【第24話 おっさんの戦い】
<< 沙霧尚哉 >>
12月6日 明け方 神奈川県 伊豆スカイライン跡 沢口付近
輸送機からの降下中、同志達が、殿下を保護したと思わしき部隊を包囲する様を見ながら、私は彼らに対し、警告の通信を入れた。
「国連軍指揮官に告ぐ。私は、本土防衛軍、帝国守備第1戦術機甲連隊所属の、沙霧尚哉である。直ちに戦闘行動を中止──なにぃ!」
包囲が完成したと思いきや……彼らはそのまま進行方向へ急行し……強引に、包囲を“食い破った”。
なんだ、こいつらは……我々は包囲したはずだ。
……いや、違う。包囲する前に、降下直前の油断を突かれ、各個撃破されてしまったのだ。
箱根手前で国連軍の精鋭により、追撃が絶望的に思えたとき、私は天啓ともいうべき閃き──陥落させた厚木基地からの、輸送機を用いた空挺作戦を思いついた。
だが、それを思いついたことで、慢心してしまったようだ。
馬鹿正直に円形に囲む必要はなかった。
敵の進行方向は明白なのだ。追い越して、そこに陣を構えて足止めをすれば、後続の部隊と挟撃できたというのに……。
自らの失策を悔やむが、時すでに遅し。
先行と足止めの2部隊に分かれた敵を追うためには、こちらも2手に分けるしかない。
しかも、先行部隊に対しては、下策なれど、戦力を逐次投入するしかないのだ。
一旦陣形を組み直したい所だが、その隙に距離をとられ、もはや追いつく術を失った我々にとっては、“詰み”になるだろう。
「隊を2手に分ける。A、B中隊と私は、先頭の不知火を止める。他は米軍機を片付けろ!」
同志に指示を出し、自らは先行部隊へと向けて、乗機を最大戦闘速度まで上げる。
……結局、一手で覆したはずの状況が、ただの一手で、再び追い詰められてしまった。
それに、あの先頭の不知火。
その僚機の支援も見事な手際だが、すり抜けざまの一瞬で、同志2機のエレメントを撃墜──。
「……なんという手練」
同志が落とされたというのに、私は思わず賞賛の声を上げていた。
決起軍の面々は、いずれも劣らぬ精鋭。
それを、こうもあっさりと……。
最も警戒すべきは、最新鋭機のラプターを含む米軍部隊だと思っていたが、先頭を駆けるあの不知火こそ、最も注意すべき敵だ。
そして、左翼の吹雪の小隊……まるで……そう、スズメバチが獲物に群がるような攻めは、箱根で凄まじい程の強さを見せつけた不知火の中隊と、明らかに同系統だ。
訓練機の吹雪──おそらく、搭乗者は訓練兵だというのに──次々と同志が屠られていく。
私の脳裏に、ひとつの情報が浮かんだ。
先日の新潟BETA上陸に際し、既存概念を覆す機動を取る中隊がいた、という噂は、耳に挟んでいた。
情報によれば、その部隊は横浜基地の部隊ということも。
箱根の不知火中隊がそうだと思っていたが……こちらにもいたようだ。
──私もいよいよ、覚悟を決めねばならんか。……よろしい、本懐である。
ここが、決起成否の分水嶺と腹をすえ、私はこれからの戦いに、心を切り替える──。
<< 月詠真那 >>
空挺降下を悟った時、私は完全にしてやられた、と思った。
戦術機の空挺……ましてや危険空域での航空機使用などあり得ないという、硬直化した思考の隙をつかれたのだ。
しかし、それを逆手にとる白銀少佐の迅速な判断で、我々は、逆に敵の意表をつけたようだ。
少佐の意図通り、敵の包囲はいびつな状態となり、後方の大部分は米軍に足止めをされている。
こちらの先頭を取ろうと、順次足止めにかかってくる決起軍を各個撃破しながら、私は白銀少佐に対する感嘆の思いを抑えられなかった。
かねてより、動じぬ男であると思っていたが、あの様な突然の事態に、ああも冷静に対処されては、格の違いを見せ付けられたようだった。
その判断力もさることながら……。
──なるほど、一流の衛士だ。それも、かなりのもの。
白銀少佐の不知火が描く、一分の無駄もない軌道と、的確な攻撃。
右翼の戦闘に専念すべきなのはわかっているが、演武のようなその機動に、つい魅せられそうになる。
──あの若さで少佐なのは、“魔女”の贔屓だけではない、か。
