずつ咲き、BETA3体は崩れ落ちるように倒れた。
援護?どこから?──これは、36mm弾?
「ぼうっとするな柏木!戦闘中だぞ!」
宗像中尉の叱咤に、ようやく我に返る。
「は、はい!」
そして自分が死ぬところだったことをやっと理解し、冷や汗が滝のように出るのを感じた。
…………………………
その後、全機の実弾装備への交換が終わり、体勢を整えた3小隊の連携によって、残りのBETAを大方殲滅したところで、ようやく伊隅大尉が声をかけてきた。
「“お父さん”が見守っていてくれてよかったな、柏木」
大尉がにやりと笑った。
はっとして、レーダーを縮小マップに切り替えると、私達からかなり離れた所に、味方の識別マークが表示された。──それが誰か確認するまでもない。
──あんな遠くから、正確に……もう!格好つけすぎだっての!
「貴様等、これ以上少佐に情けない所を見せるなよ!」
「了解!」×8
──まいったなー、ちょっと憧れてただけなんだけど……でも、こんなベタな惚れ方、私らしくなくていいかもね。
……今日、この後、無事に帰れたら……
私は、ひとつの決意を心にしまいこみ、残り少なくなった敵に集中する。
…………………………
<< 白銀武 >>
「ヒヤヒヤさせる」
87式支援突撃砲は久しぶりだったが、腕は鈍っていない。
とっさの長距離連続射撃だったが、なんとか6発とも命中したようだ。
全盛期のたまならば、この距離でも一発で仕留めることができただろうが、劣化版である俺は弾数で補う必要があるのだ。
俺がA-01に随伴しなかった理由。
連携訓練不足というのももちろんあるし、A-01だけでどれだけ戦えるかを見たかったのも本当だが、なにより、新任5人のフォローに専念したかったからだ。
みちるには俺がA-01の後をつける事を伝えてあったが、戦闘に集中させるため、他の隊員には秘密にしていた。
初陣というのは、予想もつかないことが起こる。
散々訓練して、新兵の中で最も優秀だと思われてた奴がBETAの前で恐慌に陥ったり、ヘボな成績の奴が、肝が据わって最も戦功を上げることなど、珍しいことではなかった。
“前の”世界では立場上、こういう方法で新人をフォローする機会はなかったが、今回の作戦では余裕がある。
「夕呼は何も言わなかったけど、見透かしてたかもしれないなー」
随伴しない理由を明確にしなかったのに「よくわかんないけど、まかせる」といった夕呼を思い、嘆息する。
彼女の思考の鋭さは尋常じゃない。俺の意図を読んでいて、見逃された可能性は高い。
『大佐は新兵に甘すぎますよ』
そう苦言したのは、“前の”世界の七瀬凛だったか。
今回、柏木一人を救ったが、全体で見れば帝国軍には多くの戦死者が出ている。
俺には人類を救うという意志はあるが、全ての人間を救えると思うほど、大層な人間ではない。
俺は作戦上、必要とあれば部下に“死ね”と命令しなければいけない立場だ。
いざというとき、そう命令する相手だからこそ、俺は恨まれても厳しく鍛えるし、救える時は可能な限り救うのだ。
「──しかし、柏木か。気が緩むのは築地あたりだろうと思ったが、わからんものだな。まあ、今回のは全員いい教訓になったろう」
初陣で気をつけなければならないのは『死の8分』を越えることもそうだが、気の緩みというのもある。
“前の”世界では、XM3によって『死の8分』で死ぬ衛士は圧倒的に少なくなったものの、逆に調子に乗ってやられる奴が増えた。隊長クラスでさえ引き際を見誤ることもあり、指揮官としてはその対応に苦心したものだ。
もちろん、総数としては死者は大幅に減っているので、XM3の優秀性には、誰も疑問をもたなかったのだが。
5日間徹底的に鍛えた様子から、A-01の技量ならこの程度のBETAなら圧倒できると判断していたが、『死の8分』を乗り越えた後を、俺は危惧していた。そして、案の定だ。
