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No.4039の一覧
[0] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~[山崎ヨシマサ](2010/06/05 22:51)
[1] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~プロローグ2[山崎ヨシマサ](2010/11/10 03:38)
[2] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第一章その1[山崎ヨシマサ](2009/09/22 23:11)
[3] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第一章その2[山崎ヨシマサ](2009/09/22 23:17)
[4] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第一章その3[山崎ヨシマサ](2009/09/22 23:23)
[5] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第一章その4[山崎ヨシマサ](2010/06/05 22:53)
[6] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第一章その5[山崎ヨシマサ](2010/06/05 22:55)
[7] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第一章その6[山崎ヨシマサ](2010/06/05 22:59)
[8] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~幕間その1[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:04)
[9] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第二章その1[山崎ヨシマサ](2010/07/19 22:58)
[10] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第二章その2[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:06)
[11] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第二章その3[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:07)
[12] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第二章その4[山崎ヨシマサ](2010/09/11 22:06)
[13] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第二章その5[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:09)
[14] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第二章その6[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:11)
[15] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第二章その7[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:12)
[16] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第二章その8[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:17)
[17] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~幕間その2[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:19)
[18] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第三章その1[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:20)
[19] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第三章その2[山崎ヨシマサ](2010/07/19 23:00)
[20] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第三章その3[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:24)
[21] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第三章その4[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:27)
[22] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第三章その5[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:29)
[23] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第三章その6[山崎ヨシマサ](2010/07/19 23:01)
[24] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第三章その7[山崎ヨシマサ](2009/09/23 13:19)
[25] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第三章その8[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:33)
[26] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~幕間その3[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:36)
[27] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第四章その1[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:38)
[28] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第四章その2[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:40)
[29] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第四章その3[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:42)
[30] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第四章その4[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:42)
[31] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第四章その5[山崎ヨシマサ](2011/04/17 11:29)
[32] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第四章その6[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:45)
[33] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第四章その7[山崎ヨシマサ](2010/07/16 22:14)
[34] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第四章その8[山崎ヨシマサ](2010/07/26 17:38)
[35] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~幕間その4[山崎ヨシマサ](2010/08/13 11:43)
[36] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第五章その1[山崎ヨシマサ](2010/10/24 02:33)
[37] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第五章その2[山崎ヨシマサ](2010/11/10 03:37)
[38] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第五章その3[山崎ヨシマサ](2011/01/22 22:44)
[39] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第五章その4[山崎ヨシマサ](2011/02/26 03:01)
[40] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第五章その5[山崎ヨシマサ](2011/04/17 11:28)
[41] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第五章その6[山崎ヨシマサ](2011/05/24 00:31)
[42] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~幕間その5[山崎ヨシマサ](2011/07/09 21:06)
[43] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第六章その1(最新話)[山崎ヨシマサ](2011/07/09 21:50)
[44] Muv-Luv Extra’ ~終焉の銀河から~プロローグ[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:47)
[45] Muv-Luv Extra’ ~終焉の銀河から~第一章[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:49)
[46] Muv-Luv Extra’ ~終焉の銀河から~第二章[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:51)
[47] Muv-Luv Extra’ ~終焉の銀河から~第三章[山崎ヨシマサ](2010/06/29 20:22)
[48] Muv-Luv Extra’ ~終焉の銀河から~第四章[山崎ヨシマサ](2010/07/19 22:52)
[49] Muv-Luv Extra’ ~終焉の銀河から~第五章[山崎ヨシマサ](2010/08/13 05:14)
[50] Muv-Luv Extra’ ~終焉の銀河から~第六章[山崎ヨシマサ](2010/09/11 01:12)
[51] Muv-Luv Extra’ ~終焉の銀河から~エピローグ[山崎ヨシマサ](2010/12/06 08:17)
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[4039] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第三章その5
Name: 山崎ヨシマサ◆0dd49e47 ID:71b6a62b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/05 23:29
Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~

第三章その5



【2005年1月20日、日本時間8時55分、対馬東海上、ラー・カイラム】

 1月20日。極東BETA戦線は、新たなる段階を迎えようとしていた。

 国連主導による甲20号ハイヴ攻略戦。

 朝鮮半島の南側・黄海上には大東亜連合艦隊が、反対の北側・日本海側には国連軍太平洋艦隊が、そして衛星軌道上には国連宇宙軍装甲駆逐艦隊が、準備万端整え、開始の合図を待っている。

 アジア諸国の中で、唯一この作戦に直接軍を出していない日本帝国であるが、それは帝国の平穏を意味するものではない。

 日本から見れば、日本海をはさみ五百キロも離れていない地点が主戦場なのだ。奇跡の佐渡島ハイヴ攻略戦からまだ一月もたっていない帝国にとっては、西日本に防衛網を引くだけでも青息吐息の重負担だ。 

