Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第二章その8【2004年12月22日17時19分、旧前橋市――第一次防衛ライン】 アークエンジェルが、BETAの増援停止を告げてから約一時間後。慎重に、情勢を見守っていた帝都の帝国軍も、佐渡島から旧前橋市までの直線上とその周囲から、まったく振動波が観測されないという事実に、ようやくこれ以上の増援はないと結論づけたのだった。 これ以上BETAの増援はない。それはイコール、帝都防衛の為、帝都に貼り付けていた帝国軍に、若干の余裕が生まれたことを意味する。帝都の帝国軍首脳部と政威大将軍・煌武院悠陽が、遅まきながら横浜基地に対する援軍の派遣を決断したのは、必然と言える。 戦場となっているのは帝国本土なのだ。いくら中身はほぼ丸ごと帝国軍とはいえ、国連軍の名札をぶら下げた横浜基地所属軍だけに重荷を背負わせる訳にはいかない。まして、最前線で戦っているαナンバーズにいたっては、この国はおろか、この世界に縁もゆかりもないのである。 佐渡島防衛戦に参加した帝国陸軍の内、比較的損耗の少ない部隊から戦術機の一個連隊(108機)を抽出し横浜基地へ、同時に帝都防衛軍帝都守備連隊から最精鋭の一個大隊(36機)を選別し、第一次防衛ライン――旧前橋市へ。 当初は横浜基地への援軍だけを想定していたのだが、直前に旧前橋市で起きた『核兵器かS-11クラスの強力な爆発』に対する現場検証の意味も含め、第一次防衛ラインへも援軍が急遽盛り込まれたのである。『全軍に通達、こちらに援軍が向かっているそうです。戦術機甲大隊、三時の方向より到着は約5分後! 同士討ちに気をつけて』 帝都から援軍の報を受けたマリュー・ラミアスは、戦艦アークエンジェルの艦長席から身を乗り出すようにして、地上に散らばるαナンバーズの機動兵器部隊へと、警告の声を飛ばした。『『『了解!』』』 前線から、まだ十分に張りのある声が返る。疲れていないはずはない。戦闘が始まってすでに、七時間以上が過ぎている。弾薬等の補給にアークエンジェルに戻った場合は、ついでに最低30分の休息を取らせているが、それでも機動兵器部隊の疲労は相当たまっているはずだ。こうして艦長席に座ったまま、指示を出しているだけのラミアスでさえ、先ほどからずっとこめかみの辺りに重い鈍痛を感じているくらいなのだから。 帝都からの援軍が到着したのは、そんなαナンバーズの戦士達が疲労の局地に達していた時だった。 飛来する、36機の不知火。黒に近い灰色に塗られたその機体は皆、右肩に目にも鮮やかな深紅の日の丸が描かれている。 『各中隊、陣形楔壱型、突撃せよ!』 大隊長の言葉を合図に、匍匐飛行で飛来した帝都防衛軍の戦術機は、三本の鏃と化し、BETAの群れを横から貫いた。 一糸乱れぬ陣形と、思い切りのよい突撃。『ヒュー♪』 それは、見ていたディアッカが思わず口笛で感嘆の意を示すくらいに見事な攻撃だった。無論、そうしている間も、ディアッカは愛機バスターガンダムの左右の腰に備えられた、二種類の火器で突撃してきた『援軍』を的確にフォローしている。『よそ見をするな、ディアッカ!』 相方のイザークも、ディアッカをたしなめながら、デュエルガンダムの右肩に備え付けられた大口径レールガン――シヴァを連射し、援軍に攻撃を加えようとしていた要撃級の群れを纏めてなぎ払った。 ディアッカのバスターガンダムと、イザークのデュエルガンダム。どちらも、物理攻撃の大部分を無効化できる『PS装甲』を持つ機体だ。そのため、無造作と言ってもいいくらいの大胆さでBETAの群れの中を動き、フォローに回ることが出来る。無論、『PS装甲』の発動には膨大なエネルギーを必要とするため、回避するに越したことはないのだが、多少の攻撃ではびくともしないという事実が、彼らに大胆な行動を取らせている。 αナンバーズの皆が見守る中、36機の不知火達は、36㎜弾と120㎜弾、そしてスーパーカーボン製長刀を巧みに駆使し、BETAを掃討していく。火力自体が低いため、見ていてももどかしく感じる部分は多分にあるが、その組織だった機動は見事なものだ。 そんな中、一体の突撃級が、死した要塞級の影から突如姿を現し、隊長機とおぼしき不知火めがけ突撃する。『アブねえっ!』 とっさに、ディアッカがフォローしようとするが、すでに突撃級は不知火のすぐそこまで迫っていた。近くで見ていた、ディアッカとイザークは思わず奥歯を硬くかみしめる。しかし、二人の心配は杞憂に過ぎなかった。 すれ違う突撃級と不知火。 次の瞬間、惰性で駆け抜けていった突撃級がまるでエンジンブローを起こした車のように、急激にその動きを止める。