それに、さきほどからの訓練部隊の動き……噂の新OSの力もあるだろうが、なんとも見事な連携。
戦術的に有利な状況とはいえ、決起軍を圧倒している。
確かに、冥夜様をはじめ、他の面々も能力的に優れていることは把握していたが、初の実戦でこれほど戦えるとは。
──我々も、負けてはおれぬ。
「貴様等、我々も良いところを見せねば、わざわざ随伴した甲斐がないぞ!各自、奮闘せよ!」
「了解!」×3
<< 御剣冥夜 >>
──珠瀬の切れが良い。
207小隊を少佐より任された榊が取った戦法は、珠瀬を中心に据えたもの。
前衛たる私と彩峰が、陽動ないし接近戦を挑み、敵の行動の隙を作り、そこを珠瀬が射撃で落とす。
榊と鎧衣は、その支援に徹しているが、全員に共通するのは“動く”こと。
少佐からは『このOSは動いてナンボ』というお言葉を良く聞かされる。
確かに、XM3の真価は、その機動性にある。
今回とった戦法も、その機動性を生かした、訓練で行なっている連携パターンのひとつで、演習で白銀少佐と神宮司教官のエレメントを最も苦しめた戦法であった。
榊の選択も、この事に由縁しているであろう。
珠瀬は、高速機動を取りながらの精密射撃、という、最も負担が高い作業をこなさなければならぬが、ここ最近の珠瀬の射撃技術は神がかっている。
全員、その事に対して疑いはなかった。
こと射撃技術に関しては、珠瀬は白銀少佐をも凌駕する。
そんな珠瀬であるが、この技術は少佐に無理やり仕込まれたようなものだ。
「貴様ならやれるはずだ!やれ!」と、脅しつけられながらも、珠瀬は少佐の期待通り、習得してしまったのだ。
だが、本土防衛軍は精鋭。
いささか不安もあったのだが……それはすぐに払われた。
「少佐と教官に比べれば、止まって見えるね!」
「鎧衣、油断は禁物よ!」
内心では私も鎧衣に同意だったが、榊の申した通り、慢心は禁物。
演習では、白銀少佐の擬態で、よく油断“させられて”、痛い目を見る事が多々あったのだ。
慢心が最も怖い敵だという事は、我等の心胆に染みている。
しかし、このXM3の力と、さんざん少佐に鍛え上げられた我等の技量は、正規軍を圧倒できるほどになっていたようだ。
演習ではいつも凹まされていたので実感はなかったのだが、こうも拍子抜けだと、心が浮かれて沸き立ちそうになる。
そんな、自らを戒める意図も含め、全員に向けて言葉を発した。
「相手は正規軍だ。追い込まれればどう出るかわからぬぞ。榊、次の手が接近中だ。作戦は継続でよいのか?」
「ええ、そうね。珠瀬、まだいける?」
「はい!次、右の機体から仕留めます!援護お願いします!」
「鎧衣、サポートお願い!彩峰と御剣は──わかってるわね?」
「「「了解!」」」
<< 煌武院悠陽 >>
白銀とその僚機たる06の連携は、見事の一言に尽きる。
囮と攻撃役を絶えず入れ替えながら、次々に襲ってくる決起軍を蹴散らすかのごとく、あっさりと撃墜する。
包囲を破ってから、戦いながらの進行だというのに、その速度自体は殆ど落ちていなかったが、さすがに一直線で進行するわけにもいかぬゆえ、徐々に追いつかれ始めていた。
そして、決起軍の首謀者たる沙霧が、白銀へと問いかけてきた。
「先頭の不知火の衛士に問う!その戦い方、貴様も日本人だろう。その卓越した能力をもつ貴様が、なぜ米国の手先となり、この帝国を腐らせる逆賊共に与するのだ!」
「……」
「貴様も他者に隷属する事を良しとする日和見主義者か!?」
「……」
「どうした、答えろ!答えて見せろォォッ!」
「……」
「……日本は全人類への奉仕という大義に(プチッ)」
白銀は、沙霧の問いかけに一切返答をせず、オープンチャンネルを切った。
「00より各機、オープンチャンネルを切れ。我々の意思を乱そうとする敵の策略だ。以後、専用チャンネルで通信しろ」
「り、了解」×10
「し、白銀……良いのですか?」
戦闘のさなかだというのに、あまりに平然と、沙霧の言葉を遮断した白銀に、問うてしまった。
「今は殺し合いの真っ最中です。敵のたわごとに耳を傾ける余力はありません」
と言いつつも、白銀はとても余力がありそうに、淀みのない操縦で決起軍の機体に銃弾を浴びせていた。
