【第26話 おっさんのカウンセリング】
<< 御剣冥夜 >>
12月6日 午後 国連軍横浜基地 16番整備格納庫
私は、此度の戦いで私の手足となって戦ってくれた吹雪を見上げ、感慨にふけっていた。
殿下の手ずから授かった人形を手に持ち、心に思うのは殿下の事と……白銀少佐の事。
過酷な任務を、ひとりも失う事なく達成できた事は、XM3と白銀少佐の厳しい練成と、覚悟を決めさせられたあのお言葉。
そうでなくては、我等ごとき訓練兵が、百戦錬磨の正規軍を相手取り、初の実戦で圧倒できるわけがないのだ。
もはや、私に白銀少佐を疑う気持ちは微塵も無い。
彩峰も同じような気持ちである事は直接聞いたが、他の3名が相変わらず心を開かぬのは、残念な事ではある。
無論、それが少佐の意図したことだと分かってはいるのだが……。
その時、覚えのある気配が、背後より近付いて来た。
「冥夜様。失礼致します」
「失礼致します」×3
「そなたらか。どうした」
月詠から此度の戦いを労われた後、聞かされた事は、殿下との会合によって私の影武者としての価値が無くなった為、月詠は近々、警護任務から外されるだろうという推測だった。
……それは、私も思っていたことだ。
「そうであろうな……これまでよく仕えてくれた。……そなたらに感謝を」
「勿体無いお言葉でございます……」
うやうやしく頭を垂れる4名。
訓練兵の身でこのように扱われる事を疎ましくも思ったが、最後やもしれぬと思うと、貴重に思える。……私も勝手な事だ。
「それと、冥夜様に申し上げたい事がございます」
「なんだ?」
頭を上げた月詠から聞かされた内容は、殿下の、あのあからさまな暴露が、白銀少佐の提言によるものという事だった。
「そうか……少佐は、そこまで私の事を……」
更に、我等訓練兵への仕打ちは、真に我等の事を思い、あえてあのような態度を取っているのでは、と口にした。
「それは、私も気付いていた。……そうか、そなたも気付いておったのだな」
「冥夜様も、ご存知でしたか……」
月詠がなぜ今になって、わざわざ私にその事を伝えたのを不思議に思ったが、「借りを少しでも返したい」という事だった。
詳細は触れなかったが、此度の作戦中、私の預かり知らぬところで、何ぞやり取りがあったらしい。
ついでという訳ではないが、殿下のお傍に控えていた月詠に、尋ねたかった事を聞いてみた。
「ところで、その……殿下のあのご様子は……やはり、白銀少佐と……?」
「は……殿下は、我々の前では気の無い素振りをなさっておいででしたが、……白銀少佐にご執心なのは間違いないかと」
月詠は、困惑するように答えた。
──確かに、せめて心は共にありたいと願ったが……こんな所まで共にするつもりはなかったのだが……。
次に月詠に向けた疑問は、答えを期待したものではなく、つい内心を口にしたものだった。
「月詠……私は、白銀少佐を厳格な方だと思っていたのだが……随分、異なる顔を持っておられるようだ。どう判断したらよいのであろう?」
此度の戦でみせた“日米友好の証”は、慮外の事だった。
たしかにあれで、米軍との緊張感はなくなったが……。
沢口での休憩では、207の誰も、あの振る舞いには触れなかった。
聞いて、今までの何かが壊れるのが怖いのか……私もその気持ちはある。
神宮司教官におそるおそる尋ねて見た所、「あ、あれね。あはは……まあ、気にするな」と、結局回答はいただけなかった。
「私も、判断がつきかねます。ですが、どれが本性という訳でもないように思えます」
「そうか……」
私は、月詠の知らぬ、白銀少佐の顔を、もうひとつ知っている。
神宮司教官と女性中尉との、逢瀬。
