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No.40286の一覧
[0] 習作 civ的建国記 転生 チートあり  civilizationシリーズ [瞬間ダッシュ](2018/05/12 08:47)
[1] 古代編 チート開始[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[2] 古代編 発展する集落[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[3] 古代編 彼方から聞こえる、パパパパパウワードドン[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[4] 古代編 建国。そして伝説へ 古代編完[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[5] 中世編 プロローグ その偉大なる国の名は[瞬間ダッシュ](2014/09/09 17:59)
[7] 中世編 偉大(?)な科学者[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[8] 中世編 大学良い所一度はおいで[瞬間ダッシュ](2014/09/15 17:19)
[9] 中世編 ろくでもない三人[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:47)
[10] 中世編 不幸ペナルティ[瞬間ダッシュ](2014/09/26 23:47)
[12] 中世編 終結[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:55)
[13] 中世編 完  エピローグ 世界へ羽ばたけ!神聖オリーシュ帝国[瞬間ダッシュ](2014/10/19 21:30)
[14] 近代編 序章①[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:38)
[15] 近代編 序章②[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:53)
[16] 近代編 序章③[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:15)
[17] 近代編 序章④[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:42)
[18] 近代編  追放[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:57)
[19] 近代編 国境線、這い寄る。[瞬間ダッシュ](2015/10/27 20:31)
[20] 近代編  奇襲開戦はcivの華[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:26)
[21] 近代編 復活の朱雀[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:47)
[22] 近代編 復活の朱雀2[瞬間ダッシュ](2016/01/22 21:22)
[23] 近代編 復活の朱雀3[瞬間ダッシュ](2016/01/29 00:27)
[24] 近代編 復活の朱雀4[瞬間ダッシュ](2016/02/08 22:05)
[25] 近代編 復活の朱雀 5[瞬間ダッシュ](2016/02/29 23:24)
[26] 近代編 復活の朱雀6 そして伝説の始まり[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:33)
[27] 近代編 幕間 [瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[28] 近代編 それぞれの野心[瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[29] 近代編 パナマへ行こう![瞬間ダッシュ](2017/04/14 22:10)
[30] 近代編 パナマ戦線異状アリ[瞬間ダッシュ](2017/06/21 22:22)
[31] 近代編 パナマ戦線異状アリ2[瞬間ダッシュ](2017/09/01 23:14)
[32] 近代編 パナマ戦線異状アリ3[瞬間ダッシュ](2018/03/31 23:24)
[33] 近代編 パナマ戦線異状アリ4[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:31)
[34] 近代編 パナマ戦線異状アリ5[瞬間ダッシュ](2018/09/05 22:39)
[35] 近代編 パナマ戦線異状アリ6[瞬間ダッシュ](2019/01/27 21:22)
[36] 近代編 パナマ戦線異状アリ7[瞬間ダッシュ](2019/05/15 21:35)
[37] 近代編 パナマ戦線異状アリ8[瞬間ダッシュ](2019/12/31 23:58)
[38] 近代編 パナマ戦線異状アリ 終[瞬間ダッシュ](2020/04/05 18:16)
[39] 近代編 幕間2[瞬間ダッシュ](2020/04/12 19:49)
[40] 近代編 パリは英語読みでパリスってジョジョで学んだ[瞬間ダッシュ](2020/04/30 21:17)
[41] 近代編 パリ を目前にして。[瞬間ダッシュ](2020/05/31 23:56)
[42] 近代編 処刑人と医者~死と生が両方そなわり最強に見える~[瞬間ダッシュ](2020/09/12 09:37)
[44] 近代編 パリは燃えているか(確信) 1 【加筆修正版】[瞬間ダッシュ](2021/06/27 09:57)
[45] 近代編 パリは燃えているか(確信) 2[瞬間ダッシュ](2021/06/28 00:45)
[46] 近代編 パリは燃えているか(確信) 3[瞬間ダッシュ](2021/11/09 00:20)
[47] 近代編 パリは燃えているか(確信) 4[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:04)
[48] 近代編 パリは燃えているか(確信) 5[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:02)
[49] 近代編 パリは燃えているか(確信) 6[瞬間ダッシュ](2021/12/19 22:46)
[50] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 1[瞬間ダッシュ](2021/12/31 23:58)
[51] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 2[瞬間ダッシュ](2022/06/07 23:45)
[52] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 3[瞬間ダッシュ](2022/12/13 23:53)
[53] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 4[瞬間ダッシュ](2024/01/04 19:20)
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[40286] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 4
Name: 瞬間ダッシュ◆7c356c1e ID:6e339e4b 前を表示する
Date: 2024/01/04 19:20
「エジプトって国名はこの世界でも同じなんだなぁ……違いは何なんだろ? うーん、謎だ……」

