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No.40286の一覧
[0] 習作 civ的建国記 転生 チートあり  civilizationシリーズ [瞬間ダッシュ](2018/05/12 08:47)
[1] 古代編 チート開始[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[2] 古代編 発展する集落[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[3] 古代編 彼方から聞こえる、パパパパパウワードドン[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[4] 古代編 建国。そして伝説へ 古代編完[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[5] 中世編 プロローグ その偉大なる国の名は[瞬間ダッシュ](2014/09/09 17:59)
[7] 中世編 偉大(?)な科学者[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[8] 中世編 大学良い所一度はおいで[瞬間ダッシュ](2014/09/15 17:19)
[9] 中世編 ろくでもない三人[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:47)
[10] 中世編 不幸ペナルティ[瞬間ダッシュ](2014/09/26 23:47)
[12] 中世編 終結[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:55)
[13] 中世編 完  エピローグ 世界へ羽ばたけ!神聖オリーシュ帝国[瞬間ダッシュ](2014/10/19 21:30)
[14] 近代編 序章①[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:38)
[15] 近代編 序章②[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:53)
[16] 近代編 序章③[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:15)
[17] 近代編 序章④[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:42)
[18] 近代編  追放[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:57)
[19] 近代編 国境線、這い寄る。[瞬間ダッシュ](2015/10/27 20:31)
[20] 近代編  奇襲開戦はcivの華[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:26)
[21] 近代編 復活の朱雀[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:47)
[22] 近代編 復活の朱雀2[瞬間ダッシュ](2016/01/22 21:22)
[23] 近代編 復活の朱雀3[瞬間ダッシュ](2016/01/29 00:27)
[24] 近代編 復活の朱雀4[瞬間ダッシュ](2016/02/08 22:05)
[25] 近代編 復活の朱雀 5[瞬間ダッシュ](2016/02/29 23:24)
[26] 近代編 復活の朱雀6 そして伝説の始まり[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:33)
[27] 近代編 幕間 [瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[28] 近代編 それぞれの野心[瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[29] 近代編 パナマへ行こう![瞬間ダッシュ](2017/04/14 22:10)
[30] 近代編 パナマ戦線異状アリ[瞬間ダッシュ](2017/06/21 22:22)
[31] 近代編 パナマ戦線異状アリ2[瞬間ダッシュ](2017/09/01 23:14)
[32] 近代編 パナマ戦線異状アリ3[瞬間ダッシュ](2018/03/31 23:24)
[33] 近代編 パナマ戦線異状アリ4[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:31)
[34] 近代編 パナマ戦線異状アリ5[瞬間ダッシュ](2018/09/05 22:39)
[35] 近代編 パナマ戦線異状アリ6[瞬間ダッシュ](2019/01/27 21:22)
[36] 近代編 パナマ戦線異状アリ7[瞬間ダッシュ](2019/05/15 21:35)
[37] 近代編 パナマ戦線異状アリ8[瞬間ダッシュ](2019/12/31 23:58)
[38] 近代編 パナマ戦線異状アリ 終[瞬間ダッシュ](2020/04/05 18:16)
[39] 近代編 幕間2[瞬間ダッシュ](2020/04/12 19:49)
[40] 近代編 パリは英語読みでパリスってジョジョで学んだ[瞬間ダッシュ](2020/04/30 21:17)
[41] 近代編 パリ を目前にして。[瞬間ダッシュ](2020/05/31 23:56)
[42] 近代編 処刑人と医者~死と生が両方そなわり最強に見える~[瞬間ダッシュ](2020/09/12 09:37)
[44] 近代編 パリは燃えているか(確信) 1 【加筆修正版】[瞬間ダッシュ](2021/06/27 09:57)
[45] 近代編 パリは燃えているか(確信) 2[瞬間ダッシュ](2021/06/28 00:45)
[46] 近代編 パリは燃えているか(確信) 3[瞬間ダッシュ](2021/11/09 00:20)
[47] 近代編 パリは燃えているか(確信) 4[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:04)
[48] 近代編 パリは燃えているか(確信) 5[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:02)
[49] 近代編 パリは燃えているか(確信) 6[瞬間ダッシュ](2021/12/19 22:46)
[50] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 1[瞬間ダッシュ](2021/12/31 23:58)
[51] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 2[瞬間ダッシュ](2022/06/07 23:45)
[52] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 3[瞬間ダッシュ](2022/12/13 23:53)
[53] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 4[瞬間ダッシュ](2024/01/04 19:20)
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[40286] 近代編  追放
Name: 瞬間ダッシュ◆7c356c1e ID:95ce0ae2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/01/16 21:57
「なんか、こんな状況テレビで見た事あるなあ」

