歴史通り、美濃攻略に出向いた秀吉本隊の隙をついて佐久間が動いた。
あやうく本陣落ちるんじゃないかとか、ヒヤヒヤしたぜ。
丹羽様が琵琶湖から来てくれなきゃやばかったね。まあ、史実通りなんだが・・・。
そして、秀吉本隊が怒涛の勢いで帰ってきた。世にいう美濃返しである。
戻ってきた秀吉の号令の下、撤退を開始した佐久間の軍勢に襲い掛かる羽柴軍。
この後、佐久間が奮戦して手強かったので救援に来た柴田勝政に攻撃目標を変更。
それを逆に佐久間が救援して乱戦に・・・なったらしい。
最初の突撃で山を登ってる途中でバテて置いていかれた俺には関係なかった・・・。
皆はえーよ! ついて行けん!
鎧着て槍かついで急斜面を登るなんて、俺には無理!
一応、総大将の血族なんだが・・・後の関白なんだが・・・誰も助けてくれなかった。
ようやく登りきった頃、空が白み始めて。
前田利家が軍を動かしているとこだった。
あー、そういや途中で前田帰ったんだっけ。
その後、前田の行動を裏切りと誤認した勝家側が崩れた・・・まさに今の状況ですね。
ふっ、七本槍の活躍も先駆衆(石田三成とかいたはず)の活躍も俺には遠い世界の出来事だったぜ・・・。
その後、手ぶらで帰るのも何なのでそこらに落ちてた槍とか兜とか拾ってから秀吉に追いついた。
「やあ、孫七郎。そちもよう働いた」
うむ、さすが秀吉! 少ない血族を大事にしないといけないから見てないくせに断定だ!
「勝家を追うぞ。ついてまいれ」
一応、俺が羽柴家で一番跡継ぎに近い。今の所はだが・・・。
だから秀吉も山すら登れぬ俺を無下にはできんのだ! 情けない限りだが!
「途中、前田様に挨拶していきましょう、父上」
前田は戦場からほとんど敵前逃亡のように撤退している。
つまり、軍は無傷なわけだ。ひょっとしたら一戦交える可能性がある・・・と他の者は考えている。
だが俺は違う! だって結果知ってるからな!
「よう気づいた。又左に顔を見せてから行くかい」
稀代の人心掌握の天才、秀吉もことさら大きな声で言ってくる。
周囲の人間に「前田のことはまったく疑っていない。友人である」と宣伝しているわけだ。
そして、後越前・府中城へと軍は進む。前田利家の居城である。
秀吉は一人で逢いに行く、と言って周囲を驚かせている。危険です、降伏の使者なら拙者が、とか周囲が言ってる。
ここは点数稼ぎだ! 前田が秀吉をどうこうすることはないからな! 身の危険がないなら点数の稼ぎ時だぜ!
「私も共に行きましょう」
「おお、孫七郎。そちも共に行くか。さあ又左に会いにゆこうぞ」
うむ、周囲も驚いてるな。なかなかに豪胆な・・・とか、大丈夫なのか・・・とか聞こえてくる。
少しは賤ヶ岳で何もしてないのがごまかせたかな・・・。
前田利家は、なんというかイメージ通りの人だった。
豪快な武人で、いかにも実直で義理堅い人に見える。
でもこの人も元服前までは信長の小姓・・・衆道の関係にあったんだよな・・・。
「今日は俺とお前で桶狭間だ」「ああ、信長様。腹の中が天下布武でございます」とかやってたんだろうか?
くだらんこと考えてる間に、勝家攻めの先鋒が前田利家に決まってた。息子も従軍するらしい。
くそ、まつさんに逢いたかったがよく考えたらもう年増だな。どうでもいいや。
さて、前田利家軍を新たに加えて目指すは柴田勝家の居城、北の庄だ。
・・・なんか忘れてるような気がする。
北の庄・・・柴田勝家・・・嫁・・・市・・・って茶々!
しまった! このままでは茶々が秀吉のとこに来てしまう!
まずい、まずいぞ!
なんとかしないと!