「俺だけは絶対に言わない。そう、決めてたんだ」目を覚ませば何処か知らない場所。ちょいと薬品のにおいがするから病室チックな所だと推定。はふぅ、と一つため息をついて起こしていた身体をまた倒す。「言わないよ? 誰がなんと言おうが」『……マスター』「お、何だ、スリープに入ってるのかと思ってたぞ」『ギリギリで・大丈夫・でした。マスターを・昏倒させた・甲斐がある・というもの・です』「お前のせいかよ……」お前……。俺のデバイスのくせに主の気をプッツンさせるとは中々やってくれるじゃないか。もうここまで反抗されるといっそ気持ちいいよ。もうどうにもなんね、このデバイス。『それより・マスター』「んだよ。俺は今、お前をどうやって調教してやろうか考えてんだよ?」『知らない・天井・でしたね……ふふ』「……俺が結構な決意を込めて言わないって言ってたの聞いてたよね?」『知らんし』「……さいですか」コイツそろそろホントにどげんかせんといかん。M県じゃないけど本当に、どげんかせんといかん。「―――お前マジぶっ殺すぞ!!」『マジギレ乙w』11/~時空管理局~「んで俺はいったいどのくらい寝てた?」『イエス。マスターは・約七時間・寝ていたことに・なります。意外と早く・目が・覚めましたね』「たったそれだけ? 何か俺一週間は寝続けたみたいに身体が快調なんですけど」そうなのだ。身体が軽いのだ。なんていうかね、やたらと動きたい感じ。今なら50mを魔法無しで6秒切れる気がする。いやまぁ無理だろうけど。『それは……』……。それは何だよ。こえぇよ。さっさと言えよ。みノもん太ばりのジラースか……。「そ、それは…?」意を決して聞いた。別に今すぐ死とかそんなんじゃないならいいから早く言ってよ。心臓がもたんって。『それは……、所謂・勘違い・ですね。マスターの・身体は・相変わらず・ボロボロ・ですよ?』「……なんじゃそりゃ? ンじゃなんでこんなに身体が軽いの? 俺 多分今ならクロノ殴れるよ?」マジそのくらいイけそうな感じ。戦闘開始5秒で決める事が出来そうなくらいにハッスルしてる。かなりの全能感なんですけど?『それは・脳の・病気では・ありませんか?』「あなたは本当に僕のデバイスですか? ……もういいや、適当にその辺散策しよう。どうせここアースラなんだろ?」『ジッとしておけば・向こうから・来て・くれますよ』「だろうけどね。見てみたいじゃん、宇宙船」『宇宙船では・ありません。時空航行艦・です』はいはいと生返事をし、俺は身体を起こす。その際に点滴の針がずれたのがちょっと痛かった。「いてて……。魔法なんて便利なモンがあるのにこの辺はかわらねぇってのも変な話だな」『マ、マスター。私は・すごく・眠いです。誰か・来るまで・寝ていませんか?』「あぁ? 勝手に寝てろよ。てかお前デバイスのくせに眠いとか舐めてんですか?」『では・憶えてシリトリを・しましょう。私は・強いですよ?』「はいはい、AI相手に勝てる人間がいるなら知りたいですね。お前の容量なんか知らねえけど負けがわかってる勝負はしたくないの。特にお前相手になんか負けたくないの」『それなら……』なんなんだよシェル。お前まさか俺を心配してんのか? おいおいやめてくれよ、涙出てきたじゃんかよ。超嬉しいんだけど。ああ、そういえばシェルがまともに心配してくれてるなんてスゴイよな……。こいつホントにギリギリにならなきゃ本音を出さないツンデレデバイスだし。って事は俺って意外とやばいんじゃね?……まぁ、大丈夫か。シェルが居るし。「大丈夫だって、そんなに心配すんな。俺は物語の最後はハッピーエンドじゃないと許せない派だからさ、なんとしても生き残るから」『……イエス』俺はベッドから足を下ろし立ち上がった。邪魔な点滴の針を無造作に引き抜き、ぐっ…と背伸び。