※12/25、ご指摘を受け、なのは達との合流時点でユーノが魔法を使えない理由を公式設定準拠に修正しました。また、ユーノの行動に対するなのはの感情の独白も一部変更しました。
ユーノ・スクライアとの出会いがなければ、俺は魔法の知識を詳細に得ることはできなかっただろう。だが、彼がジュエルシード発見時に無謀な行動に出なければ、俺が管理局と関わりを持たない未来もあったんじゃないか、という思いも消しきれない。その意味で、彼には未だに好悪どちらともつけがたい感情がある。
入手した青い石は、莫大な魔力を秘めているが、外部に発する魔力はごく少ない(すくなくとも、俺の張った結界で感知できないレベル)ことしか判らなかった。父と話し合い、その危険性とばらまいた相手が石を探知できる可能性とを考えて、町の廃ビルに隠し、帰宅して仮眠をとる。父は、廃ビルに盗聴器・隠しカメラ・トラップ(致死性ではない。相手の戦闘力を測るため、と父は言っていたが)を仕掛けた。
あとは、こちらに接触してくる相手を待つか、フェレットの目覚めを待つか。状況がある程度の展望をみせるまで学校を休むことを、多大な反対を押し切って家族に認めさせた俺は、身体を休めながら、兄とともに自宅で時間を過ごした。父は翠屋に行き、姉は学校が終わり次第、父と交代する予定だ。
そして、フェレットの意識が戻ったのは、そろそろ学校も終わろうかという時刻だった。
身じろぎをしたフェレットに近づき、首を押さえつけ兄に借りた飛針を横腹に押し付ける。兄が斜め後ろで身構えるのを感じながら俺は作り声を出した。
「下手に動くなよ。貴様のわき腹に刃物をあてている。魔法を使おうとする気配があれば、即身体を刺し貫いて、虫のように縫いとめてやる」
「……う、うううん。……え、あれ、え?」
「……もう一度言う。下手な動きを見せたり、魔法を使おうとする気配を見せたら、いま、貴様の腹に押し当てている刃物で貴様の身体を貫き通す。余計なことはしゃべらず、言われたことにだけ、簡潔に答えろ。」
「な、なに! どうなってるのこれ!! え、僕、縛られてる?! え、ぐえ?!」
こちらの脅しも聞かず、慌てふためいて騒ぐフェレットの首をぐいっと強く押さえつけて、俺はため息をついた。
「お前の所属と姓名は?」
「スクライア一族というのは?」
「この町に降ってきた21個の魔力保持物体との関係は?」
「騒ぐな……。危険というのは、どういう危険だ?」
「……世界を滅ぼした、というのは具体的にどういう方法で滅ぼしたんだ?」
途中、興奮して騒ぐフェレットの首を何度か締めながら質問を繰り返し、大体のところを聞き終えると、俺はなんともいえない気持ちで、再度ため息をついた。
このフェレットが言ってることが本当なら、海鳴市は、まったくの事故でとんでもない厄介ごとに巻き込まれたということになる。しかも、それに対応すると主張するフェレットは、1戦でボロボロのありさま。とても、安心して事態を任せられるようには見えない。
「応援を呼んだか?」
「……呼んでない。これは僕のミスだから。僕が解決しなくちゃいけないんだ。」
「犠牲を出さずに解決するだけの力量と経験があるんだな?」
「そ、それは……でも、僕がやらなくちゃ…ぐぇ?!」
「………………お前達にとって、自分のプライドは異世界の人間の安全より優先するものなのか?」
「……そ、それは、その……。」
「……こういう事態の場合、危険に対処する組織はないのか?」
「……時空管理局がそうだよ。」
「その時空管理局に連絡した場合、何日くらいでこちらにつく?」
「……連絡できないんだ。この世界の魔力は僕と相性が悪くて、ほとんど魔法が使えなくて。異世界間念話も、管理局の支局がある世界への転移もしばらくはできない。」
「……それは、体が馴染めば、回復するようなものなのか?」
「た、たぶん。でも、1週間や2週間じゃ無理だと思う」
再々度、ため息をつく。
兄の方を見る。
兄も、頭痛をこらえるように頭を押さえて俯いていたが、俺の視線に気付いて顔を上げ、疲れたようにため息をついてから、口を開いた。
「とりあえず、そのユーノとかいうのの……。」
「え!? え!? ほかに誰かい…ぐぇ?!」
