【第4話 多忙なるおっさん】
<< 香月夕呼 >>
10月25日 午前 国連軍横浜基地 香月夕呼執務室
社に呼びにいかせた白銀を待つ間、ふと数日前の事を思い出す。
あの残されたメモを見て、私は屈辱を覚え――なかった。不思議なことに。
散々好き勝手に嬲られ、失神どころか失禁までさせられたというのに。
体中、いたるところに精液を――二つの大事な穴(後ろは初めてだった)には溢れさせられ、髪の毛も顔も、パックをしたようにカピカピ。そうじゃない所を探すほうが難しいありさまだった。
いつ飲んだか飲まされたのか、よく覚えていなかったが、胃にも大量に入っているのがわかった。
誰かが見れば、複数人――それも最低10人以上にレイプされたとしか思わないだろう。
起床後、正気を取り戻した後、シャワーで洗い流し、なんとか汚れと臭いを取ったが、大変だった。
しかし、ここ最近感じていた体の芯にある疲れが――キレイになくなっているのがわかった。
あれだけ好き勝手されたのに、筋肉痛も無い――まあ、一部、擦過傷らしき痛みがかすかにあるが。
どうやら“優しく”蹂躙してくれたようだ。
なるほど、ストレス解消という点では、かなり効果が高い。
「アンタ、本当に人間?」
次の日、あまりの精液の量に、戯れにそう聞いてみた。
「――はは、若返った分、有り余っていたようで、力の加減が効きませんでした。――でも、その質問は昨日のシミュレーターの際に聞けると思ってましたが」
昨日の余韻など微塵も残さず――愚かな男にありがちな、“一度寝たら俺の女”という雰囲気は無かった。
昨日の行為で調子に乗って、馴れ馴れしい口調で呼んで来たら一喝してやろうと思っていたが、そこは、さすが“前の”私が恋人としていただけのことはある、といったところか。
公私の区別はキッチリやるようだ。
「戦術機なんかより、昨晩のアンタの方が異常よ」
「自分でもそう思うので、否定できませんね。まあ、次は抑えますよ」
“次”があるのが当然というように、白銀は答えた。
「そう願いたいものね。まさかこの年でオモラシさせられるとはね」
「だから、手加減しますってば」
お互い、苦笑と皮肉を交じえた。
…………………………
「XM3ができたわ。プロトタイプだけど」
私の部屋に入った白銀に、開口一番。
「っ!――早いですね。開発を始めたの、昨日でしょ?」
白銀の驚く顔は、初めて見たような気がする。
「“前の”世界で作った時より設備も要員も充実してるし、アンタの中で完成系が出来上がってたからね」
「そりゃそうでしょうが、──凄いな」
にっこり微笑む白銀。一瞬、見とれる。
――この私を、一晩寝ただけでこうまで変えてしまうとは……白銀と寝るのは早すぎたかもしれない。
しかし、私の意地にかけて、頬を赤らめるような初心な反応は見せてあげない。
「ピアティフと社を貸すから、調整を進めなさい。まりもは訓練部隊の教練時間以外は空けてあるから、調整して適当にやるといいわ。――ああ、社は今日は眠らせてあげなさい。プロトタイプ作るのに徹夜だったんだから」
「了解。A-01への顔合わせはいつにしましょうか?」
「アンタの好きにしなさい」
「では、明日中に使える形にしておきますので、明後日に顔合わせと、XM3の座学、シミュレーターでの演習を行えるようお願いします」
白銀は当然ながらA-01の事も知ってた。
“前の”世界でオルタネイティヴ4の再移行時に、今のメンバーで残っていたのは伊隅、速瀬、涼宮姉妹の4名。他は戦死。
A-01部隊はオルタネイティヴ4の凍結時に、各地に分散され、警備などの閑職に回されたそうだ。
白銀たち207小隊は、彼女らのバックの力もあってか、分散はされなかったようだが、アラスカのユーコン基地に飛ばされた。
そして、いつしかアラスカ方面にBETAが集中し、武勲を立てる機会を多く与えられたものの、白銀以外は皆戦死。
「飛ばされた所が逆なら、俺が伊隅達に敬語を使ってたでしょうよ」
とは白銀の言だ。それは贔屓目もあるだろうが、伊隅たちの力を認めている事は間違いない。
