【第33話 おっさんのイメージ】
<< 伊隅みちる >>
12月12日 午後 国連軍横浜基地 第二演習場
「うーむ、これは……」
増強要員を加えたA-01の初の実機訓練は、市街地での模擬戦闘とした。
白銀中佐からも、一度、先任と新任でやりあってみろ、と言われていたし、新任の歓迎会代わりに丁度良いと思ってのことだ。
ただし、人数に偏りがあるので、私は新任のCPにまわり、先任は速瀬に指揮をとらせた。
また、新任には先任の不知火を与え、先任には、予備機の撃震を用意した。
現在、白銀中佐らが不知火弐型を手配してくださっているが、それに先立って、新任たちに高出力機の特性に慣れさせる事と、先任たちには、不知火の優秀性を再確認させる良い機会だという意図もあった。
昨日の新入り連中は、初めてのシミュレーターによるハイヴ戦実習で、かなりの好成績だったから、良い戦いになるだろうと予想はしていた。
そして、新任5名の不知火対、先任6名の撃震との戦いが今終わったところなのだが──
「私も入れば良かったかな?」
「ええ……それで丁度バランスが取れたかもしれませんね」
この指揮車両に同乗している涼宮が、同意の言葉を口にした。
レーダーで生き残っているマーカーは、ふたつ。
どちらも新任──珠瀬と榊の機体だ。
まあ、検討は後だ。
「状況終了。全機帰投後、着替えてブリーフィングルームに集合しろ」
…………………………
12月12日 午後 国連軍横浜基地 ブリーフィングルーム
新任がもたらした想像以上の結果に、褒め称えたり謙遜したり悔しがったりで、室内はざわついたが、それを制して、検討を始めることにした。
「まず、新任は機体の機動力の差を生かして、徹底的に動き回ったのは良い判断だったな」
「ええ。撃震も良い機体だとは思いますが、XM3搭載の不知火に全力で動かれると、追いきれませんね」
私の評価に、速瀬が少し残念そうに答えた。
新任たちは、最初はなれない様子だったが、すぐに機体の性能差というアドバンテージを最大限に活用するようになった。
人数で劣る新任が取るべき、妥当な戦法だっただろう。
先任はその動きに徐々に隊形を乱され、一機ずつ仕留められてしまった。
だが、機体の性能差以外にも、先任が負けたのには理由がある。
私を抜いた6人の形での連携は、今回が初めてだったということ。
対して、新任はずっと、今の5人の形で訓練をしていた。
小隊としては中途半端な数だが、これだけ完成している小隊を、編成し直すのが惜しい程だった。
もうひとつ、大きな理由としては──白銀中佐と何度も対峙した、という点だろう。
中佐と、我々先任との訓練では、BETA戦想定で一緒に戦う事が殆どで、対人想定でやりあう時は、白銀中佐はバランスを取るため抜けていたが、新任は、主に戦術機同士の演習ばかりで、相手は毎度、白銀中佐と神宮司大尉。
中佐達に比べれば、先任部隊はまだ与しやすい方だろう。
加えて、トライアルで多数の熟練衛士を圧倒した事で自信もついたようで、動きに迷いが無かった。
「なるほど。確かに私たちは、中佐相手に戦った事は殆どありませんね」
検討後、宗像がそう漏らした。
「でも、榊たちの動きって、なんとなく私たちより白銀中佐っぽいよね」
「あ、私もそう思った」
柏木と涼宮茜が、新任の動きに対する感想を口にした。
他の者も同じような思いのようだ。
「新任は、既存OSの先入観が無いからな。加えて、中佐の動きばかり見ていれば、自然と近くなるというものだ」
私のその説明で、皆納得したようだ。
即戦力足りうる隊員が5人も加入した事で、少し浮かれていたせいか、私は口数が多くなっていた。
「それにしても、白銀中佐と神宮司大尉からは、貴様等についてはお墨付きをもらっていたが……私は過小評価していたようだな」
「……お墨付き、ですか?」
私の言葉に、榊が意外そうに聞き返した。
「ああ。中佐達は、貴様等をえらく買っておられるぞ」
「伊隅大尉。何と仰られたか、お聞きしてもよろしいでしょうか」
