リロイからすれば、身の丈ほども有る大きな尻を前に、重苦しい沈黙がかれこれ一時間以上続いている。
そして視線を少し上に向ければ、彼の愛器であるフレームアームズ・ガール轟雷『ユーキ』が熱い視線を向けていた。
彼と彼女、合間に交換用の尻装甲。
整備班からは今晩中に結論を出せといわれている、今宵の課題は彼らの『パーソナル・パンツ』をどの様な柄にするか。
酒の一杯でもあおりたくなってきた、リロイの渾名は『面倒狩り』である。
*
『――――――私専攻配備型なんですよ』
あっはい、と頷くリロイ。
『だから、コーションマークなんかも大分簡略されていてですね、パンツも下地塗装のオフホワイト。
私自身疑問に思ったことはなかったんですけど、調べてみたら私の同期たちもそれはそれはシャレオツな柄のパンツを装備していてですね』
傍らに置かれたデカールをつまみ上げ、ひらひらさせながら熱弁を振るうユーキ。
『月面侵攻部隊の中核として名を馳せたウィルバー少尉の部隊に配属されたからには、それはもう私も重く、強く責任を感じています。
続々生産されるであろう同型機の先達として恥じない戦働きをしなければいけないのです。
今後の喧伝も踏まえて、ここは何が何でもかっこ可愛いパンツを選定していただきます!』
ばしん、と地面に台紙を叩きつけ、折りたたみ椅子から腰を浮かしたリロイに告げる。
リロイは困った、まさか兵器が戦意高揚のためにMISEPAN(彼女の生産工廠、ジャパンエリアで不特定多数に鑑賞させる下着の意)を装備するとは。
ほとほと防衛機構の上層部は見た目にこだわる御仁の集まりだ、それ以上に頭は大丈夫かと思う。
「このブラウンのシマ・パンでは駄目なのか?…………一番無難だと思うんだが」
『既製品(プリセット)では駄目なのです!』
ユーキは右端の白いデカールを指差した。
好きな柄をプリントして貼れ、という自由形なのだろう。
うーんと唸って腕を組んでみるも、リロイの人生において女性の下着など片手の指で数えるほどにしか見たことがない。
白状するとブラの構造もよくわからない、彼は初心で奥手な男であった。
仮に、恋人ができたとして女性下着のコーナーに連れ込まれたとしても、なんだかんだいって逃げ出すビジョンしか浮かばない。
しかしまあ、男女のそれを問わず軍人たるやケツの話が大好きなものだが、今の彼以上にケツに困らされている軍人は古今例を見ないだろう。
*
程なく、いけ好かない上司がいまどき珍しい紙媒体の冊子を伴って現れた。
「…………ぉら、資料を持ってきてやったぞ、適当に良さそうなの選んで整備班に印刷してもらえ」
「あ、ありがとうございます!ウィルバー少尉!」
指針ができるのはありがたい、さっそく一冊手にとってページをめくるリロイ。
――――――即効リロイ汁を噴いた、年代物のPLAYBOYであった。
「しょ、少尉!――――――いくらなんでも露骨過ぎるでしょうこれアンタ」
「ああん?良く見ろ――――――こっちのバチェラーのほうが露骨だろうが」
彼のベストショットと思われる、いい加減折り目がついたページを開いてリロイに突きつけるウィルバー。
おお、それはなんと参考にならない物か!そもそもパンツはいてねぇじゃねぇか!!
