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No.4464の一覧
[0] 【全編完結】俺の名は高町なのは。職業、魔王。 (転生 リリカルなのは)[かんかんかん](2010/08/07 21:21)
[1] 目次[かんかんかん](2010/05/18 19:49)
[2] 一話[かんかんかん](2009/02/02 16:18)
[3] 二話[かんかんかん](2008/10/18 22:20)
[4] 三話[かんかんかん](2008/10/21 06:58)
[5] 四話[かんかんかん](2008/10/27 11:58)
[6] 五話[かんかんかん](2008/11/01 17:45)
[7] 六話[かんかんかん](2008/11/04 22:09)
[8] 七話[かんかんかん](2009/02/02 16:20)
[9] 八話[かんかんかん](2008/12/25 18:38)
[10] 九話[かんかんかん](2008/11/15 13:26)
[11] 十話[かんかんかん](2008/11/19 10:18)
[12] 十一話[かんかんかん](2008/11/22 12:17)
[13] 十二話[かんかんかん](2008/11/25 14:48)
[14] 十三話[かんかんかん](2008/11/29 18:30)
[15] 十四話[かんかんかん](2008/12/02 02:18)
[16] 十五話[かんかんかん](2008/12/09 11:38)
[17] 十六話[かんかんかん](2009/01/20 03:10)
[18] 十七話[かんかんかん](2008/12/12 13:55)
[19] 十八話[かんかんかん](2008/12/30 16:47)
[20] 十九話[かんかんかん](2008/12/18 13:42)
[21] 二十話[かんかんかん](2009/02/20 16:29)
[22] 外伝1:オーリス・ゲイズ、葛藤する[かんかんかん](2008/12/25 18:31)
[23] 外伝2:ある陸士大隊隊長のつぶやき[かんかんかん](2009/01/09 16:15)
[24] 外伝3:ユーノ・スクライアの想い出[かんかんかん](2009/01/09 16:16)
[25] 外伝4:闇の中で ~ジェイル・スカリエッティ~[かんかんかん](2009/01/07 16:59)
[26] 外伝5:8年越しの言葉 ~アリサ・バニングス~[かんかんかん](2009/01/14 13:01)
[27] 外伝6:命題「クロノ・ハラオウンは、あまりにお人好しすぎるか否か」[かんかんかん](2009/02/02 16:22)
[28] 外伝7:高町美由希のコーヒー[かんかんかん](2009/01/17 13:27)
[29] 二十一話[かんかんかん](2009/01/20 03:14)
[30] 二十二話[かんかんかん](2009/02/23 12:45)
[31] 幕間1:ハヤテ・Y・グラシア[かんかんかん](2009/02/02 15:55)
[32] 幕間2:ミゼット・クローベル [かんかんかん](2009/02/06 11:57)
[33] 二十三話[かんかんかん](2009/02/12 21:44)
[34] 二十四話[かんかんかん](2009/02/23 12:46)
[35] 二十五話[かんかんかん](2009/03/05 06:21)
[36] 番外小話:フェイトさんの(ある意味)平凡な一日[かんかんかん](2009/03/12 09:07)
[37] 幕間3:ティアナ・ランスター[かんかんかん](2009/03/27 13:26)
[38] 二十六話[かんかんかん](2009/04/15 17:07)
[39] 幕間4:3ヶ月(前)[かんかんかん](2009/04/05 18:55)
[40] 幕間5:3ヶ月(後)[かんかんかん](2009/04/15 17:03)
[41] 二十七話[かんかんかん](2009/04/24 01:49)
[42] 幕間6:その時、地上本部[かんかんかん](2009/05/04 09:40)
[43] 二十八話[かんかんかん](2009/07/03 19:20)
[44] 幕間7:チンク[かんかんかん](2009/07/03 19:15)
[45] 二十九話[かんかんかん](2009/07/24 12:03)
[46] 三十話[かんかんかん](2009/08/15 10:47)
[47] 幕間8:クラナガン攻防戦、そして伸ばす手 [かんかんかん](2009/08/25 12:39)
[48] 三十一話[かんかんかん](2009/11/11 12:18)
[49] 三十二話[かんかんかん](2009/10/22 11:15)
[50] 幕間9:会議で踊る者達[かんかんかん](2009/11/01 10:33)
[51] 三十三話[かんかんかん](2009/11/11 12:13)
[52] 外伝8:正義のためのその果てに ~時空管理局最高評議会~[かんかんかん](2009/11/22 13:27)
[53] 外伝9:新暦75年9月から新暦76年3月にかけて交わされた幾つかの会話[かんかんかん](2009/12/11 00:45)
[54] 継承編  三十四話[かんかんかん](2009/12/18 09:54)
[55] 三十五話[かんかんかん](2010/01/05 07:26)
[56] 三十六話[かんかんかん](2010/01/13 15:18)
[57] 最終話[かんかんかん](2010/01/31 09:50)
[58] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集① 原作関連・組織オリ設定>[かんかんかん](2009/10/23 16:18)
[59] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集② 神話伝承関連解説>[かんかんかん](2009/12/07 19:40)
[60] <ネタバレ注意・読まなくても支障ない、ウンチク的な設定集③ 軍事関連解説>[かんかんかん](2009/10/23 16:19)
[61] 歴史的補講[かんかんかん](2010/08/07 22:13)
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[4464] 幕間5:3ヶ月(後)
Name: かんかんかん◆70e5cdb8 ID:d667eea5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/04/15 17:03

■7月下旬  ~視点 ハヤテ・ヤガミ・グラシア~   


 広い会議室を薄暗くして、前におっきなウィンドウが開いとる。それを時々指し示しながら、説明を続ける壮年の局員。戦技の新装備検討課の主任さんやそうや。

「AMF濃度が高く、ガジェットの数が多い場合は、この新型魔道兵器の運用が、明暗を分けると考えています」
言葉と共に、スクリーンに2つの、それぞれバズーカと固定機関銃に似た、機械の映像が映し出された。
「73式携帯型魔道迫撃砲と、73式固定型複数弾種対応魔道機関銃Ⅱ型です。ともに、ディバイド・エナジーにより魔力の供給をうけ、魔力弾を生成、射出する仕組みです」
 今日は、クラナガンの各陸士部隊の荒事関係の人間の下士官以上を集めての、対AMF下戦闘の新兵装の説明会。特別枠で招かれた六課からは、私とリィンの参加。
「携帯型迫撃砲は、魔力量Dランクの魔道師1人で、大体10発の弾頭を生成できます。魔力供給後の魔力弾生成は付属の管制システムが補助しますので、Cランクレベルの魔法行使になるでしょう。魔力弾には反応炸裂効果が付与されますので、1発で着弾地点を中心に、半径5m程度の空間を制圧できます」
 5m……直径10mか。ガジェット相手やと、相当密集した状態で、うーん、10は無理やろか。7・8体の破壊、いうところか。ガジェットが戦列組んどる場合に、穴あけるのに使えそうやな。
「魔道機関銃は、生成する弾種にもよりますが、AMF下で有効な手段の一つである多重殻弾頭を例にしてご説明しましょう。この場合、魔力量Dランクの魔道師1人で、大体300発の弾頭を生成できます。とはいえ、毎分120発の連射能力をもつので、全力射撃すると2分半しか持たない計算になりますが。
 通常、AAクラスの技術を必要とする多重殻弾頭の生成ですが、これも付属の管制システムの補助により、Bクラス程度の難易度まで下げることができました。ただし、誘導性能を付加しようと思えば、もう少し上、Aランク程度の制御技術か、あるいは補助としてCランククラスの魔道師を追加で1名必要とします。運用の際は、その点に留意して、射撃担当を指名してください」
 これまた、使いどころが難しそうやな。多重殻弾頭か……ティアナのやつで考えると、1体貫通して2体目まで届くくらいやけど、この機械やとどうかな。それに狙いもうまく定めんと、行動不能に追い込むのは難しいし。まあ、横に広がってこっちを包囲しようとしてくるなら、鴨撃ちにできるけど。それ以外の使える状況なあ……。
「いずれも、ガジェットの存在が確認された数年前から対策案の一つとして検討され、試作されたものです。しかしながら、大量のガジェットの襲撃という目に見える形での脅威が顕在化するまで、戦技の新装備検討課の研究室で埃をかぶっていました。今回の件を受け、急遽、配備に向け実戦に耐える状態への見直しが行なわれ、量産を開始しましたが、時間と予算の関係もあり、クラナガンの各陸士大隊と武装大隊に、それぞれ1・2台程度しか配備できません。私が、これの運用が明暗を分けると申し上げたのはそういう意味です」
 まあ、言うてはる通りの性能が発揮できるなら、低ランク魔道師の多い陸士部隊にとっては、切り札的な存在になるやろうけど……しかし、そう言うても、これは使いどころ難しいやろ?
「隊で2~4台しかない、有効な兵装をどのようにして使いこなすか、皆さんの発想と練度にかかっています。よろしくお願いします」
 頭下げる主任さん。って丸投げかいっ。
「なお、戦技の新戦技検討課と合同で検討した、運用方法の素案がいくつかあります。これについては、会議後、各部隊の隊長さん宛に送信しますので、参考にしてください。以上です」
 いや、さすがに丸投げはなかったか。ほっとしたで。息をつく私と同じように、説明に聞き入っていた会場に、深く息をつく音やら、身体を動かすざわざわした空気が立ち上る。
 主任さんが壇上から降り、司会の人が入れ替わりにマイクを受け取って喋りはじめる。
「では引き続きまして。航空戦技教導隊新戦技検討課より、AMF下における有効な魔法技術について、解説いただきます。それでは……」
………
……