 万が一、甲20号ハイヴのBETAが日本海を渡り、九州・中国地方に上陸するようなことがあれば、それだけで十分致命傷になりうる。

 その場合には、西日本防衛線の最前線に志願したαナンバーズ先行分艦隊に、これまで通りの常軌を逸した活躍を期待するしかないのが、今の帝国の台所事情なのであった。






「アムロ小隊、カミーユ小隊、バニング小隊、カガリ小隊、ディアッカ小隊、エヴァ小隊、ジーグ小隊、イサム小隊、ウイングガンダムゼロ。全て所定に位置につきました」

「ゲッターポセイドン、ガンダムデスサイズヘル、ガンダムサンドロック改、ガンダムヘビーアームズ改、アルトロンガンダム、以上海中部隊も配置完了です」

「Jアーク問題ありません。阿蘇山火口上空で待機」

 BETAをおびき寄せると考えられているJアークは、念のため九州中部の阿蘇山の上空で待機させている。完全復活したJアークの飛行速度は、文字通り常軌を逸している。阿蘇上空から対馬までなど、加減速のロスを考慮しても数秒もかからない。

 キビキビとラー・カイラムの管制官達が艦長席に座るブライトに報告を入れる中、国連軍の黒い制服を着たCP将校が、艦橋の一角に臨時で設けられた管制席に座り、少し緊張した声色でそれに続ける。

「伊隅ヴァルキリーズ。全機、問題なく稼働。機体配置、完了しています」

 それは、伊隅ヴァルキリーズのCP将校、涼宮遙中尉であった。いきなり伊隅ヴァルキリーズの面々を直接αナンバーズの指揮下におくのは不安が残るため、今回の作戦に同行したのだ。

 無論、ラー・カイラムの施設では今まで通りのCP業務は出来ないため、機材一式は横浜基地から持ち込んでいる。

 慣れた機材を使い、相手をするのは慣れたヴァルキリーズ。やることは普段と何ら変わらないのだが、やはり未知なる空中浮遊戦艦に乗っているというだけで、無用な緊張感を強いられる。

 幸い、艦長のブライトを始め、αナンバーズの面々は皆、気安く、友好的な人間ばかりだったが、ここがαナンバーズという異世界人の旗艦であるという事実に変わりはない。

 不可抗力で何らかの機密情報に触れてしまい、身柄を拘束される可能性は常につきまとっている。

 そういった意味では、遙以上に緊張の日々を強いられているのが、格納庫で働いている戦術機の整備兵達だ。なにせ、すぐ隣でαナンバーズの整備兵達が働いているのである。

 目に入るもの、耳に聞こえてくるもの全てが、機密情報の様な気がする。特に倉庫の片隅に放置されている廃棄されたモビルスーツ――ジムカスタムの残骸を目の当たりにしたときは、一同本気で目を疑ったものだ。

 パーツ取りのために使える装甲部品をはぎ取り、機体中枢を剥きだしにしたモビルスーツを、部外者――それも兵器の専門家である整備兵の前にわざわざ放置している理由は何なのだろうか?

 意図の読めない整備兵達は、この作戦が終わっても、自分たちは退艦が許可されない可能性が高いとすら思っている。

 αナンバーズの面々が聞けば、目を丸くして首をかしげそうな話だが、元々星を越えた「寄り集まり所帯」であるαナンバーズの常識を理解しろという方が酷なのかも知れない。





 一方、対馬上陸を果たした伊隅ヴァルキリーズの衛士達は、甲20号作戦の開始を数分後に控え、緊張した面持ちで海の向こうを見つめていた。

 αナンバーズ出向部隊となったのは、C小隊の4人――宗像美冴中尉、風間梼子中尉、涼宮茜少尉、柏木晴子少尉に、B小隊の2人――速瀬水月中尉と白銀武少尉を加えた、合計6名である。

 六機の不知火は、この場では変則一個小隊として扱われている。一個小隊と言うには若干数が多いが、二個小隊と呼ぶには数が足りない。

 六機に不知火は皆、今回が初の実戦使用となるビーム兵器が搭載されている。

 数に限りがあるため、多いものでビームライフルが一つとビームサーベルが二つ程度だが、桁外れの威力を持つ新兵器は、新OS『XM3』同様、十分な力を発揮してくれるはずだ。