「柏木は、周りは良く見えてるが、肝心の自分に注意がおろそかな所があるな。──帰ったら叱ってやるか」
そして、BETAを殲滅し終えたA-01を確認し、みちるに“ある”命令を与えた。
…………………………
<< おっさん >>
みちるが俺の命令を受け、行動開始を確認したところで、さっきの俺の狙撃について思いを馳せる。
今までほとんど実戦で使う事がなかった、遠距離狙撃。
俺の戦闘スタイルは前衛向きだ。狙撃の腕はそこそこあればいいと思い、“前の”世界ではあまり熱心に練習はしなかったが、それでも少しずつ積み重ねていたので、いつしか狙撃手としても結構な腕前になっていた。
ある日、もう一息で壁を超えられそうな事に悩んでいたら、
「たけるさんは、技量は十分なんだけど、もうちょっと集中力を鍛えたらどうかなぁ~」
と、たまから助言を貰った。
俺とて、前線でBETAの海をくぐりきる程度に集中力はあるのだが、狙撃に必要な集中力は若干性質が異なる。
周りの情報を遮断し、一点を見据える集中力。
戦場で、本当に周りの情報を遮断してしまうのは自殺行為なので、これは例えだが、要は感覚を広げる集中力と、一点に収束させる集中力は違うということだ。
前衛や隊長クラスに求められるのは前者が必要だが、たまのようなスナイパーには後者が必要。
では、その力をどう鍛えるべきかを尋ねると、たまにはすでに考えがあったらしく、次のような方法を提案してきた。
『“たまスクリュー”をかけられつつ、万葉集を朗読する』
今思うと、これはアイツの戯れだったのかもしれない。
快楽にさらされながらも文字に集中する。これを成し遂げれば、俺には一流の狙撃手並の集中力が手に入る、というのが、たまの主張だった。
ちなみに万葉集は、たまの蔵書のうち、最も堅苦しいから選んだだけで他意はない。
もちろん、本気でたまに締められるとあっという間に終わって訓練にならないので、やや緩めた状態でやってもらったが、それでもその訓練は、想像を絶するつらさだった。
来る日も来る日もたまは俺の上で回り、俺は万葉集を朗読する。はたから見ればふざけてるとしか思えないだろうが、それでも俺たちは一生懸命だった。
ある日、ようやく最後まで読みきったときは、お互い涙を浮かべて抱き合い、喜びを分かち合ったものだ。
こうして俺は、たまに次ぐ狙撃力と、万葉集をそらんじることができるほどの知識を手に入れたのだが、前衛という立場から今まで使う事があまりなかった。
そして、あれから主観で10年以上経った今日、ようやくそれが役に立つ時が来たのだ。
「──たま、お前との特訓が、柏木を救ったぞ……」
俺は、操縦席に深く身を預け、“前の”世界のたまに向けた言葉が届くように願った。
…………………………
<< 香月夕呼 >>
11月11日 夜 国連軍横浜基地 香月夕呼執務室
ピアティフが白銀から『任務達成。これより帰還する』の短い通信を受けたのは昼前。
夕方、横浜基地に帰還後、事後処理を終えた白銀が入室してきた。
「副司令、報告書をお持ちしました」
「ご苦労さま」
敬礼とともに、報告書を受けとる。
私が何度言っても、正式に報告をする時は敬礼をやめないので、いい加減私もあきらめた。
それ以外での面会などは私の言う通り省略するので、芯から軍人の白銀にとっては、これが妥協点なのだろう。
まったく、女性関係は緩すぎるくせに、こういう所は堅苦しい。
「──へえ、戦死者無しとは、珍しいわね。今までは出撃のたびに誰か死んでたんだけどね」
「副司令の作戦がいつもキツいからでしょう」
「ふん」
他愛もないやり取り。この程度は皮肉にも思わない。
「にしても、戦死者が無いにこしたことはないわ。で、肝心のBETAは──それぞれ、目標数は達してるわね。要塞級はさすがにゼロ、と。──あら、捕獲作業後にずいぶん暴れたのね」
