例えば、己の一生がすべて定められていたとしたらどうだろう
人生におけるあらゆる選択、些細なものから大事なものまで、選んでいるのではなく、選ばされているとしたらどうだろう。
無限の可能性などというものは幻想であり人はどれだけ足掻こうとも、定められた道の上から降りられない。
富める者は富めるように。貧しき者は飢えるように。善人は善人として、悪人は悪人として。
美しき者醜き者、強き者弱き者、幸福な者不幸な者
――――そして、勝つ者負ける者。
すべて初めからそうなるように……それ以外のモノにはなれぬように定められていたとしたらどうだろう。
ならばどのような咎人にも罪はなく、聖人にも徳などない。
何事も己の意思で決めたのではなく、そうさせられているのだとしたら?
ただ流されているだけだとしたら?
問うが、諸君らそれで良しとするのか?
持てる者らは、ただ与えられただけにすぎない虚構の玉座に満足か?
持たざる者らは、一片の罪咎なしに虐げられて許せるか?
否、断じて否。
それを知った上で笑えるものなど、生きるということの意味を忘れた劣等種。人とは呼べぬ奴隷だろう。
気の抜けた勝利の酒ほど、興の削げるものはない。運命とやらに舐めさせられる敗北ほど、耐え難い苦汁はない。
このような屈辱を、このような茶番劇を、ただ繰り返し続けるのが人生ならよろしい、私は足掻き抜こう。
どこまでも、どこまでも、道が終わるまで歩き続ける。遥か果てに至った場所で、私は私だけのオペラを作る。ゆえに、諸君らの力を借りたい。
虐げられ、踏み潰され、今まさに殺されんとしている君ら、一時同胞だった者たちよ。
諸君らは敗北者として生まれ、敗北者として死に続ける。その運命を呪うのならば、私のもとに来るがいい。
百度繰り返して勝てぬのならば、千度繰り返し戦えばよい。千度繰り返して勝てぬのならば、万度繰り返し戦えばよい。
未来永劫、永遠に、勝つまで戦い続けることを誓えばよい。
それが出来るというのならば、諸君らが"術"の一部となることを許可しよう。
永劫に勝つために。獣のたてがみ――その一本一本が、諸君らの血肉で編まれることを祝福しよう。
今はまだ私も君らも、そして彼も……忌々しい環の内ではあるものの。
これから先、ここでの"選択"が真に意味あるものであったと思えるように
いつかまたこの無限に続く環を壊せるように
さあ、どうする。諸君ら、この時代の敗北者たちよ。私に答えを聞かせてくれ。
戦うか、否か――。
「た、戦う……! ……………………これ……は?」
そう、この言葉は以前に聞いたことがある。思い出せはしないものの、確かにこの声をいつかどこかで確かに聞いた。
それがいつかは分からないが、この言葉を聞いたスクィーラは即座に「戦う」という選択肢を選んだ。
再びこの言葉を聞いた今この時も迷わず戦いを選んだ。
しかしいつ自分はこの言葉を耳にしたのだろうか? つい数日前のような気もするし、気の遠くなる程の長い昔のようにも思える。
「分からない、分からない……」
スクィーラは今の自分の気持ちをつい言葉に出してしまう。そもそもこの場所は何なのか? 目の前には何かがぼんやりと映像のように
映し出されている。スクィーラは目を凝らしてそれを凝視する。
「……何の用? 貴方に伝える言葉なんてあるわけないでしょ……」
「貴方達が我等のことを「人間」と認めればそれでいいのです。認めさえすれば直ぐにでも貴方達二人を自由にしてさしあげるのに」
「ふざけるな!! 罪もない町の人々を殺した癖に!! こんなことが出来るお前は最低のドブ鼠だ!! 人間などと認めるか!!」
「ったく、町の連中は皆それを言うぜ。お前等もミノシロモドキの記録を聞いただろ? 誰が何と言おうとこいつらが「人間」だったのは事実なんだからよ。いい加減
認めたらどうだ?」
