【第2話 おっさんの想い】
<< おっさん >>
10月23日 午前 国連軍横浜基地 廊下
夕呼を失神に追い込んだのは久しぶりだ。
年をとった夕呼も良かったが、若い夕呼は格別だ。
ムキになって挑んでくるもんだから、おっさん、つい全力でやっちまったぜ、ハハハ。
「本気でやってゴメン。次は手加減する」と書いたメモを残したが、夕呼はどう反応するかな?
……しかし、予想はしてたが、やりたい盛りの18才ボディの力はすごい。
かつて“底なし”の異名を取り、滅多に打ち止めになることはなかった俺だが……まるで俺の中で無限に精液が作成されているようだった。
この有り余る精力は、夕呼を相手するだけでは解消しきれないだろう。なんとかしなくては。
手ごろな所では、ピアティフ中尉か、神宮司軍曹か。
そうそう、結局、俺の経歴は、死んだと思われていたところを夕呼に拾われ、BETAの情報をもっていたので存在を秘匿されていたことにした。
ある程度の年齢が経ち、衛士適正が高いことがわかったので、ある衛士を教官として任官。
その後、腹心として極秘任務に従事し、功績を立て少佐となっていた、ということとなった。
我ながら突っ込み所は満載だが、この経歴に登場する教官や仲間の衛士は全員KIA認定されている為、証言を取りようがない。
経歴作り程度に時間をかけてられないし、身分を盾に機密といっておけば大抵はうやむやにできるだろう。
俺に経歴の事で突っ込んでくるのは“あの人”くらいだろうし。
しかし、前回と違い、スタート時点の階級が高いことでやれることは多いはずだ。
まあ、夕呼にも言ったが、根を詰めるのも良くない。ボチボチやらせてもらおう。
さて、まずは純夏と霞に挨拶をしておこうか。
…………………………
10月23日 午前 国連軍横浜基地 脳みそ部屋
「──社霞です」
でた、ウサミミ。
「ああ、白銀武だ。霞――と呼んでいいかな?」
「……はい、かまいません」
さすがに若い。大人になりつつあるが、まだまだ子供だ。しかし改めてみると、やはり超がつく美少女。
――フフ、赤くなった。照れてる。カワイイ。
「霞、リーディングされても俺は一向にかまわんのだが、お前にとっては俺の思考内容は、刺激が強すぎるだろう。なにせ“前の”霞とはかなり色々あったんでな」
教育上の問題もある。お子様に見せるにはちょっとハードすぎる。
「ああ、だからといってリーディングするなとはいわないが、俺が何を思い浮かべても文句は言わんでくれよ?“前の”霞との思い出は、俺の記憶からはとても消せないし、消したくないから」
ウサミミがピクリ。
俺はこの霞が何をコンプレックスとし、何を欲しているのかを知っている。
“前の”霞とは違う存在。だが同じ存在。いとおしく思うのは両方ともだ。
「……はい、わかりました」
「俺でよければ、“前の”霞とも違う、お前だけの思い出、一緒に作ろう。まあ、どうするにせよお前の自由だ」
「……はい」
まだ俺の話を消化しきれてないのだろうが、とりあえず、否定はされていないようだ。
…………………………
<< 神宮司まりも >>
10月23日 午前 国連軍横浜基地 白銀武自室前
私は緊張していた。
親友であり、上司でもある夕呼から連絡があったのだ。
内容はいつものように唐突で、要点だけだった。
「今日凄腕の衛士が着任したから、挨拶してきなさい。以後、彼から指示に従ってちょうだい。――ああ、性的な命令には拒否権があるから」
と、夕呼らしい一言を加えて。
新任の少佐の部屋の扉をノックする。
「どうぞ」
「白銀少佐でいらっしゃいますか。神宮司まりも軍曹であります。第207衛士訓練小隊の教官を務めております」
「本日付けで着任した、白銀武少佐だ。軍曹、よろしく頼む」
「は!よろしくお願いします!」
第一印象は、違和感。夕呼によれば38才の少佐のはず。
それだけ見ればこのご時世、さほど珍しい例でもない。凄腕の衛士と言う割には遅いほうかもしれない。私も20代で中尉にまで成ったのだ。
教官職を選ばず、教導部隊に所属していれば、大尉、うまくすれば少佐にもなっていただろう。
……しかし、彼はどうみても10代後半だ。38才というのは、いつものようにからかわれたようだ。
「ところで、俺の任務内容は聞いてるか?」
「は、訓練兵の教練にご助力いただけると、香月副司令より伺っております」
「それだけか?」
「?……はい。少佐の指示に従うようにと言われておりますが……」
「もう一つは聞いてなかったようだな。――あいかわらず『夕呼先生』は人が悪い」
苦笑を浮かべて白銀少佐は続けた。
新型OSを作るので、第207衛士訓練小隊を、既存OSの操作経験のない衛士のサンプルとすること。
私が訓練兵に指導できるよう、新型OSのテストパイロットを兼ねて、白銀少佐から指導を受けること。
「新OS、ですか……」
上官の説明に怪訝な顔を浮かべてしまった私に対して、少佐は新OSについての説明を加えた。
…………………………
──なるほど、今までにない概念だ。役に立つかどうかわからないが、興味がわくのは確かだ。
なにより、あの夕呼と、彼女が認める衛士である少佐が作るのだ。
少なくとも、つまらないものにはならないだろう。
「了解しました。光栄です、少佐。ところで、一つ伺ってもよろしいでしょうか」
「なんだ?」
「副司令からは、38才と伺ったのですが、失礼ですが、20才を超えてるようには見えませんが」
