【第22話 おっさんと将軍】
<< 御剣冥夜 >>
12月5日 深夜 神奈川県 塔ヶ島離城
──静かだ……。
モニターに映る、穏やかで美しい雪景色を眺めながら、私は思いにふける。
ここまでの移動中、帝都城を包囲していた歩兵部隊の一部が、斯衛軍部隊に発砲。
それにより、帝都で戦闘が始まってしまったとの連絡があった。
戦闘は激化する一方で、帝都におわす殿下を思うと、身が裂かれそうな気持ちになる。
訓練兵の身故、仕方が無いとはいえ、殿下の元に駆けつけたいという想いは募るばかりだ。
今日の朝方、横浜基地を包囲する帝国軍を確認しに外に出た際、月詠にキツい言葉をかけてしまったが……月詠とて、思いは同じであろう。あの者には悪い事をしてしまった。
その月詠等、第19独立警護小隊が随伴として来る事を聞いたときは、意外だった。
──あの白銀少佐がお認めになるとは。
女性関係にはかなり大らかな白銀少佐も、こと軍関係については厳しい。
指揮系統を乱すような事を認めた事を不審に思ったが、月詠からは、少佐の命令に従うという約束で、許可を得たという。
ただの口約束で、そのような重大な決定をする間柄ではないはずだが……何かあったのであろうか。
いや、それを今考えても仕方のない事だ。
それよりも、最も重大なのは、……我等の事だ。
皆、此度の事件で動揺の色は隠せなかった。
私とて……父君を無残に殺害された榊には申し訳ないが、決起軍の言い分には共感する所があった。
正直、出撃と聞いた時は、まともに動けるのだろうか、という思いがあった。
そして、ブリーフィングの際に発せられた、少佐のお言葉と覚悟……我等全員の動揺などお見通しだ、と言わんばかりのその内容に、恥じ入るばかりだった。
──また、あのような事を“言わせて”しまった……。
我等が精神的に一人前であれば、少佐はあのような──いざとなれば我等をも殺す、という覚悟を決めさせる必要もなかったのだ。
少佐のお言葉がなければ、『戦いの最中に迷い事は禁物』という初歩的な事すら、抜けていたであろう。
無現鬼道流の我が師にも、叩き込まれた事だというのに……。
──ゆえに、私は……此度の任務で、万が一、接敵するような事態になれば……全力をもって“敵”を討つ!
……そうせねば、今度こそ私は、白銀少佐に愛想を尽かされるであろう。
それは、軍人として──ひとりの女として、耐えがたい事だ。
いや、それだけではない。
少佐の仰った通り、仲間が討たれるやもしれぬのだ。
私が討たれた場合、同時に私の──この星、この国の民、そして日本という国を守りたい、という夢も失われる。
そして、少佐が我等の誰かを手にかけた場合……少佐にその罪を背負わせる事になるであろう。
その少佐にとっては、此度の決起軍のやりようなど、到底許せるものではないはずだ。
口を酸っぱくして発せられる言葉……『コスト』。
軍の全ては、BETAを殲滅する為に、最も効率良く消費せねばならない。
それは戦術機しかり、物資食糧、そして人命……。
その主義から真っ向に逆らう決起軍のやりよう。
我等の前では毛ほども表情に出さぬが、腸が煮え繰り返っている事は、想像に難くない。
軍の合理性に理がある事は、私も理解している。
だが、少佐の凄まじいのは、その合理性に反するものであれば、自らの私情すら殺すであろう所だ。
“敵”の心情まで慮り、揺れ動く私の弱さとは、大分違う……。
私は、そこまで完全に情を切り捨てる事はできぬ。
これまでのBETAとの戦いで、日本という国がなぜまとまり続けられたか。
それは、国民の心のよりどころとして、将軍殿下が在り続けたからだ。
決起軍にしても、その思いが強いゆえに、此度の暴挙に出たのだ。
だが、作戦上、少佐の仰る事が正しいのは自明の理。
これも少佐のお言葉だが、感傷や同情は、帰還後にすればよいのだ。
それを覚悟した私は、ブリーフィング後の短い時間だったが、全員の説得に努めた。