予定に無かった、捕獲後のA-01の行動記録とその戦果を見て、少し驚いた。
「作戦行動中、帝国軍の連中がやけに興味津々で監視していましたからね。伊隅にそうするよう命じました」
軍行動において白銀は無駄なことはしない。ということは……。
「──XM3の値段を吊り上げる布石かしら?」
「ご明察。俺の権限の範疇で動かしました。申請する暇がなかったので、事後承認という形になりましたが」
「いいわよ、任せるって言ったの私なんだから。──よくやったわね」
報告書の戦果が誇張でなければ──白銀がそのような小細工はしないこと位は理解していたが──、帝国軍は、わずか1個中隊がもたらした光景に、さぞ驚いたことだろう。あわてて上層部に連絡しているのが目に浮かぶようだ。
「ありがとうございます。とはいえ、今回俺がやったのは遠くから6発撃って、伊隅に暴れるよう命じただけですがね」
6発、ね。どうせ隊員を助ける為にでも撃ったんだろう。でなければ、6発というのは中途半端に少なすぎる。
また、白銀は謙遜するが、“6発撃って、暴れるよう命じただけ”で済ませられるように、A-01の戦力を上げたのは、白銀の力だ。
けど、口に出して誉めて、謙遜するというような無駄なやりとりは私達の間には起こらない。
この程度は言わなくてもわかる程度には、私とコイツは通じ合っているので、話題を変えることにした。
「そう。ところでアンタ、今晩の予定はあるの?空いてるなら相手しなさいよ」
今夜は約束はしてないが、白銀が臨機応変に適確な対応をしたのが、幾分私を機嫌良くさせたので“そう”いう気分になった。
最後の失禁以来、白銀にはセーブさせ続けている。たまには私を好きにさせてやろう。
「空いてますが、およしになった方が良いかと」
「なぜ?」
「実戦後は、俺は少々、たかぶる性質でして。今日は手加減ができそうにありません」
「そう。ならやめとくわ」
最初からそのつもりだったので、かまわない気分だったのだけれど、安く見られたくはないので今回は引いて置く。
「じゃ、どうすんの?」
「ピアティフ中尉か神宮司軍曹にお願いしますよ。涼宮でもいいんですが、アイツは今日の出撃と事後処理で疲れてるでしょうし」
「あ、そ」
あの2人なら喜んで嬲られるはず。速瀬はまだ慣れてないだからだろう。
社を候補に上げないのは、このケダモノの最後の良心だろうか。
…………………………
<< 涼宮遙 >>
11月11日 夜 国連軍横浜基地 廊下
「あれ?水月?」
「あ!遙……」
今日の出撃の事後処理も終わり、さあ、いざ、というところで水月とばったり。
この廊下の先で心当たりがあるのは、白銀少佐くらいしかない。
さすがに親友。お互い、考えることは同じみたい。
「水月も?」
「うん、えへへ」
水月はちょっと照れたように笑った。
水月も変わったなぁ。水月は私がいい方に変わったというけど、水月だって相当なものだ。
──けど、それとこれとは別。
「ねえ、水月。一昨日は譲ったんだから、今日は譲ってくれるよね?」
「なーに言ってんのよ、遙は今までさんざん相手してもらったんでしょ?私はまだ1回よ?」
「……回数は関係ないじゃない」
そんなこと言い出したら、当分私の番が来なくなる。その理屈はとうてい認められない。
その時、視界に人影が見えたので、あわてて廊下の角に身を隠した。もちろん、水月も引っ張りこむ。
「ちょっと、遙、何──あれ?柏木?」
キョロキョロとあたりを見回しながら、コソコソとこちらへ向かってくる柏木少尉がいた。
そして、死角に身を隠した私たちに気付かず通り過ぎ、白銀少佐の扉の前に立ち──続けた。
時間にしてどれくらいだったろうか。その後、意を決したように、ノック。
中に居た少佐が扉を開き、いくつか言葉を交わした後──2人して中に入っていった。