 さらに周りを固めるのは、文字通り一騎当千のαナンバーズの猛者達。例えBETAの大軍を相手取ることになっても、何ら問題はないはずだ。

 そうは思っていても、戦闘開始を直前に控えた緊張感がほぐれるものではない。

 まして、これがまだ二度目の実戦である武達に緊張するな、と言う方が酷だ。

「はあ……」

 不知火のコックピット中で、武は何度目になるか分からないため息をついた。

 同時に網膜投射ディスプレイの片隅に表示されるデジタル時計に視線を向ける。

 8:58

 作戦開始まで後2分だ。さっき見たときは、8時56分だった。あれから最低でも10分はたった気がするのに、まだ2分しかたっていない。

 緊張の中、何かを待つ時間というのは、恐ろしくゆっくり流れる。

「ふう……」

 もう一度深呼吸をする。

『白銀ぇ、あんたさっきからなに辛気くさいため息付いてるのよ』

 そんな武の様子を見かねたのか、部隊長であり武のエレメントパートナーでもある水月が声を掛ける。

 網膜ディスプレイの右上に移る上官のあきれ顔に、武は慌てたように言い訳する。

「あ、いや、今のは深呼吸で」

『どっちでも良いわよ、そんなの。本当に大丈夫なんでしょうね? 突撃前衛が、緊張ですっ転ぶなんてみっともない真似はやめてちょうだいよ』

 問題ないのはバイタルデータで水月も確認済みだ。これは、緊張をほぐすための軽口に近い。

『緊張すること無いぜ、武。お前が多少ドジっても俺がフォローしてやるよ』

 軽い口調で割り込んできたのは、ヴァルキリーズの右に陣を張るイサム・ダイソン中尉だった。先の横浜基地防衛線で共同戦線を経験しているイサムは、αナンバーズの中でも特にヴァルキリーズと気安くなっている。

 こちらは音声のみで、画像は繋がらない。

『人のことを言っていられる立場か。調子に乗ってドジを踏むのは、お前の専売特許だろうが』

 そこに辛辣な言葉をかぶせたのは、その隣に立つVF-11サンダーボルトのガルド・ゴア・ボーマンだ。

 イサムのVF-19エクスカリバーも、ガルドのVF-11サンダーボルトも、現状はガウォーク形態を取っている。イサムが前回の戦闘で、BETAの大群を相手取るにはこれが最適と判断したのだ。なんだかんだ言っても、ガルドもイサムのバルキリー乗りとしての能力は認めている。

『んだと、この、むっつり陰険野郎。俺が今まで何回、お前のミスをフォローしてやったと思ってやがる!?』

『俺が貴様をフォローしてやった数より少ないことは確かだな』

『てめえ、勝手に記憶改ざんしてるんじゃねえ!』

 すっかり武を置いてきぼりにして、いつもの喧嘩が始まる。

『あはは。大丈夫ですよ、武さん。僕らはここからあまり動かないようにしますから、危険な状態になったらこっちに避難してきて下さい』

 イサムとガルドのやりとりに、困ったような笑い声を上げながら、そう言ってきたのはヴァルキリーズの左に陣を引く、エヴァ小隊のシンジだった。

「ああ、その時は頼むよ、シンジ」

 自分より遙かに年下の少年に守って貰うというのは若干情けない気もするが、元々乗っている機体の防御力が次元違いなのだ。

 気にする方が間違えている。

 気がつけば、言葉を交わしている間に、緊張はほどよくほぐれていた。会話によるリラックス効果というのも馬鹿に出来ない。

 熟練の隊長クラスには、話術に長けている人間が多いと言うが、なるほどと思う。

 コリをほぐすように一度首を回し、左右の操縦桿を握り直す。

 その時だった。ラー・カイラムの涼宮遙中尉から、ヴァルキリーズ全員に対し通信が入る。

『ヴァルキリーマムより各機へ。甲20号作戦の始動を確認。各員状況に対処せよ』

「っ!」

 次の瞬間、海の向こうにかすんで見える半島の地表から、無数のレーザー光が立ち上るのだった。









【2005年1月20日、日本時間9時00分、朝鮮半島北、日本海、国連太平洋艦隊】

 ハイヴ攻略戦というものは、宇宙から始まる。

 空を奪われ、地中を支配され、地上を蹂躙されている人類にとって、唯一BETAを一方的に攻撃できるのが、大気圏外からの軌道爆撃なのだ。

 それ無しでハイヴ攻略をやろうとした、先の佐渡島ハイヴ攻略戦は、例外中の例外なのである。

 大気圏外を周回し、タイミングを合わせた国連宇宙軍所属の装甲駆逐艦隊が、甲20号ハイヴめがけ、無数の対レーザー弾を投下する。

 投下された対レーザー弾は、多少の誤差はあるにせよ、そのほとんどが狙い違わず大気圏を貫き、朝鮮半島中央部の鉄源ハイヴへと降り注ぐ。

 無論、それをBETAが黙って見過ごすはずもない。レーザー級・重レーザー級のレーザー光が立ち上り、砲弾の大半は大気の塵と化す。だが、それこそが狙いの対レーザー弾だ。

 レーザー照射を受け、蒸発した対レーザー弾は、重金属雲を発生させ鉄源ハイヴを覆う。

 一連の光景を、国連太平洋艦隊は、日本海海上から見ていた。

 旗艦『アイオワ』に設けられた司令部では、CP将校達が次々と入る情報の荒波と格闘している。

「機動爆撃第一波成功! 誤射は5パーセント強」

「重金属雲発生。現在、予定濃度の23パーセント」

「機動爆撃第二波、爆撃ポイント到達まで2分30秒。到達次第爆撃を開始します」

「『G部隊』、大気圏上で待機。変化ありません」

 白い口ひげを蓄えた初老の司令官は、いちいち頷きながら、正面の大型ディスプレイに目を向けている。

 年の割には胸板も厚く、堂々とした体格をしたその男は、軍歴の大半をアメリカ海軍として過ごしてきた生粋のアメリカ人である。国連軍に籍を移して、まだ一年もたっていない。