うつむき加減で前髪に目をかくしたユーキが、そっとウィルバーの手から冊子を取り上げ、指先で揉んだ。
早速握りこぶし大まで縮む雑誌、がっちりと固められてもう開けない。
まるで子供のように嘆くウィルバーは置いておいて、リロイは愛機に問うた。
「コレじゃあ参考にならないか!?」
『なりません!コンセプトがちがいます!!――――――求められるのは性的(セクシー)ではなく『かっこかわいい』なのです!』
「ううむ…………KAWAII、難しいな」
頭の中にキティキャットやスポンジのやつといった、定番のカートゥーンが現れては消えてゆく。
「女性隊員の意見も聞いてみるか…………」
「……おう、ちょうど良いところに通りがかったヤツがいるな」
ラップトップPC片手にやってきた、インド系の女性隊員の元へ歩み寄るウィルバー。
どもりながら聞いたらキショい奴と思われるだろう、ここは少尉に任せることにした。
「――――――おう、オマエ今どんなパンツ履いてんだ?」
「ちがう、微妙にかつ圧倒的に趣旨がちがうよバカ!!」
すっころんだ、リロイを一瞥もせず、その女性職員は『四角いです』と答えた。
官給品じゃねえか、と毒づくウィルバーに見せたい相手もいませんので、とごく冷静に答え去ってゆく女性隊員。
舌打ち一つして戻ってくる様を見て、ああここは軍隊だものなぁ、と脱力するリロイ。
*
「…………タイガーパターンとかどうだ、強そうじゃねぇか?」
『イヤです、下品じゃないですか!』
「クソ、このままじゃ夜が明けちまう――――――こうなったらリロイ、お前なんか描け。
オマエが描いたものならユーキも納得すんだろ」
言うが早いが、事務室からペンの類を持ってくると腰を上げるウィルバー。
描けって言ったってなぁ、と頭を描くリロイに、ユーキもさすがに後ろめたさを感じたのか、気遣うように言った。
『マスター、別にどうしてもパンツの柄ってわけじゃなくてもいいんです。
何か撃墜マークのようなものとか、部隊章やパーソナルマークのようなものでも、ワンポイントにして仕上げればいいんですよ』
「そうか、部隊章か…………」
彼らは独立愚連隊のような者である、ゆえに許されるならばワッペンの一つでも作ってやろうか、という草案はあった。
思い返すのは最も激戦であった、いまだ記憶に新しい月面への強襲――――――生きて帰ってこれた事こそ奇跡、そして誉れ。
胸元に刺した消せるボールペンで早速デカールに下書きを始める、隙間時間を見ては、画像データを集めてなぞる練習をしていたのだ。
*
「へぇ、こいつの考えにしては歌舞いているじゃねぇか」
整備場の地べたに転がって爆睡する相棒に上着を投げてやると、省電力モードで待機するユーキのケツを見上げ賞賛するウィルバー。
題をつけるならば『月食』であろうか。
満月にかじりつく一匹狼がでかでかと描かれた、その柄は確かに勝負パンツにふさわしい。
「…………こいつなら、まあケツを乗っけてやらんでもないな」
どれ、相棒の分も朝飯をいただいてやるとするか――――――あくびをかみ殺しながらその場を後にするジャン・B・ウィルバー少尉。
跡に残されたのは彼の相棒と彼らの愛機――――――『月食パンツ』が誇らしげに尻と、スラッブハンガーにあしらわれた2機の人型兵器であった。
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あとがき
最近はフレームアームズ・ガールのレビューなど見ながら心を慰めておりますが、
先日ドールユーザーに近い方のレビューを拝見しました。
布製の服を着せるので、武装は作らないというのですね。
で胴体もあまり手は加えず、武装○姫のパーツを流用して形にしたいと。
自分はどちらかというとプラモデル作るの大好きなので、フィギュアとか完成品とか好きな人の考え方を知ってすごく興味深かったんですけれども。
ですが、その人最終的に首だけ武装○姫の素体に挿げて完成!
首から下は作らないで放置!見たいな…………。
ええ、もちろん批判なんかしません。
その人がお金を出して買ったものです、楽しみ方はその人の自由。
なんですけども、実はですね。
自分の手元に、すごい量のフレームアーキテクト頭部があまっていてですね。
これをフレームアームズ・ガールの本体に挿げたら――――――――――――
すごいかっこいいんじゃないかな!!って。
フィギュアファン・ドールファンの方、もし胴体にご興味がございませんでしたら、筆者は有効活用できますのでどうぞご一報くださればと思います。