──いや、違う。部下が惑わないように、ですね……。
白銀の言動はいちいち私を驚かせるが、その内容は、全て理があるものだ。
何者にも惑わされない意志。それが、この白銀の強さのひとつ……。
しかし、討たれる決起軍を見るたび、私の心は落ち込んで行く。
──本来ならば、人類の仇敵、BETAに向けるべき力が、このような形で……。
そのやり場のない思いは、白銀が発した言葉で中断させられた。
「殿下、沙霧が追いついて来たようです。流石に早い……ん?――そんなに話がしたいか」
そう言って、切っていたオープンチャンネルを開いた。
白銀の言葉から、沙霧が通信要求信号を送っていた事が窺えた。
「オープンチャンネルを切るとは、見事なほど徹底しているな。貴官の名は、教えては貰えんのか?」
「国連軍横浜基地所属、白銀武少佐だ。戦場で無駄話とは余裕だな、沙霧大尉」
「我々の大義を無駄話と……いや、語るまい。貴官とは相容れぬということがわかった」
「それでいい。ごたくは生き残ったら好きに述べるがいい」
「ああ、そうさせてもらう――いざ、参る!」
沙霧の咆哮と同時に、両者の機体が目まぐるしく入れ替わる。
白銀と沙霧の不知火が交差──沙霧の繰り出す長刀と白銀の放つ銃弾が、互いの機体を掠りそうになる。
沙霧が使うは長刀のみ。
白銀は突撃砲と長刀を、巧みに使い分けながら、幾たびか交差が繰り返された。
「00より06。次の交差タイミングで支援射撃だ」
「了解」
沙霧との一騎打ちかと思いきや、僚機に援護射撃の指示を出す白銀。
一瞬呆けてしまったが、それが私の感傷にすぎない事をさとり、恥じる。
これまでの言動から、白銀が“実”を何より優先する事はわかっていた。
そのような感傷に捉われるはずもないのだ。
「少佐!邪魔が入りました!」
「チッ──こちらの性格はお見通しか。06、そいつは任せる!」
「了解……すみません!」
されど、沙霧も支援機に06への妨害を命じていたようだ。
してやったりという声で通信が入る。
「せっかくの晴れ舞台だ。無粋は困るな、白銀少佐!」
「やってくれるな、沙霧。だが、まさか卑怯とはいうまいね?」
「それこそまさかだ。貴官の方針は理解した。貴官は全く正しい。……だが、正しいゆえに、私とは相容れぬのだ!」
「そういうことだ」
高速機動で、めまぐるしく銃撃と剣戟を繰り広げ、戦闘をしながらも、会話を続けるふたりの衛士。
──どちらも、見事な武人よ……ああ、この者たちが協力しあえれば、どれほどBETAを殲滅することができたであろうか……どれほど、他の兵に対しての範となったであろうか……。
もはや叶わぬ光景を夢想し、私は悔恨で涙が出そうになった。
──私が、不甲斐無いばかりに……。
悲しみにくれそうになったとき、白銀が頭上から言葉をかけてきた。
「殿下、この事態は貴方のせいじゃない。人は何事も、自分のできる範囲でしか、できないものです」
「し、白銀……」
簡潔な言葉であったが……私は救われた思いがした。
「この動きじゃ足りない――悠陽、ハーネスを外して俺に正面からしがみつけ……早く!」
「は、はい」
表情の変わった白銀にせかされて、慌てて言う通りにした。
白銀の物言いは、無礼とするべきところだったが……そうする気持ちは湧かなかった。
悠陽、と最後に名前で呼ばれたのは、今は亡き祖父以来だろうか。
「眼をつぶって俺に強くしがみつけ、いや、もっと――そうだ」
……私は、不思議と素直に従っていた。
「心配するな、お前を無事基地まで届けるのが俺の仕事だ。30秒ほど我慢していろ」
──お前。お前。お前……
その言葉を反芻し、えもしれぬ恍惚感に浸りそうになる。
「……いくぞ」
私が呆けそうになり、白銀が静かに声を発するやいなや、これまでにないGが、様々な方向から私の体を襲った。
…………………………
そして、白銀の申した30秒より、だいぶ短かったように思えたが、
「もういいですよ、殿下」
という白銀の優しげな声で目を開くと──沙霧の不知火が崩れ落ちる所だった。
<< 月詠真那 >>
──なんだ、今の機動は……!