「機動爆撃第二波、成功しました。重金属雲濃度は71パーセント!」

「第二波、対レーザー弾、迎撃率48パーセント」

 次々と入る順調な報告に、司令官は重々しく頷くと、重厚な声で指示を飛ばす。

「よし、全艦微速前進。南下開始。目標、巨津(コジン)港」

 日本海に面する朝鮮半島の港の名前を読み上げる。

「了解。全艦、巨津港に微速前進」

「大東亜連合艦隊にも北上するよう要請しろ」

 要請とは言っても事実上の命令である。今回の全体指揮権は、国連太平洋艦隊司令官である彼に一任されている。あえて要請と言う言葉を使ったのは、大東亜連合に対する一定の配慮に過ぎない。

 今回の作戦では、日本海側からの侵攻を国連太平洋艦隊が、黄海側からの侵攻を大東亜連合艦隊が担当することになっている。ちなみに国連太平洋艦隊の補給は日本列島の日本帝国が、大東亜連合艦隊の補給は台湾の統一中華戦線が受け持っている。

 鉄源ハイヴは、佐渡島ハイヴとは違う。ハイヴから海岸線まで、最長でも40キロもなかった佐渡島では、艦隊は海岸線から十分距離を取った所から、戦場全体に艦砲射撃を加えることが出来た。

 しかし、鉄源ハイヴは朝鮮半島のちょうど真ん中にあるのだ。北、南どちらも海岸線からハイヴまでの距離は、優に100キロを超えている。危険を冒して接舷するまで接近しても、艦砲射撃は届かない。

 専用のミサイル艇が辛うじて有効な程度だ。それでも、危険を承知で近づかなければ作戦は進まない。

 両艦隊は、ゆっくりと南北から朝鮮半島に接近する。

 水平線の向こうから朝鮮半島の陸地が見えてくる。すでに、海岸線にレーザー属種がいれば、今すぐにでも攻撃を受けかねない距離だ。

「巨津港、周辺。レーザー級、重レーザー級の姿は見えず」

 そう報告する、CP将校の声も緊張で少しうわずっている。

 緊張の時間がゆっくりと過ぎる。

 その間にも、大気圏外の装甲駆逐艦隊は、対レーザー弾の機動爆撃を続けていた。

「第三波、爆撃成功」

「第四波、同じく成功」

「重金属濃度、予定レベルに到達! 第4機動爆撃、迎撃率は12パーセント!」

 それは全ての条件が整ったという報告だった。

 司令官はキッと、目を見開く。

「よし、全ミサイル艇、対レーザー弾頭ミサイル発射。同時に「G部隊」、攻撃開始!」

「了解!」

 日本海から国連太平洋艦隊が、黄海から大東亜連合艦隊が、ありったけの対レーザー弾頭ミサイルを打ち込む。

 重金属雲に覆われているのはあくまでハイヴ上空、朝鮮半島の中央の一部だけだ。当然、半島の南北海上から打ち込まれるミサイルの何割かは、重金属雲の外にいるレーザー属種によって迎撃される。

 だが、それで良いのだ。ミサイルはあくまで囮。

 その隙に、大気圏外から投下された2発のG弾は、狙い違わずハイヴ地上建造物を漆黒の光で包み込むのだった。









【2005年1月20日、日本時間9時58分、朝鮮半島南、黄海、大東亜連合艦隊】

 朝鮮半島中央部に広がる、黒い光の二連ドーム。

 五次元効果弾、通称G弾。その威力は海上からでも十分に感じられる。ハイヴ周辺の地表に出ていたBETAは間違いなく全滅しているだろう。

 その光景を大東連合艦隊の司令は、旗艦の艦橋から複雑な表情で見守っていた。

 司令官は韓国人である。

 年の頃は、中年と初老の間くらいであろうか。元は黒かった髪には白いものが混じり、遠目には灰色に見える。細身で、顔や首には皺が目立つが、背筋はピンと伸びている。

 明文化されているわけではないが、ハイヴ奪還などの攻勢任務においては、それぞれの母国人が最も危険なポジションで命を張ることが不文律と化している。この作戦においてもそれは例外ではない。