よく見れば突撃級の弱点と言うべき、柔らかい背面に深い裂傷を負っているのが見えるだろう。そして、不知火の左メインアームには、逆さに握られた長刀。 突撃を食らう直前に、機体一つ分右にずれて突撃を回避し、すれ違い様に逆手に持った長刀を突撃級の背面に突き刺した。 言葉にすればたったこれだけである。だが、突撃級の最高速度は時速170キロに達するのだ。その攻撃を紙一重でかわし、前を向いたまま、すれ違う突撃級の急所に長刀を突き立てるというのが、尋常ではない技量を必要とするのは、素人でも分かるだろう。はたして同じ真似が出来る者が、この世界の衛士の中に何人いるだろうか。『アムロ大尉……』 遠方からその光景を見えいたカミーユが驚きを込めた声で自軍のトップエースに声をかける。 アムロも、確信を込めた声で頷き返す。「ああ、間違いない。あれは……『エース』だ」 やっと周囲のBETAを掃討し、余裕が出来たのか、αナンバーズに援軍から解像度の荒い画像通信が届く。 映像の中では、無骨な眼鏡をかけた、いかにも実直そうな若い軍人が、濃紺の強化装備姿で、敬礼をしていた。『自分は、帝国本土防衛軍帝都守備第一戦術機甲連隊所属、沙霧尚哉大尉であります。政威大将軍殿下の勅命により、貴軍を援護します』 若い軍人――沙霧尚哉は生真面目な表情の中にも、勅命を受けたことに対する隠しきれない誇らしさをにじませながら、そう宣言するのだった。 思わぬ援軍のおかげで一息ついたαナンバーズであったが、やはり長時間戦闘による悪影響は、随所に吹き出していた。 とっくにジムライフルの弾薬の備蓄を使い果たした、モンシア、ベイトのジム・カスタム二機は、ビームサーベルとシールドのみで、BETAを掃討していた。 幸い、BETAは相変わらず無造作な東進を続けているため、正面に立たない限りBETAから反撃を受ける可能性は極端に低い。とはいえ、その確率は零ではないし、圧倒的な数を誇るBETAを相手に、そもそも『絶対に正面に立たないように立ち回る』こと自体が不可能に近い。 特に、長時間の戦闘で疲労の極致に達し、集中力、判断力を激しく低下させていればなおさらだ。 だから、それはある意味起こるべくして起きた事態だった。『モンシア、左だっ!』 バニング大尉が叫んだときにはすでに遅かった。『ぐっ、うわああっ!?』 疲労でレーダー確認を怠っていたモンシアのジム・カスタムに、ついに一体の戦車級が貼りつく。うぞうぞと足もとから胴体部分へと這い上がってきた戦車級は、バリバリと音を立てて、チタンとセラミックの複合装甲を食い破る。『モンシア動くなッ! 今、剥がしてやる。ベイト、アデル、フォローしろ! 敵を俺達に近づけるな!』『了解っ!』『了解ですッ』 ベイトのジム・カスタムとアデルのジムキャノンⅡに周りを警戒を命じ、バニングのガンダム試作2号機は、戦車級に貼りつかれたモンシアのジム・カスタムに近づく。『ぐおお、この野郎ッ! 赤蜘蛛の分際でッ! 大尉、早いとこお願いします』 モンシアは恐怖をにじませた声を発しながらも、機体は動かさずに耐えていた。この辺りは流石と言える。マニュアルで対応をたたき込まれているこの世界の衛士でも、いざ戦車級に貼りつかれると、恐慌をきたし、むやみやたらと武器を振り回し同士討ちを起こす者が耐えないのだ。 だが、モンシアの命を握るバニング大尉は、この期に及んでやっと気づいたのだった。 自分たちの武装には、味方に貼りついた敵を引きはがすための武装が存在していないという事実に。 元々、BETA戦を想定して作られた機体ではないのだから、当たり前と言えば当たり前だ。 バニングが乗るガンダム試作2号機の武装は、主に四つ。 一つは、主武装であるビームバズーカ。言うまでもなくこれは論外だ。こんな大火力の武装で、味方機に貼りついた戦車級だけを打ち落とせるはずがない。殺虫剤の代わりに火炎放射器を使うようなものである。 二つ目は、頭部バルカン。本来であればこれが一番無難なところだが、生憎今は弾を切らしている。それに、弾があったところで頭部バルカンの攻撃力も馬鹿にはならない。その口径は60㎜。戦術機のメインウェポンである36㎜チェーンガンより大口径なのだ。こんな至近距離から放てば、戦車級の柔らかい身体を貫いて、モンシア機にも致命的なダメージを与えてしまう可能性は十分にある。 三つ目は、ビームサーベル。結局はこれでどうにかするしかないのだろうが、ビームサーベルはコックピットの中からでは、長さも出力も調節できない。これで、モビルスーツを傷つけずに、戦車級だけを倒すというのは、出刃包丁でイワシをさばくようなものだ。 ちなみに四つ目の武装、戦術核は論外を通り越している。