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No.4464の一覧
[0] 【全編完結】俺の名は高町なのは。職業、魔王。 (転生 リリカルなのは)[かんかんかん](2010/08/07 21:21)
[1] 目次[かんかんかん](2010/05/18 19:49)
[2] 一話[かんかんかん](2009/02/02 16:18)
[3] 二話[かんかんかん](2008/10/18 22:20)
[4] 三話[かんかんかん](2008/10/21 06:58)
[5] 四話[かんかんかん](2008/10/27 11:58)
[6] 五話[かんかんかん](2008/11/01 17:45)
[7] 六話[かんかんかん](2008/11/04 22:09)
[8] 七話[かんかんかん](2009/02/02 16:20)
[9] 八話[かんかんかん](2008/12/25 18:38)
[10] 九話[かんかんかん](2008/11/15 13:26)
[11] 十話[かんかんかん](2008/11/19 10:18)
[12] 十一話[かんかんかん](2008/11/22 12:17)
[13] 十二話[かんかんかん](2008/11/25 14:48)
[14] 十三話[かんかんかん](2008/11/29 18:30)
[15] 十四話[かんかんかん](2008/12/02 02:18)
[16] 十五話[かんかんかん](2008/12/09 11:38)
[17] 十六話[かんかんかん](2009/01/20 03:10)
[18] 十七話[かんかんかん](2008/12/12 13:55)
[19] 十八話[かんかんかん](2008/12/30 16:47)
[20] 十九話[かんかんかん](2008/12/18 13:42)
[21] 二十話[かんかんかん](2009/02/20 16:29)
[22] 外伝1:オーリス・ゲイズ、葛藤する[かんかんかん](2008/12/25 18:31)
[23] 外伝2:ある陸士大隊隊長のつぶやき[かんかんかん](2009/01/09 16:15)
[24] 外伝3:ユーノ・スクライアの想い出[かんかんかん](2009/01/09 16:16)
[25] 外伝4:闇の中で ~ジェイル・スカリエッティ~[かんかんかん](2009/01/07 16:59)
[26] 外伝5:8年越しの言葉 ~アリサ・バニングス~[かんかんかん](2009/01/14 13:01)
[27] 外伝6:命題「クロノ・ハラオウンは、あまりにお人好しすぎるか否か」[かんかんかん](2009/02/02 16:22)
[28] 外伝7:高町美由希のコーヒー[かんかんかん](2009/01/17 13:27)
[29] 二十一話[かんかんかん](2009/01/20 03:14)
[30] 二十二話[かんかんかん](2009/02/23 12:45)
[31] 幕間1:ハヤテ・Y・グラシア[かんかんかん](2009/02/02 15:55)
[32] 幕間2:ミゼット・クローベル [かんかんかん](2009/02/06 11:57)
[33] 二十三話[かんかんかん](2009/02/12 21:44)
[34] 二十四話[かんかんかん](2009/02/23 12:46)
[35] 二十五話[かんかんかん](2009/03/05 06:21)
[36] 番外小話:フェイトさんの(ある意味)平凡な一日[かんかんかん](2009/03/12 09:07)
[37] 幕間3:ティアナ・ランスター[かんかんかん](2009/03/27 13:26)
[38] 二十六話[かんかんかん](2009/04/15 17:07)
[39] 幕間4:3ヶ月(前)[かんかんかん](2009/04/05 18:55)
[40] 幕間5:3ヶ月(後)[かんかんかん](2009/04/15 17:03)
[41] 二十七話[かんかんかん](2009/04/24 01:49)
[42] 幕間6:その時、地上本部[かんかんかん](2009/05/04 09:40)
[43] 二十八話[かんかんかん](2009/07/03 19:20)
[44] 幕間7:チンク[かんかんかん](2009/07/03 19:15)
[45] 二十九話[かんかんかん](2009/07/24 12:03)
[46] 三十話[かんかんかん](2009/08/15 10:47)
[47] 幕間8:クラナガン攻防戦、そして伸ばす手 [かんかんかん](2009/08/25 12:39)
[48] 三十一話[かんかんかん](2009/11/11 12:18)
[49] 三十二話[かんかんかん](2009/10/22 11:15)
[50] 幕間9:会議で踊る者達[かんかんかん](2009/11/01 10:33)
[51] 三十三話[かんかんかん](2009/11/11 12:13)
[52] 外伝8:正義のためのその果てに ~時空管理局最高評議会~[かんかんかん](2009/11/22 13:27)
[53] 外伝9:新暦75年9月から新暦76年3月にかけて交わされた幾つかの会話[かんかんかん](2009/12/11 00:45)
[54] 継承編  三十四話[かんかんかん](2009/12/18 09:54)
[55] 三十五話[かんかんかん](2010/01/05 07:26)
[56] 三十六話[かんかんかん](2010/01/13 15:18)
[57] 最終話[かんかんかん](2010/01/31 09:50)
[58] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集① 原作関連・組織オリ設定>[かんかんかん](2009/10/23 16:18)
[59] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集② 神話伝承関連解説>[かんかんかん](2009/12/07 19:40)
[60] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集③ 軍事関連解説>[かんかんかん](2009/10/23 16:19)
[61] 歴史的補講[かんかんかん](2010/08/07 22:13)
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[4464] 幕間4:3ヶ月(前)
Name: かんかんかん◆70e5cdb8 ID:d667eea5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/04/05 18:55
6月半ば    機動六課、「聖者の印」を持つ人造魔導師らしき少女を保護する。同課の幹部会議で聖王のクローンと推測が出る。
翌日      保護された少女が目覚め、ヴィヴィオと名乗る。
数日後     ガジェット出現。機動六課が大過なく撃滅。

