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No.41526の一覧
[0] 難攻不落の不問ビル ~チートな彼女とダンジョン攻略~ 【都市内ローグ】[数札霜月](2019/06/11 18:29)
[1] 0:プロローグ[数札霜月](2017/07/21 06:46)
[2] 1:問われないビル[数札霜月](2015/09/02 22:19)
[3] 2:罠の中の選択肢[数札霜月](2015/09/02 22:20)
[4] 3:選択必須の六十階[数札霜月](2015/09/02 22:25)
[5] 4:最初の遭遇[数札霜月](2015/09/02 22:24)
[6] 5:ファーストリザルト[数札霜月](2016/09/09 20:37)
[7] 6:銀光の演舞[数札霜月](2015/09/04 10:39)
[8] 7:情報交換[数札霜月](2015/09/07 08:33)
[9] 8:ビルドエラーの打開策[数札霜月](2015/09/08 23:47)
[11] 9:時代劇の襲撃者[数札霜月](2015/09/10 22:31)
[12] 10:驚異の才覚[数札霜月](2015/09/12 23:55)
[13] 11:戦力会議[数札霜月](2015/09/14 23:45)
[14] 12:出発前の[数札霜月](2015/09/17 22:39)
[15] 13:静雷撃(サイレントボルト)[数札霜月](2015/09/21 23:43)
[16] 14:読めない彼女[数札霜月](2015/09/27 09:10)
[17] 15:ジオラマの街の追走劇[数札霜月](2015/10/07 13:27)
[18] 16:有り得なかったはずの光景[数札霜月](2015/10/14 17:42)
[19] 17:怪物的な[数札霜月](2015/10/16 18:32)
[20] 18:纏力スキル[数札霜月](2015/10/21 18:57)
[21] 19:戦国乱戦[数札霜月](2015/10/28 18:24)
[22] 20:手に入れた新武装[数札霜月](2015/11/04 10:26)
[24] 21:刀の扱い[数札霜月](2015/11/11 19:29)
[25] 22:待ち伏せ[数札霜月](2015/11/18 19:22)
[26] 23:足手まとい[数札霜月](2015/11/25 12:43)
[27] 24:実力差[数札霜月](2015/11/26 22:48)
[28] 25:異端者の葛藤[数札霜月](2015/12/09 12:30)
[30] 26:思念符[数札霜月](2015/12/11 09:50)
[31] 27:ボス部屋[数札霜月](2015/12/13 00:00)
[32] 28:半骨のマンモス[数札霜月](2015/12/13 23:17)
[34] 29:諦観[数札霜月](2015/12/16 11:28)
[35] 30:言い返すべきだった[数札霜月](2015/12/21 23:47)
[36] 31:見せるべき意地[数札霜月](2015/12/24 22:59)
[37] 32:記憶の糸[数札霜月](2015/12/27 23:33)
[39] 33:とどめの一撃[数札霜月](2016/01/03 23:39)
[40] 34:先へと進むその前に[数札霜月](2016/01/06 18:46)
[41] 35:次なる階層[数札霜月](2016/03/11 19:59)
[42] 36:近づく距離[数札霜月](2016/04/13 22:19)
[43] 37:数字の意味[数札霜月](2016/05/06 13:03)
[44] 38:知識“だけ”という意味[数札霜月](2016/05/13 17:03)
[45] 39:神造物[数札霜月](2016/05/20 20:18)
[46] 40:夜は明けない[数札霜月](2016/05/24 18:23)
[47] 41:トイレの花紙さん[数札霜月](2016/06/02 20:10)
[48] 42:目指すべき場所[数札霜月](2016/06/15 20:26)
[49] 43:俊敏なる人食いピアノ[数札霜月](2016/06/23 01:04)
[50] 44:立て続けの襲撃[数札霜月](2016/06/24 19:57)
[51] 45:命を預ける判断[数札霜月](2016/07/02 22:49)
[52] 46:共に格上の敵[数札霜月](2016/07/15 19:38)
[53] 47:譲れない一線[数札霜月](2016/07/22 19:36)
[54] 48:鬼火繰る二宮金次郎像 [数札霜月](2016/07/26 20:07)
[55] 49:骨振るい駆ける人体模型[数札霜月](2016/07/29 10:13)
[56] 50:光芒雷撃 [数札霜月](2016/08/10 20:03)
[57] 51:敵は己の中にあり[数札霜月](2016/08/12 09:29)
[58] 52:魔本スキル[数札霜月](2016/08/16 12:24)