クビをぽきぽき鳴らす。ん~、ホント気持ちい。かなり最高な目覚めですよこれ。一年に一度あるか無いか位の目覚めですよー。「……?」おやおや?このセクハラが目的みたいな患者服は気に入らないけど、まぁ……オッケ。裸足も気に入らないけど、まぁこれも許そう。しかし、しかししかし、「……シェルブリットさん?」『イ、イエス・マスター』「なんか、おかしいよね?」『な、なななにが・でしょうか?』「これ……増えてね?」『き、きっと・視覚情報の・異常です』そうか、俺の脳みそは視覚情報をうまく処理仕切れてないのか……。そっか、そうだよね。じゃないと左手首にもシェルがいるなんて、そんなこと起こる筈ないもんね。「……そうだよね。うん、納得。増えるなんて、そんなね……あるわきゃねーよね。うんうん」『イエス。マスターの・頭は・蟲が湧いているに・違いありません』「そうそう俺の頭がいくら良かろうが視覚情報がきちんと伝達されてないんじゃ仕方ないよなははははは☆」『HAHAHA☆』「……」『HAHAHA☆』「……」『HAHAHA☆』「……」……。………。…………。「……で?」『すみません。ちょっと・調子に・乗りました』で、シェルが言うには、これは右手首に付いているようなデバイスコアではないらしい。なんでも『セットアップの・補助をする・ための・装置です』だそうだ。まず俺の身体を刺青のように駆け巡っている侵食線(俺が勝手にそう呼んでる)だが、『シェルブリット』をセットアップ状態にするにはこの侵食線から極小の根を出す事から始まる。それは俺の魔力を、分解物質を吸収し、集まり、重なり、絡まり、幾重にも折りたたまれることで『シェルブリット』となる。結局の所『精神感応性物質変換能力《アルター》』は『分解』を使うのが俺で、その分解物質を『再構成』するのはシェルなわけだ。いや、構築のときに何もしないわけじゃないよ? ちゃんとシェルが持って行きやすいように純魔力に還元して送り出してやってるんだから。んで、どうにもデバイスコアからの距離、要するに右の手首から離れた場所にある根は動きが緩慢になるらしい。セットアップに時間がかかるのだ。だから間に合わなかった。クロノ殴るのに。俺は、前腕だけでも覆っていればいけるべ! と思い『burst explosion+』を使おうとしたのだが、シェルは気付いた。このままいったら腕吹き飛ぶんじゃね? やべやべプッツン、と……。シェルはその自分の力を十分に発揮できない状況に腹が立ったらしく、主の判断なんて何のその。独断でサポートコアを作成。作った後でやっちまったぜと後悔。はてさてどうするか……。マスターは馬鹿だから誤魔化せば何とかなるか。との思考の上で先ほどのやり取り。「……ていうかお前ね、常識ハズレにも程があるんじゃない?」『この位・巷では・普通です』「嘘ついてんじゃネェよ。大体巷って何処だ。サポートコアなんてのがあるならさっさと出してろっての」『申し訳・有りません。マスターの・身体に・負担が・かかるかと・思いまして』「そうなのかぁ? 俺はむしろ全然快調なんだけど?」『……それは―――』と、若干マジな話になりかけたときに、そいつは来た。「入るよ」ノックも無しにがっつりと進入。入るよ、だ? 入っていいかじゃなくて入るよてお前……。まぁ別にいいけど。もちろん現れたのはいっつもむっつり顔のクロノ君。「んだよ、ノックくらいしてもいいんじゃない?」「それはすまなかった。まだ寝ているかと思ってた」むっつりとしたままクロノは答えた。服装はいつものバリアジャケット。相変わらずかっこいいぜ。なんなんだこのカッコよさは。お前とはいい『友達』になれそうだぜ。だからとりあえず殴らせろ。フェイトの腕の分を支払え。「とりあえずさ、殴らせてよ」「断る。