地中海の日差しと潮風を甲板で感じながらオリ主は、海に浮かぶ雄大なアフリカ大陸を眺めていた。天高く輝く太陽は強烈であるが、日よけのための砂漠の民の服を着ているため、体感温度はいくらかマシだった。貫頭衣仕立てで袖口と裾がやや広がっているから風通しがよく色は白、ガラベーヤと呼ばれるものである。ほとんど使うことはないだろうが、港で売っていたので土産感覚で買ったのだった。
南ロマーニャを出発したユウ率いるオリーシュ軍はジブラルタル海峡を目指して航海を開始。しかし、海軍を駐留部隊としておいてきてしまったおかげで、現在オリ主たちが乗っている輸送船団を護衛する軍艦が存在しないという割とキツイ弱点をさらす羽目になってしまった。そのため、進み方に工夫が求められた。

「アフリカ大陸北岸をなぞるように西進し、アフリカ側におけるジブラルタルの最寄りのタンジェという土地を目指す」

というユウの計画にのっとり、船は進行方向左にアフリカを見ながら進むこととなったのだった。これならもし万が一ブリタニア海軍(ブリタニアが引き起こした謀略の暴露はすでに新聞によってオリ主たちの耳にも届いていた)に発見されようとも即座に陸地へ上陸することが可能という目論見であった。オストマルクとガリアが突如裏切ってこない限り、現状最も警戒すべきはブリタニア海軍とイスパニア海軍の残党であることは明白であった。だが

「おっ! 三時の方向、何か見えます!」
「こちらでも確認した……。む、軍旗も国旗も掲げていないな……だが漁船でも商船でもないぞ」

輸送船を動かすための船員たちのやり取りが聞こえてきた。なんだなんだと思ったオリ主は船員たちが指さす方向を自分でも見ようとして、目を凝らす。たしかにそこには船の影が見える。

「なあおい、もしもあの船が敵国の軍艦だったとすると俺たち逃げられんの?」
「まぁ……そこは腕の見せ所ってことで」

近くにいた船員に訪ねると、そんな答えが返ってきた。
海は広いため、目視できる距離から船体同士が触れ合うほどまでに接近するのにかなりの時間がかかるからとのことだった。「なるほど、これだけ距離があればこのままぶっちぎれると」とオリ主は解釈した。そしてある程度リラックスしてその船の動向を見守っているのだが……

「海賊船だ!! 海賊のフリゲート艦が接近中だ!」
「おい、どんどん近づいて行ってるじゃん!」
「……逃げ切れるとは言っていないってことで」

あわただしくなる船上。先ほど頼もしい答えを出した船員を見つけて再び問いただすと、がっくり来る返答が返ってきた。そうこうしているうちに船はどんどんと南へ進んでいく。アフリカの陸地どころか、そこにある岩の形までもが今でははっきり見えるようになっていた。

「上陸用意!! 物資の運び出しは予定通り最優先! 樽詰めにしてあるものから落とせ!」


誰かが発した大声は、アフリカ大陸上陸を不本意ながらも宣言するものとなった。オリ主が購入したガラベーヤは無駄にならなかったらしい。




「どういう経緯でそうなったのかはよくわからんが、何百年か前の戦争でめちゃくちゃにされて、今みたいな状態になってそれっきりらしい」

そう言ったのは、現在地アフリカ大陸はトリポリで一番長く生きているという老人だった。軍隊を引き連れて現れたオリ主たちに一番最初に堂々と相対した人物だった。

「西のオアシスに交易拠点となっている都市はあるが、まあ、基本ここいらは荒地ばっかりだ。見ての通り、岩と砂ばっかでろくに金にならんからな」

老人はヤケクソというか、むしろもう失うものなんて何もないという態度で吐き捨てた。
オリ主たち一行が上陸したトリポリという名前の土地は、エジプトの支配をかつては受けていたことがあるらしい。が、現在は少数の集落が身を寄せ合っているだけで、どこの国にも属していないという特殊な地域であり、そんな地域が西方にはさらに広がっているという状態だった。原因は一言で言うと戦争で、土地を取って取られてを繰り返し、人口が目減りしてもはや維持する旨味もないと思った当時の戦争相手の国が焼き払ったという。以降再建されることなく、当時の住民の末裔たちは国家に頼るすべを失い、いまは交易路の維持をすることで細々と暮らしているとか。
そんな人物に我々はタンジュに陸路にて行きたいと言えば、失笑された。