結果、なんとか全員、覚悟を決めねば全てを失う、という事はわかってくれたようだ。
特に、彩峰が少佐の本心を知っており、私と気持ちを同じくしていた事は、救われた。
ブリーフィング前に事情を聞いて驚いたが、彩峰とて、自らの知己が榊の父親を殺害したことで、相当気を揉んでいたというのに……。
“敵”への覚悟は決まったが、やはり、忘れる事のできないのは、殿下のこと。
帝都で心を痛めておられるであろう、殿下の心情を考えることは、今はお許しいただこう。
──せめて、心は共にありたいのだ。
…………………………
<< おっさん >>
12月6日 未明 神奈川県 塔ヶ島離城
万が一、将軍がここに来た場合を考えて、脱出口くらいは確認しておこうと思ったのが先ほどの事で、不知火を降りた直後、後悔した。
──こんなに広いんじゃ、時間がかかりすぎるな……。
俺も眠気で、少し頭が鈍っていたらしい。
結局、不知火を降りる時の言い訳──眠気覚ましに外に出る、という言葉を、真実にすることになった。
さて、そろそろ戻るか、と思ったとき、背後で、枯れ枝を踏み折った音が聞こえ、俺の警戒心を呼び覚ました。
思考が覚醒する。
どうやら、眠気覚ましには、冷気よりもこちらが効いたようだ。
そこまで考えた時、俺はすでに物陰に身を寄せ、銃をいつでも撃てるようにしていた。
通信で連絡を入れておこう。……今、哨戒中なのは冥夜だ。
「00より02──」
…………………………
遠隔制御で、不知火の暗視モニターにリンクすると……こちらには気付いていない様子で、2名が移動中。
武装は無いように見える。
油断は禁物だが、民間人の可能性が高い。
──これは、『当たり』かな?しかし、片方が護衛なら武装しているはずだが……。
まあ、確かめてみればすむ。
「止まれ。両手を頭の後ろにつけて、ゆっくりとこちらを向け」
「なッ!──銃を向けるとは何事です!」
「ここは民間人立ち入り禁止区域だ。姓名と住所を言いたまえ」
「ひかえなさい無礼者!」
この物言い、おそらく将軍の側近。武装をしてないのは、侍従だからか。
となると後ろの女性はもちろん……。
「ここは今、わが軍の哨戒区域である。何人であれ、身元確認が出来なければ銃を下げることはできない。繰り返すが、姓名と住所を言いたまえ」
「おまえは帝国軍ではないのですね?答えなさい!」
気の強い人だね、まったく。
まあ、俺の方も、察しがついていながら言ってるんだから意地が悪いといえばそうなんだが。
部下たちには、今回の本当の目的は伏せているのだから、殿下だと気付いている事はまだ言えない。
だから、さっさと名乗って欲しいんだが……。
侍従の問いには答えず、冥夜とたまに通信を入れる。
「00より各機──不法帰還者と思わしき2名を確保」
「02了解……05狙撃態勢を維持」
「05了解」
「CPはどうした?」
「戦況に変化があったらしく、CPは現在、対応を最優先処理中です」
──帝都にまた動きがあったのか?……とすれば、“この”事関連以外にはないだろう。
「答えなさいと言っているでしょう!」
──ちっ。うるさいおばさん──いや、顔立ちは結構……もう10年若ければ、口説いてやってもいい。
誰もが忘れてるようだが、俺の精神年齢は38才。
ここの所若い女しか相手してはいないが、“前の”世界ではそれはもう、色々な女の相手をしたものだ。
何せ、俺は軍の方針もあったため、『英雄』扱いだったから、男不足な状態では、「恋人とまではいかなくても、せめて一晩」というお願いは数え切れなかった。
特に、俺のようなナイスミドルな男は皆無に近く、衛士のほとんどが10代前半から半ばなのに、やや年配の女性からのお願いが多く、中には、“この”世界での食堂のおばちゃんよりも年かさの人もいた。