痛そうだ」「っけ、根性無しめ……ちゃんとキンタマ付いてンのか?」「二つほどな。っ、そんなことはどうでもいい。公務執行妨害に付いて、何か申し開きは有るか?」ちょ、クロノw何だよお前。原作通り仕事人間だねぇ。そんなんじゃ身体がもちませんよ? それとその上から目線やめろ。多少むかつくから。いや結構むかつくから。「そんなことは知りません。僕は妹が怪我させられたので怒っただけです。公務執行妨害とか知らんとです」「……残念だけど、そうは行かない。僕はクロノ・ハラオウン。時空管理局の執務官だからな」……お?何だお前、やっぱりかっこいいじゃないか。むかつくけどかっこいいなお前。いったいどうなんだお前。ムカかっこいいとか新しいジャンルを開拓する気か? そうなのか。「……だけど、とりあえず訳を聞かせてもらおう。ジュエルシードは危険な物だって事くらい分かってるんだろう?」「まぁね。だけどそれが無くちゃ俺は死んじゃうンじゃないかと思ってたわけでして」「……身体のことか?」「おう。寝てる間に検査くらいやってくれたんじゃないの?」何かいろいろ装置っぽいものがそこらじゅうにあるしね。腕には点滴が刺さってるくらいだ。体の事は知られただろうね。クロノのばつの悪そうな顔を見るだけでも分かる。お前はもうちょっと顔に出さない訓練をしたほうがいいな。「……正直に言うと、もう、その……なんだ」「いいって。別に今更だし。もたないっぽいんだろ?」「……」「言えよ。大丈夫だから」「……あと、ひと月もたないそうだ。医療局員が言っていた。なんでも内臓の機能がガタ落ちらしい」「やっぱりね~……。まぁ今からひと月もてば何とかなるかね。うんうん。若干の余裕すら感じるな」原作での時の庭園突入はもうそろそろだったよね。フェイトとなのはが戦って、武装局員がかませ犬になって、んでクロノ達突入、みたいな流れだったはず。「どういうことだ? 今の君の身体の何処に余裕を感じるところがある?」「ん~? まぁ、全部が終わるときに間に合うかなってこと」「要領を得ない。つまりなんだ?」「つまりだねクロノ君……オメェさん、プレシア・テスタロッサって知ってるか?」……ってことなんだよー。「―――っち、そんな研究が行われていたのか。いくら広大な次元空間といっても気付きもしないなんて……」「まぁそんなに気に病むことはないさぁ」俺は話した。もう全部話してやった。嘘ついたとこもあるけど大分真実に近い感じ。プレシアの事。アリシアの事。フェイトの事。俺の事。ジュエルシード。復活。アルハザード。次元震。「いくら娘が死んだからって……」「いやぁ娘が死んだらそのくらい考えるんじゃない?」そういうとクロノは目を見開いた。シンジランナイ!とその目が語っている。「君は……プレシア・テスタロッサが憎くないのか?」「憎いよそりゃ。でも同情の余地は有るんじゃない? 俺はアイツのおかげでこうして存在してるんだし。 フェイトにひどい仕打ちをしてるのは確かにムカツク。それに対してフェイトが何の疑問を持ってないのにも腹が立つ。むしろ悦んでないかが心配だ。けどさ、もし俺が大事な人を亡くして、尚且つソレを復活させる手立てを知っているとしたら? そりゃ迷わず復活に賭けるだろうな。たとえばフェイトが何かの間違いで死んだら俺は何が何でも復活させると思うよ。ソレこそロストロギアを使ってでもして。 だって、大切な人が死んだら世界は色あせるだろ? いやいや、外じゃなくて内側な。心の部分が。そうすると意味がなくなっちゃうんだよね、世界に。それこそ外側も含めて。プレシアはすっげぇ科学者然としてるから宗教にも嵌れなかったんじゃないかな。かく言う俺も死後の世界なんて信じちゃいないんだけど。だってリアリティねぇだろ? 死んだら三途の川渡るなんて信じられっか? ってそっか、お前らは三途の川なんてしらねーよな。 