「さてさて、どんなのが出てくんのかねぇ」「わからない。でも、かなり反応が強くなってる。アルフが言ったとおり、もうすぐ『願い』が叶うよ」「―――フェイト!」犬モードのアルフが何かに気付いた。やはりその感覚器官は人のそれとは違いずば抜けている。ん、あれは……お出ましか、なのは。「フェイトちゃん!」「ディフェクトー! 今日こそ訳を話してもらうよ!」ユーノもね。「だぁからさっ! 全部終わったら返すって言ってんじゃんかよ!」「信じられるかーっ! 君、以前も学校で貸した教科書いつの間にか無くしてたじゃないか!」「だぁうるせー! それなら買って返したろ!? 大体お前だって俺の体操着(メイド服)無くしたじゃねぇか!?」「あ、アレは君のファンクラブとか言うのから強奪されたんだよっ!」「信じられっかそんなモン! そんなの見た事も聞いた事も無いわっ!!」「あいつ等はそういう風に棲息してるんだよ!!」「知らん! 俺はこの目で見てこの耳で聞いたものしか信じねぇ!! 俺の道は他人にどうこうされるもんじゃねぇんだよ!!」「君がそうやってちょいちょい熱いコト言うからあいつ等は仲間を増やすんじゃないか!? ―――ボクは君ともっと仲良くしたかった! それなのにあいつ等がっ!!」「俺だってそうさ! もっと仲良くしたかったよ!!」「ディフェクト……」「ユーノ……」俺達の関係、こんな感じ。10/~兄妹~俺とユーノの事はともかく、そろそろ発動するな。ここまで強くなるといくら俺でも感じることが出来る。もうちょっとユーノと話してたかったんだけど、ジュエルシードにはこっちの都合なんて関係ないよな。「ユーノ」「解ってる! 封時結界っ……展、開!!」ユーノが展開した封時結界。魔道師以外の時間を一時的に他空間に移送する魔法。さらには認識の疎外なども同時に起こり、かなりの上級魔法なんだ☆これは確実に半径500mは囲い込んでる。すげぇぜユーノ。やっぱお前こういうことに関しては なのはやフェイトの一歩も二歩も先んじている。お前もやっぱり天才だ。そして結界の展開と同時か、ばきばきばきぃ! と大木の幹が倒れたような音、さらにその音源を目視。「うわぁお、きんもちわりー」木の化物。それ以外に表現方法が無いくらいに木の化物だった。こんなの相手にしてらんね。フェイトとなのはに任せて逃げるべ。「逃げよーぜユーノ」「また……変わってないね君は。ボクにもサポートくらいなら―――」瞬間、化物が根っこで攻撃を仕掛けてきた。辺りの土を跳ね飛ばしながらこちらに向かってくる。バカみたいに真正面からの攻撃。俺は瞬時にフェレットユーノを引っつかみ、肩に乗せた。そのまま一気にしゃがみ込みグルンと横に回転するようにして根による攻撃をギリギリでやり過ごす。あぶねぇあぶねぇ! 顔面の真横をぶっとい根が通り過ぎていったぞ! あれはもう、あれだね。俺がカズマさんの戦闘スタイルをリスペクトしてなかったら絶対当たってたね。風を切りながら通り過ぎた根は、さらに反転し追撃を仕掛けてくるが、「―――やらせないっ!」ユーノの張った障壁に完全に阻まれた。変わってないな、ユーノも。これが学生時代からの俺達の戦闘スタイル。俺は攻撃、回避。ユーノは防御、索敵、補助。学生時代は負け知らずでしたとも。「逃げてユーノくん!!」「兄さんも早く!」ほらね。「な、やばかったろ? さっさと逃げようぜ。俺達の女神様もああ言ってる事だし」「……はぁ、わかったよ。ボク達ならあんなヤツ敵じゃないのに……」「あほう、疲れるだろ?」「まったく……そういうトコ直しなよ」「はいは~い」そう言って俺はそそくさとヤツの攻撃範囲外まで逃げた。冗談じゃねっ。あんなのわざわざ相手にしてられんわ。大体フェイトとなのはが倒してくれるの解ってんのにそんなことしてやるもんか。こちとら伊達に気分悪いわけじゃネェっての。「アークセイバー。いくよ、バルディッシュ」『――yes sir――』早々と飛翔した なのはと違い、いまだ地に足をつけているフェイトはバルディッシュをサイズフォームへと変形させた。ぐ……と足を大きく広げるスタンス。