また、口コミが口コミを読んで、「俺に抱かれると戦死しづらい」という噂まで流れて、スケジュール係のみちるがパニックになった事すらあった。
実際、いつの間にかみちるが、俺に抱かれた女の戦死率の統計を取った所……なんと通常の戦死率の3割以下だった。
これが知れると、本当に体が持たなくなるだろうという事で、機密扱いになったが、XM3よりも効果的なあの結果は、俺も驚いた。
──食堂のおばちゃんも、もうちょっと痩せて女ッ気でも出してくれればなぁ。
“お願い”は数多くても、俺だって勃つ相手とそうでない相手がある。
妙齢でもダメな時はダメだし、勃つ時は50代でも勃つ。
そしてその俺の判断基準からすると、この人は……「アリ」だ。
だが、こちらから言い寄るほどではない。
向こうから、どうしてもとお願いしてくれば、抱いてやらなくも無い、という所だが……まあ、あり得ないな。
──おっと、話を続けるのを忘れていた。
「答える必要は無い。さっさとこちらの言う通りにしたまえ」
「くっ……おのれ、無礼者!」
「──おやめなさい」
どちらも引かない様子に耐えかねたのか、もう片方の人物から、記憶よりも若い声で、制止の言葉がかかった。
進み出たのは……もちろん、日本国将軍、──煌武院悠陽。
──来たキタきた北きーたーーーーーーーーーーー!
侍従と話している時から、鼓動が高鳴っていたのだが……本人を見て、俺の中で歓喜が爆発した。
A-01の方に出るだろうと思っていたが、こっちに“来てくれる”とは、俺には本当に神の加護でもあるのではないだろうか。
……いや、やはり俺こそが神に違いない。
正直、“この”世界ではどうやって悠陽に会おうか、考え付かなかったのだ。
だから、本当は確率の高そうなA-01側に、行きたくて行きたくて仕方がなかったのだが……軍人としての方針を守って良かった。
「黒い強化装備は国連軍衛士の証……」
「殿下!このような無礼者に!」
悠陽の顔を視認できたので、銃は下げる。
「小官は職務に従ったまで。はじめから将軍殿下であると仰られていれば、それなりの対応をさせていただきました。名乗りもせずただ銃を下ろせ、と言われて下ろすようでは、軍人ではありません」
本当は舐められるのが嫌、というのもあったのだが、それを言うと怒り狂うだろうから、相手の失点を突く。
──まあ悠陽になら舐められても――上手だったなぁ、“前の”の悠陽は。
悠陽の、誰よりも丁寧な口使いを思い出し、股間に熱が集まるのを感じた。
悠陽と関係を持ったのは、残念ながら冥夜の死後だったので、双子プレイは叶わなかった。
もちろん、真那と同じく、冥夜の形見の皆琉神威の鞘を押し込んでやったが、喜びの反応は真那以上だった。
あれもきっと、冥夜の良い供養になったはずだ。
従順性は冥夜と同レベルの悠陽だが、幾分、積極性が強かった。
当然、色々な事をさせたが、あの光景を斯衛が見たら、憤死する者が続出するだろう。
実際、護衛の月詠真耶(紛らわしいが、真那の従姉妹の方だ)が一度、悠陽の悲鳴──ではなくて嬌声なのだが、それが気になって、俺と悠陽の行為を見てしまった事があり、真っ最中だと言うのに、般若の面相をした月詠真耶に、「きさまぁ!殿下のお口を便所代わりにするなど!」と、言って斬りかかられたことが合った。
なんとか取り押さえたが、怒りで人が殺せるのかと思うくらい怒っていたので、仕方なく悠陽の協力を得て、『強引に口説く』しかなかった。
その結果、真耶も俺たちの愛をわかってくれて、以降は俺に従順になり、同じように使わせてもらう事になったのは、別の話だ。
――おっと、また思考が暴走してしまった。俺の悪い癖だ。
<< 白銀武 >>
「その者の申す通りです。先に身分を明かさねば、斯衛とて銃を下げまい。そなたの落ち度である」
「う……殿下が、そう仰るのであれば……」
さすがに悠陽は筋がわかっている。──いや、俺だって本当に、名乗ってくれれば銃を下ろしたんだぜ?