ま、とにかくだ、俺が思うに死後の世界なんて死に掛けてるヤツを安心させるために考えられたもんなんだよ。生きてる人間が考えてるのになんで『死後』の世界なんだろーね。不思議でたまらん。 こんな風な人間にはね、神様が信じられないんだよ。だから自分で何とかしようとする。何とかならなくっても何とかする。普通死者蘇生なんて考えるか? 考えねーよな。俺にはまず考えられんよ。しかもクローンを作って記憶の転写とか……すげーよ。プレシアの世界はどれだけ色あせてんのかね。カラッカラなんじゃね? そこんとこ考えるとね、どうにも憎みきれないってか、むしろ哀れになってくるね。もうアイタタターって感じ。薬でもキメさせて死後の世界を信じさせてやってもいいよ。死にかけてるときは『お母さん』って呼んでやってもいいくらい」はてさて初公開。わたくしディフェクト・プロダクトプレシアに対して思っていることでござんす。言い終わるとクロノは何ともいえない微妙な顔をした。まぁコイツも親父さん亡くしてるんだし、何か思うところがあるのかもしれない。「君は……、いや、何でもない」「んだよ、言えって。ちょっとクサイこと言って恥ずかしいんだからお前も乗っかれよ」「っふ、いやなに、とても九歳には思えないな、と。僕が君の立場だったらきっと自分の運命を呪ってただろうからね。そう思うと君は随分強いな」「ま、そこが俺クオリティってヤツさ。運命なんてぶち壊す。俺の……俺達の自慢の拳でな、シェル」『楽勝・です』「……妙なヤツだ」まぁね。存在自体 妙なもんだし。「んで、俺はこれからどうなっちゃうわけ?」「それは僕が決めることじゃないから何とも言えないんだが……。 まず申請無しで『地球』に来たこと。これは次元空間跳躍法に抵触するな。……しかしなんだ、転移魔法というものがある時点で全てを防ぐのは無理なんだ。まぁ未成年の飲酒喫煙程度に考えていい。幸いにして君は一般人に魔法を見られていないようだしね。見つかってたら大変だが……ギリギリセーフってとこか。なんと言っても『地球』にはジュエルシードがあるわけだしな、その辺りも大目に見られる可能性もある。 二つ目は公務執行妨害。僕がフェイト・テスタロッサを『保護』しようとしたのを邪魔した件だが……これもさっきの話を聞けば情状酌量の余地あり、だ。死に掛けの身体で、母親に騙されてる妹の為に頑張りました、なんて聞かされて重い罰を科せられるようなヤツは中々いないだろうね。 そして何よりも君の情報にはかなりの価値がある。プレシアのやっていることは倫理的にも人道的にも法律的にも禁止されている行為だ。それらの情報をこちらに渡した時点で、もう君には管理局から礼を言っていいほどだろう。 以上を踏まえた上で…まぁ十中八九無罪だろう。……君の話が真実なら、ね」「なかば信じてるくせにそういうこと言うなよ。友達なくすぞ?」「余計なお世話だ。艦長に報告してくるから君は寝てろ」「艦内の散策はOK?」「死にたいのか? じっとしていろ」「……あいあ~い、りょーっかい」なんちゃって返事でクロノを追い払い、そして僕は寝るのです。「と見せかけて散策してるわけだが」『お得意の・口八丁が・出ましたね。私も・じっと・しておいたほうが・いいと・思うのですが』「眠くないのに寝てろと言われても寝れるもんじゃないだろ?」そんなわけで散策だよ。ていうか俺一応犯罪者扱いなのに鍵もしてないんだもん。そりゃ出てくに決まってんだろ。「なのはとユーノはいないのかなぁ……」『先ほどの・執務官に・帰らされて・いました。また後日・来る・との事です。あの二人は・管理局に・協力・するそうですよ?』「へぇ~」だろうね。原作でもそうだったんだし。ッていうかそうしてくれないと困る。