 ふうー。大きく息をはいて伸びをする。伸ばした手を組んで動かすと、肩がええ音たてて鳴った。
「ふわー、効くわー」
「主ハヤテ、はしたないですよ」
「勘弁したってや、リィン。一日缶詰やったんやから」
 定時に地上本部に出勤して、定時までみっちり講習会。休憩は入ったけど、丸一日聞きっぱなしいうんは、花も恥らう年の私も、さすがに辛い。これで明日は一日身体動かす予定とくるんやから、正直、勘弁して欲しいわ。……状況的には冗談にもそんなこと言えんのやけどな。
 私はため息を噛み殺しながら、リィンと一緒に車を停めてある場所へと向かった。




 ここんとこ、戦闘はないけど多忙な毎日が続いとる。
 AMF下での戦闘対応訓練に、クラナガンの全陸士隊と首都防衛隊が、本格的に乗り出したからや。お陰で、AMF下での戦闘経験が豊富(いうても相手がAMFを自分の周りに発生させられるだけで、戦場全体がAMF下、いう状況の経験はないんやけどなあ)いうことになっとる六課の武装隊長さんは、あっちこっちでひっぱりだこなわけや。
 講習の次の日は、ある陸士部隊との合同訓練やった。





 目の前で、戦技からきた教官さんが説明してはる。

「そうだ、接敵時は常に複数で当れ。ガジェットの注意をひきつける役と、ガジェットの弱い部分を狙い打つ役とを、頻繁に入れ替えながら、翻弄するんだ。相手は所詮機械だ。集団行動はそれなりに統制をとるが、個々の動きは決められたパターンを逸脱しない」
 まあ、私らの戦術も手探りで積み上げた部分が多いから、こうやって一から理論立てて説明してもらえると、見落としてた視点や復習にもなってええんやけれども。
「違う、そうじゃない! 接敵時は、と言っただろう! 1体にかかっている間は、ほかの機体は無視していい。なんのために仲間がいると思ってるんだ。仲間と指揮官を信じろ!」
 けっこう、耳が痛いこともある。正直、六課は普通の部隊と人員構成も数も違うから、戦い方とかは結構、独特なもんがあるし。一応、アドバイスする側でのオブザーバー参加なんやけど、なかなか私がでしゃばるようなことにはならへん。
「接敵時の角度を工夫して、相手からは攻撃できず、こちらからは攻撃できる位置取りをするんだ。機動力と連携がポイントだ」
 戦闘や装備に関する助言のほかにも、クラナガンの全部隊の全指揮車のコンピュータに手を加える改修や、対ジャミング機器の整備・配布なんかの調整。過去の私らの戦闘の戦訓をもとに、いろんな手配が目白押しや。もとになった戦訓が、私らが積み上げたものやから、当然、私らもひっぱりだこになる。ティアナらの訓練は、他部隊との合同訓練以外はオーリスさんに、想定状況や座学用の資料を渡して見てもろうとる状態や。士官がおらん状況での指揮にティアナにも慣れてほしいとは思っとったから、その点では良かったんやけど。
「機動力は速さじゃない。適確な先読みと、位置の把握だ。望むときに望む場所に立てることが、戦場で求められる機動力だ。速さはそれを多少便利にするだけで、それだけに頼った動きをしていれば、戦果は上げられない。いいか! 魔道師は力でも速さでも正確さでも、機械や戦闘機人に劣るが、それを補ってあまりある、考える頭と戦友がいる! 経験から精髄を抽出し、効率よく訓練してやる俺達教官がいる! 基礎能力だけで勝敗は決まらないんだ! それをきっちりと理解させてやる。お前らも平和を守る管理局員なら、しっかりついてこいよ!」
 ああ、やっぱり耳が痛い。教本に目は通したし、ここ数ヶ月、あの子らを教えるヴィータを間近に見てきたけど、やっぱり私は教官としてまだまだなんや、て痛感させられる。現実逃避はほどほどにして、勉強させてもらわなな。



 指揮官級の人らは離れたところで、戦技の別の人に図面演習で講習を受けとる。ガジェットの集団を分裂させて、殲滅対象以外のガジェットが殲滅中の味方を襲撃しないよう、足止めしたり、注意をひくための攻撃を仕掛けさせたりするような部隊運用の指導が中心やな。
 私も指揮官やし、ちょっと足を運んでみる。

「そうだ! 連携した機動防御で、うまくクロスファイアポイントまで相手を誘い込め!」
 うわ、こっちの人はさっきの人より熱血ちゃうか。教官って熱血タイプのほうがええんやろか。ヴィータもあれで結構熱いし、シグナムは言わずもがなやし。あ、なのちゃんはちゃうな。
「目の前の戦闘だけ見るな! 戦術機動をとらせるんだ! 対処療法じゃなく、いかに相手を思うところに動かし、しとめるか。砲撃区画に引きずりこむ機動は、一例に過ぎんのだぞ!」
 目の前の戦闘と戦術、戦略の区別と運用か。なのはちゃんが打ち合わせで珍しくリキ入れて言うとった話やな。
「指揮官の役割は、いかに効率良く味方を殺すかだ、って言葉がある。冷静に考えろ。どこに損害を負担させて、どこに打撃を担当させるか。目を背けるな。情に流されるな。冷徹に、しかし冷酷でなく、計算して兵を動かせ」
 ああ、私の苦手なとこやな。でも聞いとる人らは顔色一つ変えへん。まあ、この辺は指揮官の心構えの基本らしいから、当たり前なんかもしれんけど。はあ、私もなんとかできなくはないけど……。辛い仕事やな、やっぱり。
「タフな相手は点じゃなく、面で撃て! 機械連中の頑丈さは甘く見るなよ! 連携してきっちり面で叩け!」
 いや、一応、鹵獲したガジェットを分析して制御系の集中してるとことか、そこを砕けば動かなくなる場所、いうんは判明しとって、その情報は各部隊に回してもうとるんやけど。ま、まあ、戦場でそんなに正確に狙ったとこにあてんのは難しいんかもしらんけど、苦労した身としては、ちょっと悲しいなあ(汗)。
「戦力の一点集中、機動力、地形の活用。全て火力の集中を作り上げる為だと考えろ」
 火力で押す、か。たしかに、AMFを突破できるなら、数の多い機械や人間より身体機能が高いんは確実な戦闘機人との、接近戦や乱戦は避けたいところや。考えとしては間違うとらんやろ。

