Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第三章その3【2005年1月1日、日本時間11時45分、横浜基地、ブリーフィングルーム】 新たな年を迎える、元旦というその日。元々あまり人口密度の高くない横浜基地は、いつも以上に人影がまばらだった。 佐渡島ハイヴの脅威を完全に取り除いたことにより、横浜基地は帝国の最後方基地となったのだ。そのため、この間の横浜基地防衛戦の慰労を兼ねる意味もあり、基地全体の二割ほどが帰省している。 無論、希望者が全員、帰省を許されたわけではない。基地を稼働させるのに最低限必要な人員、基地防衛戦で破損した基地の修理人員、そしてまだ秘匿されている『甲20号作戦』の人員および兵器軍の受け入れ準備要員などは、いつも以上に忙しい日常を過ごしている。 そして、伊隅みちる大尉を中心とした、香月夕呼直属部隊『伊隅ヴァルキリーズ』も今回は全員、帰省できない多数派に含まれていた。「ふう、疲れた」 午前中いっぱい合同シミュレータ訓練をやっていた武は、黒い強化装備姿のまま、大きく一つ伸びをする。「うん。今までと同じ訓練なのに、全然違うよね、たけるさん」 武同様、強化装備姿の壬姫は、汗で湿った桃色の髪をタオルで拭きながら、そう答える。「ま、あんた達もこれでやっと半人前から一人前に一歩近づいたってことよ。少しは、分かったでしょ。実戦前の訓練と、後の訓練の違いが」 ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべながら、そう言うのはヴァルキリーズの副長、速瀬水月中尉だ。「ええ。まあ」「はい、すごく実感しました」 実際その通りなのだから、武も壬姫も頷くしかない。後ろの方では涼宮茜少尉達、他の新人の少尉達も神妙な顔で頷いている。例外は「あははは」と笑ってごまかそうとしている柏木晴子ぐらいのものだ。 それくらい、今日の新人達の成績は悪かった。今までならば、日によっては先任士官達を上回ることもある、伊隅ヴァルキリーズの新人衛士達が、今日ばかりは綺麗に「ここからが新人、ここからが先任」と線が引けそうなくらいに明確な差をつけられたのだ。 理由は言われなくても皆自覚している。実戦を経験したからだ。 それまでシミュレーションとしてのシミュレーションをやっていた武達が、実戦を経験したことで、シミュレーションの中に実戦の空気を感じるようになったのである。 無論、それは悪いことではない。むしろ、非常に良いことである。実戦を想定したシミュレーションこそ、真に身となるシミュレーションだ。 だが、当然そうなれば動きは悪くなる。竹刀を竹刀だと思って仕合うのと、竹刀を真剣だと思って仕合うのとでは、後者の方が動きに無駄が出るのは当然だ。 前までは、紙一重で避けることが出来ていた突撃級の突進を、今日は大げさに避けてしまった。 前までは、カウンターで長刀を振るえた要撃級の攻撃を、今日は全力で回避することしかできなかった。 前までは、ほとんど無駄弾無く掃討できた戦車級の群れに、今日は倍以上の無駄弾を浪費してしまった。 実戦を経験していない衛士など、どれだけ腕が立っても所詮は半人前。 熟練衛士達が口癖のように言うことその言葉の意味が、今日やっと本当の意味で実感した。以前ならば、二時間程度のシミュレータ訓練など、汗もかかなかったはずなのに、今日は身体の芯にずっしりと来る疲労を覚えている。まあ、それでも実戦の疲労感と比べれば、大したものではないが。 そう考えれば、今の自分たちと先任士官の違いこそが、正しい実力差なのだろう。新人達が皆汗だくになっているのに対し、一番体力のなさそうな風間梼子少尉でさえ、息も乱さず笑顔を浮かべている。 武達がそうやって寛いでいると、ブリーフィングルームのドアが開き、人が入ってくる。国連軍の制服の上から、白衣を羽織った女と、それに従う強化装備姿の女衛士。 香月夕呼博士と伊隅みちる大尉の入室に、一同はすぐさま整列すると、背筋を伸ばし直立不動の体勢で待つ。「敬礼っ!」 夕呼の斜め後ろに立ったみちるの言葉に、武達はそろって正面に立つ夕呼に敬礼をした。 対する夕呼はちょっと顔をしかめて、手を振りながら、「はいはい、時間がもったいないから、すぐに本題から入るわよ。風間、前に出て」「はっ」 夕呼の言葉を受け、風間梼子少尉は、一歩前に進み出る。呼ばれる心当たりはとんとないが、疑念を表情に出したりはしない。「本日付で、中尉に昇進よ。生憎今はごたついているから、略式だけどね伊隅」 夕呼はそう言って、斜め後ろに控えるみちるに目を向ける。「はっ」 みちるは、梼子の前まで進み出ると、手に持っていた新しい階級章と任命書、そして新しい制服を渡す。 