呑気に呟く山本。彼は今、ガタゴトと揺れる馬車の中にいた。
振動がダイレクトに尻に響く粗末な乗り物に乗って、相も変わらず元気な太陽で照らされる大地を眺める。外の風景は太陽と月が昇っては下がってを何度も繰り返すごとに少しずつ変化し、今は荒涼とした大地ながらも緑が目立ち始めていた。それでも、常に視界の中に在り続ける存在があった。それは馬車の両脇と前後を固める、制服を着た兵士たちの姿。彼らはまるで重要人物を警護する集団であるかのように、整然と馬車を取り囲んで行進をしている。
先の呟きは、この光景を指して言ったものだった。
いわゆるVIP、要人待遇であると密かに思った訳なのだが、この国に大いなる繁栄をもたらす人材と自画自賛する山本は、それが当然の待遇であると受け取っていた。
ちなみに、テレビで見たというのはおそらくどこかの国の大統領が来日したときの映像か何かだろう。

(にしても、ホントに槍なんだな。日本で言うところの、戦国時代初期ってところか。ププ)

ウルル公国軍と思われる兵士を見てそう思う。彼らは槍を肩に担いで歩いているが、現代人の感覚で捉えると、どことなく「おもちゃの兵隊」という言葉がしっくりくる。
そもそも槍というのが山本的にツボだった。映画でもドラマでも、武器と言えば鉄砲な21世紀少年な山本には、槍など原始的で武器としては銃の完全下位互換のショボイものでしかない。
自分はトンデモチート保持者なのだからと、その侮りは一層強かった。



――――山本は、これが重要人物は重要人物でも、重要犯罪人的な意味でのそれであるとは全く思っていなかった。正しくは、彼らは山本を護衛しているのではなく護送をしているのであり、この隊列は山本を逃がさないようにするための檻である事に全く気付いていなかった。「どこかおかしい」と、そういう疑惑が欠片も浮かび上がることのないまま、遂に一行はウルル大陸北端の海岸に到着していた。首都は、とうの昔に通り過ぎていたのだ。


「…………首都にしては随分と閑散としているじゃないか」


目の前には、無人の白い砂浜が広がっている。遠くに見えるのは、透き通るような蒼い海と空だ。一大リゾート地のような場所だが、まさかここが一国の首都とはどうにも思えない。というか、人が住んでいる形跡すらなかった。
まさかこのまま海水浴でも楽しませてくれるのかと思う程、山本は抜けてはいなかった。
これは一体どういうことかと、山本は自分を連れて来た件の役人を探す。するとその役人は、おもむろに粗末なゴザのようなものを砂浜に広げると、そこに座れと催促する。

「ここに座れ」

トゲトゲしい物言いに少しカチンときながらも、とりあえずは言う通りにする。だが砂浜の白さも相まって、山本にはそれが時代劇に出て来るワンシーンに見えてならなかった。お白州の場――即ち法廷だ。

(いやまさかなぁ……)

その考えを自分で否定する。しかしだからと言って、正しい答えが思い浮かぶ訳でもない。
困惑する山本を尻目に、役人は海を背にして山本に相対する位置に立ち、懐から取り出した紙を大仰に取り出した。「ゴホン!」と咳払いを一つ。同時に、公国軍兵士が扇状に山本を包囲する。

「――――?」

その包囲の中に、山本は見慣れない服装をした者達を見つける。公国軍の制服とは違う紺色の詰襟のような、もっと言えば自分と同じ男子高校生の学ランのような服だった。それを身につけているのは複数人いたが、その中でも目に付いたのは、自分と同じ年代の若い者と、その傍らにいるやたら筋肉質の老人だった。人種的にも自分に近しいその二人に、山本の注意が逸れる。だが直ぐにその注意を引き戻される言葉が振りかかった。


