<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.4343の一覧
[0] ロリ☆夕呼(偽)Unlimited 【短編】[男爵イモ](2008/10/19 08:17)
[1] 後編[男爵イモ](2008/10/19 10:37)
[2] エピローグ[男爵イモ](2008/10/19 10:39)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[4343] 後編
Name: 男爵イモ◆16267a69 ID:23e52052 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/10/19 10:37
B面/

■1

 狭い部屋に、二つの人影がある。
 片方は大人。片方は子供。両者とも女性で、その容姿は年齢差を考慮に入れてもよく似ていた。

「あっても発揮できない力は、ないものとして扱われるべきです。我々人間は、力そのものを直接観測することができない。ゆえに力によって起きた現象を観測し、そこから力の大きさを算出します。このあたりは心を扱う学問と同じですね。さて。香月夕呼博士。あなたに発揮できる力は、果たして存在しますか?」

 その発言は、少女のものだった。

「我が娘ながら嫌なガキね、まったく。そんなもの……、あったならあんたはこの世界に生まれてもいないわよ」
「では人類にとって、あなたはいてもいなくても変わらないということです」
「そうね」

 夕呼は肩をすくめた。それからめんどくさそうに、あるいは楽しそうに、既に書き上げられた台本を読み上げる。

「でもあんたにとっては違うんでしょ?」

 ないものとして扱われるべきだ。娘は最初にそういったのだから。
 夕呼が思ったとおり、向かい合う少女は頷いた。

「あなたは私を香月夕呼として―――白銀武の数少ない拠り所となるための人格として作り上げました。一生幽閉されるであろうあなたの代わりに。しかしこの世界に同じ人間が二人いては、何らかの齟齬が生まれるのは明らかです。もちろんこの場合、因果律量子論的に、という意味ではありませんが」
「あいつの前に出てそんな喋り方するんじゃないわよ?」
「香月夕呼は白銀武を相手にこのような口調では話しません」
「そ。わかってるならいいわ。じゃあ早くしてくれる? あ、いい忘れてたけど」
「『遺書はないわ。あんたは神宮司まりもの元に行きなさい。そのための手筈はもう整えているし、あんたは何もしなくていい。それと、あたしがここで進めていた研究のデータは、ディスクに収めていつもの場所に置いてあるから』」
「……流石ね。香月夕呼」
「自画自賛はみっともないわよ。それじゃあ、お疲れさま。香月夕呼」

 部屋に銃声が響いた。

 香月夕呼は死に、時を同じくして香月夕呼が新たに生まれたのだ。
 全てが香月夕呼の思惑通り進み、ゆえにこれは彼女のひとまずの勝利であった。




■2

「―――夕、……呼?」
「はじめまして、神宮司中佐。あなたの親友だった香月夕呼の娘です」
「―――娘」

 神宮司中佐は私の言葉をオウム返しに口にした。

「これからしばらくの間、お世話になります。どうかよろしくお願いします」

 言葉を切らすほどの『親友』の驚きを無視して、私は頭を下げる。もっとも、恐らくは彼女の驚きよりも程度の大きいそれを私は感じていたのだが。というのも、私は既に話が通っていると認識していたのだ。だというのに神宮司中佐は、私が香月夕呼の娘であるという点に驚いたらしい。これはつまり、私が生前の香月夕呼の思考を追い切れていなかったということだ。
 彼女の死からほんのわずかな時間しかたっていないというのに、早速問題が発覚した。しかもオリジナルの香月夕呼はもうおらず、差異の確認も修正もできない。これは致命的なことである。
 感じた驚異をおくびも出さず、私はいった。

「詳しい事情の説明をしたいのですが。母は何もする必要はないといったのですが、どうやらそれは間違いだったようですし」
「そ、そうよ。あなた―――、えっと、まず、お名前は?」
「夕呼で結構です」
「え? それはあなたのお母さんのお名前でしょう? そうじゃなくて、私が聞かせてほしいのは」
「ですから、私の名前も夕呼です。香月夕呼。母と同姓同名ですね」
「同姓同名って―――」