皆、少し虚を突かれた顔はしているが、特別驚いている者はいない。当然と言えばあまりに当然だからだ。 軍歴の長さからいっても、技能からいっても、そして今日まで立ててきた功績からいっても、本来梼子はとっくに中尉になっていてしかるべき人間である。それが、今日まで少尉に甘んじていたのは、いわば夕呼の失脚のとばっちりだ。 後少し軍歴を重ねれば自動的に昇進、というところで夕呼が失脚。伊隅ヴァルキリーズは戦場に出る機会を奪われたまま、三年という月日を無為に過ごしてきたのである。夕呼の失脚の前に一度でも実戦に出る機会があれば、梼子は三年前の時点で中尉になっていただろう。「受け取れ。今日からお前は、中尉だ」「はっ、今後も階級章に恥じないよう、全力で任務に当たります」 一式を受け取った梼子は、お嬢様風の容姿に似合わない固い口調でそう言うと、再度敬礼する。真面目な空気はここまでだった。「おめでとうございます、風間中尉!」「う、うわあ、昇進ですか、風間中尉」「おめでとう、梼子」「ありがとう、美冴さん、みんな」 後輩や、エレメントパートナー達からの祝福の声に、梼子は階級章と新しい制服をギュッと胸に抱き、ふわりと微笑む。「あー、いいなー。私もそろそろ昇進してもおかしくないんだけど」 わざとらしく羨ましがる水月に、みちるは人の悪い笑みを浮かべ、「悪かったな、上が詰まっていて」 自隊の副長を睨め付けた。「い、いえいえ、大尉。そんなつもりじゃ」 慌てて水月は顔の前で手を振る。 だが、実のところ水月が言っていることも、みちるが自称していることも、純然たる事実である。 水月のこれまでの軍歴を考えれば、大尉に昇進していてもおかしくはないし、それが行われないのはやはり、「上がつっかえている」からに他ならない。 水月が昇進すれば、一つの中隊の中隊長と副隊長がどちらも大尉で階級が並んでしまう。一応みちるの方が先任大尉になるのだから、上下は付くのだが、組織をわかりやすく運営するには、やはり中隊長とその部下は、歴然と階級が違っている方が望ましい。 そう言った意味では、現状の階級はとてもわかりやすくなっている。 白銀武、珠瀬壬姫、涼宮茜、柏木晴子、築地多恵、高原麻里、朝倉舞の新人七人がそろって少尉。 速瀬水月、涼宮遙、宗像美冴、風間梼子の先任四人が全員中尉。 そして、中隊長であり、最先任である、伊隅みちる唯1人が大尉。 非常に明確になっており、命令伝達やいざというとき、誰が誰の代理になるかも一目瞭然だ。 よって、今後昇進人事があるとするのならば、水月が大尉に昇進するよりも、みちるが少佐に昇進する方が順番として先なのだ。 しかし、ここに大きな問題がある。中尉から大尉の昇進に比べ、大尉から少佐への昇進は、圧倒的に権限は広がるという点だ。裏を返せば、それだけ責任が重くなるということである。 そのため、帝国軍法では、大尉から少佐への昇進の際には、三ヶ月近い再教育を受けることが義務づけられている(士官学校卒業生以外)。 言うまでもないが、今の伊隅ヴァルキリーズに、伊隅みちるが三ヶ月も部隊を離れていられるような余裕は、全くない。 結果として、現状のままでは伊隅みちるは少佐に昇進できず、それに伴い水月達も大尉に昇進できないのである。まあ、どのみち伊隅ヴァルキリーズは香月夕呼直属の独立部隊だ。他の部隊と連携を取ることも少ないので、階級が上がる意味も本当のところ、給料が上がるくらいしかない。 水月のぼやきも、みちるの自嘲も、そんな現状を全て理解した上での冗談だ。 そんな具合に、わいわいと話が盛りあがっている所で、夕呼が二つパンパンと手を鳴らし、皆の注目を集める。「ほら、報告はもう一つあるのよ。すぐ済ませるから聞いてちょうだい」 上司の言葉に、伊隅ヴァルキリーズの面々は、再び姿勢を正した。 夕呼は、腰に手を当てて胸を張ると、淡々とした口調で話し始める。「伊隅ヴァルキリーズ、一年ぶりの補充人員よ。入ってきなさい」 そう言って夕呼は、ブリーフィングルームの入り口に向かって叫ぶ。 補充人員? すでに聞かされている、みちる以外の全員が目を見開く。横浜基地の専用訓練部隊が、武達の207B分隊を最後に解散されて以来、ヴァルキリーズの人員が増えることはないと、半ば決めつけていた。 伊隅ヴァルキリーズはその前身のA-01以来、全員が神宮司軍曹の教え子だったのだ。その伝統が破られるのだろうか? 皆の注目が集まる中、入り口のドアが開き、一人の女衛士がカツカツと几帳面な足取りで入ってきた。 長い栗色の髪を二本の太い三つ編みにして背中に下げ、顔に大きな丸い眼鏡。眼鏡の奥の緑瞳に、必要以上に力が入っているのは、緊張しているからだけではあるまい。