 教官さんは、そこで間を取って、じろりと目の前の人らを見渡した。
「戦力には限りがある。だから、あらゆる手段を使って弱点を探り穴を見つけ、そこを叩く。そのために重要なのが戦域管制だ。指揮官の腕次第だと言い替えてもいい」
 うわっ、プレッシャー掛けるなあ。
「戦闘で重要なのは性能なんかじゃない、情報だ。戦力ってのは絶対値じゃない、相対値だ。こちらの戦力が弱くても、相手の戦力を発揮出来ないように仕向ければ、相対的に優位を取れる。相手が対処できない方法・方向から仕掛けるのが基本だ。そして、そのための装備が貴官らには与えられている」
 ヘカトンケイレスと磐長媛命か。たしかにあれがあれば、随分と心強いな。
 と言うたかて、相手も同じように戦術行動をとってくる可能性が高い。打つ手の読み合いになるやろ。前あったみたいに、通信妨害を仕掛けてくるんは、ほぼ間違いないやろし。
「囮が突っ込んで掻き回し、注意をひいたところで一斉射撃を食らわすか、一斉射撃をかましてソイツを目晦ましに近接担当の奴等が突っ込んで陣形を切り裂くか。小隊単位での連携なんて、大きく分けりゃ、その2つしかない。射撃を斜線陣にするとかいろいろバリエーションはあるが、基本はその2つだ。しっかりソイツを覚えとけ。それさえ覚えてりゃ、通信が妨害されてもなんとかなる」
 まあ、それくらいは、戦技の人らも検討済みか。とはいえ、結局、根性でなんとかせえ、言うとるに近いんやけど。なんか、通信妨害に対応できるような装備とかは配備されんのやろか。一応、ジャミングされたときの対応マニュアル整備と配布・訓練の準備は進めとるらしいけど。
「中隊以上の単位での機動・行動の指示、他部隊との連携担当、目的に向かっての進行に沿った、部隊の効率的指揮運用、バックアップ部門との連携。そんなのは、戦略的作戦行動だ。俺達の仕事じゃない」
 ……いや、たしかにそうなんやけど。ま、まあ、職権をきっちり分けて効率良く物事を進めようとしとる、ということにしとこか(汗)。実際、私らと同じくらいなのはちゃんも忙しいみたいやし。いろんな打ち合わせや装備の調達なんかを、六課だけでなく、クラナガン全域の部隊について、調整しとるらしい。まあ、対ガジェット、対スカリエッティの部隊の部隊長やから、名分はあるんやけど、さすがの行動力やな。それに、各部隊やゲイズ中将によっぽど信頼されとらんと、うまく回せんやろに、ホンマ大したもんや。これまで積み上げてきたもんが力を発揮しとるんやろなあ。私も見習わないかん。
「本部ビル周辺を、細かく区切ってエリアに分け、地勢や部隊の特性を勘案した上で、兵を配置する。彼らから上がってくる莫大な情報は指揮車単位で整理分析した上で、本部のホストコンピューターの推論もみる」
 ふむふむ。やっぱ、ツボは本部ビルになるか。



 ツボでわかるかと思うけど、最近の各陸士部隊の動きにははっきりした目的がある。

 地上本部の情報部が、これまで散発的に出現してたガジェットドローンはテスト的な運用で、そろそろ適度な情報も溜まったやろし、本格的な攻勢、要は大規模テロ活動やな、これに出てくる可能性が高い、て見通しを出した。正直、そこまで事態がきとるんか、て言われたら、私には実感はない。こないだもレールウェイの地下通路で、試験運用っぽい新型ガジェットがでたとこやしなあ。うちと、たまたま合同訓練しとった108の人らで片付けたけど。
 まあ、本職さんがそう言うんやから、それで考えた方がええとは思う。

 で、や。その大規模テロ活動の対象を推測したら、ぶっちぎりで予測1位が、9月の12日に地上本部ビルで行なわれる公開意見陳述会。年に一度の、まあ、年間方針発表みたいなもんらしい。全次元世界に放送されるいう、この日にテロがあれば、それだけで管理局の威信に傷がつく。被害の程度によったら、偉いさんの首が軒並み飛ぶやろって話や。
 その辺の分析と予測は、機密指定ランクAやから、原則、佐官以上にしか公開されてへんのやけど、私らはガジェット専任部隊みたいになっとるから、六課では、尉官以上にまで知らされとる。まあ、本部が分析した元情報やら予測やらの原型いうか材料だしたんは、私ら六課やしな。教えられんでも、情報や分析に関わって、頭もそれなりに回る人らは、大体、同じ答えに行きついとるみたいや。

 まあ、それを踏まえてや。クラナガンの各陸士部隊や首都防衛隊に、襲撃を想定しての防衛戦のシュミレーションや早期警戒態勢の確立、ミッドチルダ全体での検問体制強化(大きな貨物の移動を調査して、ガジェットの製造工場や集積地なんかを割り出すんやって)なんかが、急ピッチで進められとるわけや。これをもっと早くにやってくれたら、これまでの被害も抑えられたかもしれんのに、なんて言うたらあかんのやろなあ。



 そんな緊迫しはじめる状況、せわしない毎日の中で、時折、考えてしまうことがある。

 管理局内部、それもそれなりの高位に、スカリエッティに情報流しとる人がおるんは、これまでの戦闘の内容から見てまあ、確実や。となると、早期警戒も検問強化も、全部すりぬけられると考えた方がええやろ。となると、クラナガン近郊で防衛線張って、そこでの戦闘で食い止めることになると見たほうがええ。内通者の権力や広がり具合によったら、市街での戦闘もありうるやろ。
 それはまあええ。いや、あんま良くないけど、それは私の考えることやない。戦闘になったときに、いかに被害をださずに鎮圧するか、そしてその方針の中で、六課の戦闘部隊を率いて最善を尽くす。今の私の立場で、私の考えること、することはそれや。問題は、ほんまに市街戦になったとき。そこまでスカリエッティが入り込めたとき。

 その状況になって、誰が得する?

 内通者かて管理局の権威が傷つくんは、自分も所属しとる組織や、おもろないはず。でも、もし、それなのにそこまでやってきたら。
 考えたないけど、考えてしまう。傷は全部地上部門のせいにして、それを口実に、本局が地上部門を下位組織として吸収する。それなら筋は通る。通るけど……その場合、内通者は本局のかなり上のほうにかなりの影響力をもって存在してるいうことになる。内通者を見つけ出して摘発なんて話やない。本局そのものを解体して人員を大幅刷新、全面的に改組しなきゃならんような話になってくる。それは、さすがに……。ないとは思いたいけど、もしそんなことになったら、大事や。次元世界全体が大揺れになる。

 ロッサ兄は気づいとるやろか? ……多分、気づいとるとは思うけど、一度、話しといた方がええかもしれん。カリム姉様にも。教会は政治に不介入が原則やけど、そこまでの事態になったら、さすがになにもせんわけにはいかんやろう。考えとうはないけど……今までの色んなことが、その考えでいくと、綺麗につながってしまう。納得いってしまう。怖い。その日が来るのが怖い。
 私の考えすぎでおさまればええんやけど……ヴィヴィオのこともある。ヴィヴィオを使われれば、次元世界の揺れはさらに大きくなるし、教会も一体で動くのは難しいやろ。それ目的でヴィヴィオを生み出したとしたら。正直、確定やないけど、聖王のクローンを生み出すなんて、教会含めた次元世界へのゆさぶりくらいしか目的が思いつかん。月読は、行方不明の伝説のロストロギア活用の恐れ、って可能性を出してきたけど、伝説になるくらい資料も文献も残っとらんシロモノが都合よく出てくるいうんも考えにくい。
 ヴィヴィオを六課で保護できたんは、その意味では幸運やったな。別の意味では不運なんやけど。こないだの幹部会議でフェイトちゃんから報告があった。ヴィヴィオを六課が保護していることで、なのちゃんや「陸」と教会との関係がさらに強化されるのを、恐れとる人らが本局上層部におるって。本局上層部に内通者が広がっとるなら、余計に追い詰めてしまうことになったかもしれん。まあ、スカリエッティに利用されたりするより遥かにマシなんやけど。
 
