【第9話 おっさん中毒】
<< 榊千鶴 >>
11月8日 午後 国連軍横浜基地 ブリーフィングルーム
張り詰めた空気の中、白銀少佐の鮮烈な挨拶が続いている。
「俺の年齢は、貴様等と同じく、18だ」
──驚いた。
まさか、私達と同じ年で、そこまでの地位に……一体、どういうカラクリだろう。
「だが、俺は貴様等の、近所のお兄さんでも、幼馴染の友達でもなんでもない。間違っても、どこかの馬鹿みたいに、馴れ馴れしい口なんぞ叩くなよ」
ピクっと彩峰が反応したのがわかった。
──まさか、“あの”日、屋上に行ったとき?
「──しかし貴様等も物好きなことだなぁ。徴兵免除があるというのに、わざわざ戦場に出たがるなど」
そうやって、ニヤニヤとこちらを見る。……嫌な感じだ。
私は、私の目的があって軍に入隊したんだ。みんなだって……彩峰だってそう。
いくら上官とはいえ、その事を馬鹿にはされたくない。
そんな思いをよそに、白銀少佐は、顔を真剣な表情に戻して話を続けた。
「いいか、戦術機はもちろん、武器、弾薬、食糧、それらの維持費、職員の給与──あらゆるものにコストがある。そして、半人前の貴様等は、そのコストを食うだけのお荷物そのものだ」
軍は命ですらコストで計られる。
確かに、戦場に出ることもない、戦術機にも乗れない今の私達は、軍にとってはコストを消費するだけのお荷物だろう。
けど、任官した暁には──それを返すだけの覚悟はある。みんなも想いは同じはずだ。
「よって、一人前の扱いをされると思うな。将軍の縁者や高官の娘だというが、そんなものが教練に考慮されると思うなよ!──貴様等は平等に“価値がない”のだからな」
“無価値”──か。
私達の事を、こんなにはっきり面と向かって言われたのは初めてだ。みんなもお互い不干渉にして、触れなかったことだというのに。
少佐の言葉は、いちいち私に──私達に突き刺さる。
「特に……御剣!」
「は!」
「貴様には番犬がいるな?上層部の決定だから、遠巻きに見るのは特別に許可してやる。だが、訓練中に口出ししようものなら、容赦なくブチのめす、と伝えておけ。貴様も番犬どもの助けなど期待するなよ」
「少佐!私はそのような──」
──!
御剣が発言途中で殴られた。倒れはしなかったが、よろめいている。手を軽く振っただけに見えたのに。
番犬とは、あの時折見かける斯衛のことだろう。神宮司教官もこれまで触れなかったことを、こんなにはっきり言われるとは。
──しかし、こうまで言われると、自分達が他の訓練兵よりもだいぶ違うというのが、いやがおうにも理解させられる。
「半人前の貴様等に許された返事は『はい』だけだ。次は“撫で”るだけじゃすまん。俺に2度、同じ事は言わせるなよ?」
あれで“撫で”る?