「お前等がしたことは畜生にも劣る所業だ! 殺された人達に謝れ!!」
「……るせぇよ」
「え?」
「ごちゃごちゃ五月蠅いんだよ糞餓鬼。こいつらバケネズミは人間様に服従するロボットだとでも思ってんのか? 自分達の境遇がどんな悲惨なものだったかをこのスクィーラは
知ったんだよ。なら聞くがお前等町の人間が今ままでこいつらをゴミのように殺してきた事実は嘘だってか? 平然とコロニーごとバケネズミを消すってやり方してきた癖して
自分達がやられればそれかよ。消されたバケネズミ共の中に何人今のお前みたいな考えの奴がいただろうな。「今まで従ってきたのになぜ殺されなければならない?」って考える奴
が一人もいないとでも思ってんのか?」
この光景も見たことがある。牢屋に入っている、渡辺早季、朝比奈覚に対して啖呵を切る金髪の男。
しかしこの男が誰なのかは思い出せない。過去に幾度か会い、そして共に戦ったという断片的な記憶しか分からない。
自分の目の前に広がる光景にスクィーラは歯がゆい思いをしていた。
「この光景は何なのだ……? そして私の隣にいるこの男は誰なのだ……!?」
そして目の前の映像は次に切り替わる。
「なんだそういうことか。いや、嫌いじゃねぇぜそういう賭け。最後に勝ちを狙うんならそれ位危険な綱渡りも必要だろ」
「これも我等バケネズミにとっては必要なことだったのです」
「スクィーラ、お前自身望むことは一体何だ?」
「私は……我等の真実を町の人間達に伝えられれば……」
「■■様、私はミノシロモドキを持って部下と共に明日、町へと赴こうと考えております」
「何する気だ?」
「決まっております。ミノシロモドキに記録された真実を町の人間達に伝えるのです。この事実を知れば町の人間達も我らのことを考えなおすやもしれません」
謎の男との会話が続く。映像の中のスクィーラが男の名前を喋ると、雑音が入り、名前までは聞き取れない。
そして次の映像が目に入る。
金髪の男が、監視員に襲撃された塩屋虻コロニーを駆け回り、監視員達を排除しつつスクィーラに対して怒りにも似た怒号を発していた。
「話し合おうとした結果がこれかよ!!」
「お前は甘すぎんだよスクィーラ!!」
自分は果たしてこんな真似をするような男だろうか? スクィーラの胸中にはこんな思いがあった。
町に対しての直訴など馬鹿馬鹿しいだけの徒労だ。そんな真似をした所で町がバケネズミに対する支配
を見直すなど到底あり得ない。
映像の中の自分の姿にスクィーラは驚きを禁じえなかった。そして次の映像が入ってくる。
町の人間達が、柱に縛り付けたスクィーラを楽しげに拷問しているのだ。
それこそ以前自分が受けた無限地獄の刑にも匹敵する程に凄惨極まっている。
そして渡辺早季が、自分を火葬すると同時に、町の屋根から拷問の様子を見ていた金髪の男が、会戦の合図を外で待機しているバケネズミ達に
送る。
自分の命と引き換えに、町を攻撃するという約束を金髪の男としていたのだ。
考えてみれば自分はこのような自己犠牲をするような考えは持っていない。
目の前で繰り広げられる光景の数々が低レベルな茶番の類としか思えなかった。
スクィーラ自身、聖人の類でも、人格者でもない。卑劣で汚く、土の中に暮らす獣そのものの精神をしたバケネズミ。
生きる為には手段を選ばず、平然と非道な真似が出来る。
そして神を称す町の者達に頭を垂れ、傅き、地面の土を舐めながら服従していた神に仕えるバケネズミだった。
自分のことは一番自分がよく分かっている。
だが、そんな歪に捻じ曲げられた自分の姿を見たスクィーラはここに来てようやく確信を持てた。
以前にこれらを「経験」した。目の前で繰り広げられた光景の中に間違いなく自分はいた。あの時、あの場所で
これらの「行動」をしたのだ。
そして、これは都合「何度目」だろうか……?