その事は、殿下は当然ご存知ないであろう。
殿下は、私以上に大事に育てられた方だ。男女の知識など皆無に違いない。
──もし、殿下が少佐の“あの”顔を知りえたとき……いったい、どうなるのであろうか。
…………………………
<< 伊隅みちる >>
12月6日 午後 国連軍横浜基地 医務室前
「少佐、お疲れ様です」
白銀少佐を医務室の前で出迎え、敬礼。
少佐は近くまで駆け足で来たようで、少し息が荒かった。
「ふたりの容態は?」
「意識ははっきりしています。……自分がどういう状態なのかも、理解はしています」
「そうか……」
箱根手前の激戦で、富士教導団の精鋭を退けはできたものの、高原と麻倉がコクピットに被弾し、重傷を負った。
結果、麻倉は左足を失い、高原は右足を失った。
戦闘後に止血処理を施した後、基地帰還まで気力で保っていたふたりだったが、帰還後すぐ気を失い、手術室へ直行することになった。
軍医の診断では、命に別状は無いが、衛士に復帰するのは恐らく無理との事だった。
白銀少佐がノックの後、扉を開けると、寝台に横たわった朝倉と高原が、こちらに視線を向けた。
「「白銀少佐……」」
ふたりとも不安そうな顔だったが、白銀少佐は、入室するやいなや、明るい声で言葉をかけた。
「おー!貴様等、元気そうだな。しかし、ふたりとも片足ずつとは、狙ったのか?そんな所までお揃いにしなくてもいいだろうに」
といって、ぷっと噴き出した後、笑い声をあげた。
あっけにとられていた私と怪我人のふたりだったが、
「ひどーい!これでも重傷ですよ!」
「狙うわけありませんよ!」
と、麻倉と高原が怒ったように少佐を責め出した。
目覚めた時から、落ち込みを隠せなかったふたりだったが、とにかく元気な声は出せるみたいだ。
「はは、すまんすまん。で、状況は理解しているか?」
「「はい……」」
そして、麻倉と高原は、交互に、軍医から聞いた診断内容と、疑似生体移植による再生手術で普通の生活はできること、傷跡は残らないだろうということ、軍務は可能だが、衛士としての復帰は難しいことを説明した。
「そうか。衛士としては残念だったが、涼宮のようにCPとしての道もある。何より、貴様等はA-01という、存在そのものが秘匿される部隊の隊員なんだ。復帰後もこきつかわれるだろうから、今のうちに養生しておけ」
「「はい」」
幾分元気に返事をしたふたりだったが、うかない色は消えない。
私も同じ女だから、このふたりが、何を一番気にかけてるかくらいは想像できる。
「少佐……横から失礼します。ふたりが訊きたいのは、少佐のお相手に関する事かと……そうだろう?」
最後は麻倉と高原に向けると、ふたりはうなずき、おそるおそる口に出した。
「今晩の約束……守れなくてすみません」
「私たち、……キズモノになっちゃいましたし……やっぱり、あの事は無し、ですよね……」
白銀少佐はその問いには答えず、私を振り返り、宣言した。
「伊隅……今から俺は休憩時間だ。いいな」
「は?……は、はい」
「あのな、麻倉、高原……俺は結構独占欲が強くてな。お前らは、予約した時点で俺の女だ。予定は延期になったが、怪我くらいでガタガタ言ってるんじゃない。治ったら、じらせた分、覚悟しておけよ?」
その言葉に、ふたりとも徐々にこわばっていた顔が、解けていった。
そして、少佐は、「これは手付けだ」優しく言って、2人の名前を、おそらく初めて呼び……寝台に横たわる2人と唇を触れ合わせた。
……私はそれが、何か神聖な儀式のように思えた。
ふたりが頬を赤くして、ぽうっとしてるのを見て、羨ましさを禁じえなかったが。
麻倉と高原は調子を取り戻し、少佐に、教導部隊相手にいかに奮闘したかを、元気良く語った。