 なに考えてるのよ。そんな声が聞こえた気がした。
 ほんの数秒だけ自分の内に沈んでいた神宮司中佐は、すぐに私の方を向く。

「―――わかったわ。それじゃあ夕呼……ちゃんって呼ばせてもらうわね? それで、お母さんはどうしたの?」
「母は亡くなりました」

 これまでの短い時間で数度停止しかけた神宮司中佐は、今度こそ動きを止めた。
 カチ、カチ、カチ。心の中で時計の秒針の進行を聞く。
 やがて神宮司中佐が再起動したのを確認してから、

「詳しい説明をしたいので、場所を移しませんか?」





「え―――――白銀って、……あの白銀!?」

 これは香月夕呼に娘がいることを知らなかったという神宮司中佐に、私の血縁上の父親の名を告げた際の反応であった。

「知り合いに他の白銀がいるのかは敢えて聞きませんが。私の父はかつて神宮司中佐の下で訓練兵として存在した白銀武だそうです」
「だって、ちょっと待って……、あの夕呼が……」

 立て続けに浴びせられる衝撃の事実に、神宮司中佐は素数を数えるような表情をする。そして、私の見たところ20番目、すなわち71あたりまで数えた頃に、ようやく現実に帰って来た。

「ご、ごめんなさいね。ちょっと、いえ、あまりにも驚きすぎて……」
「構いません。想定内の反応です。むしろほとんど取り乱さなかったことを意外に思っているくらいですから、お気になさらず」
「そう……」

 力なく口からこぼれた言葉が、彼女の心境を表していた。
 神宮司中佐の中では、紛糾した思考の糸がいまになって解けたのだろう。目に落ち付きが戻り、このとき、ようやく親友の死という事実を正しく認識したに違いない。
 混乱は一種の防御反応でもある。正常な思考を放棄することで、受け止めがたい事実に直面したときのダメージを回避するための精神状態。だから、意図してそうならないよう努める軍人―――神宮司中佐は、このようなときにまで生真面目に、誠実に、亡き親友が望まないであろうことを理解しながらも、与えられた情報に真摯に向かい合おうとする。
 きっと言葉が出てこないのだ。そして、なにを口にすればいいのか考えながら私を見る彼女は、私の姿に、もう長い間会えなかった親友の姿をも見ているに違いない。我が親のことながら、これほどまでにいい親友と連絡の一つも取らなかったのが口惜しい。
 だが私は、神宮司まりもの香月夕呼ではなく、白銀武の香月夕呼だ。だからこの場で『香月夕呼』として振る舞うつもりはない。
 結局、私たちの出会いはこれ以上大きな盛り上がりなど見せることなく、あとは淡々と、なすべきことをなすように、私が神宮司中佐の被保護者になることは決定した。





■3

 神宮司中佐は基地に暮らしている。だから彼女が保護者になったからといって、彼女と共に生活するわけにもいかない。そうでなかったとしても、元より私には彼女と共に暮らすつもりはなかった。いまの私はまだ電力の通っていない機械と同じで、時が来るまでは現状維持が最大の使命なのである。白銀武が潰れかけるそのときまでに誰かと大きく関わって、私の性質が著しく変化しては、香月夕呼の努力、そして仕事がすべて無駄になる。そのようなことは香月夕呼とてわかっていたはずなのに、どうして私の保護者を神宮司まりもに設定したのだろうか。どうしてもリスクとリターンとの釣り合いがとれていないように、私には思える。いや、思うようになった。たとえ彼女が仕入れてくる白銀武についての情報がどれほど新鮮かつ正確であったとしても、だ。

「もう。夕呼はいったいどういう教育をしてきたのよ……」

 毎日のように手紙が届くだけでなく、たまの貴重な休みを全てつぎ込んで、神宮司まりもが私を構うようになった。
 いまは亡き親友の遺児の面倒は、自分が見なくてはならない。そのような使命感に燃えているらしい。香月夕呼の遺言として、私の存在を白銀武には教えないように、と告げれば口止めには成功したが、私のことは放置しておけ、という遺言を捏造するわけにもいかない。よって私は生活への介入を甘んじて受け入れなければならなかった。