これを使えば確かに問題は「根こそぎ」解決するだろうが……。 結局、危険でも、ビームサーベルでやるしかない。『動くなよ』 もう一度そういうと、バニングは、慎重にピンク色のビームサーベルの腹を戦車級に押し当てる。ジューと肉の焼ける音を立て、どうにかモンシアが食われる前に、バニングは戦車級を葬ることに成功した。「ふう……」 さしものバニングも、コックピットの中で安堵のため息を漏らす。恐ろしく神経を使う作業だった。今回はたまたま、貼りついたのが一匹の内に対処できたからどうにかなったものの、複数の戦車級に同時に貼りつかれたら、こんな悠長なやり方では絶対に間に合わない。 今も、モンシアのジム・カスタムは胸部装甲を大きく食い破られて、コックピットに風が吹き込むようになっている。『モンシア、ベイト、アデル。一度、帰艦するぞ』『『『了解』』』 流石に、この状態で否と言う者はいなかった。 おそらくモンシアのジム・カスタムはこれでお役ご免となるだろう。 ジム・カスタムはαナンバーズで使用しているモビルスーツの中でも数少ない、『ムーバブルフレーム』採用以前の機体である。 ムーバブルフレームとは、簡単に言えばモビルスーツを内側から支える骨のことだ。つまり、Zガンダムやνガンダムが人間のように自重を内側の骨――ムーバブルフレームで支えているの対し、ジム・カスタムやジムキャノンⅡはカブトムシのように外骨格――装甲で直接機体を維持しているのである。 つまり、ジム・カスタムにとって装甲の破損というのは、防御力の低下のみならず、機体重量を支えるパーツの損傷という、いわば『骨折』を意味するのだ。 当然、そのまま無理をして動かせば、内部中枢に歪みが広がっていく。しかも、今は空中に浮遊しているアークエンジェルの所まで自力で跳び上がり、着艦しなければならないのだ。跳び上がる衝撃、着艦衝撃。どちらも、『骨折』状態のジム・カスタムには過大な衝撃となることは間違いない。いかな凄腕揃いのαナンバーズの整備士達でも、機体中枢の歪みを修整するのは難しいだろう。(やはり、予備のモビルスーツが必要だな。確か、エルトリウムにはジェガンの製造ラインがあったか) バニングはモンシア機を守るように辺りに気を配りながら、頭の片隅でそんなことを考えていた。もっとも今、エルトリウムの艦内工場ではモビルスーツ、特機併せて、80機近い機体が修理待ちの状態だ。 しばらくはモンシアは乗機無しとなるだろう。場合によっては、エターナルに配属されている、チャック・キース少尉のジムキャノンⅡや、コウ・ウラキ少尉のガンダム試作1号機フルバーニアンをこちらに回してもらうよう、艦長達に話を通す必要があるかも知れない。 だが、それ以上に優先的に考えなければならないのが、戦車級BETA対策だ。現状のαナンバーズの装備では、戦車級に集られた場合、有効な救出手段がない。PS装甲のある機体や特機並の馬鹿げた装甲を持っていれば話は別だが、大半のモビルスーツはあれに集られれば数分と持たない。 対策は急務だ。 ビームサーベルの長さ調節を出来るようにするか、はたまたこの世界の戦術機のように専用の短剣を装備させるか。もしくは、短射程、低出力、広範囲の特殊ビームガンを作るか。 技術的にどの程度が可能かは分からないが、対策を取らないままでは遠からず戦車級に食われる者が出る。 この戦いが終わったら、必ずラミアス少佐やブライト大佐に直接この話をしよう。 バニングはそう心の中に刻み込むと、高度を落としてきたアークエンジェルに着艦するため、機体の全バーニアを噴かし、空中高く跳び上がるのだった。【2004年12月22日17時51分、横浜基地、メインゲート前】 横浜基地の兵士達は、立て続けに入る吉報に沸き返っていた。 一つ目の吉報はまず、基地内部に侵入した小型種の完全掃討が完了したこと。 二つ目の吉報は、帝都の安全を確信した帝国軍が、戦術機一個連隊の援軍を送ってくれたこと。 そして、最後の吉報は、レーザー属種を旧所沢市のキングジェイダーが完全にシャットアウトしているという事実を受け、ついにラ・ーカイラムが横浜港から飛び立ち前線にその姿を現したことだ。 参戦したラー・カイラムは、早速その主砲『ハイパーメガ粒子砲』で、BETAの群れを駆逐している。 BETAの増援が途絶えると同時に、こちらには心強い援軍が現れる。これで勝利できなければ嘘だ。 メインゲートを守る伊隅ヴァルキリーズの面々も、疲労で鈍る全身に活を入れ、勝利のために最後まで戦う決意を固める。 すでに夕闇を過ぎ、暗闇に近くなったメインゲート前は、複数のサーチライトで辺りを照らし出し、可能な限り戦闘に支障がないように、状況を整えようとしていた。