抜けるような青空をバックに俺を見下ろす一人の美少女。
ピンク色の頭に特徴的なロリ体型。
不機嫌そうに眉根が額に寄っているが、その仕草もかわいさに拍車がかかっている。
神が作り賜うた奇跡の存在が、そこにあった。
間違いない。
見間違えるはずなんてない。
ルイズちゃんだ。
あのルイズちゃんがいる!
俺の目の前にいる!
「いやっほぅ!!」
とりあえず寝転がりながら叫んでおいた。
ルイズちゃんがビクッとした。
……かわいい。
まるで妖精のようだ。
あぁ、興奮してきた。
まさか、こんな日が来るとは思わなかった。
俺の想いは常識とか次元とか、そういう諸々のアレを色々アレして飛び超えたらしい。
ただのヲタ趣味のおっさんである俺が、気が付いたらここにいる。
さよなら地球。
ようこそハルケギニア。
今日から俺は召喚された愛の戦士。
英語で言うとラ、ラヴ……?
ラヴ……ウォリャー?
まぁ、それはいい。
ひとまず置いておこう。
ここに俺がいるという事実が重要なのだ。
いつの間に、とか、どうやって、とかは関係ない。
細かい原理も知らない。
むしろどうでもいい。
目の前にいるルイズちゃんだけが今の俺にとっての全てなのだ。
「ひゃっほーーッ!!」
立ち上がって力強く叫ぶ。
俺の叫び声は青空に吸い込まれていく。
あの空も俺を祝福してくれている。
爽快感マックス。
胸の高鳴りはノンストップ。
今の俺なら徒歩でも行けるぜガンダーラ!
ビバ・異世界!
あぁ、何て素晴らしいんだ!
まさか本物のルイズちゃんに会えるなんて!
もう死んでもいい。
もう死んでもいい!
「もう死んでもいい!!」
あ、しまった。
声に出てた。
俺の声に驚いたのか、またルイズちゃんがビクッとしてる。
心なしか怯えているようだ。
「おっと、驚かせてしまったようだね。ルイズちゃん」
「あ、あんた……。何で私の名前知ってんのよ……!?」
「そんな事はどうでもいい!」
「どうでもいいって……」
「今の君には至急やる事があるんじゃないか!?」
「え? え?」
唖然とするルイズちゃんに畳み掛ける。
「さぁ、契約の儀式を! 召喚したんだから契約を! さぁ! さぁ! さぁ!」
ルイズちゃんに詰め寄る。
俺が詰め寄っただけ後ろへ下がるルイズちゃん。
だが俺は諦めない。
ここで諦めたら試合終了だって安西先生も言ってたからだ。
「早く契約の儀式を!!」
ルイズちゃんの肩をがっしり掴み、じっと目を見つめる。
やっぱりかわいい……。
しかもいい匂いがする。
あぁ、これが本物の香り。
味わい深いフローラルで上品な香り。
さすがは貴族です。
感服致しました。
「素晴らしい。この香りは世界を狙える」
「ひぃッ!?」
あ、ルイズちゃんが俺の手を振りほどいてのけぞった。
ひどいやルイズちゃん。
「コルベール先生ぇ……」
ルイズちゃんがハゲを呼ぶ。
後ろの方で、生徒達と一緒に俺を遠巻きに眺めていたハゲがやって来た。
「えーとですな……。その、とりあえず召喚は成功したようですし、契約した方が……」
「で、でも、相手は平民ですよ!? しかも何か変です! おかしいです!」
「しかしですなぁ……。これは伝統ある決まりですし、どうしようもないのです。諦めなさい、ミス・ヴァリエール」
「そんなぁ……」
泣きそうな顔しても駄目だぜ、ルイズちゃん。
これはもう運命なんだ。
それにしてもいい匂いだなぁ。
「とりあえず、契約だけは済ましておきなさい」
「はい……」
ハゲに促されてルイズちゃんが小さな杖を取り出して振った。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ……」
諦めた口調でそう言って、こちらへと近付いて顔を寄せてくる。
……チャンスだ!
「……え?」
俺はルイズちゃんの背中に腕を回してガッチリとホールドした。
これでもう逃げられないよ。
というか、逃がさないぜ。
「ターゲットロック! パイルダーオン!!」
「んんッ!?」
ベロチュー。
その名の通りベロを入れたチュー。
俺の舌は蛇のように蠢いてルイズちゃんの口内を蹂躙する。
舌に舌を絡める濃厚なディープキス。
ルイズちゃんはあまりの衝撃に体が硬直してなすがままだ。
ちなみに俺の下半身の一部も硬直している。
でも、俺は紳士だから今はキスだけで我慢だ。
ルイズちゃんは全然動かない。
……都合がいいからもうちょっと堪能させてもらおう。
「……ぷはぁッ!」
とりあえず、自分の息が続かなくなるまでキスしておいた。
そして俺が唇を離した瞬間、ルイズちゃんは真っ赤な顔のままぶっ倒れた。
どうやら酸欠になったらしい。
「ちょっとやりすぎちゃった。てへ」
俺は唖然呆然としている生徒達とハゲ先生に向かってそう言った。
てへ。の部分がチャームポイントだ。
「うおおおおおおおおッ!?」
戸惑いと混乱が入り混じった、怒号のような歓声とざわめきが俺を包んだ。
「だ、誰かルイズを運べ!!」
「タバサ、あんたの召喚した風竜の背中に乗せてあげて!」
「分かった」
「そ、その前に治療を……」
「いや、まずは学院へ連れて行く方が先ですぞ!」
俺を無視して事態は進行する。
怒涛の急展開。
俺はやる事がないので、ぼけーっと傍観しておいた。
すると、ルイズちゃんはタバサちゃんの召喚した風竜の背に乗って学院の方へと運ばれていった。
コルベールのハゲ先生も付き添いだ。
先生が行ったという事は、当然他の生徒も後を追う。
つまり……。
「あれ? 俺一人?」
風が頬を撫でた。
ちょっと寒い。
心情的とか色んな意味で。
今までゼロの使い魔関連の色んな二次創作は読んできたけど、召喚直後に使い魔が放置された例は初めてじゃなかろうか。
まぁいい。
今日からは俺が平賀才人だ。
理屈や原理は不明だが、俺の体は高校生の時のようなボディになっている。
どうやら、平賀才人の体への憑依とかいうやつらしい。
なら、平賀才人になりきってやるぜ!
そんな決意をした。
ちなみに、体についてはたった今気付いたのは秘密だ。
「俺はやるぞーー! ルイズちゃんは俺のもんだ! うぉおおおおおおおおおッ!!」
両手を挙げて、大空に向かって雄叫びを上げる。
新たな日々、新たな生活がここから始まろうとしていた。
──でも誰もいない草原は、ちょっとだけ寂しかった。