 F-18ホーネットに乗る韓国人衛士や、MiG-21バラライカに乗る北朝鮮衛士は、全員例外なく最初のハイヴ突入組だ。

 司令官は、祖国の地に広がる漆黒の二連半球を見て、知らぬうちに下唇を噛んでいた。

 これで祖国奪還に大きく近づいたことは理解している。それでもやはり、祖国の地の一部が、半永久的な不毛の地と化したという暗い思いを、押さえられるはずがない。

 一月前、日本帝国はG弾を使わずにハイヴ攻略に成功しているのだ。非G弾ハイヴ攻略はすでに絵空事ではない。なのになぜ自分たちは……そう言う思いは当然ある。

 それでも彼らがまだ、G弾によるハイヴ攻略に理解を示しているのは、先の佐渡島ハイヴ攻略戦で、日本帝国が負った傷の深さを知っているからだ。

 比喩でも例えでもなく、作戦に参加した帝国兵が『半減』したという事実。

 疲弊しきった前線国家とはいえ、曲がりなりにも独立国として体をなしている帝国があの有様だったのだ。

 自分たちが同じ事をやれば、国土を取り戻した時には国民がいなかった、という事態になりかねない。

 国土の一部か、国民の大半か。どちらかを犠牲にしなければならない二者択一を迫られれば、普通は前者を犠牲に選ぶだろう。

 司令官は、暗い考えを押さえ込むように、右手の人差し指と親指で眉間を押さえた。

 そして、顔を上げると命令を下す。

「全艦前進。G作戦の第二波を援護する」

「了解、全艦前進!」

 ミサイル発射のため、一時停止していた大東亜連合艦隊は、ゆっくりと北上を開始した。





 日本海側から接近する国連太平洋艦隊に比べ、黄海側から接近する大東亜連合艦隊の負担は大きい。

 その理由は、朝鮮半島の地形にある。

 日本海側の海岸線が比較的綺麗な直線的地形となっているのに対し、黄海側は非常に入り組み、周囲には無数の小島が点在しているのだ。

 もし、そうした島々にレーザー級、重レーザー級が上陸していれば、艦隊は半島に近づく前に打ち落とされる恐れがある。

 かといって半島に接舷しなければ、揚陸部隊を上陸させられない。最低でも揚陸艦と戦術機母艦は、ギリギリまで近づける必要がある。

 ひとまず戦艦は、揚陸艦と戦術機母艦を援護するため、足を止め、いつでも沿岸部に砲撃を加えられるよう、準備を整える。

「左方、喬桐島。敵影見えず!」

「右方、席毛島、江華島。共にBETA無し!」

「よし、揚陸艦隊はそのまま進め」

 両艦隊が南北から半島への接近を試みる間も、大気圏外の装甲駆逐艦隊は、ハイヴに対し、再び対レーザー弾爆撃を加えている。

 接近する両艦隊をフォローする意味もあるし、先のG弾で吹き飛んでいる重金属雲を復活させる意味もある。

 しかし、予想に反し、来レーザー弾を迎撃するレーザー照射は放たれなかった。対レーザー弾は、一つも撃墜されることなく、ハイヴ地上建造物跡の、すり鉢地形に多くの小型クレーターを穿つのだった。









【2005年1月20日、日本時間11時04分、朝鮮半島北、巨津港沖、国連太平洋艦隊】

「対レーザー弾、迎撃されず。地表上、BETA反応100以下」

「うむ……」

 CP将校からの報告に、初老の国連太平洋艦隊司令官は少し眉をしかめた。この時点で地表にBETAが出てこないのは、決して良いことではない。

 念のため司令官は、CP将校に確認する。

「これまでの爆撃とG弾で、殲滅できたBETAの総数は?」

「はい。最小で4万、最大で5万と推測されます」

 過去の統計から見ると、フェイズ4ハイヴならば、最低でも8万はいると考えられている。佐渡島ハイヴなどは最終的に15万いたのだ。

 これで、全てのBETAを倒し切れたはずはない。残るBETAはどのような意図があるかは知れないが、あえて地上に出てきていないと考えるのが自然だ。

 いかなG弾といえども、ハイヴ地下深くに潜ったBETAを殲滅することは出来ない。フェイズ4ハイヴでも、最大深度は1200メートルと目されているのだ。そんな奥まで衝撃が届くはずがない。

 今作戦に割り振られたG弾は全部で5発。予定では2発ずつ2回使用することになっており、残る一発は予備だ。

 何とかして、BETA共を地上に引き摺り出さなければ、次のG弾が使用できない。

 BETAを地上に引き摺り出す。それにはやはり、BETAが最も興味を示すものをハイヴに近づかせるしかないだろう。

 司令官は軽く目を瞑ったまま命令を飛ばす。

「『マッドドッグ大隊』に連絡。任務を果たして貰う」

「了解。マッドドッグ大隊に通達。作戦を実行せよ。繰り返す、作戦を実行せよ」

 司令官の言葉を、CP将校はすぐさま復唱し、命令を伝達した。






 マッドドッグ大隊は、国連本部防衛軍所属の戦術機甲部隊である。

 人員、装備に関しては、その大部分を基地の母国が負担するという国連軍の大原則に従い、戦術機は全てアメリカ製であり、所属衛士の大半は、アメリカ国籍を取得した元難民か、今現在アメリカ国籍を取得するため命を張っている現役の難民だ。

 36機の戦術機の内、24機はF-15Eストライク・イーグルであり、残り12機はF-15・ACTVアクティヴ・イーグルである。

 F-15Eは第2,5世代、ACTVは変則的ではあるが第三世代戦術機に分類される。

 アメリカが最強の第三世代戦術機、F-22ラプターを原則国連軍に降ろしていない以上、アメリカ在住国連軍に許される最高の装備を与えられているということになる。

 当然、最高の装備を与えられている衛士達も選りすぐりの精鋭だ。その精鋭『マッドドッグ大隊』を率いるのは、日本帝国に戸籍を置く、明るい茶色の長髪を後ろで一つに纏めた、女衛士だった。

