初めて会ったとき、彼女は悲しい目をした女の子だった。だから、何でそんな目をしているのか聞きたかった。話をしたかった。二度目に会ったとき、彼女の赤い瞳に睨まれた。なんで? どうして? ただ訳を知りたくて、どうしてジュエルシードを集めるの?三度目に会ったとき、彼女に話なんか意味は無いと言われた。言葉だけじゃ何も変わらない。そう、言われた。悩んだ。そんな事ない。声を大にしてそう言いたかった。……でも、本当に? 本当にそんな事、無い?四度目に会ったとき、彼女にそのことを伝えたかった。いっぱい悩んだ。丸々一日、学校すら休んでそのことを考えた。答えは出た。今なら言えるよ? 言葉だけじゃ、話だけじゃ何も変わらない。でも、言葉にしないと、話をしないとわからない事だって、伝わらない事だって、たくさんあるんだよ? 結局言えずに邂逅は終わる。そして今、目の前に彼女がいた。伝えたい、今の気持ちを。私は貴女と友達になりたい。なのに、なんで、「―――なんで、邪魔するのっ!? 」「ウチのご主人様はそれを御所望なんでねぇっ!!」ばちぃ、と干渉光が弾けた。なのはが展開したバリアに拳が叩き付けられる。接近戦を得意とする使い魔。今までの戦闘やジュエルシードの封印を射撃や砲撃だけで凌いできた なのはには初めてと言ってもいい相手。正直な所、かなり厳しい。焦る。気合とでも言えばいいのか、今のアルフからはすさまじいほどに威圧感が出ている。受けるプレッシャーが違った。「バリア、ッブレイクゥ!!」アルフの右手に金色の魔力光が溜まったかと思うと、それは なのはが張っているバリアに進入し構造を解析。なのは自身が気付かないような小さな小さなほころびを見つけ、一息に魔力の結合を紐解いた。それなりに自信のあるバリア強度だったのだが、簡単に崩されてしまう。「―――っくぅ!」「待ちなぁ!」なのははバリアが崩される瞬間に離脱。先ほどからこの追いかけっこのような一進一退を繰り返している。今の なのはの実力では……どうであろうか。勝てるかもしれない。負けるかもしれない。わからない。つい最近になって手にした魔法の力。どうなのだろうか。自分は強い? それとも弱い? わからないのだ、なのはには。しかし今はそんなこと、とてもとても些細なことで、(私はただ、全力で……)視界の隅にアルフを捕らえながらデバイスを構えた。「『――Divine――』シューット!!」なのはから放たれたスフィアはまるで一つ一つが意志を持っているかのような軌道でアルフへと迫る。単純に考えて逃げ場が無いような攻撃といえばこれしか思いつかなかったのだ。それなりに魔力を込めたスフィアを意識下で制御。アルフの前面、背面、上下、計七発のディバインシューター。当然それはどうあっても避ける事は不可能。ちょっとでも隙が出来れば、「―――っえ!?」しかしそれを無視してアルフは突撃を。そう、スフィアのことなど目に映っていないかのように。動揺が走ると同時にスフィアは目標に触れ中規模な爆発を起こした。なのは はもうもうと立ち込める魔力の残滓に中てられながら一度だけ生唾を飲み込む。「た、倒しちゃった……のかな?」思えば、それは油断だった。「―――んなわけぇ、ないだろ!!」瞬間、煙の中からアルフが現れたのだ。身体に数箇所の焦げ跡があるが本人はまったく気にしていない様子。びゅん、と顔面すれすれを通った拳には魔力が光っている。確実に身体強化、もしくはその部位だけを強化していであろうその拳は、バリアジャケットに覆われていない部分に当たれば一度目のように吹き飛んでいくだけではすまない。「この、ちょこまかウザったいヤツだね!」牙をむいて迫ってくるアルフはただ恐ろしかった。「レイジングハート、お願い!」『――protection――』これでは駄目だ。またもバリアブレイクを喰らっての逃走。何度繰り返しているのか。ただ話をしたい。それだけなのに。ちらりと頭に『負け』の二文字がよぎる。それはいい。別に勝ちたくて戦っているわけではない。しかし、何も伝えることが出来ないまま堕ちるのはイヤだ。