「覚えている……、覚えているぞ。ようやく思い出した……」
そしてスクィーラが自分がこの不可思議な空間に来る前に、塩屋虻コロニーに来襲した町の監視員達を殺し回っている最中に
ソレ(と目が合ってしまったのだ。あれは間違える筈もなく、自分自身(だった。
なぜ自分はそもそもあそこにいたのか? 自分はそもそも本物のスクィーラなのか? 兎にも角にも、もう一人の自分と目が合った直後にこの
摩訶不思議な空間を漂っていたのだ。この空間は、神野に拾われた時に漂っていた空間に酷似している。
そう思っている時に不意に後ろから声が聞こえてきた。
この声は聞き覚えがある。
ただ発せられただけで、自分の精神を蛇にでも舐められているような感覚に陥る。
「おめでとうスクィーラ。随分と遠回りをさせて非礼を詫びよう」
スクィーラは声のする方に顔を向けると、黒い影法師が茫洋な気配を纏いながらそこにいた。
「貴方は……、確か最初の時の……?」
「そう、黄金の獣の隣にいた私が、最初に君の魂を拾ったのさ」
最初にスクィーラは眩いばかりの玉座の間で目覚めたのを思い出す。思えばあれが最初に目覚めた時だった。
「これもこの時代、この次元の因果律の歪みを矯正する為にしたことだよ。少々回りくどい方法だったがね」
「映像の中の私は……、あれは私本来の姿ではない」
「当然さ。私が色々と小細工をしておいた。ツァラトゥストラの友人、遊佐司狼に関しても、手を少し加えてある。彼の本来の精神(
を考慮すれば、何も手を加えていない状態では、君らバケネズミに助力などしないだろうからね」
黒衣の男は淡々と、スクィーラに真実を聞かせた。この男の本当の目的は分からないが、自分がしなければならない使命は胸に刻まれているのは
理解できた。
「これから君が歩むのは『本当の歴史の時間』だ。自分自身の本当の使命を今こそ果たす時が来た。スクィーラよ、千年後の世界に
戻るがいい。そして町の者達に分からせてやりなさい。本当の神(が誰なのかを」
スクィーラは、黒衣の男の言う言葉に深く頷いた。今更疑問など感じている時間はない。自分のやるべきことがやっと分かったのだから。
「さぁ、戦真館の子らと共に戦うのだ」
影法師の言葉と共に、自分の身体が光に包まれていく。
そう、自分の本当の戦い、役割はこれから果たされるのだ。今までのは予行演習。これからが本当の戦いの始まりなのだ……。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
神栖66町に宣戦布告をした四四八達は、スクィーラを主とする塩屋虻コロニーに来ていた。
町の長である朝比奈富子に対して啖呵を切った四四八は、これから本格的な戦いに備えて、コロニーのバケネズミ達に指示を出していた。
町に対して戦うことを宣言した四四八達を朝比奈富子は部下に手を出さないように命令し、四四八達は戦うことなく無事に神栖66町を
出られた。しかし戦うことを堂々と相手に伝えた以上、戦いは嫌が応でも避けられないだろう。自分達の意思で旧人類であるバケネズミの
側に立ったのだ。それ相応の覚悟をしなければならない。
コロニーのバケネズミ達は暖かく四四八達を迎え入れた。つい先日町の監視員達から助けられた恩を返したいと言って来たのだ。見た目こそ、
モンスターのそれであるバケネズミ達ではあるが、精一杯の感謝の気持ちを示され、四四八を含む、他のメンバーの顔にみ笑顔が浮かぶ。
バケネズミ達の話によれば、町の人間はこの世界で暮らすバケネズミにとって恐怖の対象でしかなく、不可解な理由でバケネズミのコロニーが
消されることも決して珍しいことではないという。
「私たチ……、ズっと怯えテ暮らしてイる……。カミサマ達の怒リに震エル毎日もう嫌ダ……! ずっと怖がっテ生きてイルのハ嫌ダ……!」
たどたどしい人間の言葉で、町に対する恐怖と怒りを吐露するスクィーラの兵士に、四四八は同情を禁じ得なかった。
町の人間達はバケネズミを何でも言うことを聞く家畜だとでも思っているのだろうか? いや、家畜どころか圧倒的に立場が上の町の人間の命令に
何の疑問も抱かないロボットだとしか思ってはいないだろう。自分達よりも遥かに非力な存在をどうしてこうまで苦しめられるのだろうか?
