社会のテスト
ひかるくん「あかりー、もう大丈夫なのか?」
あかり「ひかる、おはよう。もうすっかり元気になったわ。」
ひかるくん「あの後、俺ん家とお前ん家の親が集まったんだ。
俺がお前に何かしたんじゃないかって責められて、
碁盤を売ろうとしたことつい喋っちゃってさ、
大目玉だぜ。当分お小遣いなしだって。
じーちゃんのお蔵も出入り禁止だってさ。」
あかり「自業自得よ。当然よね。」
ひかるくん「何だよ。俺、お前のこと本気で心配したんだぜ。」
ヒカル「なあ、あかり、碁盤にシミのようなアトが見えなかったか
聞いてくれないか。」
あかり「判ったわ。」
あかり「ひかる、碁盤にシミのついたアトみたいなの見えなかった?」
ひかるくん「シミ?そんなの全然なかったぜ。埃がついたまんまだと
高く売れないと思ったから、よくこすったんだけどな。」
ヒカルは動揺した。どういうことだろう。過去に戻ったと思われた
この世界に佐為はいないのだろうか。佐為を消してしまったヒカルに、
囲碁の神様が試練を与えたのだろうか。
あかり「シミって何なの?」
ヒカル「後で話すよ。それよりあの碁盤は、江戸時代の最強の碁打ちが
使ってた、すごいレアなお宝なんだ。タタリがあると怖いから
触らないように言っといて。烏帽子をかぶったお化けを、
見た人がいるって、昔じーちゃんが言ってた。」
「えー、お化けが出るの!」あかりは思わず声に出してしまった。
ひかるくん「な、なんだよ、急におどかすなよ。」
あかり「あ、あの碁盤のことなんだけどさ、烏帽子をかぶったお化けが
出るって平八じーちゃんが言ってたよ。タタリが怖いから
触らないほうがいいと思うよ。」
ひかるくん「じーちゃんも下手なこと言うよな。お化けなんて、いるわけ
ねーじゃん。でも、それだけ触ってほしくないっていうのは、
きっと大事な碁盤なんだろう?どうせお蔵は出入り禁止だし、
いいぜ。俺もう触ったりしない。」
あかり「うん、ありがとう。」
ヒカルはこの後、社会の抜き打ちテストがあることを話した。
あかり「あら、それは大変ね。」
ヒカル「ひかるの奴、お小遣い止められてるし、手助けしてやってよ。」
あかり「いいけど、どこが出そうなの?」
ヒカル「えーと、何とかっていう人がどこに来たんだったかなあ。」
あかり「頼りないわねえ、まあヒカルが覚えてるわけないか。たぶん
幕末の歴史ね。1833年頃天保の飢饉が起きたの。一揆と
打ちこわしが起きて、1837年に大阪の町奉行所の与力、
大塩平八郎が叛乱を起こしたの。平八っていったら、ヒカル
のおじーちゃんと一緒よね。」
ヒカル「詳しいなあ。」
あかり「だって授業で習ったばっかりだもん。浦賀でモリソン号事件、
中国でアヘン戦争が起きるわ。幕府そのものが傾いていって、
老中の水野忠邦が改革を試みたんだけど、反対する人が多くて
結局失敗するの。4隻の黒船を率いてペリー提督が来たのが
1853年、勝海舟がオランダに咸臨丸を造ってもらったのが
1860年よ。」
ヒカル「お前記憶力いいのに、どうして俺に教えてくれなかったんだ?」
あかり「だって、ひかるに教えても右の耳の穴から左の穴へ、全部
抜けちゃうじゃない。せっかく親切に勉強教えてあげたのに、
時間の無駄なんだもん。」
ヒカル「・・・そうだっけ?」
あかりは、口をとがらせた「もう、全然覚えてないわけ?」
あかりは歴史の教科書を開いて、ひかるくんにテストに出る場所を
教えたが、すぐ休み時間は終り、先生が来てしまった。
ひかるくんは、テストのことを早く教えなかったとあかりをなじり、
放課後そそくさと帰ってしまった。今日はジャンプの発売日なのだ。
ヒカル「あの様子じゃ、囲碁の道に引っ張り込むのは大変そうだぜ。
弱ったな。」
あかり「ねえ、囲碁って面白いの?」
ヒカル「面白いよ。難しいけど、命賭けで打つ人もいるほどなんだ。」
あかり「塔矢アキラって言う人は?」
ヒカル「すげえ真剣だぜ、バカって言葉が付くぐらい囲碁のことしか
考えてねえよ。」
あかり「ふーん、じゃあ早速会いに行ってみましょうか。」
ヒカル「待てよ。お前、囲碁のルール知らなかったよな?」
あかり「判んない。ヒカル、教えて。」
ヒカルは、基本的なルールと、碁石を打つ場所を指示する方法を伝えた。
あかり「やっぱり説明を聞くだけじゃ、判らないわ。」
あかりは通り道のミスドに入り、空いてる席に座った。
あかり「ヒカル、場所取っといてね。」
ヒカル「お前、無理言うなって。」
「もう、使えないわね。」あかりは、ノートを机の上に伏せた。
ヒカル「フレンチ◎◎とチョコ△△とスイート××パイって、お前、
もしかして俺の分まで注文したのか?俺、食べらんないんだぜ。」
あかり「判ってるわよ。1人で食べるの。」
ヒカル「よく食うな、太るぜ。」
あかり「余計なお世話よ、さっさと始めなさい。」
あかりはドーナツを片付けながら、ヒカルの説明を聞いてノートに
石を書いたり消したりした。
「グーッ!」不意に大きな音がした。
あかりは思わずお腹に手をやり周りを見回した。お腹の大きな音は、
幸い誰にも聞かれずにすんだようだ。不思議に思ったあかりは、
ヒカルが少し赤面していることに気がついた。
あかり「今のヒカルね?変な音出さないでよ!ビックリしちゃった。」
ヒカル「うー、だって○○ファッションは、俺の好物なんだぜ。
これから俺、お前が美味そうなもの食うたび、こんな我慢
しなくちゃいけないんだ。」
ピザ・チョコレート・すき焼きといった、江戸時代にない食べ物を、
ヒカルが美味しそうに食べると、佐為は興味のない振りをしていた。
そんな佐為の興味を引こうとして、ヒカルはチーズをうーんと長く
引き伸ばして見せたりした。佐為は、はしゃいで喜んでくれたが、
本心では、ヒカルと一緒に食べられない寂しさを感じていただろう。
ヒカルは心無い仕打ちをしたと反省した。
あかり「いつも、半分こしてあげるのに。やだ、ヒカル泣いてるの?」
ヒカル「泣いてなんかねーよ!ほら、続きやるぞ!」
あかりがドーナツを平らげる間、ヒカルのお腹はさらに2回も鳴った。
あかりは心底から同情した。あんまり美味しそうに食べるのは、
当分やめにしようと誓うのだった。しかし、美味しいものを食べると、
すぐに忘れてしまうあかりちゃんであった。