それは、さきほどまでの落ち込みが想像できないほどの饒舌さだった。
「麻倉ったら、ここに戻る間、『処女のまま死んでたまるかぁ!』って言ってたんですよ?」
「ちょ、高原!あんただって、同じような事言ってたでしょ!?」
「そこまで想ってもらえると、俺としても嬉しいねぇ」
とまあ、いちゃいちゃしてる所までは微笑ましかった。
私は……ここで退室しなかった事を深く後悔する。
「少佐ぁ、もうちょっと手付欲しいなー」と、麻倉が言い、少佐は「しょうがないな」といって……舌を絡めあう口付けを、じっくりねっとり行なった。
そして、「あの、私も……」と言った高原に同じ行為を行い、もう少し、とねだるふたりに、交互に口付けを繰り返した。
言葉では、部下たちの生々しい行為の内容を聞いていたが、実際に見るのとでは桁が違った。
目の前で延々と繰り広げられる物凄い口付けと、胸を執拗にまさぐったり、尖った所を摘んだりする少佐の手と、ふたりの嬌声で、私の頭はぐちゃぐちゃになっていった。
さすがに大事なところは傷に近いせいか、触れなかったが。
結局、ふたりが何度か痙攣して満足したところで、「続きは次の面会だ」という少佐の台詞で、この面会は流れとなった。
少佐が退室前に振り返り、私を見て意外そうな顔をしたのは、とっくに退室していると思ったからだろう。
──気が利かなくてすみませんねぇ。
…………………………
12月6日 午後 国連軍横浜基地 廊下
さっきの事は頭から追い払い、少佐と互いの作戦行動の詳細を話し合う。
概要はすでに通信で伝えてある。
少佐の行動詳細を聞いて、どちらも激戦だった事がわかったが、決起軍の空挺作戦を聞いた時は、冷や汗が出た。
「あっさり退いたのが少し意外だったのですが、空挺作戦とは……思いが及びませんでした」
「俺も思いつかなかった。あれを考え付く人間の方がどうかしている。貴様はよくやったよ」
「は……ですが、XM3をいただいておきながら、高原と麻倉を失いました」
戦死とは比べられないほどマシだが、軍事的にみて、戦力減という点は同じ。
白銀少佐が指揮を取っていれば、あの状況でも全員無事で帰還できただろう、と思うのは、私だけではないはずだ。
「多数の富士教導団を相手取り、損害は重傷者2名のみ。それ以上は贅沢というものだ。悔やむより、部下の働きを誇ってやれ」
「はい」
この人は過度な慰めはしないが、その内容は簡潔でも、心に響く。
私はいつから、この声を聞いていると落ち着くようになったのだろうか……。
そして、その後の行動内容で、少佐の能力に改めて敬意を抱き、訓練兵の働きにも感心させられた。
これなら、任官後にも即戦力だろう。
「反省会はこのへんでいいだろう。今後の話をしよう。……各自のメンタル面はどうだ?」
「全員、麻倉と高原の診断内容を聞いた時は残念そうでしたが、涼宮の例もあるので、落ち着いています。……やっかいなのが、風間です」
「風間が?意外だな、どうした?」
「麻倉と高原の負傷の要因のひとつとして、風間が2名をフォローしきれなかった事もあります。無論、さばける限界を超えていたためであり、奴の責任ではないのですが。一見、平常に見えますが、根は深いと感じました」
風間は私と同じく、責任感が強すぎるきらいがある。自分を責めているという事は確かだ。
特に、あのふたりとは仲が良かったのだ。心にかかる負担は大きいだろう。
「理屈ではわかっていても、心が追いつかないか。……わかった。風間は俺がフォローする。似たような奴をケアしたことがあるからな。夕食後、風間に自室で待っているよう、伝えておけ」
「か、風間の自室でありますか……」