「聞いたとおりだ、お前達。出撃だ」

 戦術機母艦に搭載されたアクティヴ・イーグルのコックピットから、マッドドッグ大隊大隊長――神宮司まりも少佐が声を上げる。

 ヘッドセットと強化服を通して、まりもの声と顔が、大隊の衛士全員に届く。

「「「イエス、メジャー!」」」

「今回の任務は、高々百数十キロ飛んでいき、そのポイントでお客さん(BETA)を発見すれば後は、ケツをまくって逃げれば良いという、涙が出るほどお優しい任務だ。死んだらいい笑いものだぞ!」

「「「イエス、メジャー!」」」

 もちろん実態は、まりもが言うようなお優しい任務ではない。僅か36機の戦術機でBETAの支配地域である朝鮮半島を半ばまで縦断し、その後ハイヴ周辺でBETAの地上進出を確認した後に、戻ってこなければならないのだ。

 BETAはより高性能なコンピュータを搭載した機体に反応する習性がある。しかも近年、無人機より有人機を優先するという習性も確認されている。

 それらの条件を加味すれば、最高レベルのコンピュータを搭載した有人機である戦術機は、BETAの最優先ターゲットといえる。

 つまり、マッドドッグ大隊は「生き餌」だ。

 マッドドッグ大隊に引きずられ、姿を現すBETAに、再度大気圏外から機動爆撃とG弾投下を行うというわけだ。

 当然ながら、この場合、G弾による効果的BETA殲滅は、まりも達マッドドッグ大隊の離脱に優先される。

 流石に、最低限の脱出時間は考慮されているが、それを過ぎれば容赦なく対レーザー弾爆撃と、G弾投下が実行されるだろう。

 僅か36人の衛士のために、ハイヴ攻略という大目標を揺らがすわけにはいかない。

 戦術機母艦の甲板上に、36機の戦術機が立ち並ぶ。

「全機、続けぇ!」

「「「イエス、マム!!」」」

 先陣をきり飛び出す、神宮司まりものアクティヴ・イーグルの後を追うようにして、11機のアクティヴ・イーグルと24機のストライク・イーグルが飛び立っていくのだった。






 36機の戦術機は、無人の荒野と化した朝鮮半島を、匍匐飛行で飛んでいく。

 地表にBETAが確認されていないとはいえ、BETA支配地域を飛行するのは危険きわまりない。

「被照射危険地域警報、第5級。NOE(匍匐飛行)、問題ありません」

 まりものエレメントパートナーである、ミネット・クローデル中尉は、緊張を押さえきれない口調で報告する。

 ミネット・クローデルは、アメリカ在住難民には珍しい、フランス国籍の黒人女性である。

 癖の強い黒髪を背中の半ばまで伸ばし、大きな黒い双眼にはいつも気の強そうな攻撃色を浮かべている。そんなミネットも、上官であるまりもに対しては、形式を越えた敬意を払っている。