「これより! 煉獄院朱雀に対する略式裁判を開廷する!!」
「――――はぁ!?」


役人の口から飛び出してきた突拍子もない言葉に、山本の顔は驚愕の色に染まる。そして混乱のまま、ほぼ反射的に立ち上がった。

「待て! 吾輩はそんな事は一言も聞いていないぞ一体どういう――――ッグゥ!?」
「大人しくしろ!」

思わず掴みかかろうとする山本を押さえつけたのは、山本がおもちゃの兵隊とバカにした公国軍兵士だった。
だがそれでも興奮は収まらない。山本としては、首都に行って王サマなり偉い人に認めてもらい、公式に何らかの依頼を受けるモノとばかり思っていた。だというのに、蓋を開けて見れば明らかな僻地に連れて来られ、その上裁判だと宣言される。地面に押さえつけられながらも、テメエ離せこの野郎と怒鳴り散らす。頭を冷やしてなどいられなかった。

「黙れ! 略式とはいえこれは裁判だ!」
「っ!?」

山本達を扇状に取り囲んでいた公国軍兵士が、その手に持っていた槍の穂先を一斉に突きだす。ギラリと光るその凶器の輝きを見て、ようやく遅まきながらも全てを察した。

(これは罠だ! 騙されたんだ!!)

だが、その時にはもう手遅れ。自称チートオリ主である山本は、まな板の上の鯉の様な無抵抗な有様だった。モヒカン達もこの場におらず抵抗は事実上不可能。山本は彼らに「今より良い生活をさせてやる」と言い残すとそのままルンルン気分で連れ出されてしまったので、助けは全く期待できなかった。さらにチートが発現する気配もない。万事休す。

「グッ……騙しやがったなっ!」

悔し紛れに唸る山本。モヒカン達を連れてくればよかったと思うも後の祭り。既に状況は決定的であり、いま山本に出来るのは、この裁判の成り行きを見守るだけだった。

「蛮族の首領、煉獄院朱雀。その方の罪は以下の通りである。ひとつ、蛮族を使って西の村一帯を不法占拠し、不当に食料を略奪した。この罪、認めるや否や?」

この国の裁判方法がどのような物であるか分からない山本だったが、疑問文で聞かれていれるのだから、答えろということなのだろうと推測できた。ならこのまま黙っている訳にはいかなかった。というよりも、いきなり取り調べもなく罪人扱いでは反論せざるをえなかった。

「否だ! そもそも、我々は蛮族による不当な略奪行為から西方地域を守っていた! 罪に問われる道理は無い!」
「認めないと?」
「当ったり前だ!」
「では、村人たちに食料を要求した件は?」
「それはッ! 正当な労働への対価だ! これで西は安全になったんだから当然の報酬だ!」

略奪容疑に対して、対価と抗弁した山本だった。事実、モヒカン達は時折襲来する蛮族を水際で撃退し続けた。馬による機動力を生かす事によって、より広い範囲を守る事が出来た。こちらは武力を提供する代わりに、向こうはこちらが食べていく分の食料を要求するという共存関係であったと山本は訴える。だが、その必死な訴えも役人――否、裁判官役の男は涼しい顔で「それでは次」と言って受け流す。まともに聞く気はない様だ。

「ふたつ、奇妙な風習を村人たちに強要した。この罪、認めるや否や?」
「否だ! そんな事はやっていない!」
「傷に水をかけて、貴重な水を浪費させる行為は?」
「あれは治療の一環だ! あんたらは知らないだろうが、ああする事でケガの悪化を予防できるんだよ! つーかあれは別に強要していない! 俺がモヒカン達に教えて! ソイツらがやっているのを村人が見て真似しただけだ!」


次にやり玉に挙げられたのは、以前モヒカン達が泥だらけの手で食事をしたり、泥がついたままの状態で傷をほったらかしにしていたから山本が見るに見かねて指導した内容の事だった。山本にとっては当たり前のことが全く行なわれていなくて不衛生だと感じたから、何気なく助言しただけの行為だった。だが、まさか奇妙な風習と非難されるとは思っていなかった。
この辺りで、煉獄院としての仮面が徐々に取れかかり素に戻り始める。だが、本人はそんな事を気にかける余裕もないほど狼狽していた。

これに対しても、裁判官はまたもや意に介した風もなく「では次」とまともに取り合わなかった。まるで結論が既に決まっているかのように。

「みっつ、人の糞や尿を一か所にまとめ怪しげな儀式を行い、あまつさえ畑にまこうとした。この罪、認めるや否や?」
「そ、それは――――!」

ここで山本が初めて言い淀む。
あれは、村に住み始めて最初の頃のことだった。所謂農業チートの一環として、人糞で作った肥料を作ろうとした事があった。だが、この試みは早々に失敗する。