あ、あ…だめだよ、そんなにしたら見えちゃうよ!? 具が、具がぁぁぁああ!!「―――いけぇ!」俺のそんな思いはまったくと言っていいほどに反映されず、フェイトはぶぅんとデバイスを振りぬいた。フェイトのアークセイバーは先ほど俺を攻撃してきた太い根を軽々と切り裂き、その本体へと迫る。が、「―――なっ!?」パキィィンと耳障りな音を残して張られた障壁に、完全に阻まれた。しかも中々強力なようで、フェイトのアークセイバーが拮抗もせずに完全に砕け散るほど。何だよそれ~。そんなやつだったっけぇ? やべぇなぁ最近マジで覚えてないことが起こって来てる。ノートかなんかに書き留めとくべきだったかな。「……バリアつきかよ」「少し面倒だね。ボク達も行く?」「いやいや。まだ なのはが居るし」「……それでダメだったら?」「そん時は……頼んだぞユーノ」「補助魔法集中適正型のボクにどうしろと……。攻撃役がいないと僕なんて防御しか出来ないよ」何とかなるって。原作じゃ俺はもともと居ないんだから。ていうかお前も集中適正型かよ。今知ったぞ。いや予想はしてたけど。俺との相性が良すぎて困るんですけど。結婚しようか?ま、この程度の敵なら―――、「それなら私が!」そら来た。フェイトの攻撃が効かないとなると今度は なのは。すでにある種の連携のようなものが取れており、その姿はジュエルシードを奪い合っているようには見えない。腰だめにレイジングハートを構えた なのは は己のリンカーコアを通してデバイスに魔力を溜め始める。相変わらずの馬鹿魔力。勘弁してつかぁさい。なんですかそれは。俺に見せ付けてるわけですか。今度はこれをテメェの咽喉元にぶち込んでやるぜと、そう言ってるわけですね?「いくよ、レイジングハート! ―――ディバインッ!!」『――buster――』魔力の奔流。桃色の光が上空から化物へと迫り、バキィィイイン!!またもバリアに阻まれた。うお、アレを止めますか。すげーな化物。けどあんまり耐えると身体によくないよ。さっさとイっちゃって。「―――っく、まだ……まだぁ!!」さらに なのはの砲撃の威力が上がる。ただ込める魔力を増やしただけだが、しかし一瞬バリアが押されたのが見えた。そして、「―――貫け轟雷、『――thunder smasher――』―――い、っけぇ!!」この好機を見逃すようなフェイトではない。バリアが弱っていると見るやいなや追撃をかけた。サンダースマッシャー。その威力は なのはに負けず劣らず。かなりの魔力を練りこんでいる。バチバチと雷の破片を飛ばしながらバケモノに迫った。これは―――、「いったなこりゃ」二人の砲撃は完全に化物のバリアをぶち抜き、消滅させた。「すげぇなあの二人」「君にだって出来るさ。ただやらないだけ」「るせぇなあ。結果オーライってヤツだよ」「それよりアレ、止めなくていいの?」ジュエルシードが宙に浮き、さらになのはとフェイトも。確実に喧嘩の雰囲気……。ではなく、どちらの顔にも悲しそうな色が浮かんでいた。きっとどっちも、互いを傷付けたくない。そんな思いのはず。けど俺には止めるなんて無理です。巻き込まれたらいくら非殺傷でも死んじゃうよ? 竹刀でも頭部に百叩きを喰らったら死んじゃうでしょ? アレはその類だから。刃を潰した模造刀より殺傷力はあるよきっと。「お前が止めろよ」「ボクはもう、いいよ。なんかさ、君が関わってるとなると全部丸く収まっちゃいそうなんだもん」「そんな器量、俺はもってないよ」そして両者が加速した。お互いにデバイスを振りかぶり激突、しようとしたときにそれは来た。宙に光り輝く魔法陣。ちょうど両者の中間にそれは発生。アレは……転移魔法?ああ、そういやそうだ。来るのは解ってたけど、こういうタイミングで来るんだったね。「―――ストップだ、ここでの戦闘は危険すぎる! 時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。詳しい話を聞かせてもらおうか?」「……へ、えぇ!?」「―――っく!」「フェイト!」三者三様の反応。なのはは単純に驚き、フェイトは自分の不利を悟った。