「了解だ。このまま一気に飛び抜けるぞ!」

 まりもは揺れない声で、返答を返した。

 海上の戦術機母艦から、鉄源ハイヴまでは直線距離でおよそ130キロ。

 アクティヴ・イーグルの飛行速度ならば十分弱、ストライク・イーグルにあわせても12~3分もあれば十分な距離だ。

 程なくして、まりも達は一度もBETAと遭遇することなく、ハイヴ周辺へとやってきた。

 雪だるまのように、すり鉢状に抉られた地形が二つ連なる新造の窪地の中心付近に、直径200メートル強の深い縦坑が見える。

 あれがハイヴの主縦坑(メインシャフト)だ。

「全機、着陸!」

 まりもは、主縦坑から12キロの地点で一時停止を命じた。36機の戦術機が洗練された動きで、速度と高度を落とし、次々と着陸していく。

 フェイズ4ハイヴの水平到達半径はおおよそ10キロと言われている。

 ここから先は、地表のどこがハイヴ入り口に繋がっていてもおかしくはない。

「円陣を組め。陣形、中隊円陣。第二がトップ、第三が左翼、第一が右翼だ。地中侵攻に注意しろ」

「「「イエス、マム!」」」

 まりもの命令は即座に実行された。

 36機の戦術機は、12機ずつ三つに分かれ、それぞれが円陣を組む。

 まりもの指示通り、先頭は第二中隊、その左斜め後ろに第三中隊、まりもの直下である第一中隊が右斜め後ろにつく。

「…………」

 やがて、三つの円陣を組んだ戦術機大隊は、ゆっくりと歩行で不毛の荒野を進み行く。

「…………」

 ガチャガチャというパーツの鳴る音と、ズシンズシンという戦術機が乾いた荒野を踏みしめる音だけが、響き渡る。

 全く異変がなくても、緊張が解けるはずもない。衛士達は古参も若手も区別なく、皆コックピットで背中に冷や汗が流れるのを感じながら、細心の注意を払い歩み進む。

 変化は唐突であり、また悲劇的であった。

 歩行踏破距離が3キロに達した頃、先頭を歩く第二中隊の一機が忽然と姿を消したのだ。

『うわあ!?』

 ドンと言う落盤の音。続いてガシャンという金属製の重い落下音と共に、衛士の短い悲鳴が鳴り響く。

「どうした?」などとマヌケに聞き返すものはない。誰が見ても状況は明らかだ。

 表面のふさがっていたハイヴ入り口を踏み抜いたのだ。

「ドッグ31! 上がってこい、ブーストを使え!」

「駄目です、下にBETAが! うわああ!?」

 ハイヴに落ちた衛士からの通信が途切れると同時に、海上のCP将校から通信が入る。

『BETAの地上侵攻を確認。推定3000、今だ増加中。現時刻をもってマッドドッグ大隊の任務は完了。作戦は次のシーケンスに移行。マッドドッグ大隊は全速で帰投せよ。繰り返す、全速で帰投せよ!』

 その言葉が示すとおり、まりもの網膜投射ディスプレイに映る地上マップにも、次々とBETAを意味する赤い光点が浮かび上がっていた。周囲のマップは瞬く間に赤く染め上げられていく。

「全機、全速離脱!」

「「「了解っ!」」」

 ハイヴに落ちてKIAになった衛士を悼んでいる余裕もない。

 35機の戦術機は、全速でその場から離脱をはかる。

「少佐ッ、被照射危険地域警報、第3級!」

「ッ、後方上空にALM(対レーザーミサイル)発射。マッドドッグ1、フォックス1!」

「了解、マッドドッグ4、フォックス1!」

 戦術機から打ち出されるミサイルに、遙か後方からレーザー光線が突き刺さる。

 そうして稼げた僅かな時間で、まりも達は一直線に巨津港の艦隊めざし駆け出す。流石に、レーザー属種の存在が確認されているところで、匍匐飛行は出来ない。

『司令部よりマッドドッグ各機へ。装甲駆逐艦隊が対レーザー弾爆撃を再開』

 CP将校の告げるその言葉は、まりも達にとって救いでもあり、死に神でもあった。

 大気圏外より降り注ぐ砲弾を迎撃するため、レーザー属種はその丸い瞳のようなレーザー照射元を一時的にでもまりも達からそらす。しかし、当たり前だが大気圏外から投下する爆撃が、地表を走る戦術機を避けて投下されるはずがない。

 レーザー迎撃を免れた対レーザー弾の一つが、退却するマッドドッグ大隊の近くに落下する。

『うわああっ!?』

 運の悪い一機が、着弾の爆風を横から受け、全速移動中のストライク・イーグルを横転させてしまった。

『ドッグ23!』

「駄目だ、足を止めるな! 貴様も死にたいのか!」

 思わず足を止めかかる同小隊の小隊長を、まりもは怒鳴り飛ばす。

 迫り来るBETA。降り注ぐ対レーザー弾。そして、三分後に投下されるG弾。

 一度でも足を止めたものの命はない。これはそういうデッドレースだ。

 それが分かっているのだろう。取り残されたストライク・イーグルの衛士は機体を立て直した後、180度方向転換し、その場に踏みとどまるのだった。

「すみません、少佐。ドジ踏んじまいました。俺はここで撤退支援をしますんで」

 まりもの網膜投射ディスプレイの片隅に、苦笑いを浮かべるラテン系の男の顔が浮かぶ。

 まだ若い。まりもの脳裏に、その衛士のプロフィールが自然と浮かび上がる。

 ディエゴ・アルヘンソ少尉。21才。スペイン人。難民施設に11才の妹と9才の弟あり。

 決して長いつきあいではないが、名前を聞けば、笑い顔と泣き顔と怒り顔を即座に思い出せるくらいには、気心が知れた間柄だ。

「……アルヘンソ少尉。言い残すことがあれば聞こう」

 まりもはアクティヴ・イーグルを最高速度に保ったまま、平坦な声で脱落の決定した部下に問いかけた。

『言い残すことですか……はは、いざとなると思いつかないものですね』

 通信機にパラパラと36㎜弾を連射する音が聞こえる。どうやら、アルヘンソのストライク・イーグルは最後の一暴れを始めたようだ。

『そうですね。やっぱり、ありきたりですが、妹たちをよろしくお願いします。俺、勤続3年超えてますから、遺族年金出ますよね? それがちゃんとあいつ等の手に渡るように』