集める段階はうまくいった。基本、糞や尿を遠くに投げ捨てることで処理していた村人たちに対して、捨て場所を指定してそこに投棄させることは何でもない事だった。穴を掘って、ちょっとした屋根を取り付けたりと、小さな野外トイレのような物を村はずれに作ったのだ。だが、その後が悪かった。聞きかじり知識の糞土製作はすぐに暗礁に乗り上げる。

糞を使った肥料は、まず発酵という過程を行ない寄生虫を死滅させる必要がある訳なのだが、その期間を山本は知らなかった。適当に量が溜まっていい感じにドロドロになってきたから早速撒こうとして――全力で止められた。

発酵だの肥料だのいっても所詮は人間の糞な訳で、それを口に入れる作物を作っている田畑にまこうと言うのは常軌を逸した行動に思われたのだ。
大量の糞尿はそれこそ駅の共有トイレ以上の悪臭を放っている。当然と言えば当然の抵抗だった。第一村人たちに理解があったとしても、山本の糞土は全く発酵が足りていなかった。もしもこの状態でばら撒けば、発酵による熱で寄生虫が死なず、村で病人が大量発生する可能性もあったのだから、かなり危険な行為だったと言える。

それらの危険性は小説で読みかじった程度の知識しかない山本には分からなかったが、「クソを畑にばら撒こうとした」と改めて人から言われれば、その人聞きの悪さにハッと気付いた。糞土を使えば収穫量が良くなると分かっていても、確かにウンコで育った作物を食べるのは抵抗があると。
例えばこんな話がある。船の沈没、飛行機の墜落事故等で人間の死体が大量に海に浮かぶような事があると、何故だかその海域の漁獲量が上がるとか。それはエビ、カニ、魚などの肉食の生物が水死体を食べるからなのだが、人間の死体に群がっている海産物を釣り上げたとして、果たして美味しく頂けるかと問われれば多くの人が顔を引き攣らせることだろう。

山本は図らずもそれと同じようなことをやろうとしたのだ。確かに飢餓で苦しむ土地だったら、それでも収穫量が上がると実証されればその行為を認めたかもしれない。だが、何の実績もなく、飢餓が出るほどでもない土地で、ただ糞土の効能を声高に主張しても受け入れられる訳がない。失敗した時のリスク、心理的嫌悪感が実益以上の強いからだ。


「認めるか、否や?」
「…………それでも、糞尿が一か所にまとめたのは清潔になって良かった」

結局、そう絞りだすのが精いっぱいだった。裁判官はそれだけ聞くと、改めて手元の紙に視線を落とす。そして、大きな声で読み上げるように以下の言葉を叫ぶ。

「煉獄院朱雀を大陸から追放処分とする!なお、その配下のパッドゥ族に関しては追って裁きを下すものとする!! 神妙にせよ!!」
「――――っ!」

山本は追放処分の判決が頭の中で響いてしばし、呆然とする。その間に自体は速やかに進行する。まず、海岸に粗末な手漕ぎボートが用意される。そして、公国軍兵士が二人山本の傍らに立ち、両脇に手を入れて持ち上げるようにして強引に立ちあがらせる。あのボートで島流しにしようと言う意図は明らかだった。だが、ここでようやく山本の脳みそが再起動する。そして、フツフツと逆恨みの様な怒りが燃え上がってきた。

「ふ、ふざけんな! 俺達はなあ、アンタらの手が回りきれなかった場所を代わりに守ってただけじゃないか!」
「黙れ! 公国はそのような事を頼んではいない! 全ては無許可で勝手に行なわれた事だ!」
「何だと!? 大体俺達が居なくなったら、誰が西の蛮族から村を守るんだよ! どうせ俺達に面子をつぶされたからってこんなことをしてんだろうが!!」

力の限り咆える。
その主張は、ある面では正しかった。国家というものは、基本的に自身以外の第三者が権威と武力を保持するのを許さない。国民が自分達体制側以外の何かに縋っているのは見ていて面白い筈がないのだ。だが一方でそれだけが理由でもない。今回の件で言えば、山本達が西の村に滞在して村人たちから作物を税金のように徴収していたが、これは主権の侵略と取られても文句は言えない。
体制側としては、分離独立を誘発させるような行為を見逃すわけにもいかなかったのだ。山本の行為は、唯でさえ蛮族問題で神経質になっていたウルル公国の神経を真正面から逆なでするものだった。