そしてアルフ。「―――逃げるよフェイト! いっけぇ!」ばちばちと帯電するように出現したのはフェイトの使い魔たる証。金色のスフィア。それは何の躊躇もなくクロノへと放たれた。しかしクロノには当たらない。全て最小の動きだけでよけきった。同時に地面が爆ぜ、小規模な爆発が起こる。管理局というのは全部あれなのか? 普通全部かわすか? ほんとバケモノ。デスサイズも半端なかったもんな。「ジュエルシードっ!」そんな中、フェイトは諦めなかった。母の望みであるジュエルシード。それを取ろうと必死になりすぎていた。だから気付かない―――、「フェイト!」俺は茂みから飛び出し、言った。しかしそれも遅すぎる。アイツはすでに……!ドキュキュキュ、とまるでマシンガンのような音と共に、クロノからの魔法。それはすでに放たれていた。それはギリギリでフェイトに―――被弾した。「―――くぁあっ!」「フェイトッ! くそっ! アルフ、頼む!!」「まかせなぁ!」アルフは地面に落ちる寸前のフェイトを銜え上げ一気に転移して行った。よくやったぞアルフ! お前はあとでたっぷりイイコイイコしてやる! フェイトもよく頑張った! お前も後でイイコイイコしてやる!腕から血が出てたからしっかり消毒しとくんだぞ! ばい菌入っちゃうからな。―――お兄ちゃんは、「あの、クソ野郎……っ。ユーノ、降りてろ」「……う、うん」お兄ちゃんはとりあえず、やつを殴ります。ちょっと予定変更ってやつだ。大丈夫。何とかなる……よね?「オイこら、そこなくそガキやぃ……」「あ、ディフェクト君」クロノはこちらを振り返り一言。「……? その顔……どうやら君も関係者のようだな。同行して貰うよ」あ? コイツ何言ってんの。死にたいのか。マジやっちゃうよ。プレシアに操られてたことにしてやっちゃうよ?(保身優先)というより俺。何でフェイトが怪我することを憶えてないんだ。馬鹿か俺は。最近幸せすぎて忘れてたのか脳? まったくやってられネェ。マジむかつくぜ。大体クロノ。なんだその顔は。フェイトの腕に傷負わせといて―――「人の、妹に、怪我させといて……っスカした顔してんじゃあ、ねぇえぞっ!! ―――シェルブリットォォオオオオ!!!」『了解。セカンドフォーム・展開します』バキィン!バキィン!バキィン!途端に地面が、木々が、海水が、物質の結合が解かれた。分解。稀少技能『精神感応性物質変換能力《アルター》』を全開にさせる。「―――!? これは、いったい何が!?」もう知らん。もう知らんぞお前。せっかく大人しく捕まってぺらぺらあることないこと喋ってやろうと思ってたのに!俺はさらに分解した物を再構成。または吸収。リンカーコアに純魔力があふれ出し、それを俺の色に染め上げる。ばしゅうぅと身体から煙でも出ているんじゃないかと思うほどの熱が俺を襲った。今までこれほどの物質変換を試したことは無い。―――かんけぇねぇ。身体のほうが持たないかもしれない。―――かんけぇねぇ。もしかしたらシェルがスリープモードに入るかもしれない。―――かんけぇ、ねぇ!「何をしている、やめろ! 僕は時空管理局執務―――」「―――かんけぇ、ねぇって……言ってんだよ!!」「な、なに!?」構築完了。黄金の右腕。背中のアクセルホイール。今までに無いほどの充実感だぞ、シェル。いける。いけるさ。アイツを、殴れる!フェイトに血を流させた。だから殴る。理由は十分だよね!アクセルホイール始動と共に足が地面から離れ、数センチだけ身体が浮く。びゅんびゅん背中で回るホイールの音量に負けないくらいの声で俺は言った。「肩書きなんざ名乗ってんじゃねぇ! テメェは誰だ!? 俺はディフェクトだ! テメェはフェイトに傷を負わせた! そのスカした顔も気にいらねぇ! だから殴る―――それ、だけ、だぁぁぁああ!」『――Acceleration――』「っ障壁!」今までに感じたことの無いバカ加速で俺は地面と水平に跳んだ。0か100か。それしかないのなら常に100だ。出し惜しみしてる暇は―――無い!一気に、その加速こそが力であるように距離を詰め、拳を障壁に叩きつけた。ばきぃぃぃい!