その双眼から生来の生真面目さと、優等生ぶりが滲み出ている。 武と壬姫、そして茜がポカンと口を開けているのを楽しげに見ながら、夕呼は新人衛士を促した。「ほら、自己紹介なさい」「はっ! 本日付で帝国陸軍より国連軍横浜基地、伊隅ヴァルキリーズへ転属となりました、榊千鶴少尉であります! よろしくお願いします!」 旧207B訓練分隊分隊長、榊千鶴は、胸を張り、精一杯の大声でそう叫ぶのだった。 初対面の先任達を中心に、自己紹介を済ませた後、場の空気はすぐに打ち解けたものとなった。「榊さん!」「千鶴っ!」「委員長!」 壬姫、茜、武の三人を中心に、顔見知りの新人衛士達が千鶴のそばに駆け寄ってくる。「千鶴、貴女帝国軍に転属したんじゃなかったの?」 かつての親友兼ライバル、涼宮茜の言葉に、千鶴は笑い返す。「まあ、出戻りって事になるわね。ちょっとみっともないけど」 二転三転する自分の処遇には、おそらく千鶴の父・榊前首相や香月博士など、お偉いさんの思惑とパワーバランスが複雑に絡み合っているだろうことは理解している。それでもやはり、千鶴としてはここ横浜基地に、訓練分隊時代仲間の元に、そして白銀武のそばに戻ってこられたことには、喜びを感じずにはいられない。「榊さん、良かった。戻ってきたんだあ」「委員長、なんだかすっごい久しぶりな気がするな」「ええ、久しぶりね、珠瀬、白銀」 正式に任官しても未だに「委員長」なのは気になるが、今になるとこの呼ばれ方も懐かしい。堅物の千鶴にしては珍しく「今日ぐらいは」という気持ちで、そのことを指摘せずに、壬姫と武にも笑いかける。「千鶴、あなた、その胸の勲章……」 旧交を温めあう中、茜は千鶴の左胸に飾られた勲章に気づく。 茜の指摘に、壬姫と武もそれが何であるか気がついた。竹の花を模した金属製の勲章。「委員長、お前っ」「参加してたんですか!?」『佐渡島戦従軍勲章』。驚く武達の前で、千鶴は少し恥ずかしそうに、だが誇らしげに胸を張る。「ええ、一応ね。初陣だったから、小隊の皆に迷惑を掛けてばっかりだったけれど」「ふええ……」 感心したように、声を漏らす壬姫とは裏腹に、茜の瞳には勝ち気そうな負けん気の色が浮かぶ。「へえ、シミュレータ訓練が楽しみね。佐渡島帰りの腕、見せてもらうから。でも大丈夫? ヴァルキリーズの戦術機は『不知火』よ」「大丈夫よ。確かに陸軍で使っていたのは『撃震』だけど、訓練小隊の頃乗っていたのは『吹雪』なのだから。すぐに慣れてみせるわ」 負けずに、千鶴は強気の言葉を返した。 第一世代戦術機である『撃震』と、第三世代戦術機である『不知火』では、操縦性においてもかなりの違いがある。しかし、高等練習機『吹雪』は、事実上の第三世代戦術機だ。千鶴の言葉もそう根拠のないことではない。 しかし、そんな千鶴の意気込みを、無にするようなことを夕呼が言ってのける。「ああ。榊はしばらく、演習はなしね。あんたにはまっさらな状態で、新装備を試して貰いたいから」「新装備って……」「たけるさんの……?」 クリスマス以来、武がちょくちょく夕呼に呼び出され、ヴァルキリーズの訓練を欠席しているのは周知の事実だ。どうやら夜の空き時間は丸ごと、夕呼に拘束されているらしい。「そうよ。ああ、白銀。あんたは午後からはまた、こっちね」「はい、分かりましたぁッ!?」 返事を返す武の語尾が悲鳴に変わる。見ると、後ろから武の首に水月が腕を回していた。「白銀ぇ、あんた分かっているでしょうね? 絶対に、間に合うように仕上げるのよ! 間に合わなかったら酷いわよ、どれくらい酷いか、ここで言えないくらい酷いからね!」「わ、分かりました、分かりましたから!」 強化装備姿の水月に、背中から首に腕を回され、ぐいぐい締め付けられる武は、息苦しさやら、背中の心地よさやら、色々な意味で顔を赤くしながら、あがくような声で返事を返す。 武が開発に携わっている新装備が、どんなものかはさておいても、水月にしてみればそれがいつ完成するかは、大問題なのであった。 武が夕呼の元、戦術機の新装備開発をしている旨をみちるに伝えたところ、みちるはごく当たり前のように「そうか。ではそれが、間に合わなかった場合は、私がαナンバーズに出向することになるな」と言ったのである。 考えて見れば確かにその通りだ。伊隅ヴァルキリーズを『αナンバーズ出向組』と『横浜基地留守番組』に分けるとして、隊長のみちると副長の水月がそれぞれの部隊を率いるのは決定事項。 その上で、例え小隊をある程度組み直すとしても、最小単位であるエレメント(二機編成)を組み直すのは、今日まで培ってきたコンビネーションの問題からしてもあり得ない。そして、武のエレメントパートナーは水月。 必然的に、武が横浜基地に残るのならば、水月も横浜基地留守番組となる。 