朝の目覚ましの音が家中に響き渡る。
時刻は朝の7時。ダイニングにはこれから現れる寝起きのご主人、エヴァンジェリンの為に茶々丸が朝食の準備に精を出していた。
目玉焼きにこんがり焼きめの付いた分厚いトースト。こんもりお皿に盛りつけたサラダにはシーザードレッシングが掛かっておりその上にクルトンとガーリックチップが散りばめられる。色とりどりのジャムが机に並び、コーヒーの良い香りが二階のエヴァの部屋まで漂い始めた。
「ん…朝か…」
そしてこの家の主人であるエヴァはカーテンの合間から指す朝の木漏れ日と目覚まし時計、そしてコーヒーの香りで目を覚ました。
ずり落ちていた年にそぐわない黒のネグリジェの肩紐を正し、あくびをかきながら階段を下る主人。茶々丸は階段の軋む音で主人の起床を知る。
「おはようございますマスター。今日は目玉焼きにトースト、シーザーサラダとなっております」
「ふぁ~、おはよう茶々丸。今日の授業は?」
「3時間目に英語がございます」
「そうか…タカミチだとばっくれるのは難しそうだな」
眠たそうな眼を擦りボサボサになった金髪を荒々しく掻く。ハイ・デイライトウォーカーと言う存在でありながらもやはり吸血鬼の本能なのか朝は苦手なものであり、力を抑えられた今でも慣れる物ではない。
エヴァは引かれた椅子にふらふらとたどり着き、座るとふとダイニングに我が家の新しい住民の一匹であるペットを見かけない事に気がついた。
「おい、アイツはどうした?」
「ちうさんならまだ眠っていますよ。ほら彼処」
キッチンで洗い物をしていた茶々丸はリビングの方に指を差す。そこにはソファの前で丸くなった一匹の銀狼が丸くなって眠っていた。狼は鼻提灯を出しながらスヤスヤと眠っている。
「…なぜ主人は起きているのにアイツはまだ眠っているんだ…」
心地良さそうに眠っている狼に対して眉間にシワが寄るエヴァ。彼女は立ち上がるとズカズカとリビングに向かう。そして狼の背に立つとその背中を思いっきり蹴りあげた。
「キャイン!(痛ったい!)」
「何時まで寝ているんだこの駄狼。とっとと起きんか!」
咄嗟にに起き上がった狼はエヴァを睨む。しかしエヴァは顔色を変えずに腕を組んで仁王立ちしていた。
「どこに主人より遅く起きる従者がいる。とっとと目を覚ませ」
「クーン(うっせ、コッチは眠いんだよ)」
「ほーう、我が家の主人に口答えするつもりか」
「ガウ(はいはい、スミマセンでしたエヴァンジェリン大明神様)」
「全く、口だけは達者だな」
そう言われてのっそりと動き始める狼。ダイニングの床には大きめの銀色のボウルが置かれておりそこの前まで向かうとお座りの体勢で待つ。
「おはようございますちうさん。今日はお野菜が多めになってます」
「クゥン(ありがとうよ、茶々丸さん。でもそのちうって呼び方は止めてくれないか)」
そのボウルの上には沢山のお肉と野菜がラーメン二郎の様に盛りつけられていた。
ちうと呼ばれた狼は一瞬いやな顔をしながらも茶々丸に向かってペコリとお礼しながら念話で伝える。
「主人は決まりごとには厳しいので明日は夜更かししないようにしてください。それとその名前はそんなにいやでしょうか。ネットで一番人気のアイドルから取ったのですが」
「クンゥン(いや、駄目って言うかちょっと…)」
「まぁその話は置いといて朝食に致しましょう」
そういって茶々丸はエヴァの向かい側の席に座る。そして二人は頂きますと手を合わせると朝食を食べ始めた。それにつられて狼も食べ始める。
そんなエヴァンジェリン家の新しく始まったばかりの朝であった。
「じゃあ学校に行ってくるからな。留守番しっかりしておけよ」
「ガウァ(わかってるよ)」
「じゃあ行ってきますね」
そう言って学校に向かう二人の背中を送り届ける銀狼。そして二人がしっかりと学校に向かったのを見届けると玄関を潜って家の中に入る。しかしそこには先程までの銀狼は見る影もなく一人の少女がつっ立っていた。