ここに来て原作から外れると非っ常に困る。『マスターは・どうなさる・つもり・ですか?』「そりゃお前、プレシアんとこ行って死亡フラグの除去だよ」『フェイト様と・あの犬コロは・どうなさるのですか?』「―――あれっ!? お前アルフの事が嫌いなんて設定あったっけ!?」『言ってみただけです。それで・どう・されるのですか?』焦らせるんじゃないよまったく。ちょっとびびったじゃないか。「ん、まぁ俺らがどうしようと管理局が本腰入れたら捕まるよ。出来ることならサラッと捕まって欲しいな。ジュエルシードをこちら側が確保したままでプレシアのとこに行きたい」『捕まっても・良いの・ですか?』「良いも何もそうならないと『物語』が前に進まないじゃん」『……マスターは・時々・まるで未来でも・見えているような・発言や・行動を・しますね』まぁね。『見えてる』わけじゃないけど『見ていた』わけだし。そりゃそんな発言が多くなるのは仕方ない。別に気を付けてる訳でもないし、ぽろッと出てるんだろうね。無印が終わったらシェルになら話してやっても良いな。「……ま、ちょっと待っとけ。お前にだけはそのうち全部話すから」『イエス・マスター』「腹減ったよ。何か食いに行こうぜ。食堂はどっちだ?」『確か・そこを左に・曲がった所に―――』。。。。。「―――そう。プレシア・テスタロッサ……」「はい。ディフェクト・プロダクトからの情報が間違いないならプレシア・テスタロッサは大規模次元震を引き起こす可能性があります。即刻何らかの対処を取るべきかと」「……娘の復活、かぁ」そう言ってリンディはオチャ☆に手を伸ばした。息子の眉がピクリと動いたのを見たが気にしない。彼女はこれが好きなのだ。「ディフェクト・プロダクトの話によるとジュエルシードの力を使ってアルハザードに跳躍するつもりのようです。在りもしないところにどうやっていくのか。おそらく既にプレシアは……」狂っている。そうなのだろう。そうでもしないと考え付かない。「それで、そのディフェクト君の話の信憑性は?」「学生時代の調書は殆んどアテにならないようなヤツです。高町なのはやユーノ・スクライアのように艦長自ら会って話すのが一番いいと思います。……まぁ、それでも僕は信じるに足る人物だとは思っていますが」「あら、珍しいわね。クロノがそんなこと言うなんて」「……おかしいですか?」今度はリンディの眉が上がる番だった。クロノは常に職務に忠実だ。過ぎるほどに。そのおかげで話す相手や付き合う相手に余計な誤解を与えることが多い。どうにも冷たい印象を与えてしまうらしい。だからクロノの部下は忠実ですばらしい。だが友達が……。中々うまくいかないものだ。リンディ自身から見ればかわいい息子である為(親バカ)、最近になってようやく気付いた様な事なのだが(親馬鹿)、そんなクロノが多少なりとも『他人』に自ら近付いていることが驚きなのだ。「いいえ、そんな事ないわ。とても良いことだと思う」時空管理局執務官。立派な肩書きだ。しかし十四歳に背負わせるのはいささか心苦しい。息子となれば尚更に。まだ、子どもなのだ。なのはも、ユーノも、ディフェクトも。「……まぁ、一度会ってみてください。医務室に居ますから」そう言ってクロノがすい、と右手を上げた。するとその空間に半透明のパネルが浮かび、それを片手で操作し始める。呼び出すのは医務室の映像。もちろんそこには、「―――どこにいった……アイツ」ディフェクトは居ない。からっと蛻だ。要するにもぬけのからだ。「あら……こっちじゃない? ほら、ここ」何かに気付いたリンディが画面の端をさした。食堂。ディフェクトが居ていい場所ではないのだが、そこにはもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐと何かを頬張っているディフェクト。