神宮司教官も教練には厳しい人だったけど、この人は、神宮司教官にない種類の厳しさがある。
総戦技評価演習前に、日程の前倒しを、神宮司教官にくってかかってしまったが、あれが白銀少佐なら、私は間違いなく“撫で”られていただろう。──想像して、身震いがした。
「返事はどうした?」
「はい!」×5
よろめいた御剣も含めて、返事をした──いや、少佐に返事を“させられた”。
「貴様らに誤解の無い様にいっておくが──俺は貴様等が“嫌い”だ。手心を加えられるなどと、都合のいい期待はしない事だ」
全員、息を呑む。
自分の耳を疑ったが──徐々に自分達が何を言われたのかを理解し、唖然とした。
上官から「嫌い」と言われることなど、想像もしていなかったことだ。
「最後に、貴様等に1つだけ、俺のお勧めの方法を教えておいてやる。訓練がキツくなったら、貴様等の“保護者”に、『訓練が辛いので助けてください』と泣きつくといい。まあ、今夜すぐにでもかまわんが、貴様等は徴兵されてここにいるわけではないのだから、すぐに安全な所で、のんびり生活ができるだろう」
少佐は最後まで容赦がなく──我々の退路を断った。
私達はみんな、これからの戦術機訓練に淡い期待をもっていたけれど、それを木っ端微塵に砕かれた気がした。
こうして、私達全員の心に大きなくさびを打ち込んだ、私達と白銀少佐の2度目の対面は終わった。
…………………………
<< 白銀武 >>
11月8日 夕方 国連軍横浜基地 PX
訓練兵の適正検査も終わり、丁度夕食時になったので、PXでまりもと一緒に夕食を取りつつ、今後の話をすることにした。
私的な時間でもあるので、お互い、あまり硬くはならない。まりもも雰囲気がやわらかい。
「少佐はどこかで、教官職の経験が?」
「ああ。詳しくは言えないが、だいぶ前にな。とはいえ、期間は短かったんだが」
まりもが出張していた5日間、A-01の連中を相手にした“リハビリ”で、だいぶ教官としての勘を取り戻した。
これなら、207小隊に、俺なりの教導が行なえるだろう。
「あの子達、だいぶ参っているようです。あれだけ直接的に言われたことはありませんでしたから」
「だろうな、今はそれでいい──いずれは誰かに言われることだ」
“前の”世界でアラスカに飛ばされた後、あいつ等はその経歴から、まわりに随分色々言われたものだ。
陰湿な嫌味は当たり前、特に冥夜は将軍に瓜二つだ。その縁者ということで、“ちょっかい”をかけられることも多かった。
オルタネイティヴ5移行前にそのような“ちょっかい”が無かったのは、バックの力というより、夕呼の保護下にあったというのが大きい。
それが無くなった後、あいつ等は、嫉妬、嫌味、はたまた直接的な暴力にさえ、さらされることになった。
昇進するにつれ、そんな馬鹿共は少なくなったが、皆無にはならなかった。
あいつ等も、嫌味などは「それがどうした」と返せるようにもなっていたが、当初は嫌味な上官にネチネチ言われて、影で涙することも珍しくなかった。
今回は、オルタネイティヴ5に移行する可能性は低いから、そんな機会は無いかもしれない。
だが、物事はどう推移するかわからない。
俺は、今後、馬鹿どもから言われる事をこの時期に言い尽くし、あいつ等の心に耐性をつけさせようと思った。
今なら、俺以外でキツい事を言う人間はいない。多数より1人に言われた方がまだ負担は軽いだろうし、周りが全員敵のように感じたアラスカ時代に比べ、心理的圧迫ははるかに小さいだろう。
「しかし、御剣のことは、斯衛が何か言ってきませんか?」
「大事に育てたいなら自分達でやれ、とでも言ってやるさ。軍曹に何か言ってきたら俺に回せ」
まりもはそれに了解した後、自省するようにため息をついた。
「──私は、平等に扱ってるつもりだったのですが」
「仕方ない。上から考慮しろって言われてたんだろう?軍曹はよくやったほうだよ」
入隊時の段階で、彼女らは、個室を与えられることを始めとして、多岐に渡って配慮するよう、通達があった。
そのように言われて、通常の訓練兵に対するように、殴る蹴るなどはなかなか出来ないだろう。
まりもが彼女らの事情を知り、幾分同情的になったのもあるだろうが、俺はまりもを不公平な人間だとは思わなかった。