『いいか、お前たち。あと少しだ、などと考えるなよ。戦場では一瞬の気のゆるみが、生死を分かつのだからな』『そうよ。基地に帰るまでが戦闘なんだからね、分かってる?』 みちるの言葉に、水月がいつも通りの明るい口調でそう付け加える。『『『了解ッ!』』』 武達はそろって、返事を返した。 しかし、実のところ今となってはむしろ、武達新人よりも、伊隅みちるを筆頭とした先任達のほうが疲労を蓄積させている。 武達新人衛士に優先的に、エヴァンゲリオン初号機の周りで休息を取らせていたのに対し、みちる達先任衛士達は、その分余計に戦い続けていたのだ。 無論、武器弾薬の補給時など、必要最低限の休息は挟んでいるが、それでも新人達とは比べものにならないハードワークをこなしてきたのは間違いない。 さしものみちるも、不知火のコックピット中で軽く息を弾ませている。汗で濡れた前髪が額に貼りついてむず痒い。集中力が乱れてくると、そんな小さなことも気になって仕方が無くなってくる。 自分も一度休息を取るべきだろうか? 自己の状態を冷静に見つめるみちるはそう考える。 だが、その機会は訪れなかった。『メインゲートにBETA接近中。突撃級7、要撃級300、戦車級500、その他小型種800。大規模な増援がこれが最後よ。みんな、頑張って』 CP将校、涼宮遙中尉からのオープンチャンネルで接敵情報が入る。 珍しく、遙は最後に私的な言葉を付け加えていた。それだけ遙も気が高ぶっているのだろう。『ッ、聞いたな、お前達。これがラストオーダーだ。遠慮はいらん、思う存分食い尽くせ!』『『『了解!!』』』 けしかけるような伊隅みちるの声を受け、伊隅ヴァルキリーズの衛士達は、迫り来るBETAの群れを迎え撃つ。『はっ!』 先陣を切り最初に飛び出したのは、やはり武の武御雷だった。この半日に及ぶ戦いで、すっかり突撃前衛のポジションが板に付いてきている。 漆黒の武御雷は、猛スピードでまっすぐ突っ込んでくる突撃級を飛び越えるように飛び出す。『で、こうっ!』 さらに武は、脚部スラスターを逆噴射させ、機体を空中で前宙の要領で反転させると、空中で逆立ちをした状態のまま、突撃級の背面に、36㎜弾を大量に浴びせさせた。 常識にとらわれない三次元機動は、元々武の売りだが、今日一日だけでその奇天烈ぶりに磨きがかかっている。まず間違いなく、VF-19やアルブレード・カスタムを間近で見た影響だろう。『ったく、滅茶苦茶やって。フォローする身にもなってみなさいよ』 愚痴をこぼしながらも、水月は巧みに弾幕を張り、武の武御雷の着地点を確保してやる。と同時に同小隊の新人二人――高原、朝倉のエレメントにも気を配る。正直、目があと四つ、頭が二つ欲しいと思うくらいに、水月にかかる負担は大きい。 その上自分自身も、突撃前衛長として、最前線で銃火を交えているのだから、下手をすると水月にかかっている負担は、中隊長であるみちるにかかっているそれより大きいかも知れない。 武もその事実に気づいてはいるが、だからといって水月に負担がかからないように戦えるほど熟達はしていない。疲労で頭の働きが鈍り、反射的な機動が増えている。「っくしょう、なんでこんなに遅いんだよ、なんで硬直するんだよ、なんでコンボが繋がらないんだよっ!」 最前線を縦横無尽に飛び回りながら、思わず武はそう漏らす。この世界に来て三年、いい加減諦めていた『バルジャーノン』的機動が出来ないことに、今更ながら不満を漏らす。帝国の技術者には絶対に聞かせられない台詞だ。元々は将軍専用機であった武御雷を「遅い」だの「鈍い」だの、命知らずにもほどがある。 バルジャーノンは所詮ゲーム、現実の戦術機と一緒に考えるのが間違えている。どうにかそう言い聞かせて、自分を納得させていたのだが、明らかにバルジャーノンより滅茶苦茶なVF-19や、アルブレード・カスタムの機動を見せつけられては、押さえていた欲求がわき上がって来てしまう。 αナンバーズが異世界からやってきた存在であることも、武は知っている。だから、αナンバーズの機体を参考にしてはいけないことは分かるのだが、分かった上でも網膜に焼き付いたVF-19の超高速三次元機動が、忘れられないのだ。(ダメ元で夕呼先生に相談してみるか) そんなことを考えながら、武は左方より迫る要撃級に36㎜弾をたたき込む。「はああっ!」 何かが吹っ切れたように、武の武御雷は、縦横無尽に暴れ回るのだった。 『ヴァルキリー6、フォックス2』『ッ? ヴァルキリー5、フォックス3!』 エレメントを組むパートナーの声に、涼宮茜少尉はハッと集中力を取り戻し、迫り来る戦車級の群れを、左右のメインアームに持つ二丁の87式突撃砲で掃討した。