とても美味しそうに、かつ大量に。まさか一人で食べたのか? とリンディの眉根が寄る。「―――おい、ディフェクト・プロダクト! 何をやっているんだ! 寝ていろと言ったろう!?」『うぉお!? むご、っんふ! ごふ、ごふ…何だお前いきなり! 咽喉が詰まって死亡とか洒落にならない死因になるとこだったぞ!!』「何を言ってる! まったく……僕が行くまでそこでじっとしていろよ」『んだよぅ、宇宙船の見学くらいやってもいいじゃんかよ』「……いいから、艦長と、僕が、今からそっちに行く。いいか? じっとしているんだぞ」『へいへ~い。あ、それとクロノ』「なんだ?」『これ、お前のツケにしといたから。ふひひ』「きさま…」その後ギャーギャーと歳相応に言い合いをした後にぷつんとクロノが映像を切った。若干疲れてる感が何とも言えない。こんな風にクロノと話す子は今のところエイミィくらいしか思い浮かばない。意外といいコンビになるのではないだろうか。そういえば最近は仕事の話ばかりで親子の会話がなかったように感じる。うんうんと自分で納得し、リンディは思い切って、「うふふ。良い子そうじゃない。どう、友達になれそう?」クロノの顔に浮かぶのは、予想に反して苦渋。「あら、どうしたの? 結構いいコンビに見えたけど?」「―――後ひと月もしないうちに死ぬって言われてるヤツと友達になっても辛いだけだよ、母さん……」。。。。。「はじめまして。リンディ・ハラオウンです」「ディ、ディフェクト・プロダクトです」食堂に艦長、執務官、容疑者。なにこれ?周りに人っ子一人いないんですけど。「え、え~と……俺、知ってることはもう全部クロノに話したけど?」「ええ、そうみたいね。私はただあなたと話してみたいなぁって思っただけよ」いやいやアンタ、そんな顔してないじゃん。何か怒ってる風な顔してるじゃん。なんだ、なにを怒っている。アレか。犯罪者ごときがウチのクロノとちょっとでも仲良くしたらお母さん許しませんよとかそのタイプの母親かお前。おいリンディ。どうなんだリンディ?てゆうか助けてクロノ。俺の視線に気付け。この助けてビームをきちんと受け取ってくれ。届け、届け……っ。「艦長、それではディフェクトも話しづらいんじゃないですか……?」TO☆DO☆I☆TA!!「ああそうね、ごめんなさい。それでディフェクト君。あなた、ジュエルシードを集めてるのよね?」「いや、集めてるっていうか集めてた、かな。俺はもう必要じゃないし」変わってねーよ。助けてよホントに。クロノ、どうにかしてくれ。お前の母ちゃん超こええよ。「それは、なんでかしら?」「……あの、クロノから聞いてません? ってかクロノ、お前はいったい何を報告しに行ったんだ。ただ駄弁ってただけか?」「僕のせいにするな。報告はちゃんとしている」じゃあ何でまた聞いて来るんだよ。アレか、何回か最初から聞いてこっちがボロを出すのを待ってるとかその辺りか。「まぁ、まず集めてた理由なんですけど……それは生き残りたいからだったんです。でもそれが効かないからもう必要じゃなくなった。だからジュエルシードを集めてるフェイトに協力してただけですよ」「フェイトと言うとあなたの妹さんね。彼女の事は……その、生まれたときから知っているの?」「ええまぁ(嘘)。俺の先に創られたのか後に創られたのかはわかりませんけど。俺は即行で廃棄処分だったんで逃げてきました。その後はミッドで暮らしてましたし……だからフェイトとまともに会ったのは『地球』が初めてですね」「……そう」リンディさんは悲しそうに目を瞑った。怒ったり悲しんだり忙しい人だ。てか若いな。どうなってんだリリカルワールド。皆どのくらい寿命あるんだろ? いや、どっかの戦闘民族みたいに若い期間が長いのか?