いや、まりもでなければ、軍人としてスポイルされていた可能性もある。
「そう言っていただけると救われます。ところで明日からの動作演習ですが──」
「ああ、俺は参加しない。大して見るところもないだろうからな」
「わかりました。いつからご参加なさいますか?」
「連携訓練からだ。日程は訓練兵の進捗次第だな。日々の進み具合を見て判断するから、日報を提出しろ」
「了解」
<< おっさん >>
「ところで、症状は落ち着いたか?」
「はい……お手を煩わせてしまって申し訳ありませんでした」
まりもは恥ずかし気にうつむいた。
「いや、気にしなくていい。俺も楽しんだことだし」
まりものゾンビのような回復力、耐久力が印象に強かったため、失念していたことがある。
──精液中毒。
精液が好きというある意味王道的な性癖だが──その執着心──といっていいのかわからないが、それが他の女よりもとびぬけているのだ。
“前の”世界では、禁断症状が出る前に行為を持つよう、みちるがスケジュールを組んでいたので、すっかり忘れていたのだが、“前の”まりもは、3日くらい経過すると、禁断症状が出ていた。
『精液中毒』という字面だけみると、誰がどう見てもギャグなのだが、まりもにとってはかなり深刻な症状だ。
一度、俺が長期、といっても1週間もかからなかったのだが、その作戦に出たとき、その禁断症状が起こった。
周りは麻薬中毒と思ったのだが、検査をしても当然、麻薬の陽性反応は出ない。
さんざん検査した挙句、軍医には、俺への愛情過多の為に起こった心因性のものと診断された。
俺の精液を味わうか嗅ぐかすると落ち着くのだが、心理的なものだから他の男では駄目なようだ。
まりも自身、「他の男ので代用するくらいなら死んだほうがマシ」と、覚悟を決めていた。
こんな症状が出るほど、俺を愛しているということで、健気には感じたのだが、やっかいなことに変わりない。
何かあった時の為に、コンドームに貯めた精液をいくつかストックするようになったのだが、それを嬉し気に見せられたときは、さすがの俺もどん引きしたものだ。
無論、そんな表情をしたら泣くのは明白なので「そんなに、おもってくれて、うれしいよ、まりも」とやっとの事で口に出したが。
──そういえば、まりもを診断した軍医、グラマーな美女だったのに、なぜか俺のセンサーが反応しなかったのが印象に強い。確か、ホ……なんとかマナミだったか。苗字は忘れたが、名前は真那と同じようなものだったので覚えている。
少し話がそれた。
帰還したまりもは、足をふらつかせながら俺の部屋を訪ねてきた。
久々に、霞と本番をしようと、部屋を出る直前だったが、そんな状態のまりもを放置できるわけがない。
あわてて部屋に入れた直後、まりもに文字通り“襲われた”。
逆レイプされたようなものだが、まりもの症状はすぐに察したので、
──たまには襲われるのもなかなかイイじゃないか
と考えながら、抵抗もせず、狂犬のようになったまりもに身を任せた。
“前の”経験上、まりもが満足すれば収まることはわかっている。
そして、口への射精を5度、強要され、尿意を催しても離してくれなかったので、結局それも飲まれてしまった。
まあ、飲ませるの好きだからいいんだが。
症状の治まったまりもは安心したように、そのまま眠りについたが、今度は俺の方が納まらない。
眠った状態のまりもとするのも乙なものだと思い、軍用ズボンを脱がし、下着をずらした時──俺は噴いた。
『テープ』──それ以上は語るまい。
俺は、まりもの下着とズボンを元通りに戻し、見なかった事にした。大人の対応というやつだ。
しかし、さすがに、自分の中にある5日前の“餞別”を摂取する気にはならなかったらしい。
“前の”世界のまりもなら、すでにイってしまっていたから、迷わず手をつけただろうが……。
今回は初回だったので、5日目で禁断症状が出た。
今後、行為を重ねるにつれ、症状が出るまでの期間は短く、また執着心も増して行くのだろう。
そして、ふと疑問が湧いた。
──あいつ、俺が先に死んだらどうなるのかな……。
症状が止まるか、俺の後を追うか、他の男に走るか。