 さて、話題の神宮司まりもである。いま現在、机を挟んで私と向かい合う彼女は、どうやら私の食生活が気に入らない模様。できることなら毎日点滴だけで生きていきたいところを、設備や手間の問題ゆえに、通常通りの摂食で我慢しているというのに、神宮司まりもは私の食卓を人間らしくないと表現し、さらには『改善』したがっているのだ。実に巨大なお世話である。私とて必要があれば『人間らしい』食事の嗜好に切り替えることくらい出来る。白銀武の前で香月夕呼としてあるために、そのような教育を受けてきたのだから。が、香月夕呼の外道を話すわけにもいかず、私は仕方なく目の前に置かれた料理に手をつけることになった。





 この日、私はさば味噌に恋をした。





■4

 太陽が東から昇り西に沈む程度の確率で食卓にさば味噌が出るようになってから、数年が経った。
 私は随分と変わってしまった。その原因は間違いなくまりもさんだった。
 この変化は香月夕呼の意図したものなのだろうか。いまの私ではもうわからない。香月夕呼のすべてを引き継ぎ、そのものになったはずであったのに、香月夕呼の思考の道筋を追い切れない。明らかに致命的なエラーが生じている。
 私はまりもさんがもたらす白銀武の現状を耳にしても、彼の元へ行く気にならないでいた。いや、抱いているのはもっと積極的なネガティヴ方向への感情だ。すなわち、行きたくない、というものである。しかも同時に、行かなければならない、という強迫観念めいた義務感が存在する。ここまで明確な矛盾を内部に抱えたことは、かつて一度としてない。しかも原因が私には全くわからない。
 私は壊れてしまったらしい。
 あなたはどうやら失敗したようです。香月夕呼博士。





 年相応の子供のように、強情なまでに父の元へと行くことを拒む私の背を押したのは、やはりまりもさんだった。
 白銀武が精神的に脆くなっているという情報に、まだ彼は大丈夫だ、と私は反論した。まりもさんはそれを逆手に取り、私に賭けを持ちかけたのだ。どちらの主張が正しいのか、という賭けを。
 この時点で、私の負けは決まっていたといっていい。