『茜、気になるのは分かるけど、今の私たちにそんな余裕はないと思うよ』 いつも通り、飄々とした声で、茜のエレメントパートナー――柏木晴子少尉が、そう言う。青い短い髪が汗で濡れて光っているが、網膜投射モニターに映る表情からは、まったく気負いというものが感じられない。疲労と緊張で、頭に血が上っている自覚のある茜からすると、晴子のそんな様子は、羨ましくもあり、頼もしくもあり、若干腹立たしくもあった。『わ、分かってるわよ』 いつの間にか、前線で戦う速瀬・白銀エレメントに目を奪われていた茜は、ばつの悪さを隠すように少し尖った声を返した。 茜にとって、あこがれの存在であり、目標でもある速瀬中尉。自分よりあとから任官したのに、その速瀬中尉のパートナーを抜擢された白銀武。どちらも、茜にとっては気になる存在であることは間違いない。 だが、それが戦場でよそ見をして良い理由にはなるはずもない。 茜はコックピットの中で一度大きく深呼吸をすると、意識を切り替えた。『ヴァルキリー5,6、十時の方向だ』 そこに、小隊長である宗像美冴中尉から、指示が飛ぶ。『了解っ!』『了解です』 茜と晴子は、指示通り、十時の方向からやってくるBETAの群れに対処する。要撃級が十数匹に、戦車級がその倍くらい。新人衛士二人だけで相手取るには若干ハードルが高いが、見れば同小隊の先輩である宗像中尉・風間少尉のエレメントは、こちらの倍以上を相手取っている。 出来るだけ自分たちにかかる負担を少なくしてやろうという心遣いが、茜は嬉しくもあり、同時に少し情けなくもある。それは自分たちがまだ、先輩達の庇護を必要としていると見なされている証なのだから。 だが、だからこそ、与えられた役割は十全に果たさなくてはならない。『行くわよ、フォローは頼んだわよ、晴子!』『了解。そんなに肩に力を入れなくても、普通にやれば茜なら問題ないよ。リラックス、リラックス』 気合いを入れ直す茜とは裏腹に、晴子はいつも通り肩の力の抜けた笑い顔で、答えるのだった。 伊隅ヴァルキリーズ中隊長・伊隅みちる大尉は、そういった部下達の戦闘の様子を後方から見ていた。 伊隅ヴァルキリーズで唯1人、エレメントを組まず単独で行動し、中隊全体にも気を配るみちるの負担は、尋常ではない。 特にA小隊の珠瀬壬姫と築地多恵両名に関しては、みちるの双肩にかかっていると言ってもいい。 B小隊の新人は水月、C小隊の新人は美冴、梼子といった各小隊の先任士官がある程度面倒を見ているが、A小隊の新人については、みちるが直接手助けするしかないのだ。『築地、出過ぎるなッ。珠瀬、フォローしろ!』『は、はいっ!』『了解ッ!』 いつの間にか前に出すぎている多恵の不知火を呼び戻すと同時に、壬姫にフォローするように促す。 技量においては新人離れしたものを見せる伊隅ヴァルキリーズのルーキー達も、こと判断力とペース配分に関しては、不安がある。 同小隊の新人二人を比較的圧力の少ない方向に向かわせた分、みちるは単機で押し寄せるBETAの重圧を受け止めることとなる。だが、それでも、今までみちるが経験してきた戦場に比べれば、圧倒的に優しい戦場で有ることも確かだ。 最後方、メインゲートの直前は、エヴァンゲリオン初号機が鉄壁の守りを敷きながら、『マステマ/大型機関砲』でフォローしてくれる。マステマ/大型機関砲は、120㎜滑腔砲の数倍の威力の弾丸を、36㎜チェーンガン並の連射速度ではき出すのだ。 その威力たるや、この場にいる要撃級や戦車級はもちろん、要塞級や突撃級でも正面から粉砕できるだろう。 みちるの不知火は、エヴァンゲリオン初号機の射線上に入らないように気を配りながら、迫り来るBETAの群れに立ち向かう。 右メインアームに持つ87式突撃砲で要撃級数匹を同時に蜂の巣にし、足もとに迫る戦車級を左メインアームに持つ92式多目的追加装甲でなぎ払う。『チッ』 振り回した追加装甲に、戦車級が一匹かみついた所で、みちるはためらいなく追加装甲を破棄し、即座に背面の稼働兵装担架から74式近接戦闘長刀を抜き、左手に持つ。そして、即座にその長刀の一降りで、シールドに噛みついていた戦車級を一刀両断にした。 汗に濡れた栗色の短髪を振り、みちるは呟く。「このくらいがなんだ。あきらは佐渡島から生還した。……あいつなんて、ハイヴから生きて還ってきたんだ……還ってきてくれたんだぞッ」 みちるの脳裏に浮かぶのは、二日前の『奇跡の佐渡島戦』から還った妹と、愛する男の顔。 一人の姉と二人の妹、そして自分を合わせた四姉妹が、一人の男を取り合う、壮絶ながらもどこか楽しかった恋のさや当ての日々。妹と当の男の佐渡島戦出兵が決まったときに、もうあの日々は戻らないかと、半ば諦めかけていた。 