しかしその問題も、今は解決してしまっている。山本達の様な何処の馬の骨とも知れない連中よりも、よほど力がある存在によって。

「ハッ! 何も知らないのだな。既に大陸にはびこっていた蛮族共は全て討伐された。西の方も、貴様が馬鹿面下げてここに来るまでの間にとっくに討伐されたわ!」

勝ち誇るような顔で、今まさに連行されようとする山本に挑発するような言葉を投げつける。あざけるような言葉にヒートアップした山本は、土俵際の魔術師の様な巧みな粘り腰でその場に留まり、言った裁判官役の役人に反論する。

「ウソついてんじゃねえ! そんな戦力があったらとっくにやってるハズだ!」
「我々には、貴様ら蛮族上がりの賎民共になど頼らずとも、もっと強大で頼りがいのある者達の助力があるというだけの話しだ!」
「――――まさか!?」


はたと思い出す。そう言えば確かに、見慣れない姿が自分を取り囲んでいる者たちの中に紛れ込んでいた。自分と同じ洋服を着こんだ者達。どこかで学ランは元々軍服をモデルにしたと聞いたような気がする――――と山本は頭の中で情報が嫌な方向にドンドンと組み上がっていくのを感じた。
ならばその外部協力者とは――日本で言うところの明治維新以降の段階を迎えている事になる。山本が不都合な真実を知ろうとした丁度その時、ゆっくりと巨大な物体が島影から海の上を滑る様に現れた。


「あ、あれは……! そんなバカな!?」


それは海上に浮かぶ巨大な船、フリゲート艦「菜ノ葉」だ。山本がこの世界に来てから最も高い科学技術で建造された代物だった。木の板張りながらも強力な大砲を腹に抱え、帆を使って外洋を航海できる当時最高峰の海上戦力だった。



唖然とする山本はそのまま強引に小船へと乗せられる。腰にはいつの間にか縄が繋がれており、絶対に逃がさないという強烈な意志が感じられた。と言うよりも、もはや山本に逃げ場はなかった。仮に逃走に成功したとしても、荒野を一人で生きていくことはできないだろう。


「こんな――――クソッ! 俺を誰だと思ってやがる! 俺はなあ! 俺は――」
「黙れ! 大人しくしろと言っている!」


しかし認められない、受け入れる事が出来ない。世界に名を刻みつける(予定)の英雄(自称)が、まさかこのような――追放という不遇な扱いを甘んじるなど、チートオリ主を自負する山本には到底できなかった。しかし、だからと言って何が出来る訳ではない。
公国軍兵士が漕ぐ船の上で、悔し紛れな憎まれ口を叩くだけだった。

「クソッ! ちくしょお! 良い気になるなよこのバカ野郎共! 大国にすり寄る軟弱な弱小国家め! せっかくちょっと助けてやろうと思ってたのに! もう知るかお前らなんてそのまま植民地になっちまえ! バーカ! アホ! あと――――このハゲ!」」

後半は単なる悪口となったが、山本はとにかく罵詈雑言を喚いた。後方から「誰がハゲだ!」と、幼稚な悪口が誰かに刺さったようだが、それでも無力な少年はそのまま船で運ばれていった。
山本の叫びが響く。だがそれもすぐに終わる。山本は最後には叫び疲れ、沖に停泊したフリゲート艦に収容されていった。









「これでよろしいですかな」
「はい。我が国の裁判に御立会頂き、ありがとうございました」
「なんのこれくらい。今後とも良い関係を築いていきましょう。オイ、準備を進めるよう伝えろ」
「ハイッ」

船に乗せられてドナドナされた山本とは対照的に、オリーシュ人側は淡々と帰還の準備をしていた。彼らにとっては、所詮他国の問題なのだ。
オリーシュ軍制服を着た老将と、先ほどまで山本と口論していた役人の2人は終始和やかに今後の事について話し合っていた。この一件より、ウルル公国は神聖オリーシュ帝国と同盟を結ぶことになった。詳しい事はおいおい外交官同士が詰めるのだが、それでもいくつか念を押しておかなければならない事があった。