「ここからタンジェまで歩いて行くだってぇ? さっき言った都市を経由しないで急いでも二か月ってところだな。素人だらけでろくな準備もないまま砂漠に突入して干からびなきゃな」

ここトリポリより西は砂漠地帯が多く、ほとんどが不毛の大地でありほぼ無人である。一応、北岸の一部では普通に農業ができるレベルにまで肥沃な場所もあるらしく、それを頼りに地中海交易の拠点となっている場所もあるにはあるが、基本的にはやはり、ここのような小規模な集落が点在するのがせいぜいとのことだった。

「まあ、それでも行くってんなら、ここで装備を整えな。金……あんだろ?」
「……期待を下げて上げるとはこのテクニシャンめ! で、いくら?」

提示された金額は、まあまあの金額であった。おそらくは足元を思いっきり見ているのだろ。

「……買わないという選択肢はない。すべて買うと伝えてくれ」

こうして、異世界でも普通に言語が通じるというチートをフルに活用して、ユウの通訳を務めて砂漠越えの装備を整えたオリ主たちであった。どのような言語であろうとネイティブスピーカーになれる――社会的動物である人間にとってコミュ力こそ最強なのかもしれない。ただ最後、去り行くオリ主の背中に向かって投げられた「道中、『砂漠の孤児』には気をつけろよお!!」という言葉の意味は、読み取れなかった。

「砂漠の孤児って言っていたが……わかるか?」
「さあ?」

普通に考えてネガティブな言葉であることはなんとなくではあるが理解できた。そして
その言葉に含まれるなんとも言えない「重さ」を感じながらも、オリ主たちはあまり深く考えず意味を尋ねることはしなかった。理由は道中を急ぎたかったからか、それともその意味を知るために現地の事情を詳しく知ることを躊躇ったからなのか……誰にも分からなかった。






ところで、当然ながら北アフリカの気候は日本とは大きく異なっている。それは気温といった想像しやすくわかりやすいものから、思考の隙を突くような違いまでさまざまである。今回オリーシュ軍を悩ませたのは、「夏なのに雨が少ない」という特性だった。北アフリカでは、冬に雨が多く振り、反対に夏には少ないのだ。すなわち、北アフリカを徒歩で横断する者にとっては暑い上に水もないという生きることすら困難な環境となる。雨が少なければ川や池が見つけられない。あってもほぼほぼ干上がっていて水筒を満たすことができない――――喉が渇く苦痛が常態化していく。

遠い大陸の西を目指して出発した部隊は、もはや殺人的と言う以外にない酷暑中での行軍を避け、なるべく日差しのなくなる夕暮れから夜間にかけて行軍を行うことにした。その分到着までの時間が長くなるが、不満を言うものはいなかった。差し当たっての目的地は、北西に向けた2週間程度の距離にあるスファックスという名の遺跡群、さらにそこから北に1週間少し歩いて交易都市チェニスを目指して歩くこととなった。全行程3週間程度の砂漠越えである。

「一日のうち歩ける時間がだいぶ少ないな」
「朝から晩まで歩けるのって、普通じゃなかったんだなぁ……パナマもバカみたいに暑かったけどここほどじゃなかった」

兵士たちがそんなふうにぼやきつつ、手で西日を遮り歩く。最速で行くことを考えるのなら太陽が照りつける日中の砂漠を突き抜ける行軍が要求されるが、いくら準備しようともそんな真似をすれば全滅することは目に見えていた。人類はいまだ、地上すら完全制覇できていないのだ。

「食い物より水の値段が高いってすげぇよな……」

一歩を踏み出すたびに、身体に何かがぶつかる。その正体は各員が持てるだけ体に括り付けた水筒である。その上この時、荷物を運ぶためにラクダを購入したが、その背には持ち込んだ食料をいくらか交換して得た水を持たせていた。優先度が食料よりも水というのが、オリ主含めすべての将兵たちには衝撃だった。日本生まれのオリ主もカリブ海で育った兵士たちも、ここまで水に困った経験がほとんどなかった。そのため、最初はこの過剰なまでの水偏重装備を鼻で笑っていた。もっとも、その後すぐに考えを改めることになるのだが。とにかく水がすべてと言わんばかりの装備は、この後待ち受ける環境がそれほどきついのだと言外かつ端的に教えてくれる。だが、決して砂漠越えの敵は暑さだけでもなければ、水を大量に運ばなければいけないことによる重量だけでもない。答えは、あれほど忌々しいと思っていた太陽が沈んだことで判明する。