 本当なら難民施設から出してやれれば一番いいんですけれど。そう言い、アルヘンソ少尉は苦笑する。

 それが無理なことは分かっている。戦死した兵士の家族にいちいちアメリカ国籍を与えていたら、超大国アメリカといえどもとうにとっくにパンクしているだろう。

「約束しよう」

 まりもはそう返すのがやっとだった。

『ありがとうございます。なんだか、少佐には最初から最後までご迷惑を掛けっぱなしで……』

 どんな言葉を返せばいいのだろうか? そうだな、と笑い飛ばしてやるべきか。そんなことはない、と否定してやるべきか。

『あ、ガッ!?』

 まりもが迷いを見せている間に、通信は唐突に途切れる。

「アルヘンソッ!」

『マッドドッグ23、KIA』

 副官のクローデル中尉が、語尾のかすれた声で、戦友の死を告げた。

「…………」

 そして、二人目の犠牲者の死を悼む間もなく、CP将校から更なる報告が入る。

『司令部より、通達。G弾投下、カウントダウン開始。10,9,8,7……」

「全機、匍匐飛行! 後ろに気を取られるな、全速で飛べ!」

 その五秒後、投下された二発のG弾は、もくろみ通り地上に引き摺り出されていた大部分のBETAを討ち滅ぼしたのだった。









【2005年1月20日、日本時間12時18分、朝鮮半島北、巨津港沖、国連太平洋艦隊】

「G弾投下確認。マッドドッグ大隊、帰投34、KIA2。隊長クラスに死傷者無し」

『アイオワ』の艦橋では、CP将校が淡々と状況を報告していた。

「流石だな」

 司令官は感嘆の声を上げ、一つ頷く。

 生き餌という難しい任務を僅か二機の損失で済ませたマッドドッグ大隊。前評判に偽りのない精鋭部隊のようだ。

 この作戦が成功に終われば、大隊長には国連から勲章が贈られることだろう。

 歴戦の司令官も、思わずそうやって戦勝後に思考を向けてしまうくらいに、現状はうまくいっていた。

 二度目のG弾投下で仕留めたBETAはおよそ3~4万。

 4発のG弾で、7万から9万のBETAを殲滅した計算になる。

 通常、フェイズ4ハイヴに潜むBETAは、8万~10万というのがおおかたの見方だ。

 その計算で言えば、すでに鉄源ハイヴのBETAは底をついているはず。

 ただ、気になるのは先の佐渡島ハイヴの例だ。佐渡島ハイヴ攻略戦は、日本帝国が単独で行ったため詳しい情報が入ってきていないが、最終的に佐渡島ハイヴには15万ものBETAがいたのだという。

 幾ら国連と折り合いの悪い帝国といえども、事BETAに関する情報に虚偽は混ぜまい。

 もし、この鉄源ハイヴにも佐渡島ハイヴと同数のBETAがいるとすれば、まだ半分近くが残っている計算になる。

「やはり、もう五発ぐらいG弾が欲しいところだったな」

 今更ながら司令官は、そう口の中で呟いた。

 現状、国連軍は甲26、甲12、甲9と三つのハイヴ攻略に成功しており、そこにあるG元素を入手している。

 ソ連の甲26、フランスの甲12、そしてイラクの甲9。

 フェイズ2ハイヴであった甲26号ハイヴのG元素はせいぜい3トン前後だったが、甲12号ハイヴと甲9号ハイヴはどちらもG元素製造工場と言うべき「アトリエ」を持つ、フェイズ5ハイヴだ。

 フェイズ5ハイヴで発見されるG元素は50トンを超える。

 しかし、だからといってG元素のストックに余裕があるとは言えない。

 なにせ、G元素は現時点で人類に生成不可能な物質なのである。ハイヴを攻略しない限り、G元素が増えることはない。

 しかも、G元素そのものは大量にあっても、G弾の元となるのは、グレイ・イレブンと呼ばれる物だけなのである。

 それ以外のG元素――負の質量を持つグレイ・シックス、常温超伝導を可能にするグレイ・ナインなども、極めて魅力的な物質であるのは間違いないが、G弾によるハイヴ攻略には意味をなさない。

 簡単に言えば、ハイヴ攻略で得られるグレイ・イレブンの量が、ハイヴ攻略に費やすグレイ・イレブンの量を下回るようでは、いずれこの計画は行き詰まるのだ。

 よって、必然的に、一つのハイヴ攻略に割り当てられるG弾の数には制限が付く。

 足りない分は結局、兵士の血と汗と命で補うしかない。

 司令官がため息を押し殺していると、CP将校の一人が報告を入れてくる。

「司令! 大東亜連合艦隊から上陸作戦開始の提案がされています」

「気の早いことだな」

 思わず老司令官は苦笑を漏らした。

 気持ちは分かる。今までも彼らは複雑な思いで、祖国の地にG弾が振り注ぐ様を見ていたはずだ。

 予想値通りならば、すでに大半のBETAを殲滅できている今、これ以上黙って見ていられないのだろう。

 実際、生き餌役を務めた『マッドドッグ大隊』は現在、補給の真っ最中だし、大気圏外の装甲駆逐艦隊も、爆撃用の対レーザー弾はあと一回分しかない。

 G弾も予備の一発を残すのみだ。

 そろそろ本格的な地上戦に移行するべきなのは確かである。

 司令官は決断した。

「了解した。これより、本作戦は最終段階に移行する。大東亜連合艦隊と歩調を合わせ、揚陸艦隊の上陸を開始せよ」


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