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No.427の一覧
[0] 7日間の休日(リリカルなのは)[Sanstone](2006/02/25 17:37)
[1] Re:7日間の休日(リリカルなのは)[Sanstone](2006/02/25 17:42)
[2] Re[2]:7日間の休日(リリカルなのは)[Sanstone](2006/02/25 08:51)
[3] Re[3]:7日間の休日(リリカルなのは)[Sanstone](2006/02/26 09:16)
[4] Re[4]:7日間の休日(リリカルなのは)[Sanstone](2006/05/06 00:30)
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[427] 7日間の休日(リリカルなのは)
Name: Sanstone 次を表示する
Date: 2006/02/25 17:37
 プロローグ

 春が来て、小学生でありながら副業持ちの高町なのはらが無事四年生に上がる頃。
 時を同じくしてリンディ・ハラオウンはアースラの艦長を辞した。表向きは以前からの昇進勧告に従って本局勤めになった形だが、新しくできた娘との時間を増やす為の措置であることは、親しい者にしてみれば火を見るより明らかだった。この四月から正式に、フェイト・テスタロッサはその名の後ろにハラオウンを付け足している。
 後継には、試験に合格し艦長資格を手に入れた彼女の息子、クロノがそのまま入った。本来は提督クラスが兼任で勤める巡航L級艦の艦長にそれ以下の階級の者が任命されたのは異例だし、就業年齢が若いミッドチルダにおいてもこの採用は大抜擢と言って良い。人材不足の管理局において、武装局員の艦船常駐はない。緊急時に独自で対応できるだけの能力を持つ彼を、アースラという船が手放したがらなかったからというのがこの人事の主な理由とされる。
 担当範囲が彼女らの住む世界に近いこの艦は、本来は本局付きであるなのは、八神はやて、ヴォルケンリッターらを指揮下に置くことも多く、その点で言っても友人であるクロノはうってつけの人材であろう。
 よって彼は今、極めて多忙である。
 最近できた彼の義妹であり、アースラ配属のもう一人のAAA級魔導師はなのはやはやて同様嘱託である。学業や、友人との交流を優先させたいと思う周囲──その中にはクロノ自身も含まれている──の思惑もあり、そうそう戦力として当てにするわけにはいかなかった。艦長自らが主戦力というのは、艦の運営上不合理だが致し方がない。一応、優先的に武装局員を回して貰うことで現状は耐えている。何せ管理局は人手が足りない。
 時空管理局はその名の通り次元世界の司法と警察組織を一手に担い、おまけに各世界の文化管理や災害救助にまで場合によっては手を貸さなければならない多忙組織だ。日本と同程度の治安を彼らの管理下世界全域に求めるならば、単純計算で地球人口の何十、何百倍という人数の職員が必要になるが、当然そんな組織は制度と資金の関係上、成立し得ないので、足りない人数分は努力と気合でカバーする羽目になる。
 戦闘、艦の運用、それらの事後処理。更には引継ぎに当たっての諸手続き、と寝る間もないほど目まぐるしくクロノは働いていた。結果、いつの間にかその激務に慣れてしまえるあたりが人間の適応能力、その恐ろしさである。閑話休題。

 なのはの世界で言えば日本時間の5月24日、1400(ヒトヨンマルマル)。
 アースラは任務を終え帰還の途にあった。今回の仕事は確認された中規模魔力の観察、場合により介入、封印だったが大した問題もないまま事は運んだ為に予定通りの帰路である。世間で認知されているよりも、管理局の仕事はこのような空振りの可能性が結構多い。
今回は魔法の浸透していない世界での神降ろしの儀式が魔力の発生原因だったが、結局儀式は失敗に終わった。アースラにしてみればただ見ているだけという実に楽な任務であったが、場所が極めて遠方だったために、スタッフは今日でもう丸1週間家に帰っていない。ようやくトランスポーターが使用可能な範囲に入って、消耗の激しい者や仕事量の多かった者から順次帰らせているところだった。
 ここまでくればよほどのことがない限り、問題は起こるまい。何か変化があったときだけ呼んでくれ、と年上の部下に告げて艦長席を離れ、クロノは目を離した隙に山と溜まった事務の処理に全力を傾けていた。

「あれ?」

 オートメションの進んだ世界で最も効率的且つ安全な伝達技術──手書きで書かれた書類をてきぱきと整理しながら、ふと山積みされた書類の下敷きになっていた一枚の小さな紙切れに目が留まる。機能美を愛する彼は、どちらかと問われるまでもなく明らかに整頓好きである。例え知らぬ間に置かれたものであっても自分の机の上に、己のあずかり知らぬものがあることを良しとはしない。
 なんだろうかと見てみると、別段面白くもない。彼の給与明細であった。いつ紛れ込んだのだろうか。三年間ほとんど毎日働いたあげく一銭も使われなかったそれは、なのはの世界で言えば東京都心に3LDKの家を即金で買える額があったが、クロノの興味を引きはしない。元より金など滅多に使わない性格の人間が、使う機会のない職場に居ついた為に、労働の主目的の一つであるはずの報酬が価値を失ってしまった結果である。一種の職業病かもしれない。
 彼が気にしたのは、給与額よりもその下に表された有給休暇権利の項目であった。80日。2ヶ月に2週間を足してもまだ余る。いつの間にそんなに溜まったのだろう。改めて指折り数えてみれば、なるほどそれぐらいは働いているかもしれない。残業や休日出勤で潰れた休暇が戻ってくるなら、数字が倍でもおかしくない。
 よくもまあ我ながら働いたものだ、とクロノは一頻り感動した。感動するだけで、これだけあるなら使ってしまおうという考えに至らないあたりが、最早骨の髄まで仕事中毒である。更に読み進めてみたところ、欄外には至急人事部に連絡されたし、と赤いペンで書き足された注意書きがある。幸い、仕事はちょうど一段落したところだ。通信デバイスを取り出して、短縮番号を押す。