 こうして私は、結果を確かめるために陥落寸前の横浜基地へと向かうことになる。





■5

 贅沢にも一室を用意された私は、白銀武の客として扱われているにもかかわらず、未だ彼との接触を持っていなかった。この基地に来る前と同じように、ただ静かに浪費する者として存在している。そんな私に関する情報がどのように処理されているのかは私の知るところではないが、少なくとも誰かに咎められることは、この数日の間に一度としてなかった。
 軍人としての頂点を准将が務める基地において、大佐の客人として訪れた存在が大佐本人の耳に入らないとなると、これは相当な力が働いているのだと推測するしかない。少なくとも、香月夕呼となるよう育てられた私の知識では、そうとしか判断できない。しかし最近の機能劣化著しい私の判断であるから、それが信用できるかは相当に怪しいのもまた事実であった。要するに、よくわかならい、ということだ。私もようやく人並にバカになったらしい。知らない、ならいざ知らず、わからない、という体験をするようになったのは、実のところここ数年のことなのだ。
 人は言葉で思考しているように見えて、実のところそうではない。思考を説明するための手段としての言葉なのだ。だから言葉を司る部位とは別の、もっと精神の奥深い、自分自身ですら認識することのできない位置にある『何か』が優れた人間こそが、天才的(天才ではない。あくまで天才的)と呼ばれる思考力を持つ。また、目には見えないその何らかの系が導き出した結論が、言葉という伝達手段で客観性を得ると、これが理論と呼ばれ後世に残ることになる。しかし言葉とは人が作り、人が使うツールである以上、どのようなものであっても言葉として世に出た時点で発信者の主観に大なり小なり影響を受ける。誰の目にも明らかな事象でさえ、それが並列的な存在であるが故に、直列的にしかものを表せない言葉で表現しようと試みれば、わかりやすい部分でいえば表現される順番に、表現する人間の主観に起因する差が生まれるのだ。であるから、言葉で何事かを発信すれば、意識的にしろ無意識的にしろ、発信者がそう理解させたいと考えた形で、受信者は理解するようになる。これは、たとえばとある学者が何らかの現実を観察し全く個人的な結論を得れば、彼がその現実のみを言葉で発信したとしても、それを受け取る人間は彼と同じ結論に至りやすくなる、ということだ。これが人間のみに許された継承などと呼ぶべき高度な機能であり、学問の創始者から逃れるのが困難になる仕組みである。私はそう考える。さらにいえば、私がそう考えることですら、私にあらゆる情報を与えてきた香月夕呼の影響なのだ。
 そして、事象と同列に扱うのは危険ではあるが、誤解を恐れずにいえば、個人の中に存在する『それ』を言葉で世に生み出し理論としたとき、同じことが起きる。
 同じことが、因果律量子論についても起きる―――はずだった。
 言葉という道具ないしは人間という生物の限界が、そこにはあった。
 香月夕呼博士は、自身の脳内にあった閃きともいえるそれを言葉で表現した。言葉で表現された以上、誰が見ても同じものである。誰が見ても同じように理解できなかった。規格が違っていたのだ。香月夕呼と同じ脳の持ち主が百人いれば百人とも理解できるものを、世界中の誰一人として理解できなかった。だというのにその過程など全て放り投げ、与えられた仮初の代替表現とその最後に記された結果に、人は飛び付いた。オルタネイティヴ4がそれであった。
 だからきっと私が生まれたとき、いや、私が因果律量子論を理解したとき、香月夕呼は一つの救いを得たはずだった。広い世界にたったひとりでいたところ、ようやく同胞を見つけたようなものだ。もっとも、それが彼女の戦いが終わってからのことだったというのは皮肉だが。

 彼女の戦い―――それが終わった地に、いま、私はいる。

 建物の屋上に出れば、吐息は白く、指先はすぐに痛むほど冷たくなった。
 見渡せば、世界は夜闇に塗りつぶされてのっぺりとしている。金網がなければ、すぅ、と吸い寄せられてそのまま転落してしまいそうだ。この光景には、同化することの心地よさを感じさせる何かがある。
 そのように詮なきことを考えていたときだった。
 屋上への唯一の扉が開く音がした。

「こんな時間にどうした?」

 この瞬間の私の状態はというと、とても言葉で表せるものではなかった。それはビッグバンの際の全原子のベクトルをわざわざ計算して口頭で述べたり、あるいは750万年かけて二桁の数字を計算するようなものだ。
 一瞬を刹那ずつに寸断し、その区切りを通過する度に視界がホワイトアウトする強烈な目眩。白光に目を焼かれるたびにあらゆる理解が訪れ、脳の回路が紫電を上げる幻覚。それに一秒間耐え続け、それから口を開いた。しかし私は、なにをいえばいいかわからなかった。
 意志に代わって、体が自動的に返答した。

「あんたこそ、こんな時間に星を見てる余裕なんてあるわけ?」

 自分の声が告げる言葉を他人事のように聞きながら、私はついに自身の構造を理解するに至った。
 私は、娘だと認めてもらいたかったのだ。
 だというのに、私が彼の前で座るべき椅子は、もう『香月夕呼』しかなかった。その席に座っていた人間は、既に私が蹴落としてしまっていた。いまさらこの椅子を返す相手はいない。
 こうなることがわかっていたから、私は彼と出会いたくなかったのだ。
 こうなることがわかっていたから、アイツは何の抵抗もなく席を譲ったのだ。
 なにもかもが遅かった。
 死してなお――――香月夕呼は諦めていなかったのだ。

