壮麗にして巨大! すさまじき巨大な城!
大坂城である。
でかいね・・・迷うわ、こんなもん。
とりあえず「南の防御力に不安があるな・・・出丸でも作るべきか」とか呟きながら登っていこう。
控えの間とか探したけど、三好の爺さんはいなかった。
宮部の父ちゃんはいたけど。
「で、わしに誰か家臣として有能な者を紹介してくれ、と?」
「そうなんだよ、父ちゃん」
父ちゃん、という言葉に宮部継潤は少し頬を緩ませて微笑んだ。
思えば、不思議な子だった。養子という名目の人質として自分の所に来た男。
人質という立場をまったく感じさせないような立ち振る舞いで、周囲から貪欲に知識を習得していった。
穏やかな性格で人から好かれる、何か独特の雰囲気を持っている少年だった。
「二万石になったのじゃから、まあ、新しい武士は必要じゃろうが。
ま、とりあえず優秀な若者を地元から選抜するのが普通じゃぞ」
「いや、それは吉政にまかせてる。
問題は、将としての才能もある頭が欲しい」
次の戦いは小牧・長久手の戦いだからな。一人でも強い奴が欲しい。
「そうじゃな・・・一人、心当たりがおるから話しておいてやろう。
ただ、禄は千石ほど与えてやってくれ」
千石取りか。まあ、父ちゃんが推薦する奴なら問題なかろう。
「わかった。そいつの名前は?」
「美濃出身で、元明智や柴田殿の下でも働いたことのある男じゃ。
名を可児才蔵吉長」
こうして俺は可児才蔵を新たな部下として加えることになった。
まあ、大名になってないのに伝説に残るくらいの勇者だ!
部隊の先駆けを任せることにしよう。
父ちゃんと別れた後、秀吉と対面するために対面の間へ進む。
石田三成に取り次いで貰って対面である。
「上様がお待ちでございます・・・何か?」
いかん、こいつが将来あの家康とガチでやりあう男か~と思ってマジマジと見てしまった。
「なんでもないよ」
そういってさっさと奥に進む。
いまいち、関わり合いになりたくないんだよな。後の近江派閥というか文官派の筆頭だし。
見つめられた方の男は若干の緊張を強いられていた。
何せ、秀吉の甥であり、現在の羽柴秀吉の唯一と言っていい「跡継ぎ」の男子である。
他に秀俊という若者がいるが、三成は秀俊をそれほど評価していなかった。どうみても出来のいい男には見えなかったのである。
それに秀俊は上様の内儀であられるねね様とうまくいってないご様子・・・となると、やはりこの秀次殿か。
秀次の評価は大体どの人に聞いても同じである。
「心証穏やかにして、知に長ける。古典や故事に詳しいだけでなく、時に驚くべき洞察力を発揮する。
そのうえ、下々の者から慕われており、誰とでも気さくに付き合っている」
まず、高評価と言っていい。
実際には、宮部と三好に養子に出されている時にテレビもネットもない時代の暇つぶしは勉強くらいしかなかったのだが。
古典や故事に詳しいのは現代に伝わる故事に詳しいだけである。
洞察力に到っては「最初から知っている」といういわば反則物なのだが、当然三成にはわからない。
なぜ取次ぎにすぎない自分を観察しておられたのか・・・?