背筋が凍りつく……。
新型OSの力もあるだろうが、それまでの動きも凄まじいものだった。
一切の無駄を省き、効率的に敵を屠る機動。
我ら斯衛の流儀に近いその動作は、美しいとすら思えた。
だが、それは理解の範疇でもあった。それが……
──なぜ、ただの不知火であのような機動ができる。
それまでの無駄のない動きに比べ、今の機動は……無駄だらけに見える。
だが、一見無駄に見えるその動きは、全て陽動に繋がっている。
飛び上がったかと思えば逆方向に噴射し、強引に着地、……したかと思ううちに水平噴射。
直線的軌道をとったと思えば次は曲線。
まさに、変幻自在と表現すべきその軌道は、私の常識を覆すに十分すぎた。
精強で名高い沙霧大尉が、いいように翻弄され──ごくあっさりと、沙霧大尉の機体を──コクピット部から機関部にかけて、白銀少佐の刃が切り裂いた。
……今ならばわかる。これがあの男の本領だ。あの動きは……207小隊の動きと同系統だ。
──逆だ。白銀少佐が、“オリジナル”ということだろう。
それまでの動きは推進剤や、各関節部品の損耗を極限まで節約したものだ。
それは、私にとって理想の機動に思えたというのに。
──あれで、手加減していたというのか……
衛士として遥か高みにいるということを、私は理解し、そして、このとき私は…………尊敬してしまった。
「見事だ、白銀少佐。……悔いはない。……この国の…………いや、世界の未来を頼む」
まだ息があったらしき沙霧大尉から、通信があった。
沙霧大尉も、今の攻防で何かしら感じたのだろう。
その声は、悟りきったような、穏やかな声。
「……ああ。お前のやったことは俺の主義に真っ向から反するが……少なくとも、無駄にはしない。安心して冥府へ逝け」
白銀少佐の台詞は内容は乱暴だったが……沙霧大尉に合わせるかのような、優しい声だった。
「……感謝する」
簡潔な、沙霧大尉の謝意。
そして、機関部が限界に達し……沙霧大尉の体は、その乗機とともに、爆発に飲み込まれた。
──沙霧大尉……貴官等の所行が、人々の心に潔癖や徳義を目覚めさせただろう。……この国は、きっと、救われる。
…………………………
<< 神宮司まりも >>
沙霧大尉が討たれた事で、決起軍は降伏。
その扱いは、後続で追いついた帝国軍の支援部隊に任せる事となった。
どうやら沙霧大尉は、自分に何かあった場合に備え、あらかじめ指示を出していたらしい。
これで、このクーデターも終息に向かうことだろう。
現在は、煌武院殿下が、白銀少佐の本気の機動で消耗してしまったため、休憩中となっている。
念のため、米軍機数機に周辺警戒を任せ、他は全員、機体から降り、新鮮な空気を吸っているところだ。
「結局、決起軍の夢は一晩で潰えたか……だが、だいぶ死んだろうな」
「ええ、こちらに死者が無い事が幸いです。米軍部隊は半壊してしまいましたが」
だが、白銀少佐の迅速な判断で機先を制していなければ、誰かが死んでいてもおかしくない状況だったのだ。
戦死者は痛ましいが、これ以上は贅沢というものだろう。
少佐と話をしていると、噂をすれば──という訳でもないだろうが、ウォーケン少佐が近づいてきた。
隣には、見慣れない女性衛士を連れている。
その衛士は、イルマ・テスレフ少尉と名乗った。
──淡い金髪の美人……まずい、少佐が好きそう。……まあでも、さすがにもうすぐお別れだから、心配しすぎよね。
一瞬湧いた警戒心を、かき消す。
「ウォーケン少佐、無事でなにより。おかげで、あとは“乗客”を目的地へ運ぶだけだ」
「いや、貴官の助言がなければもっとやられていた。感謝の言葉もない」
戦闘開始前に白銀少佐からウォーケン少佐に向けた助言。