(いやだよ。伝えたいよ……フェイトちゃん!)なのははまたも距離をとりレイジングハートを強く握り締めた。インテリジェントデバイス・レイジングハート。祈祷型のデバイス。それは主にとっての最良の選択をする。今の状況を読み、主の心理状態を読み取り、今、ここで出来ること。(―――伝えてやろうよ、なのは。ボクたちなら出来るさ)それはただの念話。しかし、なのはにとって心の底から居てよかったと思えるような、最良の選択だった。13/~スターライトブレイカー~「はぁ、はぁっ」荒い息をつき、フェイトは薄く瞳を閉じた。(……強い)戦闘が始まって、ただの一度もまともに当てる事が出来ない。スピードはもちろんフェイトのほうが速い。魔力の総量もきっと多い。クロノの一撃の大きさは なのはと比べれば下回る。なのに、何故か倒せない。ちっ、と一度だけの舌打ち。答えはすぐに見つかるのだ。戦い方が巧い。それだけ。先を見据えての行動。こう動けば次はこう捌く。一定の距離を保つ。攻めさせない為の攻撃。そして、休ませない為の、牽制。「っく!」クロノから放たれ、ガムが伸びるかの様に姿を変えて迫るのはスナイプショット。速度の無いそれはもちろんフェイトには掠りもしないし、さほど魔力を込められていないようにも見えるのでたいしたダメージにもならないだろう。だが、それでも一度当たれば隙が出来る。隙が出来れば怒涛の勢いで山のように雨のように追撃を仕掛けられることは分かりきっていた。宙を駆けてかわしきれば、視線の先のクロノがにやりと笑っていた。伸びきったスフィア(?)をまた自分の周囲に戻し、またもデバイスをくるりと一回転。「そろそろお疲れかな?」「……うるさい」獲物を確実に弱らせ、確実に仕留める。相対する瞳が物語っていた。そろそろか、と。もう満足したか、と。その視線に腸が煮え繰り返るのを感じるも、そんなわけが無いだろう。ディフェクトを、兄を連れ去ったヤツに一発も当てることが出来ずにおめおめ逃げ帰ることなど出来るはずが無い。目の前でジュエルシードが暴走しているのに、それを確保しないで時の庭園などに帰れるわけもない。ふぅ、とフェイトは息をついた。もともと長期戦を考えていたわけではない。速攻でクロノorなのはを堕とし、二人でもう片方を撃墜。後ユーノ。そういう順番でいくつもりだったのだ。しかし予想以上になのはが粘る。フェイトは正直なところ、なのはがあそこまで戦えるとは思っていなかったのだ。アルフが攻めきれておらず、さっきから急に動きが良くなった様な気さえする。(弱気になってるのかな……)もういい。そしてフェイトはもう一度だけ息をつく。「私は……兄さんに会いたいんだ。もっと沢山お喋りして、もっと沢山『挨拶』して、一緒にお風呂に入って、頭を洗ってもらって、洗ってあげて、ご飯も作ってもらって、耳掻きもしてもらって、してあげて、そして一緒に寝るんだ。兄さんと一緒に居たいんだ。ずっと……ずっと!」「なにを……?」だからフェイトは負けられない。新しい家族を彼女は手に入れてしまったのだ。どこまでも優しい思いに触れてしまって、それはもはや怖いほどにフェイトの心を侵食している。一度手に入れてしまったら、そう、手放すことなど出来るはずが無い。使い魔以外に誰がフェイトの頭を撫でただろうか。使い魔以外に誰がフェイトを抱きしめただろうか。使い魔以外に誰がフェイトに愛をくれただろうか。全部兄で、全部ディフェクトだ。フェイトの心に上限があるのなら、この思いでいっぱいになって決壊してしまう。愛しい。恋しい。欲しい。兄のすべてが。全部全部。今さらディフェクトのいない生活など、とてもではないがフェイトには考えられなかった。「……だからっ」呟き、己のデバイスに魔力を込める。ジュエルシードの暴走を止めることを考えると多少なりとも余力を残しておきたかったのだが、もういい。一人で無理だった時はアルフを頼ればいい。二人の内どちらかを人質にして脅しつけ、封印させてもいい。もう決めた。決まった。