…………
……






■6月下旬 ~視点 オーリス・ゲイズ~


「ママ~」
駆け寄ってくる子供を抱き上げる。嬉しげに顔一杯に笑みを浮かべて、甘えるように抱きついてくる子供。
 最初を思えば、よくここまで懐いたものね。私も自分が子供好きな方とは思っていなかったんだけれど。自分では自分のことはわからないってことかしら。


 私とハラオウン係長のもとに、保護した子供が行方知れずになった、という連絡が入ったのは、聖王教会系列の病院にもうすぐ着くという、その車内でのことだった。
 到着して、手分けして子供を捜し、ほどなくして、ハラオウン係長が見つけたとの連絡があったので、子供への対応と聞き取りは予定通り彼女に任せ、私は自分の担当だった病院との情報交換に向かった。


 病院側との打ち合わせを終えて、私が子供がいるという病室に入ると、シスター・シャッハが人差し指をたてて、子供になにやら言い聞かせているところだった。
「おねーさん、ですっ」
「シャッハおねーさん?」
「そうだね、よく言えた。偉いよ」
「えへへ~」
すかさずハラオウン係長が褒め、子供が嬉しそうにテレる。なかなか心あたたまる情景だ。
 子供がふとコテン、と首を傾げて、ハラオウン係長を見る。
「? なーに? ヴィヴィオ」
本当に子供相手に手馴れた感じだ。職掌だけでなく、適切な人選ね。
「フェイト……おねーさん?」
「うん、そうだね」
にっこり笑うハラオウン係長。満面の笑みで返す子供。
 そして、子供はキョロキョロと周囲を見回し始めた。
「どうしたの、ヴィヴィオ?」
「ママは?」
「あっ……」
「……その……」
ハラオウン執務官とシスター・シャッハが、気まずげに目を見交わす。
 子供は母を求めるものだ。無理もないことだが、しかし、対応には困るわね。……って。

 いつのまにか、子供はつぶらな目で、部屋にいる最後のひとりである私を見つめていた。ハラオウン執務官とシスター・シャッハも。ちょ、ちょっと待ちなさい。
「あの……こほん。えーと、そろそろ、その……」
じっと見つめてくる三対の視線。いえ、確かに、今この場にいる女性で、子供に呼ばれていないのは私だけですが……それは、たしかにお2人に比べれば、私は年長ですが……これくらいの子供を持つほどの年齢では……ですから、その……。
 注がれる視線。言葉を口に出せない私。

 子供の目がうるっ、とうるんだ。
「ママは……?」
いえ、ですから、その、私を見ながらそう言われてもですね、その、ハラオウン係長? シスター・シャッハ? お2人もそんな目で私を見つめるのは卑怯ですよ?!
 思いはすれど、言葉にできず。
 言葉にすれば、この子供は一気に大泣きする。それくらいは私にもわかる。

「ママ……」
子供がぐしっ、と顔をゆがませてうつむいた。
 シスター・シャッハが、わたわたしながら子供をなぐさめようとして……。
「あ、あの人がママですよ! オーリスママ!」
って、人を指差してなに言ってるんですか、シスター?!

「いえ、別に嫌なわけではなくてですね、年齢的に複雑といいますか、まだ早いのではないかとか……」
「……ママじゃない」

 一言で両断されました。



 いえ、別にママと呼ばれたいわけではないのですがそのように一言で切り捨てられるというのも複雑なものがありつつしかしながらやはりママと呼ばれるには未婚の身ではためらいがありいえけっして子供に同情しているとかあまつさえかわいいなどと仕事に私情をはさむ真似はしていないことをここに断言するのもやぶさかではない心持ちではないとは言い切れないのでありますがしかしながら……。

 私が頭の中で問題を整理しているあいだに、子供とお2人の間でさらなるやりとりがあったようで。
 気づけば、ハラオウン係長が満面の笑みで、子供を抱きかかえ、私の前に立っていた。
「オーリスさん! 本当のママが見つかるまでの代わりということなら、ってヴィヴィオも納得してくれました。もちろん私も姉代わりにお手伝いさせていただきます!」
「………………いえ、その、……ハラオウン係長……?」
「はい?」
きょとん、とした表情で首をかしげるハラオウン係長。
 ママ、と呼ばれることも複雑なんですが、その上、期間限定の代理で妥協なんて、けっこうひどい扱いだとは思って……いなさそうですね。なんの悪意の欠片も見えない、純真な表情です。そういえば、高町一佐が、彼女を指して「天然」と言っていたことがありました。なるほど、これが真の「天然」というものなのですね。私もまだまだ世間知らずだったということでしょうか……。
 
 思わず額に指先を当て、大きく息をついた私の顔の前に、にゅっ、と現れた小さな顔。間近で見つめる色違いの瞳。
「……ダメなの……?」
「…………いいえ……」
つぶらな目に大きな涙を浮かべて覗き込んでくるのは、卑怯だと思うんです……。


 ひとつ大きく息をする。
「わかりました。あなたの本当のママがみつかる日まで、私にあなたのママの代わりをさせてくれますか?」
子供の目に視線をあわせる。
「しばらくの間、私があなたのママになることを認めてくれますか、ヴィヴィオ?」
「……うん!」
 子供はーヴィヴィオは、満面の笑顔で答えてくれた。