侍従が下がると同時に、たまから注意の喚起があり、これまで気配を殺していた人影から言葉が発せられた。
「少佐!気をつけてください!」「やあ、白銀武」
「おや、鎧衣課長、いらっしゃったので」
「気付いていたくせによく言う。侍従長をいじめるのはそれくらいにして、話を進めないかね──ああ、その前に、これを何とかしてもらえると有り難いのだが」
「結構似合ってますけどね、そのレーザーポイント──00より05……照準を外せ。一応、味方だ」
「……05了解」
鎧衣課長の額から、たまが合わせていたレーザーポイントが消える。
「はっはっはっ……36mmチェーンガンで照準されると、さすがに生きた心地がしないねぇ……」
「課長にとっては、慣れたものでしょう?俺の知る限り3度目ですよ」
「そのうち2度は君だね。さすがに36mmは、このコートでも防げないからねぇ」
「鎧衣……この者、そなたの知り合いですか?」
「はい、白銀と申しまして……無礼な変わり者ですが、平にご容赦を」
「ご挨拶が遅れました。国連軍横浜基地所属、白銀武少佐であります」
「煌武院悠陽です。白銀、よしなに……それより鎧衣」
「そうでした……白銀武、HQはどこかね?」
「小田原西インター跡です。……ああ、CPは旧関所跡ですので、横浜基地へは小官の不知火にご同乗ください」
「なるほど、そういう手はずか。──畏れながら殿下、どうかこの者とご一緒ください。多少窮屈ではございましょうが、緊急事態ゆえ、ご容赦の程を……」
「わかりました……白銀、面倒をかけます」
「──鎧衣課長!何をお考えです!?」
ここで黙っていた侍従長が声を荒げたが、鎧衣課長から、この状況下では戦術機のコクピットが最も安全だと言う事を説明され、渋々引き下がった。
「では殿下、よろしいですか?」
「はい、そなたに任せます」
「侍従長、あなたは指揮戦闘車に」
「わかりました。白銀とやら……殿下をしっかりとお守りするのですよ?」
「全力を尽くします」
鎧衣課長は、ひと仕事残っているといって、行動は共にしないようだ。
悠陽は、そんな鎧衣課長の身を案じ、課長は、臣下同士が殺しあっている事に心を痛めている様子の悠陽を、励ます。
「私は直ちに帝都に舞い戻り、微力ながら事態の収拾に努めます」
「頼みましたよ」
「では──「少佐」──失礼、通信が入りました。──どうした?」
会話が落ち着いた所で、行動を促そうと思ったが、CPを兼ねていたまりもから秘匿通信が入った。
まりもから伝えられたのは、城内省が将軍殿下の帝都脱出を決定し、殿下はすでに脱出したとのこと。
目的地は関東圏の鎮守府、および城郭。攪乱のため、囮も同時に脱出したらしい。
そしてその情報が何者かにリークされ、クーデター側は各地の城へ部隊を移動させつつあり、その結果、帝都の戦闘はほぼ終息。
現在は、帝国軍、斯衛軍、国連軍が移動中の敵を追撃中だそうだ。
「──なるほど。わかった。各機に連絡し、全機準戦闘態勢に移行させて待機させろ」
「了解」
一息、嘆息して、鎧衣課長に向き、少し殺気を込めて、軽く睨む。
「殿下の脱出が敵にリークされたようですが……もしかして、あなたの仕業ですか?」
この人が関わっておきながら、脱出と同時に敵に情報が渡るなど、いくらなんでも杜撰すぎる。
「そうだ。決起部隊が帝都城で戦闘を始めなければ完璧だったんだがね」
「へぇ……」
疑惑が確信に変わり、苛立ちが増す。
──目的はわかるが……やってくれる……!