だが、二人は生きて戻ってきた。二人に一人が死んだ戦場から妹は還ってきた。108人中102人の死亡が確認されたBETAの巣から、あいつは還ってきた。「だから、私がこんな所で死んで良い理由はどこにもないッ!」 みちるは、魂のそこから絞り出したような声で、そう叫んだ。 メインゲート前のBETAが殲滅されるのは、約三十分後、基地全体のBETAが殲滅されて司令部より「状況終了」が告げられるのはさらにその三十分後のことである。 その「勝利宣言」を、伊隅ヴァルキリーズはメインゲート前で、一人の欠員も出すことなく、11人そろって聞くことになる。【2004年12月22日18時46分、横浜基地、中央作戦司令室】「第二滑走路、安全確認終了。機械化強化歩兵第三大隊、次の指示を要求しています」「Bゲート前、作業進捗状況、60パーセント。終了は90分後の予定。予定より10分遅れています」 戦闘が終了した後も、中央作戦司令室のCP将校達の声は、鳴り止まない。 兵士級や闘士級と言った小型種の撃ち漏らしが完全になくなったと確認が取れるまで、非戦闘員の待機命令は解除されないのだ。 特に、Bゲートのような激しい戦闘のあった地区では、瓦礫や大破した車両の撤去作業に慎重をきす必要がある。瓦礫や車両の隙間に挟まり、生きたまま動けなくなっていた小型種が発見されるのは、何ら珍しいことではないのだ。 とはいえ、そう言った作業も、不要な死傷者を出さないための予防に過ぎず、勝利がすでに確定しているという事実に変わりはない。推定4万弱のBETAを相手に、死傷者は300人弱という、『奇跡的大勝利』に作業に従事する兵士達にも、明るい色が伺える。 例外は、自隊から多数の死者を出した戦術機甲連隊の衛士と戦車連隊の兵士、そして先ほど横浜港に戻ってきたαナンバーズの面々ぐらいのものだろう。 司令室の中央では、田辺横浜基地司令が大河幸太郎αナンバーズ全権特使を相手に、朗らかに談笑している。 隣では、香月夕呼も社交的な笑みを浮かべながら、二人の会話に油断なく耳を傾けている。「ありがとうございます、大河特使。この勝利はαナンバーズの皆様のご助力によるもの以外の、何物でもありません」 本当にありがとうございます、と何度目になるか分からない謝礼を言葉述べる田辺大佐に、大河全権特使は魅力的な野太い笑みで答えた。「いえ。我々としても、この勝利に貢献できたのなら、それに勝る喜びはありません」 普通の人間が言えば、社交的な印象しか受けないきれい事の言葉も、大河の口から出るとそれが相手の本心を揺さぶる感動を呼び起こす。「心強い、お言葉です」(これは、手強いわね) 表面上は笑みを浮かべたまま相づちを打ちながら、夕呼は内心警戒心を強めていた。交渉術についてはどの程度のものかまだ分からないが、この強いカリスマ性だけでも、交渉相手としては十分な脅威だ。(ノア大佐が窓口だった間に、もう少し話を進めておくべきだったかしらね) そんな後悔の念が心をよぎるが、すぐにそんな考えは振り切る。 どのみち、αナンバーズが、目的も知れない異次元の集団であるという事実に代わりはないのだ。せめてその目的が判明しない限り、こちらから積極的な手は打てないという状況に変わりはない。そう言った意味では『全権特使』というより権限が強く、多くの情報を持っていると思われる人間と、直接交渉の機会があるという状況は、喜ぶべきだろう。 そんな夕呼の内心はともかく、表面上は朗らかに進む会話を途切れさせたのは、とあるCP将校からの通信だった。「司令! 帝都より入電です。その、先の旧前橋市で起きた『核とおぼしき爆発』について、詳細をαナンバーズからお聞きしたい、と」「むっ……」 冷や水を浴びせられたように、それまでの和やかな空気が冷え込む。 無論、田辺司令も、第一次防衛ラインで起きた『核爆発』については、知っている。当然、愉快な気はしなかったが、元々こちらもαナンバーズとの間に、武装制限についてなんら約束を設けていなかったのだから、あえて今は黙殺していたのだ。 無論、事実確認の後、帝国本土での使用は制限の確約を取り付ける必要はあるが、今あえて引っ張り出す話題には思えなかった。ここで、αナンバーズの機嫌を損ねてどうするつもりなのか? 少なくとも、彼らの存在無くして今回の勝利はなかったのだ。 田辺大佐は確認する。「それは、帝都のどこからの要求かね? 軍か、議会か、元枢府か?」 司令の言葉に、若い女のCP将校はレスポンスよく返答を返す。「声明は、参謀本部と外務省の連名になっています」「ッ……」 その答えに、田辺司令はあからさまな渋面を作った。表情こそ変えないが、夕呼も内心は同じである。