衆道にはまるで興味がないお方と聞いている。この点は上様と同じ。
使えるか使えぬかを見極めようとしていたのか・・・彼は初めてあった人物の能力を正確に測ることのできる人物と聞いたが・・・。
彼の眼にかなう人物にならんがため、さらに研鑽が必要なようだ・・・。
三成は色々な勘違いにより、決意を新たにした。
秀次が能力を正確に測ることができているのは、出会った人物の信○の野望の能力値を思い出しているだけなのだが・・・。
秀次が対面した秀吉は上機嫌だった。
きっと大坂城が完成したので鼻高々なのだろう。
来年には信雄&家康の愚将・知将コンビとやりあうことになるのに。
信雄だけなら楽勝なのに。今から家康を懐柔しておけよ。無理だけど。
秀吉との話は近況や新たな家臣について、今後の方針などを秀吉に説明した。
そして、秀吉が切り出す。
「秀次、来月には諸大名を大坂城に招くぞ。出迎えの饗応を怠るな」
「はい」
「何か存念があるようだな、秀次」
秀吉は秀次の能力を買っている。
自分の血縁者の中では、秀長くらいしか使える者はいなかったが、秀次は違った。
宮部に人質として出した時、もし殺されても大して痛手には感じなかっただろう。
しかし、宮部からも後に養子に出した三好からも大きな賞賛を受けて帰ってきた。
聞いてみると古典を学び、政治を学び、両家の家臣からその人柄が好かれているという。
秀吉には親類縁者が少ない。この若い甥に期待をかけ、それに答えている秀次は秀吉の中ですでに重要な存在になっているのだ。
「織田信雄様も招かれるのですか?」
今も、諸大名を招く、といった一言で正確に目的を洞察している。
その上で、問題になりそうな人物を推測しているのだ。
秀吉は満足げに続きを促した。
「そうだ。お前だからあえて問う。信雄殿は来ると思うか?」
「来ないでしょう。招くという行為は主家が臣下に行うもの。あのお方は織田の後継者を自任しておりますゆえ」
くっくっく、と秀吉は愉快そうに笑った。
やはりこの甥は優秀だ。信雄が安々とこの秀吉の天下を認めるはずはないと洞察している・・・。
「そう思うか。わしもそう思う。だが、いつかは認めさせねばらん」
「一戦を覚悟した上で、ということですか?」
「聡いの、秀次。まあ見ておれ。奴は自分からわしに挑戦してこよう」
自信たっぷりな秀吉。
一方、秀次はこの先を知っている。信雄の重臣が秀吉に寝返った、との噂を流して信雄に斬らせるのだ。
それを口実に尾張に攻め込む。
しかし、その戦いがどうなるかまで知っている彼は難しい顔をしたままだった。
「何か不安でもあるのか、秀次」
「はあ、信雄殿と戦になった場合、徳川殿が信雄殿につくのではと思いまして」
それを聞いた秀吉は真顔になった。
「おそらくな。徳川殿は信雄につくじゃろう。だが、それでもやらねばならん。
それにな、徳川殿は亡き上様の同盟者であった御方・・・天下を持つにはいつかはぶつかる運命よ」
「それはわかりますが、信雄殿と徳川殿の双方を合わせても我らに国力で劣ります。
となれば、徳川殿は外交によって我らの周囲を脅かしてくると思われますが」
「そこまで読んでおるか。さすがは我が甥よ。北陸の佐々成政などはこれを絶好の機会として、頼まれなくても勝手に敵対してくるじゃろうの」
佐々成政の秀吉嫌いは有名である。草履取りとしか秀吉を思っていない男だ。天下人となど認めないだろう。
「我らの周囲を敵だらけにしても、まだ我らが有利。それはわかろう、秀次」
「はい。おそらく徳川殿もそうお考えでしょう。おそらくは・・・」
ある程度の勝利を秀吉本隊に対して挙げ、それを元に有利な交渉を行う。
それが徳川家康のとる戦略ということは秀吉にもわかっているようであった。
「これはの、秀次」
秀吉が鋭い眼光で秀次を見据える。
「織田亡き後の日ノ本を導いていくのが誰か、天下万民に示すための、必要な戦いなのじゃ。
信雄殿は脇役に過ぎぬ。織田という名を持つからこそ、舞台に上がる資格がある程度のものじゃ」
秀吉は決意を持って秀次に命じた。
「気張るのじゃ、秀次。汝は我が甥、出迎えの接待だけでなく、秀長をよく補佐せよ」
「承りました」
こうして、小牧・長久手の戦いへと歴史が動いていく。
その中で本来の歴史とは違う結果をと、羽柴秀次の足掻きが始まる。