御剣が、ずい、と進み出て私に迫った。──私は、少し、引いた。
見れば、他の新任も、興味津津でこちらを窺っている。
「しかし、こういうのは、ご本人から聞いた方がありがたみがあるのだが……」
別に教えてもかまわないのだが、又聞きでは感動も半減だろう。
クーデターの時の出撃前の訓示……あれは痺れた。
いつになるかわからないが、彼女等も、同じ感動を味わわせてやりたい。
「ぜひ、聞かせてください」
彩峰が、ずい、と進み出て、御剣に並んだ。──私は、また、少し引いた。
「伊隅大尉。私も、中佐がどういう評価をされたか、知りたいですね。皆もそうでしょ?」
と、速瀬が他の先任に尋ねると、一様にうなずいている。
──仕方ない、口に出した私が悪い。
「わかった、わかった。ではまず、誰から「はい」……彩峰から行こうか」
彩峰が、言い切る前に手を上げた。
そのタイミングの良さと強引さに少し感心したが、私は、中佐からの評価を、私見を混じえず、忠実に再現してやった。
それぞれの長所、欠点、特徴……特に、長所については各々、この基地でもトップクラスという事を。
各々の評価を伝え終わる度、全員が照れて紅潮するのが微笑ましかった。
クーデターの時の中佐も、我々を見て、このような気持ちだったのだろうか。
「へぇ~、みんな、凄いね!」
「でも、珠瀬と榊だけ、ちょっとひいき……」
全員の評価が終わると、涼宮茜が感心の言葉を漏らしたが、彩峰が少し不満気だった。
確かに、比べてみると、その2名の評価は大げさにも思える。
本当は、他の3人にしても、私から見れば相当な評価なのだが……新任のくせに、贅沢なやつだ。
私に対する評価など、もっと言葉が少なかったというのに。
榊の指揮能力は、「中隊レベルならすぐにでも任せられる」、と言うことだった。
中佐は、過度な世辞は語らない人だから、嘘の評価ではないと思ってはいたが、今日の動きを見て、それが妥当なものだと実感させられた。
榊は私に似たタイプのようで、攻守のバランスが良く、状況を冷静に的確に判断する姿は、昼間、先任にシモネタでからかわれた時とは、別人のようだった。
今日の演習にしても、判断ミスは殆どなく、唯一のミスは、先任にうまく突出“させられた”彩峰を援護すべく、御剣と鎧衣を回した所だろう。
気持ちはわかるが、あの状況なら、彩峰は切り捨てるのが正解だ。
非情なようだが、死に体となった彩峰を助けるために、結果、3機ともやられてしまっては、割に合わない。
しかし、2対4という不利な状態からでも、なんとか勝ってしまった点は、逆境にも強い事を示している。
もう少し割り切りが出来れば、私を凌ぐ指揮官となるかもしれない。
そして、珠瀬。
奴の射撃技術にいたっては、「世界を見ても並ぶ者がいない」、という評価だった。
さすがに大げさにすぎるだろうと思ったが……実物を見せられて、震えが走った。
先任で最も優れた射撃技術を持つ柏木も、相当なものだ。
特に、白銀中佐と付き合いだしてからは、その精密さに磨きがかかった。
何度考えても馬鹿馬鹿しく、呆れ返る“特訓”──柏木に万葉集を朗読させながら、白銀中佐がバックから突く──を始めてから、集中力が向上したらしい。
風間も、同じ訓練を始めたそうで、さらに頼もしい存在になるだろう。──全く、馬鹿馬鹿しいことこの上ないが。
だが、珠瀬の技術はさらにそれを上回り、高機動状態からでも針の穴を通すように当ててくる。
中佐の“特訓”とは別の意味で、その非常識さに呆れたものだ。
他の3人も、これほどではなかったが、その長所だけを見れば、A-01の中でもトップという事だ。
今日の演習では、鎧衣の特性は生かせる場が無かったが、奴のそれは実戦で映えるものだ。頼りになるだろう。
「私の知る限り、白銀中佐は最高の衛士だ。その方に、これだけの高評価をもらっているということは、大いに誇っていい」
私はそう締めくくり、今日の訓練を終了とした。
…………………………
<< ユウヤ・ブリッジス >>