いや、むしろ夕呼のほうが感じている焦燥感は大きい。 参謀本部はいい。ことが軍事なのだから、軍の統括である参謀本部が口を出すのはある意味当然のことだ。 外務省も本来ならば問題ない。まだ正式発表こそされていないものの、帝国はαナンバーズを『地球外自治勢力』と認めているのだ。正論から言えば、αナンバーズとの交渉は、外務省こそ主導権を握るべきだ。 だが、今の外務省が『親米派』と言う名の『アメリカの犬』の巣であることは、ある程度の高官にとっては周知の事実だ。末端はともかく、上層部は三人に一人は、親米派だと言われている。(まずいわね。αナンバーズの情報がダイレクトでアメリカに流れてしまう) 下手をすれば、夕呼も知らないような情報が、外務省経由でアメリカに渡ってしまう可能性が有る。 それでもポーカーフェイスを保っている夕呼はともかく、田辺の顔色の変化に気づかないはずはないのだが、大河特使はあくまで神妙な表情で一つ頷くと答えるのだった。「分かりました。その件に関しては、こちらから直接ご説明させていただきます。そう、お伝え願えますか」【2004年12月22日22時00分、横浜港、ラー・カイラム アークエンジェル】 夜、無事に機体の回収と全乗組員の無事の確認を終えたαナンバーズの首脳陣は、予定通りフォールド通信を用いて定例会議を開いていた。「……といった経緯で、どうにか横浜基地の防衛には成功しました。しかし、基地からは少なくない死傷者も出ています」 横浜基地防衛戦の概略説明を、ラー・カイラム艦長、ブライト・ノア大佐はそう沈痛な表情で締めくくる。『うむ。そうか。いや、よくやってくれた……』 エルトリウム艦長、タシロ提督は、ブライトの言葉に静かな声でそう答えると、そのまま無言で目を瞑る。気がつけば他の参加者達も皆、目を瞑り、犠牲者に黙祷を捧げていた。「「『『『…………』』』」」 そうして無言の時間は、一分ほども流れただろうか。 やがて、沈黙を破り、タシロ提督が口を開く。『……これで、しばらくは大規模な戦闘は起こらない、そう考えてよいのかね、ブライト君?』「はい。我々が停泊している日本を脅かすBETAは、これで一段落したと言って良いと思われます。もっとも、朝鮮半島の甲20号ハイヴから九州・中国地方への定期的侵攻があるそうなので、予断は許しませんが」 ブライトはそう冷静な口調で答えた。 実際の所、大規模な戦闘は、この後も毎日のように頻発するだろう。ただ、その主戦場はあくまでユーラシア大陸であり、現時点で日本帝国としか、正式な交渉を持っていないαナンバーズが無断で立ち入ることが出来ない、というのが実状だ。 この世界の人類を救うのが目的なのに、この世界の人類の枠組みを無視して勝手気ままに振る舞うことは出来ない。 続いて、アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアス少佐が発言する。「今回の戦闘で、モンシア中尉のジム・カスタムが大きく破損し、修復も難しい状況です。それを踏まえて、機動兵器部隊の副隊長であるバニング大尉から、ウラキ少尉のガンダム試作1号機か、キース少尉のジムキャノンⅡを地上に下ろせないか、と打診がありました。また、モンシア中尉の機体を破損させた『戦車級BETA』に対する対応策も、早急に検討する必要があると報告されています」 勝ち戦からでも、問題点は浮かび上がる。しかし、そんなラミアス少佐からの報告を受けたタシロ提督の返答は芳しくないものだった。『うむ。戦車級BETAに対する対応策に付いては早急に検討しよう。しかし、ウラキ、キース両少尉の地上派遣は難しいな。エターナルの守りをそこまで薄くはできん。幸い、ヒイロ君達五人のガンダムの修理のめどが立ってきている。彼らが復帰するまで、現状の戦力でどうにかならんかね?』 エターナルは、小惑星帯と地球との間の物資と人員の輸送を受け持っているのだ。万が一のことを考えると、最低限の戦力は保持させておきたい。 タシロ提督の言いたいことを十分に理解したラミアス少佐は、『分かりました』と答えるに留まった。「後は、補給物資の問題があります。頭部バルカンも含め、モビルスーツ系の実弾兵器の備蓄は今回の戦闘で完全に尽きました。ダイソン中尉のVF-19の弾薬もかなり不安な状態です。詳細な必要数量は、データで送っておきますので、よろしくお願いします」『うむ、副長』 ブライトの言葉に、タシロ提督は横に立つ、副長に話を振る。『了解しました。手配します』 副長は、平坦な声で返事を返し、請けおった。予定では24時間以内に、エターナルがエルトリウムと合流を果たすことになっている。それまでに必要な物資を、コンテナパックに詰め込み用意しておけばいい。