症状が止まればそれでいい。
2番目は、まりもは衛士の心得を、芯まで浸透させているから大丈夫とは思うが、まりもにとって俺は特別だから、可能性はある。
3番目は……
想像したくないので、眠ったまりもを優しく見つめながら、それ以上考えるのを止めた。
俺が死ななければいいことだ。
…………………………
<< 白銀武 >>
11月9日 午前 国連軍横浜基地 16番整備格納庫
「白銀少佐、吹雪5機、搬入作業完了しました!」
「おー、ご苦労さん。では、機体チェックに移ってくれ。ああ、部品数の確認もな」
「了解!」
今俺は、訓練兵の使う吹雪5機の搬入作業にあたり、整備兵に指示を出している。
なぜ俺がこんなことしているかと言うと、夕呼の「今ヒマでしょ?」の一言で押し付けられたのだ。
207小隊の訓練には、当面の間はまりもに任せてある。
A-01との連携訓練は、まだ先だ。
XM3の慣熟訓練は終わったが、明後日11月11日の、新潟BETA迎撃まであまり日がないので、変にこれまでの編成を崩すよりは、みちる主体で作戦に当たらせたほうが良いと判断した。連携訓練はその後に予定している。
そういう経緯で、この数日、時間が空いた俺は、イリーナをサポートに借り、こうして機体搬入作業を指揮している。
吹雪に続いて、横浜基地では珍しいシルエットが目に入った。
見るものが見ればすぐにわかる。整備兵も、めったにお目にかかれない機体を見て、興味津々だ。
「武御雷だな」
「ええ、将軍殿下ご依頼の機体ですね」
「まあ、殿下の気持ちはわかるが、やはりなあ──うちで、これを訓練兵に使わす訳にはいかんというのに」
そこへ、目立つ斯衛の赤と白──月詠真那と3バカが近づいてきた。
「白銀少佐」
「やあ、月詠中尉」
“この”世界の真那と3バカと、初めて敬礼を交す。
昨日の訓練兵との対面で、冥夜に『伝えろ』と言ったので、番犬うんぬんの話も聞いただろう。──いや、冥夜の性格だと、“番犬”のくだりだけは省いた可能性があるな。
真那や3バカが内心何を思っているのか、大体想像はつくが、前回の邂逅と異なり、今は正式な立会いだ。
うずまいてるだろう殺気をおくびにも出さない。──真那もそうだが、3バカの精神力も馬鹿にはできない。
「武御雷の受入れ、感謝します」
「一機置くくらい、別にかまわんさ。殿下のお気持ちも、僭越だが理解はできる──しかし、御剣への注目は当然増してしまうが、いいのかな?」
「──殿下直々のご要望でしたので」
真那に言っても仕方が無いことだった。今回の事を打診してきたのは“斯衛”そのものだ。
斯衛だって、この機体を冥夜に使わせられないのは理解してるだろう。しかし、殿下がめったに言わない我侭だ。これくらいは叶えてやってもいいと思ったのだろう。
「まあ、うちの整備兵も、珍しい紫の武御雷を見れて喜んでる。この基地は日本人が多いから、士気の上がるやつもいるだろう。デメリットばかりではないさ」
「そう言っていただけると、こちらとしても助かります」
「では、受入は以上で──ん?」
たまが、武御雷の足に抱きつこうとしているのに気付いた。
「珠瀬!」
「は、はい!──あ、少佐!」
207小隊全員が、俺の存在に気付き、あわてて敬礼をする。
軽く答礼を返してやり、たしなめる。
「武御雷はここに置くことにはなったが、管轄は斯衛の方々にある。むやみに触るな!」
「は、はい!申し訳ありません!」
かなり、しゃちほこばっている。
昨日、強烈な台詞を吐いた人物からの叱責と、“前の”世界であったような、真那の手の甲ではたかれる──どちらがマシか微妙なところか。
どちらにせよ、俺がここにいる以上、たまを止めなければならない。
「すまんな、月詠中尉。うちの訓練兵が粗相をした」
「いえ、ご配慮痛み入ります」
「月詠──中尉」
冥夜が、複雑そうな顔でそこにいた。
「冥夜様!私どもにそのようなお言葉遣い、おやめ下さい!」
そして、真那の総戦技評価演習の祝いの言葉──表情は祝ってなかったが──や、真那が、冥夜がここに居る事を快く思っていないこと、それに対する冥夜の意思、武御雷の使用を願う真那、それを断る冥夜のやり取りが続いた。
「──勝手にするがよい」