『──はい。こちら時空管理局本局中央センター通信室です』

 距離がまだ少し遠い所為か、声が遠い。えへん、とひとつ咳払いをしてからクロノは長ったらしい自分の役職を告げた。

「時空管理局巡航L級八番艦アースラ艦長クロノ・ハラオウンだが、人事部に繋いでもらえるだろうか」

『──声紋照合終了、クロノ・ハラオウン艦長本人と確認します。了解しました。少々お待ち下さい』

 通信が一度切れる音がして、電子音が、名の知らぬ音楽を奏で始めた。時計を見れば、後十時間で本局への到着予定時刻。次の任務に入る前に、アースラは一度ドックに入る。時間がなくてつけっ放しのままになっているアルカンシェルをようやく外すのだ。その間の一週間は換装作業を見守りながら事後報告を書き上げ、次の任務の予定を立てなければならない。ともすれば就航中よりも忙しくなるだろう。任務のほとんどがスタンドアロンでありながら戦力の少ないアースラも、これまで以上にますます貧弱な装備になる。だが──
 別段、恨みなどを持っているわけではないが、やはり父を殺したのと同じ兵器が自分の手元にあるというのは余り良い気分はしない。撤去は、上からの要請ではなくクロノが逆に求めたものだ。多少仕事量が増えるぐらいは許容できた。元から、多少増えたところで関係ない労働状況である。

『お待たせしました、こちら管理局人事部。ハラオウン艦長ですか?』

 同じ音楽が4回り半演奏したところで、再び通信が繋がる。考え事の合間に飛んでいた意識をかき集めるように、クロノは再び咳をしてしかめつらしく声を作り直した。

「そうだ。至急連絡を、とのことだが用件は?」

『有休の早急な消化をお願いします。艦長の労働状況が、最低基準を大幅に下回ると裁判所、労働組合の双方から通達が来ているのです』

「なんだって?」

 いきなり無茶な話である。引継ぎ後間もないこともあり、今のクロノには休んでいる暇などない。むしろ寝る間があれば喜んで削って仕事に当てたいぐらいだ。そもそも、管理局において彼ぐらいの勤務状況の人間は探せば幾らでもいるだろう。

『今月中に7日以上の休暇を取らない場合、両者はこの件を立件すると言って来ています。組合は人事部及び管理局上層部に対してのストライキも辞さないそうです』

「今月中って、5月は後7日しかないじゃないか!」

 7日後は既に次の任務が入っている。もし提案に頷いて休暇を取れば連日休まざるを得ないから、その為の事前準備の時間すら取れなくなる。かと言って、休まなければ他人に迷惑がかかる。名ばかりの休暇を取って仕事に当てようにも、管理局のセキュリティーは休暇の人間を職場に入れて気づかぬほど低くない。八方塞りだ。
 どうして、せめてもう少し早く言ってくれなかったのかと、クロノは言わなかった──思いはしたが。給与明細が渡されるのは、管理局では毎月の18日。つまりそのときに自分が気づいていれば十分何らかの処置を取ることができた。もっとも、その時点でおそらく書類の山の奥深くに明細は埋もれていたのだから、気づかなかったからといって彼の責任とは言えない。彼のところにやってくる書類の束は、各々の部署の人間から一つ一つの課、部の長の手を渡って、副官のチェックを潜り抜けてくる。その副官だって、良かれと思って彼の机のうえまで重たい書類を持ってきてくれるのだ。いつもきっちり整頓された机の上に、今日に限って何があるかなんていちいち見やしないだろう。誰が悪いわけでもない。しいて言うなら間が悪い。そういえば、昔からタイミングの悪い奴だった、と学生時代の思い出までもが頭痛と共にぶり返してくるのをクロノは禁じえなかった。アースラの副官は、現在通信主任が兼任している。
 いずれにしろ、問題はまだある。アースラの帰港予定時刻は今から十時間後。つまり、24日の零時なのである。それまで彼は船を離れられない。つまり7日分の休暇申請の書類を出した日には5月はもう6日しか残っていないのだ。無理を言うな、というクロノの内心を呼んだようにデバイス越しに声がする。

『申請書類はこちらで既に用意してあります。本日中にこちらまで出向いていただければ、事後処理なども引き受けますので、何とか帰港時刻を早めて頂けますか』

 簡単に言ってはくれるが、船の針路一度変えるだけでもかなり面倒くさい手続きがある。帰港時間を早めれば、どれだけの影響があることか。考えるだけで気分が重い。
 航路変更、他の艦の進行状況、管制への連絡に通常業務。やらなければならないことを頭の中で羅列して、クロノはため息を吐いた。必要にかられてならまだしも、欲しくもない休暇の為に、なんで普段より働く羽目になるんだろうか。
 仮にもしここで抵抗したら、いずれは裁判の証人として呼び出されるだろうし、労組に担ぎ上げられてあちこちに連れ回される羽目になるかもしれない。そうなれば、結局休暇を取る以上の負担をスタッフや友人に強いることになるだろう。選択の余地はない。
理不尽の味を深く奥歯で噛み締めながらクロノは、吐き出すようにして同意の言葉を告げた。

「……わかった。やるだけやってみる」


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