[59] 53:二つの道[数札霜月](2016/08/19 23:33)
[60] 54:背後の気配[数札霜月](2016/08/26 20:14)
[61] 55:屍電体[数札霜月](2016/09/02 11:52)
[62] 56:フォーメーション[数札霜月](2016/09/06 20:07)
[64] 57:人面犬[数札霜月](2016/09/09 12:03)
[65] 58:足求め死体率いる骨格標本 [数札霜月](2016/09/13 10:51)
[66] 59:人馬一体の敵 [数札霜月](2016/09/16 21:51)
[67] 60:それは無謀にあらず [数札霜月](2016/09/21 08:52)
[68] 61:九枚の皿 [数札霜月](2016/09/23 19:57)
[69] 62:下肢換装の脅威 [数札霜月](2016/10/07 19:53)
[70] 63:志気の根源 [数札霜月](2016/10/10 21:37)
[71] 64:誰かの声[数札霜月](2016/10/21 11:13)
[73] 65:食卓の報告会[数札霜月](2016/10/25 14:54)
[74] 66:始祖の石刃[数札霜月](2016/10/29 16:31)
[75] 67:光って踊れるデッサン人形[数札霜月](2016/11/04 17:56)
[77] 68:購買の痕跡 [数札霜月](2016/11/12 23:08)
[78] 69:悲鳴の手紙 [数札霜月](2016/11/16 12:29)
[79] 70:パートナー[数札霜月](2016/11/19 23:07)
[81] 71:学校の七不思議[数札霜月](2016/12/11 23:22)
[82] 72:闇に包まれし体育館 [数札霜月](2016/12/23 09:17)
[83] 73:六亡の光明[数札霜月](2016/12/25 09:12)
[84] 74:黒雲を穿つ [数札霜月](2017/01/13 17:24)
[85] 75:二人の道行き[数札霜月](2017/02/17 23:40)
[86] 76:送られてきた『くえすと』 [数札霜月](2017/02/17 23:54)
[87] 77:純粋なる戦士[数札霜月](2017/02/21 22:10)
[88] 78:変幻自在の鎖武器[数札霜月](2017/02/26 08:45)
[90] 79:鎖の森 [数札霜月](2017/03/02 20:20)
[91] 80:見えない領域[数札霜月](2017/03/06 19:57)
[92] 81:不可解な感情 [数札霜月](2017/03/09 18:32)
[93] 82:逃走の連鎖[数札霜月](2017/03/14 18:32)
[94] 83:強行追撃[数札霜月](2017/05/22 23:53)
[95] 84:消耗のままの始まり[数札霜月](2017/03/25 21:54)
[96] 85:扉の中身 [数札霜月](2017/04/02 09:25)
[97] 86:父の葛藤[数札霜月](2017/04/09 00:15)
[98] 87:囚人の博物館 [数札霜月](2017/04/16 22:38)
[99] 88:処刑場の乱戦 [数札霜月](2017/04/23 13:51)
[100] 89:応法の断罪剣 [数札霜月](2017/04/28 21:19)
[101] 90:囚われていた少女[数札霜月](2017/04/30 20:12)
[102] 91:独房にて着替え中[数札霜月](2017/05/04 12:50)
[103] 92:聞いていた少女[数札霜月](2017/05/11 17:08)
[104] 93:愛娘の行方 [数札霜月](2017/05/16 15:10)
[105] 94:進むべき道 [数札霜月](2017/05/25 16:31)
[106] 95:いくつもの壁 [数札霜月](2017/06/02 00:12)
[107] 96:開かれる動乱[数札霜月](2017/06/09 23:31)
[108] 97:監獄の攻略法[数札霜月](2017/06/20 14:05)
[109] 98:混戦突破 [数札霜月](2017/07/17 09:41)
[110] 99:囚人を束ねし者[数札霜月](2017/07/23 23:57)
[112] 100:投入される戦力[数札霜月](2017/08/07 23:00)
[113] 101:盾スキル[数札霜月](2017/08/19 23:46)
[114] 102:迫撃スキル[数札霜月](2017/08/21 19:03)
[115] 103:異様な囚人 [数札霜月](2017/08/23 23:00)
[116] 104:最凶悪の囚人[数札霜月](2017/09/11 18:43)
[117] 105:殺刃犯[数札霜月](2017/09/23 18:00)
[118] 106:逃亡犯[数札霜月](2017/09/28 19:55)
[119] 107:聞こえる者音[数札霜月](2017/10/14 21:08)
[120] 108:犯罪歴 [数札霜月](2017/10/26 20:15)