「―――バルディッシュ」『――sir――』「―――クノッヘン」『……』兄さん、少しでいいから力を貸して、と声にならない声で。ガチャン、と腰に吊っているデバイスにカートリッジがロードされるのがわかった。太ももに巻きついている尻尾の骨のような物からゆるりと力が抜け、本物の尻尾のように背後に垂れる。「っち、死神か……? いやな感じだ……」クロノもその姿から何かを感じ取ったのか、瞳が真剣みを帯びる。黒を基調にしたバリアジャケット。バルディッシュ・サイズフォームを構え、腰から垂れた骨尻尾。肩に乗っている頭蓋骨。背骨を模した様な篭手。まさに死神のようではないか。フェイトも自覚している。余りセンスのいいデバイスではない。しかし兄がくれた。初めてのプレゼントだ。これで勝てないなんて、嘘だ。ぎゅ、と小さな身体に力を込めた。これからは攻撃だけだ。防御なんて知らない。全部クノッヘンに任せる。瞳孔がきゅ、と小さくなる。ちり、と空気が変わった。そして、「―――っ!!」ッドン!!!それは通常の加速ではなかった。その場の空間が炸裂したような、残像すら残さない、そんな加速。0から100へ。何処のバカを真似したか。「なっ―――」超接近。障壁なんて張らせない。スローモーションにも程がある。クロノが何かを言っている。聞こえない。口が動いているのが見えて、「―――にぃ!?」肩に担ぐように構えていたバルディッシュを思いっきりクロノの腹へと叩きつけた。バリアジャケットが邪魔で雷刃が通らないが別にそれでもいい。「ふんむっ!!」さらに腹へと食い込んでいるバルディッシュに力を入れた。みしみしみし、と腕から嫌な音が。筋肉が切れたか、筋を痛めたか、もしくは骨が折れたか。(……関係ない!)身体の痛みも心の痛みも全部込めて、「っんのおぉ!!」そしてフェイトは海面に向かってデバイスを振りぬいた。ちょうど竜巻が二本立っている場所。その中間あたりに玩具か何かの様に錐揉み回転して堕ちて行くクロノを視線だけで確認し、追撃の必要性ありと判断。「うっぐぅ……っ舐めるな!」どんどんどん、と三発。堕ちながらもスフィアで攻撃を仕掛けてくるクロノには正直冷や汗が出てくる。心臓の高鳴りは止まることを知らず、これはもはや動悸と言い換えてもいい。この戦法が身体に悪いことは分かっている。しかし、巧みな戦闘技術を持つクロノに勝つにはこれしか無い。圧倒的な速度で、目にも留まらぬスピードで。正面から、行く。がちゃん、とまた一つカートリッジがロードされた。これで残り五回。それまでに決める。瞬時に加速。またもドン! と空間が爆発したような音と共にフェイトの姿は消えた。そう思えるほどの加速だった。がちゃん。さらにカートリッジロード。あと四回。尻尾のように垂れている骨がクロノの放ったスフィアに自動反応。一つ一つを突き刺すように破壊し、正面からのアタックを可能にした。テルミドール・クノッヘン。高度なAIを組み込んだインテリジェントデバイス。人格を持っているのかどうかは判断がつかない。話しをするような機能をつける位ならその分のリソースを攻撃の察知と迎撃に使用。最適の方法を導き出し、主を守る。さらにはドライブ機能。身体強化などの生易しいものではなく、使用者の限界を超えた動きを可能にさせる。そしてそれは使用者にとっては嬉しい機能なのだが、勿論限界を超える代償はある。「いぃっけぇえ!!」「―――っが、あっ」瞬時にクロノの背後をとったフェイトはまたもデバイスを振り切る。今度は空に向けて吹き飛ばす。ぼくん、と右肩から妙な音が聞こえた。知らない。首の後ろがちりちりする。知らない。口の中が少しねばねばする。知らない。クロノを倒して、ジュエルシードを封印して、兄を助けて、それから考えればいい。がちゃん。あと二回。ぶちぶちぶちぃ……足首の辺りからまた何か聞こえた。気持ち悪い。関係ない。ッドン!! 爆音を残し加速。したところで、それは聞こえた。「スターライトォ……」。。。。。魔力に輝く拳を振り抜いた。自慢ではないが、アルフは己の拳打に自信を持っている。