「つきましては、例の件。どうか滞りなく」
「石炭――ですね。ええお任せを。大至急お国に届けさせます」

ウルル公国より産出される石炭――その輸送。これこそが、オリーシュ帝国がウルル公国へやってきた最大の理由だった。
現在、オリーシュ帝国では大きな動きがある。それは大規模な工業の進化――即ち産業革命だった。
今までの様な、職人が小さな作業場や工房でモノを手作業で生産するのではなく、より大人数で大規模に、さらに機械を利用した大量生産を可能とする「工場」という次世代の生産システム――――それが今まさにオリーシュ帝国に誕生しつつあった。
だが、その工場の稼働に必要なエネルギーは大きく、今までの様な風力水力ではとても賄えない。そこで目を付けたのが、石炭を使ったエネルギーの生産だった。
問題は、国内ではこの石炭が産出できないという一点。そこで広く世界を再度探索した所、ここウルル大陸で豊富に石炭が産出されることを(本人達すら知らなかった)突きとめた。今回の事は、石炭を手に入れる為の同盟――いうなれば石炭同盟だった。
もちろん、今後もウルル公国側が大きくなって有用な資源を活用出来るようになれば、そちらも融通してもらう事は織り込み済みである。この同盟は、オリーシュ側にとってみれば資源を獲得する上で重要なモノになる事は必至だった。


「では、我々はこれで。あの少年についてはこちらでお任せを」


ネタばらしすると、山本の処遇というのは最初から決まっていた。あの裁判はいってみれば形式上、形だけの裁判だったのだ。
山本は実際問題、単なる成り切りのおまけくらいにしか考えていなかったが、「煉獄院朱雀」の名前は本人の予想以上の広がりを見せていた。なんせ公国軍が間に合わずしばしば蛮族からの略奪を受けていた辺境の村々にとっては、多少の対価は必要でも、素早い動きで必ず守ってくれるのならばとかなり好意的に受け止められていた。
国としてそれを放置する訳にもいかない。が、だからといって何から何までオリーシュ軍に頼っていては、煉獄院一派を排除してもウルル公国の名誉挽回とはいかない。今度はオリーシュ側に過度な感謝を持たれてしまう事もあり得た。そこで考えたのが、今回の茶番だった。

計画はこうだ。まず初めに西側以外の蛮族キャンプを全てオリーシュ軍が蹴散らす。そしてその残党を討伐して後顧の憂いが無くなれば、今度はウルル公国軍が全力出撃して西側の蛮族キャンプを滅ぼす。
まずこれで、最低限は民心の回復ができる。その後、頭目を失った残党を処理さえすれば全てカタがつく――――という筋書きだった。
この時、山本が暴れて取り押さえる際にうっかり殺してしまった場合、民衆の反感や残党の暴走等の問題が発生するのが一番困ったのだが、そちらは驚くほどうまくいった。ホイホイこちらの誘いに乗って人目の付かない所に来てくれたと思えば、ちょっと脅しただけで割と素直に追放を受け入れてくれた。乱暴者ぞろいの蛮族を束ねて一つの組織を作った豪傑にしては、あまりにもあっさりした最後で、若干肩すかしをくらった気分だとすら関係者は思った。




「それでは若、行きましょうか」
「――――ああ、うん」



山本が運ばれていった船とはまた別の小船に、オリーシュ人の老人と若者が乗り込んだ。櫂を持って船を漕ぐのは老人で、船はゆっくりと波をかき分けながら進んでいく。老人は手を動かしながら若者を見る。若者は裁判が始まってから始終何かを考え込んでいてずっと喋らなかった。それが少し老人には心配なことだった。
時折この若者が何を考えているのか分からなくなる――それが老人の悩みだった。


「ワシはこのまま陸上部隊をまとめてから本国へ帰還いたしますので、若はどうかあちらの船で一足先にご帰国なさいませ」
「最後までいた方がよくないか?」
「いえいえ。国に帰ればいよいよ一人前と認められます。そうすれば、ワシの様な老骨の名など無くとも部隊を指揮できるようになります。成人の儀もございますし、祝い事は出来るだけ早い方がよろしゅうございます」


フリゲート艦と、兵士を輸送する為の船ではスピードが違う。今回は陸上兵力を安全に運ぶ為にフリゲート艦が護衛を務めたが、既に往路で海上ルートの安全は確保してしまっている。ならば特別な理由がない限り、フリゲート艦に乗船してしまえば早々に帰国できた。

若者――近衛ユウとしては最後まで付き合うのが責任だと思っているが、それでも早く帰らなければならない理由はあった。その理由を考えると、少々ユウは気が重くなる。

「成人――か」


そっと呟いた声は、海風に溶けて行った。遠く北東にある、見えないくらい遥か遠方の祖国を思って、ほんの小さな溜め息を吐いた。



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