[121] 109:忍び寄る者[数札霜月](2017/12/07 18:03)
[122] 110:見えない襲撃者[数札霜月](2017/12/18 20:35)
[123] 111:追跡不能[数札霜月](2018/02/14 19:15)
[124] 112:覚悟の提案[数札霜月](2018/02/21 19:29)
[125] 113:誘導と挑発[数札霜月](2018/03/02 18:49)
[126] 114:マッチング[数札霜月](2018/03/09 20:04)
[127] 115:盾の警官VS刃の囚人 [数札霜月](2018/03/25 19:22)
[128] 116:共鳴する感覚[数札霜月](2018/04/11 20:06)
[129] 117:苦も無く増える[数札霜月](2018/04/30 14:54)
[130] 118:隠れる者と隠し事[数札霜月](2018/05/04 21:18)
[131] 119:叫び[数札霜月](2018/05/18 19:57)
[132] 120:剣舞師 [数札霜月](2018/05/25 18:55)
[134] 121:立ち上がる者達[数札霜月](2018/05/30 17:22)
[135] 122:急天直下 [数札霜月](2018/06/03 20:02)
[137] 123:監獄の怨霊[数札霜月](2018/06/10 20:33)
[138] 124:敵意の裏側[数札霜月](2018/06/21 19:43)
[139] 125:行き着いた服装[数札霜月](2018/07/02 19:50)
[140] 126:思わぬ遭遇[数札霜月](2018/07/17 18:02)
[141] 127:足りない人数[数札霜月](2018/08/02 19:26)
[142] 128:最初の会談[数札霜月](2018/08/16 23:00)
[143] 129:探索道中[数札霜月](2018/08/26 18:50)
[144] 130:仕掛けられた感情 [数札霜月](2018/09/02 20:21)
[145] 131:何もいない階層 [数札霜月](2018/10/02 20:32)
[146] 132:魔聴の告白[数札霜月](2018/10/09 19:54)
[147] 133:盗人の処遇[数札霜月](2018/10/23 20:53)
[148] 134:情報交換[数札霜月](2018/11/12 21:07)
[149] 135:進化する影 [数札霜月](2018/12/06 20:21)
[150] 136:敵の敵は誰だ[数札霜月](2018/12/25 02:30)
[151] 137:平穏の水面下[数札霜月](2019/01/21 20:14)
[152] 138:安寧強授[数札霜月](2019/02/27 19:50)
[153] 139:緊急会議[数札霜月](2019/03/05 18:50)
[154] 140:剣獣捜査[数札霜月](2019/03/20 21:46)
[155] 141:彼らとの齟齬[数札霜月](2019/04/08 23:28)
[156] 142:安寧の階層[数札霜月](2019/04/18 23:26)
[157] 143:特異なる存在[数札霜月](2019/05/18 23:55)
[158] 144:たどり着いた真実[数札霜月](2019/05/29 20:07)
[159] 145:秘密への対応[数札霜月](2019/06/09 19:50)
[161] 146:話せぬ懊悩[数札霜月](2019/07/04 20:07)
[162] 147:似通った二人[数札霜月](2019/07/20 21:12)
[163] 148:後手の焦燥 [数札霜月](2019/08/07 20:13)
[164] 149:遅すぎた始まり[数札霜月](2019/08/25 21:03)
[165] 150:現れた標的[数札霜月](2019/10/15 21:08)
[166] 151:傷ついた強敵[数札霜月](2019/10/16 21:13)
[167] 152:力の戦い[数札霜月](2019/10/17 21:07)
[169] 153:殺意の重量[数札霜月](2019/10/18 20:58)
[170] 154:最悪のタイミング[数札霜月](2019/10/19 21:25)
[171] 155:二件目[数札霜月](2019/10/20 20:29)
[172] 156:求める答え[数札霜月](2019/10/21 21:15)
[174] 157:信頼の天秤[数札霜月](2019/10/22 20:58)
[175] 158:避けられぬ問題[数札霜月](2019/10/23 22:03)
[178] 159:彼らが主役の物語[数札霜月](2019/10/25 20:45)
[179] 160:失墜の物語[数札霜月](2019/10/26 21:18)
[180] 161:迫られる決断[数札霜月](2019/10/27 20:22)
[182] 162:予想の外へ[数札霜月](2019/10/28 21:06)