『当たれば終わらせられる』、その程度の自信は。しかし、「この、ちょこまかちょこまかっ!!」当然、当たらなければ空気が吹き飛んでいくだけだ。急になのはの動きが良くなった。先ほどまであと一歩で捕まえられる所まできて、そこで逃げられる。そのような展開だったにも拘らず今はこっちの動きを読んでいるような反応を見せる。わけがわからない。急に強くなったのだろうか。それとも自分はそこまでわかりやすい攻撃をしているか、と戦闘中に余計なことまで考えてしまう始末。「シューット!!」これも先ほどとは違う。威力が高いもの、低いものを混ぜて打ち込み、全てを防御させるような攻撃。早く終わらせないと危険な気がする。アルフの直感がそう言っていた。問題はフェイトなのだ。少し危ない。精神リンクを通して感情がだばだば流れ込んできている。ディフェクトが囚われて以来少し情緒不安定な所はあった。しかしここまで無理をするなんて考えていない。読みが甘かったのだ。「っち」一つ舌打ちをつきアルフは障壁を張った。大して魔力の込められていないディバインシューターをやり過ごし、桜色の魔力煙がはれた所で追撃。苛々していた。ちょいと撫でてやったら壊れてしまいそうなほどに脆いかと思うと当たらない。さらに次の瞬間にはちくちくちくちく攻撃を仕掛けてくる。随分セコイ戦い方をしてくれる。話がしたい? それで何になる? それでフェイトが救えるのか? ディフェクトの身体が治るのか?どうにもならない。アマちゃんが。何も分かっていない。そしてわかった所でどうにもならない。お前がプレシアを殺してくれるというなら喜んで尻尾を振ろう。お前がディフェクトの身体を直してくれるのなら奴隷になってもいい。でも無理だろう? 出来はしないんだろう?もともと直情的なアルフだが、この時ばかりは限界を超えて腹が立っていた。己の無力に腹が立ち、対峙するクソガキに腹が立ち、無茶をする主に腹が立ち、顔も見せないディフェクトに腹が立った。ウオォォオオオォォオオォオオオオォオオオオオオン、とその全てをない交ぜにした怒りの遠吠え。「……ムカツクんだよぉ……アンタァ!!」吶喊。次こそ捕まえる。距離的には数メートルの所。少しでも隙を見せたらその首に喰らいついて引きちぎれるまでぶん回して、ぶち殺してやる。しかし、「―――いまっ!!」しかしその想いは届かない。戦闘中に思考をしたのが間違いか。それとも本当にこちらの動きを読んでいるのか。「んなっ!」がちり、と四肢をバインドに囚われたのだ。空間配置型のバインド。拘束するのが最も難しいバインドの一種である。嗅覚が伝える なのはの天才。それはアルフの背筋を泡立たせるのに十分な威力を発揮した。己の主人とは違う戦闘スタイルだが、なのはは紛れも無い天才だった。もちろんフェイトだって遅れをとってはいないが、それにしたって先を読むその能力。アルフが出てくる位置、速度、体勢、その全てを把握していたとでも言うのだろうか。「っこの……、落ち着け、落ち着けっ」大丈夫。間に合う。冷静に、慎重に。ゆっくりでいい。確実に。脳内でエンドレスリピート。アルフはじりじりと焦りを感じつつも丁寧にバインドにハッキングを掛けて行く。バリアブレイクを筆頭に、対象の魔法構造物に進入するのはアルフの得意技の一つだ。こういったちまちました作業は性に合わないと思いつつも、それがフェイトの役に立つのならと一生懸命練習して、そして覚えた。もちろん周囲に気を配るのは忘れない。嫌な、嫌な魔力の収束を感じる。(っ大丈夫! 出来る!)何度再生しただろう、ようやく小さな綻びを見つけた。「―――よし……!」丁寧に丁寧にそこから奥へ自身の魔力を流し込む。バインドの一部を染め上げ、その構造を脆く。ばきぃ、と音が鳴ったときにはアルフの四肢から桃色の拘束が解かれていた。桃色魔力の収束は終わっていない。ここで攻撃すれば暴発を起こし自爆を誘える。しかしなのはの目はこちらを向いてはいないのだ。疑問を感じる間もなく、その先にいるのはフェイト。やらせるものか、とアルフは吼えた。