不本意ながら、水月がαナンバーズ出向組に回れるかどうかは、武の新兵器開発の進捗状況にかかっているのである。「それじゃあ、私はこれで失礼するわ。白銀、ついてきなさい」「は、はい」 夕呼からの命令となると、水月もいつまでも武に絡んではいられない。解放された武は、逃げるようにして夕呼の後について、ブリーフィングルームを出て行った。「びっくりしましたよ。まさか委員長が戻ってくるなんてっ!」 夕呼の隣を歩きながら、武は今更ながら興奮したように夕呼に話しかける。「使える奴は総理大臣の娘だろうが、国連事務次官の娘だろうが、私は使いつぶすまで使うわよ」 夕呼は素っ気なく答える。よく見ると、目元が赤く充血している。また、物理的に眠れない日々を過ごしているのだろう。帝国との交渉、アメリカへの弁明、αナンバーズへの探り、そして武発案の新型OS開発。常人ならば、頭が三つ、身体が五つぐらい無ければ不可能な仕事量を、夕呼は一人でこなしている。 今後夕呼の権限が戻れば、直下の実働部隊である伊隅ヴァルキリーズの充実は急務だ。 夕呼の直下部隊に求められるレベルは非常に高い。高い技量、高い資質、そして何より高い『00ユニット適性』。元々A-01部隊は、00ユニットの被験者という位置づけなのだ。 00ユニットの最有力候補は未だに、『鏡純夏』で変わらないが、だからといって二番手、三番手候補を妥協する気はない。『00ユニット適正』とは一言でいえば「よりよい未来を選択する力と強い意志」の事だ。 実働部隊の衛士としても、この数値が高い方が望ましいのは言うまでもない。そして、旧207B訓練分隊の人間は、歴代でも特に高い数値をたたき出している。 夕呼はこれまでの交渉で、帝国に「旧横浜基地訓練部隊に所属していた人員を全員呼び戻す」ことを認めさせている。直下部隊もかつてのA-01のように、戦術機連隊規模に戻せるよう、予算もふんだくる手はずを着々と整えている。 だが、問題はあくまで、夕呼が交渉を成立させたのは「帝国」だけだということだ。 アフリカ・中東戦線で戦っている鎧衣美琴と彩峰慧、そして国連軍アメリカ本部付となっている神宮司まりも。それぞれの現所属部隊との折衝は夕呼が自らやるしかない。 特に問題はまりもだ。 伊隅ヴァルキリーズをかつてのA-01のように連隊規模まで増やすには、定期的に新人を補充する訓練部隊の再結成は必須条件だ。しかし、教官として十分に優秀で、人格的に信頼でき、香月夕呼のわがままに振り回されても壊れない頑丈さを有している人間など、そうそういるはずがない。 事実上、神宮司まりもを取り戻さない限り、訓練部隊は結成不可能と言える。「白銀、今日はβ版を完成させるまで、仕事は終わらないと思いなさい」「分かってますよ、大丈夫です。俺もあのOSには凄い手応えを感じてますからっ!」 夕呼の厳しい言葉に、武は強い言葉で答える。事実、新型OSを積んだ不知火は、限りなく武の望むとおりの機動『バルジャーノン的機動』が可能になっている。これが完成すれば、機動力だけならば、αナンバーズの機体にも引けを取らないのではないかと、錯覚するほどだ。「そう、なら、榊用の不知火も換装を済ませておくわ」 夕呼は、白銀と新OSの開発を話し合いながらも、頭の半分では、今後の交渉について思考を巡らせていた。【2005年1月1日、日本時間20時00分、小惑星帯、エルトリウム】 新年を迎えた元旦の夜、エルトリウムの艦内都市にある一番大きなコンサートホールでは、空調も意味をなさない熱気に包まれていた。 派手なスポットライトを浴びながら、舞台の上で演奏を披露しているのは、四人の男女からなるロックバンドだ。 一番後ろのドラムマシーンの前に長身のゼントラーディ女がどっしりと座り、向かって右側では褐色のがたいのいい男がキーボードを弾いている。 さらに、向かって左側には象のような形をしたベースを弾きながら、マイクでコーラスを入れている長い桃色の髪の少女がおり、そして部隊の真ん中では、丸いサングラスを掛けた男がギターを奏で、会場の歓声すら押し返すほどの声量で歌っている。「よーし、次行くぜ、ダイナマイトエクスプロージョン! 俺の歌を聴けぇ!」 それは、ファイアーボンバーだった。 バンドリーダー、レイ・ラブロックの提案で行われることになった、年越し・新年ライブの二日目だ。 当初は、そんな暇があれば火星に行きたいと渋っていたバサラも、ライブが始まれば、すっかりいつものノリを取り戻している。 昨日と今日とで、もう計八時間以上歌っているというのに、その声量は全く衰えることを知らない。「よし、ラストだ、行くぜっ!」「新曲だよ、みんな、聴いてぇえ!」「パレード!」 