「ああ、確かに――俺は38才だ」
逆の言葉を聞けると思っていた私は、言葉を無くした。
それを見ておかしかったのか、少佐は噴き出した。
「ははは、まあ、戸籍上は18才だ。だが、副司令のおっしゃった38才というのも間違ってはいない」
「……どういうことでしょう?」
「それは、内緒ということにしておこう。いい男には謎が多いものだよ、軍曹」
と、片目をつむった。随分様になったウインクだ。――なるほど、あの夕呼と波長が会いそうな人だ。
…………………………
<< おっさん >>
10月23日 午後 国連軍横浜基地 グラウンド
「小隊集合!」
まりもにグラウンドまで案内してもらい、訓練兵を集めさせる。
「207小隊集合しましたッ!」
「よし……では、お前たちに紹介しよう。こちらは、本日付けでこの横浜基地に着任なさった、白銀武少佐だ」
「白銀武だ。神宮司軍曹とともに貴様等の訓練指導にあたることになる。よろしく頼む」
「「「「よろしくお願いします!」」」」
「白銀少佐のご担当は戦術機の教導だ。よって、貴様等の指導を行うのは、まだ先の話だ。本来、貴様等のような訓練兵が教導を受けられる方ではないが、今回、あるプロジェクトの一環で、貴様等にその栄誉が与えられた。少佐のご期待に添えるよう、精進しろよ!」
「「「「はい!」」」」
「では、順番に自己紹介をしろ」
「榊千鶴訓練兵であります。207B分隊長を務めております!」
緊張のためかかなり強張っている。
このお堅さと、“あの時”のギャップが一番すごいのが、この委員長だ。
真正のハードMで、ソフトSの俺は合わせるのに苦労したものだ。
最終的には「大丈夫か、コイツ?」というほどのプレイを強要された。
性癖に目覚めてからは、絶えずどこかに縄か鞭、蝋燭による低温やけどの跡をもっていたが、服を着ても見える場所には絶対作らなかったのが、完璧主義(笑)の委員長らしかった。
ここだけの話、“前の”世界での直接死因は、BETAの不意打ちなのは確かだが、その前夜のプレイも一因だろうと確信している。
「御剣冥夜訓練兵であります。分隊副隊長を務めております」
冥夜はさすがに相手の立場に萎縮はしない。堂々たるものだ。
“前の”世界では俺の初めての相手であり、思い入れも深い。あの見事な髪を最初にティッシュ代わりにした時は随分しばかれたものだが、数回も続けると「これが良いのであろう?」自分から拭ってきたのは驚いた記憶がある。
コイツは何より従順だ。嫌がりはするが、俺のリクエストを拒むことはない。皆琉神威の鞘を入れようとした時も、泣きはしたものの、受け入れた。──アレは興奮した。
あまりにその反応が気に入ったので、繰り返すうち鞘の先端が変色してしまったのは、良い思い出だ。
彼女が死んだ後、形見として皆琉神威を貰いうけたが──、あの染みを見るたび、俺は涙をこらえるのに努力が必要になったものだ。
「彩峰慧訓練兵であります」
不思議少女彩峰。
いったん懐いてしまえば超甘々な女。一番性に対して積極的で、ご奉仕が好きなのはいいのだが、独占欲が異常に強く、複数プレイ時には、ベストポジションをなかなか譲らないので困ったものだった。
また、他の女に比べて、かなりキスが好きな奴で、ある時など5時間連続でキスされた。まあ、こっちも嫌いではないのだが、すぐ目がイってしまうので、引き離すのにえらく苦労する。コイツに何リットル唾液を飲まれたのか飲まされたのか、もはや考えるのもバカバカしいくらいだ。
しかしやはり特筆すべきは、このけしからん乳だろう。コイツは自分の武器をよくわかっていて、効果的に使うことを知っていた。
ふと気づけば彩峰の乳を揉んでいた、という事が何度あったことか。当時大尉だった俺は、部下に「た、大尉ぃ……い、今揉んでますぜ」と指摘されて気づくことも珍しくなかった。
まったく、場所くらい選べというのに。馬鹿だがカワイイ奴だった。
「た、珠瀬壬姫訓練兵であります!」
やはり一番ガチガチだ。
そういえば、この頃のたまは霞と同い年くらいにしか見えないな。
コイツの長所はなんといってもあの締め付けだろう。狙撃の腕もそうだが、締めについても極東一なのではないかと個人的に思っている。あの締め付けに比べれば狙撃の腕の凄さなど、微々たる物だ。
また、軽いのでアクロバティックなプレイが楽しめる、貴重な女でもある。入れたまま回転する“たまスクリュー”はコイツしか使い手がいない。アレをやられると、この俺がわずか30秒で達してしまう。
──つまり、コイツが上に乗った場合、俺の勝ちは無くなる。恐るべき女だ。
「最後に、今は入院中ですが、鎧衣美琴訓練兵がおります」
美琴か。あいつはエロに関しては最も特筆すべき女だ。
あいつは最も“チャレンジャー”だった。自分の体にコンプレックスがある反動か、耳に入れたあらゆるプレイを試そうとするのだ。
一度、入るはずがないのに「愛があるから大丈夫」とか言って、俺の手首を入れようとして、入院する羽目になったのも今では懐かしい思い出だ。
しかし病室プレイという珍しいシチュを作るあたり、転んでもただではおきないやつだ。
また、特殊なプレイを周囲に広めるという、パンドラの箱をいくつも開けた女だ。委員長のハードMも、美琴が始めなければ目覚めることは無かったはず。
飲尿プレイなど、誰もそのケがなかったはずなのに「ボクとだけのプレイだね♪」の台詞がまずかった。いや、今となっては良かったのかな?