「このっ、クソガキ!」加速し、あと2m。そのキレイな頬に爪を立てて、ギリギリと柔らかそうな肉を引き裂いて―――、じゃら……。音が、聞こえた。それは何処から? 真下から。張った憶えもない魔法陣が輝いている。その中央から鎖を模したバインドが、「……え?」誰?なのはではない。その目は既にこちらを捕らえていない。クロノでもない。今まさに後方でフェイトから攻撃を受けている。それなら?「―――ぅ、お前、かぁぁあああ!!!」トン、と。ゆっくりと背中を向けながらユーノがコメカミを叩いたのが見えた。「―――そういう、こと。はぁ、はぁ、きっつぅ……。……ディフェクト、から、聞いてなかったかな?」聞いていた。ユーノ・スクライア。ディフェクトの幼馴染。特筆すべきはその観察眼。相手の動きを、心理状態を読みきるというその能力。話半分で聞いていた程度だ。誰だってそうだろう。相手を見ただけで考えていることがわかるなんて。ディフェクトお得意のでまかせかと思っていた。しかし考えれば納得できてしまう。なのはの先読みの的中率。空間配置型のバインドが、ああも見事に決まるか。「くそったれ……、フェイト、フェイトっ」チェーンバインドは強固。付け入る隙が無いほどに頑強。アルフ自身の焦りもあるだろうが、何て物を構成してくれるのだろうか。前方でぎゅんぎゅん溜まっていく魔力は上限を知らないように収束収束収束。びりびりと肌が震えるほどに濃縮、圧縮。これを撃たれれば、終わる。フェイトが万全の状態でも終わってしまう。相手がなんだろうと撃ち抜くその魔力は、ああ、身体をよじり後方を確認すれば、クロノが吹き飛ばされながらもニヤリと笑っているのが見えた。ご丁寧に親指まで立てて、ああ……、「フェ、イト……っ!」アルフの口からはか細い声しか出なかった。。。。。。「受けて、ディバインバスターのバリエーション……」クロノは自分ごと撃てと言った。大規模砲撃魔法。まさか撃つ羽目になるとは思っていなかった魔砲。なのはの心はもう決まっていた。最初に念話でユーノと話した時、なのはは撃ちたくないといったのだ。ただ話をしたいだけなのだと。しかしユーノは譲らなかった。なんとしても撃ち落せと。彼女と、その使い魔がこれ以上不幸になる前に、その不幸ごと全部流し去ってしまえと。正直な所、彼女にとってよく分からない話であったのだがクロノは賛成した。その後、多少の計画変更を経て、クロノごと撃つことに。なのはは流されているだろうか。ユーノが撃てと言って、クロノが賛成したから撃つのだろうか?(ちがう。…うん、ちがうよ)心の中で頷いた。これ(SLB)で彼女の不幸が無くなると言うのなら喜んで撃とう。嫌われてもいい。もちろん、本当は嫌だ。なのはは友達になりたいのだ。フェイトとアルフと。だから撃つ。堕とす。そして話を聞く。よくよく見ればフェイトの動きはおかしい。腕がよく動いていないように見える。あの肩は何だ、何か飛び出そうとでもしているのか?「スターライトォ……」魔法陣が展開された。足元、さらにデバイスを包むように。(無理しちゃ、駄目だよ……フェイトちゃん)ディフェクト君は全然へっちゃらなんだよ? 酷い事もされてない。顔色は悪いみたいだけど。いっつも明るく笑って、私たちを励ましてくれるんだよ。色んな話しも聞いたよ。フェイトちゃんはポケポケしてるって。しかし、今のフェイトは話に聞いた彼女では無いように思えた。殺気立って、その身を壊しながら加速するその様はとてもではないが、あまりに痛々しい。限界をたやすく超えてしまう精神に、肉体がついて行っていない。クロノよりも先に終わってしまうかの様。いけない。それはダメだ。だってそれはディフェクトが悲しむし、フェイト自身のためにもそう。そして何より、なのはが嫌だ。傷つくフェイトをこれ以上見たくない。自傷を繰り返すフェイトをこれ以上見たくは、無い。終わらせるのだ、この一撃で。(だから、フェイトちゃん、すこしだけ……休もうよ)リンカーコアが発熱し、胸の奥が熱くなり、そして なのははデバイスを眼前に構え、「ブレイカァァアア!!」