 とはいえ、実際の話、私には勤務があるし、ヴィヴィオは訳ありの子供。隊舎に戻り、シスター・シャッハや高町一佐も交えて、いろいろ話し合った末、ヴィヴィオは基本的に六課隊舎内で保育し、私とハラオウン係長の手が離せないときは、寮母をしてくれているミセス・トライトンに面倒を見てもらい、隊の宿舎に住んでいるハラオウン係長と同居することになった。……ママなどと呼ばれていても、自宅から通いの私は、ほとんど彼女と接する機会はない。ヴィヴィオもハラオウン係長によく懐いているようだ。

 それでも、たまに会う機会には、ヴィヴィオは嬉しそうに、私に駆け寄って抱きついてくる。偉そうなことを言っておいて、面倒を見てやれない申し訳なさと、勤務中に副隊長である私が規律を乱す行為をしている後ろめたさで、つい素っ気無い対応になってしまうのだけれど、先日、また、目に涙を浮かべて、
「ヴィヴィオ、迷惑?」
と尋ねられて、開き直った。

 もうしょうがない。私はこの子の母親で、この子は私の子なのよ。血がつながってなかろうが、聖王のクローンだろうが、2人でそう約束したから、そうなのよ。誰にも文句は言わせないわ。


 その勢いで、高町一佐にねじこんで、子持ちの局員向けの規定にある特例条項の適用を認めさせ、勤務中でもヴィヴィオの面倒を一定時間毎にみることを認めさせた。異論は聞かない。「オーリス嬢が壊れた……」なんてつぶやきも聞こえない。私は子を持つ母親として、上司に労働環境への配慮をお願いしただけなのよ。そう、必死に、私は自分に言い聞かせているのだった。




 6月の終わりも近いある日の夜。

 残業して書類を作成していた私は、印刷を開始する前にもう一度、資料の内容を確認した。

(………
 ……
 確認された戦闘機人の特殊能力 1、遠距離砲撃タイプ。Sランク相当の砲撃の実例あり。
                     2、隠蔽能力タイプ。自身と仲間1体を、磐長媛命の全センサから隠蔽した実例あり。
                     3、無機物内移動タイプ。道路、壁等から突然出現、逃亡することが可能。他者の同行も可能。
 未確認だが、推測される能力  1、ハッキング能力。戦闘機人は確認されなかったが、指揮車がハッキングを受けた事例あり。
                     2、高速機動能力。戦闘機人は肉体能力的に人間より遥かに高く、これを活用してくる可能性。
                     3、近接戦闘タイプ。同上。


 彼らは魔力に拠らないでその能力を発現していることが確認されており、AMF下でもその能力を減じないと推定される。
 AMF展開型自律機械(局内公式通称:ガジェット・ドローン)と連携をとる動きが確認されており、その支援下で行動する戦術を取る可能性が高いと推測される。

 以上より、AMF展開下での戦闘について、検討と訓練を進められることを要望する。
 古代遺物管理部機動六課、並びに本局航空戦技教導隊がすでに検討を進めているので、随時お問い合わせいただきたい。

                                     古代遺物管理部機動六課課長 高町なのは一等空佐


                               内線:古代遺物管理部機動六課管制班 X-XXX-XXXX
                                 :本局航空戦技教導隊本部受付  O-OOO-OOOO 
 ……これでいいでしょう。よし、印刷。)


 この、クラナガンの各陸士部隊と武装隊に配布する極秘資料は、敵方の電子戦能力と内通者の存在を恐れて、紙媒体で部隊長クラスのみへの配布となる。それでも部隊長クラスから流出する不安はある。隊内念話の周波数の漏洩といい、天照停止時を狙った隊舎襲撃といい、高位の人間の関与は疑いない。現場の、それも陸の人間がそんなことをするとは思いたくないが、組織が一枚岩になることが非常に困難なのも、事実。
 足りない支援と余裕のない心で働いていた頃のほうが、「陸」全体に一体感が満ちていたように思えるのが皮肉ね。気持ちに余裕ができれば、地位や名誉を望む気持ちも大きくなる。本局に出世を求めてすり寄る人間も増える。

 人間同士の醜い争い。犯罪者を相手にするのではなく、身内を相手にするどす黒い闘争。
 保護責任者になった子供のことを思う。
(……聖王…か……)


 あの子が聖王のクローンかどうかは、まだ結論が出ていない。聖王は虹色という、類を見ない魔力光をもつのだそうだけれど、あの子の魔力光はそんな色ではなかった。だが、それも聖王として覚醒していないだけという可能性があるということで、結論は出せないままでいる。クローンであろうと、聖王という存在を諦めきれない教会の意向もあるのだろう。

 できれば、違っていて欲しいと思う。聖王再臨を期待する教会の人たちには悪いのだけれど……。聖王となれば、いやおうなしに政治闘争の渦中に身をおくことになる。まだ小さい、あんな子をそんな環境に置きたくない。