歴史の流れについては町で、朝比奈富子に聞いた通りであるが、だからといってこんな支配体制を許容しろと言うのは余りにも傲慢だろう。
新人類、PK能力者の子孫である神栖66町の連中のしていることは暗黒王朝時代に非能力者を奴隷にしていたサクラ王朝と大差がない。
しかも旧人類の子孫であるバケネズミ達は、祖先を醜い姿に変えられ、今日まで辛酸を舐める日々を送っている。
新人類と旧人類の争いを止める方法はこれしかなかったのか? もっと何か他に方法はなかったのか?
こんな支配体制が長きに渡る戦いの歴史に終止符を打ったというのか?
戦いを止めることができていたとしても、五百年に渡る月日を新人類への服従に費やしてきたバケネズミ達がどんな思いをしているのか町の連中は少しでも考えた
のだろうか? 若しくはバケネズミの立場に同情する人間が一人もいないのだろうか? 同情こそされはするだろうが、それは対等の存在に向けられるものではない。
所詮はか弱い動物、醜く、卑しく、土の中に暮らす動物に対しての見下した思考回路で、だ。
所詮偽善には違いないが、元の四四八達の世界では一般的な「動物愛護」的な考え方すらも連中は持っていないだろう。いや、そもそもそんな偽善すらも連中は作り出すことが
できないのだ。そうでもしなければ五百年もの間バケネズミを支配などできまい。
「人類の未来がどうとか、過去が悲惨だったとか、生き残る為の道についての講釈を垂れ流しておきながら、中身は安っぽい選民思想に毒されてるだけの勘違いした
馬鹿共だな」
四四八は町の人間に対しての感想を仲間達の前で述べる。
「まったくだぜ。今流行りの俺TUEEEEEEEってやつか? 神様気取っといてやってることは底の浅い糞餓鬼共と一緒じゃねーか」
鳴滝は露骨に町の人間達に対して嫌悪感を露にしている。現実の世界で四四八達が通う高校、千信館では不良と恐れられる鳴滝ではあるが、
芯は中々にしっかりとした男だ。
「……柊」
「ああ……」
四四八は、鳴滝と共に塩屋虻コロニーに対して視線を送る気配を察知した。
夢の中で使う「邯鄲の夢」「五常顕象」が、この世界でも普通に使えることに少々驚いたものの、塩屋虻コロニーの外にいる存在を素早く察知できたのだ。
四四八は鳴滝と共に、テントを離れ、気配のする方向に足を運んだ。
二人で森の中に入っていくと、そこには二人の男女が立っていた。
「あんた達は?」
鳴滝が二人に対して尋ねる。服装からして町の人間だろうか。共に二十代半ば程の年齢だ。
「私は渡辺早季」
「俺は朝比奈覚」
男の方は町の長である朝比奈富子と同じ苗字だが親類だろうか?