「……ユーノとかいうのの拘束を解いて、協力させよう。魔法は俺達にとっては未知の力だ。そいつの協力は不可欠だ。」
「え、魔法が未知って……ぐえ?!」
とりあえず、そういうことになった。
自称ユーノ・スクライアは、俺の年齢やら俺達が実は魔法の使い方を知らないこと、俺の魔力量(なんか知らんが、かなり大きいらしい)に驚いたり、興奮したりしたが、ともかくも、魔法の使い方やその特性について、俺達に説明し始めた。
魔力については兄はもっておらず、実際に使うことになるのは俺だけになった。しかし、レイジングハートとやらいう道具のやたら恥ずかしい起動パスワードは誰が設定したんだ? いや、実際に俺くらいの年の女の子なら喜ぶかもしれんが、前世付の俺には向かん。誰か変えてくれ。
幸い、レイジングハートは素直で冷静な奴で、積極的に俺に協力してくれた。(そのとき、また、ユーノが凄い凄いと騒いだので、でこピンかまして黙らせた。いちいちうるさい奴だ)
しばらくそうして魔法を学んでいると、結界が市内への2つの転移物を感知した。大きさと形からして魔道師だな。
俺は少し迷ったが、魔法の学習を実践を混ぜたものから座学オンリーに切り替え、兄を交えての戦闘方法の検討もおこなうことにした。侵入者の目的は判らないが、いま、危険を侵して正体や錬度を探る必要性は感じない。魔法を使用して探知される可能性を上げる気にはなれん。突然の学習内容の転換にユーノが少し不思議そうな顔をしたが、適当にごまかした。兄はなにか察したのか、特になにも言わないでくれた。
それからまたしばらく、市内をふらふら飛んでいる侵入者の位置に気をつけながら、話し合いをつづけていたのだが……。俺はすこし迷って、侵入者のことを口に出した。相談する必要を感じたからだ。
「……しばらく前に市内に入った魔道師らしき魔力保持物体が、ジュエルシードを隠した廃ビルに近づいている。」
「え!? そんな、僕には感じ取れないのに! やっぱりなのはには魔道師の才能があるよ!」
「嬉しくない」
嬉しそうに叫ぶ懲りないフェレットにでこピンをかますと、兄に視線を向ける。兄もこちらを見返して口を開いた。
「よければ、様子を見に行ってくるが?」
すこし考えて、俺は首を振った。
「いや、もう廃ビル間近だ。それに相手が魔力を感知できる可能性がある以上、こちらに襲撃をかけられるほうが怖い。廃ビルには監視機器を隠してあるし、ここで待とう。」
「わかった。一応、迎撃の準備をしておこう」
そう言って、兄は立ち上がった。一応、家には陰陽術を用いた隠蔽結界をはってあるが、魔法相手にどこまで通じるかわからない。
そして、準備を終えた兄が部屋に帰ってきてしばらくして。
突然爆発的に発生した魔力を廃ビルの位置に感知するのとほとんど同時に、ビリビリという振動が家を襲った。
「なんだ!?」
立ち上がりながら、兄が叫ぶ。
「これは……魔力の爆発です! 次元震が起きるくらいの規模だ!」
お前はどこの解説キャラだよ、と思いながらフェレットに聞く。
「次元震ってのは?」
嬉々として説明し始めるフェレットに、俺が解説キャラ認定をくだしたのは言うまでもない。
……あとで聞いた話だが、その爆発は、父の仕掛けたトラップにまんまと引っかかったアルフが、癇癪をおこして魔力を込めた拳で壁を打ち抜き、その魔力に、隠してあったジュエルシード3個が連鎖的に反応し、軽い次元震をひきおこすほどの魔力爆発を起こしたものだそうだ。フェイトもアルフもよく無事でいられたものだ。魔力が主に上下方向に向かって噴出したのと、バルディッシュが咄嗟に防御シールドを張ったおかげらしい。
そのあと、暴走する魔力に多少苦労しながらも、ジュエルシードを無事封印した2人は幸先のいいスタートに満足して帰ったそうだ。しかし、その爆発がアースラを呼び寄せる狼煙になったのは、彼らにも俺にも何とも皮肉なことだった。
■■後書き■■
原作では、なのははジュエルシードを、励起してはじめて見つけていましたが、フェイト達はどうやってみつけてたんでしょう。温泉にも来てたし。まあ、ある程度近づけば、魔力探知で見つけられた、ということかな、と解釈して、今回も廃ビルのジュエルシードを見つけてもらいました。ちなみに、この廃ビルは、とらは3でしばしば重要な舞台になるあの廃ビルです。