[183] 163:難題の先に見るもの[数札霜月](2019/10/29 21:12)
[185] 164:前哨交渉[数札霜月](2019/10/30 20:39)
[188] 165:理解阻む障害[数札霜月](2019/10/31 20:14)
[191] 166:システムの外にあるもの[数札霜月](2019/11/01 20:59)
[192] 167:神のつくりし芸術[数札霜月](2019/11/02 21:08)
[193] 168:二つの検査[数札霜月](2019/11/03 21:14)
[194] 169:見えてきたもの[数札霜月](2019/11/04 21:08)
[195] 170:始まりの彼女[数札霜月](2019/11/05 20:28)
[196] 171:予期されていた事態[数札霜月](2019/11/06 20:13)
[197] 172:立ちはだかる理由[数札霜月](2019/11/07 20:55)
[198] 173:既知の関係[数札霜月](2019/11/08 21:09)
[199] 174:彼女の罪科[数札霜月](2019/11/09 20:52)
[200] 175:身勝手な戦い[数札霜月](2019/11/10 21:04)
[201] 176:似て非なる二人[数札霜月](2019/11/11 21:08)
[202] 177:斬光スキル[数札霜月](2019/11/12 21:03)
[203] 178:先なき選択[数札霜月](2019/11/13 19:59)
[204] 179:揺るがぬ在りよう[数札霜月](2019/11/15 22:05)
[205] 180:自覚なき視点[数札霜月](2019/11/16 20:59)
[206] 181:歩まなかった道筋[数札霜月](2019/11/17 22:03)
[207] 182:憤りの根源[数札霜月](2019/11/18 21:03)
[208] 183:逸らした目には映らない[数札霜月](2019/11/19 21:00)
[209] 184:何度でも[数札霜月](2019/11/20 23:05)
[210] 185:度重なる最悪[数札霜月](2019/11/21 21:05)
[211] 186:累積する悪条件[数札霜月](2019/11/22 21:02)
[212] 187:彼女たちの集結[数札霜月](2019/11/23 22:15)
[213] 188:男たちの放散[数札霜月](2019/11/24 21:04)
[215] 189:舞台上の人形劇[数札霜月](2019/11/25 21:05)
[216] 190:取りこぼした希望[数札霜月](2019/11/26 21:13)
[217] 191:取り出される絶望[数札霜月](2019/11/27 19:08)
[218] 192:記憶の栞[数札霜月](2019/11/28 21:12)
[219] 193:強者参集[数札霜月](2019/11/29 22:04)
[220] 194:最後の――[数札霜月](2019/12/01 22:11)
[221] 195:襲い来る最適解[数札霜月](2019/12/02 23:55)
[222] 196:投じられる一石[数札霜月](2019/12/03 21:02)
[223] 197:牙をむく大水怪[数札霜月](2019/12/05 22:08)
[224] 198:強敵の争奪戦[数札霜月](2019/12/09 21:20)
[225] 199:従える者の戦い[数札霜月](2019/12/12 21:21)
[228] 200:覆る戦況[数札霜月](2019/12/21 21:01)
[229] 201:そびえる水樹[数札霜月](2019/12/29 18:54)
[230] 202:ハンナ・オーリック[数札霜月](2020/01/02 21:04)
[231] 203:アーメリア[数札霜月](2020/01/10 20:52)
[232] 204:極限技巧者の力技[数札霜月](2020/01/13 21:02)
[233] 205:戦場の論理[数札霜月](2020/01/19 22:28)
[234] 206:集積比較[数札霜月](2020/01/26 21:09)
[235] 207:殲却万雷[数札霜月](2020/01/28 21:04)
[236] 208:試練よりの生存者 [数札霜月](2020/02/07 21:07)
[237] 209:勇気ある決断[数札霜月](2020/02/24 21:04)
[238] 210:望まぬ前進[数札霜月](2020/04/18 19:58)
[239] 211:流れ着いた階層[数札霜月](2020/04/28 20:09)
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[41526] 110:見えない襲撃者
Name: 数札霜月◆0cb3e27c ID:1ee261f0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2017/12/18 20:35
 その瞬間、なにが起きたのか竜昇にはわからなかった。