今では飲ませることに興奮を覚えるたちになってしまったが、やはり一線を越えてしまった感があるのは否めない。
ただし、スカだけは俺の魂にかけて死守したが。
「――以上5名となります」
俺の思い出をさえぎるように、軍曹が締めくくった。
<< 神宮司まりも >>
白銀少佐は訓練兵の自己紹介の間、じっと真剣に、見定めるように、確認するように訓練兵を見つめていた。
さきほどまでは、実験として、どこか軽い気持ちで教練に加わるのではないかと不安もあったが、その心配はないようだ。
私は多くの衛士を見てきたからわかる。──これは、何か、大きなものを背負った目だ。
「先ほど軍曹が言った通り、貴様等はあるプロジェクトの対象として候補に上がっている。本来、貴様等に会うのはまだ先だったが、今日わざわざ顔を見せたのは、貴様等が総戦技評価演習に失格する可能性が高いので、計画に不安を感じたからである」
ざわ……と空気が張り詰める。
この発言には私も驚いた。本人たちの前で、“失格する可能性が高い”とはっきりと明言するとは。
「……少佐、発言よろしいでしょうか」
榊がたまらず、声を上げた。
「よろしい。発言したまえ」
「理由をお伺いしてよろしいでしょうか」
「ふむ、それを答える前に答えてもらおう。前回の演習は半年前だが、要因の分析、問題の把握、対策の検討とその解決は?」
「……いえ、解決に至っておりません」
榊がうつむく。他の連中も悔しげに、またはいたたまれずにうつむく。
何度か検討を試みたのは知っている。が、結局榊と彩峰のいさかいで、うやむやになっていたのも知っている。
「同じ問題を抱えたまま、同じような状況に遭遇した場合、同じ失敗をする可能性が高い。俺がこう考えるのは不自然か?」
「……いえ」
「そういうことだ」
…………………………
気の毒なほど落ちこんだ教え子達を訓練に戻した。
その走り込みを続けるさまを眺めながら、白銀少佐が私に声をかけた。
「軍曹」
「はい」
「命令だ。鎧衣が退院次第、総戦技評価演習を開始する。それまでに奴等を“使い物”になるようにしておけ」
「了解しました!」
私は姿勢を正し、敬礼をした。
そんな私に少佐は苦笑を浮かべて続けた。
「とはいえ、短期間でさっき言った問題が根本解決するとは思えないから、最悪、演習に合格できる程度でいい。戦術機指導がはじまれば、俺がなんとかする」
「戦術機指導までお待ちになるので?」
打つ手があるなら今やってみては?と言外に含ませる。
「まずは軍曹に任せる。軍曹ほどの教官と、あれだけの能力と素質で不合格になるようなら、衛士として使えん。任官させない方がマシだ」
こちらの計画も多少修正の必要が出るが、それは大した問題ではない、と少佐は付け加えた。
<< 白銀武 >>
俺が“前の”世界のように介入すれば、彼女達が合格する可能性は高い。
衛士になったあかつきには、また命がけで、優れた能力を開花させ、BETAと戦うのだろう。
頼もしい仲間となる素質を持った奴等ではあるが、俺はあえてあれ以上の介入は避けた。
不合格となり、衛士になれなかったら――彼女達の意思には反するだろうが、平穏に暮らせるのではないか――その気持ちがあった。
だから、彼女達の意志の強さ、そして、神宮司まりもという優れた指導者に運命をまかせたのだ。
――俺はBETAには負けない。だから、衛士になれなかったら幸せにすごしてほしい。そのための世界は俺が作る。
――それでもなお、衛士になりたいのなら――自分たちで成し遂げてみせろ。