エルトリウムの人々は、異世界で戦い続けるという日々の重圧を、今このときだけは忘れ、浮かれ騒ぐのだった。 一方コンサート会場が盛りあがっているさなか、αナンバーズの艦長達は、定例のフォールド通信会議を行っていた。『やはり、この世界の国際組織『国際連盟』は近々朝鮮半島のハイヴ、甲20号ハイヴを攻略するつもりのようです。正確な日時はまだ判明していませんが』 今夜の会議は、横浜港に停泊するラー・カイラムの艦橋に立つ、大河全権特使のそんな言葉から始まった。『国連やアメリカは無論ですが、日本帝国も完全に我々を信頼してくれているわけではないようで、正確な情報の収集には苦慮しています』 大河特使の率直な言葉に、エルトリウム艦長、タシロはため息をつく。「うむ、やはり信頼関係を構築するには時間が圧倒的に足りない、か」 覚悟はしていても、気落ちする感は否めない。それでも、かつてのバッフ・クランのように、問答無用で「敵」と断じられないだけ、まだマシなのだろうか。 その重い空気を吹き飛ばすように、ラー・カイラム艦長ブライト大佐が口を開く。『無論我々もただ手をこまねいているわけではありません。来るべき日のために、ソルダートJのジェイアークに、水星軌道上へと向かってもらいました。これで、ジェイアークは数日中に修復が完了する予定です』 ジェイアークの自動修復力は光の強さに由来する。地球より遙かに太陽に近い、水星軌道上まで行けば、その自動修復力は圧倒的に向上する。『そちらはどのような状況ですか?』 言葉を振られたタシロ提督は「うむ」と一つ頷くと、隣に立つ副長に目を向ける。 エルトリウム副長は、野暮ったい眼鏡を直すと、手元の資料に目を落とし、淡々と報告し始めた。「現在、修理が最も進んでいるのは、ウィングガンダムゼロ、ガンダムデスサイズヘル、ガンダムヘビーアームズ改、ガンダムサンドロック改、アルトロンガンダムの五機です。これらは、次回エターナルがこちらに戻った際に、詰め込むことが可能と予想されます」 付け足すように、バトル7艦長、マクシミリアン・ジーナス大佐が口を挟む。「こちらもその頃には、VF-11の一機目が完成している予定です。一機目のパイロットはガルド・ゴア・ボーマンを想定していますので、五体のガンダムと一緒に地上に降ろしたいと考えています」 本人達は否定するだろうが、ガルドとイサムは誰もが認める名コンビである。バラバラで使うよりもそろって使う方が効率が良い。『承知しました。私が責任もって皆さんを地上まで送り届けます』 輸送役のエターナルに乗る、ラクス・クラインは、いつも通り静かな口調で了承する。『助かります』 短い一言であったが、それはブライトの素直な気持ちだった。 現状で六機の援軍は本当にありがたい。特に、ウィングガンダムゼロを中心としたガンダニュウム合金製のモビルスーツは、現在ブライト達が取ろうとしている作戦には、必要不可欠な機体といえる。 続いて口を開いたのは、大河長官の留守を預かる、GGGの火麻参謀だった。「こちらも、勇者ロボ部隊に先駆け、光竜と闇竜の復帰の目処が立ちました。生憎まだ半月近くかかりますので、甲20号作戦に間に合うかどうかはわかりませんが」『おお、戻ってきたか、勇者達が』 火麻参謀の報告に、大河全権特使が気色を露わにする。やはり今は、αナンバーズとしてまとまっていても、元々自分の直下にあった勇者ロボ部隊には、特別な思いがあるのだろう。もっとも勇者ロボは、モビルスーツなどと違い、ロボであると同時に自立した人格を有するαナンバーズの一員であるのだから、普通以上に心配するのも当たり前と言えば当たり前だ。「はい、長官。光竜、闇竜の次は、ボルフォッグの予定です。生憎こっちはまだ、進捗を説明できるほど目処がたってませんがね」 火麻はそう付け加えた。 元々、勇者ロボの中で、光竜、闇竜に次いで損傷の少なかったのは、炎竜と氷竜だったのだが、アラン・イゴールの希望もあり、ボルフォッグの修理を優先していたのである。 幸い、ボルフォッグも最終戦では、ビッグボルフォッグで出撃していたこともあり、ボルフォッグ本体は比較的損傷が軽かった。 時間がたつにつれて、明るい話題が多くなっていくのは良いことだ。 続いて、タシロ提督が続ける。「その他のモビルスーツもやっと修復の目処が立ってきた。やはり、追加アーマーのあった機体は比較的損傷が少ないな。ガンダムZZ、リ・ガズィ二機、ガンダム試作三号機ステイメン、そして、フリーダムガンダムとジャスティスガンダムは、そう遠くないうちに復帰できるだろう」 ただし、それぞれの追加装備、ガンダムZZの「フルアーマー装備」、リ・ガズィの「バックウェポンシステム(BWS)」、ガンダム試作三号機の「オーキス」、フリーダム、ジャスティスの「ミーティア」は、廃棄処分が決定したらしい。