『距離を保ち、射撃に徹する』という作戦。
短い内容だったが、意図はすぐに伝わった。
米軍は、近接格闘戦は重視していないと聞く。対して、帝国軍はみっちりと近接を行う。
これはお国柄といってしまえばそれまでだが、米軍は火力主義・物量主義ともいえる戦法を得意としている。
いかなラプターとはいえ、懐に潜り込まれてしまえば、性能の劣る不知火でも、互角以上に持ち込まれることは想像にかたくない。
結果、白銀少佐の助言を受け入れたウォーケン少佐の指揮により、米軍部隊が優勢に戦況を進められたものの、結果的にその数は半減していた。
決起軍の錬度の凄まじさが窺える。
「なんの、的確に運用したのは貴官自身だ。感謝は不要だよ」
「貴官が言うなら、そういう事にしておこう」
ウォーケン少佐は、笑みを浮かべてそう答えた。
「しかし、生きて帰らないと思ったから、思い切った賞品を出したんだがなあ」
「はっはっは、それは計算外だったな」
白銀少佐がとんでもないことを言って、内心焦ったが、ウォーケン少佐は、気にした様子もなく、笑い飛ばした。
このふたり、ずいぶんウマが合うようだ。
──いいなぁ、こういうのって。
「まあ、冗談はこれまでにしておこう。私が本気で、殿下の強化装備を欲しがっていると思っている輩が何人かいるようだからな……まったく、あれは場を和ますための芝居だというのに」
ウォーケン少佐は、やれやれ、というふうに、いかにも米国人らしく肩をすくめた仕草と、キザな表情で締めくくった。
あの後、部下から何か言われたのだろうか。それとも対外的にまずいと思ったのだろうか。
しかし、あれは本気としか見えなかった。
むしろ、さっきの台詞がちょっと説明臭く、それこそお芝居のように見えた。
そう思うのは私の穿ちすぎか……いや、隣のテスレフ少尉も、も疑わしげな目をしている。
──まさか……この会話を聞かせるために、テスレフ少尉を連れてきた、とか……?
だとすると、この人もなかなか可愛い所があるのかもしれない。……私は遠慮するが。
「そうなのか?なら、俺がもらっておくよ」
「……」
白銀少佐のその言葉に、ウォーケン少佐は複雑そうな顔をした。
──やっぱりね……。
テスレフ少尉と目が合い、お互い苦笑を交わすことになった。
私は、この人とウマが合うかもしれない。
…………………………
<< おっさん >>
──まずい。
ウォーケン少佐との対話後、207の連中の所にまりもを向かわせたのだが、少し後悔をした。
──呼び戻すか……いや、だめだ。アイツらには、ケアが必要だ。
何しろ、実戦で人を殺したのだ。
まだ、戦闘直後で高揚感があるかもしれないし、余計な事は帰還後に考えろとはいったものの、ここで落ち込んでしまう可能性はある。
俺では逆効果かもしれないから、ここはまりもでないと駄目だろう。
しかし……この俺のいきりたったマグナムは、今や暴発寸前だ。
悠陽が乗っていただけでもまずいのに、最後に正面から抱きつかせたのだ。
まあ、沙霧がてこずらせてくれたおかげで、どさくさで悠陽を一番揺らす台詞「お前」と言えたので、それ自体は良い。
これで悠陽は陥落寸前だから、悠陽攻略面では上々の成果だ。
だが、戦闘後のたかぶりも相まって、もう本当にやばい事になっている。
──今なら京塚のおばちゃんでも押し倒してしまうかもしれない……。
こんな状態で、再出発時に悠陽が乗ったら、間違いなくひん剥いてしまう。
──仕方がない、20年ぶりのオナニーでもするか……。
そして、雑木林の中に入り、強化装備を脱ごうとしたところで、
「ハァイ、ミスターシロガネ。ちょっとお時間、よろしいかしら?」
──生贄、発見。