奥州に行く前に。清洲城に帰って来ました。
奥州仕置については秀吉に全権任されてしまった。どうするかは、ある程度秀吉に言って許可貰ってるけど。
蠣崎氏(松前氏と言ったほうがいいのか?)と本来なら改易するはずの奴らをまとめて蝦夷征服へ向かわせるのさ!
大崎義隆、葛西晴信、和賀忠親、田村宗顕、石川昭光、白河義親などみんなまとめて蝦夷で大名になってもらう。
断ったら改易ってことになっている。まあ、金と武器は出してやるからみんなやるだろうさ。
伊達政宗にも兵を出させる。あいつは新領土を取れるなら頑張るだろ。改易されるはずの奴らも。
鉄砲五千丁と硝煙、それに政宗には国崩しを二門貸してやるからきっと大丈夫。
蝦夷は取っておいたほうがいいと思うんだよな。樺太まで取るかどうかは知らんけど。
秀吉に「蝦夷と琉球取りましょうか」と言ったら「蝦夷は伊達の小僧にやらせるか。夢中になって南に眼が向かなくなるわ」とか言ってたな。さすが豊臣秀吉か。
九戸政実は南部の家臣にしたら史実通り謀反起こす気がするので、俺の家臣に加えることを申し送ってあるし。七万石ですよ、彼に与える領地。
そういえば佐竹って東北じゃなかったっけ? と思ったが秀吉に聞いたら出羽国に移封させたらしい。
そして出来れば俺の家臣に加えたかった真田家・・・いつの間にか伊豆に移ってましたよ。
沼田の代替地として伊豆か。信州はいいのかよ、真田。現代人の俺にしてみたら幸村は欲しかったけどね! 有名人だし!
そして蝦夷と琉球。二十一世紀の俺にしてみればなんとなく日本ってイメージがあるからな。でもこの時代の琉球って洒落にならんくらい遠いけど。
ガレオン船で征服するつもりらしいけどね、秀吉は。
津島の他に伊勢湾にも造船所作ったし。秀吉から金出たから当初の予定より大規模な造船所になった。
これで津島級をさらに建造して・・・。
「お考えのところ申し訳ありませんが、早く城に入りませんか?」
うむ、兵庫よ、主君の考え事を妨げるとは何事!
「奥方がお待ちです」
考えないようにしてたのに! てめぇ兵庫! 二十万石じゃなくて五十万石くらい持たせたろか!
「脅しになってませんぞ、殿」
あとで泣くからな、覚えてろ。
くそう、今日は清洲城が霞んで見えるぜ・・・。
「お帰りなさいませ、旦那様」
稲~。体調悪くないか? 赤ちゃんどう?
「ふふ、平気ですよ。体調も問題ありません」
そうか、俺は問題ありだよ、まったく。
「甲斐姫と駒姫のことですか?」
ちょ、稲、なんでもう知って・・・。
「甲斐姫は明日到着されると使いがありました。駒姫はあと数日で到着するようです。
お部屋を用意させていますからご心配なく」
え、えーとね、これはその、関白様が無理やりですね、その、稲が俺にとっては最高の嫁であることには・・・。
「ふふっ、ありがとうございます。
あの、側室を持つことを私が気にかけると思っていますのでしょう?」
そりゃまあ、だってなぁ。
「ご配慮はうれしいのですが、私は気にしませんよ。ちょっとは寂しいですけど。
立場もおありでしょうし、それに忘れていませんか?」
何を?
「私の母も側室でしたよ」
あ、そうだっけ? でもそれはあまり関係ないような・・・。
まあ、とにかく稲!
「はい」
俺の正室はお前! 俺が一番好きなのもお前だからな!
「・・・はい、旦那様。稲は幸せです。
どうかそのお優しさを他の皆様にも分けてくださいませ」
あー、努力はするけど。
でも駒姫はないと思わないか?
「聞かない話ではありません。十歳の殿様に二歳の姫が嫁いだという話を聞いたこともあります。
旦那様は大名同士の婚姻を多く見られてきたと思いますが、その下、家臣が主君の娘を貰う場合など、歳など二の次です」
そんなもんなのかな。
「駒姫は九歳で親元から離されてここに来るのです。その不安はいかばかりのものでしょう。
私もできる限りのことはしようと思っております」
・・・そうか、人質って意味もあるのか。駒姫の場合。
「旦那様も幼少の頃は人質として宮部殿や三好殿の元で育ったと聞きました。
どうか彼女の心を癒してあげてください」
俺の場合は別になんともなかったけどね。
宮部の父ちゃんや三好の爺ちゃんとこで勉強したり若い奴らと馬鹿やってただけだし。
「徳川様もご幼少の頃は今川家にて人質であったとか・・・旦那様と似ているのかも知れませんね」
俺と徳川殿が?