 突然静に向かって詩織が叫び、その叫びに応じて静がシールドを展開しながら離脱を計って、しかしぎりぎり間に合わず、何者かの攻撃を受けた。

 そこまではわかった。だがわからなかった。
 なぜなら、その攻撃そのものが全く見えなかったから。
 本当にそんな攻撃があったのかもわからない。ただ破壊の痕跡だけがそこにある。
 地面に付けられた複数の傷と、離脱しようとした静の砕けたシールド、そして静のものと思われる無数の血の玉が宙へと散って、それが唯一、攻撃の実在を竜昇へと物語っている。

(なんだ――、あの囚人が何かしたのか――!?)

 驚きに満ちた頭で即座にそう考えたが、直後にその考えは見える状況によって否定された。
 見れば、静だけではなく、竜昇たちが追っていた拘束具の塊の様な囚人、静と交戦中だったその一体も、その謎の攻撃をその身に浴びて派手にその場から吹っ飛んでいる。
 未だ実体を伴っているところを見ると核を破壊されたわけではないようだが、その体からは黒い煙が無数に上がっていて、刀剣並の硬度を誇っていたはずのその体がその鋼鉄すら撃ち抜くレベルの攻撃にさらされたことは明らかだった。

「なんだ今のは――!?」

 背後から城司の声が近づいてくる。
 どうやら遅ればせながら、彼もこの階層へと到着したらしい。

 だがやはりと言うべきか、彼の方も状況が理解できていない様子で、困惑した様子で竜昇たちの元まで追いついてくる。
 だが城司が二人の元までたどり着き、合流するよりも一瞬早く、切迫した様子で詩織が声をあげた。

「音が、こっちに近づいてくる――!!」

「――なッ!? 近づいて――!?」

 状況がつかめず詩織の方へ視線を向けると、この場では唯一、彼女にだけは何が起きているかが理解できているかのようで、その視線は倒れた静でなく、その左側の虚空に焦点を当てている。

「なんだ、あの囚人の攻撃なのかッ!?」

「違うッ、そこにいるの、こっちに向かって――、ッ!!」

 混乱する二人に、説明してからでは間に合わないと悟ったのか、詩織は途中で叫ぶのをやめて己の武器を抜き放つ。
 魔力を吸収する【応法の断罪剣】。明らかに扱いに不慣れなその剣を振りかぶり、彼女にしかわからないなにかを目がけてとっさにそれを振り下ろす。