「貴方達は何故バケネズミに味方をするの?」
「決まっているだろう。町が彼等に対して何をしてきたと思う?」
渡辺早季と名乗った女が、心配そうな表情で四四八達に言葉を投げかける。
「今までの良好な関係を破壊したのはバケネズミだ。そんな奴等を生かしておく道理はない」
「彼等が町との関係を良好だと本気で思っているのか? 彼等がどんな思いをしながら町の支配を受けてるのかあんた等は考えたのか?」
少々苛立った様子の朝比奈覚が、反乱を起こし、町を裏切ったバケネズミが全面的に悪いかのように言う。それを聞いた四四八は
町の人間達に対する悪感情がより一層強まった。
「奴等と町とで今までは良好な関係を築いてきたんだ。それを塩屋虻の連中が滅茶苦茶にした! 罪もない町の人達を平気で殺し回ったケダモノ共に
何故味方する!?」
「いい加減にしろ! 彼等を家畜か何かだとしか思えないのか!?」
「当たり前だろう! 連中の価値など、それ以上でもそれ以下でもない」
バケネズミが全面的に悪いかのような覚の言葉に四四八は激高する。
「あいつらは俺達を神だと敬っているが、それはそうさ。俺達とバケネズミとの関係は今の社会構造の一部なんだよ。そんなことも理解できない奴が
俺達を非難する資格はない!! ここまでの歴史の流れを見れば、バケネズミ共は支配されるべき存在だってことが理解できるだろう。醜いあの連中に
同情なんかするとでも思うか? あのケダモノ共は俺達に従って始めて価値があるんだよ! お前達が思っているのは大方俺達を極悪な支配者だとでも
思ってるんだろうが、お目出度いことこの上ないな!」
「覚の言う通り。例え私達の支配を受け入れないバケネズミがいたとしても、それは社会構造を受け入れられないだけの落伍者だと思う。外来種のバケネズミ
なんかがそうね。私達町と、バケネズミの関係を単純に善と悪なんてきって捨てるなんてお門違いよ」
覚、早季はバケネズミに対して町が行う支配に疑問など抱いていない、バケネズミを支配するのが「当然」のことであり、今の社会構造の一部だと言っている。
「確かにコロニーを勝手に消すことはあるけど、そんなことをされるコロニーは単に俺達に従わなかっただけの話だ。今もこれからもこの社会構造は続いていく」
「貴様等……!」
二人の言葉をずっと聞いていた四四八であったが、我慢の臨界点に達していた。これ以上この二人がバケネズミに対する支配を正当化する言葉を紡ぎ出せば、
自分の得物である旋棍を創形し、目の前の二人の頭を粉々にしている所だ。
「オ! お待チ下さいカミさま!!」
すると草むらから一匹のバケネズミが飛び出してきた。そして覚と、早季の前に立つと、深々と頭を垂れ、跪いた。
「カミサマ! 私達は苦しんデいます!! カミサマ方の力を敬イながら生きテ参りましたが、カミサマ方は、私達ノコロニーを破壊する行イを何度もしてイます!
私達は使い捨テニされる立場にズット苦しんデきました……! 私達は弱イ……! 弱イからカミサマ方が恐ろしいノです……! こんな私達でも恐怖ハ感ジルことを
分かってくださイ……!」
涙ながらに覚達町の者達の支配に恐怖していることを訴えるバケネズミ。
鬼気迫る勢いでバケネズミの苦悩を理解して欲しいと懇願するバケネズミを覚はただ冷徹に見下ろしていた。
「……そうか。お前は反乱を起こした塩屋虻コロニーのバケネズミだな?」
「ソ、ソウデすが?」
「死ね」
その瞬間、二人の前に土下座していたバケネズミの身体が勢いよく燃え出した。
「ギャァァァァァァアアアア!!!!?? ガミザマ!? カミサマァァァァァアアアア!!!」
激しい炎で燃える中、バケネズミは絶叫すると、その場に倒れ、絶命した。
「反乱を起こしたお前達なら、自分が何をされるか分かっているな? 恐怖を感じる? なら結構だ。自分のしでかした過ちを……」
「おい」
「な、何をする!?」
覚が次の言葉を言おうとした瞬間、鳴滝が覚の目の前に立ち、覚の胸倉を掴んでいた。
「は、離せ!」
「……」
「おい! 離せよ!!」
「……かましい」
「何?」
「べらべらと喧しいんだよ!! 神気取りの糞餓鬼があ!!!!!」
「がべぇ!?」
鳴滝の豪拳が、覚の顔面を思い切り抉り、覚は後方十メートルまで身体が吹き飛んだ。
「さ、覚!?」
「が、がべ……、ぎべ……」
地面に倒れ、顔面を陥没させた覚が呻き声を上げている。
「柊、このコロニーに来てんのはこの二人だけじゃないみてぇだ」
「ああ」
幾らなんでもこの二人だけでこの塩屋虻コロニーを襲うわけがないと思っていた四四八は、森の周囲に複数の人間が潜んでいることを察知する。
「よし……、戦いの開始だ」
四四八は、鳴滝と共に足早にコロニーに戻っていった。