「ああ、こういう事は本音を出せて落ち着ける場所がいい。食堂じゃ人がいるし、ブリーフィングルームは堅苦しいしな。自室が一番だ」
──たしかに、理屈ではそうだけど、しかし……。
少佐は、私の不安を見透かしたようにニヤリとした。
「心配するな。俺は無理強いしたり、傷心につけこむほど、ケダモノじゃないぞ」
「も、申し訳ありません。……では、風間の件はお任せします」
私は半ばヤケクソ気味に、少佐に後を任せた。
翌朝、寝不足は隠せないが、やけに肌つやと機嫌の良い風間を見る事ができた。
そして、『メンバー』の面々と一緒に、猥談に加わっていた。……いや、その中心になっていた。
――もはや、何も言うまい。
…………………………
<< 珠瀬壬姫 >>
12月7日 午前 国連軍横浜基地 珠瀬壬姫自室
──気が入らない……。
理由はわかっている。私は、自分の手で……人の命を奪った。
もちろん、それは私だけじゃない。
でも、私は、みんなよりたくさん……殺した。
榊さんが、私の射撃を中心とした、あの戦法を選択したのは妥当だと、頭では理解している。
あれは、私たちの組んだ連携の中でも、最も有効だったと、私も思うから。
でも……『なんで、私ばかりにさせたの?』という気持ちが消えない。……消えてくれない。
作戦中は、白銀少佐に言われた通り、余計な事は考えず、ただ戦う事だけを考えていた。
それは今でも正しいと思うし、決起軍の人たちは強かった。
全力でかからなければ、207の誰かが死んでいたかもしれない。
でも、昨晩はうなされて、ろくに眠れなかった。
今も、顔も知らない人が、恨めしそうに見ているような……。
昨日の帰還後も、今朝も、神宮司教官やみんなに何か言われたような気もするけど、内容は覚えていない。
その時、扉をノックする音がした。
「どうぞ」
どうでもいいような気持ちで答え、扉を開けたのは……私がこの世で一番嫌いな人。
「……何か、御用でしょうか、少佐」
「神宮司軍曹が、貴様を気にしていたのでな……人を殺したのがそんなに気になるか?」
「ッ!……あたりまえです……」
少佐の問いに、吐き捨てるように答えた。
自分がこんな声を出せるのかと少し驚いた。……でも。
──文句があるならどうぞ。殴りたいなら、殴ればいい。……どうでもいい。
「貴様が気にする理由がいまいちわからないな。なぜ気になるんだ?」
「……人を殺して、平気な人はいません!」
本当にわからない、といったふうに、少佐が言ったのが癇に障った。
つい、口調が荒くなる。
「貴様は、命令に従っただけだろうが」
「そう、そうです……あなたの命令です……!あなたが……!」
そうだ……この人の命令で、私は殺したんだ。
この人が出撃命令を出さなければ……。
包囲された時、素直に降伏していれば……。
悔しさか、悲しさか、罪悪感か。
涙が溢れて止まらなかった。
「そうだ。貴様の手を汚させたのは、俺がそう命じたからだ。……で、それがどうかしたのか?」
少佐が言い終わるやいなや、私は、その頬を力いっぱい平手打ちしていた。
自分のした事に、一瞬、理性が警告を出したけど……少佐が私を見て、ふ、と見下したように口の端を上げたことで、その理性も吹き飛んだ。
──いつもいつも、馬鹿にして!
それから後は、よく覚えていないけど、私は泣き喚きながら何度も少佐を平手打ちした。
叩きながら、今まで抑えていた思いが溢れ、罵倒の言葉も口にしていた。
「バカ」「嫌い」「人でなし」「権力の犬」「最低男」……思いつく限りの言葉を。
そして、語彙の尽きた私は、少佐の硬い胸板を、ぽかぽかと子供のように両手で叩いていた。
──この人がいなければ、私も、みんなも……えっ?