 ……あかん。話が絡みあいすぎて、私じゃ流れが読みきられへん。やっぱり、カリム姉様に一度、話してみよう。姉様ならなにか、ええ案を思いついてくれるかもしれん。

 なのちゃんにも相談したいとこなんやけどなあ……。


 ふう、とため息が漏れる。


 こないだ、会議の後、フェイトちゃんに相談された。なのちゃんのことで。

 フェイトちゃんはティアナに、なのちゃんの様子がおかしいって聞いたらしい。私もフェイトちゃんに教えてもらったけど、あの内容がホンマやったら、明らかに異常な行動やと思う。フェイトちゃんは、仕事のプレッシャーやら内通者のことを考える心労やら狙われたショックやらで、精神的疲労がたまっとるんやないかと思って、なのはちゃんと話してみた上で、休暇をとることを勧めたそうや。でも、のらりくらりとかわされて、聞き入れてもらえんかったとか。それで、私にも協力してほしい、て相談に来た。
 フェイトちゃんがなのはちゃんと話した印象を聞いてみたけれど、
「なのはは、いつも弱いところをみせないから。……最近、すこし気持ちをひらいてくれるようになったと思ってたけど、まだまだだね」
て、淋しげに微笑って言った。

 私はとりあえず、フェイトちゃんを励ましたあと、頑なになっとるなのちゃんには、力押しでいってもどうにもならんから、ちょっと様子をみてみよう、言うて、その場を収めた。フェイトちゃんは未練がありそうやったけど、失敗した直後やし、なのちゃんの強がりなこともよう知っとるから、2人してよう気ぃつけてよう、て約束することで最後は折れた。
 そうやって、フェイトちゃんを帰したあと、私は即効仕事を早引けして、自分の部屋に帰って、じっと考え込んだ。……仕事? 周りにえらい迷惑掛けたけど、私ひとりおらんでも、大抵はなんとかなるもんや。そんな、誰かが代行できるか嫌々でも延期できるようなことより、私にしかわからん、できんことのほうが大事やった。


 フェイトちゃんには言わんかったけど、なのちゃんのおかしいいう様子は、疲れのせいなんかやないと、話を聞いた瞬間に私は判断してた。いや、間接的にはそうなんかもしれんけど、本質的には違う。本質的には、なのちゃんが元々持っとって、うまく私らからは隠してた、なのちゃんの心の暗い部分、どろどろした部分、闇の部分や。証拠なんか出しようがないけど、確信はある。
 だから問題は、なのちゃんがそういった行動をとるようになったことやなく、そういった行動を私らの目につくようなところでとり始めたことや。

 なのちゃんが心に闇を持っとることに私は気づいてた。親も友達もおらん不自由な身体の自分の横を、笑いながら駆けてく子らを見て、暗い想いを持ったことがないなんて言わん。その子らが、私と同じような目におうて不幸のどん底で悲しむのを夢見たことがないとは言わん。
 だから、なのちゃんの抱えとるもんにも気がついた。私も持ってたことのあるもんやから。
 でも、なのちゃんは強くて、無愛想でも優しくて、いつも顔をあげて前を向いとったから、あまり心配はしとらんかった。闇をもっとらん人間なんておらん。でも、闇にひきずられるような人間も滅多におらんし、闇に呑まれるような人間はもっと少ないと思うてたから、あのなのちゃんがそんな人間の1人になるなんて考えもしとらんかった。


 でも、甘かったんやろか。


 なのちゃんも人間や。それに周りに気ぃ配らんと、独りで高く遠く飛んでいく鳥のようなところがある。幸福の青い鳥。太陽に近づきすぎて堕ちたイカロス。どっちも、あんまええイメージやない。でも、なのちゃんに重なる部分があるて感じてた。

 私はなのちゃんの親友や。どんなことになっても、なのちゃんの傍にいるて自分に誓おた。なのちゃんの味方でいるて誓おた。
 でもこの場合、なのちゃんと対立しても止めるべきなんやないやろか。今回のことって、なのちゃんの自制が効かんようになりはじめとる、なのちゃんが心の闇にひきずられはじめとる、そういうことやないかと思う。
 傍にいるだけやのうて、友達やったら、間違いかけてる相手にきちんとそれを教えてあげるのも必要なんやないやろか。
 私は迷い続けていた。


 答えは簡単には出せそうにない。












■8月上旬  ~視点 ティアナ・ランスター~ 


「第一回、機動六課で最強の魔導師は誰だか想像してみよう大会~!」
「「「おおおおお~!」」」
あたしの目の前では、ハイテンションな集団がお祭り騒ぎを繰り広げている。

「鉄板の最強候補は4人!」
「近接最強! 古代ベルカ式騎士! ヴィータ副隊長!」
いつの間に誰が組んだのか、一段高い舞台で司会進行をしているスバルとアルトさんもノリノリだ。
「六課最高のSSランク! 長距離砲持ちの広域型魔導騎士! 失われた秘儀の使い手! “夜天の王"ハヤテ隊長!」
「そして六課最速のオールレンジアタッカー、“閃光”フェイト執務官と」
「説明不要の大本命! “エースオブエース”“空のカリスマ”“魔王”高町なのは部隊長」
っていうか、なんでそんなに息があってるのよ、あんたたち。コンビ組めるわよ。お気楽極楽能天気コンビ。
「「最強は誰だーッ!?」」
「「「わ~っ!」」」
 なのはさんだ、いやフェイトちゃんだ、部隊長だ、ハヤテさんだ、なんて怒号が飛び交う光景を前に、あたしは頑張って逸らしていた意識を現実に戻した。

「六課ってこんなに人いたっけ……?」
 いや、課開式でも見たはずなんだけどね。熱気というか迫力が違うのよ。随分数が多く見えるわ。あたしの隣にいるキャロとエリオも、じと汗をかいてる。キャロなんか半笑いだ。


(……最強、か)
ハヤテ隊長の言葉を思い出す。なのはちゃんは強くなんかやあらへんよ。そう、無理に作った笑顔で泣きそうな声で言われた言葉。






 この間の夜間訓練の後。やっぱりまた、異様な雰囲気を放っていたなのはさんのことを考えながら、あたしは隊舎の通路を歩いていた。

 今日の模擬戦闘、なのはさんは途中から完全に本気だった。あの目。
 あの目を思い出すと、いまも怖気が走る。いま正に命を奪うことを愉しんでいる目だった。正直、あそこでなのはさんの手刀が止まったのは、幸運以外のなにものでもない。なのはさんは震える手をもう片方の手で握りながら、押し殺した声で言ったのだ。
「今日の訓練は終わりだ。帰れ」
 真っ向から受けた強烈な殺気と、直前まで行った死の恐怖に腰を抜かしかけて、頭も麻痺してた私は、その言葉に反応しなかった。そうしたらなのはさんは、怒鳴ったのだ。それも殺気を放ちながら。
「とっとと行け! 死にたいか、貴様ッ!!」