12月12日 夕方 国連軍ユーコン基地 繁華街
どうやらオレは、勘違いしていたようだ。
「わはは!お前、面白いな、チョビ!」
「チョビはやめてくれよ……」
目の前でバカ騒ぎして、タリサをからかっているのは、日中、毅然とした態度で通した男のはずだ。
堅苦しい飲み会になると思いきや、彼は昼間とはうって変わって明るく、ヴァレリオ並の調子の良さだった。
「中佐殿、話せますねぇ!」
右隣にいるヴィンセントが、白銀中佐のグラスに酒を注いだ。
このヴィンセント・ローウェル軍曹は、オレと一緒に米軍からここに出向した男で、アルゴス小隊の担当整備兵だ。
どうやら、オレが神宮司大尉にのされた後、弐型の調整に付き合い、白銀中佐の知識と操縦技術、メカニック目線での的確な意見で、感銘を受けたようで、この飲み会に率先して参加してきた。
ヴィンセントが感心するほどの見識だそうだが、本当に、なんでも出来る男のようだ。
オレとてメカ知識を軽視しているわけではないが、ヴィンセントからは「お前も中佐を見習え」と苦言を労されたのは、少々痛かった。
ちなみに、篁中尉と、オレを殴った神宮司大尉はこの場にはいない。
本気か冗談かわからないが、中佐が言うには、神宮司大尉は酒乱の気があるらしいので、置いてきたそうだ。
篁中尉は、その神宮司大尉と話があるそうで、断ってきた。
何かの“講習”と言っていたが、きっと、この基地に関することだろう。
篁中尉が帰還してから、彼女とはまだ一度も言葉を交わしていない。
この場で篁中尉との気まずさを解消したかったが、仕方が無い。
明日あたり、時間がとれればいいのだが……。
「おい、ブリッジス。暗くなってないで、貴様も楽しまんか」
「は、はい」
オレが暗くなったのを察して、白銀中佐が、向かいに座るオレのグラスに酒を注いだ。
「そうだぞ、ユウヤ。中佐殿は気にしなくていいと仰ったんだ」
オレの肩を、ぽんと叩いたヴァレリオの言った通り、飲み会の前に、中佐に暴言を謝罪したところ、苦笑いされて手をひらひらとされ、気にするなと伝えられた。
むしろ、昏倒してしまったオレの体調を気遣ってくれたほどだ。
階級云々で、偉そうにされることは覚悟していたが……年下に大人の態度で応じられると、ますます自分のガキさ加減が恥ずかしくなった。
もっとも、さっきオレが暗くなったのは、篁中尉の事を考えての事だったが、余計な事だったので口にはしなかった。
「ところで、中佐殿はコッチもイケる口で?」
白銀中佐の左隣に座るヴァレリオが、小指を立てて、ニヤニヤして訊ねた。
一瞬、そんな失礼な質問をして大丈夫か、と思ったが──
「レディの前で話す話題じゃないな。それなりだ、とだけ言っておこう。後は、想像に任せるさ」
と、同じくニヤリとして返した。
どうやら中佐は、女関連でもヴァレリオと同類らしい。
そのヴァレリオは、とても楽しそうで、昨日、ドーゥル中尉に気を使うように言われて、面倒臭そうにしていた時とは大違いだ。
「ステラはともかく、タリサのこたぁ気にしなくて良いでしょ」
「うるせぇ」
ヴァレリオのからかいは、オレたちにとってはいつものやりとりだったが、中佐は珍しそうだった。
「なんだ?マナンダルは、ここじゃそんな扱いなのか?良い女なのに、勿体ない奴らだな」
「え?──わわっ」
そう言って手を伸ばし、わしゃわしゃとタリサのクセっ毛頭を乱暴に撫でた。
タリサは、そんな扱いを今までされたことがないのか、反応に戸惑っている。
「おや、中佐殿は、タリサのようなのが好みですか?」
「あら、それは残念」
ヴィンセントの意外そうな言葉に、ステラがわざとらしく手に頬を当てて、言葉を漏らした。
ステラも上機嫌のようだ。
「そりゃ早計だ。ふたりとも、ここで押し倒したいくらいの美人だよ」
「「おおー」」
そういって、中佐はウインクをひとつして、ヴィンセントとヴァレリオの歓声を誘った。
米国人のような気障なしぐさだが、随分、さまになっている。
「み、見る目あるじゃないですか」
「ふふ、お上手ですね」