 傍から見れば意味の分からない彼女の行動。だが竜昇たちがその意味を理解する前に、甲高い金属音と共に詩織の剣が虚空で何かとぶつかった。

 まるで何か、見えない武器によって斬撃そのものが受け止められたかのように。

「――ッ!!」

「そこにいるのかッ!!」

 その現象に、どうにか理解の追いついた男二人が動き出す。

 不可解な状況を分析するべく竜昇が魔本の【増幅思考(シンキングブースト)】を発動。同時に、城司がその手に展開していた盾を構えて詩織の剣が受け止められている空間、その場所にいるだろう敵に向かって勢いよく突撃する。
 ただし――。

「ダメッ、その場所にはもう敵はいない――!!」

 この場で唯一、敵の位置を補足できる詩織から見れば、その対応は遅きに失していたらしい。

 剣を何かに受け止められた状態のまま、視線の向きだけを移動させる詩織に、竜昇はとっさにその場を飛び退きつつ城司に向かって指示を出す。

「城司さん、詩織を守って全体防御――!!」

「くッ――!!」

 盾を構えて突貫しようとしていた城司が、とっさに構えを解いて詩織の方へと飛び掛かる。
 盾を詩織の視線の先に向けるようにして詩織の身を抱きかかえ、続けてシールドを展開しながら彼女諸共勢いよく床へと倒れ込んだ。
 同時に、見えないなにかが空を切り裂き飛んでくる微かな音が聞こえてくる。
 城司の展開したシールドに何かが衝突する音が連続し、城司に覆いかぶさられた詩織がその下で微かな悲鳴をあげる。

(魔力も、どこにいるのか気配も感じない――!!)

 明らかに攻撃を受けているのに、攻撃を行っている敵の姿や気配どころか、その攻撃自体がほとんど見えないし感じられないというその事態。
 まるで幽霊にでも攻撃されているような状態だったが、しかし見えない幽霊というのならば、ある意味それに近い存在をすでに竜昇は経験していた。

(姿も見えず、魔力も感じない敵……、けど、それなら――!!)

 思い出したのは静と共に攻略した深夜の学校。その中で遭遇した、姿を完全にくらませて襲ってきた骸骨の敵。

「【探査波動】、発動――!!」

 その敵を思い出し、その敵の姿を暴くのに使った【探査波動】を即座に準備し、発動させる。

 敵の魔力を刺激して感知しやすくし、同時に隠形系の魔法を乱して無力化する【探査波動】。
 その魔力の波動が周囲一帯へと広がって、まずは城司と詩織を襲っていた攻撃の、その正体を暴きだす。

(これは、クナイか……!?)

 まず現れたのは、黒光りするひし形の両刃と布が巻かれた持ち手、そしてその後ろが輪のような形状になった見覚えのある刃物。
 フィクションなどで忍者がよく使う、苦無(クナイ)と呼ばれる武器が、恐らくは城司のシールドによって弾かれたのだろう、その周囲の床に大量に散乱していた。

 そして魔力の波動の広がりが、範囲を広げてその持主の姿をも暴き出す。

 広がる波動の行き着く先で、苦無の出現と同じように空間が揺らめいて、ようやくそこに隠れていた敵(エネミー)がその姿を現した。
 否、そこにいたのは敵ではあっても敵(エネミー)ではなかった。

(人間……!?)

 まるで蜃気楼のようにおぼろげに姿を現したのは、白い髪と糸目が特徴の細身の男。
 全体的に白いつなぎの様な装束に身を包み、背中に同じく白い羽織の様なものを纏ったそんな男が、ほんの一瞬姿を見せてその顔に驚いたような表情を浮かべた後、しかし次の瞬間には、竜昇を睨んで再びその姿を周囲の光景に溶かすようにして消えていく。

(こいつ、この一瞬で姿を消す魔法をかけなおしたのか――!?)