少佐に頭を抱かれた、と気付くのは、少し時間がかかった。
「“珠瀬”……貴様は大バカ者だ。軍行動においては、責任はそれを命じた者だけが負う。命じられた者ではない。──俺にわかるのは、貴様が俺の命令を忠実に実行し、それを果たしたということだけだ。……“俺の命令を”だ」
──この口調……包囲を突破する時の言葉と同じ……。
少佐の言葉が染み渡り……私は、少佐の胸にすがりついて、また子供のように泣きじゃくっていた。
私はそのまま、いつのまにか眠ってしまい、次に気付いたのは、寝台の上だった。
眠る前のやりとりが、呆けた頭に思い出される。
泣いた事、何度も平手打ちした事、罵倒した事、抱きしめられたこと、泣きじゃくったこと。
……眠った後、少佐が寝台に寝かせてくれただろうということ。
どれも、焦るか騒ぐか赤面するかしそうな事だけど、そんな気が起こらない。他人事のように思える。
──もしかして私、慰められたの、かな……。
罪悪感は消えていないけど……だいぶ心が軽くなったのは、自覚できた。
私が、この時の少佐の対応を、素直に受け止められるのは、少し先の話になる。
…………………………
<< おっさん >>
12月7日 午前 国連軍横浜基地 廊下
まりもから、207の連中の様子を聞き、たまが危ういと聞いて来てみれば、案の定だった。
自分でわかっているのかどうか、……明るい笑顔が特徴のたまの面影は、そこにはなかった。
他の面々は、たまほどではなかったようで、まりもがうまくフォローしたようだ。
美琴がMPに事情聴取された時は、一瞬焦りもしたが、まあ、親父のやったことを考えれば、仕方が無い。
事情を知らないのだから、一晩で開放されたようだし、後は引かないだろう。
たまも、まりもか専門のカウンセラーに任せていれば何とかなっただろうが、たまが不憫で、少しおせっかいを焼いてしまった。
「しかし、たまの奴、遠慮なく殴ってくれたもんだな……」
打撃の軽いたまでも、さすがにああも連打されると、結構効く。
罵倒の言葉も景気良く出ていたが……その中で、『チョップ君』と言われたのは、さすがに凹んだ。
“前の”世界と同じく、どうせ委員長あたりが言い出したんだろうが、あの時と違って、今回は悪意100%だ。
まあ、俺もアイツ等に酷い“TACネーム”を付けたんだから、お互い様だろうが。
“前の”世界とのアイツ等との距離の違いを思い、さらに凹んだ。
たまは、その卓越した素質とは裏腹に、最も軍人向きでない性格をしている。
『やらなければやられる』というのが頭でわかっていても、心が割り切れないのは、新兵によくあるケースだ。
BETAへ対する時ならまだしも、優しさが人一倍あるたまは、今回の事は尾を引くかもしれない。
俺に恨みを向ける事で、なんとか調子を取り戻せればいいのだが。
「祷子とは、似ているようで少し異なるケースだな」
祷子の場合は、罪悪感の向き先が異なるので、幾分扱いやすかった。
昨晩は祷子のケアに努めたが、……祷子の髪は思ったとおり、手触りも相当良かった。
だから、つい、初めてなのに髪の毛プレイをしてしまった。まあ怒っていなかったからいいだろう。
ああいう綺麗な黒髪は、精液が映える。『天使の輪』を作れた時は、達成感があった。
そして、予想通り、その体も良い具合だった。
開通は優しくしてあげたのだが、段々調子に乗ってしまい、ついハッスルしてしまった。
初心者にはキツい内容までしてしまったが、祷子も平気なようだったので、左近まで投入してしまった。少し反省。
「しかし……みちるにどう言い訳したものかな」
手は出さないで置くと宣言したものの、俺の状態がまずかった。
昨日は、イルマで一度発散したものの、その後の悠陽への念入りな仕込みで、こっちが不完全燃焼だったのに加え、高原と麻倉に前戯を施したのだ。
その後、誰かを相手にすればよかったのだろうが……。
つい、「衛士の追悼は、そいつがやりたかったことを、やってやることだ」と言って、口説き初めてしまった。
まあ、ふたりは衛士としては死んだようなものだから、間違ってはいないはずだ。
そんなこんなで、戸惑う祷子を「まあまあ、いいからいいから」と有耶無耶のうちに裸にしてしまった。
祷子も、俺の事はどちらかというと好意をもっていたようだから、昨晩のは、相思相愛のいきつく先というべきだろう。
「よし。ここは、おばちゃんの流儀を使わせてもらうか」
たしか、京塚のおばちゃんも、死んだ衛士の好物を食わせるのが流儀だった。
俺もそれに習っただけだ。ここは「なんだ、文句はあるのか」という態度がベターとみた。
方針が決まったところで、自室の近くまで来ていた事に気付いたが、俺の部屋の前には、おなじみの面子が並んでいた。
「おや、どうした?」
遙、水月、晴子、多恵、茜、祷子、霞。
ほとんどの『メンバー』が揃っている。
遙が口火を切った。
「白銀少佐……風間少尉にカウンセリングをしたとお伺いしたのですが」
「お、おう……」
──まさか、『メンバー』追加を責める気か?