 正直、無理のある願いだということはわかっている。高町一佐は、あの子をいざとなれば駒扱いする命令を下した。念のため、と言っていたけれど、あの子がそういう環境にすでにある、ということが前提となっている言葉だった。
 ……わかっている。一佐の判断が正しい。私は感情的に反発しているだけ。でも、その感情を捨てる気にはなれない。正しいことは最善ということとイコールではない。子供を辛い目にあわせたくないという気持ちを切り捨てることが良いこととは思えない。
 私は眼鏡を外して、掌で目を覆った。
(……でも、対案はない…。)
 組織にいる以上、そして副隊長という役職にいる以上、反対するからには、しかるべき対案を出さなければならない。でも、いい対案は思いつかない。当然だ。高町一佐の指示が組織としては正しいのだから。感情から生まれた反発が、組織に利のある案を出すことは難しい。



 私は、掌を目の上からのけると、画面を見た。この文書がキチンと受け止められれば、対スカリエッティの戦力は底上げされるだろう。計画している武装係による各部隊との合同訓練とうまく噛み合せられたら、効果はより高くなる。

 けれども、まだできることはあるはずだ。


 私は戦場に立って戦うことはできない。けれど、後方には後方の戦場があり、戦いがある。あの子を辛い目にあわせたくないと言うなら、そのためにできるだけの努力をしよう。最善まで届かなくても、できるだけ近づけてみせよう。もう、後方の戦いは始まっている。ここが私の戦場だ。


(「……記憶がないはずの子供が、なぜ母親を見分けられた? そもそも人造魔導師なら、存在すらしていない母親を」)
高町一佐の言葉を打ち消す。
(「……オーリス三佐。あなたの情の深さは人間として美徳だと思うが、職務では、情に足をとられるな」)
高町一佐の言葉を否定する。

 
 私は情に足をとられているわけじゃない。仕事に従来よりも熱心に打ち込んでいるくらいだ。そう、一佐は考えすぎだ。
 子供を、ヴィヴィオの心と身体を守るために、私にできる限りのことをしよう。それでいい筈だ。

 私は歯をかみしめると、椅子から立ち上がった。











■7月上旬 ~視点 フェイト・テスタロッサ・ハラオウン~


「紹介するね。六課の武装係フォワード班の班長、執務官志望の……」
「ティアナ・ランスター二等陸士であります!」
「あぁ」
「よろしくー」
緊張したティアナの敬礼に、クロノとロッサの返事が返る。……もう、緊張してる後輩相手なんだから、もう少し愛想よくできないかな。……できないか。クロノだもんね。
 2人をそれぞれティアナに紹介し、改めてティアナに視線を向ける。

「それじゃあ、ティアナ、悪いけど……」
「はい! 失礼します!」
「ああ、彼女に案内させるよ。戦技本部の受付とも顔見知りの子だ。
 三尉、よろしく」
秘書なのかな? 控えていた女性士官に声を掛けるクロノ。
「三尉、ティアナをよろしくお願いしますね。ティアナ、お昼になったらそっちに行くから」
「はい、フェイト係長」
「お任せください、ハラオウン執務官」
「よろしくお願いします」
三尉に敬礼するティアナ。うん、ほんとしっかりしてるね。先のことだけど、六課が解散したら、執務官補佐をしてみないか、誘ってみようか。

 思いながら、ソファーに座る。今日はいつもの情報交換だ。内通者の問題が浮上してから、2週間に1度くらいのペースで、クロノやロッサといろいろ話をしてる。ティアナは勉強と現状認識のために連れてきた。
 将来のことを考えると、顔つなぎをしておいて悪い相手じゃないし、六課の戦いで最前線で指揮をとるティアナには、本局の空気なんかを知っておいてもらったほうがいいと思ったから。ちょうど、AMF下での集団戦に関する資料を調べたくて、戦技本部にある資料室の利用を、なのはを通じて申請してたから、日取りを合わせて、同行してきた。
 ここに来るまでにティアナには簡単に話をしてある。あとで、一緒に昼食をとるときにでも、問題のない範囲で、いろいろ状況を教えよう。六課の幹部では、これまで部門長クラスでとどめていた情報を、各部署の主任クラスまで開示していくことで合意してる。先は読めないけれど、六課のみんなには、低い確率でも、起こりうる事態に対する心構えをしておいてもらったほうがいい、という判断だ。それだけ、六課を取り巻く情勢は、混迷と緊迫の度合いを深めてる。

 私は姿勢を整えると、クロノとロッサを見た。クロノが口を開く。
「じゃあ、はじめようか」



「内通者の件は、まだ絞り込めてない。おおざっぱなあたりはつけてあるけどね。正直、六課隊舎襲撃から動きにくくなってね。なかなか調査をすすめられない」
肩をすくめるロッサの言葉に、私は疑問を感じた。
「六課への襲撃がなんで……あっ」
「そう。あれは警告なんじゃないかと僕らは見てる。夜襲とは言え、オーバーSが3人いる部隊に襲撃をかけるなんて、成功率が低すぎる。おまけに本気で狙うにしては、装備も貧弱だった」
「でも、六課が内通者を調べてるなんてことがどこから……」
「さすがにそこまではわからない。だけど義姉さんは最初の頃、けっこう本局の知り合いに声をかけたからね。そのなかに内通者とつながりのある人間がいた可能性はある。それに、六課にはハヤテがいるしね。“夜天の王”が独立部隊とは言え、最大で10人にもならない人間を部下にもつ、しかもトップでない立場で管理局に出向して、教会もそれを認めてるとなれば、なにか政治的目的があるんじゃないかって考えるのが自然だ。脛に傷持つ人たちは警戒するよ」
「あぶりだしになるかと思ってたんだが……相手の反応が予想以上に過激だった」
クロノがつぶやいた。
「起こすリアクションで相手を探るつもりが、逆に、危なくて迂闊に手を出せなくなっちゃったってことね……」
 私はため息をついた。ハヤテやクロノ、カリムの判断を責める気にはなれない。いくらなんでも、同じ局員に、脅しだろうと戦闘行為を仕掛けるなんて、普通は思いもしないだろう。内通者の存在でさえ、あれほど状況証拠が揃ってなければ、私は疑ったと思う。