「ふぁぁ~昨日はテレビを見すぎたな」
両手を組み腕を上にあげ背筋を伸ばす少女。身体中の間接を動かしながら凝った体を解してゆく。そんな彼女だが獣耳と尻尾が一緒にピンと伸ばされる所を見ると一般的な女の子ではないことが一発で解る。
彼女、長谷川千雨がエヴァの家に住み込んで一週間が経とうとしていた。
「じゃあ提案だ。私のペットにならないか?」
それは千雨にとってここ麻帆良に訪れて一番に衝撃的な発言であり、予想外な出来事であった。
只でさえ魔法使いと呼ばれる人の身からかけ離れた技術を持った人がわんさかと存在し、その者から討伐対象として追いかけ回され身である。
ここに来てまさかクラスで全くしゃべる事のない例えるのならばフランス人形見たいな一歩別の存在であった彼女が明らかに別ベクトル、人外の禍々しい空気を醸し出しながら迫って来たのである。
もう頭が一杯一杯である千雨。
狼となった千雨は人を殺してきた事もありメンタリティが強くなっているのは確かであるがこうも予想外な事があると頭が上手く働かない所はやはり女子中学生。
麻帆良の地が元々おかしいと認知していた身であっても今日一夜で情報量がパンパンとなり、
もう何も考えたくない。休みたい、おうちかえる状態となっていた。
「グルルー(話がしたいのならばとっとと回りの奴らを下がらせろ。話はそれからだ)」
「ほう、念話が出来るのか。ほらそこのウルスラの生徒達、自分の配置に戻るんだ。龍宮達も」
成る可く尊大で大きく見せるため普段とは全く違う、威厳に満ちた声でエヴァに念話で伝える。なお喋る事も可能であるが身バレを防ぐためエヴァへのみの念話である。
エヴァは良く授業をサボっており千雨自身口数は友達が居ないこともあり大変少ない。龍宮達には気付かれるかもしれないがエヴァには念話の声だけでバレる可能性は低いと見ていた。
ウルスラ生徒は不満があるのかブツブツと「覚えておきなさい!」と呟きながらこの場を後にする。
龍宮達は最初、刹那がエヴァに噛み付いてきたが龍宮が引きずりながら元の配置へ戻っていった。そして千雨とエヴァの2人きりとなる。
そこからは淡々と話が進む。
エヴァには前衛としてミニステル・マギ(魔法使いの従者)の絡繰茶々丸という従者が存在する。
しかしながら彼女は完成してまだ一年。戦闘力は問題ないのだが如何せん、人間味が薄い。なので茶々丸の情操教育の為ペットという形で千雨を誘ったのである。
また封印されているこの身では戦闘力が低く、前衛が茶々丸のみだと不安であるため新しく茶々丸とは別に従者を作るという名目も存在した。
逆に千雨にとって此の誘いはメリットが多い。
生活の安定や立場の確保、今後の出産のための身の安全などなど。また独り身での子育てはシングルマザーの問題があるように身元のない千雨にとって新しく“人”としての生き方を示す手段であった。
しかしながらその生き方は自分の正体を明かさなくてはならない。
この現状を隠している自分にとってどうしても通らなくてはならない道であるが何時か明かせる決心が来るのであろうか。まだ決心が付いていない。しかしながらこのような道を別に確保出来るのは彼女にとって多大なるメリットであった。
「グルァアー(つまりペットという名目の従者契約か)」
「あぁ、と言っても私はお前の事など知らん。なのでミニステル・マギや仮契約とは別に自己強制証明(セルフギアス・スクロール)でさせてもらう。そちらの方が直ぐに切っても問題ないからな」
「…(セルフギアス・スクロールと言うとあれか、fateの奴か。まじでファンタジーだな…)」
それから千雨とエヴァの間で契約が結ばれる。
簡略に説明すると千雨はエヴァらに危害を加えない。千雨はエヴァの意見を遵守すること。逆にエヴァは千雨の身と生活の保証。自分の身元に付いて深く散策しないと約束する。
このような契約で千雨はエヴァのペットとなったのであった。