 一瞬姿を見せただけで、すぐさままた姿を消してしまった敵の消失の速さに、竜昇は焦りを覚えながら再び敵の姿を探すべく身の内で魔力を準備する。

 だがそれでは対応が間に合わなかったらしく、【探査波動】を発動させるその前に詩織から危険を知らせる声が上がった。

「竜昇君伏せて――!! 今度は竜昇君が攻撃に囲まれてる――!!」

「ッ――!?」

 放たれた警告に、竜昇はとっさに床へと身を投げ出し、同時に自分を中心にシールドを展開させる。

 状況についていくことさえ困難な状態だが、それでも次に何が起きるかはすぐにわかった。
 案の定、先ほど城司のシールドに対して行われたのと同じように、投擲された苦無と思しき大量の気配が突き刺さる音が聞こえてくる。

(うッ、さっき城司さんを攻撃していて物より威力が高い――!!)

 それはいったいどういうからくりなのか、先ほどの苦無は城司のシールドに阻まれ、弾かれていのに対して、竜会の展開したシールドには苦無が突き刺さっているらしく、半透明のシールドにはところどころひし形の穴が開いている。
 そして穴からひびが広がる。依然見ることのできないそんな攻撃が、一撃一撃で竜昇のシールドに穴を穿って、その向こうにいる竜昇に刃を届かせようとその鋭い刃先を侵入させて来る。

「う、ぉぉおおおおッッ!!」

 慌てて声をあげ、必死にシールドの強度を底上げするべく魔力を注いだおかげか、竜昇の元へと殺到して来た鋭い何かはどうにかシールドが防ぎ切った。
 どうやら何本かはシールドを突き破って内部へと侵入を果たしたようだったが、生憎と威力不足だったのかその先端を喰い込ませるだけに終わり、ほどなくして豪雨にも似た激しい攻撃音はピタリと止んだ。

「ぐッ、次はどこからくる――!!」

「待って」

 どうにか起き上がり、シールドを維持したまま【探査波動】を放とうとする竜昇だったが、その直前に詩織がそれを止めに入った。

「音が遠ざかってく……。これは、逃げて行ってるの……?」

「恐らくこれ以上は確実性が薄いとみて撤退を選んだのでしょう」

 起き上がり、警戒を続ける竜昇に対して、静がそう言いながらこちらへと駆け寄って来る。
 その様子に、静かも無事だったのかと胸を撫で下ろしかけた竜昇だったが、しかし次の瞬間、生憎とそれほど無事ではなかったことを嫌でも理解させられることとなった。

「静、それ……」

「……ああ、どれも掠り傷ですよ」

 見れば、静の左手で押さえられた右腕と、スカートが破れてますますむき出しになった左足からは明らかに血が滴っていた。どうやら二の腕と太腿のあたりを攻撃がかすめたらしい。大きな傷はその二箇所だけのようだったが、逆に言えばその二箇所の傷はとても掠り傷と呼んで済ませてしまっていいものとは言えなかった。

「どうにかシールドと【鋼纏】を使って防御を図ったのですが、生憎と防ぎきれませんでした。動き回るこちらを狙ったおかげか、狙いが大雑把だったのが唯一の救いですね」

「すぐに手当てを――、いや、その前にさっきの囚人は――」

「生憎と、あちらにも逃げられてしまいました。こちらの動きが止まっているときに襲われなかったのは幸いでしたけど……、申し訳ありません、流石に仕留められませんでした」

「いや、いいよ。すぐに手当てしよう」

 そう言って、竜昇は自身が背負っていたリュックから消毒液と包帯を取り出すと、静の手を取って魔力を同調させて【治癒練功】を発動させつつ怪我した個所に包帯を巻いて、一般的な意味での手当ても同時に施す。