「……かあさんでさえ、なのはを危険視している。彼女は信望を集めすぎている、と」
「確かに今の状態はよくない。本局の上のほうはピリピリしてるし、地上部隊も実績を上げてる自信と蔓延する噂もあって、本局への反発が従来より強くなってる。火種が放り込まれれば、一騒動起きかねない。そのとき、どんな立ち位置になるにせよ、なのはが巻き込まれるのは確実だろう。当然、彼女の率いる部隊もね」
「そんな……」
そこまで……? 前回、話し合ったときは、そこまでの切迫感はなかった。いったいいつの間に? 前回の話し合いから今日までの間ににあったことと言えば……っ!
「まさか……」
「口に出さなくていいよ。
 でも、たぶん、君の想像があたってると思う。聖王教会関連の病院とは言え、いや、だからこそ、管理局の目と耳は入り込んでる。教会もあえて、それを見逃してる部分はあるしね。言葉に出さない、政治的交流ってワケさ」
ロッサが軽い調子で言った。彼のこの口調は、軽い態度と同じ、一種のブラフだ。今も目の奥に鋭い光がある。
「……ただでさえ、教会に太いパイプをもつなのはが、さらに教会から大きな信用を勝ち取りかねないカードを手に入れた。現在の所属が所属だし、「陸」の協力があったと言うこともできる状況だ。教会との関係は自分達が圧倒的に強い、と考えていた本局や「海」の人間にとっては、いざというときの世論や実働戦力の援護が、横取りされかねない事態が急に現出したように思えるんだろう。聖王教会を潜在的敵対勢力と考えている人間にはなおさらだ」
 クロノが低い声でつぶやいて、私はなにも言えなかった。ヴィヴィオは幼い少女だ。私を姉と呼んで無心に慕ってくれるし、オーリスさんをママと呼んでよく懐いている。でも、彼女は人造魔導師で……おそらくは、聖王のクローンなのだ。事態を大きくしないようにと、六課の隊舎で保育するようにしたことが、かえって悪い影響を与えるなんて……。本局の空気の悪化の度合いを、私も軽く考えすぎていた。リンディ母さんも忠告してくれていたのに……。

「本来は、君達の手をわずらわせないよう、政治的な問題は僕のところで処理しておくべきなんだが……」
「ぶっちゃけ、クロノ自身の立場も厄介なことになってきててね」
「ロッサ」
「言うつもりだったんだろ。なら、はっきりと伝えた方がいい」
 目線と言葉で会話する2人に私は割り込んだ。これ以上、状況の読み違いで事態を悪化させたくない。情報は誤解や甘い読みが発生しないよう、きちんと聞いておく。
「どういう状況なの?」
私に視線を向けた2人は、もう一度目を見交わして。クロノがため息をついて、身を乗り出した。
「本局と次元航行艦隊で、派閥争いに関心がない人たちや、穏健派といわれるような人たちをとりまとめる人間の1人に、僕がかつぎあげられてる。僕が迂闊な動きをみせれば、勢力争いが一気に過激化しかねない状況だ」
「クロノもいろいろと苦心したんだけどね。強硬派の圧力が強くなりすぎて、穏健派がはっきりと派閥としてのまとまりを見せないと、普通の人たちの仕事や行動に差し支えが出かねない状況になってきたんだ」
「もちろん、こちらからなにか仕掛けるようなつもりはない。あくまで、一定の数とまとまりがあることを示して、強硬派が、度を越えた干渉をしないよう抑止するのが目的だ。だが……」
「……まとめ役のクロノが動けば、それが穏健派全体の意思ととられる可能性もあるってこと?」
「そうだ」
クロノの言葉を遮って、私が挟んだ確認に、クロノは苦い顔で頷いた。
 思ったより遥かに状況は緊迫しているようだ。政治闘争が嫌いなクロノが、自分から関わらなければならないような状態になってるなんて。これは、六課に対する政治的な干渉が、遠くない未来に起こりえると考えておいたほうがいいかもしれない。
 そう思っていると、私の思考を読んだように、ロッサが切り出した。

「今後の情勢によっては、君にも直接接触してくる人間が出てくるかもしれない。
 君がなのはの親友だということは有名だから、引き抜きなんかはされないとは思うけど、君の立場を利用して、なのはやクロノに何か仕掛けたり、あるいは悪い噂をたてるくらいのことは、やってくると考えておいたほうがいいよ」
「それに、元々、僕と君のラインを使って、六課に影響力をもちたいという思惑の連中がいたからな。それが思ったようにいってないから、フェイトに直接接触してくる可能性がある」
ロッサの言葉をクロノが引き継ぐ。
「“閃光”の名はそれだけの影響力があるし、うまくいけば、“海の英雄”と“未亡人提督”まで取り込めるかも、と考える奴らは必ずいるだろう」
 クロノの声が苦いものを含んでいる。クロノが、自分や私、リンディ母さんに向けられる視線に嫌な思いをしているのは知ってる。エイミィが話してくれた事がある。実績をあげるまで、クロノは親の七光りだとか散々言われてて、いざ実績を上げはじめると、掌を返したように持ち上げはじめたんだって。クロノの政治嫌いは、たぶんそこから来てるんだろう。