さて、このようにしてエヴァのペットとなった千雨であるが彼女はこのペット(?)生活を十分に堪能していた。
学校に行く2人を見送ると千雨は人形に戻る。誰も居ないエヴァ家では人前では隠していた耳と尻尾を隠す必要がない。その為彼女は耳と尻尾を出しっぱなしで生活していた。
備え置きされてあるデスクトップPCでネットサーフィン。一月の間更新していなかった「ちうのホームページ」で生存報告し、コメントを返す。
・ちゃちゃ
「ワンちゃんの名前に尊敬するちう様から頂いてちうと名付けさせて貰いました」
・ちう♡
「わー私のおんなじ名前を付けてもらったんだー☆ そのワンちゃん幸せ者だね٩(♡ε♡ )۶」
顔を引きつらせながら心底思ってもいない事を書き込む千雨。彼女の頬はピクピクと震えていた。
「なんで茶々丸が私のサイトを覗いているんだよ。てっきりバレたかとおもったじゃねーか」
エヴァに何と読んだら良いかと聞かれた時に自由に呼んで構わないと返した結果がこれである。まさか茶々丸が自分のサイトのアクティブユーザーでありエヴァと一緒に私のコスプレについて話をしていたとは全くの予想外であった。
エヴァは趣味の一つに裁縫がありその情報収集の一環で茶々丸はこのサイトにたどり着いたらしい。ここ最近更新が途絶えていると言う事で不安だと彼女は呟いていた。
喜んで良いのか、同級生に見られていたという恥ずかしさか良くわからない心境。赤面しながらも一つ一つコメント返しをしていった。
それからリビングでソファに寝転びながらテレビを見たり、エヴァの作品である人形やお洋服を見て回ったり、裁縫の作業部屋に入り込んでエヴァの技術に喉を鳴らしたり自由気ままに暮らす。
流石に外に出ることは叶わないが元々が引きこもり体質の自分である。全く持って問題ない。この自由な時間は夕方、2人が家に帰ってくるまで続く。
2人が帰ってくる時間になるとまた狼の姿に戻り生活をする。
茶々丸と夕方の麻帆良の街を散歩。時にはエヴァが茶々丸に変わって千雨の背中に乗り、夕焼けに染まったレンガ道を掛ける。一般的な狼より一回り二回り大きな身体はその上に人が乗っていても何ら問題ないサイズである。
千雨自身大変恥ずかしいので辞めてほしいのだが彼女は大変気に入っている様子でまさに気分はもののけ姫のサンであった。
そして全員で夕食を取ると夜の警備である。
最初顔を出したときは周りの警備員達に驚かせたがエヴァに質問する勇気もなく触らぬ神に祟りなしという事で扱いに関し、有象無象としていた。
千雨もエヴァとの契約で自分の身元に付いて深く言及しないと話していたので第三者である彼らに質問されない事は喜ばしい事である。
そして夜になると千雨に与えられたリビングのスペース、体がすっぽり入る大きなクッションで丸くなりそのまま眠ったりテレビを見て過ごす。そうして一日が過ぎていった。
さて今の千雨の現状、エヴァの保護下に付いた彼女であるが彼女は妊婦である。
狼の時は目立たなかったお腹は人形になると緩やかであるが大きくなっており妊娠中期である事を示していた。
狼基準だと後少しで出産なのだがどうやらもう少し掛かるかもしれない。大体人形になれるのである。出産時の子どもたちが人形か、もしくは獣姿なのか想像することも出来ないしどちら寄りなのか、正に神のみぞ知るである。
千雨自身、自分は人形になれる狼であると自負しているのだが、もしかしたらこの獣耳尻尾姿が標準、言わばスタンダードな姿なのかも知れない。そういえば創作物のキャラは人の姿をしたキャラが多かったなと考え、抑えきれないこの感情を押し殺していた。
そう、彼女は妊娠中期である。
最初の頃は力がなく、捕食と性交でエネルギーを所得していたが今は大分安定し両方共現段階で行う必要がない。
しかしながら彼女は妊娠中期の妊婦が抱える性欲に襲われていた。
個人差はあるが一般的に妊娠初期と後期は性欲が落ちる。それは初期の場合、妊娠性ホルモンやつわり、流産への不安などの要因。後期はお腹の膨らみも大きくなり頻繁にお腹が張ったり、出産への意識が高くなることなどによる。