せめて、ここに置くことの許しを願った真那に返した、冥夜のその言葉で、真那はひとまずは満足したようだ。
「白銀少佐、では、これにて」
「ああ」
月詠中尉と3バカと敬礼を交し、残ったのは俺、と207の連中。
こいつ等にここで言うことは何もないので、まりもの座学に向かわせたが、冥夜だけが途中で引き返して戻ってきた。
「どうした、御剣」
「白銀少佐は……ご存知なのですね」
冥夜におびえや警戒は無い。殴りつけ、嫌いだと明言した相手に対して、ごく自然な態度だ。
──やはり、たいしたものだ、こいつは。器量は、18の頃の俺とは比べ物にならない。
甘ったれの若僧だった俺が、よくこんな凄い女と付き合えたものだ。
かつての冥夜との蜜月時代を思い出し、涙腺に刺激を感じたが、それを堪える。
「まあな。──貴様も複雑だろう。殿下の厚意とはいえ、こいつを貴様に使わせる訳にもいかんが、置くくらいはしてやるさ」
「少佐……」
冥夜は、俺の態度をどう判断したらいいものか迷っているふうだ。
こいつと長々と離すとボロが出るかもしれない。さっさと別れよう。
最後に一言を加える。
「ああ、もし武御雷の事で何か貴様に言ってくるやつがいたら、機密と言え。詳細が聞きたければ白銀の所に来い、と伝えろ。いいな」
「はい!」
──非情に徹すると言っておいて、俺もまだまだだな。──いや、冥夜が特別だからか…。
…………………………
<< おっさん >>
11月9日 夜 国連軍横浜基地 おっさんの巣
機体チェックが忙しく、結局“前の”世界であった、嫌味な少尉2名による、冥夜への詰問には居合わせられなかったが、丁度そこにいた霞によると、至極あっさりしたものだったらしい。
少尉が詰問し、冥夜が俺の言った通り“機密”と“白銀少佐”の名前を出すと、少尉2名はそれ以上ちょっかいをかけることもできなかったようだ。
俺が助言しなくても真那がなんとかしただろうが、詰問されていた時の冥夜のあのやるせないような顔を思い出すと、俺の助言でそれが解消されたのなら、良いかと思う。
まあ、それを俺が言うのはおこがましいとも思う。ここのところ、最もアイツを傷つけてるのは俺だろう。
アイツ等と関係できる可能性が減ってしまうのは残念だが、再び関係を持ちたいからといって、覚悟を曲げるわけにはいかない。
そこまで考えた所で、扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
「速瀬です。お時間、よろしいでしょうか?」
「ああ、どうした、こんな時間に?」
「あの~……」
ふむ、これは──たぶん、アレだな。“前の”世界でもあった。
俺は黙って水月を見る。水月は入ったときからうつむいたままだ。
「……あの~、溜まったらいつでも来いって、おっしゃいましたよね……」
「ああ、スッキリしたくなったか?」
「はい……もしよろしければ、お相手お願いします……」
そう、以前、遙を“キー”と言った理由がこれだ。
“前の”世界では、遙は水月に、それはもう延々と赤裸々に、俺との行為を連日、細部に渡って説明したらしい。
俺との約束が無い夜は特に酷く、女盛りで経験のない水月を、悶々とさせるには十分過ぎた。
死んだ想い人への想いについても、同じ立場のはずの遙がちゃんと心を整理して、新しい楽しみを見つけたことや、遙がそれだけ心酔するくらいならという気持ち、親友と同じ位置にいたいという気持ちもあり、その悶々度が最高潮に達したとき──水月は自ら俺に身をゆだねた。
──ある意味、遙による洗脳のようなものかもしれない。
だが、俺は“前の”世界も含めて、遙には何の指示もしていない。
水月に話す事を禁止もしてないから、そのうちこうなるだろうとは思ってはいた。
しかし、今回はまだ若いから、それほど早くは欲求不満にならないと思っていたが……いや、若さゆえ、だろうか。
水月は初めてのはずだ。
これが明日なら、翌日の出撃に影響が出るといけないので、断ったかもしれないが、お互い間が良いことだ。
俺としても水月の、すばらしいバランスを誇る肢体をみすみす見逃すほど、阿呆ではない。
「いいだろう、では、こちらに──」
こうして、今夜の饗宴が始まった。