「ともかく、公開意見陳述会が鍵だ。あれが一つの節目になることは間違いない。今からなにか仕掛けるにしても、時間がないから、雑な動きになるだろう。その程度なら抑えられるくらいには、穏健派もまとめることができている。当日まではあまり心配しなくていいと思う。
 ただ、当日が問題だ。管理局全体のイメージ失墜につながりかねないから、馬鹿なことはしないと思いたいが、いままでの動きや、上層部の帯電しはじめてる空気を考えると、馬鹿な奴が馬鹿なことを考える可能性がゼロとは言えない。預言の最新の分析でも、その日が危ないって推測が出てる。十分に注意して臨むように、なのはに伝えてくれ」
「当日が近くなれば、僕も本局で妙な動きがでてないか、網を張るから、あまり心配しなくていいけどね」
ロッサが片目をつむってみせた。
 でも、その軽妙な仕草も頼もしい言葉も、私の顔のこわばりを消すことはできなかった。




 ティアナと一緒に階段を下りる。

「フェイト係長、ちょっと歩くんですが、この先においしいお店があるそうです」
「あ、そうなんだ? じゃ、そこにしようか?」
「はい」
案内してくれるティアナについて歩きながら、私は、クロノ・ロッサと話し合ったことを思い返していた。予想以上に緊張の度合いが増しているらしい本局内部の状況。六課は無事に任務を果たせるだろうか。ううん、弱気になっちゃ駄目だ。任務を果たすために、どうすればいいかを考えよう。
 私はティアナを見た。
 最近の彼女は、一皮剥けたっていうのか、精神的に随分安定して、余裕が出てきてる。責任を明確にしたのが良かったのか、フォワード4人のなかでのリーダーシップも完全に確立して、なかなかいい前線指揮をみせるって聞いてる。彼女にも話して、意見をもらったほうがいいだろう。上からだけじゃない、現場の目線からの意見も欲しい。
 けれど、私のそんな考えの実現は後日に回されることになった。昼食の席で、私が話を切り出す前に、ティアナから相談を持ちかけられることで。


「なのはさんのことなんですけど……」
マンツーマンの訓練のとき、時々、違和感を感じるという。
「なにか、こう、目が尋常じゃないときがあるというか……そういうときに、たまに「上層部を信用するな。駒扱いされないように立ち回れ」とか「味方の裏切りを織り込んでおけ」とか言うんです。心構えとしてはわからなくはないんですけど、なんていうか……」
「……心構えとしてならともかく、実戦訓練でそんな点を注意するのがおかしい、ってこと?」
「それもあるんですけど、目とか雰囲気とか……真剣って言葉じゃ言い表せないような、その……いちど、近接戦になったときに相手の首の骨を折る方法を幾通りものパターンで細かく説明されて、そのときも、表情とか声とか……なんというか、目が妙にギラついてて、でも説明はまるで野菜の調理方法を教えるみたいなごく自然な調子で………。怖くなって「管理局は非殺傷が基本じゃないんですか」って言ってみたら、まるで夢から覚めたみたいな顔をして「ああ、そうだな。すまなかった。いまのは忘れてくれ」なんて言うんです。その、なにかおかしいと思いませんか?」
「うん……」
 私は考え込んだ。もともとなのはは繊細で優しいところがあるけれど、それを人に見られることは嫌がるし、戦闘や訓練での苛烈なまでの戦い方は、私も何度か目にしたことがある。無理に厳しく律しようとして、行き過ぎてしまった、って考えられなくはないけど。
(プレッシャーも、今までにない強さだろうし、味方からも狙われたんだから、気持ちが参ってもおかしくない……)
私は顔を上げてティアナを見た。
「うん、わかった。早いうちに一度、なのはと話してみるよ。ティアナも気づいてるかもしれないけど、六課は政治絡みでいろいろあるし、気持ちが疲れてるのかもしれない。様子をみて、休んでもらうようにしてもらうほうがいいかも」
「そうですか……そうですね、うん。いくらなのはさんでも、疲れることはありますよね」
「あっ、ティアナの訓練のせいじゃないと思うし。むしろ気晴らしになってるんじゃないかな? その辺も相談してみるから気にしないでいいよ」
「……ありがとうございます」
「あ、あれ? 私、なにか変なこと言った?」
「いえ、そういうわけじゃないですから」
あはは、と乾いた笑顔を浮かべるティアナ。お、おかしいな、なにか言い方が悪かったんだろうか。
 

 結局、ティアナが元気を取り戻すまで、しばらくかかったのだった。










■7月中旬 ~視点 レジアス・ゲイズ~


『……ご指示のあった捜査官達には、一通り、渡りをつけました。幾人かはすでに、きな臭いものを感じていたようで、こちらとの情報交換に積極的に応じてくれました。ただ、あくまで厳正中立な立場でことに臨む、と釘を刺されてしまいましたが』
「それは構わん。むしろ、彼らが厳正中立であればなおさら、見逃せない不正には、相手が誰であろうと後にはひかず臨むだろう。主任レベルの取り込みについてはどうだ?」
『幾人かについては好感触を得られました。噂が思ったより効果を上げているようです。身元の欺瞞が第一とのご指示でしたので、事前調査で見込みがあると見られていた人員以外は、今回は軽い接触にとどめましたが、ご指示があれば、より積極的な取り込み工作をおこないます』
「いや、その必要は無い。引き続き、現在の方針で活動を続けてくれ。報告ご苦労だった」
『は。失礼します』
通話を切ると、儂は椅子の背に身体を預けた。