 できれば“手当て”ではなく完全な“治療”までしてしまいたかったが、生憎と状況がそれを許さなかった。
 怪我の治りを速める力を持った【治癒練功】だったが、しかしそれはあくまで人間の体が持つ自然治癒力を高めて怪我の治りを早くするだけで、怪我を一瞬で完治させられるほどの魔法の技術ではない。
 時間をかければ、それこそ一晩あればこのくらいの怪我を完治させるのはたやすいだろうが、そんな時間がないこの場ではせいぜい出血を止めるのがせいぜいだ。
 とりあえず静も動けるようだし、この場では包帯を巻く間だけ【治癒練功】を続けて、あとの治療は安全が確保できる場所でするしかない。
 と、そんなことを考えながら竜昇が静の右腕に包帯を巻いていると、傍でそれを見ていた詩織が『きゃあっ!!』と言いう実に女子らしい悲鳴をあげた。

「どうしました、詩織さん」

「どうしたって言うか、静さん、それ……」

「それ? ああ、こちらは大丈夫ですよ。服は裂けましたが傷自体は薄皮一枚斬られただけですので。実際血も出ていないでしょう?」

「いや、そう言う問題じゃなくて……!!」

 指さす詩織につられて、竜昇が視線を向けると、先ほどまで静が右腕を押さえるために胸の前で構えていた左腕の向こう、静が着用していたスクール水着の胸の下、わき腹のあたりが大きく裂けていた。
 確かに静本人の言うように出血もしておらず、怪我としてはたいしたことが無いようだったのだが、問題だったのは斬られた後に裂け目が広がったらしく、その裂け目が胸のあたりの見えてはいけない部分にまで届いてしまっていたことだった。

 ありていに言ってしまえば下乳が見えていた。
 肌にピッタリと張り付いたスクール水着の隙間から彼女自身の肌が見えてしまっていることもあり、はっきり言って非常に目の毒な光景である。

「隠して隠してッ!! 静さんなんで自分のその格好に何も感じないのッ!?」

「そんなに大騒ぎすることもないと思いますが……。以前これよりもっとボロボロになったこともありますし」

「そう言う問題じゃないのッ!! なんていうかこう……、とにかく危ない格好だからッ!!」

 幸いなことに竜昇の言いたいことを詩織が全部代弁してくれたため竜昇は自分で墓穴を掘らずに済んだが、しかしどうにも静本人の反応は淡白だ。
 相も変わらず羞恥心というものが希薄というべきなのか、自分の今の服の状態にまったく危機感を抱いていないらしい。
 慌てて詩織が通路の先に放り出されていた【染滴マント】を回収し、腕の手当てを終えた静がそれを羽織ると、周囲の見張りをしていた城司が待ちかねたように声をかけてくる。

「おい、おまえら。そろそろいいか? 悪ぃが今の俺達に、あんまりラブコメしてる余裕はねぇぞ」

 先ほどのやり取りを緊張感が欠けるものとして見ていたのか、城司がどこか咎めるような様子でそう声をかけてくる。
 竜昇たち本人としては別段ふざけているつもりはなかったのだが、しかし状況を考えれば確かにあのやり取りは緊張感に欠けていたかもしれない。
 そんな自省をしつつ、足の手当てを静本人に任せて竜昇は【治癒練功】による静の治療に専念し始める。
 恐らくこの話し合いと静の手当てが終わったらすぐにでも出発することになるだろうと予想して、それまでにできうる限り静の治療を進めておこうという判断だった。

「いったい何なんださっきの野郎は? 竜昇の【探査波動】で一瞬見えた敵の姿は人間の男に見えたぞ」

「私にも確かにそう見えました。そして現状判明している中では、この【不問ビル】にいる人間はおよそ二種類しか確認できていません。私たちと同じプレイヤーか、あるいは――」

 と、静が言いかけたその瞬間、詩織を除く三人の荷物から、ほとんど同時に三種類のアラームが鳴り響く。
 城司が自身のスマートフォンを取り出し、静のスマートフォンを預かっていた竜昇がすぐさま自分のスマートフォンを取り出して静と共にのぞき込むと、そこには案の定一つの文面が記載されていた。
 それは見覚えのある、そしてどこか予想できていた一文。






『アラタナくえすとヲジュシンシマシタ』


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