「よいのです白銀……私が命じました」
「……理由を聞いても?」
「殿下は、帝都の民をこれ以上戦火に晒さぬ為に、自ら囮役を買って出られたのだ」
まあ、そんなこったろうと思ったが……せめて、リークのタイミングをもう少し後にしてくれれば、基地到達も容易だったんだが。
距離的に見て、決起軍に補足される可能性はかなり高くなってしまった。
……まあ、動いてしまった事態を嘆いても仕方がない。
「ならば、今は一秒も惜しい。ただちにご搭乗ください。強化装備をお持ちしましたので、先に不知火のコクピットでお着替えください」
「わかりました」
悠陽の着替えを待つ間、鎧衣課長と会話を続ける。
「準備がいいな」
「どうも。リークについても、もう少し早く言って下されば、少しは手を打てたのですがね」
「すまないな。こちらとしても、もう少し後にするつもりだったのだが……」
帝都の戦闘激化のきっかけを作った、歩兵部隊。
日本でどうしても内戦を起こしたい連中の意を汲む者が、そこに紛れていたらしい。
「あちらさんも、なかなか芸が細かいですね。まだ何手か打ってくるでしょうが……」
「そのために私は行くのだ」
──なるほど、ね。
その後、悠陽が着替え終わり、不知火のコクピットから降りてきた。
「白銀、待たせました」
「それでは殿下……」
「どうかご無事で」
「そなたたちも気をつけて……」
殿下へ一時の別れを告げる課長と侍従長。
悠陽の臣下想いな所を久々に見て、心が暖かくなったが、頭は冷え切っていた。
まずは状況確認と……脱出ルートの選定だ。直接横浜基地へ向かうルートは抑えられているだろう。
「では殿下。参りましょう──00からCP……最優先処理だ」
まりもへ秘匿回線を入れ、俺は悠陽とともに、不知火のコクピットへと向かった。
…………………………
<< 煌武院悠陽 >>
「厳しい状況ですね……私が不甲斐ないばかりに」
白銀の厚意で、ヘッドセットを通した映像と音声による情報を得て、ため息がでた。
私を抱えるように着座した白銀は、次々と、きびきびと僚機に指示を出している。
我等が置かれた状況は、芳しくない。
決起軍は既に帝国厚木基地を落としたらしく、明神ヶ岳山中では、帝国軍と交戦中であり、決起軍主力は東名高速自動車跡と、小田原厚木道路跡の2手から進撃中。
そのため、我等は横浜基地へ直接向かう事は叶わず、熱海新道跡より伊豆スカイライン跡に入り、南下せざるを得なくなった。
白浜海岸で横須賀基地所属の艦隊と合流し、海路にて横浜基地へ帰還というその脱出経路は、現状では最良のものであろう。
「──作戦は以上だ。臨時政府が国連軍受け入れに際し提示した絶対条件は、殿下の安全な保護。つまり、本作戦の最優先目標は、煌武院殿下を無事に横浜基地へお連れする事。よって、00の安全を最優先とする。なお、支援車輌部隊は攪乱任務のため、熱海峠から135号線に向かう」
私の身を最優先……当然の事ではあるが、そのために、幾多の兵が命を落とすことを考えると、気が重い。
鎧衣には、私が囮役になるよう、はからわせたものの……この状況を見ると、それが正しかったのかどうか、疑わしくなる。
たしかに帝都の騒乱は落ち着いたが、それ以外の場所では、戦闘は激化してしまっている。
私が帝都を抜けたことで、決起軍に、それまで以上の必死さを煽ってしまったようだ。
あのとき、情報のリークを知った白銀は、怒りをあらわにしていたが……これを予測しての事か。
おそらく鎧衣もこの事が分かっていたから、渋っていたのであろう。
──私は帝都の民を想い、囮となったが……結果、より多くの悲劇を生んでしまったのやもしれぬ。
「──各自の奮闘に期待する。以上!」
通信が終わったのを見計らい、白銀に声をかける。
「本当に……面倒をかけます……」
私の選択が、この状況を困難にしてしまった事も含めて、謝罪した。
「横浜基地へは、無事にお連れします。少々揺れますが、豪華客船に乗ったつもりでいてください」
そう言って、白銀は幾分明るい声で、伊達男のように片目を瞑った。
部下に対する時とは随分違うその様子に、私は少し心がほぐれた気がした。
同時に、外見は私とさほど変わらぬ年に見える白銀に、どことなく、記憶には殆どないはずの、父親のようなものを感じた。
「──207戦術機甲小隊……全機発進!」