と思ったが、後に続いた展開は予想外だった。
「私たちも、人間相手に戦って、結構思うところあるんですよねー」
「風間少尉だけでは不公平です!」
「ここはひとつ、私たちにもカウンセリングをお願いします」
と、水月、茜、晴子がたたみかけてきて、他の面子は無言で頷き、圧力をかけてきている。
なるほど、そういうことなら問題無い。
しかし、全員だと時間が……っと、良い考えが浮かんだ。
「全員まとめてならカウンセリングしてやる。ああ、涼宮少尉は、姉と一緒は嫌だったな。どうする?」
「うー……こ、この際、仕方ありません」
仲間外れよりはマシと思ったか。
ここで姉妹プレイの抵抗感を薄めておくのはいい機会だ。
一度経験してしまえば、後はなし崩しでいけるし。
「風間は初めてでこんな大勢で、いいのか?」
「……ええ、新参なので、勉強させてもらおうかと思います」
さすがに2日目だけあって、他の面子ほど平然とはしておらず、頬が赤いが、なかなか殊勝な心がけだ。
──いや、羞恥のある内にみんなの前で嬲ってみるのも面白い。
「よろしい。では部屋に入ろうか」
「はい」×7
──あれ?そういえば、霞はなぜ?
…………………………
<< 香月夕呼 >>
12月7日 夜 国連軍横浜基地 香月夕呼執務室
「白銀です」
「入りなさい」
白銀が入室直後、“女”の匂いが部屋に充満した。
「アンタ、何て匂いさせてんのよ……。他の男とすれ違ったら、嫉妬で射殺されるわよ?」
「はは、すみません。……全員にカウンセリングを要求されまして」
さすがに申し訳なさそうな白銀から事の顛末を聞いて、その精力にまた呆れた。
「8Pって……。本当、底なしねぇ……」
「いや、お恥ずかしい」
恥ずかしげもなく、答えた。
しかも8P後は、まりもとピアティフに捕まり、また同時にカウンセリングをする羽目になったそうだ。
「てことは、今日一日で『メンバー』全員とやっちゃったわけ」
「必要な事後処理です」
──確かに、出撃翌日ということで、今日は休養日にさせていたけど……まさか一日中セックスするとはね……。
まあ、コイツの女関係を今更言ったところで仕方がない。
本題に入る事にする。
「まあいいわ。……207訓練小隊、任官できるようになったわよ」
「やはり、枷がなくなりましたか。では、トライアルも?」
「ええ。任官は明後日の12月9日。トライアルはその翌日よ」
「さすが、手配が早いですね」
相変わらずの動じない態度と、打てば響くようなやり取りは、やはり心地良い。
「予定通り主役は207で、俺たちは裏方でいいですね?」
「それがね……アンタとまりも、ふたりでエレメント組んで出てくれない?」
不思議そうな顔をした白銀に、説明を付け加えてやる。
白銀がクーデターとの戦いで派手にやった事で、帝国軍と米軍が、XM3の発案者である白銀の情報を嗅ぎまわっている。
XM3の効果は、A-01が1個中隊で、帝国では最強レベルの富士教導団を撃退した事や、訓練兵が決起軍を圧倒した事からも、容易に想像がついたはずだ。
先日の新潟BETA上陸の時のも影響しているだろう。
白銀がここまで注目された以上、ある程度露出させないと納得しないだろうし、どうせならそれを利用して良い看板になってもらおうと判断したのだ。