修復可能なのは機体本体だけだ。 だが、それにしてもそれだけの機体が戦線に戻れば、後方本隊も先行分艦隊も一気に楽になることは間違いない。「その中でも、最も早く修復が完了すると思われるのが、ガンダムステイメン、逆に最も時間がかかると目されるのが、フリーダムガンダムとジャスティスガンダムです」 タシロ提督の言葉を受けて、エルトリウム副長がそう付け足した。 ガンダムステイメンの修理が早くすむのは単純に機体の損傷が小さいからだが、フリーダムとジャスティスの二機に時間がかかるのは、損傷が大きいからではない。 PS装甲や、ラミネート装甲素材を使ったシールドなど、この両機は、モビルスーツの中では比較的難しい技術が使われている部類に入るからだ。 とはいえ、所詮はモビルスーツ、「超電磁ってなんだ?」とか「野生の力を引き出す装置ってどんなだ?」とか「意思を持って進化するエネルギーってさわって良いのか?」などという声が常時上がる特機の修理に比べれば、なんということもないのも確かである。なにせ、モビルスーツは特機と違い、最低限『質量保存の法則』は守ってくれる。まあ、『エネルギー保存の法則』は無視しているモビルスーツも、ちらほら見られるが。 エルトリウム副長は淡々と説明を続ける。「後は、地上に建設する補給基地の問題ですが、現在稼働していないジェガンの製造ラインをばらし、輸送できる状態にしている最中です。一方弾薬やモビルスーツ用武器の製造ラインは、現在フル稼働中ですので、一度止めない限り、製造ラインを地上に降ろすことが出来ません」 むしろ、武器弾薬の製造ラインに関しては、ライン自体を新たに築いた方が得策かと思われます、と副長は言葉を締めくくった。 この辺りもまた、面倒くさい話だ。補給地と前線に距離がありすぎるのは、決して良いことではないのだが、かといって今すぐエルトリウムを地球に向かわせるワケにはいかない。せっかく確保した資源衛星から離れては、物資の補給にも支障を来すし、なにより現在エルトリウムには、火星から毎日のように着陸ユニットが飛来しているのだ。 ガンバスター、シズラー黒、ガイキング等による火星ハイヴ間引き作戦は順調だが、今のペースでいっても、火星からBETAを駆逐するには、最低でも今年の三月いっぱいまではかかると見られている。今年度中は、エルトリウムは身動きがとれないと思って良いだろう。もどかしいが仕方がない。「「「…………」」」 難しい問題に、しばし沈黙が続く。「分かった。その件に関しては、しばらくは現状維持で行くしか無いだろう。副長、製造部に余力があるようなら、武器、弾薬の製造ラインの複製に取りかからせておいてくれ」「分かりました」 タシロ提督と副長の間で一応の決着がつく。 気を取り直し、タシロ提督はモニターの向こうのブライト達に問いかける。「そちらからの報告は以上かね?」 それに対し、ブライトと大河は少し苦い顔で顔を見合わせる。『いえ、実はもう一つ、厄介な問題が。以前に、香月博士から、「この世界では平行世界という概念が荒唐無稽なものとされている」というお話があったことは覚えているかと思いますが』「うむ」『実は、我々が思っていた以上に信じられていなかったようです。どうやら、未だにこの世界に住む人間の大部分は、我々が異世界からやってきたという事実を認められずにいます』 ブライトの言葉を引き継いで、大河特使は本日昼に、夕呼から聞かされた話を披露する。 未だに帝国以外の大部分の国は、αナンバーズを日本帝国の極秘特殊部隊だと認識しているということ。 その誤解を解くために、「αナンバーズの兵器のサンプル提出」もしくは「エルトリウムに各国の大使を受け入れる」という二つの提案がされたこと。『……というわけで、現状では帝国以外は、我々を「日本帝国の一部隊」と捉えています。この状況を打破しない限り、地球上における対BETA戦の行動は大きく制限されるでしょう』 話を聞かされた後方本隊の艦長達は、そろって渋面を浮かべていた。「そうですか。なまじ香月博士の理解が早かった分、そちらの対処が遅れてしまいましたね」 マックス艦長は、帽子を目深にかぶり、バトル7の艦長席の背もたれに身体を預ける。「まあ、二十一世紀初頭の科学レベルでは当然の認識、というべきかもしれませんな」 隣でエキセドル参謀が、まるで人ごとのような口調でそう呟いた。だが、その言葉は正鵠を射ている。αナンバーズから見ればここは二百年近い過去の世界なのだ。次元移動だの、時間移動だのという概言が、現実的な手段として受け入れられる方がおかしい。「しかし、その提案はどちらも難しいだろう。