北欧地区旧フィンランド領に有るラッピ県。
その中央にほど近い場所へ落着した月からの降下ユニットには、それはまあ大量のアントが詰まっておりました、ぎっしり。
「防衛線を構築しろ!いそげ!!」
檄を飛ばす現場仕官に無茶を言うとこぼす下士官。
やたら広いが住民は少ない、というこの地区には最低限の装備しか配備されておらず、おっとり刀で駆けつけた頃にはすでに侵攻は始まっている始末。
それでも踏ん張らねばなるまい、背後にはやたら高い通信機材の生産工場がある。
破壊されれば各個部隊が指揮を受けられない、という軍隊としては最悪の状況が待っている。
しかし、そんな切迫した戦況にいち早く届けられた吉報――――――新型を与えられたというジャン・B・ウィルバー少尉の遊撃部隊が援護に向っているというのだ!
*
「少尉…………覚悟していましたが相当にやばい景観ですね、こいつは」
「言うな、だからこそ俺達は失敗できんのさ」
周囲に続々と集まってくる急造の防衛部隊は、使っている機体も急造である。
先の大作戦で損耗したフレームアームズの外装は再生産が急ピッチで進められているものの、前線にはまだ届けられていない。
ゆえに最前線で使われているのは廃材の再利用や余剰部材を流用して作られた現地改修型だ。
端的に言えば、人の形をしていればましなほう――――――ニコイチサンコイチは当たり前、足を腕にしたやつもいる。
例を挙げればグライフェンの胴体にアーマーグライフェンの足クローを両肩から生やした『おフェンフェン』
輝鎚の下半身からラピエールの上半身を生やした『ポチャ子』
もう外観からは特定できないほどキメラ化が進んだ『ゴブシュレヴァナントスーパークファン槌・ブルーバー(ポニテ)』
そこまでバランスが悪いなら外装脱いでしまえといいたいが、中には相手とそう外観が変わらないほど組み替えたフレームアーキテクトもある。
幸い武器の在庫は多少あるようで、腕代わりにミサイルランチャーを直付けした機体など珍しくもない状況であった。
『少尉、マスター――――――2時の方向に比較的コンディションが良好な機体があります、おそらく指揮官機ではないかと』
「了解した、ウィルバー少尉、ちょっと声をかけてきます」
頷くウィルバーの黒いセカンドジャイブ。
*
はたして、リロイが駆るフレームアームズ・ガール轟雷がいう『状態のよい機体』は、確かに状態はよい。
しかしてその装備は、フレームに旧式化した偵察機レヴァナント・アイのアップデートパーツ『だけ』を装備していた。
なんと呼べばいいのかわからない。
「ええと…………そこのリベンジャー(?)自分は第13遊撃隊、ジャン・B・ウィルバー少尉旗下のリロイ・ハロルド准尉であります」
『話は聞いている、漆黒のセカンドジャイブと新型の轟雷、見間違えるはずもない』
こちらは見間違えた、足もとにでかいと評判の通信指揮者が停まった、目の前のリベンジャー(?)は唯の随伴機だったようだ。
「やはり展開が遅いようですが、戦力の逐次投入は各個撃破の恐れがあります。
私の上官と自分の2機編成ででアントの群れの中央に切り込んで、撹乱する戦術を具申いたします」
『許可できない、いかに十全な機体とはいえ貴官らの危険が大きすぎる』
「お言葉ですが、月ではこの程度の敵機に囲まれることなどざらでした、目の前のこれは空いているくらいです。
時間を稼ぐくらいなら問題ありません、ご再考を」
でなければ自分が少尉に絡まれます、と思わず口からこぼれそうになった愚痴を押し戻すリロイ。
果たして数瞬ののちに指揮官から導き出された答えは、彼の案を肯定するものであった。
「戦果を期待する『面倒狩り』リロイ准尉――――――しかし始めてみたが、貴官の愛機はKAWAIIな」
『ありがとうございます、しかし私も兵器、持ち与えられたポテンシャルを遺憾なく発揮してまいります』
「――――――おお、おまけに性格も良い、うちのはねっかえり共に与えられなくて正解だよ、無事の帰還を」