「そういう事なら仕方ないですね。あまり目立つのは好みではないんですが……」
英雄扱いは“前の”世界でこりごりということだろう。
『性に合わない」という言葉は良く聞いた。
「もう目立ってるわよ。あれだけ派手にやったんだから、諦めなさい」
「まあ、これも運命ですかね」
そう言って嘆息したが、性に合わない英雄でも、コイツはそれらしく振舞うだろう。
いや、すでに自然とそのように振舞っているのは自覚していないのだろうか。
それに、これまでの白銀の業績は、目を見張るものがある。英雄扱いも妥当な所だろう。
今回の任務達成にしてもそうだ。
鎧衣の情報リークにより、決起軍に狙われる事になった時は、正直、補足は時間の問題と思ったけど、米軍と麾下の戦力を上手く運用し、首謀者の沙霧を討ち取った。
結果、殿下を米軍の手にも渡すことなく、麾下の戦力も失わず……満点と言えるだろう。
おまけに将軍殿下も、こちらに“友好的”になったようだし。
その後の処理は鎧衣が上手くやったようで、次の政権は将軍を中心とした、米国の意向が反映されにくい政権となりそうだ。
結局、米国のやったことは日本の結束を強めてしまったわけで、その思惑とはだいぶ外れたはずだ。
多くの人命と物資を失って、ご苦労な事だ。
「で、新OSとは別件で、将軍殿下からアンタの招聘要請が来てるわよ。今回の奮闘に対する礼と、戦術機指導依頼ですって。……殿下とも随分よろしくやったみたいねぇ。スケベ」
そういってからかったが、平然としている。
「殿下と“親密”になったのは、下心だけじゃないですよ。副司令は帝国首脳部から随分怪しまれてますからね。俺がパイプ役になっておいたほうが、後々動きやすかろうとも思いましてね」
「ふーん。そっちは気にしてなかったけど、……確かにそうね」
「XM3は、佐渡島侵攻前に、帝国軍にある程度普及させておきたいですからね」
また、白銀は、万が一、国連軍が私達を切った時の受け入れ先として、帝国軍の心証を良くしておきたいと付け加えた。
確かに、“前の”私の、オルタネイティヴ5移行後の苦労を思い出すと、白銀の対応も容認すべきだろう。
辺境基地で自分よりはるかに無能な技術者の下で、雑用を散々させられたそうだ。
セクハラもかなりされた……と、“前の”私は白銀に散々愚痴ったらしい。
「じゃあ、帝国軍との折衝は任せるわ。……でも、将軍以外には嫌われてるかもよ。ぽっと出の怪しげな男が、敬愛する主君と仲良くしてたら、そりゃ嫉妬されるでしょうね」
「トップさえ抑えておけば、些細な事ですよ。ここでもそうでしょう?」
「……確かにね」
私を押さえてるからこそ、白銀はこの基地内で自由を闊歩できる。
逆をいえば、私が白銀の生命線を押さえてるともいえるのだが……白銀は微塵も遠慮がない。
「それに、女性兵限定で、すぐ誤解はとけますよ」
「ばーか」
冗談に聞こえないのがコイツの恐ろしい所だ。
「では、お話も終わりのようですので……カウンセリングの仕上げとして、副司令はいかがですか?」
「…………来なさい」
その誘いには返答せず、寝室へ足を向ける。
──そういえば、白銀から“夜伽”を申し出てきたのは初めてかもしれない。