「寒いんだけど! ふざけんなよオーブンからだして冷蔵庫に直行される食材かよ俺たちはよ!!」

叫ぶオリ主に、周囲からうるさそうな、それでいて同意の意が込められた目が向けられた。日差しを避けて日中は移動を控える、そして夜に動くというと何やら夜はイージーモードのように聞こえるがそんなことはなかった。夜は夜で昼の気温が嘘のように寒いのだった。
それでも日中よりはましである。日暮れから出発した後は深夜まで寒さに震えながら歩く。乾燥した砂の大地を今度は月が寒々しく照らし、歩くべき道を心細く教えてくれている。月光と砂漠と旅人……一見すれば旅情あふれる光景であろうが、行っている側にしてみればしんどいだけだった。そしてくたくたになりながらも明日に備えて野営して、毛布にくるまって眠る。すると朝、気温の上昇に伴う寝苦しさで目が覚め、けだるげに毛布を剥ぐとその表面は露で濡れているのだ。

「砂漠なんて人間が生きる場所じゃねえ!!」

誰かが叫び、それを聞いた誰かが重く頷く。一晩ですでに、砂漠の環境がいかに過酷であるのかを、分からせられたのだった。




自分でも何が何だかわからないうちに南ロマーニャの王になったカルカーノは、とりあえず急ごしらえで用意された紛い物の玉座にて物思いにふけっていた。一日中座っていることが多くなったが、それがどうにも慣れない。今も尻のあたりがモゾモゾと違和感を感じることに、カルカーノは落ち着かない表情を浮かべる。あるいは何かデスクワークでもあればよかったのかもしれないが、あいにくとお飾りの王である彼に任せられる仕事は権限的な意味でほぼなかった。あるとすれば、そこに座って形ばかりのサインを入れるだけ。ほぼほぼ尻で椅子を温めていれば済むという、ある意味でうらやましい任務のみだった。

「ハタラカないことが、こんなにも苦しいとは……」

思わず、ワーカーホリックみたいな言葉が出てくる。そして、改めて考えを巡らせるのだった。元アステカ領であったパナマにて徴兵され、その後オリーシュ軍の志願兵として祖先の地であるロマーニャへ王としてたどり着く――どこでどう作用すればこうなるんだと言いたくなるくらい、随分と奇妙な人生だ。どんな奇縁・宿命があったらこうなるのか、と。あるいは、自分の家名がそうさせたのではとロマンティックに考えるべきなのか、と。原隊から離脱し、一応とはいえ国王代行的な仕事をしていると、どうしてもとりとめもない考えをしてしまうのだった。

さて、オリ主たちがジブラルタルの地に旅立ってから数週間。そろそろたどり着けただろうかとカルカーノは思っている一方で、当のオリ主たちがアフリカの地にて過酷な砂漠行軍を行っているまさにその時であった。日々を椅子の上で過ごすカルカーノのもとによくわからない知らせが届いた。曰く、パナマから南ロマーニャ行きの交易船に強引に相乗りし、こちらを目指している子供がいるという知らせ――というか噂である。船乗りたちが仕入れた面白おかしい噂話が、人づてに自分のところにまで来たようであった。どうやら暇なのは自分だけではないらしい、とカルカーノは思いつつ、随分と行動力がある子供だと、そんなふうに呑気に思っていた。だがその無茶な行動に自分の妹の顔がちらついたその瞬間、カルカーノの背中にツーっと冷汗が流れた。それは、オリ主が最近覚醒(笑)した危機察知能力だったかもしれない。

「イヤイヤ、そんな……」

流石にそんな馬鹿なことがあるかと頭を振り、カルカーノは仕事を再開した。といっても、椅子を尻で温めて上がってくる報告書に目を通して認印代わりにサインを書くだけのきわめて単純な動作であったが。
もしも彼の立場にオリ主がいたなら、四の五の言わずに即座に仕事を放り投げて逃げ出していただろう。ゆえに、それが出来なかったカルカーノは唐突に開いたドアより飛来したパイナップルを顔面で受けることになった。

「お土産ですわお兄様! ってあらあら。よける動作もできずにまともに受けてしまわれるなんて弛んでませんか? 兵士になって出世したと聞いたというのにそれではいつ暗殺されるか分かったものではありませんわね。か弱い乙女の投擲など軽く受け止めてほしかったものです。それでわれらが一族の悲願を達成できると? なんたる油断! なんたる怠惰! お兄様には偉大なるロマーニャ帝国復活という大義をなす覚悟がおありなのですか?! どうなんですの?!」
「テ、テオドラ……なぜココに!?」
「質問に質問で答えるんじゃありません!!」