桃色の奔流はフェイトを、クロノを、暴走状態のジュエルシードを巻き込み、海中に住んでいるであろう生物たちに甚大な被害をもたらした。。。。。。「あーらら、ぶちかましてくれちゃって……」イライラするぜ。誰にかって? シ ス テ ル に 決 ま っ て ん だ ろ !アイツ、なんてもん寄越しやがったんだ。あんな機能がついてるなんてわかってたらフェイトにやるもんかよ!!ていうかアイツ俺の事嫌いなのか? 腕がイっちゃうってわかっててカートリッジシステム組み込んでくれたり、今回のあの骨っこ! ドライブ機構ついたデバイスなんて子どもに渡すもんじゃないでしょ! なに考えてんのシステルサーン!!! アタマダイジョウブデスカァア!!?? まぁ左側中心に防御機構が付いてたのにはちょっと感動しちゃったけど……。あ~あ、フェイトずたぼろじゃん。これはあの骨やらないほうが良かったね。うん。アイツあとで回収。クーリングオフ。しっかし皆かっこよかったなぁ。俺の戦闘って傍から見たらどんな感じなんだろうか。「……あの、ごめんなさいね。すぐに会わせてあげるから」「ん、ああ。別にリンディさんを責めるつもりは……」リンディさんや、気にしなさんな。正直な所、これは骨っこをフェイトにやった俺のせいです。ああ、あとね、「アースラにバリアを張っておいてください。プレシアが何らかの動きを見せるはずです。多分、向こうでも……」そう言って俺はモニターをさした。そこにはせっせとフェイトとクロノを介抱しているなのは。じたばた暴れているアルフをバインドで捕らえ、その尻の上に疲れた顔で座っているユーノが映っている。そしてジュエルシードがコロコロりん。さっさとしまっちゃいなさい。危ないよ、そんなとこに置いとくと。「何らかの動きって言うと、ジュエルシードを奪いに来る?」「ええ、確実に。そうなると追跡を撒かなくちゃいけなくなるからアースラにも攻撃が加えられるでしょうね」そこまで言うとリンディさんははっとしたようで、急いで指示を出した。「エイミィ、お願―――」「もう展開完了ですー♪」「……ふふ、私はいい部下をもったわ」うんうん。ホントいい部下持ってるよ。完璧だよ。あのアホ毛。可愛いぜアホ毛。しかし……これだけは言わせておいてくれ。いいか? よく聴いてくれよ。「なぁシェル…」『イエス・マスター』「……実はさ、あと二話で終わり、要するにこれの次が本編最終回だったんだけどさ……」『皆まで・言わないで・ください。分かって・います。……もうちょっと・いっちゃいそう・なんでしょう?』「ああ……マジでスマンな」『それは・マスターが・謝る事では・無いのでは?』「いや、どーぞ代表としてだな……」―――ごめんなさい。そしてなにやらシェルと話している間にモニターが輝きを放った。さらにそれとほぼ同時にアースラに揺れが襲う。「きゃぁあ!」誰かはわからないが、悲鳴。おお、おお。お出ましかいな、プレシア・テスタロッサ。モニターを見ると全員ノックダウン。プレシアまじ鬼畜wジュエルシードは浮かび上がり、すぅと空へ消えていった。やれやれだぜ。やっぱり持ってかれちゃうわけだ。しかも全部。なんか俺のせいで悪いほうにしか進んでない気がするんだが……。俺は生きてていいんでしょうか?まぁなんにせよ、「―――エイミィ、持ってかれたジュエルシードを追跡。すぐにプレシアの居所がわかる筈だから武装局員を用意してろ。リンディさんはあの五人の回収。医療局員を連れて誰か降ろしてください。急いでくださいね」そこまで言って俺はブリッジを去った。さぁ、ここまで来たらあとはもうなるようになれ。ラストまで、突っ走るだけだ。「……あの子、艦長職にでも付いた事があるのかしら? 言いたいこと全部言われちゃったわ」「はい、私もびっくりしちゃいました……」「越権行為……というか越権する資格すら無い子なのにね」「……気にしてるんですか? 出番とられちゃって」「……」「……」「……」「……」「…エイミィ、お茶飲む?」「け、結構です!!」