と言う干渉音と干渉光。さらにはバチバチと小さく爆ぜるシェルブリット。はてさて何の陰謀か今の侵食率は63%要するに稼働率六割。今までに無い力が出せている。それなのにクロノの障壁は破れない。多少顔を歪めてはいるがまだまだ余力はありそうだ。「っぐぅ!! こ、の程度でやられるほど……執務官は、甘くない!」「しゃらくせぇ!!」『――Acceleration-Multilayer――』さらに背中で加速のための爆発。加速に加速を重ね障壁へと圧をかける。ぎ、とクロノの障壁が歪んだのが見えた。ぶっ壊す!!「やらせるものか! スナイプショットォ!!」「っ!?」ソレはぐるりとバリアを避けるようにして放たれた。障壁と同時展開された魔法が俺のシェルブリットに叩きつけられる。俺ではなく、シェルブリットへ。クロノは執務官。簡単にやられてくれるはずが無かった。予想だにしなかった障壁の内側からの攻撃。自分の障壁がもたないことを悟ってすかさず攻撃へと移った気転。管理局TUEEEEEEEEE!!「このクソったれがぁ! ぜってぇぶん殴る!」吹き飛ばされ、急速に地面が近くなるが、それも拳を叩きつけ、さらに回転することでGを殺した。スティンガースナイプによるダメージはほぼ皆無。シェルブリットで相殺させた。「いいから聞けっ! 僕は時空管理局の―――」「俺は、テメェの、肩書きを聞いてんじゃあ、ねぇんだよぉおお!!」『――Acceleration――』「このっ!」またも吶喊。当然障壁に阻まれる。―――それでもっ!「テメェの名前はなんだ! 時空管理局の御犬様かぁ!? ちげぇだろぅがあ!!」「―――僕は……っ僕は!」ばきぃん!と完全に障壁を打ち砕いた。拳が完全にクロノの顔を捉える―――! が、寸前、クロノのデバイスS2Uにまたも阻まれた。くそったれが。随分頑丈じゃねぇのS2U!っち、と舌打ちしながらも膝をクロノのわき腹に叩き込む。バリアジャケットが邪魔で当然ダメージなんて無いだろうが、それでも蹴りを入れる。だってムカツクし。しかしクロノも黙って蹴られるほどお人よしじゃないってこと。俺の膝が届く前に自分も膝を突き出してきた。わき腹からみしみし、と音が聞こえる。「ってぇなこのっ!」俺たちは互いのわき腹に蹴りを入れあい、また距離をとりあった。こいつ、マジで強い。明らかに戦いなれしてる。魔道師は普通けりなんか思いつかない。それこそヴォルケンリッターの様な騎士は使うだろうが。俺の場合、防御が紙なので自然に思いついた戦い方(とりあえず接近)だが、クロノは違う。確実に実戦を経験してる。もしくはそれに近い訓練を受けてる。ジンジンとわき腹が熱を持ってきた。あの野郎、おもっくそ膝入れやがって。俺にはバリアジャケットはねぇんだぞ。アバラが何本か逝ったかな? あとでユーノに治してもらおう。骨折は完全には治らないとか言ってたけどマシにはなるだろ。「はあ、はあ……いてぇぞちくしょうめ。なぁおい、ソッチはどぉよ時空管理局の犬さんよぉ?」「僕はっ……」これはただの挑発。これであいつの動きが鈍ってくれるならもうけもの。別に動きに関係なくとも時間を稼ぐにはちょうどいいんじゃないかね。ゆっくり息を整えながら正面を睨みつけた。かみ合う視線。しかし、それは合わせなければ良かったと後悔するような、そんな眼光が俺を貫いた。「……お?」あれ? ははっ、何だよお前……。おいおい、お前、「僕はっ! 僕はクロノ・ハラオウン! 僕の従事する管理局を馬鹿にするお前が気に入らない! ―――だから、叩き潰して……連行する!!」かっこいいじゃないの。フェイトを傷つけなかったら友達になれたのに。俺は誰とだって仲良くしたいのに。特に管理局とは。「っは、そうかいそうかい。俺はディフェクト・プロダクト。フェイトを傷つけてスカした顔したテメェが気にいらねぇ……。だからっ、ぶん殴るってっ、最初ッから言ってんだよ!!」俺は腰だめに拳を構えた。背後のアクセルホイールはまだかまだかと出番を待つように絶えず回転している。いつでも最高の一撃を放つことが出来る。クロノはS2Uを眼前に構え、完全迎撃体勢。