白銀の部下として申し分の無い働きをしたそうだ。
「2日後ね、手配しとくわ」
そう、確かに私はピアティフを貸すといったが――“ああいう”使い方までされるとは思いもよらなかった。
このとき、私もまだ白銀武という男を把握しきれていなかったのだ。
…………………………
<< イリーナ・ピアティフ >>
10月25日 午前 国連軍横浜基地 シミュレーターデッキ
先日現れた謎の青年、白銀武。
香月副司令は、どう見ても10代後半の彼に、少佐の地位を与えた。
衛兵とのやりとりから、副司令の元へ行くまでに見聞きした事を考えると、彼は無階級だったはずだ。
それに、その時のシミュレーターでの驚愕の結果。
指の震えを隠すのに、表情を保つのに必死だった。
文官出身だが、それがどういう意味を持つことかくらい、十分に理解している。
私は、香月夕呼という女性の凄さを知っている――つもりだ。
あの年齢にして、年配の政治家、高官と互角以上にやりあう知力と胆力。
どこまで先を見ているのか、深遠な思考は、何人も測ることは適わない。
彼女は、どれだけの異才を目にしても、せいぜい「まあまあね」という感想を口にするだけだ。
私の知る限り、衛士として最も完成された伊隅大尉。
その大尉を育て上げ、自身も衛士として優れた能力をもつ、神宮司軍曹。
どちらも「まあまあ優秀な衛士ね」と評価されたことを覚えている。
――その彼女から「凄腕」という評価を与えられることは――そういうことなのだろう。
驚異的な速さでプロトタイプのバグ修正と、データパターンを積み重ねる。
10時間以上、ほとんど連続でシミュレーターに乗っても平然としている。これだけとっても異常だ。
そして、2日目も早々に、作業が完了した。
「これで基本形は完成だな。さすがはピアティフ中尉。感謝する」
「ありがとうございます。ですが、私の力など微々たるものです。基本プログラムは社の手ですし、白銀少佐の発想と操縦技術が大きいでしょう」
謙遜ではなく、本心からそう思う。私が昨日の作業で音を上げなければ――というよりも、少佐が私の疲労に気付いて、作業を切り上げてくれたのだが――昨日の内に作業は終わっていたはずだ。
しかし、私は少佐の真の凄さを、この後思い知らされることになる。
「では、時間が余ったな。副司令への報告前に、一服入れないか?」
少佐の提案に、私はうなずいた。
――そして、どうして“そう”なったか経緯はよく覚えていない。
ただ、彼がとても優しく――時折、野獣のように――私は8時間もの間、延々と蹂躙され続けたのは確かだ。
数日後、私と白銀少佐の関係に気付いた副司令に、緊張とともにこの2日間の出来事を正直に話すと、責めるでもなく、
「アイツ、最初からそのつもりで2日もとったのね」
とおかしそうに笑っていた。
…………………………
<< 伊隅みちる >>
10月27日 午前 国連軍横浜基地 ブリーフィングルーム
私は今、香月副司令と、新任の白銀少佐――先ほど他のメンバーに先立って紹介された――の隣に立っている。
「白銀武少佐だ。よろしく頼む」
今日は新プロジェクト――新OS、XM3の慣熟訓練が始まる日。副司令からは2日前に聞いていた。
なんでも、このプロジェクトの主担当となるのは、これまで存在を極秘にしていた副司令の腹心との事だ。私以外にそのような衛士がいたとは驚きだったが、その人物を見た時、さらに驚かされた。
「よろしくお願いします!」×9
私を除くA-01の9名が、幾分の驚きの表情とともに敬礼する。
私も彼女達と同じ表情をしていたはずだ。
「どうせ聞かれるだろうからあらかじめ言っておくが、俺の戸籍年齢は18才、精神年齢は38才だ」
さっきもそう言っていたが……若僧と思ってあなどるなよ――と、そう言いたいのだろう。
これが技術士官であれば、香月副司令の例もあるので、驚きは少なかっただろうが――衛士。
つまり、我々と同じ畑の人間ということだ。
「俺の担当は新型OS、XM3を貴様等に教導すること。あと、香月副司令の夜伽だ」
――え?よとぎ?って、もしかして、アレのこと?え?