テオドラと呼ばれた少女は、倒れたカルカーノを頭上から𠮟りつけた。身長は低いくせに、存在感で身体がその分大きく見える。背中に何か強大なプレッシャーを放つ存在を背負っているかのようである。

「我らが一族が背負った名をお忘れですか? パレオロゴス家! そうロマーニャ帝国最後の皇帝一族の名前! お兄様にはその血が流れているのに気が付いたらすっかり新大陸の庶民に毒されて……そのような訛りが相変わらず抜けていない! 旧領にて王になったと聞いた時はさすがはお兄様やるときはやる男だと尊敬申し上げたのに……うっ……うっ! 庶民に混ざりパナマ運河の工事に参加までして一族の再興を助けようとしているというのに……」

ひとしきり怒鳴ったあと、怒りから一転して悲しげに目元を抑えて嗚咽を漏らしだす。見ると、少女らしく柔らかそうな手には、血豆がつぶれたような跡が。事情は分からないが、妹は妹で真剣であるらしかった。それもあってか、カルカーノはもう完全にこのテオドラという妹に圧倒されて、どうにもならなくなっていた。
だが、これでも死線を潜り抜けてきた兵士である彼は、言わねばならないことはキッチリ言う。

「テオドラ、ここはアブないんダ。いまスグかえりなさい」

カルカーノは自分がお飾りの南ロマーニャの王になったことを聞いて、勘違いしてすっ飛んできたんだと考えていた。いくら賢かろうと真剣であろうと、所詮は子供なのだと。だが実際はここは全然安全でもないし、自分に安全を守るだけの力はない。だが口に出した段階で、不自然さに気づく。自分がここで王になってその知らせがパナマに行き、そこから即座に船に飛び乗ってここを目指してもどう考えても期間が短すぎる。まさか――――

「? そんなのとっくに覚悟しておりますわ。お兄様の所属部隊がヨーロッパに派遣されると知った瞬間から、ヨーロッパ行きの交易船を探して乗れるように手はずを整えてましたから。戦場まで会いに行く気満々でしたわよ!」
「えぇ……」

あっけらかんという妹にカルカーノは言葉を失った。

「本来であれば武功を挙げられるように私が影に日向に手助けする予定でしたが、すでに王を任されるほどの活躍をされていたのはうれしい誤算でしたわ。さあ、さっそく南ロマーニャを我らの兄妹の手で盤石の根拠地としましょう! その訛りもおいおい直していきましょうね?」
「いや、ショセンはあくまでイチジテキなオウサマで……」
「はあ? そんなのもちろん知っていますわ!!」

胸を張って答える。そして、目をギラギラと光らせて微笑みかける。正直、カルカーノは獰猛な獣に相対しているような気分にさせられて今からでも逃げようと考え――--どうせ無理だとあきらめた。人間は、時にあきらめが肝心になることがある。今がその時であった。

「いずれオリーシュ人の正式な主がくるなり放棄されるかまでの暫定的な立場だってその辺の兵士に聞きました。でも王は王でしょう? 今のうちに既成事実化しておけばいいのですわ! 例え正式な主が来ても先に根付いておけばいずれ実権を奪い取るチャンスは訪れる。それは放棄された場合でも同じですわ!」

妹の口から随分ときわどい発言が飛び出して、瞬間カルカーノはドアの方を見た。だれもいなかったが、もしかしてそういうのを知っているからこその発言だったのではないかと考えたカルカーノは悟る。もはや何を言ってもどうにもならない、自分よりよく考えた上で(その内容はともかく)発言しているのだと。

「さあ忙しくなりますわよお兄様! まずはこの土地で今現在一番お金を持っている人間を教えてくださいまし! どうせ元々の一番はとっくに資産を移して別の国に逃亡済みでしょう? 他国に占領されてなおも残っているということはよほどの暗愚かさもなけば愛国者ということ、そこから切り崩しましょう!」

イキイキと策謀を計画し、獰猛な瞳でその内容を語っていく妹の姿を見て、自分の人生はいったいどういう方向に進み始めているのかと改めて思うカルカーノ。ただ、決して平凡とはいかない人生が確定したということだけはハッキリしていたのだった。まあ、今更の話ではあるが。





あとがき
新年あけましておめでとうございます。更新しなければと思いつつも、結局できずに年が明けてしまいました。改めて抱負を。完結目指してかんばっていきたいと思います。


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