「お任せを――――――愛機には傷一つつけません」
リロイの言葉に、ちょっと赤くなる轟雷。
*
話はついたか、と人だかりならぬマシンだかりの中から姿を現す黒いフレームアームズ。
ウィルバーはどうやら新兵達に訓示めいたことを言って聞かせていたらしい、最近はなんとも彼らしくない行動を取る。
「ええ、丸のまま少尉のプランが採用されました、お好きなタイミングでどうぞ、との事です」
『…………そうか、じゃあさっそくいこうか』
逃げるように二輪駆動形態に変形するセカンドジャイブ、どうやらこの周囲は居心地が悪いらしい。
『わかってるな准尉――――――W・Rアタック、初のお披露目だ、失敗は許されんぞ』
「了解しました」
『では、失礼します』
二輪駆動形態の上にフレームアームズ・ガールがライドオン、周囲からどよめきの声が上がる。
通常のフレームアームズより軽量につくられたガール系フレームならば、セカンドジャイブの機動力を殺さずに切り込めると知ったウィルバー。
ここ最近は自動車教習所に通っているような気分にさせられた、教官の口が悪いのはどこも変わらん。
はたして、敬礼と共に花道が作られ、いきなりのフルスロットルで爆進する2機。
「いくぞユーキ!俺達の初舞台だッ!!」
『了解!マスター!!』
リロイ・ハロルド准尉――――――愛機に名前をつけちゃいました。
*
敵陣の中央に突き進みながら、右肩のキャノンと左側に構えたアサルトライフルで的確にアント群をなぎ倒してゆくユーキ。
まるで西部劇のガンマンさながらに、からっ風が吹く荒野を突き進む。
マガジンが空になったライフルを捨て、ジャイブの武装懸架装甲『スラッブ・ハンガー』からサブ・マシンガンを装備。
ハングオンの体勢でぐるりと一周、周囲のアントが黒煙を噴くと同時に、ユーキは擦っていた膝を基点にごろりと横転。
瞬時に人型に変形したセカンドジャイブと背中合わせになり、後から後から近づいてくるアント共を睨んだ。
『15分後に軌道爆撃が入るとの仰せだ、泣くほど簡単な任務になったな』
「ええ、こいつらまとめて拿捕すれば、定数不足も多少は改善されるんでしょうけどねぇ」
『言うようになったな――――――やはりアレか、女の子の前ではいい格好をしたいか?』
「――――――お先にいただきますよ!少尉ッ」
*
はたして、その後二時間ほどの死闘の後。
ハンガーベースに機体を落ち着けたリロイは、手にしたアルミパックを絞るように水分補給すると、愛機に向けて親指を立てた。
「初戦で快勝、機体は小破以下――――――少しは乗り手を見直したかい?ユーキ」
『はいっ!マスター、戦果をありがとうございます、引き続きよろしくお願いいたします』
その声を聞いて、深い息をつくリロイ。
初対面のあと、泣かれること2回、すねられること5回、メシ・フロ・ク○以外は付きっ切りで相手をした甲斐があった。
今となっては、彼女は今までに乗ったどの機体よりも十全な働きを期待できる。
「…………おい准尉、現地軍の上層部から、今回の礼だって言ってみたことがないM.S.Gが来てるんだが」
そんな高揚も吹き飛ばす上司の声、また厄介ごとか?とトラックの荷台から下ろされる透明プラスチックの梱包袋を垣間見る。
――――――M.S.G、正式名称は誰も覚えてないが、たしかミリタリー・セッティング・ギアかなんかだったかと思う。
今となってはイニシャルでしか呼ばないが、要するに武器や損耗の激しい手首なんかの交換用部品だ。
だがしかし、今回のブツは補給部隊出身の彼の知識にもない、それはそれは度肝を抜く代物であったのだ。
その名も――――――M.S.G『腰部交換装甲&パンツデカールセット』である。
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フレームアームズ・ガールが手に入るまで、不定期で続けようと思います。
今回の新型M.S.Gは友人との駄話で出た一品