「あーらま、柏木に先越されちゃったか」
「そうみたいだね」
「ま、戦場でアレやられちゃね。しゃーない、今回は先輩として譲ってあげますか」
柏木少尉が白銀少佐に淡い憧れを抱いていたのには、なんとなく気付いていた。
その相手に、今日のように命を助けられたら、クラっとくるだろう。
「あーあ、残念だなあ。明日は香月副司令あたりが予約してそうだし」
「アンタは、訓練日の休憩時間にさんざん出来るんだからいいじゃない」
「夜と昼じゃだいぶ違うんだけどなあ」
と暢気な会話を続け、それぞれ自室に戻った。
…………………………
<< おっさん >>
11月11日 夜 国連軍横浜基地 おっさんの巣
柏木は感情が読みづらい所があるから、どうやって落とそうと思ってたが……。
助けられたから惚れたわけじゃない、と言ってたから、それなりに好感は持ってたということか。
俺の何が柏木をそうさせたのかよくわからないが、そんなことは些細なことだ。
重要なのは、優先度を高めにしていた柏木──いや、晴子が、タナボタ的に俺の手に落ちたという事実。
「ふっ……これも日頃の行いのたまものだな……」
俺がつい漏らした言葉に反応したのか、
「どーしたの?た、たけるさん」
晴子が後ろから抱き付いてきた。背中に直接当たる2つの感触が心地良い。柔らかい中にある硬いものの感触から、晴子にまだ余韻が残っているのがわかった。
晴子には“こういう”時間の時は名前で呼んでいいと言ったから、自然に名前を呼ぼうとしたのだろうが……失敗してやがる。
おほほ、ほほえましいのう。
「どもるくらいなら言うなよ」
「い、言い慣れてないだけだよ。そのうち、ね」
「そうか。──で、痛みはもうないのか?」
「いやー、体中痛いよ。でも、アソコはあんまり痛くない、かも」
と、晴子は、俺の精液でどろどろになった自分の股間を見て、答えた。
普段強気なタイプはこれまで相手した連中に多かったが、晴子のように飄々としたタイプは初めてだ。
だが、普段とは裏腹に、アッチの反応は可愛いものだった。
この種のギャップは新鮮だったので、我ながら異様に燃えた。それはもう燃えた。さらに、夕呼を失禁させるほど野獣化していたのだ。かなり乱暴に扱ってしまった。
また、目を閉じて懸命に耐える姿が、ことさら俺を燃え上がらせて、その様は、殆どレイプみたいなモノだっただろう。……いや、誰がどう見ても、レイプ以外の何者でもないと判断したはずだ。柏木がもう少し悲鳴を上げていれば、強姦魔一名の出来上がりだ。
──余談だが、本当のレイプは俺の趣味ではないが、擬似レイプはなかなか飽きない、好きなプレイのひとつなんだぜ?
そういえば、初めての相手にこれほど乱暴にしたのは、これが最初かもしれない。
幸い、訓練のせいか柏木はほとんど血もでず、大事な所は、それほど痛くはなかったようだ。
経験上、激しい運動が必要な軍人は、初めてでも痛みが少ない場合がよくあるから、晴子もそうなのだろう。
だが、乱暴にしたとはいえ、希望したのはコイツだ。
俺は今日、たかぶっていて優しくできないから明日にしろ、と言ったのだが、晴子は今日が良いといって聞かなかった。
乱暴にしていいなら相手してやる、と言うと、迷わず乗ってきたので、まあそこまで言うならと、遠慮なくいただいたわけだ。
この態度を見ると、乱暴にした事は、晴子は怒ってはいないようだ。合意の上での事なので、俺に非などないから当然だが。
よって、俺も気にしない。
さて、状況整理に一区切りついたので、とりあえず──
「んじゃ、あらためて、やるか」
「いいけど……次はちょっとだけ、やさしくしてくれるとうれしーなー、なんて……」
「まかせろ」
俺も幾分冷静になった。さっき乱暴にした分、今度は念入りに快楽攻めにしてやろう。──失禁するほどな。フフ……。
そして夜通し、俺の部屋に晴子の嬌声が響いた。