しかしながら妊娠中期になると妊娠初期の体調不良もおさまり、性器や乳房へ循環する血液量が増えるなどの生理的な変化がある影響で性欲が増すのである。
それが今の彼女の状態、増して行く性欲に耐えている現状であった。
ホームページの更新を終え、一段落した千雨。
2人は学校に出払っており家の中には誰もいない。居るとするならばエヴァの良くわからない人形達ぐらいである。不意に手持ち無沙汰なった左手が太ももを沿って局部に触れる。
「んんっ…」
微かに漏れる声。右手に握られているマウスはカーソルがIEの検索バーまで動かされていた。
軽いクリック音の後にキーボードに打ち込まれる猥語。検索結果に表示される数々のサイトを片っ端から開いてゆく。
男と女が愛し合い、そのまま性交渉に持ってゆく純愛系。好きな男の前で他の男に寄って快楽に溺れる寝取られ系。無理やり車の中に引きずり込まれて犯せれるレイプ物。様々なジャンルやシチュエーションに沿ったエロ画像や漫画、AVなどなど。
彼女の左手はそのまま花弁を開き、中指が深くその奥へと突き進める。そしてたどり着く一つの場所。女性の快楽の最頂点。俗に言うGスポット。
「あぁあぁぁぁ…」
触れる事により体全体に震え伝わる快感。中を触れた時よりも更に深く、大きく根付く様に響く。そのまま親指はぷっくりと大きくなった薄いピンクの蕾を弾いた。伝わる快感は更に増大しそのまま彼女を支配する。
「はぁああぁぁ…あ…ああ…」
漏れる声は次第に大きく部屋の中を響かせる。膣の中に入った中指は次第に早く小刻みに動き、親指がグリグリと陰核をこねくり回す。右手は乳房を掴み攻める。擦れる乳首が充血し大きくなっていた。
そして攻め続けられる彼女の身体。次第に貯まっていく快感。
「んぁ…イク…イクぅ…あ…あぁあああ!!」
そして快感は頂点に達し絶頂を向かえる。
大きく仰け反る身体。真っ白になった視界。抑えきれない喘ぎ声と一緒に口から漏れるヨダレが艷やかに色っぽさを醸し出す。局部の愛液は座っていた椅子を濡らし、こぼれ落ちた愛液はそのまま床にピチャピチャと水たまりを作り上げていた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
乱れた呼吸、定まらない焦点。ダラリと力が抜けた身体がそのまま椅子の背もたれにより掛かる。
気持ちが良い。
その感情だけが今の彼女を支配する。抜けきった身体ははたから見ると見るに耐えない姿であろう。しかしながら今の彼女は一人。まだ性欲は抜けきっていない状況。
エヴァ達が帰ってくるにはまだ時間がある。ならばもう一、二回弄る事が出来るだろう。PCに履歴を残すなどの痕跡を残すようなヘマはしない。これでもPCの技術は頭一つ抜き出ていると自負している。今こうして自分が長谷川千雨だとバレるような事はないであろう。
こうして彼女は誰も居ないこの場所で何度も何度もPCの前でオーガズムの頂点に達し、絶頂で身体を震わせるのであった。
「ケッ…、見セラレル側ニトッチャ溜マッタモンジャネーヨ」
彼女はまだ知らない。エヴァの家にいる一体の人形の事を。
≪後書き≫
エヴァの家でのペット生活&一人エッチ回。
皆さんはきっとクリスマスで性夜を楽しんでいると考え、次の日の夜に上げる配慮に溢れた仕様。
ちなみに作者はボッチ。これを書いてる最中、カフェの店内はカップルで溢れかえっていました…。
久々のエロ描写だが1000字程度しかないバグ。上記の現場で執筆していたら自分自身の哀れみで筆が進まなかった。ツラい…
Q.千雨って服はどうしているの?
A.ご想像にお任せします。ジブリのハクみたいに服着てるかもしれないし、リアルに考えて着ていないかも知れない。正に神の味噌汁。
実際、どちらでも問題ないように描写は配慮していたりする。
感想、評価宜しくお願い致します。
次回は何時になろうか…