・・・それは買い被りすぎだよ、稲。
その後、秀次は稲の膝枕で横になった。
自分の人質時代を思い出して見る。
秀吉に言われて行った宮部家。浅井長政の家臣だった宮部家。主家を裏切って織田についた。
その後、阿波の三好に人質として行って、三好の爺ちゃんにこっそりと「明智光秀はいつか織田様を裏切るでしょう」とか言ったら驚いていたなぁ。
三好の家では若い奴らと一緒に酒飲んで騒いだり女ナンパしに行ったり柿を盗みに行ったり。
ばれて怒られたけど。
やることないから勉強もやったな。和歌とか書道とか。
その後は怒涛の如く、だったな。史実通りに本能寺の変。そして賊ヶ岳の戦い。小牧・長久手の戦い。
ああ、考えてみれば嫁さん貰って幸せに暮らしてるけど、俺の死亡フラグ折れてないんだった・・・。
淀城に隕石でも落ちねーかな。
なあ、稲・・・。
「はい」
丈夫な赤ちゃん産んでくれ。体大事にしろよ、俺ちょっと奥州まで行ってくるから。
「はい、旦那様」
甲斐姫は父に伴われて清洲城に入った。
父は自分を側室にすることで羽柴秀次の家老の座を貰ったのだろう。
それも戦国の習い。それはいい。
それよりも興味がある。自分が守っていた忍城を落とした男。
まさかあんな方法で落とされるとは思わなかった。城壁を爆破されるなんて。
と、謁見の間に男が入ってきた。
父が平伏するのに合わせて自分も平伏する。
「よ、初めまして。羽柴秀次だ」
気楽な声が掛かった。
「成田氏長と申します。此度の思し召し、真にありがたく・・・」
父が口上を述べている。弟と共に家老になる。そのことに礼を述べている。
「あー、越中に領地与えることにした。成田氏長、越中にて五万石を持て」
五万石。敗軍の将には過大な大きさだ。
父は感動して礼の言葉の限りを尽くしている。
「つきましては、娘を側に置いてくださるようにお願いを申し上げまする」
父が私を紹介する。
「娘の甲斐でございます」
私が顔を上げて挨拶する。
「甲斐にございます」
私はかの人を初めて見た。若い。二十二歳と聞いていたが、この眼で見るまで信じられなかった。
あのような大胆な作戦で忍城を落とした男がこんなに若いとは。
徳川家康と正面から戦い勝利したと言われている。
内政手腕は他に並びなく領地は彼が領主となってからみるみる発展しているという。
それが、この若者・・・。
「ん、よろしく、羽柴秀次だ」
豊臣秀吉という男は派手好みで金や銀をふんだんに使った衣装を好むと聞いたが、甥のこの人はなんというか・・・。
地味だ。
着ている物も普通。特に城内に何か凝った作りをしているわけでもない。
聞いた話だが、忍城を攻めているとき、彼は具足すらつけていなかったという。刀一本持たずに戦場に来て、そして勝った。
「まあ、色んな話もあるだろうけど、俺は奥州まで行かないといかん。甲斐姫の部屋は用意してるから、ゆっくりしていてくれ。
何か要望があったら筆頭家老の田中吉政に言って貰えればいいよ」
あの好色関白と北条で呼ばれていた男の甥とは思えない。
・・・私はこの人に興味を持った。
「お願いがあります」
思わず私はそう言っていた。
「これ、甲斐!」
父が咎めるが、秀次という若者はいいよいいよ、と続きを促してくれた。
「奥州へと行かれるとのこと。私も連れて行ってくださいませ。
従軍中の伽を勤めさせて頂きます」
私がそういうと、彼は口を開けたまま固まった。
・・・案外、純情な人なのかもしれない。
秀次の思考がフリーズしている間に奥州仕置に甲斐姫がついてくることが決まっていた。
なんとか再起動した秀次は、どうせ奥州仕置に行くんだから駒姫は帰ってから連れてきてくれたらいいよ、と最上に申し送っておいた。
奥州に行く前に、とりあえず秀次は領地のことをできる限り片付けていく。
北条から引っこ抜いた風魔は一万五千石与えると言っていたが、どこを与えるか考えるのが面倒だったので飛騨を一国全部与えておいた。
山ばっかだし忍者にはぴったり! とか思っただけだが。
九戸政実には伊勢の一部を任せた。舞兵庫と立花宗茂と九戸政実で俺の無敵軍団! とかちょっとテンションが上がった秀次。
伊勢湾では津島級の建造が始まっていた。秀吉の強力な後押しでフル稼働状態である。
でかいもの好きだね秀吉、と金を出して貰ってる秀次はのん気に考えていたが、当然秀吉はこの津島級で朝鮮・明を攻めるつもりである。
秀次は側室事件のせいでそこまで頭が回っていなかったが。
津島で建造された四番艦は毛利に譲渡した。帆には真赤な錦鯉が描かれていたが、なんで鯉なのかは秀次しか知らない。
五番艦には幾人もの職人達の努力によって製造された国崩しが搭載された。鋳造技術を大幅に向上させるために多額の金がかかったが、職人たちは見事に期待に答えた。
津島級五番艦の甲板には国崩しが四門配備された。秀次の提案で国崩しが配置される場所には円形の板が置かれていた。
この板は人力で回転するように備え付けられており、上に乗せて板に固定された国崩しの向きを変えられるようになっている。
この回転板と揺れても板から落ちないように固定するのはさらに職人たちを苦労させたらしい。
帆は一番艦と同じく漆黒である。
完成した五番艦を見届けた秀次は、石田三成らと合流して奥州へと旅立つ。
従うのは二万の兵と舞兵庫、風魔小太郎の選抜した腕利きの護衛、そしていつも側に控えている可児才蔵。
旅立つ前、秀次は風魔小太郎を呼び、ある密命を下す。
命令を聞いた風魔小太郎は驚いたが、その命の重大さと内容に緊張し自分の配下でも信頼できる者だけに指令を下す。
それは、現代人である秀次が常々考えていたこと。
今、羽柴秀次は風魔という優秀な忍びを手に入れたことによって歴史のミステリーに挑もうとしていた。