(「……六課は政治絡みでいろいろあるし、気持ちが疲れてるのかも……」「そうですか……そうですね、うん。いくらなのはさんでも、疲れることはありますよね」)
 やっぱり違った。あのときの不安は間違いじゃなかった。疲れなんかじゃない。あれは、なのはさん自身の持つ狂気だ。
(だって、なのはさんだよ、なのはさん! 堂々とした態度と凄い発想、局員の間じゃファンクラブだってあるんだって! 若い局員の憧れだよ! エース・オブ・エース、管理局の切り札!)
 知ってたスバル? その姿の下には、今日垣間見た、途轍もない狂気が渦巻いてるのよ。おぞましい闇が息づいているの。


 どうしたらいいんだろう? もう一度フェイトさんに相談する? でも、この間の話だけでもショックを受けてたみたいなのに、本気の殺気を向けられたなんて言ったら……。

「あれ、ティアやん。どうしたん、こんなとこで?」
その声に、反射的に私はすがりついた。
「ハヤテさん! 助けてください!」



 招き入れられた部屋で、あたしが今日の出来事を話し終えると、ハヤテさんは言ったのだ。ぽつりと。
「……ティアナはなのちゃんのこと、強いと思っとるやろ」
咄嗟に質問の意味を掴みかねて、答えられなかった私に、ハヤテさんは続けて言ったのだ、泣きそうな声で。
「なのはちゃんは強くなんかあらへんよ。無理して自分を強くしてるだけや。それも自分でも気づかんと」
 ハヤテさんは泣いていた。涙は流さず、顔は笑顔だったけど、その目と声が、なにより雄弁に彼女の感情を表していた。


「ティアナが今日見たんはな、ティアナの思ったとおり、なのちゃんが持っとる、うまく私らからは隠してた、なのちゃんの心の暗い部分、どろどろした部分、闇の部分や」
 いつも明るくノリのいいハヤテさんの声が、別人かと思うほど静かに起伏なく語った。
「なのちゃんは、私らのことを大切やと思うてくれとるかもしれんけど、信じてくれとるわけやない。なのちゃんにとって世界は、いつもなのちゃん1人で全てを背負わなあかん、孤独な世界なんや。そこでは私らは欠片も頼りにされてへん。手伝えば喜んでくれるけど、手伝わなくてもなのちゃんにとってはなんでもない。それが当たり前やからや。

 異常なことや。人間、そんなに強うない。なのになのちゃんがそうやって生きられるのは、生きてしまえるのは、初めから切り捨てとるからや。自分が独りと思うとるからや。しかも自分でそれに気づいとらへん。あの優しいなのちゃんが、そんな風になるまで、どんだけ辛いことがあったやろう。どんだけ裏切られたやろう。
 
 ……闇を抱えて当たり前や。狂気を抱えて当たり前や。むしろ、それに流されんと、私らにそれを見せんように気づこうとるだけ凄いことや、優しい人やと、私は思う。…………淋しい、優しさやけどな。

 でもな。私はなのちゃんに救われた。なのちゃんのお陰でどうなったとかそういう問題やあらへん。なのちゃんの心がどうとか、そんなもんなんか欠片も関係あらへん。
 ただ、なのちゃんは損得もなにもなく、自分の気持ち一つで、私のために全力を尽くしてくれた。その気持ちだけで、私は救われた。救われたって思っとる」

 その声に秘められた凄絶な覚悟に、あたしはゾッとした。静かな海面が、その下の岩の鋭さを見通しやすいように、その静かな声は、ハヤテさんの心に秘められている感情をの激しさを露わにしていた。
 あたしはなにも言えず、ハヤテさんは続きを語らず、沈黙の時間が過ぎていった。



「怪物と闘う者は誰しも、その過程において自らが怪物と成り得ない様に気を付けなくてはならない。
 あなたが深淵を覗き込むその時、深淵もまた、こちらを覗き込んでいるのだから」



 不意にハヤテさんが、沈黙を破って呟いた。

「……それって」
「ん。うちらの世界の偉い哲学者の言葉や。フリードリッヒ・ニーチェ。「神は死んだ」て宣言して、運命や絶対的な正義の存在を否定した人」
「……」
「なのちゃんは優しい人や。自分のしたことはなんであれ自分独りで背負おうとする。関わったモン全てや。それが悪いもんやろうとなんやろうと。
 人間誰しも暗い部分、嫌な部分、持っとるもんや。それから逃げんと現実と闘いつづけとったら、そんで結果を背負い続けとったら。そんな生き方をし続けとったら、そんな人間ってどうなってしまうんやろな?」
「……ハヤテさん……!」
 あたしは言葉を返せなかった。何を言っていいのか、そもそも何を言いたいのかわからなかった。ただ、なにかひどく嫌なものが胸の中でのたうちまわるのを感じていた。
「なあ、ティア。あたしはなのちゃんの友達や。なのちゃんのことが大好きなんや。
 それだけやない、なのちゃんは私の恩人なんや。なのちゃんがおらんかったら、今の私はおらへん。あたしはなのちゃんの手を離すことはできん。なにがあってもや。
 でもティアは別や。ほかの子らも。みんな……」
「ハヤテさんはどうなんですかッ!」

 思わずあたしはハヤテさんの言葉を遮っていた。武装隊の隊長には向いてないかもしれないけど、この人はいい人だ。人の価値なんて、強さとか魔法とか地位なんかにあるんじゃない。そう言葉で教えてくれたのはなのはさんで、態度や行動で実感させてくれたのは、ハヤテさんやスバルやちびっこ達だ。特に、優しすぎるくらい優しくてすぐ落ち込む癖に、あたし達の前ではいつも明るくてみんなを笑顔にさせてくれるハヤテさんは、あたしの憧れの1人だった。そのハヤテさんに、そんな目でそんな声で、これ以上話させたくなかった。

「まだなんとかなるでしょうっ? 親友なんでしょう? 教えてあげればいいじゃないですか! こっちに引きずり戻してあげればいいじゃないですか! そんな目で、声で……っ、諦めないで下さいよ!」

 あたしは泣いていた。悔しくて悔しくて。こんな凄い人たちなのに、こんないい人たちなのに。彼女達に絡みついている“何か”が悔しい。今まで気づきもしていなかった自分が悔しい。なにより、この人たちにこんな目をさせるようになった世界のありようが、兄さんを理不尽に奪った世界のあり方が、なにより悔しかった。


「……ありがとう、ティアナ。でもな……………………………。ごめん。私は怖いんよ。………なのちゃんと対立するのが怖い。なのちゃんに敵を見る目で…見られるのが、怖い。…なのちゃんに、見捨て、られるのが怖い。…………なにより…なのちゃんが、ひとり、で…ッスン、ひとりで……ック、堕ちていって、しま、うかもしれん、のが…ッ…ッヒッ、それ、を、……見送らな…あかんように………なる、かもッ、しれんのがッ! 怖いんよッ!」

 途中から嗚咽交じりになったハヤテさんは、そう悲鳴のように吐き出して、手の平に顔を埋めた。繰り返す激しい嗚咽の合い間合い間に、「ごめんな、ごめんなあ」と呟いてるのが、不明瞭ながらも聞き取れた。涙を流しながら呆然と立ち尽くしてたあたしは、繰り返し呟かれるその言葉をじわじわと理解して。その意味を脳が理解した途端、

「もう、いいですッ!」

叫んで、部屋を飛び出した。泣いてるままだけど構うもんか。ハヤテさんが言えないなら、あたしが言ってやる。資格なんて知ったことか! あんなに苦しんで、あんなに悲しそうにして。あんなの、そのままでいいはずなんかない! 絶対にそんなことはない!!
 あたしは部隊長室目掛けて、まだ人のいる隊舎の中を全力で駆け抜けた。







「失礼しますっ!」
あたしは文字通り、部隊長室に怒鳴り込んだ。


 照明の消えた部屋のなか、なのはさんは、月の光だけが射しこむ空間で、虚ろに目を宙にさまよわせて、椅子に座っていた。あたしが礼儀を無視して部屋に飛び込んできても、一拍おいてゆるりと、いつものキレのある動きからは想像できないような動きで、あたしに濁った瞳を向けて、一言呟いただけだった。