技術の公開も、大使の受け入れも簡単な話ではないぞ」 タシロ提督は白い髭の下の唇を、難しそうに尖らせる。「ですが、現状のまま、帝国の一部隊と誤解されているのは、さらに拙いです。何らかの手段を以ってしてでも、誤解は解いておくべきです」 タシロ提督の苦悩などお構いなしに、副長は冷徹に事実を突きつける。「分かっている」 タシロ提督は、ため息をつきながら一つ頷いた。 だが、提示された手段はどちらも問題がある。兵器の提出は危険の拡散という問題があるし、大使の受け入れは、輸送の問題がある。 まさか各国大使を、高速戦闘艦であるエターナルにすし詰めにして連れてくるワケにもいくまい。せめて大空魔竜か、場合によってはバトル7を地球に向かわせることになるかも知れない。 そして、大使をエルトリウムの中に迎え入れた場合、彼らがαナンバーズに支援を求めてくることが、想定される。戦闘力による支援はむしろこちらとしても望むところだが、技術支援や物的な支援を各国大使から求められたとき、果たしてうまく対応できる人間がいるだろうか? 順当に行けば対応するのはタシロ等艦長クラスの人間か、もしくはミリア市長になるのだろうが、誰が矢面に立ってもうまくいかない気がしてならない。「少なくとも、最初から長期滞在の大使として受け入れるのは止めた方が良いでしょうな。まずは、こちらの現状を直接目の当たりにしていただくため、短期滞在の「ゲスト」としてお招きしたらいかがでしょうかな?」 おおよそ同じようなことを考えたのか、エキセドル参謀がそう提案してきた。確かに、短期滞在ならば難しい交渉に発展する危険は比較的小さい。「私としてはむしろ、兵器の限定的な提出の方が、良いかと考えます。元々、我々がこの世界を去った後のことを考えれば、ある程度の技術提供は必須のはずです。それを前倒しすると考えれば大きな問題にはならないでしょう」 一方エルトリウム副長は、別な意見を押す。 副長の考える提出技術は、「ミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉」、つまりモビルスーツに使われている核融合炉だ。 核融合炉ならば、この世界でも実験レベルでは成功しているようだし、G元素に由来しない技術であることは理解してもらえるだろう。 もっとも、その燃料であるヘリウム3が地球上にほとんど存在しないうえ、ミノフスキー粒子発生装置がない限り、複製も出来ないので、送られた方の思惑は完全に外れることになりそうだが。 タシロ提督は、目を瞑りしばし考える。「……うむ。ではエキセドル参謀の意見と、副長の意見を並行して進めるのはどうだ。大河特使、各国の代表を「ゲスト」として短期にお招きするという線で交渉してもらえるだろうか。サンプル提出についても、否定的ではない方向で話を進めてもらいたい」 タシロの言う交渉は、かなり玉虫色で難易度の高いものであったが、大河は「分かりました」と首を縦に振る。『では、話を甲20号攻略戦に戻します。あれからは、大河特使が尽力してくれてはいるのですが、やはり、国連軍主導の作戦は、止められそうにありません』 ブライトは、話の区切りが一端ついたところで、再び間近に迫った問題に、会話の中心を戻す。『はい、今後も交渉は続けていくつもりですが、先ほどの問題――我々が、帝国の一部隊だという誤解がある以上は、成果を上げる可能性は低いと言わざるを得ないでしょう』 答える大河特使の顔にも、厳しい表情が浮かぶ。 国連軍によるハイヴ攻略作戦。帝国の人間から聞いた話なので、ある程度悪意が混じっている可能性はあるが、それにしても地球上で行うにはあまりに環境被害が大きな作戦だ。 後々どのような弊害があるか知れないという、G弾による広域殲滅。そんなものを使わなくても、αナンバーズの参戦を許してもらえれば、現在地球にいる先行分艦隊だけでも十分、フェイズ4ハイヴくらいは落としてみせるのだが、やはり政治の壁は厚い。 ブライトが、大河の後に続ける。『私も、先行分艦隊の正面参加を諦めるつもりはありませんが、現状では不可能に近い状況です。しかし、この世界の枠組みを踏みつぶし、我々がハイヴ攻略を強行するというのも、多数の問題が残ります』 G弾は恐ろしい、危険だ、弊害があるとは聞かされているが、実際具体的にどのようなものかは分からない。 果たしてそれは、反応弾よりも恐ろしいのか。はたまた、ゴルディオンクラッシャー以上なのか、流石にイデオンガン以上ということはないと思うが、絶対に違うとは言い切れない。 本当にとんでもないことをしようとしているのならば、法も神も蹴飛ばして強硬手段を執ることも辞さないαナンバーズであるが、基本的には可能な限り事を荒立たせないように振る舞うのもまた、αナンバーズだ。