ばちばちと光を放ちアイツの周りを周回しているスフィアはかなりの魔力を感じる。「―――真ん前から打ち砕く!」『――Acceleration――』「―――正面から撃ち貫く!」『――スティンガー・スナイプ――』俺は一気に加速した。躊躇してるようなヒマはない。いけるなら行く!同時にクロノから放たれるスフィア。避けるなんて出来ない。正面から、「ぐ、うぉおああああっ!!」「―――スナイプショットォォォオオオ!!」打ち砕く!!迫り来るスフィアは迎撃。または肩、右背面、右側頭部で受けきってみせる! 出来なきゃちょっと怪我するだけ!ずばばばばばばと、クロノによって操作されている魔力弾は雨のように降り注いだ。それでも前進はやめない。左腕が動かない。それがどうした。どっちにしろソッチの腕で防御なんてしねえ。勝手に被弾してろ。どうせ今は痛くも痒くもないんだ。的にくらいなれ。がつんがつんと衝撃を受けつつも前進前進前進!! クロノの正面に躍り出た。身体のいたるところに攻撃を喰らったあとがある。出血もそれなりにある。あんなもん全部迎撃なんて出来るわけねぇじゃん!だけどそれでも、「―――砕けっ!! シェルブリットォオ!!!」『―――fist explosion―――』「―――貫けS2Uっ!」『――ブレイク・インパルス――』俺の前に突き出されたデバイスS2U。ブレイクインパルスとフィストエクスプロージョン。攻撃と攻撃の干渉魔力は周囲に甚大な被害をもたらす。まるで地震の様なゆれが海鳴の一部で起こった。「―――ぐっ!! まだだS2U!! 僕の魔力、全部持っていけぇぇえ!!」「と、められると……思ってんのかぁぁああ!!!」やってやる!!奥歯に力を入れて脳の裏側でその希少技能は発動。バキィィン!バキィィン!バキィィン!バキィィン!『アルター』。その辺のベンチもついでに分解しちまえ! 全部、魔力に…っ!「まだまだぁ!!」「―――また、この現象はっ!?」ばしゃばしゃ、とさらにカートリッジ二発を消費した。とたんに右腕に湧き上がる異常魔力。ソレはシェルブリットの根を通して全身に駆け巡る。左腕が熱い。そんな気がする。「サードフォーム、展開!!」光の軌跡を残して、S2Uと拮抗している腕と手の甲に付いているジョイントが完全に開放された。そして魔力が廻る、廻る。「見せてやれ、お前の力を……シェルブリット!!」『―――仰せの・ままに』ぶらりと垂れた左腕。いつもの痛みはない。ちょっとだけ腕が重くなっただけ。ちょっとだけ指が動く気がするだけ。それでも、力が宿ってる。―――左腕に、力が入る気がする。「―――っこのぉ……!!」ばきぃ! とクロノのブレイクインパルスが俺の右腕をはじき返した。グルンと反動で腕が回る。肩がイテエ。拳もイテエ。しかもちょっと欠けてんぞ、シェル。頑丈がウリのお前が。そりゃそうだよな。俺単身の攻撃なんて通用するわきゃネェよな。でもさ、S2Uを突き出す形になっているクロノ。左足を前に出し、右足で踏ん張っていたクロノ。両手でもったデバイスを、完全に、突き切ったクロノ。お前、わき腹、開いてンぜ?テメェはいけすかねえ野郎だ。そうに決まってる。だから―――、「俺達の、『黄金』の左を―――」ソレは右腕と変わらない姿をしていた。シェルブリットサードフォーム。完全構築に時間がかかる為、今は左手の前腕しか覆ってはいないが、これでもバーストを放つには十分。くらえ。「―――もってイきやがれ」『―――もってイきやがれ』ずしり、とクロノのわき腹に拳を添えた。なんとも力のないことか。これなら猫キックのほうが痛いぞ。だけど、ここからだ。シェル、俺の左腕、お前に託す。『―――シェルブリット・バースト―――』―――ところでそれは起こった。みしぃ、と。いやな音が。シェルが覆っている両腕から。「い、ぎぃ、ってぇっ……」途端に崩れ落ちていく外皮装甲。ああ? 何だよシェルブリット。気合がたんねぇぞ。あと、ちょっとだったのに……。お前は、後で、おし、おき……だ……。ぷつ、と意識が落ちる。それはまるで旧式のテレビのようで。最後に見たのは目を見開いたクロノだった。