タリサはともかく、ステラの頬が赤いのは酒のせいだろうが、どちらも横浜の天才衛士にこうまで言われて悪い気はしないらしい。
そして、その後も賑やかな話が続いた。
会話は、オレたちの出会いから今までにあった出来事や、白銀中佐の横浜基地での生活──ヴァレリオとヴィンセントの、女性関係への質問は、はぐらかされたが──が主な内容だった。
今朝の騒動のきっかけとなったクーデターや日米関係については、意図してかそうでないのか、白銀中佐は一切口にしなかった。
オレも、わざわざ場の雰囲気を壊したくはなかった。
不問にされたとはいえ、一方的につっかかってしまった後ろめたさは消えなかったが、中佐の気さくな言葉に、徐々に気持ちがほぐれていき、いつしかオレの頬も緩んでいた。
そして、何度目になるか、中佐の空いたグラスに、ヴィンセントが酒を注ぎ直した。
「まーまー、飲んでください。今日は中佐殿の接待ですので、ご遠慮なく」
ヴィンセントのその言葉に、白銀中佐の顔から笑顔が消え、目が鋭くなった。
「“接待”だと?貴様等……」
中佐の発する冷たい雰囲気に、全員が静まり返る。
──なんだ、何が悪かったんだ?
接待という言葉が嫌いなのか、賄賂的なものを感じて、生真面目な部分が刺激されたのか。
オレには、もっともな理由が思い当たらなかった。
皆も、中佐がどうして不機嫌になったのか、理解に困っている様子だった。
……だが。
「接待だというのなら、マナンダルとブレーメルを左右におかんか!美女で囲んで酒を注いで接待。それが日本式だ!なんでムサい男を侍らせて喜ばなきゃならんのだ!だいいち、この距離じゃおっぱいが揉めないだろうが!」
──ああ、オレの日本人のイメージが……厳格で、融通がきかなくて、閉鎖的で……
ちなみに白銀中佐は、席を入替えた後、本当にふたりのバストを揉んだ。それも、しっかりと。
その後、いち早く反応したタリサから頬をスパンクされたが、彼は本当に楽しそうだった。
…………………………
<< 珠瀬壬姫 >>
12月12日 夕方 国連軍横浜基地 珠瀬壬姫自室
寝台に寝そべり、体の力を弛緩させ、大きく一息吐いた後、今日のデブリーフィングの事を思い出す。
──私のこと、あんなに評価してくれてるとは思わなかったな……。
何度も何度も「ヘタクソ」と言われ、殴られ蹴られしたというのに、あんなに褒めてくれていたとは意外だった。
先任の人たちも、無理矢理習得させられた私の技術を、称えてくれる。
御剣さんの説明を聞いてから、中佐に対してそれほど嫌悪感は湧かなくなったけど、好きか嫌いかで言えば、まだ嫌いだ。
そんな人からでも、評価されて気持ちが浮き立ったのは、自分でも現金だと思う。
──白銀中佐、かぁ……。
昼間の涼宮さんの言葉が頭に残っている。
最初は意味がわからなかったけれど、ああして良い所を列挙されると、自分が嫌っている理由が、よくわからなくなった。
──確か……頼りになって、愛してくれて、格好良くて、優しくて、強くて、頭が良くて、面白くて、せ、せ、せっくすが上手──だったよね。
深い意味はなく、寝る前の、他愛も無い想像にすぎなかったけど、順番に考えてみることにした。
『頼りになる』……うん。確かに。
クーデターで包囲されかけた時は、くじけそうな心を奮い立たせられた。
トライアルの時も、武器をとりに戻る時の言葉で、心が落ち着いた。
パパ以外であれほど頼りになる男の人は、いなかった。
もっとも、国連軍に入隊してから、白銀中佐以外の男性とは、ほとんど話をしていないのだけれど。
『愛』……よくわからない。次。
『格好良い』……みんなには口が裂けても言えなかったことだけど、実は、結構好みの顔立ちをしているとは思っていた。
客観的に見ても、絶世ではなくても、十分、2枚目といえると思う。
『優しい』……数日前なら、完全否定したけれど、御剣さんの“推測”からすると、やっぱり優しいのだろう。
クーデター後の時も、黙って私に殴られて、罵声を受けて、抱きしめて──あっ!
