俺は今、生涯で最も燃えている! そう、喉も裂けよと叫んでいる!
「行けーーーーーー! 撃て撃てーーーー!」
頑張れ! つーか頑張ってくれ!
北の庄を焼き尽くすのじゃーーーー!
前田利家が先鋒と決まったあと、秀吉に呼ばれたので何かと思ったら「一隊を率いよ」とか言われた。
まあ、しょうがないか・・・いつかはやれと言われると思ってたし・・・賤ヶ岳でやってたら大将が坂道でへばってるという失態を犯すとこだったぜ。
そんなわけで、200人ほどの人数を預けられた俺は、北の庄に攻撃をしかけたのである。
他の奴らはここで手柄をとか思っているかもしれん。だが俺は違う!
なんとか茶々を! あいつを殺さないと!
確か、柴田勝家は天守閣に火薬持ち込んでたはず!
三姉妹を秀吉に預けた後、その火薬で市と一緒に爆死したはずだ!
つまり! 今、なんとかして天守閣に火が届けば! 届けば! いや、届かせてやろうとも!
吹けよ風! 上り詰めろ炎!
「兵庫! やれぃ!」
「御意」
俺の興奮を冷静に流す、我が参謀・舞兵庫。
前田勢が奮闘してるとこで、巧みに200人を操って城に寄せていく。
「火矢だ! 火矢持って来い! 天守閣に向かって撃て! 撃つのじゃー!」
「いや、届きませんから。まずは前田隊と連携して大手門を・・・」
ちょ、おま、早くしないと俺の死神(の母親)がやってくるだろうが!
何冷静にやってんだ!
「柴田勝家殿は歴戦の将・・・事ここに到って死に際を汚すような真似は致しますまい・・・」
いや、勝家とかどーでもいいから。爆死でも憤死でも腹上死でも勝手にしてくれ。
「周りの重臣もここまでつき従った者たち・・・むしろ最後の刻を与えるが武士としての・・・」
最後の刻が迫ってんのは俺じゃ! この機会を逃したら!
「む、使者が出てきたようです・・・どうやら、これで・・・」
ああ、終わったようだ・・・俺の未来が閉じていく音が・・・聞こえる・・・。
「羽柴殿に申し上げる! 主、柴田修理亮勝家はただいまより自害致す! 天主には火薬があるので距離を御取りくだされ!
なお、羽柴殿に言付けがありもうす! 故右大臣信長様の妹君、お市様の娘三人を・・・」
使者が声を張り上げて訴えているが、俺はもう聞いていなかった。
その後、あでやかな着物を着た三人の少女が秀吉の陣に送り届けられ。
直後、閃光と共に天守閣が巨大な炎に包まれた。
俺の・・・死亡フラグクラッシュ作戦が・・・今・・・終わった。
失敗したのだ、俺は・・・生き延びるチャンスが、一つ減った。
保護された三姉妹の長女は・・・茶々。後の淀君なのだ。
「せーかーいでーいちーばんおーひーめーさーまー・・・」
「何の歌ですか、それは? さあ、我らも撤収しましょうぞ。何、初の実戦での指揮にしては上出来でござった」
「そうか兵庫・・・ありがとうよ。
これからも苦労かけると思うけど、よろしくな?」
「御意」
・・・ほんとに苦労かけると思うけどな。
その後、賤ヶ岳の論功行賞が行われ、七本槍が福島正則だけ五千石貰って加藤清正が怒ったり。
秀長さんが秀吉に「孫七郎は意外にやりますな。戦局をよく読み、部隊を率いてもよく人を用いています」とか言ってくれたり。
おかげで河内二万石を貰ったよ・・・まあ、俺くらいしか、今のところ手駒がないもんな、秀吉。
それも茶々が男子を産むまでだが・・・考えても仕方ない。
今の俺の立場で、柴田勝家と羽柴秀吉の交渉に割ってはいるなど、夢のまた夢だったわけだ。
とにかく、なんとかして生き残る術を考えよう・・・このまま秀頼が生まれて高野山で切腹は勘弁だ。
幸い、まだ時間はある・・・策はゆっくり練り上げればいいのだ・・・たぶん。
なんとかなるといいなぁ。