『他には何か、問題はないかね?』 そう促すタシロ提督の言葉に、口を開いたのは、それまでラー・カイラムの艦橋で沈黙を保っていた大河全権特使だった。「はっ。実は、先の戦闘で使用したN2兵器が核兵器と誤解され、帝国内部で問題視されているようです。明日、私が釈明に向かう予定ですが、話し合いの結果次第では、使用する兵器をある程度絞り込む必要が出てくるかもしれません」 αナンバーズには、N2兵器より凶悪な兵器も数多く存在する。下手をすればそう言った兵器の大半が、この世界の地球では使用できないかも知れない。だが、現状でも、ラー・カイラムのハイパーメガ粒子砲や、アークエンジェルのローエングリンなどに対しては、抗議の声が上がっていないところを見ると、単に土壌を汚染する核兵器と間違えられたことが、問題なだけという可能性もある。 全ては明日の会合で判明するだろう。この辺りはとりあえず大河に任せるしかない。そのための全権特使だ。 とりあえず、これで先行分艦隊側からの情報は、一通り出そろった。変わって今度はブライトが訊ねる。「こちらは以上です。そちらではなにか、進展はありましたか?」『うむ。実は、つい先ほど、な。ジーナス艦長』『はい』 タシロ提督の視線を受け、マクロス7艦長、マクシミリアン・ジーナス大佐が口を開く。『熱気バサラとシビルが、帰還しました。やはり、火星に向かっていたようです。現在ファイアーバルキリーのカメラの映像データを解析中です』 熱気バサラの帰還。それは、ある意味横浜基地防衛戦よりも大きなニュースだ。ブライト達、先行分艦隊側の人間達も思わず腰を浮かしかける。「二人に怪我は?」『大丈夫です。バサラもシビルも、ファイアーバルキリーも一切問題有りません』 ブライト艦長の問いに、マックス艦長は小さく苦笑しながらそう答えた。 プロトデビルンであるシビルはもちろん、バサラも丸二日の長期航行の影響など無いような顔で、ケロッとしてたらしい。ひょっとして熱気バサラは、歌が歌える間は死なないのではないだろうか? そんな、荒唐無稽なことさえ考えてしまう。「それで、火星のBETAは、熱気バサラの歌にどんな反応を示したのですか?」 ラミアスのその問いは、艦長としての義務と言うより、自らの好奇心から発したものに思えた。 プロトデビルンの心を動かし、霊帝ケイサル・エフェスに対しても大きな力となった『バサラの歌』。それをBETAはどのように捉えたのか、ラミアスならずとも興味がある。 しかし、マックスは首を横に振り、『詳しいことはまだ分かりませんが、どうやらBETAは、バサラの歌にこれといった反応を示さなかったようです。ただ、歌エネルギー研究の第一人者、ドクター・千葉に言わせれば、「歌エネルギーは、歌い手のテンションや感情によって大きく変化する」とのことなので、今回の結果だけで、BETAに歌は無効だと結論づけるのは早計らしいですが』 と答えた。 さらにマックス話を続ける。『それよりも気になるのは、シビルの言葉です。彼女はこう言ったそうです。「あいつら、スピリチア、ない」と』「スピリチアがない?」 ブライトはピクリと右の眉を跳ね上げる。 スピリチアがない。そんな生き物が存在するのだろうか? スピリチアとは生物の生きる意志、生命力そのものだ。 プロトデビルンは、地球人類はもちろん、宇宙人からも動物からも、場合よっては植物からもスピリチアを吸収できる。それこそ、あの宇宙怪獣からもスピリチアを吸収してのけた実績があるのだ。 そのプロトデビルンであるシビルが、BETAにスピリチアがないと言った。『つまり、BETAとは宇宙怪獣以上に、我々の常識から外れた生命体である、と言うことですかな?』 マクロス7のエキセドル参謀が大きな緑色の頭をかしげて、そう言う。確かにここは遠く次元を隔てた異世界だ。スピリチアのない生命が居てもおかしくはないのかも知れないが……。『提督、そろそろ時間です』 深刻な話し合いの最中も、しっかりと時間を管理していた、エルトリウムの副長が淡々とした声で、上官にそう告げる。各艦の総責任者が一堂に会し、話し合いの場を設けられる時間は予想以上に短い。特別な状況変化がない限り、時間を厳守を徹底しておかないと、艦の運営に支障を来しかねない。 タシロ提督は、その言葉に時間を確認すると、『む、そうか。では、本日の会議はここまでにしておこう。異変があれば即座に連絡をくれ。こちらとしても、可能な限りの手は打つ』 そう、ブライト達に声をかける。「はっ、ありがとうございます。そちらもお気をつけて」『うむ。では、また明日、この時間に』 αナンバーズの運命を握る各艦の艦長達は、そう言ってほぼ同時にフォールド通信を切るのだった。