「ちょおっと!何言ってんのよ!」
「おや、何ですか副司令?」
「何ですかじゃないっての!まったくこのエロオヤジが……」
「まあ、数日もすればすぐわかる事です。詮索されるよりはいいでしょう」
「くっ……このっ」
顔を赤くして、怒るに怒れない副司令。“あの”副司令が……信じられない。
私はこの光景を一生忘れないだろう――香月副司令があしらわれて、照れているなど。
こんな反応をするという事は、先ほどの言葉は本当か。
さっきの副司令の反応もそうだが、その事実に皆固まっている。
「――まあいいわ、あとは任せるから、いいようにやんなさい」
この切り替えの速さは、さすがと言わざるを得ない。
さっさと部屋から出て行ってしまった。
<< おっさん >>
「では、任されたので、ここからは俺が仕切らせてもらおう。まず――A-01の自己紹介といこうか。伊隅大尉は先ほど聞いたので結構だ」
伊隅みちる。凛々しいのはこの頃から変わらない。
ギャップが凄いのは委員長と同じだ。というか、このタイプはみなMなのだろうか。
同じMでも、委員長を剛のMとすれば、みちるは柔のMだ。
ハードなプレイで身体的苦痛を与えないと満足しない委員長と違い、言葉責め、鼻フック、アソコの匂いの評価など、精神的屈辱で快感を得るタイプで、ソフトSの俺と非常に相性が良い。
「メスブタ」と囁けばすぐに気をやってしまうので、扱いやすかった反面、顔に唾を吐きかけられて(洋画でケンカを売るときによくやるアレだ)罵倒されるのを好む性癖は、俺もちょっと引いたものだ。
あんまり何度もせがむので、一度やってあげたのがまずかった。拒否すると、やるまで不機嫌な状態が続くようになった。──まあ、大した労力も使わないお手軽プレイなので、すぐに俺も慣れてしまったが。
みちるはかつての思い人への後ろめたさから、自分から迫ってくることはなかったのだが――横浜基地についてから、夜のスケジュール調整は彼女に任せていたが――ほんの少しずつ、自分の割合を増やしているのが微笑ましかった。
それを指摘すると真っ赤になってうつむいたのがあまりに萌えたので、その場で始めてしまったのはまあ笑い話だ。
今回もぜひ確保したい相手だが、彼女の思い人は、今ごろはまだ生きているはずだ。
死んでからもなお思い続けていた相手なのだから、今、彼女が俺になびくことはないだろう。
また、“前の”世界に比べ、XM3と00ユニットの完成が10年も早いので、あの男が戦死しない可能性はそれなりにあるはず。“この”世界では関係を断念することも考慮しておこう。
「速瀬水月中尉であります!A-01の副隊長を務めております」
「涼宮遙中尉です。A-01の戦域管制の担当です」
この2人も懐かしい顔だ。
水月は、普段の言動とは裏腹に、2人きりの時は甘えたがりとなる。
――これは水月に限らないが、彼女や真那のように普段勇ましい女は、大抵2人きりの時は反転する。
水月は水泳が得意ということから、風呂場プレイをよくしたものだ。水泳と風呂は関係ないはずだが、このあたり俺もどう繋がったのか覚えていない。
またあの髪を、体を洗うタオル代わりに使わせてもらうとしよう。
遙は結構芯が強く、なんだかんだでいつも彼女の思い通りのプレイになっていたな。
このあたり、なんだかんだで結局俺のリクエストを受け入れる水月とは違う所だ。
遙を使って好き勝手にやったはずなのに、今考えると、そうなるよう誘導されていた感がある。
侮れない女だ。今回は警戒しておこう。
ちなみに、この2人は、よく並べてバックから突いたものだ。
みちる用の鼻フック(ちなみに委員長の形見だ)をつけさせ、よりブタの真似をした方を突いてやる、というルールにすると、2人して競ってどんどんブタになっていった。
そのあまりの熱っぷりに我慢できず噴き出したが、その直後、鼻フックをしたままの2人から、袋叩きにされた苦い思い出もある──しかし、アレはぜひ、今回も試したい。
「宗像美冴中尉であります」
「風間祷子少尉です。よろしくお願いします」
こいつらは新顔だな。どちらもなかなかそそる。顔、体、共に申し分ない。
宗像は…(分析)…ちょっと手ごわそうだな。後回しにしよう。
ただ、隙がないわけではなさそうだ。一度壁を突破すればどうとでもなる相手だ。
風間は…(分析)…ふむ、こちらは意外と壁は薄そうだ。2時間弱といったところか。