 ここに至って、私はようやく自分が『香月夕呼』にしかなれなかったと理解した。











「……じゃあ、あの脳みそもその一環で?」

 え? さば味噌?
 ……じゃなくて。

「脳みそ? ……なによそれ?」

 そんなバカなやりとりがあったかどうかは、当事者のみぞ知る。





■6

 それから、私はずっと香月夕呼として彼に接した。思った以上に鈍感なのか、それとも生きるためには心を擦り減らす必要があったのか、彼は当たり前のように香月夕呼を信じ続けた。だから私は余計に言い出せなくなった。
 無理やり押し付けられた約束を、白銀武は守って見せた。代わりに失ったものは大きく、決して見せようとはしないが、体の様々な所に不具合が出ているようだった。
 彼に無理難題を託したのが私の役割であり、そうするしかなかったとしても、見ていて辛い。否。見ていることしかできないから辛い。好きな男が日々やつれていく姿を目の前で見せつけられて辛くない人間がどこにいよう。あるいは、その諦めない姿の向こうに、未だ私を縛り続ける香月夕呼の姿を見たのも、私が苦しむ原因の一つだったのかもしれない。
 そうして彼は、五度目の襲撃を乗り切った日の夜、次の襲撃には耐えられないことと共に、ついに諦めを口にした。そのときの言葉は私だけのものだから、ここでは明かさない。ただ、これでようやく香月夕呼の呪縛から逃れられるのだと、私は一つの安堵を手に入れたのだった。

 次の日、私は横浜基地を去った。





■↓

※あとがき

 さて。ここまでお読みになって、いかがでしたでしょうか。
 私に物語を書く才はないと理解されたでしょう。かくいう私自身、書き終えたものを読み返し、不覚にも失笑を零したほどです。しかし、先を予測する力は誰にも勝っていたとの自負もあります。
 もちろん彼の忌まわしきBETAの行動は、これを書いている現時点では予測できません。そして恐らく将来にわたってできないでしょう。ゆえに物語中の日時や、それに応じた状況については、その詳細に現実との小さくない差異があるはずです。ですが、いまこれを読むあなたが十代前半であり、かつ人類が滅亡寸前であることは事実であるとの確信もあります。また同様に、物語の大枠は現実とさほどの違いがないはずだと確信しています。それに、あなたがまえがきを読んだ上でここまで読んだということは、現実とさほど違いはないはずです。
 あなたはこの物語中のあなたのように、父親に正体を明かせなかった。代わりに神宮司まりも、あるいは、あなたではないあなたに近しい誰かが彼に教えたでしょう。けれどもそれであなたが自分を責める必要はありません。なぜならば、そうなるように私があなたを設計し、あなたは組み込まれた機能通り動いたにすぎないからです。後悔も自己嫌悪も、全ては私の物であって、あなたのものではありません。あなたが受け取るのは、白銀武の生還という事実だけでいいのです。
 私にこの物語の続きを書くつもりはありません。それはどのようなものであっても、現実とは大きくかけ離れたものになるはずだからです。あなたがこれを読み、自分で歩き始めるからです。
 あなたのために血反吐を吐いて生還した白銀武は、あなたのために生きるようになるでしょう。そうなるタイミングは、遅ければ遅いほどよかった。白銀武にとってのあなたという薬物にも有効期限、いわゆる耐性ができるまでの時間が、幅に揺らぎがあれども定められている。ならばその使用開始時期が遅ければ、それだけ白銀武の生存時間も延びる。まさにそのためだけに、私はあなたと白銀武の接触を幼い時期から作ることをしませんでした。これはすなわち、あなたの人間らしい時間と白銀武の生存時間とを交換したということです。
 以上が何の意味もない事情の説明です。
 私は私の信念に基づき行動してきました。それゆえに、謝罪や弁明の用意はありません。
 ただ、最後に母親としてのことを、既に私があなたの罵詈雑言を聞くことができない所にいることを承知で書かせてもらいます(そのためだけに、私はこれを書いたのかもしれません)。
 あとは好きに生きなさい。名前も父親につけてもらいなさい。


 


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.024067878723145