 捜査部門を味方に引き入れる、というのは、最近になって案が挙げられたため、成功率も重要度も高くない作戦だったが、思ったよりうまくいっているようだ。これなら、ことが起こったとき、捜査官を先頭に立てて、無用の流血を最小限に抑えることができるだろう。もし捜査官に対し、攻撃を加えるようなら、後ろ暗いことありと断定できる。査察部門が最高評議会に抑えられているための次善の策だが、無いよりはマシだ。

 この件も、高町のツテと情報提供が大きな役割を果たした。奴の管理局内部の情報把握能力は驚くべきものだ。どうせ、まともな手段は使っておらんのだろうが、精度の高い情報は、儂らに度々、大きな有利をもたらした。念のため、ドジを踏まんよう注意したときもいなされたし、まあ、自信があるのだろう。
 先日も、六課隊舎襲撃は最高評議会が絡んでいたようだが、現状での力押しは難しいと判断して、スカリエッティに自分の抹殺指示が出たようだ、と平然と笑っていた。


 だが、近頃の奴は時折危うい面を見せる。思えば、兆候は以前からあった。

 いくら自信に溢れて見えようと、いくら有能といえど、儂と出会った当時の奴は、精神的に未熟な年だったのだ。いまとて、大人と呼ぶにはほど遠い乳臭い小娘に過ぎん。その年齢にして、謀略の泥に身を沈め、泳ぎ渡る才があったことは、不幸なことだ。だが同時に、奴の才に頼っていまの状況にこぎつけたことは紛れもない事実だ。真っ先に泥をかぶるべき上司として、人生の先達として、我が身のふがいなさに歯噛みする。

 せめて、奴の手綱を握り、必要ならひっぱたいても正気にとどめるのが、先達としての責務だろう。無論、腕づくになれば、奴が勝つだろうが(気に食わん話だが)、そんなことは責任から逃れる言い訳にはならん。大人の男は、やるべき行いから目を背けず、いかなる障害があろうともやり通すから、胸を張って大きな顔をできるのだ。それが、男の権利で、義務だ。儂はそう信じている。




 数日後、儂の執務室に高町の姿があった。思えば、奴のいるこの部屋というのも、見慣れた光景になったものだ。
 仮にも中将の部屋で、足なぞ組んでくつろいで、コーヒーを啜っている姿を見ながら、一枚の書類を呼び出す。

 高町は以前、「「武器と名のつくものは一通り扱える」と称する父に学んだ」と言っていた。「要綱」の作成とその実地指導でみせた、近接戦能力と関係の知識。魔法がなくとも十二分に優秀な戦士であることを儂は知っている。ならば、これも使いこなして見せるだろう。
 

「貴様が要求していた許可証だ」
 内容は、首都防衛長官レジアス・ゲイズの権限において、対個人用質量兵器の保持と、規定の条件を満たした場合、その使用を認める、というもの。信頼の置ける幾人かの武官には、同様の書類を渡している。使用の条件は「高濃度AMF下で魔法使用に多大な負荷がかかる場合」。注記として、「局員と市民に危険が及ばない範囲で、対象を殺傷しないよう努める事」とある。
 政治的な隙になりかねんが、高濃度AMF下で魔導師部隊の戦力が大幅に低下するのは容易に想像できる。結果をうまく使えば、逆に、対策も予算も考慮しなかった本局への攻撃材料になる。許可証を渡した者たちは、いずれも、そういった面の配慮が出来、結果も出せると見込んだ者たちだ。いずれ、非殺傷系の質量兵器の運用を導入していくときの足がかりにもなろう。

 受け取った高町は、ざっと書類に目を通すと、口を開いた。
「……随分あいまいな表現にしたな。大丈夫か」
「問題ない。成果が上がれば押さえこめる。それに、下手に現場の手足を縛るわけにはいかん」

 目も上げず、いつもの態度で答えると、高町がクスッと笑ったのが聞こえた。
「ありがとよ、ツンデレジアス」
「……? なんだ、それは?」
「俺の出身地での褒め言葉だ」
高町はふくみ笑いをした。
「ふん……」

 すこしばかり、ひっかかったが、儂は流すことにした。高町の表情が、たまに見せる、年相応に子供っぽいものだったからだ。認めるのは癪だが、近頃覗かせるようになった、狂気のにじむ表情より遥かにいい。あの表情を浮かべる感情から遠ざかるものであれば、多少のからかいなど気にもならん。あの表情は……駄目だ。
 あの表情をみるとき、儂はこのような若者が育つのを許してしまった自分達の無力と罪とを改めて思い知らされて、暗澹たる気持ちになる。女子供はなにも知らず、楽しく笑っておればいいのだ。血を浴びるのも泥をかぶるのも男の仕事だ。だが、本来儂らが背負うべき仕事は、ただ才能があるというだけで、幼い子供にも割り振られ……そして、高町のような化け物を生み出してしまった。