こいつはおそらく、俺の好きな、なんでも受け入れるタイプだ。優先度を上げておこう。
「涼宮茜少尉であります」
おおう、久しぶりだな茜。
こいつは特に特徴は無いのだが、オールマイティになんでもこなすタイプだ――もちろん、戦術機ではなく、アッチの事だ。
抜きん出たところがないのを本人は気にしているが、俺から言わせてもらえば、なんでも出来るので、空き時間、手持ち無沙汰になったときはよく茜を使ったものだ。累計使用時間は最長かもしれない。
「お前って、特徴ないよな」とボソっと漏らすと、一生懸命俺を喜ばそうと、色々とガンバるのがとてもカワイイやつだった。
意外と姉妹プレイに抵抗があったので、今回もまた苦労するだろうが――まあ、それも楽しみのうちだ。
「柏木晴子少尉であります」
「つ、築地多恵少尉であります」
そして、高原、麻倉と、自己紹介が続いた。
この4人は“元の”世界以来だな。
柏木は同じクラスだったが、他の3人は茜と同じクラスだったか。ラクロスで見覚えがある。
柏木、築地は彩峰ほどではないが、なかなかいいモンもっているな。機会を見つけて揉んでおこう。
高原、麻倉も顔、スタイルともに申し分ない。
――これはまいったな、どいつから手をつけたものだろうか。
<< 伊隅みちる >>
自己紹介の間、少佐は真剣な表情で、我々を見ていた。
その目は、何かの決意を秘めていた。彼もまた、色々なものを背負っているのだろう。
「――では、XM3の座学を行なうが、それに先立って何か質問はあるか?」
「先ほどの38才というのは、どういう意味でしょうか?」
皆に先立って、速瀬が質問する。これは皆が気になっていた点だろう。
「そのままだ。まあ、細かいことは気にするな」
意味あり気なことをいったくせに、あっさり流された。
上官にこういわれると、これ以上は突っ込めない。
「あのぉ、ヨトギってなんですか?」
これは築地だ。夜伽の意味を知る人間――築地以外全員知ってるようだ――は「オイオイ」という表情だ。意味わかんなくても、あのやりとりで察しなさいよ……。
「ん?知らんのか。夜のアレのお相手だよ。ありていに言えば、セックスの相手だ。セックス。まあ俺の場合は夜とは限らないんだが」
築地はやっと理解したのか、赤面してうつむいた。バカめ。
――しかし、真顔でセックス発言とは。少なくともお上品な坊ちゃんではないようだ。
「俺は副司令のお相手ではあるが、恋人ではなく、独占されているわけでもない。よって――貴様等も溜まったらいつでも来い、スッキリさせてやる」
にやりと笑う少佐に、皆一様に引いている。
任務上、このような人物と会う機会はなかったので戸惑っているのだろう。
少佐は、我々がどう反応するか、楽しむようにニヤニヤと眺めている。
だが、香月副司令の言葉で振り回されることの多い我々は、このような時回復も早い。
さっそく、不敵なことでは群を抜く宗像が発言した。
「速瀬中尉。中尉が最も溜まっていると思われるので、この際お世話になってはどうです?」
いつものように速瀬に振った。この後の流れは容易に想像が付く。
「はあ?何言ってんのよ。あんたこそ、気持ちよければいいっていつも言ってんじゃない」
「私は適度に発散してますので――速瀬中尉は白銀少佐と気が合うのでは?なにせ速瀬中尉は戦闘に性的快感を感じる、一種の変態ですから」
「な、宗像ぁ!」「って、築地が言ってました」「築地ぃ!」「うそぉ!?」
いつものやり取りで、他のメンバーも膠着が解けたようだ。
その反応に満足したのか、白銀少佐が笑い声を上げた。
さっきの宗像の発言は、少佐のことも変態呼ばわりしたようなものだが、気にもとめていない。
その程度でヘソを曲げるような器量ではないようだ。
「はっはっは、いいなお前ら。気に入ったぞ。――しかし速瀬、戦闘なんかで満足するのは不毛だ。俺が矯正してやろう。今晩来るか?」
「い、いいえ!結構です!」
少佐とて本気で言ってないだろうが、速瀬の慌てた反応を楽しんでいる。
「それは残念。さて、おしゃべりはこのへんにしとこうか。座学をはじめよう」
内容は無茶苦茶だが、良い感じで空気がほぐれたようだ。
シモネタで緊張をほぐす軍人は、そう珍しい存在ではない。
A-01にはいないタイプだったが、これが彼のやり方なのだろう。