「ああ、ティア」

 あたしはそんななのはさんの様子にも一切構わなかった。気づいていなかったって言っていい。ただ、激情があたしを突き動かしていた。


 あたしは足取りも荒くデスクの前に歩み寄ると、バン!と音を立ててデスクを両手で叩いて、なのはさんに詰め寄った。興奮であたしの頭も感情もぐちゃぐちゃで、あたしは、思いつくまま、支離滅裂に、気持ちを言葉にしてなのはさんに叩きつけた。

「戻ってきてください! 闇だか狂気だかしらないけど、そんなのにひきずられないでください! ハヤテさんだって泣いてました! なのはさんを独りで行かせられないって!! なのはさんが独りで堕ちていくのを見送るくらいなら、自分はずっとなのはさんの傍にいるって! ごめんって泣きながら、そう言ってました!!
 いいんですか?! そのままで!! ハヤテさんを巻き込んで! フェイトさんだって一緒に行こうとするかもしれない!! あんなになのはさんのことをっ、大事に思ってる友達を! 道連れに! それでも道を踏み外して! 本当にそれでいいんですか!!
 自分を信じろって、あたしに言ってくれたのは、なのはさんじゃないですか。それでいいのかって言ってくれたのは、どんな存在になるんだ、って。そう、あたしに、言ってくれたのは! なのはさんじゃないですかぁっ!!」



「泣いているな」

 あたしの言葉も勢いもなにもかも無視して、ぽつりとなのはさんが言った。

「俺は泣いたことがない。涙を流した記憶がない。だが、ときには俺の代わりに泣いてくれる人もいた。お前も俺のために泣いてくれているのか、ティア。優しい娘、涙をその名に含む娘よ」


 なのはさんはゆるりと椅子ごと身体を回し、窓の外の闇に視線を移した。なのはさんらしくない、いつもの力強い意思が感じられない声が、淡々と言葉を紡ぐ。

「ときに思うことがあった。摂理を正し、歪みをなおす。
 理を布く、それはそこまでしてやらなければならないことなのだろうか。悪霊も妖異も、もとは現し世(うつしよ)の澱みから生まれたもの。現し世の生んだ異形の子。
 だが異形であっても、子であることには変わりない。なのに、兄弟とも言える俺達が彼らを否定し、彼らを討滅する。理から外れている、ただそれだけで。彼らとて、望んで理から外れているわけではないだろうに。彼らとて生きていたかったろうに。
 彼らを生んだ世界から否定され消え去るとき、彼らはなにを思ったのだろう。
 生まれてすぐに、葦の船で流し捨てられたヒルコ。彼は一体、どうなったのだろう。どこかに辿りついて、そこで受け入れてもらうことができたんだろうか」

「なにを……言ってるんですか?」

静かに視線をこちらに向けたなのはさんが、ゆるりと笑った。
「……さあ、なにを言ってるんだろうな。いまさら引き返すことなどできるはずもないのに……我ながら、度し難い」

 あたしは激情を逸らされ、わけのわからない言葉と問いを投げられ。頭がぐちゃぐちゃで、気が抜けたように唖然と立ち尽くしていた。

「もう休め、ティアナ。明日もまた訓練がある。疲れを身体に残さないようにな。
 それから、晩の訓練の指導はもう終わりだ。お前は、基礎は完全に修得した。これからは、自分で頭を使い、工夫してみろ。相談には乗ってやる」

 そう言ってなのはさんは顔を戻して、あたしに背を向けたまま立ち上がり、一歩、窓に歩み寄ると、かすかに顎を上げ、はるか遠くをみるような仕草をした。双月の光が射しこむなか、長い茶色の髪が流れ落ち、陰になった背中へと溶け込んでいる。その後ろ姿はとても華奢で儚く、あたしはいまさらながら、この人が二十歳にもならない女の子だということを思い出した。


 先日、フェイトさんと一緒に本局に行ったときに、クロノ提督と一緒に紹介されたアコース査察官に、耳打ちされた言葉が脳裏を過ぎった。
「まぁーつまり、僕の言わんとしている事は、だね。隊長と前線指揮官の間だと色々難しいかもしれないけど、上司と部下ってだけじゃなく、人間として、女の子同士として、接してあげてくれないかな。ハヤテだけじゃない、フェイトやなのはにも」
 軽い口調で、なにげなく。でも、たしかな不安と願いを声の底に忍ばせて。こっそりと囁かれたあの言葉。



 そうだ。なのはさん達だって人間なんだ。どんな凄い成果を上げてきてても、どれだけ強くても、何度修羅場をくぐっていても、1人の女の子なんだ。いくら年上だからって、上司だからって、全て頼りきっちゃいけない。あたしたちでも何かできる、支えられることがあるはずだ。
 
 あたしは頭をあげて、ぐいと涙を拭い、姿勢を正して敬礼した。
「夜分に失礼しました。失礼します!」

 なのはさんは、あたしの声にも動きにも何の関心も払わず振り向かず、ただ、月の光の届かない、夜の闇を眺めつづけていた。



 宿舎への道を歩きながら、あたしは決意を固めていた。

 何かできるはずだ。尊敬する、でも同時に弱さもある、大切な上官に。大好きな人たちに。 


 …………それが、あたしが誰かの借り物じゃない、与えられたものでも命じられたものでもない、自分自身の道をかいま見た最初だった。

















■8月下旬  ~視点 高町なのは~


 それはまだ事態がそれほど進行していなかった頃の話。


「スカリエッティはどうする?」
「殺す」
 簡潔に答えた俺に、レジアスは僅かに沈黙した後、言葉を継いだ。
「……俺とのつながりなら、明かされても構わん。最高評議会の後ろ暗い支援や命令を、公にするいい切っ掛けになる。それに最高評議会の犯罪を証言してもらう必要があるだろう」
 地位相応の威厳に溢れ、情を欠片も含まない口調で紡がれる正論。だが、俺はその背後に隠れ潜んでいる気遣いに気づける程度には、この男とつきあってきた。

(ホントに不器用な男だな、オーリス嬢……)
いつか、俺にレジアスの不器用さとわかりにくい優しさを語った彼女。俺は心の中で、彼女に向けて苦笑した。
 だが、今回の件については、気遣いは不要なのだ。むしろ、俺が自分の我侭を通したいだけなのだから。

「レジアス、スカリエッティが生きたまま捕らえられたら、どうなると思う?」
「む?」
意味を掴みかねたのか、レジアスの反応が鈍い。俺は、つぶやくように続けた。
「奴の罪状から見て、生きているうちに釈放されることはまずない。どこかの厳重な拘置所で、都合のいいときだけその知性を要求されて、生涯飼い殺しにされるだろう」
「……」
「すまんな。おそらく、お前の言う通り、生かしておくほうが利点は多い。だが、俺は奴に終わりを告げてやりたいんだよ。奴の悪夢も狂気も植え付けられた宿業も、全てが終わり、解放されるのだと。それが、せめても俺が奴にしてやれることだ」
「……そうか」
 レジアスの声の響きに俺は苦笑した。こいつには、言葉の意味は理解できても、その心情を真実理解することはできないだろう。

 こいつもそれなりに外道の業に関わってきたが、その本質は、折れず曲がらぬ真っ直ぐな鋼だ。狂気を我が身の一部とする、あるいは、苦悩と恐怖に分かちがたく結びついた歓喜。そういった矛盾した心の在り方も。憎み厭いながらも、それなしで生きていくのに耐えられないという、祈りにも似た妄執も。おそらく、こいつには本当の意味では理解できない。そのほうがいいのだろうと思う。それに自惚れかもしれんが、スカリエッティは、俺1人が奴の狂気を理解しているなら、それで満足するだろう。
 そうだな、レジアス、お前にもわかりやすい言葉でいうなら……