──うわぁ~……私、凄いことしちゃってる……。
今更の事だといのに、顔が熱くなった。
今まで考えないようにしていたけど……あれは恥ずかしい。
確かにあの時、とても安心して、心が楽になって…………深みにはまりそうだから、考えるのはやめよう。
『強い』『頭がいい』……この2点は、今更言うまでもなく、骨身に染みている。
『面白い』……よくわからない。でも、米軍のウォーケン少佐とのやりとりの、“日米友好の証”。
あの時の事を、先任の人たちに話したら、それが“素”の中佐だと、伊隅大尉におかしそうに言われた。
今でも半信半疑だけど、大尉の言葉を正とすると、少なくとも硬いだけの人じゃない。
“恋人たち”も皆、私的な時間の中佐はまた別人だ、という事だから、私たちに見せた顔は、ほんの一部にすぎないのだろう。
『せっくすが上手』……これもよくわからない。
でも、あれだけ色々な女の子が、全員満足しているということは、……そうなのだろう。
順番に考えると、涼宮さんの言葉はだいたい正しいように思える。
けど、良い所だけだと公平な評価にならない。欠点を探してみよう。
まっ先に思い浮かぶのは、『12股』……これは言うまでもない。
色々な女の子に手を出すなんて、本当に最低だ。
でも、私の恋人としては致命的だけど、全員知っていて、誰も傷ついていないという事は、──うーん。やっぱり理解できない。
あとは……『私たちをいじめた』ということ。
でも、これは御剣さんの説明で、私たちのためを思っての仕打ちということは理解した。
まだ釈然としない気持ちはあるけど、いつまでも拘っているのは恩知らずだという事は、私も分かっている。
他には…………………………あれ?
……無い?
──じゃあ、私、どうしてこんなに嫌ってるんだろう。
生理的に受け付けない……わけじゃない。そんな人を格好良いとは思わない。
理由としては『12股』くらいだけど……当事者じゃない私が、それだけを理由にずっと毛嫌いするのも変な気もするし……。
頭が混乱しかけた時、扉がノックされた。
「壬姫さん。ボクだけど……」
「鎧衣さん?どうぞ」
部屋に招き入れて、用件を聞くと、鎧衣さんは、珍しくおどおどして話し始めた。
「えっとね、お昼の、茜さんの言葉を思い出してたんだけど──」
驚くことに、鎧衣さんも一人になって、涼宮さんの言葉を思い出していて、考えを整理したらしい。
その結論も、さっきの私と同じらしく、どうしたら良いか迷って、私を訪ねてきたとのこと。
私もその事を打ち明けると、ふたりとも同じ結論に達したのがおかしくて、思わず笑い合った。
「結局さ、ボクらがしっかりしていれば、中佐もあんな事しなくて済んだんだよね……」
軽い笑いが収まった後、ぽつりと漏らした鎧衣さんの言葉に、はっとさせられた。
今思えば、私たちは軍人として、技術以前の所で、甘かった。
中佐が来た時の私たちは、上辺だけの仲間意識、命令遵守もろくに守れない、すぐに泣きだす程度の心の弱さ……。
そんな弱さがあったからこそ、中佐は殴ったり、射殺を匂わせたりしなければならなかった。
御剣さんの説明の中にも、そういった指摘はあったけど、幼稚な抵抗心から、その言葉を本当に理解しようとしていなかった。
自分で考えて、今、それがやっと実感できたように思える。
こんな感じを、憑き物が落ちた、というのだろう。
改めて、白銀中佐を恩師として、尊敬の念を抱ける気がした。
でも──
「でも、さすがに12股かけてる人を、男の人として好きにはなれないですよね~」
私は、鎧衣さんの笑顔と、「だよね~」という同意の声を期待したのだけど──
「あー、うん。そうだね……」
──鎧衣さん、どうして頬が赤いの……?