少なくとも、圧倒的武力をバックに、こちらの意思を無理矢理押し通すという考えは根本的にない。『ですので、もしG弾による攻略戦が行われた場合、我々になにができるか、ということを考えておきたいと思います。 今回攻略の対象となるのは、先ほどから何度も言っているとおり、朝鮮半島中部の甲20号ハイヴです。それに対し、日本帝国軍は不慮の事態を想定して、九州から中国地方に掛けて、防衛ラインを構築すると言っています』 これは当たり前の行動だ。戦場となる朝鮮半島と、日本列島の南側は、海を挟んでいるとはいえ、200㎞も離れていない。 対岸の火として見物するには距離が近すぎる。『その日本列島南部防衛ラインに参加が認められれば、我々にも出来ることが生まれます。G弾を以ってしてもハイヴのBETAを殲滅させることは難しいらしく、必ずその後、激しい上陸戦が行われるそうですから』 それはこの間の佐渡島ハイヴ攻略戦のような、G弾を使わない攻略戦に比べれば楽なものだが、それでも大量の死傷者を出すのだという。『我々は、Jアークを中心とした海中戦力を日本領海のギリギリに展開。BETAをおびき寄せ、叩き、少しでも朝鮮半島上陸軍の被害を少なくしようと考えています』 ブライトは、強い決意を込めてそう言い切ったのだった。αナンバーズが一匹でも多くのBETAを引き受ければ、それだけ上陸軍の負担は減る。極めて単純な事実だ。「では、主戦場は海中ということかね、ブライト君」 タシロ提督の問いに、ブライトは首肯する。『はい、海中戦に適さない機体は、対馬に上陸させて第二次防衛ラインとするつもりですが、主戦は海中です』 これは、ヒイロ達の機体が間に合うことが前提の作戦だ。ガンダムウィングゼロを筆頭とした、ガンダニュウム合金製のモビルスーツは、水中でも機動力や攻撃力があまり落ちないという特色を持っている。 普通は、朝鮮半島のBETAがわざわざ日本領海までやってくるとは考えづらいが、そのためのジェイアークだ。 あれから、横浜基地防衛戦後、香月博士から聞かされたのだが、BETAにはより高性能なコンピュータを搭載した機体を優先的に狙う性質があるのだという。 あの時は、前橋市に上陸したBETAが、アークエンジェル部隊を素通りしてまで、所沢市にいるキングジェイダーに群がっていった。 それを考えれば、キングジェイダーがジュエルジェネレータの出力を全開にし、その所在をアピールすれば、朝鮮半島のBETAが日本の領海までやってくることもあり得ない話ではない。 だがもちろん、これはそんなにいい話ではない。 言ってしまえば本来こっちに来ないBETAを無理矢理引き寄せるのだ。一歩間違えれば、朝鮮半島上陸軍に混乱を巻き起こし、かえって被害を拡大させかねない。 さらに大きな問題があるのが、対日本だ。 普通にしていれば、こっちに来ないはずのBETAを無理矢理自国の領海に引き寄せるなど、まともな人間なら了承するはずがない。了承させるならば、「入ってきたBETAは全てαナンバーズが排除する。帝国には人的被害を出さない」というのが、こちらの約束する最低ラインだ。 まあ、実際には帝国はαナンバーズに多大な借りがある(と思っている)ので、その程度のことならば苦い顔をすることはあっても、断るはずもないのだが、ブライト達には借しを作ったという考えがさらさら無いため、分からない。元々九州、中国地方が現在、対BETA戦の緩衝地帯となっており、民間人は一切住んでいない。 現状の政治状況では地球におけるαナンバーズは両手両足を縛られているようなものだ。それでも、一人でも死者を少なくできるのならば、出来る限りのことをする。「分かったブライト君。地上のことは君達に任せよう。こちらからも出来る限りの支援をさせて貰う。副長、本隊の余裕はどの程度あるかね? ゲッターチームを地上に送るだけの余裕は?」「可能です。ガンバスター、シズラー黒、ガイキングチームが復帰した現在、最低限の防衛人員は足りています。ただし、その場合、火星ハイヴの間引き作戦は大幅に遅れることになりますが」「うむ。それでいい。光竜・闇竜が戻れば、その遅れはすぐに取り戻せる。ゲッターチームも地上に派遣してやってくれ。頼んだぞ、ブライト君」 タシロ提督の言葉に、ありがとうございますと返し、ブライトは最後に締めくくる。思わぬ援軍だ。ゲッターロボは、三段変形ロボット。そのうち、ゲッターポセイドンは、αナンバーズでも数少ない、「水中戦専用機体」だ。今回の作戦の戦力としては、これ以上ないくらいに心強い。『全力を尽くします』 後日『オペレーション・ハーメルン』と呼ばれる作戦が、今このときより正式に動き始めたのであった。