「それに、忍従の日々を、これから先も過ごし続けさせるのは憐れだ。俺たちなら、来ないかもしれない機会の為に、準備をしつづけられるが、奴は自身の望まない環境にこれ以上押し込められているのは耐えられんだろうよ。奴はもう、十分耐えた」
 あるいは違うかもしれない。他者の死に様を勝手に決めるなど、そいつの生に対する第一級の冒涜だ。だが、奴のあり方に、あがきに、俺は前世の自分の影を見る。奴と共鳴する俺の魂が囁いている。それでいい、そうしてやれ、と。
 少しの間、ぼんやりしていたのだろう。俺は、レジアスの小さな声で我に返った。
「……少しばかり妬けるな……」
 レジアスは俺に聞かせる気はなかったのだろう。とても小さな声だった。だが、気の毒なことに、魔法に頼らず五感を鍛える訓練もしている俺の耳を掻いくぐることはできなかったようだ。俺は突き上げてきた笑いの衝動を、咄嗟に押さえ込んだ。聞かなかったことにしてやるほうがいいだろう。

 だが、レジアス、わが友よ。俺が奴を理解できるのは、その存在の在り方に、鏡に写したようによく似た部分があるからだ。以前、言ったろう。俺と奴は兄妹のように近しいと。


 だがそれだけだ。


 俺が手を貸すと決めたのはお前だよ、レジアス。
 力だけ与えられ、いいように飼い慣らされそうな感覚に、反発しながらもどうしていいか判らずにいた俺に、道があることを教えてくれたのは、お前の歩いてきた軌跡なんだよ。長い間、現実と戦いつづけて、膝を屈しながら、なお、原初の理想に焦がれ、現実からも目を背けない、お前に賭けてみたくなったんだ。お前の征く道の先で、理想が現実に花開くのを見てみたくなったんだよ。

 むろん、そんなことは俺は口には出さなかった。その後、静かに沈黙のときを過ごし、その場を辞去した。



 (あと一ヶ月を切ったな……。)

 あの会話は何ヶ月まえのことだっただろう。このところ、過去のことが曖昧になり、脈絡もなく様々な場面や言葉が脳裏を過ぎることがある。


 ただ、はっきりしているのは、もうすぐ戦いの火蓋が切られること。俺とレジアスが、そしてレジアスの子飼いたちが、自分を抑えて耐え忍び、心身を削って準備してきた全てが、結実するときが近づいているということ。自由を得るか、それとも無か。威勢のいい言葉だが、かかっているのが自分の運命だけじゃないとなると、途端に無責任に思えてくるから不思議だ。

 なにか、し忘れていることはないか。なにか、し残していることはないか。なにか、見落としていることはないか。なにか、考え違いをしていることはないか。

 何度も何度も自問し、何度も何度もシミュレーションを繰り返した。レジアスと幾度も綿密に打ち合わせた。

 漏れも間違いもない。……その筈だ。あとはただ、終わりに向けてすすめていくだけだ。


 これでいい。その筈だ。その筈なのに、なにか大切なことを見落としているような気がしてしかたがない。
 ハヤテの顔が浮かぶ。フェイトの声が聞こえる。ティアナの表情が思い出される。レジアスの気遣うような瞳が記憶に張り付いて離れない。

 違う。そんなことじゃない。計画のことだ。なにかあるはずだ。なにか……。



 俺は答えの出せない問いに囚われたまま、思考の迷路を彷徨い続けていた。











■9月11日  ~視点 不特定第三者~


<早朝>


~古代遺物管理部機動六課 宿舎~


「ティア、もうなのはさんと仲直りした?」
「言ったでしょ、喧嘩なんかしてないって。ちょっとした意見の食い違いで、すこし気まずいだけよ」
「でも……」
「ああ、もう! 大丈夫だって言ってんでしょ! あんたも人の心配ばっかしないで、準備をすすめなさい!」
「う、うん。ゴメン……」
「まったく、もう……」

(そう、仕事に私情は持ち込まない。特に命を預かる仕事なんだから)

 そう思って、それからその考え自体、彼女にマンツーマンで訓練を施した人物の教えであったことを思い出して、彼女は眉根を寄せた。



~クラナガン東部森林地帯 地下研究施設 倉庫~


 ずらりと並ぶ数百のガジェットドローン。それを眺める小柄な人影。
 軽い足音が近づいてくる。

「……チンク」
呼ばれた人影が振り返る。
「ルーテシア…それにアギトも」
「ドクターが呼んでる」
「そうか。先行についての最後の注意か天照破壊の件かな…ありがとう、ルーテシア」
 かすかに微笑んだ銀髪の少女を、呼びに来た紫髪の少女は無表情を保ったまま、見上げる。その肩には利かん気な表情の炎の妖精。
「……なにをしてたの?」
「ん? いや、いろいろと考えてたんだ」
「……」
銀髪の少女は、斜めに身体をねじり、先ほどまで見ていた機械の群れを、再びその隻眼に収める。
「……ドクターの言う自由な世界。そのための戦いがいよいよはじまるのかと思ってな」
「……」
「だが、そのためには、この機械と私たち姉妹で多くのものを壊し、あるいは命を奪うだろう。多くの悲しみが生まれるだろうと思ってな……」
「……チンクはいやなの?」
「ん?」
わずかに陰りを帯びた表情をした少女が、問い掛けられて、一つしかない目で瞬きをする。
「わたしはお母さんのためなら、どんなことだってする。チンクはちがうの?」
「…ああ、いや、違わないさ。私も、ドクターと姉妹のためなら、どれだけ恨まれても構わない」
答えた半人半機の少女は微笑んで。あまり身長の変わらない召喚士の少女の頭を優しく撫でた。
「ルーテシアのためにだって、私は頑張るぞ?」
微笑む少女の言葉に、わずかに目を見開く紫髪の子供。そこにぶすくれた妖精が割り込む。
「ルールーにはアタシと旦那がついてるから、いーんだよ! それよりドクターのとこに行かなくていいのか?」
「ああ、そうだったな。すまない、またあとでな」
苦笑気味に烈火の精に応じて、それから子供にもう一度微笑みながら髪を今一度撫でて。そして去っていく少女の後ろ姿を見送りながら、残された子供は、撫でられた髪に、そっと触れてみた。
「さっ、ルールー。アタシ達も行こーぜ!」
「……うん」



~クラナガン東部森林地帯 地下研究施設 研究室~


「まもなくはじまる……すべてを賭けた遊びが」
うっとりと呟く男の目は、目の前のものも現実の世界も見ていない。
「果たして得られるのは甘美なる終焉か? それとも、望んだ我々の世界か?」
 初めて会ったとき、彼の心を塗りかえた凛々しい少女のことを思う。

「光と闇、狂気と理性がぶつかりあい、せめぎあう。至高のひとときになるだろう。人の可能性の極限へと道を拓く、大いなる瞬間になるだろう。そう思わないかね、愛しい人よ。妹ならぬ我が同属よ」

 その声は徐々に悦楽に染まり、瞳は抑えきれぬ欲望に潤み。頬を高潮させ、目前に迫った待望の刻を想って、男は両手を広げた。

「ああ! もう、間もなくだ…………!!」



<10時頃>


~時空管理局地上本部ビル 1Fロビー~


 ロビーにある臨時受付の前で、整列して敬礼する6人の少女と1人の少年。先頭の、ショートカットに愛嬌のある顔立ちをした少女が、凛とした表情で口を開く。
「古代遺物管理部機動六課より、警備のため、派遣されました。
 なお、最高責任者の高町空佐は、別行動中のため、あとからいらっしゃいます」