 以前、高町とした会話を思い出す。

「管理局のやりかたじゃ、本意はどうあれ、魔道師が特権階級として君臨する、魔導師貴族制への道を進むことになる」
そう奴は言った。
「魔道師達の善意とか正義感とかは問題じゃないんだ。ただ、集団になったとき、人がどう感じ、どう動くか。力と名誉を、先天的な資質に多く拠る才能に与えればどうなるか。数年ならいい。10年でもあるいは保つかもしれん。だが、数十年、あるいは100年を超えたとき、社会とそこに生きる人間はどう変わっているかな?」
 皮肉るような口調で言ったあと、トーンを落とし、冷徹な調子で、奴は言葉をつないだ。
「魔法は、たかの知れた技術の1つにすぎん。魔法中心で社会を運営していこうとすれば、技術以外の社会の構成要素に無理がかかる。当然だな。構成要素の一つにすぎない技術の、さらにその一つにすぎない魔法を中心にして社会を作り上げようとするんだから。
 だから本来中心に置くべき人間を、魔法を使う道具として作ろうとしたり、戦力を魔導師に限定したせいで、治安維持に人手が足らなくなったりする。
 わかるか、レジアス。これは管理局の組織運営がどうとか、各世界政府の協力がどうとかいう問題じゃない。魔法を基盤にした社会に生じる、当然の歪みだよ。そこをどうにかしなけりゃ、小手先の改善でどうにかなるもんじゃない。多少、効率が上がる程度だ」

 「小手先の改善」で、「陸」の治安を劇的に改善した少女は、窓越しの夕陽の耀きで全身を染めながら、そう言って笑った。


 そのとき、儂は思ったものだ。ならば、高町よ。お前のような年齢で、お前のような少女が、当たり前に謀略をめぐらし、当たり前に社会の行く末を論じる重荷を担う。それもまた、社会の歪みなのか。十(とお)にもならぬうちから、戦場に出て、殺意と憎悪を当たり前のように浴び、危険に身をさらして生きてきた子供が成長すれば、貴様のようになるのか。その夕陽のように鮮血を身に浴びながら、なんの気負いも暗さもなく笑うような、そんな存在になるのか、と。

 儂は、血に染まった空を背景に、全身を血に染めて屈託なく笑う、高町の姿を幻視していた。それなりに修羅場をくぐった自負のある儂をして、胸を突かれる光景だった。





 高町の去った執務室で、ガラス越しに外を眺めながら、儂は1人、らしくもなく物思いにふけっていた。


 以前、高町が言ったことがある。

「俺はなにもせずも終わるなら、それでも良かった。平凡に生きて死ぬならそれでも良かった」

 管理局はたしかに徐々に機能不全を起こしていたが、決定的なものではなかった。一気に事態を進行させたのは、自ら呼び込んだ存在だ。奴がいなければ、ここまで急激かつスムーズに事態は進行しなかっただろう。だが、奴がいなければ、管理局が変わりなく存在しつづけていられたかと問えば、答えは恐らく否だ。

「巨獣は自らの強欲で巨体を膨らませ、自重でおのずから潰えるか……」

 組織も年をとる。状況の変動に柔軟に対応して、自ら変化していく能動性と柔軟性を失ったとき、組織の老化は始まるのだ。そして自己正当化と他者の意見を聞かぬありかたが罷り通りはじめたとき、老衰はもはや容易に手に負えないところまで、すすんでいる。
 小さな組織なら、まだ手の打ちようもあったろう。もっと単純な構造と成り立ちの組織なら、他のやりようもあったろう。だが、管理局はそのいずれでもなく、組織の老化は見るものが見れば即座に気づくところまで進んでいる。誰の目にもそれが明らかになったときにはもう、手の打ちようがなくなったときだ。だが、いまなら、まだ全てを失うことは避けられる。


 そして、事態の進行も現状で打てる最善の手も、本来なら管理局と関わることなどなかった、平凡な一生を送れたかも知れぬ娘を1人、地獄に引きずり込んで、共に血と汚泥の中を這いずり回り、一つ一つ、築きあげてきたものだ。


 
 目の前に、半生を捧げた組織の終焉と、それと引き換えての理想の実現が近づくのを見て、苦く、胸にこみあげるものがある。虚ろに、胸にこだまするものがある。
 先に逝った友を思う。語りあった理想を思う。


「……皮肉なことだ…そう思わんか、ゼストよ……」
 

 答える声は無く、呟きは静かに宙に溶けて消えた。








■■後書き■■
 最初は、なのは視点に絞る気でしたが、後のことを思うと、いろいろ盛り込んでおいたほうがいい内容が湧いてきて、結局複数視点に。ので、幕間扱いです。一話で終わらせるつもりだったんだけど、3ヶ月は思ったより長かった;。
 ちょっと詰め込み過ぎ、駆け足描写かも。微妙に反省しつつ、後編に続きます。

※付記:SSXを作者は入手してませんが、管理局員が許可制で実弾銃をデバイスとして使ってるとか。このSSでは、それは、JS事件の戦訓を踏まえて導入された制度と解釈しています。つまり、この時期、管理局はまだ、銃器はもとより刀剣、スタングレネードなど、魔法を使用しない武装の一切は質量兵器認定で違法としている設定です。
 まあ、AMF発生自律機械の大挙しての襲撃が首都近郊で起これば、魔法=武力の治安組織が対策を考えないはずはないし、管理局の管理下であれば、それほど破壊力の大きくない質量兵器の使用も受け入れられるかなーと思って、レジアスにちょっと先走ってもらいました。管理下なら、次元震を起こしたロストロギアの貸与もしてましたし、別におかしかないだろーと。……見逃してください。


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