「あなた、後ひと月で死んじゃうって……聞いてるわよね?」「聞いてますよ? それがどうかしたんですか?」「……何か、したい事や欲しい物なんてないの?」「ん~……まぁその辺は生き残ってから考えればいいんじゃないですか?」「……」「……」「……」沈黙。なんなんだよだから。何が言いたいんだ結局。クロノ何とかしろ。お前の母ちゃんもしかしたらボケが始まってるのかもしれないぞ。「君は、死ぬんだぞ?」「……? だから後ひと月はもつんだろ?」「それはそうだが……それでどうなる?」「プレシアのとこ行って、調整用プラントの奪取か、研究データを盗むか。それだけでかなり寿命は延びると思うけど?」「……」「……」「……」「「―――そ の て が あ っ た か !!!!!」」え、なに本気で言ってるの?クロノくん、俺言ってなかったっけ? 君の報告書はどうなってるの? その前に君の頭はどうなってるの? 大体リンディさんは何でキレてたの?何はともあれとりあえず……。「シェル」『この・ブタども・が!』。。。。。「はぁあああっ! 食った食った! もう入らんぞ。甘い物を見ても別腹が出来る余地なし!」そのくらい食べました。お粥を。いや、意外とうまかったわ。米を使う料理だからもしかしたらないかと思ってたんだけど。リンディが日本贔屓で良かった。まぁお茶に砂糖は無いけど。「にしても結構広いんだなぁ、アースラって」時空航行艦アースラ。散策してるわけですけど結構広いんですよ。何かトレーニングルームやらシミュレーションルームやらレストルームやら色々あるし。充実してる。金あるねー、時空管理局。ちょっと分けろ。「うーん……管理局に入ったら将来安泰ってのは意外と嘘でもなんでもないのかもしれん。俺も……、いやいや待て。その分危険がついて来るんだ。機動六課なんてすごかったじゃないか。あんな戦闘ばっかやってられませんよね。うん、やめとこ。俺はテキトーに適当な職場でせこせこ働くのが性にあってる」実際そうだったしね。まさか就職一年目にしてこんな事になるなんて思ってもみませんでしたが。『マスター』「お、どした。お粥はエネルギーになりませんなんて言ったら叩き壊すよ?」『……では・いいです。なんでも・ありません』「……そっか。エネルギーにはならないんだね、お粥。はは……」お前の為にもと思ってあんなに食べたのに。俺は所詮ピエロか。ピエロなのか。『な、ならない訳では・ありません。しかし・あんなに・炭水化物ばかりとられても・マス、ター、の・、の、、―、ッ―――マスターの成長の方に問題が発生するよ?』「……そう、だな。今度からは気をつけるよ」『うん。あとね、お野菜もいっぱい食べなきゃダ―――、……メだと・母に・言われています。……母?』「ぷっ。何言ってんだよ。寝ぼけてんのか?」『も、もうしわけ・ありません。何か・記録のほうに・問題が・あるようです。戦闘には・支障・ありません。ご安心を』「……ああ。頼りにしてるよ、シェルブリット」……シェル、ホントに寝ぼけてるな。侵食率が最近馬鹿みたいに進んだからか。そろそろかもしれん。そろそろ、俺が射撃を使えるかもしれん!!そうだよそうだよ。システルさんも言ってたじゃん。『シェルの方はね、忘れちゃってるの。術式を』って。思い出したらつかえるって言ってたモンね。くくくく。この拳で戦うスタイルともお別れか。確かにカズマさんはリス(ryしてるが流石に実際に痛いとなるとね、逃げるでしょそりゃ。俺、これからはガンガン撃って行きますんで、そこんとこ豫櫓匙琥!あ、ふるい? ふるいすか、そーすか。あとシェルも気になるね。もうちょっとだけこの身体がもってくれれば全部解消だ。そりゃもうぜーんぶマルッとね!だけどif俺が死んじゃったら後の事よろしくね、シェル。皆を泣かすんじゃないぞ。うまくやれよ。