 彼女らを遠目に見て、ひそひそと会話が交わされる。
「六課の……長官気に入りで好き勝手……」
「…教会……夜天の………首突っ込んできて……」


 続々と集まってくる、揃いの茶色い制服を来た男女たち。
 彼らに向かい、ひとりの女性が繰り返し同じことを告げる。
「総合警備ミーティング会場はこちらです」



~クラナガン北部ベルカ自治領 聖王教会本部内の一室~


「いよいよ明日ですね」
「ええ」
「ま、なんとかなるよ。僕らの自慢の義妹に、その信頼する友人達がいるんだからね」
「……ロッサ。あなたのその軽薄な態度はあきらめましたが、それでも時と場合をわきまえろ、とあれほど……!」
「ちょっ、わっわっわ」
「シャッハ、落ち着いて」
「……っ! し、失礼しました、カリム」
「……僕にはなにもないのかな……なんでもないです、ハイ」
「シャッハ。私には直接戦う力はありません。どうかよろしくお願いします」
「はい、お任せください。聖王陛下の御身は、必ずやお守りいたします」
「まあ、ザフィーラもヴィータもいるし、あまり肩に……イエ、ナンデモナイデス」
「ですが、シャッハ。なるべく、無理はなさらないでくださいね。預言の解釈が間違っていれば。なにも起こらなければ、それが一番よいのですが……」
「……カリム……」
「……義姉さん……」



~時空管理局地上本部ビル 首都防衛長官執務室~


「貴様はいつ頃、こちらに入るのだ? 警備体制の調整に、各世界代表との面通し。時間はいくらあっても足りんぞ」
『まあ、そう言うな。今夜の交流パーティーには間に合うさ』
「……それでは遅すぎるだろうが。真面目に答えろ」
『すまんすまん。まあ、そうだな、イチゴーマルマルまでには入れると思う。お前のところへ直通でいいな?』
「……総合警備ミーティングにでないつもりか」
『まあな。任せるからよろしくやってくれ』
「……なにか不測の事態でもあったのか?」
『いや? 念には念を入れて、いろいろとやってるだけだ。予想外に時間がかかってな』
「それならいいのだが……」
歯切れの悪い男に、からかうようにウィンドウの少女が笑いかける。
『さすがのお前も不安なのか? でもごめんねー、ママが行くまでもう少しがまんちてね、ぼうやv』
「…………誰が坊やだ」
『……っぷっくっくっくっ。…さて、お前に心当たりがないなら、俺には検討もつかんな』
「……用がもうないなら切るぞ」
『ああ…って、ちょっと待った。一応、今回の件での俺のコールサインだけ伝えておこう』
「……」
『コールサインは“ルシファ-”だ』
「……聞かぬ言葉だな。なにか由来があるのか?」
『俺の出身世界の神……全能を称する管理者気取りの存在だが、そいつに生み出されながらも、誇りと自由のために反逆したっていう神話上の存在だよ。敗れて地の底に堕ち、魔王となってなお逆襲の機会を窺ってるそうだ。……まあ、最後には負けて、地獄に永久に押し込められることになってるんだがね』
「……随分な名を名乗るものだ」
『ほう、そんなに俺には不似合いか?』
「さてな」
『……ふふっ』
「……ふ」
互いに黒い笑顔で火花を散らしあったあと、ウィンドウの少女は一転して親しみのこもった悪戯っぽい表情でにやりと笑い、2本の指だけで敬礼してみせる。
『じゃあな、のちほど』
「ああ」



<13時前>


~クラナガン西部地区 時空管理局第10X陸士大隊隊舎 ミーティングルーム~


 部屋のなかで思い思いに立ったり座ったりしながら、上司の登場を待っている男女の群れ。端の方で、中年に差し掛かった1人の男が、若い同僚に話をしている。
「俺らみたいな組織は、子供を守るための組織じゃないのかって思っちまう。バカな話で、身の程知らずな言い分だけどよ」
気怠げで、それでいて、どこか近寄りがたい雰囲気をもった男は、淡々と言葉を紡ぐ。
「子供らには、明るい未来を見て生きて欲しい。俺らはその為に戦ってるんだと、そう思いたいから」
男はそう言うと、なんともいえない表情をしている、彼より大きな魔力量の、年若い同僚に向かってにやりと笑ってみせた。
「まあ、俺の勝手な希望だ。いらんお世話だと蹴り飛ばされるかもな」


「けど、その気持ちは無くしたかねえんだよ」



~時空管理局本局 武装隊本部第2ミーティングルーム~


 壇の上に立った男が、目の前に列をなす男女に向け、拳を振り上げ、激を飛ばしている。
「第OOO航空大隊と第XXX陸戦大隊は、明日は地上本部ビルで、公開意見陳述会警備の応援だ! 嫌な仕事だが、だからこそ隙をみせるな! きちっと決めて、「陸」の奴らに本局のレベルを見せつけてやれ!」


 演説後、崩れていく列にいた1人の局員が小声でつぶやく。
「やれやれ、ヒートアップしちゃって……。近頃のお偉いさん方はちょっと異常だねえ」
ぬっ、と背後から伸びた手が彼の肩をつかみ、彼は思わずビクリと身体を震わせた。
「上層部批判はもちっと小さな声でな。穏健派とみられると、なにかとやりづらくなるぞ」
「…脅かさないでくださいよ、分隊長」
 部下の抗議を、ふん、と鼻を鳴らして流した男は、まだなにか言いたげな相手に向かって口を開いた。
「まあ、上の様子がおかしいのは確かだ。だが、それは俺達には関係のない話だ。行ってなにかあれば、戦って、守る。何もなければのんびりしてから帰る。単純だろ?」
そして、部下の肩を強く叩いて、彼の傍を離れた。
「ま、一応、気ィゆるめんじゃねえぞ」
「イタイっす! ……ったく、分隊長も馬鹿力だから……」

 叩かれた肩をさすりながら愚痴る若い局員は、彼の上官が呟いた言葉を聞き逃した。


「見せつけろ、か。………キナ臭えな。一騒動あるかもしれん」



<14時過ぎ>


~古代遺物管理部機動六課隊舎 部隊長室~


 執務机の前に座る少女が銃器をいじっている。管理局法違反の質量兵器。だが、銃器を扱う彼女の手に、乱れも躊躇も微塵もない。扱いなれた動きだ。最後に彼女は、音をたててグリップに弾倉をはめ込んだ。拳銃の名は、ベレッタM8357 INOXモデル。弾種は.357sig炸裂弾・銀弾頭仕様。前世から使い慣れた、彼女の信頼する組み合わせだ。
 

 少女は、整備を終えた銃器を机に置いて立ち上がると、身支度を確認しはじめた。
 制服の緩みを直し、長い茶色の髪を整え、武装を身につけ、コートを羽織る。

 (終わりのはじまりか……。)

 最後にもう一度、制服に隠れた腰の後ろのホルダーに差したM8357と、背中に隠したコンバットナイフの収まり具合を確かめると、ケブラー織りの白い軍用コートを翻し、扉に向かって歩きはじめた。











■9月12日 公開意見陳述会 開催

………………
………







 ………………………………そして、後世から“魔王の挑戦”と呼ばれるようになる、二日間の動乱の幕が開く。









■■後書き■■
 書いているうちに、今話が、これまでの流れとこれからの流れを結ぶターニングポイントになることに気づいて、一からやり直し。今後のプロットも全面見直し。関連情報の再確認に、過去の投稿分の読み返し等々。そして、いろいろ詰め込む必要に押されて伸びる文章量。削って組み直してまた削って……それでも結構な長さに。さらに試行錯誤したあと、結局諦めて、IEをひらく。
 随分間があいてしまいました。お待たせしました。今後、今回ほど間があくことは滅多にないはずです。ないといいなあ。

 次回、ついに公開意見陳述会。ああ、ここまでなんと遠かったことか……。


※ディバイド・エナジー……自分の魔力を他人に受け渡す魔法。原作では、デバイス間で魔力をやりとりしてたので、応用的に、魔導機械にもこの魔法で魔力を充填できるのではないかと考えました。


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